PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<R>正しさよりも尊さよりも

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 練達。セフィロトの塔を背景にしたハイウェイの真上で二人の少年が激突していた。
「そこをどけよ、『赤いの』!」
 魔獣のごとき翼を羽ばたかせ、風を切り裂いて迫るキメラの少年イペタム。
 彼の鋭い魔爪が繰り出された先へ、チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)は炎の剣を打ち込んだ。
 衝突のインパクトで両者はがちりと停止するが、いずれも譲ることなく至近距離でにらみ合う。
「お前らのいう『ログイン装置』とやらをよこせ。ROOとかいう装置を!」
「やめてよイペタム! そんなの無理だ、装置だけ持っていったって意味ないだろ!」
 剣に搭載された魔法のオーブから熱風が吹き荒れ、イペタムを激しく吹き飛ばす。
 しかしイペタムは肉体に宿した魔獣達の力をより効率的に引き出し、暴風を我がものとした。
 かざした手のひらから空圧の砲撃を連射。
 とっさに防御姿勢をとったチャロロは派手に吹き飛び、宙を舞うもなんとか着地。ブレーキをかける。
 顔を上げるチャロロ。
 歯噛みするイペタム。
 このままでは決着がつかないと察したのか、イペタムは風を巻いて空高く舞い上がった。
「お前らの言うことなんて信じられるかよ。俺は……『あいつら』の居場所を作ってやらなきゃならないんだ」


「――というのが、先日起きた襲撃騒動の一部始終だね」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は手帳を片手にカフェの椅子に座ると、持参したコーヒータンブラーのキャップを開いた。
 白を貴重とした艶のあるタイルと木目の床。ゆったりとしたチルソウルミュージックの流れる店内には、南側一面に並んだガラスから海の風景が入ってくる。
「皆がいま受けてるProjectIDEAの復旧依頼……ROO。その噂を聞きつけた彼が、ログイン装置を奪うために単身で襲撃を仕掛けたみたいだね。
 とはいっても、一人でセフィロトに襲撃をかけるなんて無理な話だよ。それができないから『国家』として列強諸国と渡り合えてるんだしね」
 ホイップクリームいっぱいのコーヒーに口をつけると、ショウは目の前の少年チャロロに目を向けた。
 ガラス張りのテーブルをじっと見つめ、買ってきたキャラメルマキアートに手もつけていない。
「……大丈夫。彼は逃げ切ったよ。襲撃をいち早く察知したのが君でよかったよね。練達の機動部隊が出動してたらきっと……」
 多くは語らない。チャロロが彼……イペタムのことを本質的には『救いたい』と考えていることを知っていたからだ。イペタムはあまりにも人間に対して敵対的で暴力的だが、その理由が元世界で経験した虐待やキメラ改造によって植え付けられたものでもあるからだ。
「ただ、諦めてはくれてないみたいだね。もう一仕事する必要があるけど……やるかい?」

 ショウの調べによれば、イペタムはかつての遭遇後に組織を脱走。獣同然の暮らしをする中で多くの魔獣たちと心を通わせ『群れ』を形勢していたという。
「今度はこの『群れ』を率いて襲撃を仕掛けてくるだろう。今度ばかりは君一人では荷が重いから、仲間を募ることになるね。君自身が出撃できないなんてケースだって、起こりうるから」
「うん……」
 ぎゅっと拳を握り込む。あれからずっと強くなったイペタム。
 彼の暴力は決して正しくなんてない。
 けれど、彼はいま確かに、『仲間のため』に戦っていた。
「襲撃を許せば、練達の本隊が黙ってない。
 そうなる前に、オイラたちが止めるんだ」

GMコメント

●オーダー
 キメラの少年『イペタム』が、練達の重要な装置を狙って襲撃を計画しています。
 彼らの侵攻ルートであるハイウェイ上で待ち構え、襲撃前に彼らを止めることがミッションとなります。

