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シナリオ詳細

<Genius Game Next>雨に唄えば

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Initialized()
……ロード中……。
マップテクスチャーを読み込みます……。
……宝箱を配置します……。
乱数シードの固定……。

クエスト:種別「討伐」
クエストクリア条件:BOSSの撃破

敵性存在の配置……。
ドロップアイテムの確定。
レアドロップの抽選。

【!】不明なエラーが発生しました【異常存██認定】。
【!】無効なサーバーです。
……処理を中断します。
【!】中断できません。
……処理を中断します。
【!】中断できません。
……処理を……。

●インスタンス化及びスコープ内で潰える儚いローカル変数について
「ようよう、よく来たなお前ら! わざわざ殺されに来るってのは、どんな気分だい? ええ?」
 あなたたちの目の前に立ちはだかるのは、そろいもそろって屈強な男たちだ。
 悪逆非道の、砂嵐の賊。
 ハウザー・ヤークの直轄といえばわかるだろう。
『凶』だ。
 彼らは貧しい村から略奪の限りを尽くし、今、目の前に立っている。もちろん、勇者であるあなたたちは、めいめいに武器を取り、立ち向かうことを決めた。
「身ぐるみ置いてその場から立ち去るならよし、ラクに殺してやる。そうでなければ……皆殺しにしてやるぜ!!」
 賊は、あくまでもやる気らしい。
 もちろんこっちだって引く気はない。
 決着をつけるときが来たようだ。
 天候は雨。
 ぽつら、ぽつら、雨が降っている。
 雨が██。
 あり得ないほどの雨が降っ██。

【致命的なエラーが発生しました】

 軽快なBGMは、環境音に塗りつぶされて聞こえなくなった。
 雨だ。
 ざあざあという音は鳴りやみそうもない。
……異常なほど、雨が降っている。
 波は敵を覆いつくし、凶、30名を飲み込んだ。
 がぼがぼと泡が漏れる音がした。
 ところが、NPCは――ボスは動かない。
 この場所に雨なんて降るはずがなかった。つまり、NPCは雨に対する思考回路を持たなかった。ただただ静止して、また、ケンカのための口上を繰り返しているようだった。
 ボスのすがたが、白滅する。
 ダメージモーション。
 継続的な窒息ダメージによって、オブジェクト――BOSSは霧散する。

「BOSSを撃破しました!
[OK]」

 まだなにもしていないのに、クエストクリアのダイアログが現れた。

 ごうごうと、雨が降る。
 恐ろしいほどの雨が降っていた。
 サクラメントから、クエストにやってきた勇者たちは、その光景を目の当たりにするだろう。
 目の前に広がっていたのは、……海だった。
 限りなく降り注ぐ雨粒があふれ出し、みるみるうちに、水量を増していく。

[OK]

 目の前に広がるのは、崩れたダイアログ。
 限りなく広がる、バグの世界。

 宙に空いた穴から、モンスターが降ってくる。
――声?
 撤退のためのサクラメントは、きいんと、音を奏でて溶けるように消えた。
 何もせずに終了条件を満たしたクエストは、次の処理へ――帰還処理へと移ってはくれなかった。
 何が起こっている?
 ダイアログを開こうとするが、無慈悲なErrorに飲み込まれた。
 未定義動作。
――このまま、海に飲み込まれれば、どうなるかわからない。

[OK]

 このままでは、おぼれて死ぬのは間違いがない。

[OK]

 ここから、脱出しなければならない。
[OK]

GMコメント

ちょっと理不尽なバグの世界へようこそ!
布川です。

●目標
サクラメントの発見、およびこの場からの撤退。
クエストクリア条件:3名以上の脱出

●状況
サクラメントを使ってワープしたところ、ずいぶんとバグのひどいところに出てしまったようです。
クエストはクリア状態ですが、やってきたサクラメントは使い物になりません。
どうにか敵を倒しながらサクラメントを探し出す必要があるようです。

時間が経過すれば経過するほど動きづらくなっていきます。
雨が降っているのがつらいところですが、もともとは森ですので、木々やその他を利用することもできます。

●場所
フィッツバルディ領、森「だった場所」。
宙に穴が開いたかのような雨で、足首までのぬるい水があります。
うっそうと生い茂っており、迷いやすいです。

●登場
飛翔魚 + およそ2ターンごとに空から降ってくる
フィールド:天候「雨」に伴って現れた敵です。
この場にはいないはずのモンスターです。
物理属性です。囲まれると厄介。それほど強くはありません。

