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シナリオ詳細

<Genius Game Next>狙われた猫達

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『星の魔法少年』の警告
「ボクは、『星の魔法少年』ナハトスター・ウィッシュ・ねこ。ここの猫達は、狙われているよ」
「何だって!? 詳しい話を聞かせてくれるかい!?」
 突然面会を求めてきた少年、ナハトスター・ウィッシュ・ねこ(p3x000916)の言葉に、この地の領主であるヨゾラ・エアツェールングは血相を変えて驚き、ガタッと音を立てて椅子から立ち上がった。
 「猫と領民を不当に傷つける存在は、王でも三大貴族でも許さない」とされるヨゾラが、「猫好きと猫だらけの街」として知られる自領の猫が狙われていると聞いて、黙っていられるはずがない。
(ああ。こういう所は、やっぱりボクなんだなぁ)
 『Rapid Origin Online』世界の自分であるヨゾラの反応に、ナハトスターは嬉しささえ覚える。だが、感慨に浸ってばかりもいられない。
 ナハトスターは、砂嵐が伝承に侵攻しようとしていること、その傭兵団の一つが楽器の材料としてエアツェールング領の猫達を捕えて売ろうとしていることを、ヨゾラに告げる。
「傭兵団は、ボク達が何とかするよ☆ ヨゾラさんはここの人達にお願いして、傭兵団が来る前に猫達を保護しておいてくれないかな?」
 傭兵団は、猫達を捕獲するために広範囲にわたって猫を誘引する強力なトラップを用意している。もちろんナハトスター達もトラップを設置させない様に努力はするが、万一を考えると猫達が事前に屋内に保護されていることが望ましい。
「わかった。そちらはすぐに手を打とう。傭兵団は、任せていいんだね?」
「うん、任せてよ☆ 猫達のためにも、しっかりととっちめてくるからね☆」
 確認する様に問うたヨゾラに、ナハトスターは笑顔で応えながら手を差し出す。ヨゾラはその意を察して、差し出された手をしっかりと握った。

●弱小である理由は、そういうところ
 夜の闇に紛れて、三十人ほどの傭兵がエアツェールング領を目指している。ナハトスターがヨゾラに知らせた、エアツェールング領の猫達を狙う傭兵団だ。
 もうすぐエアツェールング領と言うところで、団長らしき男が団員達を振り返った。
「いいか、野郎共。あそこには猫どもがわんさといる。そいつらをとっ捕まえて売っ払えば、ガッポガッポの大儲けだ!」
 団長の鼓舞に、団員達の意気も上がる。砂嵐の傭兵団の中では弱小であるが故に、あまりいい目を見ることが出来なかった彼らだったが、今度の作戦が成功すればいい目を見られるはずだと言う希望に包まれていた。
「いやぁ、しかしイビルトライストリングの材料がゴロゴロ転がってる街があるとは、思いもしやせんでしたね」
「ああ、全くだ。他の連中に嗅ぎつけられる前に、根こそぎ攫っていくぞ」
 ……「他の連中」は、国を挙げて伝承を襲撃しようとする時に猫を攫って儲けようなどとはしないだろう。嗅ぎつける以前の問題だ。そこに気付かない辺りが、彼らが砂嵐の中でも弱小の立場に甘んじる所以であった。
 なお、彼らの会話に出たイビルトライストリングとは、三本の弦を以て奏でられるリュートであり、言わば一種の三味線である。三味線のような楽器自体が『Rapid Origin Online』では珍しいが、イビルと付いていることから察せられる様に、演奏の腕次第では洗脳じみた精神支配さえ可能である。そのため、知る人ぞ知る楽器となっているが、この楽器を知る悪党達にとっては喉から手が出るほど欲しい貴重なものであり、その材料なら高く売れると思われた。
 ちなみに、このイビルトライストリングの材料となる猫の皮は、皮自体は傷つけることなく、しかし出来るだけ苦痛を味合わせて殺したものが良いとされている。そのために猫が味わう残酷な仕打ちは、とてもここに記せるものではない。
 意気揚々と街道を進む傭兵達の後方では、十台の荷車がそれぞれ傭兵達に牽かれていた。その上には、エアツェールング領の猫達を捕獲するためであろう檻が載っている。
「さあ、ハイパーメガマタタビトラップを置いて猫どもを根こそぎとっ捕まえたら、とっととずらかるぞ」
 団長の声に、団員達が意気揚々と「おお!」と応じる。だが、彼らはまだ知らない。『Rapid Origin Online』にログインしてきたナハトスターをはじめとするイレギュラーズ達が、その前に立ち塞がることを――。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。今回は、<Genius Game Next>のうちの一本をお送りします。
 砂嵐の侵攻に乗じて、邪な楽器の材料として売り払うために「猫好きと猫だらけの街」エアツェールング領の猫達を攫おうとする傭兵団を、撃退して下さい。