・殺害防止ルール
 今回は作戦の性質上、相手を『戦闘不能にした状態』はイコールで『自力で逃げられる状態』とします。
 明確な意志とプレイングをもって殺害(トドメ)を行わない限り死亡せず、仮にそういう事態になっても他の仲間半数以上が承認しない限りトドメは阻止されます。

・通報防止ルール
 今回、周辺への被害(建物などの破壊)が軽微に抑えられている限り練達の機動部隊への通報はされません。
 逆に市民を大勢退去させたり明確にあちこちを破壊したりと派手に動きすぎると通報され、イペタムが逮捕または殺害されてしまうリスクが高まります。

●エネミーデータ
・イペタム
 ウォーカーのキメラ少年です。飛行能力をはじめ、波動を発射したり爪で空間を切り裂いたりといった魔術的な力を行使します。
 彼自身もやや強力な敵ユニットとして魔獣たちと共に戦います。

・魔獣たち
 種類の豊富な魔獣たちです。
 彼らは混沌原生の魔獣で、中には人語を解するタイプも少数います。
 『モンスター知識』があればその個性や攻撃性能がわかり戦闘時の出目をアップできます。(この効果は仲間に共有されるため、仲間にも微弱に効果が出ます)
 『動物疎通』があれば人語を解しないタイプの魔獣とも会話ができます。

※戦闘プレイングのお勧め
 前半は『強敵』担当、『沢山の雑魚敵』担当にわかれて動き、強敵担当はできるだけ敵に連携されないようタイマンを維持し雑魚敵担当が数を圧倒的に減らすまで粘るというスタイルがお勧めです。
 後半は『すごい強敵』相手に全員で挑む連係プレイを意識したプレイングをかけるのがお勧めです。

●イペタムの背景
 過去に一度対決しており、その時は悪しき兵器メーカー『R財団』に雇われた立場でした。
 チャロロたちに敗北した後、R財団のやり方に疑問をもち、処分されそうになったところを脱走しました。
 前世界での色々から人間嫌いをこじらせており街や国に入ることはせず獣同然の暮らしをしていたところ、魔獣たちと心を通わせるに至りいまでは『群れ』を作るようになったようです。
 今回はROOのログイン装置に目をつけ、それを奪おうと襲撃を計画した模様。しかし知識自体はかなり足りていないらしく、ログイン装置の持ち出しはできないことや持ち出したところでログインできないこと、ROOのメインフレームはそもそも持ち出せるようなものではないことをそもそも知らないようです。
 どこでそんな浅い知識を得たのか不明ですが、人間嫌いが災いして知識のアップデートはどうやらできていない模様。

参考シナリオ:『<R>キメラ青年と知られざる戦場』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/1758

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●R財団とは
 世界中にコネクションをもつ死の商人。ウォーカーを中心に構成されており世界人類を激減させることを主目的とする。
 そのため安価な武器流通の他にも様々な方法で死をばらまこうと画策している。
 https://rev1.reversion.jp/scenario/replaylist?title=%EF%BC%9C%EF%BC%B2%EF%BC%9E

  • <R>正しさよりも尊さよりも完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月11日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
ローガン・ジョージ・アリス(p3p005181)
鉄腕アリス
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)
復讐の炎
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
彼方への祈り
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)
百合花の騎士

リプレイ

●言葉はいらない
 イスルギ・ハイウェイはセフィロトへ続く舗装道路のひとつである。
 情報操作によって通行車両のない四車線道路は、どこか焼け付いた石のような匂いがした。
 まだ夏も先だというのに、人工的に調光されたドーム内の空気は蒸し暑い。
 のぼって揺れる陽炎のずっとずっと先に、こちらへ迫る魔物の一団が見えた。
 その先頭を歩く人とも魔物ともつかないその姿は、紛れもなくイペタム――『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)と同郷の少年であった。
 サイボーグとなって魔獣と戦ったチャロロと、キメラとなって人と戦うイペタム。
 それはもしかしたらお互いがなり得たかも知れない。表裏一体の姿にも思えた。
 そしてだからこそ、二人は互いの心を理解しきることはできないのだ。誰しも、『自分が正反対の人生を歩んだ場合の気持ち』なんて、想像できないものだ。
「あいつがROOを狙ってくるなんて……」
 この世界でカスタムを重ねた機煌宝剣・二式。その柄を強く握りしめる。
「止めなきゃ」
「…………」
 横にふわふわと浮いていた『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は、チャロロの横顔へ小さく振り返った。
 『倒さなきゃ』でも『殺さなきゃ』でもなく、『止めなきゃ』。
 その意図を、彼女なりに咀嚼して、そして飲み込んだ。
「チャロロさんが、助けたいとおっしゃるのでしたら……わたしも、お力に、なりますの」
「……ありがとう」
 そう返すチャロロの言葉には、確かに力があった。