人喰い人魚 + およそ4ターンごとに空から降ってくる
フィールド:天候「雨」に伴って現れた敵です。
この場にはいないはずのモンスターです。
神秘属性&BSです。

●脱出のためのサクラメント
近くにサクラメントがあるはずです。
ないかもしれませんが、なければ……死ぬしかありません。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。

  • <Genius Game Next>雨に唄えば完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年06月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Siki(p3x000229)
また、いつか
ロード(p3x000788)
ホシガリ
シャルロット(p3x002897)
吸血鬼令嬢
沙月(p3x007273)
月下美人
アルス(p3x007360)
合成獣
イデア(p3x008017)
人形遣い
壱狐(p3x008364)
神刀付喪
指差・ヨシカ(p3x009033)
プリンセスセレナーデ

リプレイ

●雨が降っている
 しとしと、ぴっちゃん、ざあざあと……。
 絶え間なく雨が降っていた。
(凶が敵に回ると面倒だな。まあいつも通りやる、だ……け……は? は?)
 崩壊するセカイ。
『ホシガリ』ロード(p3x000788)は宙を見上げる。
 ロードの目に命彩が映った。
 気のせいだろうか、一瞬……空は、青色にさあと色づいて。
 それから、ゆっくりと、呼吸をするように赤に移り変わって。
 ロードの感情に呼応するような、ランダムな色。
――呼ばれた、気がした。
 思わず、耳元に手をやった。
 けれども、それ以上は何も起こらない。

 きっと、気のせいだ。

「バグでも出入口無くなるのはダメなんじゃあないかい!?!?」
『プリンセスセレナーデ』指差・ヨシカ(p3x009033)が悲鳴を上げる。
「……そんな感じだったっけ?」
 首を傾げるロード。ヨシカははっとして、素が出ていることに気がついた。
「……ロールが崩れてるって?
いやそれ所じゃないよ! 嫌だぜ僕は、ゲームの中だからって溺れるのは!」
 ヨシカは身震いして足下を睨む。
「溺れるとどうなるか知ってるかい? マジで上も下も分からなくなるんだ。
何で知ってるのかって? 溺れた事があるからだよ!」
「まあ、溺れたくはないよね。こんなバグがあるなんて……」
『合成獣』アルス(p3x007360)はモード・オートパイロットに切り替える。immutable(IDEAScript)は、理不尽な強風を阻害(キャンセル)した。
 アルスは難なく水を泳いで、とりあえず、足場になりそうな高台にたどり着いた。
 水は、アルスの障害とはならない。けれども、このままでいるわけにはいかない。
「……こんな致命的なバグを運営側が把握してないなんて有り得るか?」
「バグの原因についても気になるが、一先ずは脱出するのが先決だな」
(……バグは珍しいから今を楽しむべき……??)
 いやいや、この思考は俺だけだと、ロードは思い直す。普通、皆ここから出ることを考えるはず。脱出口が消失したのなら、次。
(確実なことをしよう。うん)
「新しいのを見つけてここから出るぞ!!」