●成功条件
 傭兵団の撃退(生死不問)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 砂嵐方面からエアツェールング領に通じる街道。時間は夜、天候は曇天。地形は平坦です。
 エアツェールング領の近くで戦うか、あるいは出来るだけエアツェールング領から離れた場所で戦うかは、イレギュラーズ側が選べます。
 暗視やそれに類するスキル、アイテムが無い場合、命中や回避、戦況の把握にペナルティーが入ります。

●戦闘初期配置
 イレギュラーズ達は、傭兵団の先頭からエアツェールング領側に最低40メートル以上離れた地点にいるものとします。
 なお、100メートル以内に接近された時点で傭兵団はイレギュラーズ達に気付きますので、不意打ちなどは不可能です。

●傭兵団員 ✕約30
 砂嵐の伝承襲撃に参加した……と言うよりは、それに乗じて一儲けを企んでいる傭兵団です。やっていることの間抜けさから砂嵐の中では弱小の立場に甘んじていますが、腐っても傭兵であり実力は確かです。
 能力は全般的に高く、パワーとスピードを兼ね備えている上に、防御面も充実しています。ネックがあるとすれば防御技術くらいですが、それもあくまで他に比べればと言う程度です。
 武装はロングソードやバトルアックスがメインウェポンですが、サブウェポンとして投擲用のスローイングダガーやハンドアックスを携行しています。
 また、戦況判断も確かであり、イレギュラーズ達の行動には柔軟に対応してくる可能性がありますし、戦況が不利になれば撤退の判断も速やかに下すことでしょう。

●ハイパーメガマタタビトラップ&荷車 ✕10
 エアツェールング領の猫を誘引して捕獲する罠です。何がハイパーメガかと言いますとその効果範囲と誘引能力でして、このトラップ10個でエアツェールング領の猫は根こそぎ誘引されてしまいます。
 OP本文をご覧頂いたとおり、万一に備えてヨゾラが住民達を使い猫達の保護を事前に行っていますが、何せ猫相手ですので完璧とは行きません。このトラップがエアツェールング領に1つでも置かれてしまえば、いくらかの猫が罠にかかって檻に閉じ込められるのは避けられないでしょう。

●イビルトライストリング
 猫の皮を材料に創られる、三味線に似た楽器です。詳細はOP本文をご覧下さい。
 材料とされる猫が殺される際に、苦しめば苦しむほどその演奏の効力が高くなる特性があります。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
 『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

※重要な備考『情勢変化』
 <Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
 又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • <Genius Game Next>狙われた猫達完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフルハンマ(p3x000319)
冷たき地獄の果てを行くもの
ラピスラズリ(p3x000416)
志屍 瑠璃のアバター
ナハトスター・ウィッシュ・ねこ(p3x000916)
叫ぶ流星
桜(p3x005004)
華義の刀
こむぎ(p3x008529)
わふわふもふもふ
みゃーこ(p3x009529)
野良猫
星芒玉兎(p3x009838)
月光
Sakura(p3x009861)

リプレイ

●猫達を、守るために
 月明かりさえない夜の闇の中を、イレギュラーズ達は走る。「猫好きと猫だらけの街」エアツェールング領の猫達を狙う砂嵐の傭兵団を、出来る限りエアツェールング領から離れた場所で迎え撃つために。
(よかった……この世界の僕(ヨゾラ)も、猫好きのヨゾラだ)
 『星の魔法少年☆ナハトスター』ナハトスター・ウィッシュ・ねこ(p3x000916)は、エアツェールング領の領主である『Rapid Origin Online』の自分自身が猫好きであることに喜びを覚えていた。
 『無辜なる混沌』を模した仮想世界『Rapid Origin Online』においては、混沌の人物や事象が全く違う性質を持って再現されることが珍しくない。今回伝承に侵攻している砂嵐は、その最たるものの一つと言えた。
 それだけに、猫が好き、と言う最も大切なアイデンティティをこの世界の自分も持っていることが、嬉しくてたまらない。
「だから……ヨゾラさんや猫好き領民さん達や、猫達の為にも頑張るよー☆」
 ナハトスターは子供らしく元気に、やる気満々の様子で意気込みを口にした。
「うんうん、ネコちゃんを苦しめて楽器の材料にしようなんて、絶対に許せないからね……!」
 それに深く頷くのは、『サクラのアバター』桜(p3x005004)である。
 桜にとって、「猫好きの猫だらけの街」であるエアツェールング領は楽園としか言いようがない。この依頼が完了したら、その楽園を絶対に堪能すると決めている。
(――そのためにも、一匹たりとて連れ去らせはしない!)
 決意を込めて、桜は四聖刀『陣』の柄をギュッと握りしめた。

