シナリオ詳細
星粧いの丘
オープニング
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ざあざあとリズミカルに雨が降注ぐ。天蓋のどんより雲はまだ晴れないらしい。
幻想の片隅にひっそりと存在した図書館。埃被った書架棚の中に存在した星物語の絵本。
背表紙に飾られた星々は溢れんばかりの煌めきを。宵の色から更ける朝を目指し描いた夜の物語。
――そうして、空は遠ざかったのでした。
指先でなぞり、辿った星の行方。頂きに落ちた星屑は願いを叶えて、少年少女を空へと誘うのだという。
ドラマティックな物語。心躍らし、唇に乗せるささめきごとは同じ色彩。
灰色一杯のキャンバスに、「雲よ、歩いて行って」とお願いすれば気付けば晴れ間が覗く頃、夜になれば星が屹度、見えるはず。
「いいかい? テト」
「勿論、アリスフィアは準備は出来た?」
「お弁当を持って行きましょう。リューク、とっても大変な旅になるかも!」
「アリスフィア、おにぎりの具はどうする? メルルも手伝ってよ」
「ええ……」
顔をつきあわせた五人の子供達。五人だけの『秘密の冒険』の始まりなのです。
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「助けてください!」
わあわあ、きゃあきゃあ。にゃあにゃあ、わんわん。
無数の『もふもふ』達が走り回って。喧噪の幻想の街で、手を振り上げた青年は「イレギュラーズ様ですよね!」と叫んだ。
「……何かあった、のでしょうか……」
首をこてりと傾いだ清 (p3p007087)に「そういえば先程から街が騒がしい様ですね」とコルク・テイルス・メモリクス (p3p004324)が周囲を確認する。
王都より少し離れたその街は穏やかな空気が包む片田舎。
似合わない喧噪に「どうかしましたか」と居住まいを正したヴェルグリーズ (p3p008566)が問い掛ける。
「じ、実は、子供達が――」
ロンド、テト、リュークという三人の少年とアリスフィアとメルルという二人の少女。
仲良し五人組は雨模様の空に退屈していたらしい。唇を尖らせて「つまらない」とだらける毎日。
そんな五人が図書館で見つけたのは古い星物語。
物語で語られた地形は現実の――この『カペラ』という街に酷似していた。
猫と星の街と呼ばれたカペラには沢山の猫たちと『もふもふさま』が住んでおり、それらが星の使いになるらしい。
「物語は本当だった!」「これから大冒険を始めよう!」
意気揚々、子供達は街中を探索し始める。
見つけた猫を神様の使いだと追いかけ回して、物を倒して。
宝箱をゲットするのだと勝手に邸宅に忍び込みお菓子をつまみ食い。
トラップ発見、と設置したいたずらに街の人が見事にはまって――
兎にも角にも大騒ぎの有様なのだと彼はぜいぜいと息を切らした。
何とか捕まえようにも逃げ足が速く、とてもじゃないが『やる気を出した冒険隊』には追いつけない。
「ど、どうか、とめてはくれませんか……!
