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シナリオ詳細

<Genius Game Next>或いは、悪辣、フザリーと砂の悪精霊…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●砂の精霊
 人気の失せた集落に、1人の男が佇んでいた。
 砂色の衣で全身を覆った痩身の男だ。
 その男は、背に体躯に見合わぬ大きな壺を背負っていた。
「ひひ。まったく、キング・スコルピオも人使いが荒いな。俺1人の負担が大きすぎるじゃないか」
 などと、囁くように独り言ちて、男はくっくと肩を揺らした。
 彼の名は“フザリー”。
 盗賊団“砂蠍”に所属する呪術師だ。

 今回、フザリーが下された命令は1つ。
 伝承西部のバルツァーレク領および南部のフィッツバルディ領へ攻め込むための戦力確保というものだ。
 電撃戦で侵攻し、領地の占拠や略奪を行う。
 そのためには、戦力が幾らあっても足りないということだった。
 そこでキング・スコルピオはフザリーの行使する呪術に目を付けた。
 それは、他者の命を糧として“砂の悪精霊・ジン”を産み出すというものだ。
 命令を受けたフザリーは、手始めに砂嵐近郊の小さな集落へ訪れた。
 一夜をかけて、彼は村の周辺に“砂の悪精霊”召喚のための陣を刻み、密かにそれを発動させる。
 大規模な術式だったせいか、集落の住人のうち贄となったのは7割ほどか。
 残る3割は、半死半生といった状態で倒れていることだろう。
「まぁ、これで30体ほど。こいつらに術式を描かせれば、次の村を襲う時にはもっと速くやれるかな」
 なんて、言って。
 フザリーは背後へ視線を向ける。
 そこにいたのは、砂で出来た人型だ。
 その数はおよそ30体。
 体格は様々だが、共通してその容貌は骸骨とミイラの中間らしき醜悪なものであった。
 それらは無言のまま、フザリーの命令が下されるのを待っている。
「ジンは忠実だが、そう長くこの世界に顕現できないのが難点だな。仕事の度に用意せねばならん」
 などと、口では不満を述べつつもフザリーの表情はひどく楽しそうだった。
 彼が“砂の悪精霊”の召喚術式を学んだのは、他者の命を贄とするというその性質がひどく性に合ったからだ。
 事実、彼が初めてジンを呼んだ際には、実の娘を贄とした。
 時には罪もない旅人を。
 時には同じ砂蠍に所属する盗賊を。
 そして、今回は集落1つを贄として大量のジンを呼び出した。
「さて……まだ生き残りが10人前後はいるはずだ。それもジンにして、次の村へ向かうかね」
 
●イベント概要
 悪逆非道の砂嵐を迎撃し、伝承領の被害を軽減しよう。
 ※このイベントはネクストの歴史を変え得る重要なイベントです。特別クリア報奨も用意されていますので奮ってご参加下さいませ!

 R.O.Oのユーザーへ向け、イベントの開催が告知されたのは数日前のことだった。
 そのうち1つ『悪辣、フザリーと砂の悪精霊』の概要は以下の通りだ。

 フィールドとなるは、砂嵐近郊の小規模集落。
 時刻は夜明けの少し前。
 空が最も暗くなるころ。
 集落には、テントのような住居が幾つも立ち並んでいる。
 テントはある程度の距離をとって点在しており、またテントの付近には馬やラクダが繋がれている。
 集落には10名ほどの生き残りが存在しており、それを救出しながらフザリーを討つことが今回の依頼の成功条件となっていた。
 フザリー自身の戦闘能力は低いが、その移動速度は速く、また背負った壺に1、2体のジンを格納していることも判明している。
 残る28体のジンは、現在砂に擬態し、集落の各所に潜んでいるようだ。
 ジンの攻撃には【崩落】【懊悩】【停滞】【呪い】の効果が付与されている。
 砂で出来た身体を持っており、時には身体を拡散し視界を潰すこともするだろう。
 基本的にはフザリーの命令が無い限り、人に襲い掛かることはないが、ひとたびそう言った命令を受ければ、生ある者に見境なく襲い掛かるという性質を持つ。
 フザリーが単独行動を強いられている理由の一端がそれであった。
 フザリーは、何者の犠牲も厭いはしない。
 他者を贄とし、ジンを産み出す瞬間こそが、彼にとって至上の幸福なのである。