「……血も涙もないとは、正にこの事ですわね。斯くも愛くるしい生き物を、私欲のために手にかけようとは」
「そうですね……それも、わざわざ大事に育てられているところから攫ってこようとは、言語道断です」
 愛らしい猫を、邪悪な楽器イビルトライストリングの材料として売り払うために猫好き達の街から攫う。そんな所業は許せないと『月光』星芒玉兎(p3x009838)が憤懣を露わにすれば、『志屍 瑠璃のアバター』ラピスラズリ(p3x000416)も同調する。
 では、野良ならばよいかと言えば、ラピスラズリは否とするだろう。何故なら、攫われた猫達はただ殺されるのではなく、筆舌に尽くしがたい惨さで苦しめ尽くされた上で殺されるからだ。
 傭兵団達は猫を攫って売り払うだけではあるが、猫達の末路を知った上で売り払うのであるから、玉兎にとっては同罪であった。
「猫の皮を傷つけず、かつ苦痛を味合わせて殺す……か。ったく、胸糞悪ぃ話だぜ」
 Sakura(p3x009861)が、気に入らないと言った様子で吐き捨てた。仮想世界である『Rapid Origin Online』に生きる者達は、あくまでデジタルなデータでしかない。だが、データであろうが命を非道な手段で殺め、その皮を使って音色で人を支配する様な楽器を作るなど、Sakuraにとって捨て置けるものではなかった。
(猫の苦しみ、怨嗟を楽器に染み込ませる……イビルトライストリング、完全に呪物だな)
 Sakuraの言葉に、『妖精粒子』シフルハンマ(p3x000319)は黙って考え込んだ。鍛冶を職とする関係で、シフルハンマはこう言う呪物の例をいくつか知っている。
 そして、「中の人」が意思ある呪物である身としては、このような呪物が量産されるのは全く好ましくないことであった。ならば。
(……全力で、潰しにいこうか!)
 シフルハンマは意を固めつつ、傭兵団がいるであろう闇の奥を見据えた。

「きゃん! きゃんきゃん! ばう!(猫にひどいことするなんて許さないよ! おなじ動物なかまとして!)」
「そうだよねー。猫を襲うなんて許せないよねー。仲間だものー、にゃっはっは!」
 イレギュラーズ達の足下で、ランプを身体にくくりつけた犬が傭兵団許すまじとばかりに咆えれば、猫がそれに応じる様に言葉を返した。……正確には、犬のアバターのイレギュラーズと猫のアバターのイレギュラーズが会話をしていた、と言うことになるのだが。
 犬の方である『わふわふもふもふ』こむぎ(p3x008529)が発するのは犬の鳴き声であるが、その言いたいことはアクセスファンタズムによって聞く者の脳内に子供の声として伝わる様になっている。一方、猫である『野良猫』みゃーこ(p3x009529)の方は、普通に人間の言葉を話していた。
「……ところでさ、コレってボクも捕まったら三味線の刑なのかな? 皮を剥がれちゃうの? ねえ、剥がれちゃうの??」
「……ばう(たぶん)」
 同じ猫として猫を襲うものを許すまじと勢い込んで依頼に参加したみゃーこだったが、はたととある事実に気が付いて周囲に尋ねかけた。一行の間に沈黙が広がり、こむぎだけが辛うじて返事を返す。
(もしかしてボク、とんだ危険地帯に来ちゃったのでは……???)
 猫を狙う傭兵団の前に猫が現れるとなれば、やはりそれは飛んで火に入る夏の虫だとか、カモがネギをしょってきただとかの類だと言えよう。みゃーこの命運、果たして如何に――。

