PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Genius Game Next>旭日の娘

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『もう一つ』
 Rapid Origin Online――
 それはもう一つの現実。それはもうひとつの混沌。それはもうひとつの世界。

 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物は『何らかの原因』によって致命的な状況に陥っている。仮想空間はコントロールを行うべき三塔主の手から離れてしまっている。つまり、ゲームの様に構築された世界にはゲームマスターの介入が不能になっているのだ。
「如何したことかは分からないけれどね」
 肩を竦めた佐伯操は自身らの手を以てしても介入不可であるこの状況には苦心していたのだろう。
「と、言いましてもねえ。希望ヶ浜では操先生の実験に協力した生徒が囚われて、それはそれは『ゲームのクリアトロフィー』になってますけど」
 傍らでもちもちと揺れ動きながら首を傾げたMissに操は「分かっているさ」と溜息を吐いた。
 R.O.Oにログインした研究員やテストプレイヤー達は現在ログアウトが不能になっている。『致命的なバグ』を切欠にして彼等が閉じ込められている状況が続いているが、それはローレットの介入により少しずつ救出活動が行われている現状だ。
「まあ、のーんびりしてて死ななければ良いんですが」
「そうも言っては居られないだろう。それで、諸君。このディスプレイを確認して欲しい」
 操が指したディスプレイには数日前に突如『お知らせ』として追加されていた項目である。

 <イベント>

 その文字列に操は酷い頭痛を覚えたように唇を引き結んだ。其れを見るだけでも正しく『ゲーム』そのものだ。
「2021.06.01 Genius Game Next……ふむふむ、ゲーム内でイベントがあるらしいですねえ?」
「ああ。そのイベント、というのは……『ネクスト』――R.O.O内の混沌だ――の砂嵐が『伝承』を攻める状況になるというらしい。
 現実世界では『砂蠍』と呼ばれた盗賊団を追い払ったのは諸君だろう? うん、実に『現実をなぞっている』
 けれど、ネクストでは様々な事情が混在していて、どうしようもないんだ。此れを救う義理があるかといわれれば仮想世界。ないにはない、けれど――」
 其処まで言ってから操は何処から話そうかと悩むように資料に手を付ける。
「此れをクリアすることでクリアトロフィーである研究員達を救出することが出来る。クエスト報酬ってやつだ。
 それに、情報取得、何らかのアップデートが有り得る可能性もある。
 ……無論、このイベント自体の存在がもっと重要な意味が込められている可能性もある。まあ、それは追々」
 カスパールにでも聞いてくれと彼女はそう言った。
 一先ずは、イベントクリアを念頭に置くべきだ。それ程難しくないエリアを選択し、領地を護りきることで『報酬』を得ておきたい。
「さて――選んだのは此の地なのだが……ん? 可笑しな顔をしている者も居るな」
 モニターに映し出されたのは金髪の少女であった。桜色の頬に、桃色の眸。豊満な体を持った幼い少女。
 狐の耳を揺らがせた彼女は何かを警戒する様に明後日の方向を睨め付けている。

「……彼女の名前は『焔宮 日向』。ひなた、だ。……鳴じゃないのか、と? さあ。彼女は日向だと言うけれど」
 操はデータベースを探してから合点がいった様に頷いた。
「イレギュラーズの焔宮 鳴と同一の存在だ。彼女は『母や姉、兄が失踪せず、鳴の名を継ぐことなかった少女』だ。
 本来の生まれ持った名前が日向であったのだろうね。友好的なNPCであり、焔宮の地を護ろうとしているようだ」
「ふんふん? つまりは日向さんと協力して焔宮を護りきれば良いって事ですね?」
「ああ」
 Missは「だそうですよ」とイレギュラーズを振り返る。日向は鳴そのものだ。それも――『反転』するまえの。
 明るく笑みを浮かべ、皆と協力し民を護る為に戦い続ける。信念を宿した焔宮の少女。誰かの笑顔を護る為に呪術を使う、只の一人だ。
「護らなくっちゃですねぇ……『もう一度』なんて――もう、いやですもんね」

●『日向』
 少女の名は日向と言った。
 厳しくも優しい両親、暖かく見守ってくれる兄、姉と共にしあわせに暮らしていた。
 だが、その平穏を崩さんとしたのは盗賊達の襲来である。民を護るべく母と兄は避難誘導に当たった。
 実力者であり、焔宮を継ぐ娘である姉は父と共に運悪く王都へと用があり出ていた。戦わねばならない。
 天真爛漫に、民と共に過ごしてきた少女の脚は震えていた。戦う事は、怖い。それでも――

(――皆の笑顔を護らなくちゃいけないの……!)