 明け染むる東の空を往く。
 青い龍が、雨雲をかき分けるように空を登っていった。
「はぁ、どうにもわからないことだらけだけれど。
わからないことは足を止める理由にはならないし。
理不尽に死んでやる理由にもならないよね」
『青の罪火』Siki(p3x000229)の青い炎が、きらきらと星のようにきらめいた。ここがどこだかも見失いそうな森の中。
「……おや、お魚さんたちがお出ましだねぇ?」
(森に足首まで浸かる水量! しかも嵩は増している……)
『吸血鬼令嬢』シャルロット(p3x002897)は流れてくる木を最小限の動きで避けた。
 なにか、手がかりをつかまなければ、ここから出ることは出来ないだろう。やみくもに探したところで、都合よくサクラメントが見つかるとは思えない。
「転移事故があるなんて……流石バグだらけの世界という訳ですか」
『人形遣い』イデア(p3x008017)はメイド服の裾を引き上げる。こんなときでも、きちんとした立ち振る舞いはメイドのたしなみである。
「クエストはクリア状態にも関わらず戻れないとは……厄介な所へ迷い込んでしまいましたね」
『月下美人』沙月(p3x007273)もまた、その姿勢を崩すことはない。けれどもあくまで粛々として、牙をかわして、裏拳で空飛ぶ魚に一撃を加える。
「このフィールド全体がバグに呑み込まれる……これまでの本来の仕様とは違うROOとも違う、分かりやすいバグだな」
『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)は陰陽五行の太刀を振りぬいた。
 さあと引いた雨粒とともに、一瞬だけ視界が開けた。
「果たしてこのバグもジーニアスゲーム・ネクストを起こしている何某かの想定内なのか、ともあれ何にしても最優先事項はここからの脱出だな」
「以前もバグったクエストがあったわ……。そこではクリア後全てが消えた。塔の最上階が跡形もなく地面よ……」
 シャルロットはふうとため息をついた。
「だったら逆に、別のエリアがここに転移してきても不思議じゃないわね……」
 何が起ころうとも。……シャルロットは覚悟した。どうにかして乗り切る覚悟だ。
「一通り暴れて落ち着いたわ。今日もご安全に、ヨシ」
 ヨシカが我を取り戻し、ぐるりと一同を見回した。
「さあ、こういう事故現場で一番大切な事は何か分かるかしら。そう、落ち着く事。
落ち着きながらも状況を冷静に見極め、被害を最小限に食い止める為最大限の努力をする事よ」
「はい、その通りと思います」
 沙月は構え、攻撃を防ぎながらながら答えた。
(1人でなかったのは僥倖でしょうか)
 皆、冷静にできることをやろうとしている。
「それじゃあ、行きましょう! 生きてまた会いましょうね」
「早々に戻りませんと大変なことになりそうですし急ぐといたしましょう」
 誰一人、諦めようというつもりはないのだった。
 さいごまで、あがいて見せよう。
(皆様と力を合わせて頑張ると致しましょう)
「この状況から無事抜け出せればよいのですが……この世界でも雨は冷たいですね
 イデアが空を見上げる。指先に落ちる雨粒は、冷たい温度を持っていた。

●天と地と
 シャルロットは掌を紅き爪へと変えて一閃する。木々がどうと音を立てて倒れた。
 ここが、「開始地点」。
 視界が悪く、次々と姿を変えるこの場所で、作り出したランドマークが大きな手掛かりとなるだろう。
「大工やそれらしいファンタズムがあれば筏も手、だったかしら? 障害物多いし、ないものねだりよ」
「筏、ですか……」
 場合によっては、と壱狐は考えた。
 イデアは、指先から伸ばした糸を、木に巻き付けておいた。
 ここが開始地点。――見失うわけにはいかない、初めてのポイント。
「古式ゆかしい方法ですかこれが一番わかりやすいですから」
(泳げるけど……この程度なら飛んだほうが良いな。一旦上から様子を見よう)
 ロードが空へと浮かび上がる。
 イデアがそっと何かを結ぶ仕草をすると、仲間たちもふわりと浮き上がった。
「時間が惜しいですね。ここは、二手に分かれましょう。沙月様、お気をつけて」
「はい、そちらこそ」
 イデアと沙月は、aphone-alterで通話を繋いだ。
「これで何かあればすぐにわかるはずですから」
「各班1人が欠けたら、またはサクラメントを見つけたら合流しよう」
「もたもたしてたら囲まれる!」
 シキが空へと羽ばたいた。
「雨が降り続き、水位が上昇してくる……ということは地面にはサクラメントがないのかもしれませんね」
 沙月とシャルロットは、少しずつ敵を減らしながら、高いところ、高いところへと向かっていった。高所であれば、水の流れはましだ。
 丘の上から下を見下ろす。
「このエリアは閉じている……。山ならば盆地だと仮定すれば洪水もあり得るけどここは森。水の逃げ場はいくらでもある。しかしそれでも水量が増すのはここに果てがあり逃げ場がないということ……」
 シャルロットは考察を重ねる。
(サクラメントの位置は果てよりは中心だと思うけど、果たして……?)
「来ます、大きい敵が……!」
 沙月の水月が炸裂した。流れるように、飛び上がったそれはまるで泳いでいるかの如く自由だ。シャルロットは紅槍を構え、投擲する。赤い鮮血のような一撃が敵を切り裂いた。
「うーん、そっか。襲ってくるよね」
 わざわざ敵対する気はないのだけれど、攻撃してくるのであれば、戦わなくては、とロードは思うのだ。
……痛いのは、嫌だけれど。
 ターゲッティングを行うと、視界にいくつもの敵の姿が映った。そのまま振り抜くと、辺り一帯が揺れる。
「今はまだなんとかなってるけど、きりが無いね」
 シキの青い炎が、重ねてそれを覆い尽くしていった。
「どうしてこんなに水がたまるスピードが速いんだ……どこにも水が捌けれてない……森のフィールド自体が箱みたいになっているのか……?」
 ロードは首をひねる。
「それじゃあ端が……誰か遠くに攻撃を飛ばしてみてくれないか? 衝撃があれば端があるかがわかるはず」
『ええ、確かに。……果てはあるようです』
 通信機の向こうから、イデアが答える。
「囲まれそうならその場から撤退も方法のひとつかね」
 シキの頬に雨粒が落っこちる。……冷たい雨。少しだけ塩気があった。
「……しょっぱいね」
 普通に考えたら、森エリアは魚はいない。
「これ、バグで上空が何処かの海エリアと繋がっちゃったんじゃない?」