GMコメント

●ミッション
フザリーの討伐

●ターゲット
・盗賊“フザリー”×1
砂色の衣に身を包んだ痩身の男。
一部の隙もなく身体を布で覆っているため、容貌は不明。
背には大きな壺を背負っていることが判明している。
壺の中に1~2体のジンを格納しており、それを用いて攻撃および防御を行う。
フザリーは悪辣であり、そして非常に憶病だ。
自身が不利と判断すれば、集落のどこかに隠している何かしらの動物に乗り、撤退を開始するだろう。


・砂の悪精霊・ジン×30
砂で出来た精霊。
人と同程度の体躯をしているが、髑髏とミイラの中間らしき醜悪な容貌をしている。
フザリーの命令があれば、容赦なく生者の命を奪いにかかるだろう。
また、身体を小規模な砂嵐に変え、視界を悪くするなどの行動を起こすこともある。

悪辣な砂塵:神近範に中ダメージ、崩落、懊悩、停滞、呪い
 小規模な暴風と、それに混じる砂による攻撃。

●フィールド
砂嵐近郊の小集落。
半径50メートルほど。
ほぼ円形の範囲内に、50ほどのテントが配置されている。
集落の中央付近には、放牧地らしき空間がある。
また、テントの傍には住人の所有物であろう馬やラクダが繋がれている。
テントの中には、生存者が倒れている場合がある。
今回、サクラメントは集落の外にあるオアシス付近に設置されている。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。

  • <Genius Game Next>或いは、悪辣、フザリーと砂の悪精霊…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

パンジー(p3x000236)
今日はしたたかに
小夜(p3x006668)
永夜
ダテ・チヒロ(p3x007569)
パンドラフィッター
ホワイティ(p3x008115)
アルコ空団“白き盾持ち”
デイジー・ベル(p3x008384)
Error Lady
三月うさぎてゃん(p3x008551)
友に捧げた護曲
ミセバヤ(p3x008870)
ウサ侍
指差・ヨシカ(p3x009033)
プリンセスセレナーデ

リプレイ

●悪辣フザリーと砂の悪精霊
 暗い暗い夜明け前。
 砂埃の舞う砂漠の集落。
 闇に紛れ進む影は2つ。
「パンジーさんも明かりは必要ないみたいだから私達がフザリーに気取られる可能性を下げられそうね」
「えぇ、この騒動の結果が何に繋がるのかわかりませんが……精一杯頑張ります、ね」
 長い黒髪を風に揺らす『白薊 小夜のアバター』小夜(p3x006668)と、銀の髪を持つどこか猫らしい少女『白雪』パンジー(p3x000236)が集落を進む。
 集落に潜む悪辣な精霊召喚師・フザリーを討つため彼女たちは今日、この日、この時、この場所を訪れたのである。

 4つのグループに分かれ、一行はフザリーと、そして集落の生き残りを探して進む。
「よろしく、ホワイティ。その絹のような白さ、素敵だよ! 輝いてるね!」
「チヒロさんこそナイス筋肉! 肩におっきいテクスチャ乗せてるのぉ? 仕上がってるよぉ! 仕上がってるよぉ!」
 どこか明るい調子でもって言葉を掛け合う『パンドラフィッター』ダテ・チヒロ(p3x007569)と『ホワイトカインド』ホワイティ(p3x008115)は近くに合ったテントの中を覗き込む。
 チヒロの方はどこかカクカクした動きだが、どういうわけか淀みはない。
「……っ」
 テントの中には2人の遺体が転がっている。
 それを見たホワイティは、思わず息を飲みこんだ。

 浅い呼吸を繰り返す少女と、少女を抱いて息絶えた女。
 母と子だろうか。
「外に馬がいましたが、この子1人で乗って逃げられるでしょうか」
『機械の唄』デイジー・ベル(p3x008384)は少女を抱いてそう呟いた。
 傍らに置かれたランプの明かりが少女の顔を照らす。青白い肌の色は、生気を吸われた故のものか。
「子守唄を歌う必要はなさそうだけど……どうかな」
 ちら、と繋がれている馬を見やって『ネクストアイドル』三月うさぎてゃん(p3x008551)はそう告げた。
 静かな瞳でうさぎてゃんを見つめ返し、馬は大きくひとつ頷く。
「いけそうね」
 馬は人が思うよりも遥かに賢い生き物だ。
 おそらく、外に繋がれた馬は少女の家族だったのだろう。死の間際にいる少女を繋がれたまま見ていることしかできなかった馬の悔しさはいかほどのものか。
「頼みますね」
 意識を失った少女を馬の背に乗せ、デイジーは言った。
 小さな嘶きを返し、走り去っていく馬の背をうさぎてゃんはただ黙って見送った。