●動けない傭兵達
 やがてイレギュラーズ達は、十台の荷車と共にエアツェールング領へと進行しようとする傭兵団と遭遇した。傭兵団の方も、イレギュラーズ達には気付いており、戦闘態勢を整えている。
「夜間の狼藉であれば、見咎められないとでもお考えになられましたか?」
「『他所が領地だ首級だを狙う中、唯一飼い猫を取りに行って手ひどく引っかかれた間抜け』として、名前を売って差し上げましょう」
 それでも、先手を取ったのはイレギュラーズの方だった。正確には、玉兎とラピスラズリだった、と言うべきであろうか。
 凍てつくかの様な氷輪が放つ蒼い輝きが、傭兵達のうちの前方にいる半分を包み込む。蒼い輝きに包まれた傭兵達は、ある者は身体の自由を奪われ、ある者は正気を喪わされた。
 そこに、ラピスラズリが飛び込んで『魅剣デフォーミティ』を縦横無尽に振るう。『魅剣デフォーミティ』に斬られた傭兵は目から正気を失い、途端に味方であるはずの傭兵や、あまつさえ自らに刃を向けようとする。
「わん! わんわんわん!(行って、ペンギンさん!)」
 さらに、いつの間にか背中にキャノン砲を載せたこむぎが、砲口からペンギンを撃ち出した。弾頭となったペンギンが傭兵の一人に着弾すると、そこから衝撃波が迸り、周囲の傭兵達を襲っていく。ある者は後ろへとよろけ、またある者は後方へと弾き飛ばされた。
 傭兵達は反撃に出ようとするが、玉兎、ラピスラズリ、こむぎの攻撃を受けた前方の半分は同士討ちや自傷で自分達を傷つけ、そうでない者も身体をまともに動かせずに何も出来ず、まともに反撃を行えたのはごく少数だった。荷車の引き手を含む後方の半分は、まともに動けない前方の半分を左右の迂回して前に出つつ、ラピスラズリに斬りかかったり玉兎やこむぎに武器を投擲していく。
「くそっ、この犬っころがァ!」
 特に、犬だけに倒しやすいと見られたのか、こむぎには攻撃が集中することになった。
「よお、この先にこんな大所帯で用事たぁ、猫がびびって逃げちまうぜ? ――あんたら全員、手ぶらでお帰り願おうか!」
 Sakuraは斧槍を高く振り上げながら駆けて傭兵達との距離を詰めると、渾身の力を以て振り下ろし、傭兵の一人に叩き付けた。斧槍はその刃を受けた傭兵に深い傷を負わせるに留まらず、前方に地を裂く様な斬撃を迸らせて、さらにその後ろにいる傭兵達にも傷を負わせていく。
「桜、推して参る!」
 Sakuraが動くと同時に、桜も動いていた。ラピスラズリとは距離を取るようにして傭兵達の中に突入すると、『陣』を縦横無尽に振るう。その剣閃は重く、周囲の傭兵達は傷を負うだけでなく、大きくよろけて体勢を崩していった。
「ボ、ボクの皮はやらないからな……絶対やらないんだからな……!!
 もちろん他の猫達の皮もだけど、ボクのは特にやらないんだからな……!!
 ズバズバっと引っ掻かれたくなかったら、やめとくんだよ……!!」
 後方から前に出てきた傭兵達を狙って、みゃーこがその中に飛び込んでいった。皮を剥がれてはたまらないと必死になって、傭兵達の間を縫っては次々と飛びかかり、顔や首、手など肌が露出している部位を狙って爪でバリバリと引っ掻いていく。数本の平行する直線を幾重にも肌に刻まれた傭兵達は、「ぐあっ、こいつもか!」などと叫びながら、戦闘どころではないと言った様子で痛そうに傷口を押さえた。
「猫にひどい事する人達……君達の願いは叶えないし叶わない! ……からねー☆」
 ナハトスターは、味方を巻き込まない様に注意しつつ、傭兵達のいる場所を対象にして流れ星と猫を召喚する星猫魔法を発動する。ゴルフボールほどの大きさの、金平糖の様な形をした色とりどりに輝く流れ星が、傭兵達を目掛けて天空から降り注ぐ。さらに傭兵達の足下には何処からかたくさんの猫が現れて駆け回り、傭兵達を困惑させた。
(荷車はまだ無理みたいだね。それなら……!)
 ハイパーメガマタタビトラップを載せた荷車を狙おうとするシフルハンマだったが、その前にいる傭兵達が邪魔で射線が通らない。ならばと、シフルハンマは魔力でランスを創り出し、最もエアツェールング領に近い傭兵に向けて投げつけた。魔力のランスは、狙った傭兵の胴体を深々と貫いた。