●航海の海
「にしても、絶対海にいる筈のエネミーだよね」
 雨を含めて『航海』から召喚でもされてるのだろうか。
 アルスは、口を開けて雨水を舐めてみた。
 たしかに、すこししょっぱい。もしかすると、本当に……この場は『航海』につながっているのかもしれない。
(もしそうなら上空に何かありそうだけど……)
 ただ、空にはモンスターがわんさといた。
「にしても酷い雨だね。サクラメントが埋まってなければいいけど」
 アルスは木々に飛び移り、空へと跳ねた。
 暗い木々の隙間を、じっと見降ろした。やはり別の空間がバグで出現したように思われるが……。
 やや離れた場所に、シキたちが見える。手を振る代わりに敵をなぎ倒し、エフェクトで返事をした。答えるように、ロードの攻撃が辺りを揺るがした。
「ここは、何にも無いね」
 アルスが辺り一帯の木々をなぎ倒して、道を拓いた。
「まずは宙に空いた穴を調べに行くとしましょう」
 イデアと壱狐が空を見上げる。
「ええ。本丸ですね。まずは異常の本丸から試してみましょう。いざ──」
 問題は、敵の量だ。
「……いったん、片付けましょうか」
 アルスはいったん地面に飛び降りると、甘い香りをまき散らす。誘惑の噴霧――理性を刈り取り、AIの単純な思考を一色にした。
 泳ぎ去るように水から飛び出し、枝を渡って、敵をおびき寄せる。そして、構えた。
「悪いけど、ゆっくり構ってる暇は無いの。分かったら航海にでも帰って頂戴」
 アルスの残像が再び同じ軌道を描き、敵を切り裂いた。
「あちらも、同じ結論に達したようです。つながっている、と」
 イデアは攻撃を受け止めた。自分は攻撃の主体ではない。
 指先から伸びる糸によって操られる黒騎士人形が、敵に向かって武器を振り上げた。地面をえぐり取るような威力。
……それにしても、だ、敵の数が多かった。
「早くサクラメントを見つけなければなりませんね」
「ご安全に、ヨシっ!」
 天空に浮かぶ魔法陣から巨大な杭が、ずいぶんと高い位置で敵をなぎ払った。プリンセスパイルハンマー。威力が一点に収束する。ヨシカは地上から穴を見上げる。
「どう見てもこの状況で一番イレギュラーなのはアレよね……」
「つながっているというのは、ありえないことではないですね」
 壱狐が言った。
「モンスターが降って来るという事はあそこが他のマップと繋がっていたりして、天候もそちらに引っ張られている……とか?」
「破壊は……ううん、ダメージ判定がなさそうね! 良い手だと思ったんだけど」
「……」
 壱狐は考察する。
 あの穴の向こうに世界があるというのなら、あそこに飛び込めやしないだろうか。もちろんモンスターも多く、先はどうなっているか分からない。
……。どうするべきか。
 それでも、調査するべきだと勘が――匠の智慧が告げていた。あれには何か意図があると……。
「もっと、近くで見ることが出来れば……」
「向かわれるのですね?」
「わかった、行こ」
 アルスとイデアが頷いた。
「ありがとう……」
 目指すはあの穴だ。
――虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。