 砂色の衣を身に纏う、痩せた男がそれを掴んだ。
 黄色いぬいぐるみだろうか。
 いや、動いている。
 恐ろしいことに、バンダナを巻き、刀を背負っているけれど、それはまさしく生きた兎のようだった。
「人を生贄に悪精霊を呼ぶとは正に悪ですね! 絵に描いたような悪です! このミセバヤが華麗に解決してみせましょう!」
 兎……否、『ウサ侍』ミセバヤ(p3x008870)は短い手足をばたつかせながらそう叫ぶ。
「ふふん、邪魔されて悔しかったらこのミセバヤを生贄にしてみるが良いのです」
「……ぁん?」
 思わず、といった様子で目を見開いたフザリーは、僅かに思案し「さて?」と首を傾げて見せた。
「ジンの材料は知恵を持つ人に限られる……のだが、しゃべる兎だとどうなる? これは、いけるのか?」
 試してみるか。
 そう呟いたフザリーは、壺に括りつけていた筆へ手を伸ばした。
 直後、フザリーの手を赤く光る刃が斬った。
 手の平から肘にかけてを焼き斬られたフザリーは、悲鳴をあげてミセバヤから手を放す。
「悍ましいな、本当に。これじゃあ現実世界で夜妖相手にしてるのとあんまり変わらないじゃあないか!」
「てめぇ……いや、てめぇらか。集落の奴じゃないな? 俺の邪魔しに来たのか?」
「……今日もご安全に、お願いします」
「ご安全にじゃねぇんだよ。この集落に安全な場所なんざ、もはやどこにもありゃしない」
 血走った目で『プリンセスセレナーデ』指差・ヨシカ(p3x009033)を睨み据え、フザリーは静かにそう言った。
 直後、3人のいたテントの中へ膨大な量の砂が流れ込んできた。
 ミセバヤは跳躍してそれを回避。
 ヨシカは砂に足を取られてその場に転倒。
 一方、フザリーはというと背負った壺から2体のジンを召喚しながらテントの外へと逃げだした。

●砂塵の中の追走劇
 彷徨うジンの横顔を、ホワイティは盾で強かに殴り飛ばした。
「次はあっち! 急いで助けて、この場を離れさせるよぉ!」
「よし、行ってくれホワイティ! ここは俺が抑える!」
 ホワイティをテントへと先行させながら、チヒロは眼前のジンと激しく殴り合う。
 チヒロの拳がジンの顔面を殴打した。
 ざらり、とジンの頭部が崩れる。
 その隙に細剣を構えたチヒロだが、さらにもう1体のジンがチヒロの眼前へと迫る。
「っぐ⁉」
 砂の欠片を零しながら、ジンはその拳を振るった。
 狙いも何もないステレオパンチ。けれど、速度はかなりのものだ。
 そして、ジンの放つ拳のラッシュを受けきるにはチヒロの速度は僅かに足りない。暗い夜という視界の不良も原因の1つであろうか。
 拳の殴打を正面から浴びながら、しかしチヒロはほんの1歩も後退しない。
「ぐぉぉぉ! 耐えろ! 耐えるんだ俺の腹筋!」
 剣を手放し、フィットネスリングを腹部の前で折り曲げる。鍛え上げられた腹筋でジンの拳を受け止める度、その身を構成するテクスチャが僅かにちらつく。
 チヒロにその場を任せたホワイティは【人助けセンサー】に導かれるようにしてテントの間を駆けていく。
「お願い、呼んで! 助けさえ呼ばれれば、どんなにか細くても見つけてみせるよぉ!」
 助けを呼ぶ声は、つい先ほどに途絶えてしまった。
 声を張り上げ、自身の存在を伝えるホワイティの表情は強張っている。焦りからか、視点も定まっていないようだ。
「お願い……」
 自身の居場所がフザリーに見つかることも厭わず、ホワイティは「助けを呼んで」とそう願った。
 その時だ。
「事故現着! 誰か居ませんか! 少しで良い、声を出して!」
「テントの数は多いですが、力を合わせれば大丈夫なのです。さぁ、どんどんいきましょう」
 ホワイティの手助けをするべく、ヨシカとミセバヤが駆けつけたのだ。