 金の髪を揺らがせ、決意を胸に彼女は進む。

 名は違えど、彼女は『焔宮 鳴』だった。姿は同じでも、彼女は『データ』であった。
 それでも、護りたいモノのために進むその姿は紛れもなく『イレギュラーズの少女』の姿を彷彿とさせる。

「ここは日向が護るの……! 誰も通さない!」

 か弱い呪術師の娘。彼女を失う『もう一度』を無くすために――

GMコメント

 もう一度、を無くすために。夏です。

●目標
 焔宮領より賊の撃退

●焔宮領
 バルツァーレク派に属する貴族です。そのルーツは旅人だとも言われていますが現在は伝承国の貴族として名を連ねています。
 美しく緑豊かな地であり、日向は賊を前にして戦う姿勢を見せています。
 避難誘導は日向の母・芙蓉と兄・葵が行っています。父と姉は王都へと所用で出ており、帰路を急いでいるようです。

●賊
 撃退するべき対象です。『砂蠍』に所属しています。

・『爪研ぎ鴉』クロックホルム
 砂蠍のフギン・ムニンの副官の青年。前線で戦う事に長けた青年。
 HPが非常に高くタフです。その呼び名の通り、彼は飛行種です。ファイターとして戦います。

・『マァメイド』メアリ・メアリ
 海種の乙女。遠距離での攻撃、BSを得意とし、嗜虐心たっぷりに楽しむ女怪盗です。危険が近付くと逃走します。

・配下 15名
 クロックホルムに付き従う盗賊達です。領地の略奪略取に勤しみます。
 非常に統率がとれており一筋縄ではいきません。またバランスの良い戦術を持っており盗賊と言うより軍隊のようです。

●友軍
 ・焔宮 日向
 焔宮 鳴(p3p000246)さんのR.O.Oの姿。友好的なNPCです。天真爛漫で、皆さんと力を合わせて民を護る為に頑張ります。
 呪術師です。焔宮家に伝わる呪術を利用し戦いますが、彼女は普通の少女である為に実力は平均程度となります。
(※由緒正しき焔宮では『鳴』の名を継承して往きます。R.O.Oでは鳴は『鳴さんの姉』が継承しています)

 ・Miss
 皆さんに付いていくビーバーです。支援型。日向が危険になった際に進言してきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。

  • <Genius Game Next>旭日の娘完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年06月19日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3x000273)
妖精勇者
ブラワー(p3x007270)
青空へ響く声
真読・流雨(p3x007296)
飢餓する
入江・星(p3x008000)
根性、見せたれや
イデア(p3x008017)
人形遣い
スイッチ(p3x008566)
機翼疾駆
カメリア(p3x009245)
氷嵐怒濤
ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録

リプレイ


 ――2021.06.01 Genius Game Next.

「……ROOにイベントってあるんだね。クリアすれば研究員が助けられる、他にも何かあるかもしれない」
 表示された『案内』の文字列をまじまじと見遣った『青空へ響く声』ブラワー(p3x007270)はやる気を漲らせる。わざわざイベントとして大規模に開催するのだ。得られる者は更に多くなるかも知れない。彼――可愛らしい空色のポニーテールを揺らしている少女めいた外見だが、彼は男だ――は『カワイイ』仕草でやる気を漲らせる。
「そして、この世界に住んでいる人も助けられるなら、ボクは頑張って歌うよ!」