悪戯は叱りますが、其れ等全てがダメだとは言いません。
あの星物語は『カペラ』に伝わる御伽噺……星屑が落ちた丘と呼ばれる『アマルテイアの丘』は実在しているんです。
――彼等には、それをしっかりと教えてやりたくて……まあ、捕まらないなら意味が無いんですが」
よければ、彼等をその地まで誘ってはくれませんか。
優しい青年に三人は顔を見合わせてから頷いた。
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がしゃん、と大きな音がする。
「アリスフィア、早く!」
「追っ手が来るぞー! 気をつけろー!」
ばたばたと走り抜けてゆく子供達。小柄な彼等は地の利を生かしてイレギュラーズから逃げてゆく。
ふわふわと綿毛のような髪を揺らしたメルルが脚を縺れさせれば、テトは小柄な彼女を背負い一気に走り往く。
子供達の中で一番に大柄でリーダー格であるテトに続き振り返ったロンドが「爆弾だ!」と鼠花火を投げた。
「怪我をさせちゃだめよ! あくまで『牽制』!」
「わーってるよ。アリスフィアは口うるさい!」
唇を尖らせたアリスフィアは大きいバスケットを手に走る。小さな体を活かして物陰に隠れたロンドは「ちぇ」と呟いた。
「あいつら、ローレットのイレギュラーズさまなんだって!」
太陽を溶かした柔らかな髪を風に揺らしたリュークはこそこそと息を潜めて。
子供達はイレギュラーズに捕まらないと走り出す。
鬼ごっこのような、かくれんぼのような、悪戯めいた逃避行。
「追いかけるのです! ふふん、敏腕情報屋のボクに掛ればこれくらいって、ふにゃっ!?」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の目の前にべちゃっと猫が飛び付いた。猫も犬も彼等に協力して悪戯ごっこ。
「む、むー! 皆で鬼ごっこを制するですよ!」
――君たちが然うして走るなら、追いかけよう。
満足した果てに、君たちが目指した星粧い(アマルテイア)の丘は存在して居るのだから。
- 星粧いの丘完了
- GM名日下部あやめ
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年06月16日 22時20分
- 参加人数6/6人
- 相談6日
- 参加費150RC
参加者 : 6 人
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参加者一覧(6人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
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「此方の世界でも小さな子供たちと出逢えるのは、物語としては嬉しゅうございますね。
此度出逢った子供達は、本を齧るような赤子ではないから、少しほっとしたり……なんて」
シトリンの眸を柔らかに細めて、コルク・テイルス・メモリクス(p3p004324)はその場所へと訪れれた。夜空の姫気味は、星々をその人身に煌めかせ、ドレスを揺らしカペラの街を見回した。助けて欲しいと乞うた街の人々は、子供達には手を焼いているらしい。
「アマルテイアの丘、カペラの街の御伽噺。……あの街と丘に関する物語は存じ上げておりますが、なるほど」
その星物語は美しいものだった。『星の救済』小金井・正純(p3p008000)は『星粧いの丘』とも呼ばれたその地の事は『星々の恵み』を受ける物語として認識していた。
「確かに、子供たちにとってはこれ以上ない大冒険になるでしょう。少しでもお手伝いをさせていただきますね」
「ああ。街に伝わる御伽噺に出てくる場所が実在している、か。素敵なお話だね。
これは確かに子供達に伝えてあげないといけないね。楽しい追いかけっこの後に……素敵な風景をご一緒させてもらおうか」
さて、子供達の相手だけでも骨が折れそうだと『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)はやる気を漲らせる。
突如背後でばちん、と何かが破裂する音が聞こえ、ヴェルグリーズとコルクは顔を見合わせた。小麦粉が宙を踊り、咳き込むパン屋の親父が「こらぁ!」と叫んでいる。「若干やりすぎな気はするが……まあ、分からんでもないさ」と頬を掻いて笑ったのは朔(p3p009861)だ。