 ハイウェイの中心にミニバスが一台、道路を塞ぐ壁にでもするかのように停車している。
 その窓によりかかって目を細める『正義の味方(自称)』皿倉 咲良(p3p009816)。車窓のはるか遠くより、ほんの小さく見えるのはイペタム含む魔物の軍勢であった。
 巨大な狼や黒煙を纏うゾウや、複数の獣が合成されたような獣型の魔物達。
 かつていた世界。テレビゲームの中で見たような存在が群れを成していた。
 あの頃の自分だったら、ボタンひとつで彼らを焼き払っただろうか。今の自分も、そう思えるままだろうか。
「どっちにしても、放っておくことなんて出来ないよね」
 咲良は前髪をとめたピンを今一度しっかりと止め直すと、席を立って歩き出す。
 バスを下りると『百合花の騎士』フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)が鎧を着込んでいる所だった。
 触るとすっかり熱いバスの側面に大きな盾をたてかけて、腰や肩の固定具をパチンととめていく。
 最後にワイヤーリールのついた籠手をはめ、タワーシールドを装着した。
「ROOのログイン装置はわたくし達が『無防備でいられるほど』堅牢なセキュリティに守られているはず。セフィロトを破壊するほどの軍勢でも無い限りは手を伸ばすことすら不可能ですわ」
 問われた意図を察して腕組みをする咲良。
「だよね。魔物の軍勢……といっても、私達八人で対処できる規模だもん。それも、内密に」
 ちらりとみると、バスを含むエリア内の壁面にうっすらと赤いバリアめいたものがはられていた。
 チャロロの施した保護結界だろう。この範囲内で戦闘するぶんには、街への被害も出さず『ただ珍しい格好の集団が移動した』だけで済ませることができるだろう。
 チャロロがイペタムたちを倒したり捕まえたりするのではなく、『助けたい』という意志を示したものである。
 送れてバスから降りてくる『鉄腕アリス』ローガン・ジョージ・アリス(p3p005181)。
 大柄な肉体と鋼の腕のためか、階段を踏むたびバスがわずかにぎしりと音をたてた。
「しかしなぜログイン装置を。ネットワーク関連の知識がゼロなら、ログイン装置を異世界へ移動する装置と勘違いすることもありえるのであろうか?」
 自分でつぶやいてみて、その可能性の低さに首を振った。
 ROO――ProjectIDEAは練達の国家プロジェクトである。海洋王国が絶望の青攻略を目指すのと同じくらい、世界各国が承知していることだ。情報に疎すぎる人間がうっかり勘違いすることはあっても、強硬手段に出る頃には練達のセキュリティに拘束されて然るべきだ。
 更に言えば、どうしてもROOに参加したいのなら、ラサのディルクがログインした例のように然るべき手順をふめば不可能でもないはずだ。
「『装置だけを奪う』必然性がなさすぎるのである。誰かに騙されている匂いがするのである」
 鋼の指で顎をさするローガン。イペタムの記録を見る限り、R財団という組織に軽い洗脳を受け捨て駒のように利用されていた過去がある。
「……どちらにしても奪わせられないし、イペタムが殺されるのも忍びない。此処で、止めるのである!」
 ローガンは握り拳を胸の前で打ち合わせ、フィリーネもそれに応えるように盾で地面を打ち、彼らの中心となって咲良もまた歩き出す。
「そうだよね。だって感じるんだ……あのイペタムって子も、魔獣達も『とても困ってる』って」