 クエストとして案内されたその場所では『領主の娘』が民のために決意を固めていた。その姿を一目見て、『氷嵐怒濤』カメリア(p3x009245)はひゅっと息を吐く。
 陽の色に透かしたような美しき金色。桜色に色付く眸には強い決意が滲んでいる。彼女には縁もゆかりもない筈なのに、それなのに記憶の片隅に面影を感じる。其れが何故かをカメリアは分からない。
(――何故。心のどこかで『忘れるな』となにかが叫んでいる、そんな気がします。この想いは、何故……?)
 考えても詮無き事ではあるが、どうにも彼女の事を知っている気がしてならないのだ。足を止めたカメリアの傍らで、ブレンダーソードを確かめるように握り込んだ『可能性の分岐点』スイッチ(p3x008566)は小さく頷く。
「『彼女』との面識は無かったけれど、話には聞いているよ。
 混沌では亡くなった人もこの世界では生きているっていうのはやっぱり不思議な感覚だよね……とはいえ、やることは変わらない。しっかり守ってみせるよ」
 スイッチの言葉にカメリアはぎこちなく頷いた。彼女は、混沌で『亡くなった』――否、反転した、と言えば良いのだろうか――存在なのだそうだ。自身もスイッチも面識はない。けれど、他の仲間達にとっては知っている少女なのだ。
「今はただ、『もう一度』失うことのないように……!」
 決意するカメリアに『人形遣い』イデア(p3x008017)は淡い藤色の瞳を細め、頷いた。
「もう一度、を無くすために……ええ、とてもよろしいかと。有り体に言いますと燃えてきました。
 この身体も慣れてきましたし今回は存分に戦わせていただきましょう」
 メイド服をふわりと揺らがせて、イデアは仮想世界にも随分と慣れてきた。ここからが本領発揮であるとドローン・ライフルを後方に浮かし頷いた。
「縁も所縁もない地ではあるが。同胞たる砂の民の粗相を見過ごすわけにはいくまい。
 それに蠍の連中とは『あちら』でも縁が無かった。丁度良い機会というわけだ。全て纏めて喰い殺す」
 戦うにはそれなりの理由も存在して居ると『恋屍・愛無のアバター』真読・流雨(p3x007296)はこくりと頷いた。ぢごくぱんだはエプロンドレスをふわりと揺らす。
「――嘘だけど。まぁ喰う価値があるのかは、これから確かめてみるとしよう。びーばー君も見ている。かっちょいい所も魅せねばなるまいしな」
「やあやあ、頑張ってくださいねえ!」
 心躍らせた『Doughnut!』Miss (p3y000214)は流雨を応援しているのだろう。その動きも姿が妙すぎて何とも言えないが――

「誰なの?」

 フリートークをしている時間も無いのだろう。符を抱え、ゆっくりと振り向いた少女と視線が交錯し合ってから『妖精勇者』セララ(p3x000273)はにこりと微笑んだ。
「ボクは正義の味方だよ。街の人達を護るんだよね? ボクたちにも手伝わして欲しいんだ!」
「本当なの? あ、焔宮 日向なの! 民を護る為に頑張るの。だから、……皆を護る為に手伝って欲しいの!」
 少女の名を聞いてからセララは「うん」と大きく頷いた。セララの知っている彼女の名前は『鳴』だった。現実世界での彼女は姉が行方を晦まし、代々受け継がれる『鳴』の名を継いだ存在だった――此処では姉も存在し、平和に暮らしているという事だろう。
(……ボクの知ってる鳴ちゃんとは名前が違うけれど……でも、今度こそ守ってあげないとね)
 今度こそ、と。もう一度。現実世界のことは何も知らないけれど、『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)は輝く笑顔を浮かべて了承する。
「任せなよ。頑張るねーちゃんを手助けするのは、妹として当然だぜ!!」
『妹』とは――『非現実存在』は、愛の力で頑張れる存在なのだから。