子供達は楽しい冒険に夢を見ている。御伽噺に語られたその地は彼等にとってはまさに夢だったのだろう。
「こんなに無邪気に街の冒険……なんだか……羨ましい。……とは言っても危ない、ですから……安全に、楽しく遊びましょうっ!」
小麦粉で真っ白な顔をした子供達に手を振った『あなたを想う』清(p3p007087)に小さな少年が「やばい!」と叫んだ。逃げ出すその背中さえ、こちらの事を分かってのことのようだ。
「どんな世界であっても、子供達の傍に居られるのは――……有り難いこと、ですね」
「そうですね。さて、ユリーカさん、御協力していただけますかね? 分担して子供たちを捕まえましょう!」
にんまりと微笑んだ正純に「勿論なのです!」と大きく頷いた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)のやる気は十分だ。
「メーコたちに捕まらないようにうまく逃げられますかめぇ?」
手を振って、お洒落なブーツの踵を鳴らす。『ふわふわめぇめぇ』メーコ・メープル(p3p008206)は意気揚々と駆け出した。
楽しげに笑う声、「こっちだよ」と揶揄うような声にも心が躍り出す。楽しいばかりではない世界だから、子供達には綺麗なものを見せていたい。
天蓋を覆う星屑が、ひとつふたつと落ちてくる。星粧いの丘を目指して、『全員』で楽しむ為に――
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危険なところに行かせたくないならば、森に近付かない理由になろうとコルクは朔と共に森の入り口に立っていた。その柔らかな青髪に星のお姫様のような装いを彼女は『悪目立ち』とそう言った。好奇の視線を送ってきたのは子供達の中でも一番幼い少女メルルだろうか。
「おひめさま……」
ほら、と指さしたメルルに「だめよ」とアリスフィアは手を引いた。捕まっちゃうもの、と囁く声音は優しいくて。彼女が『お姉さん』である事がよく分かる。
気付いていないふりをして、コルクはゆっくりと立ち上がる。その動きに合わせて、朔は「お、誰かいんのかね?」と周囲を見回した。
「皆隠れるのが上手いですわね。……あら、そこに誰かいらっしゃいますの?」
「さあ、人の気配がしたよな?」
「ええ。ええ。どこからか……探しに行ってみましょうか」
「ああ。手分けして、な?」
それは『子供達に森には近付かないで』と囁くような。二人の声に慌てて街へと戻っていったアリスフィアは森だと捕まっちゃうとテトへと『伝令』した。
テトとアリスフィアは気が合うペアなのだろう。伝達能力も高く、戦略もよく組めている。森が危険だとアリスフィアが忠告したならば彼等はここまで飛び込んでは来ないだろう。
子供達を捕まえに行くのは仲間達に任せてヴェルグリーズは丘で食べる『ディナー』の準備に注力していた。子供達もお弁当をバスケットに詰めているかも知れないが、途中でおなかが空いて食べてしまう可能性だってある。
カペラの街の商店で子供達の為にお弁当を作ると声を掛ければ店主達は気前よく材料を提供してくれる。購入したい旨を告げれば、味が良ければ個人的に来て欲しいと楽しげに彼等は声を掛けてくれる。
「台所もお借りできれば……図々しいお願いで申し訳ないけれど」
「いやいや! あのワルガキ共の面倒を見て貰うんだ。好きに使ってておくれ。
調味料や材料も足りないものがあったら声を掛けてくれよ。勇者さんたち!」
楽しげに微笑んだ街の人々にとっても子供達の『事情』は識る所なのだろう。仲が良く幼馴染みとして育った彼等には『お別れ』が近付いていた。
テトとメルルの兄妹は街の商家の出であるらしい。街で学び、家を継ぐ事になるのだろう。彼等はこの街で産まれ、育って、過していく人間だ。
リュークはイレギュラーズに憧れている。故に、彼は冒険の旅に飛び出すだろうと彼等は行った。
「ロンドは傭兵の家の子でね、大きくなる頃には仕事で街を出てくだろうさ。リュークだって、冒険者になりたいって行ってるからね。
それに、アリスフィアはカペラの領主の娘だ。この街で生きていくのは確かだが――少し事情が違ってね」
「王都の学校へ行く、と聞きました」
そう告げるヴェルグリーズに大人達は苦々しく頷いた。王都の学校へ六年間通うことになるらしい。領主の娘、貴族である彼女は社交界で夫を見つけ、この地を治める事になるだろう――と。
(ずっと一緒に――何てことが無いのは識っているけれど……其れは悲しいな。あんなにも仲が良いのに、離れ離れになるなんて……)