 迎撃準備は整った。
 イペタムたちとの距離は、およそ100メートル。いつでも戦いを始められる距離だ。
 対するは、ハイウェイへ横一列に並んだ『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)たち。
 蒸れる眼帯の内側へ小さく指をいれて整えると、アッシュはあらためて弓を持ち上げた。
 軽く、そして高級なハープのように綺麗にはった弦に指をはわせる。
「一時的に退けたとして、今日此処で誤解は解いておかねばです。
 次はわたし達が介入出来るとも限りませんから、ね」
 グル、と獣のように喉を鳴らすウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)。
 イペタムと自分を重ねてみると、彼の怒りや憎しみが解る気がした。けれどそれは重ねた場合……自分だった場合の話にすぎない。
 赤いチャロロの鎧に向けたイペタムのまなざしは、確かに殺意や怒りによるものだが……。
「だがこれは小僧(チャロロ)の物語だ。イペタムを信じ救いたいというのなら、我はその道を示してやるだけだな」
「まずは彼らに、ROOははぐれ者達の安息の地とはなり得ないものだと解ってもらう必要があるでしょうか」
 祈りの姿勢をとったまま目を閉じていた『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)が、うっすらと目を開く。
「もっとも、それを伝えられるのは言葉でも理屈でもないのでしょうね」
「ああ」
 ロックとアッシュが、ほぼ同時に頷いた。
「心通わぬなら、言葉は雑音に過ぎない」
「言葉でなく心でわかり合った、彼らがあるように」
 迎え撃たねばならない。
 倒すのでも、殺すのでもなく――止めるのなら。

 イペタムが、チャロロが、同時に走り出す。
 言葉でなく、心で。

●問いかけるべきだ
 巨大に変化した獣の爪と、炎を燃え上がらせたチャロロの剣がぶつかり合う。
 魔力がチェーンソーの歯のように回転し削る一方、イペタムの爪もまた魔力を高速振動させてその刃を砕いていく。
「また邪魔するのかよ、『赤いの』!」
「話を聞いてもらいたいとこだけど。その前にきみたちを止める必要がありそうだね」
「お前ら人間の言うことなんか信じるかよ!」
 反発し合った力によって弾かれる二人。しかしすぐさまチャロロはスラスターによって、イペタムは魔獣の翼によって再びぶつかり合っていく。
 至近距離のにらみ合い。イペタムを援護するように飛び込んだ巨大な狼が牙を剥く――が、間に滑り込んだローガンが両手でがしりと狼の両顎を押さえ込んだ。
 飛びかかる衝撃を腕力と両足の踏ん張りによってうけとめると、がりがりとアスファルトを削りながら歯を食いしばった。
「吾輩が直接引きつけられる数はわずかである! 援護を頼むである!」
「任せてください」
 眼前にピッと二本指を立てたアッシュ。指でもって一文字をひくと白銀の光が描かれ、自らを編むように矢を形勢した。
 それを弓につがえ、あえてローガンめがけて発射する。
「むんっ――!」
 飛び退こうとする狼を逆に押さえ込み、それを助けようと飛びかかる大鷲や蛇の魔獣たちをにらみつける。
 瞬間、ローガンへ突き刺さ――る寸前で矢が弾けて爆発、拡散した。不思議な軌道を描いてローガンやチャロロ以外を的確に狙って突き刺さっていく。
「このまま抵抗力を落とします。ヘイトコントロールを続けてください」
「助かるである!」
 魔獣に取り囲まれるローガン。それを援護するために次なる矢を形勢するアッシュ。
(奇異な光景ですね。
 姿かたちも何もかも違う魔獣が、こうも結束しているのは。
 此れを脅威として目をつけられてしまえば、何れは……)
 今はこうして1ダースにも満たない便利屋が通せんぼをするだけで済んでいるが、ここに練達当局の手がはいったなら、きっと彼らは残らず『駆除』されるだろう。