「……焔宮、ねぇ。ほとほと縁があるみたいやね。ええやん、気合い入るわ」
『19勝32敗8分』入江・星(p3x008000)はにやりと小さく笑った。「今度こそあの子を守らなあかんやろ――さぁて気合い入れていこうか」と呟く言葉は日向には聞こえていないだろう。
 星が彼女に求めたのは防衛に向きそうな場の紹介である。「どっかええとこ知っとる?」と問い掛ければ日向は物怖じせずいくつかのスポットを紹介してくれた。その中でも特に前線での防衛線に適する場所へと罠の設置と防衛線の構築を星は行う事を決定したのだ。
「正義の味方って、皆は『砂嵐』のひとたちから護り来てくれたなの?」
「うん。そうだよ。皆の笑顔を護るのってとっても大事だからね。えへへ、日向みたいに勇気のあること一緒に戦えて嬉しい!」
 にんまりと微笑んだブラワーに日向はどこか照れくさそうに微笑んだ。奇襲と防衛に別れて陣を組むイレギュラーズ達に日向は「何か手伝えることはある?」とそわそわとした様子で問い掛ける。
「日向殿は一緒に防衛線の作成をお願いしたいかな。敵が迫ってくるのを此処で押し止めないと民が危険な目に合うしね。
 罠とかを設置してできるだけ敵の足並みを乱すことが目的だよ。……大丈夫?」
「勿論なの! ええと……スイッチ、さん? みんなも。日向に罠の作り方を教えて欲しいの!」
 ルージュは「ねーちゃんの頼みなら! 一緒に作ろうぜ!」とにんまりと微笑んだ。『姉ちゃん』と呼ばれる事が喜ばしかったのか日向の耳がぴこりと揺らぐ。そんな姿を見て、『何故か』安堵する自分にカメリアは違和感を憶えて居た。
 そんな様子を眺めながらイデアは操糸技術を利用して住民達を逃す時間を稼ぐワイヤートラップを仕掛けていた。それらが住民を救う手立てになる筈だからだ。
 もう一度、もう二度と。そんな風に口にする仲間達の『一度目』をルージュは知らない。この世界こそが彼女にとっての全てだというように。浮かぶ笑顔は悲しみさえ吹き飛ばす快活で鮮やかなもので。
 幸運の妖精であるセララは何か、幸運が訪れれば良いと願いながら日向の横顔を見遣った。真剣に罠を用意する彼女は『鳴ちゃん』そのものだ。比較的近い未来を断片的に知る事ができる其れを活かす事が出来れば彼女が見舞われる不幸もぐっと少なくなるはずだ。
「……聞こえるね」
 眼前を誰かが走るような幻視。それが、己達に降り掛かる戦火であることに気付いてからセララはゆっくりと立ち上がった。
 罠で少しずつは時間は稼げている――だが、接敵し、押し止めることこそが一番優先する事項だ。闇のけものは静かに隠れる。大盗賊のナイフを携えて流雨は「仕事だ」と囁いた。

「君達の悪事はここまでだよ。ボク達が君達をあっという間に倒しちゃうからね!」
「イレギュラーズ、か」
 クロックホルムの言葉にセララは悪戯めいた笑みを浮かべて聖剣チョコソードを構えた。超勇者の携える聖剣は『覚醒』し甘く悦なる気配を醸す。
「ボク達の事が怖いなら尻尾を巻いて逃げてもいいんだよ?」
「――言ってろ!」
 それは『正面』からであった。セララの傍らから滑り出した流雨は絶ぱんだ祭りと名付けた台帳役からの大暴れで敵陣を翻弄する。日向は自衛手段を持ち、信頼できるパートナーであるが彼女が心配したのはうしろでもちもちしているMissだった。
「びーばー君、無理をしないでくれ」
「ええ、ええ! お任せ下さい」
 もちもちと動いているMissに小さく笑う。メアリ・メアリは「待ち伏せされてるようじゃない?」と揶揄うようにクロックホルムを見遣った。彼等の『上官』は王たる存在と行動している。ここで後れをとるわけには行かないという訳だろう。
「我らがここに来ることを予期していたか、イレギュラーズよ」
「ええ。これだけ大規模な戦闘だというならば致し方ないでしょう」
 糸を手繰ったイデアは『黒騎士』の人形を手繰り敵陣へと放り込む。薙ぎ払う黒剣に軍勢が僅かに呻くがそれだけでは止らない。