呟きながらサンドウィッチとおにぎり、卵焼きや唐揚げ。子供達が好きそうなものをバスケットへと詰め込んでゆく。
準備が出来たら彼等との追いかけっこを本格的に始めなければいけない。さあ、頑張らなくては――
からりからり。羊飼いの鐘を鳴らしてメーコは街を行く。子供達を探しながら移動する彼女は自身の居場所を伝えれば距離を取ると考えていた。
悪戯っ子の様に何かを投げ込んできたロンドに気付きメーコは調和を賦活へと変化させ、「そこに居るのは分かってるめぇ」と揶揄うように鐘鳴らす。
「あっ!! だめだって、もふもふ様!」
慌てるロンドの傍らからぴょこりと飛び出してきた毛玉にメーコはぱちりと瞬いた。ふわふわしていて、ふかふかで……それが何らかのモンスターで在る事は解るが、正体はよく分からない。
「もふもふ様? ……もふもふしても良いですかめぇ……」
50センチ程の大きさのもふもふ様が擦り寄ってくることを喜ぶメーコの傍らでやる気に満ち溢れた正純が「ユリーカさん、いいですね、行きましょう!」とふわふわと浮かんでいた情報屋に司令をひとつ。
「はいなのです! 正純さんでも捕まえられるのですか?」
「ふっふっふ、天義の教会ではこれでも元気な子供たちの相手をずっとしてきた身。いくら相手が沢山いるからとはいえそう簡単に――」
走り出した子供達。正純が追いかけるロンドの逃げる速度は凄まじい。メーコの腕から飛び降りたもふもふ様は何かをするようにお尻――と思わしき辺りを――ふりふりと降り続ける。
「あれっ? ちょっ、思ったより元気いっぱいでは!? もふもふも襲いかかってくる!?」
勢いよくもふもふに埋もれていく正純を見て清はごくり、と息を飲む。
「ほえぇ……皆様早いのです……でも私も……負けませんよ! ――あっ! だめ、そっちは危ないです!!」
森へと向かおうとしたリュークの手を握れば「勇者さまにつかまったぁ!」と彼は楽しげに笑う。メルルも転んでしまったのだろう、驚いた様な顔でユリーカに抱き抱えられていた。
「……ぜーはー、ぜーはー。と、とりあえず最低限は捕まえないと……。
男の子は経験上ぎゅっとすれば簡単に捕まります。女の子は優しくですね。さあ、覚悟――!」
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「よう、捕まっちまったな?」
揶揄うように笑った朔は菓子に釣られて来たロンドを待ち構えていた。後ろで正純が青い顔をしているのと気付き「してやられたな」と小さく笑う。
道標のように設置した菓子に釣られてやって来た少年と正純。まるでヘンゼルとグレーテルのようである。
此処で疲れてしまってはいけない、と。朔は「行こうぜ」とロンドを手招いた。
「甘いもの、美味しいもの。沢山用意しておきましたから、皆で向こうで休みましょうね」
鬼ごっこはこれでおしまい、と微笑んだコルクに完敗だと悔しがるロンドが「アリスフィアがあの時、振り返るから」とぶつぶつと言っている。
「どこに行くんですか? 大人達も皆さんに協力してたけど」
ぶっきらぼうながらも此方を警戒するテトに清は「星物語の伝承が残る丘がある……と、聞いたのですが……」とおずおずと口を開く。
「そう! そうなの!」
瞳を輝かすメルルに「メルル、お姉さんが驚いているから」とアリスフィアが窘める。清と手を繋いで居たリュークは「お姉さんはしらないの?」と首を傾いだ。
「はい。お姉さん、も……興味があり、ます……! 此れから行くのも御伽噺の……丘、なんですよね……。
いいな……私もそんなお話がある街に住んでみたいです……! 皆様は……とっても素敵な街に住んでいるのですね!」
その言葉に自慢げに微笑んだアリスフィア。「アリスのお父さんとお母さんが治めてる街なんだ」と微笑んだテトは何処か寂しげだ。
「ロンドさん、逸れないように手を繋いで貰っても? アマルテイアの丘は私達初めてですし」
正純が『お願い』すると彼は仕方ないなあと微笑んで彼女の手を引いた。もふもふ様を抱えるメーコに「落すなよ」と告げる彼は悪戯っ子だが心優しいのだろう。
「如何した、メルル。疲れたのか? ほら、あともうちょっとだぜ」
掴まれよ、とランプを揺らした朔は小さな少女をおぶってやる。支えるアリスフィアに「逸れませんように」とコルクは手を差し伸べた。
星々の元へと辿り着いたならばレジャーシートを引いて食事を楽しもうと提案するヴェルグリーズに「唐揚げはある?」とリュークが楽しげに微笑む。