 ひどくか細い声が聞こえた。
 けれど、確かにその声の主は「助けて」とそう言ったのだ。
「クソッ、ゲームだって事は分かってる」
 テントの入り口を破り取って、ヨシカは中を覗き込んだ。
 青白い顔をした少年が、薄く目を開け手を伸ばす。ヨシカはその手を強く掴むと、少年の身体を抱き上げた。
「分かってるけど、目の前で人が死にそうになってんだ。やれるだけやるしかないじゃあないか!」
 少年を抱き上げ、ヨシカは近くの馬の元へと駆けていく。その背後に、ざわりと地面からジンが湧いた。細く痩せた砂の身体。骨に肉が張り付いただけのミイラのような悍ましい顔。
 砂を零しながら振るわれた拳がヨシカへ迫る。ヨシカは咄嗟に少年の身体を抱きかかえ、ジンの殴打を背中で受けた。
「っぐぁ!?」
 地面を転がるヨシカをジンが追う。倒れたヨシカへ向けて放たれる蹴りを、割り込んだミセバヤが代わりに受ける。
「ヨシカさん、ここは自分が!  急いでその子を集落外まで退避させてください!」
「助かる!」
 急ぎ立ち上がったヨシカは、少年を抱えたままその場を去った。
 後に残ったミセバヤが剣を構えて腰を落とした。
 しかし、直後その足元を強風が攫う。ミセバヤの足元から現れたジンが、砂塵を起こしその体を弾き飛ばす。
「うぁぁっ!?」
 バランスを崩し、跳ばされたミセバヤ。
 その落下地点には騒ぎを聞きつけ駆けて来た、ホワイティとチヒロの姿がある。
「ホワイティ! 腰を低くして、盾を掲げろ!!」
「え、こ、こうかなぁ?」
 チヒロの指示に従い、ホワイティは盾を構えた。
 盾へ向かって落下してくるミセバヤは、即座にチヒロの考えを理解する。
「カウント、3,2,1! 押せっ!」
「え、えぇい!!」
 タン、と軽い音を立ててミセバヤが盾に足を付ける。
 直後、ホワイティが盾を前へと押し出した。タイミングを合わせ、ミセバヤは盾を蹴って跳躍。反動でホワイティの身体が大きくよろけるが、代わりにミセバヤはかつてないほどの加速を得た。
 まるで弾丸のように、黄色い体が宙を疾駆する。剣を構え、飛翔する先にはジンの姿。
「はぁぁぁ!!」
 加速の乗った斬撃を、ミセバヤはその顔面へと叩き込んだ。