●世界の果て、空の上
 イデアが迫り来る人魚を思いきり蹴り飛ばした。
 距離さえとれば、黒騎士の人形の鋭い一撃が待っている。
 壱狐の手当をしつつ、攻撃に耐える。
「ありがとうございます。イデアさん……」
「微々たるものですが無いよりマシでしょう」
 あれが、……あの穴が突破口であると信じて。
 匠の智慧が告げている。異常なオブジェクトであると。
(ですが、当然「穴」に近付くという事はそれだけモンスターの襲撃も激しくなる)
 降り注ぐ魚の数が多くなった。仲間はそれに耐えている……。
 神刀『壱狐』は、滑るように動いた。
 壱狐は、陰陽五行の太刀を振り抜いた。
 陽の構え。
 手数を増やして、処理能力を上げる。やってくる敵を即座に始末する。何をどう扱えば効率的なのか、壱狐は知り尽くしている。なんといっても、自分自身のことだ。
(早く事が済めば、それに越したことはありませんが)
……長期戦の構え。追撃する刃が何度も多段でとんでいく。魚がボトボトと、空から落ちていった。
 人魚が狂ったような声を上げた。
「お任せ下さい」
「多段ヒット、ヨシ!」
 プリンセスパイルハンマーががっつりと敵を削り取り、イデアの黒騎士が人魚を貫いた。
 月光の如く、揺らがぬ構え。
 傷を購って、まだ戦える。
 追いすがり、たたき落とそうと跳ねる魚の群れに向かって。
「真下もがら空きじゃないですよ?」
 壱狐は直下に、一撃を放った。

●宙に向かって
「さて、冷静に動こうか」
 ロードは浮かび上がる。
……空か地中か。水が溜まってきたから掘る暇がない……。
 ならば、やはり、宙が気になった。
(これでどういう影響かの目安になると思う)
 そっと手をかざす。この世界は、いや、“向こう側”は、ロードを呼んでいるような気がした。
『……』
 異様な存在、不明なエラー。
 どうしてかロードは疲労感と、懐かしさを覚える。
……何も知らない、はずなのに。
 いつのまにか、空を飛ぶ魚に辺りを囲まれていた。
 いや、水が溜まるのを待つように、……待っていたのだ。
 これを援護すれば、おそらくあちらでも突破口が開けるはずだ。
 アクティブスキル1。セットしたスキルが、ロードを正しい位置に導いた。
(人魚)
 何かを話している?
 意味のない文字列が精神を削ろうとする。
 けれども、ロードは保たれていた。一瞬覚えた違和感も、すぐに打ち消してなくなった。
 ロードは、ロードのままでありつづける。恒常性を保っている。
……痛みはあるけれど、うん。
(仮に、このエリアが別のエリアに上書きされているとしたら……)
 シャルロットは、攻撃の合間にしっかりと辺りを探索していた。
 追いかけるのは、現実のフィッツバルディ領の湖畔の面影だった。
 これがゲームである以上、元になっているデータがあるはずだ。……少しだけ、幻想の植生がある。
(外れているかもしれない、けど何も手掛かりがないまま彷徨くのはアーベントロート領の森を領地とする私らしくない)
 シャルロットは、立ち止まることなく考察する。もしも似ているのであれば。類似性が少しでもあれば。
「出来ることは全てやってからそれでも駄目なら無様に足掻くわ」
 この世界の果てには限りがある。
(一本高い木……!)
 黒く生い茂った木。小さな裂け目。
 見晴らしの良い場所を見つけた。
 敵は瞬殺あるのみ、だ。紅槍が魚を磔にする。謳うような声、降り注ぐ人魚に紅を向けた。空全体が揺れて、強敵が出現する。
……立ち向かう。
「ここからなら、援護しやすいようですね」
「ええ」
 雨は止まない。けれども、勢いは弱まった。
 もう片方のチームが、空へと近づけるくらいに。
 あれで本当に、正しいのだろうか。
(もしもダメだった場合は……)
「端に行ってみよう。果てはあるはずだ」
 次善の策があった。
「ええ、あれで駄目なら、世界の果てに」
 優雅にダンスを誘うように、手を伸ばし、そして――掌を紅き爪へと変え、宙を貫いた。