「ああ、皆の好きなものは用意しておいたよ。これからは、悪戯はあんまりしないようにね」
「そうだな! 正純もぜえぜえ言ってたし」
呼び捨てですか、と正純が唇を尖らせばリュークはけらけらと笑った。幼い彼の様子を見て「凄い逃げっぷりでしためぇ」とメーコは大きく頷いた。
「だろ? だって、おれは大きくなったらお前等みたいに悪い奴等を倒すんだぜ!」
そんな決意を胸にした彼に「素敵、ですね」と清は小さく頷いた。
「あ、丘につきましたよ! 一緒に行きましょう!」
清が指さして、手を繋いだまま子供達と丘を登る。月が顔を覗かせて星々が降注ぐ。射干玉の空に飾られたのは小さな光の粒。
鮮やかな其れを眸に映してテトとアリスフィアは「わあ」と呟いた。そんな彼等の横顔を見詰めるだけで嬉しくてヴェルグリーズは小さく笑う。
「ほら、ご覧になって」
手招くコルクにおずおずと顔を上げたメルルは「すごい」と朔の背から落ちそうな勢いでぐんと手を伸ばす。
「おにいさんの背中から、お空にとどきそう!」
澄んだ空から落ちる星屑を、白き花々が彩を返す。アマルテイアの丘の伝承は『あった』のだと思わせてくれるようなその空間。
晴れ渡った空の下、レジャーシートを広げれば、光の海での食事なんてロマンチックだとアリスフィアはうっとりとしたように微笑んだ。
妹の為に冒険を思い立ったテト。これが最後の冒険のアリスフィア。
悪戯っ子でやんちゃなロンド。私達を慕ってくれるリューク。
小さな身体で沢山頑張ったメルル、それから、猫に犬に、もふもふさん――
コルクがひとり、ひとりと指さした。此れが最後の冒険となる事を思い出したようにアリスフィアは唇を噛んだ。
「さいごなんて、さみしい」
小さく、呟かれたその言葉に正純は「大丈夫ですよ」と微笑んだ。流れ落ちた星に願いを込めるように、正純は少女の手をそっと握る。
「今日見た星は、あなた達にとって大切な思い出になるでしょう。
……互いに離れても、何年経っても、空を見ればきっと今日の日を思い出せる。大切な宝物になるといいですね」
「大事な思い出は決して色褪せないでずうっと心の中に残りますめぇ。だから、今日を素敵な思い出にしましょうめぇ」
ほら、とメーコが指させば。流星が落ちると共に花々が光を放つ。月の光を返した真白の花。「きれい」と呟いた小さなメルルに朔は「御伽噺ってのは詳しいのか?」と問うた。
「もちろん。おにいさんは? おはなし、しらないの? メルルがおしえてあげようか……?」
「ああ。あんたらが呼んだって本の話、聞かせちゃくれねえか? 実はよく知らないんでな。きっとここで聞く物語は、心地よいものだろうしな」
くしゃり、とメルルの柔らかな髪を撫でれば、彼女は満足げにリュックから本を取り出した。読み込まれた本を手に、朔の傍らで「むかし、むかし」と読み上げる。
「幻想にも……沢山の物語がある、のですね……とても、素敵です!」
清はメルルが辿々しく語る物語に月色の瞳をきらりと輝かせた。銀月が零れるように、眸に僅かに滲んだのは父への思い。
(父様に見つかるのが怖くて離れた領地を取ってしまったけれど……でもここには大好きな人も、いる……ここに、戻ってきてみようかな…戻ってきても、いい、でしょうか……)
それでも、大好きで大切な人の傍に居られるだけの決意が、この星を見れば得られる気がして。
自慢げなロンドは「幻想王国はとーっても凄いんだぞ」と快活な笑みを浮かべて見せた。幼い子供達が手を伸ばし、星を掴もうとするその姿。
愛らしくて、どこか、可笑しくて。そんな様子を眺めていたヴェルグリーズの傍らにテトはどかりと腰を下ろした。
星々の光に、丘の上で食べたディナーが腹を満たして。テトは「有難う」とぽつりと呟いた。
「アリスフィアはもうすぐ遠くの学校に通うことになってるんだ。メルルはアリスフィアが好きだから、最後に思い出を残してやりたかった。
それにロンドだって、悪戯っ子だけど本当はアリスフィアが大好きなんだ。リュークは、皆に憧れてたし……」
「そっか……テトは優しいね。おにいさんだ」
そんなことないと首を振った少年は星に手を伸ばす。あの星を掴めたなら――なんて逸話が残っているけれど。
星々に触れること何て出来ないと識っている。真白の指先は宙を掻いて降ろされる。そんなことに願ったってアリスフィアは王都の学校に行く。これが――さいごの冒険だから。
「……思い出を有難う」