 暗い夜空に歌声が響く。
「さぁ! 進め!私のボルケーノ♪ 君がいなくなってしまっても私がち ゃんと覚えてるから♪」
うさぎてゃんは、額から血を流しながら笑っていた。
 都合3体。
 うさぎてゃんとデイジーが倒したジンの数だ。
 砂と化し、崩れ去っていくジンを一瞥し、2人が見つめるその先には引き攣った顔のフザリーがいた。
「あぁもう、やっぱりまだいた。だからさっさと逃げようって思ったのによぉ」
 舌打ちを零したフザリーは、背負った壺を足元へ卸す。
 壺の中から現れたのは2体のジンだ。それらはフザリーを護るように立ちはだかると、身体を砂へと変じさせ砂塵を巻き起こした。
 同時に駆け出した2体のジンは、うさぎてゃんとデイジーを巻き込み、空中へと打ち上げる。
「息の根を止めろよ。逃げる方向を見られたくねぇ」
 2体のジンに指示を下し、フザリーは集落の外へと歩いていく。地面に倒れたうさぎてゃんやデイジーには、もはや一目も落としはしない。
 フザリーの命令を受けたジンは、倒れた2人へ執拗に殴打を加え始めた。肉を打つ鈍い音が響く。その度に、飛び散った血が砂に赤黒い染みをつくる。
 けれど、しかし……。
 倒れた2人の傍を、フザリーが通り過ぎようとしたその時、それは聞こえた。
「ねぇ、どこに行くの?」
 掠れた、けれど笑うような声。
 フザリーは足元へ視線を落とす。そこには、血に濡れた顔でフザリーの脚を掴んだうさぎてゃんと、デイジーの姿。
「は? なっ……!?」
「私ちょっと頑丈ですので……貴方は絶対にここで縫い留める」
「もちろん私もよ。私たちがあなたを逃がさないの!」
 ジンの拳を浴びながら、2人はゆらりと立ち上がった。おもわず1歩、後退したフザリーの肩を、デイジーが掴む。
「死んだふりしてればいいじゃねぇかよ。まだ動けるなら、逃げりゃいい。血塗れになってまで、何を……」
 僅かに震えたフザリーの声。
 それを聞いて、デイジーは視線を鋭くした。
「私のような物を、これ以上作らせはしない」
 一方で、うさぎてゃんはさも楽し気に笑ってみせる。
「勝利の女神は必ずこちらに微笑むわ」

 暗闇の中に灯る2つの燐光は、パンジーの丸い瞳孔であった。
 猫らしい俊敏な動作で、パンジーは地を這うように疾駆。
 一息の間にジンの背後へと肉薄すると、手にした剣でその首を落とす。
 一瞬、剣が死神の持つ大鎌のように形を変えた。
「どうやらジンは皆同じ方向へ向かっている模様ですね。この先にフザリーがいるのでしょうか」
 砂と化し、崩れるジンの頭上を飛び越え小夜はパンジーの隣に並ぶ。
 暗闇の中、明かりも無しに2人は駆けた。
 戦闘の音を聞きつけ、そちらへと向かっているのだ。
「はい。これ以上の非道、神様がゆる……」
「……神?」
「あ、じゃなくって……こほん。貴方の非道、私たちが許しません」
 道中、2人は幾つもの死体を目にした。
 そのほとんどは、わけも分からないままに突然命を奪われたようだ。
 中には、辛うじて命を繋ぎ、助けを求めに外へ移動している死体もあったが……そういう者も、しかし途中で力尽きるか、ジンに襲われてしまったようだ。
 1人。
 数体のジンを屠った2人が救助に成功した人間の数だ。
「砂塵……大きく迂回して」
「えぇ、承知いたしました」
 小夜の指示を受け、パンジーは地面を蹴って跳ぶ。それに併せ、小夜もまた左方向へ進路を変えた。
 直後、先ほどまで2人が走っていた場所で小規模な砂塵が巻き起こる。
「急いでフザリーを片付けましょう」
 砂塵と化したジンを無視して、2人は集落の外れへ向かう。

●砂漠に散る
 ここへ来たなら帰さない♪
 迷子の迷子のアリスたち♪
 魅せてあげるから目を離さないで♪
 優しく、愉しい歌声だった。
 燐光に包まれ、消えていくうさぎてゃんを見下ろして、フザリーは言う。
「何なんだよ、お前ら……消えていくってのに、何、笑ってんだ? 負けたんだぞ、おい」
「ふふ。負けていないわ。言ったでしょ、勝利の女神は必ずこちらに微笑むって」
「その通りです。お前は、ここで終わりだ」
 仰向けに倒れ伏したまま、デイジーは告げた。
 じっとりとした視線をデイジーへ注ぎ、フザリーはギリと歯を食いしばる。デイジーの攻撃により、フザリーの脚は傷ついていた。
 それでは十全に走ることも叶うまい。
「だってあなたには、意思で、思いで、絆で助けてくれる仲間がいないからよ!」
 嘲るように、そう告げたうさぎてゃんの顔面を、ジンの拳が打ち抜いた。
 時をほぼ同じくして、デイジーの姿も消えていく。
 最後に一言「後は任せた」と、デイジーはそう呟いて……。
 直後、2人を倒したジンの首筋を2つの剣閃が斬り裂いた。