●優勢~撤退勧告
 行動阻害の状態異常を付与するイレギュラーズ達の攻撃によって、傭兵達の数の有利はすっかり潰された。傭兵達は大部分が動けなくなっている間に、徐々に一人、また一人と戦闘不能に追い込まれていく。だが、それでもまだ動ける者達による反撃も激しく、特にただの犬と猫にしか見えないこむぎとみゃーこには攻撃が集中することになった。

「もう少しで、荷車に届きそうですわね」
 傭兵達が倒れていくにつれて、イレギュラーズは徐々に前へと押し出していった。三分の一近くの傭兵が倒れた今、あともう少し傭兵達を倒していけば、罠を載せた荷車を攻撃するのも可能になりそうだと玉兎には思われた。
 ならばそのもう一押しを進めるためにと、玉兎は氷輪を用いて傭兵達を蒼い輝きで包み込んでいく。傭兵達は横に広がっており、しかも味方への誤射を避ける必要があるため、光に巻き込めたのはやや後方にいる四人ほどに過ぎなかった。だが、この四人はことごとく身体の自由を奪われた。
「猫がどれだけ高値で売れるのかは知りませんが、これだけの被害を出して、損得勘定は合うのですか?」
 そう問いかけながら、ラピスラズリは目の前の傭兵二人に向けて『魅剣デフォーミティ』を振るう。既にこれまでの攻防で手負いとなっている傭兵達は、ラピスラズリの問いに応える間もなく『魅剣デフォーミティ』の刃を受けて倒れていった。
「わん! わんわんっ!(にぐるまへの道、こじ開けるよ!)」
 身体中にスローイングダガーやハンドアックスを投げつけられて満身創痍のこむぎは、玉兎の氷輪が放った蒼い輝きに衝撃波が重なる様に狙いを付けて、背中のキャノン砲からペンギンを撃った。砲弾となったペンギンが傭兵達の後方の地面に着弾すると、そこから衝撃波が迸り、身体の自由が奪われた四人の傭兵達を打ちのめしていく。もう、四人は辛うじて立っていられるだけとなった。
「ええい、くそっ!」
 味方が次々と倒されることに苛立ちと焦りを見せながら、傭兵達はこむぎとみゃーこを狙い武器を投擲する。その数は多くはなかったが、それでも既に傷の深いこむぎはこの攻撃を受けると死亡扱いとなって、ログアウトを強いられた。みゃーこもログアウトを強いられてもおかしくないだけの傷を受けたが、まだ倒れるわけにはいかないと気力を振り絞って『Rapid Origin Online』世界に居残り続ける。
「ごめんね、こむぎさん……」
 これまで何度も回復を施しつつも、傷を癒やしきれずにこむぎをログアウトさせてしまった無念を胸に抱きながら、ナハトスターはみゃーこだけでも何とか耐えきらせようと癒やしの星猫魔法を発動した。みゃーこの付近に数匹の猫が現れ、みゃーこの身体にスリスリと身体を擦りよせたり、ニャーニャーと応援する様な鳴き声を上げていく。すると、傷がいくらか癒えていき、身体に活力が湧いてくるのをみゃーこは感じた。
「ありがとー、ナハトスターさん! こむぎさんの頑張り、無駄にしないよー!」
 そのみゃーこは、玉兎とこむぎの範囲攻撃によって今にも倒れそうになっている四人の傭兵の一人に駆け寄ると、するするとその身体の上を駆け上ると顔を爪で引っ掻いた。
 ただ見た限りでは猫に顔を引っ掻かれただけの様に見えるが、その攻撃にはみゃーこが受けたダメージの倍を与えるだけの威力が加わっている。既に限界に近い傭兵がその攻撃に耐えられるはずもなく、「ぎゃああああっ!」と見た目からすれば大仰な断末魔をあげて倒れた。
「確実に、潰してやる。起ち上がらせたりなんて、させやしねぇよ!」
 Sakuraは同じく玉兎とこむぎの範囲攻撃を受けた傭兵達の一人に突進すると、斧槍の穂先でその胴体を貫く。がはっ、と血を吐いた傭兵は、Sakuraが告げた様に気力を振り絞って起ち上がることも許されず、そのまま戦闘不能となった。
「自分も続こう。マジックランススロー!」
 シフルハンマもその手に魔力のランスを創り出し、みゃーことSakuraに続いて今にも倒れそうな傭兵を仕留めにかかる。魔力のランスを投げつけられた傭兵は、腹部を深く貫かれると苦痛に堪えきれずに意識を喪い、ぐらり、と前のめりに倒れ、地に伏した。
「勝てないって事は、もうわかってるでしょ? 逃げるなら追わないよ!」
「くっ…………わかった。エアツェールング領の猫は諦める。それでいいな?」
 既に傭兵達の半数近くが倒れ、戦況は明らかに自分達の方に傾いている。そう判断した桜は、傭兵団に対し撤退勧告を行った。団長らしき男は周囲を見回してほんの少しの間だけ考え込むと、がっくりと肩を落として桜の勧告を受け入れることにした。