微笑んだ少年を呼ぶ友人の声。彼は立ち上がって朔の傍で物語を読み終えてご満悦なメルルの元へと走って行った。
「貴方達の物語は、これからも続くことでしょう――まずは、ひとつ。今宵の噺を、頁に刻みましょう」
コルクの囁きの通り。今宵の噺は大切に頁へと刻み込んで。
はしゃぎ疲れた帰り道、ヴェルグリーズは子供を背負って目を伏せる。どうか、美しい星の夢を見て、今宵は楽しかったと思い出に残していて――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
部分リクエストをお送り致しました。
とっても素敵な『おやすみ』をありがとうございました。子供達にとっても素敵な思い出になったかと思います。
彼等は大きくなって別々の道を辿ることになるでしょうが、また、このカペラの街でお会いできることを願っております。
GMコメント
部分リクエスト有難うございます。日下部あやめです。
●目標
・子供達を危険な目にあわせず遊び相手になってあげる。
・アマルテイアの丘へと彼等を連れて行ってあげる。
リクエストシナリオですので報酬はnormal相応ですが、シナリオ難易度はEasyに該当します。
楽しく子供達を捕まえに行きましょう。
●カペラの街
星物語が御伽噺として残っている幻想の街。片田舎ですが其れなりの広さがあります。
近場の森にはモンスターが存在して居るため、其処には出て行かぬようにと注意を払ってあげてください。
家屋が並んだ地帯では子供達は物陰に潜んだり逃げ回ったり……。
余り早く使えてしまうと冒険心をぽっきりとしてしまうので適度に遊び相手になってあげてください。
●アマルテイアの丘
星装いの丘。星屑が落ちてくると御伽噺に書かれた丘。月の光を受けて、丘に群生する花がきらきらと輝く様子をそう称したようです。
とても美しく、見る者を虜にします。
子供達との鬼ごっこを終えた後に「とっておき」のこの場所に連れてきてあげてください。
ディナーを楽しんでも良いかもしれませんね。場所の地図は予め街の人が準備してくれています。
迷うことなく連れて行ってあげれるでしょう。冒険隊にとっての最大のご褒美は「物語が本当だった」事ですから。
●冒険隊
カペラの街の子供達。地の利があり、好奇心旺盛、元気いっぱいです。
イレギュラーズの事は「勇者さま」「イレギュラーズさま」と呼びますが、悪戯心は隠しきれず翻弄し、逃げ回ります。
適度に良い距離で鬼ごっこやかくれんぼに付き合ってあげてから捕まえてあげてください。
・テト
リーダー格の少年。12歳。元気いっぱいでしっかりもの。
妹のメルルを大事にして居ます。星粧いの丘の御伽噺をメルルに見せてあげたいそうです。
・アリスフィア
12歳の少女。お弁当係。バスケットに皆のお弁当を入れて街を抜け出す冒険を楽しみにしています。
領主の娘であり、もうすぐ王都の学校に通うことになる為、此れが最後の『冒険』です。
・ロンド
悪戯っ子な11歳。アリスフィアには反発しがちで一番のお調子者です。
花火を投げたり、物を投げたり、盗ったり。悪気なくやっていますがかなりのワルガキくんです。
・リューク
10歳の少年。イレギュラーズに憧れるいたいけな少年。
いつかはイレギュラーズのように冒険がしたいと「イレギュラーズさま!」と慕ってくれます。
遊び相手ダと認識しており、イレギュラーズ様と遊んでいることを喜んでいるようです
・メルル
8歳の少女。テトの妹で小柄です。ふわふわとした綿毛のような髪を持っており、おっとりしています。
アリスフィアに憧れており、いつかは皆に頼られるすてきなおねえさんになりたいそうです。
・猫ちゃん、犬ちゃん、ふしぎな『もふもふ』様
子供達と一緒に悪戯をしています。とてもたくさん。溢れかえるほどに……。
もふもふ様はその名の通りもふもふした毛玉です。ふわふわしていて気持ちよくて。とってもすてきです。
●同行NPC
・『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)
戦闘がないのでそのまま参加してくれるそうです。宜しければ一緒に遊びましょう!
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、ほのぼのと子供達と遊んできてくださいね。
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