 うさぎてゃんとデイジーの稼いだ時間は無駄ではなかった。
 集落の外れへ駆けつけた小夜とパンジーは、2体のジンを斬り倒す。2人から僅かに遅れ、戦場へなだれ込む無数のジンを、フザリーは自身の防御へと呼ぶが間に合わない。
「ここまでです。逃がしませんよ?」
 ビシ、と指を突き付けてパンジーは告げた。
 幼い少女らしい仕草。けれど、どこかわざとらしさが滲んでいる。
 敢えて幼く作ったような声の調子に小夜は疑問を覚えたが、首を振ってその思考を追い払った。
「いえ……今やるべきは1つ。斬り続けるわ」
 HA吸収とBS回復。
 継戦能力に優れた小夜は、流れるように戦場を駆け、ジンを斬り裂き、フザリーの進路へと回り込む。
 低く身を沈め、放った刀はフザリーの右足を抉った。
 耳障りな悲鳴が響く。デイジーによって抉られた脚に追撃を受けたのだから、その痛みも膨大だろう。
 もんどりうって転げるフザリーの胸部へ向け、パンジーは鎌を振り下ろした。
「ざけんなちくしょう!!」
 地面から溢れた砂の奔流が、パンジーの鎌を食い止める。その隙にフザリーは這うようにして集落の外れに繋がれている馬の元へと向かった。
 不格好な走りだ。
 呼吸は荒く、口の端からは泡を噴いている。
 けれど、フザリーは諦めない。
 生きることを諦めない。
 虐殺。
 これから享受するであろう快楽を楽しむまでは、死んでも死にきれない。
 その想いが、フザリーの命を繋いだ。
 生き足掻くことにより稼いだ僅かな時間のうちに、数体のジンが追い付いたのだ。巻き起こした砂塵により小夜とパンジーの進路を阻む。
 数メートル。
 馬までの距離だ。
 その程度なら、まだ走れる。
 手を伸ばせば、馬の手綱に届く。
 その寸前……。
「喰らいなさい。このミセバヤの華麗な剣を!」
 どこか遠くから飛来した1匹の兎……ミセバヤの刀がフザリーの背を貫いた。

 視界を埋めるジンの群れ。
 それに襲われる小夜とパンジーは、思うように動けないでいるようだ。けれど、2人がジンの注意を引いてくれているからこそ、それは叶った。
「道を切り開くよぉ」
 盾を構えたホワイティが、ジンの最中へ駆けていく。
 1体、2体と不意打ち気味にジンを盾で薙ぎ払ったホワイティ。その後ろに続くヨシカが、さらに1体のジンを斬った。
 赤い光を放つユウドーブレードをまっすぐ前方へと伸ばし、ヨシカは叫んだ。
「前方、安全確認ヨシ!!」
 ヨシカの合図を受けたチヒロは、片手でミセバヤの身体を持ち上げる。
 カクカクとした奇妙な動作で体を捻り、腰を落として力を溜める。
「ちょ、まっ」
「仕上がってるよ! 仕上がってるよ!」
 力の充填が終わったのだろう。
 身体のバネを全開し、砲丸投げの要領でチヒロはミセバヤの身体を投げた。常人離れした膂力を発揮した代償は、しばらく続く筋肉痛だ。
「はいズドーン!」
「じ、自分の安全が確保されてないんですがそれはぁぁああああ!!」
 悲鳴のような抗議の言葉を響かせて、ミセバヤは飛んだ。
 彼がフザリーを討ち倒すのは、それから数秒後のことである。

「お前の敗因はひとつ! 筋トレを怠った事だ!」
 チヒロの言葉は、フザリーの耳に届かない。
 フザリーが倒れるのと同時に、ジンたちも既に崩れ去った。
 その身に捕らわれていたであろう生贄たちの魂もきっと……。
 夜明けの光に導かれ、あるべき場所へと還っていったに違いない。

成否

成功

MVP

ミセバヤ(p3x008870)
ウサ侍

状態異常

デイジー・ベル(p3x008384)[死亡]
Error Lady
三月うさぎてゃん(p3x008551)[死亡]
友に捧げた護曲

あとがき

お疲れ様です。
フザリーは討伐され、ジンは消え去りました。
依頼は成功となります。

この度はご参加ありがとうございました。
悪辣フザリーとの戦い、お楽しみいただけたなら幸いです。

縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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