「すみません、木を用意できますか?」
「もちろんです。お望みであれば、いかようにもご用意いたします」
 壱狐に答えて、イデアが舞った。何もない中央をくるりと旋回し、それに合わせて騎士人形が踊る。敵といっぺんに木々をなぎ倒した。壱狐はそれを合わせて筏を作った。
「それで向こうに行こうって?」
 意図を察したアルスが降りてきて、それに加わった。
「ROOではまだアバターが持てる小型船がないですからね。こんなこともあろうかと、です!」
「水かさは増していますから。動かしやすくはあるかと……これで渡れるかは分かりませんが、浮けば、足場くらいにはなると思います」
 雨はだんだんと激しくなる。
 人魚の一撃から、壱狐は素早く受け身をとった。水量が一定を超えると、水の流れが出来た。筏が、穴に吸い込まれていく。
 保たれているのは、向こうのチームが数を減らしてくれているからだ。
(何が起こるかわからない世界……脱出させまいと敵の攻撃が激しくなるかもしれないですからね)
「大丈夫?」
「……ええ、まだ戦えます」
 舞台は整った。
「……脱出準備、ヨシ! 行きましょう!」
 あとは、越えるだけ。

(あれ)
 ロードのポケットに、aPhoneが入っていた。
 先に行け、ということだろうか。
「……」
 そうしたいわけではなかったけれど、無駄にしたくはない、と言うのも本当だ。声に呼ばれるままに、ロードはふわりと飛び立った。
 宙からこぼれ落ちる敵は、どんどんと強くなっていった。異形の姿をまし、鱗が赤黒く、牙が鋭くなっている。
 シキは沙月を背に乗せて浮かび上がる。
……選択肢は二つあった。
 ”果て”への可能性。
 ムリヤリ脱出を試みるか。
 それとも、仲間に託すためにここでとどまり、足止めするか。
……もしかすると助かるかも知れなかった。
「……」
「……」
 雨風を受けて、意思は決まっていた。
 はい、と沙月は真っ直ぐに頷いた。
「この身を盾にすることも厭いません」
 浮かぶ無月に迷いは無かった。
「ま、そういうわけだから、私はタダ死にしたくないけど……後からいくんで先に逃げてくれる?」
 私が目的を達成できなくとも、他の方々が達成してくれるはず。欲しいのは生存判定だった。仲間が何人か脱出すれば――脱出は、叶うかも知れない。
 ゲームといえども痛みはあった。消えてしまう恐ろしさも間近にある。
 けれども、それ以上に、希望があった。
 仲間たちならやってくれる、という確信があった。
(仲間に全てを託して、私は全力で時間を稼ぐのみ)
「そうだね、タダで死ぬつもりはないよ」
 降りすさぶ雨の中。
 おびただしい数の敵に。
 牙を剥く魚と、人魚に対峙して、二人は退かなかった。青龍の加護。其は龍と成りて――明け染むる東の空を往く。
「よし、やってみようか」
「それでは覚悟はよろしいでしょうか?
全力でお相手致しましょう」

 浮かび上がった筏を足場に、壱狐たちはゆっくりと穴に近づいていた。轟音が響き渡る。穴の向こうは真っ暗で、不気味なほどに静かだった。
「どうですか? ……覗けそうですか?」
「分からない。真っ暗ね……」
 けれども、何処かと繋がって居るならその先に活路はあるかもしれない。
「穴に侵入してみるわ」
 ヨシカはぽんと手を打った。
「何もなくても大丈夫よ。此処では、死んでも死なないもの」
「どうか、お気をつけて――」
 筏が崩壊しようとしている。壱狐はどうするか迷ったが、アルスのためにその場にとどまり、武器を託すことにした。敵を一匹でも多く蹴散らして、突破口を開く。……その奥に、手がかりがあると信じて。
 ヨシカが一人。……アルスで二人。そして、ロードがくぐった。
 三人が消えた。
 この選択が本当に正しかったのか――わからない。けれども、出来るコトは全てやった、という自負があった。
 一瞬の静寂。
「クエスト完了」
 文字が浮かび上がり、了承を返した。
 穴の向こう――ゲートの向こうに、サクラメントを見つけたのだ。

成否

成功

MVP

Siki(p3x000229)
また、いつか

状態異常

Siki(p3x000229)[死亡]
また、いつか
シャルロット(p3x002897)[死亡]
吸血鬼令嬢
沙月(p3x007273)[死亡]
月下美人
イデア(p3x008017)[死亡]
人形遣い
壱狐(p3x008364)[死亡]
神刀付喪

あとがき

理不尽な状況からの脱出!
お疲れ様でした。
無事、クエストは進行し、正しく戻ることが出来ました。
[OK]

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