「進め進め進め――!」

 クロックホルムの号令が兵士を前へと推し進めた。兵などと、呼ぶにも可笑しな盗賊達。だが、その統率は正しく軍隊の其れである。
 セララは剣を構え直す。放つ――究極! スーパーセララキック!
 急降下で激しい雷光を纏い貫けば、大規模な爆発が上がってゆく。「ふぎゃあ」と声を上げたMissを受け止めて流雨はその隙を逃さぬと刃を配下へ突き立てた。だが、浅いか。地を蹴り後退する。反撃を見せる兵を縛り付ける糸をイデアはぎりと引いた。
「その様な少数で我らが止められると――」
 ぴ、と音を立てたのはクロックホルムの脚を絡め取った糸。俯いた男が其方に気をとられた刹那、
「出番や!」
 星の合図は鋭く。ある手間と名付けた『創作格闘技』を活かしてクロックホルムへと痛烈なる一撃を叩き付ける。刹那主義的な彼の爆発的な攻撃に重なるのは無数の痛み。
「何ッ!?」
「余所見する暇はないぜ!」
 飛び出したルージュは遠距離より銃を構えた女の横面目掛けて気合いを込めた謎の光を放った。其れが何であるかをルージュは把握していない――だが、『愛の力』と呼ぶのが相応しいのかもしれない。
「早速のお出ましじゃない! カッコイー! バカみたいに飛び込んできたみたいだけど、どうする?」
「撲滅だ」
『マァメイド』メアリ・メアリに応える固い声音、『爪研ぎ鴉』クロックホルムは「行け!」と前線へと兵を送る。
「日向様、下がって」
 蒼き焔を纏ったガントレットを構え、放つのは氷と焔を束ねた全身全霊。その攻撃を放ちながらカメリアはふと思う。現実世界の己は『冰宮』――冰の力を扱っている。意図せずにこちらでは焔の力を扱える事が『焔宮』の名を持つ少女との縁を感じるのだ。
「日向もサポートするなの!」
「うん、お願い。日向殿のサポートを期待してる」
 頷く素イッチッはクロックホルムへ向けて飛び込んだ。ホログラムで構成されたターゲットスコープを覗き込む。目標決定、標的は直ぐ底に――背面のスラスターを起動し、推進力の儘、男の懐へと飛び込んだ。
「みんなに届いて! ボクの歌!」
『カワイイ』仕草と歌声で響き渡るのはSaudade――伝えたい言葉は妖艶なるバラードとなる。


 ――この地平線の先をボク達は歩んでいこう! この水平線の先をボク達は拓いていこう! さぁ、未知のセカイへ!!

 伸び伸びと歌い上げるブラワーの歌声がルージュを補佐する。地を蹴りウサギが跳ね上がるようにメアリ・メアリを狙うルージュの目的は『後方の目』の錯乱だ。司令塔にも見えるクロックホルムが前線に立つならば、後方のメアリ・メアリも何らかの任をになっているはずだ。
 彼女が『後方で目』の役割を担っているのならば、その目を時分が奪ってしまえば良い。後方の目を失えば、乱戦状態では彼方も混乱するだろう。
「というわけで、そこのねーちゃん。おれが来たぜ!! わりーな。ここから先を通すわけにはいかねーんだ」
 泰然一刀――一本の武器だけで戦うために最適化されたその闘法でルージュは賭ける。妹オーラは邪悪なる穢れを寄せ付けないのだと胸を張る。つまり、『ルージュにとってのメアリ・メアリは最適な敵』なのだ。それはメアリ側からすれば自身の得意技を塞ぐ事となる。
「怖くないのかい?」
「勿論! 『妹』ってのはねーちゃんとにーちゃん笑顔のためにいるんだから!」
 ブラワーのサポートがあればこそ、そして傷付く己に重なった痛みを攻撃力へと変えてゆく。
「日向もサポートするの!」
 符が呪術の気配を纏う。焔宮に伝わる呪術を継承する娘は驕ることも、怖れることもない。民のために、誰かの為に。
(そう――そうや。『あの子』はこう言う子やった!)
 護らなくてはならない。『今度こそ』と唇に笑みを浮かべた星は現実と違い『ステゴロ』も楽しいのだと至近へと飛び込んだ。流星群のような連続攻撃。あの日の、高天御所で母の愛に焦がれた彼女の手を握ることの出来なかった後悔の如く。
「日向ちゃん、無理せんといてな。……かっこええお兄ちゃんが護ったるから」
 ――今度こそ。
 日向の桜色の眸が不思議そうに細められて「頼りにしてるなの!」と声音を跳ねさせた。そんな笑顔だけで、幸福を感じて堪らないのだ。『IF』であったとしても――それが有り得ない現実だったとしても――安心する。遣る瀬なくもなる。せめて、『鳴』の名を継がなかった彼女を守り抜きたい。
 イデアの糸がクロックホルムを捕える。ばちり、と音を立て軋んだ糸を越えて男の目がイデアを映した。
「そんなにもあの娘が大事か? イレギュラーズ」
「……依頼人を大事にするのは当たり前では?」
 僅かに、眉を動かして。イデアは静かな声音で男を退ける。糸の先で人形が踊るが直ぐに腑の如く綿を降らせた。
「焔宮君は実際、要人なのだろう? 当然顔も割れていそうだ。人質の価値は十分。
 彼女が確保されれば詰みの可能性もある。この世界なら、他の者は、最悪の場合、死ねばそれでOKだろうが。彼女は、そうもいくまい」
 彼女を護りきるために。流雨が小さく頷けば、スイッチは日向とクロックホルムの距離をとるように捨て身で飛ぶ込んだ。
 流石に砂蠍のナンバー2の側近か。そうは思えども、引いている暇はない。トラップで気を取る事ができているならば切り込んで行くだけだ。
 スイッチは真っ直ぐに剣を振り下ろした。クラスはセイバー、そして、王の剣(コールブランド)たる特異点(シンギュラリティ)は飛び付いた。