 翼をもった巨大トカゲが火を噴きながら飛来する。咲良は炎を交わしながら走ると、助走を付けた跳躍によって相手と同じ高さまで飛び上がった。
「魔獣だって無条件に魔法を使えるわけじゃない。ゲームとかだと――ここ!」
 大きく開いた口を馬跳びの要領でとびこえると、トカゲの首を転がり尻尾を抱くように掴んだ。
「ロック!」
「応!」
 側面から飛びかかったロックが激しいスピンをかけながら爪を繰り出しトカゲの尻尾を切り落とす。
 真空の刃によって綺麗に切断された尻尾がびちびちと暴れながら地面をはね、咲良は受け身をとりながらアスファルトを転がった。
 一方のトカゲは炎を吐き出す力を失い、むせるような動きで喉を押さえた。
 反対側から高速で迫る白馬。纏った冷気を氷塊の角に変えると、毒の粘液をまとった巨大カエルと共に襲いかかる。
 ロックは素早くターンしその二体めがけて突進。
 逆に咲良は素早く起き上がり、ターンしてきた巨大トカゲへ空手の構えをとった。
 ダメージ覚悟で自ら突っ込んだロックのダブルラリアットが氷馬と毒蛙を同時に打ち、その一方でハイキックを繰り出した咲良の靴が巨大トカゲの側頭部へとめり込む。
 鉄板仕込みのシューズによる直撃をうけたトカゲはたちまち墜落。地面を滑ってしく。
 そこへ、岩でできた巨大な蜘蛛がすさまじい勢いで突進をしかけてきた。アスファルトを打ち砕きながら加速する巨大蜘蛛。
 振り返るロック。
「おい咲良、こいつはどう料理する!」
「え!? 無理! 突っ込んできたトラック止めるくらい無理!」
「虎がなんだって!?」
 激しい足音に声をかき消されながらもなんとか防御姿勢をとる二人――の前に、地面すれすれの宙空を泳ぐようにしてノリアが飛び出してきた。
「こういう場面は、得意ですの……!」
 肩からぶつかっていったノリア。ショルダータックルというより無防備に激突したようにしか見えなかったが、とぷんと波打つ空気によってノリアのボディは守られていた。一方の巨大蜘蛛もまた、渾身の突進を止められたことに少なからず動揺しているようだ。
「耐えることで開かれる道が、あるのでしたら、よろこんで、がんばって耐えますの……!」
 意地になってノリアを殴りつけ続ける巨大蜘蛛。
 両手のひらをかざす形での防御姿勢を維持するノリアに対し、その防御を崩すことがどうにもできないでいた。
 それを援護すべく飛び込んでくる巨大ネズミ。髭から激しい放電を行うと、ノリアめがけて解き放った。
 そこへ滑り込んできたのがフィリーネである。
 タワーシールドで電撃を受け止め、ドンという衝撃と風圧が彼女の長い銀髪とドレスの裾をなびかせる。
「ノリアさん、そちらをお願いします。こっちの相手は、わたくしがしますわ!」
 攻撃をうけきった盾を振り上げると、勢いを付けたパンチのようなフォームで発射した。
 魔力噴射によって飛んでいった盾が地面に突き刺さり周囲に激しい衝撃を走らせる。
 魔獣達はそれを飛び退いて回避したが、ワイヤーによって引き戻し次なる発射の構えをとったフィリーネを無視するのは難しかったようだ。一斉にフィリーネめがけて襲いかかる。
「フィリーネさん、そのまま」
 マグタレーナはスッとフィリーネの後ろに立つと、瞑目したまま魔法の詠唱を始めた。
 黒い魔力が蛍の群れのように舞い上がったかと思うと、かざしたマグタレーナの手のひらへと収束。
 うっすらと開いた目の奥に名状しがたい力の渦があった。それもほんの一瞬のこと。手のひらから一気に解放された魔力が黒い柱と螺旋の渦になって、フィリーネへと襲いかかる魔獣達を吹き飛ばしていく。
 続けてマグタレーナは遠き異世界の唄をうたいはじめた。
 歌の魔力にあてられた魔獣達が互いに噛みつき合うが、その目にうかんだ涙をフィリーネたちは見た。
「こんな戦いが、続くべきではありません。今すぐにでも……」