●猫と戯れる時間
 まだ動ける傭兵達が、団長らしき男の指示の下、倒れた仲間に応急処置を施して荷車の上に乗せていく。元々荷車に乗っていたハイパーメガマタタビトラップは、やむなく遺棄された。そのハイパーメガマタタビトラップの檻はシフルハンマによって解体され、ハイパーメガマタタビは匂いが漏れない様しっかりと袋に詰められてから持ち帰られた。
 サクラメントからリスポーンしてきたこむぎと合流した一行は、領主ヨゾラに依頼達成の報告を行った。持ち帰られたハイパーメガマタタビはヨゾラの館で保管されることになったが、シフルハンマの希望で一部だけは依頼の追加報酬とされた。

(猫に群がられるって、どんな感じなんだろう……)
 エアツェールングの街の広場で、シフルハンマは期待に胸を高鳴らせていた。
 シフルハンマの「中の人」は本体が鎌であるためか、金属や血のにおいがするために動物に嫌われやすい。それは、猫も例外ではなかった。だが、そうした匂いがしないアバターがハイパーメガマタタビを使えば、猫に群がられる経験が出来るのだ。
 シフルハンマが厳重に包まれた袋の中から、ハイパーメガマタタビを取り出した。一体どうなるのかと、他のイレギュラーズ達も興味津々に見守る。すると、その匂いを嗅ぎつけた猫達がシフルハンマ目掛け全速力で駆け寄ってきた。その数、数十匹。
「えっ、えっ!? ちょっ……」
「き……きゃあーっ!!」
 身長四十五センチのシフルハンマがそれだけの猫に押し寄せられてはたまらず、シフルハンマは猫達の中に埋もれてしまう。同時に、自意識の半分が兎である玉兎は怒濤の勢いで迫ってくる猫達に恐怖を覚え、その場から逃げ出した。
「おーい、大丈夫かー?」
 Sakuraはそんな玉兎が心配になり、猫に埋もれたシフルハンマの方をちらと振り返って「こいつはすげぇな」とだけつぶやくと、玉兎を追っていった。
「何にゃー、これは……にゃはははは!」
 ハイパーメガマタタビのあまりの効力に、みゃーこも他の猫と同じように多幸感を感じて酔っ払った様にぐでんとしている。
「マタタビって、すごいんだね……」
「このマタタビが特別なのでしょう。何せここの猫を全部誘き寄せようと言うぐらいですから」
 猫の下に埋もれながらもふもふとした猫達の感触を楽しんでいるシフルハンマを中心に、数十匹の猫が酔っ払った様に地面を転がる様に、こむぎは驚きを隠せないでいる。ラピスラズリはその横にしゃがみ込むと、地面の上でぐにぐにと気持ちよさそうに身体を捩らせている猫の胴に手を伸ばしてそっと撫でた。
「ネコちゃん、ネコちゃん、ネコちゃん……♪」
 桜は一匹の猫をひょいと抱え上げると、嬉しそうにそのお腹に頬ずりをした。すると猫の方も、幸せそうに桜の頬に身体を擦り付けてくる。その感触に、桜は幸せの最中にいるかの様な表情を見せた。
(この領地と猫達と住民達と、もう一人のボクに幸あれー☆)
 その様子を見ていたナハトスターは、エアツェールング領の全てが幸福であることを願わずにはいられないのだった。

成否

成功

MVP

星芒玉兎(p3x009838)
月光

状態異常

こむぎ(p3x008529)[死亡]
わふわふもふもふ

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によって、エアツェールング領の猫達は無事に守られました。
 MVPは、傭兵達の行動阻害に大いに貢献した玉兎さんにお送りします。

 それでは、お疲れ様でした!

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