「ッ――!」

 音を立てて、スイッチの眼前が染まる。手を伸ばせば剣が飛んでいくがクロックホルムにも確実に攻撃を届けることが出来たか。
 男がふらつき「メアリ!」と叫んだ。後方では善戦を繰り広げていたルージュの姿が掻き消える。
「ったく! カッコイーヒーロー様達に邪魔されて、帰りたいんだけど!?」
「……くそ……イレギュラーズ!」
 忌々しげに叫んだクロックホルム。傷だらけになりながらもスイッチは一歩踏み込んだ。罠が男の脚を絡め取り視界が黒く染まってゆく。
「――良くやった」
 地を蹴り飛び込んだのは流雨。ぢごくぱんだは竹槍を『ぷすり』と刺した。
「貴様!」
 クロックホルムが流雨の頭を掴む。だが、その腕へと激しい蹴劇を放った星は「女のコにそんなんするもんやないで?」と軽妙に笑って見せた。
「さぁ、ボクの癒しの歌よ届け!」
 歌声を響かせてブラワーはイチコロウィンクでポーズを決める。何時だってムーサは天までその聲を届けるために『カワイイ』を捨てることはない。
 ブラワーはただ、歌い続けた。それが誰かの笑顔に繋がると信じて。
 アイドルソングが流雨を勇気づける。続いて響き渡ったSaudadeの哀愁に兵士達の足下が縫い付けられた。踊る、イデアの糸が絡め取る。
「どないするん? そっちも『随分』な事になってるみたいやけど」
 小さく笑った星の傍らでセララは好機を狙う。まだだ、最後の一撃を食らわすのは今ではない。
 もっと的を絞れるようになってから――ならば、とイデアの糸とカメリアの氷が周囲を包み込む。
 クロックホルムの軍勢達の中を進んだイデアは「こちらは生かしておく必要はありませんが、退くのは今では?」と静かな声音で囁いた。
「その様な脅しが効くとでも?」
「脅しじゃないよ! ――さあ、受けてみて! 
 誰も失ったりはしない! 皆の笑顔はボク達が守る! 全力全壊ッ! ギガセララブレイク!」
 目映い光が、剣に乗せられた。クロックホルムの傍からイレギュラーズの元へと飛び込んできた男を打ち倒す。セララの背後から眩く光ったのは『日向』を護る為に決死の覚悟を決めたカメリアの氷焔。凍て付く気配に赫々たる色を乗せて。
「どこまで傷ついても、立っている限りは私の氷は、焔は猛り、凍てつき、燃え盛る。この地を、この子を! わたしは護ってみせる……!」
 それが何故かは分からなかった。どうして、守りたいと願ったのかも。
 
 ――もう、何も……。

 ――みんな……生きて、欲しいの。

『私』だって、貴女に生きていて欲しいのです。
 そんな言葉を口にする間柄でもないのに。カメリアはそう思った。
 セララの目映い光が、男達を包み込んでゆく――そうして彼等は撤退した。

「……か、勝ったの……?」
 茫然と呟く少女に「勝った! 勝ったんだよ、日向! ……良かったね、日向。また、何かあったら助けに行くからね」とブラワーはにんまりと微笑んでハイタッチを求めた。
 弾ける笑顔でハイタッチをした彼女に「いえーい!」とセララは合わせてハイタッチを一つ。
 彼女の見せた笑顔は、現実世界ではもう二度とは見られない――けれど、この世界ではどうか、幸せで居て。

成否

成功

MVP

ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録

状態異常

真読・流雨(p3x007296)[死亡]
飢餓する
スイッチ(p3x008566)[死亡]
機翼疾駆
ルージュ(p3x009532)[死亡]
絶対妹黙示録

あとがき

 お疲れ様でした。
 日向ちゃん、幸せになっておくれ。

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