 次々と倒れていく魔獣達。巨大トカゲは大きく吼えて頭を上げるも、力尽きがくりと倒れた。
「シェギー、ジーニア! くそ……!」
 イペタムは魔獣たちの名前を呼ぶと、歯がみしてチャロロをにらみつけた。
「なんでだ……なんでそんなまっすぐな顔できるんだよ! クソみたいな人間どもの私利私欲のために、こいつらを殺すのがそんなに楽しいかよ!」
「そうやって見えない誰かのせいにして……!」
 交差した斬撃が、イペタムの腕を深く切りつけていく。
 チャロロもまた大きなダメージを受けたようで、ボディの一部が小さく爆発を起こし膝をついた。
 飛び退き、巨大な岩でできた蜘蛛へと飛び乗るイペタム。
「もう少し頑張ってくれ、イワゴロー。行くぞ!」
 イペタムの呼びかけによって力を振り絞ったのか、巨大蜘蛛イワゴローは大きく吼えて全身から無数の生体ミサイルを露出、発射した。
 乱射されるミサイルの爆発の中を、ローガンとフィリーネはまっすぐ駆け抜けていった。
「とにかく最大打点をぶっ放すのである! 仲間を想う志やよし! だが、誤った道を歩もうというのなら、吾輩たちが――!」
「わたくしがお仕置きしてあげますわ、覚悟しなさい!」
 同時に飛びかかり、同時に鋼の拳とシールドピックがたたき込まれる。
(彼らが意思を疎通して、戦っているのだとして。
 其処にある思いは何なのか。
 其れが仲間の為か、友達の為か……だとしたら)
 弓に無数の魔法の矢をつがえたアッシュがそれらを一斉解放。
「尚のこと、誤解は取り除かねば、取り返しのつかないことになってしまいます」
 と同時にマグタレーナもまた黒い魔力の塊を大量に浮かべ、それらを一斉解放した。
 交差する力と力。爆発と爆発。
 傷つく仲間達の中で、ロックと咲良は同時にイワゴローへと飛びついた。
 足関節に骨のナイフをつっこみ、無理矢理破壊していく。
「きっと、イペタムさんだけでなく、魔獣たちも、居場所をなくしてしまったのでしょう。
 そして、たたかわなければそれを、とり戻せない……それは、事実でも。
 かならずしも、たたかうだけが方法だとは、かぎらないということを、見せてあげますの」
 ノリア最後のタックルが、至近距離で無数のミサイルに激突。大爆発を起こしイワゴローを転倒させた。
 転げ落ちるイペタム。
 チャロロは剣を突きつけ……そして、それを投げ捨てた。
「……きみはこの群れのことを『仲間』だと思ってるんだね。あの世界で作られた魔獣達みたいに」
「ああ、そうさ。それを殺すんだろう? お前等は」
 翼も折れ、肩から血を流しながらもこちらをにらみつけるイペタム。
 チャロロはゆっくりと首を振った。
「オイラだって」
 食いしばった歯と震え。チャロロは目尻に溜めた涙をぬぐうと、イペタムへと吼えた。
「誰かが死ぬのが、悲しくないわけじゃないじゃないか!」

●R
「そこまでで充分です」
 声が聞こえた。爆発によっておこった煙の向こうから。
 チャロロたちは振り返り、そしてイペタムもまた。
 ゆっくりと歩み寄るその人影に、チャロロは見覚えがあった。
「きみは……」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――依頼完了
 ――その後の情報によれば、イペタムと魔獣たちは戦闘後忽然と姿を消したとされています。
 ――公には彼らはチャロロたちによって排除されたと報じられていますが、その真相は伏せられたままです。

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