シナリオ詳細
吼えよ闘士ならば、と彼は言った
オープニング
●A級闘士ウェイン・アイゼンナハト
薄暗い通路を歩く、一人の男があった。
反響する足音は規則正しく、そしてどこか重い。
両開きの扉の前、男が足を止めると見知らぬ少年の姿があった。彼の手には色紙とペン。
男はかざされたそれを取ると、豪快かつ流麗な字体を走らせた。
少年に色紙を返すと、あらためて扉を両手で開く。
大人が何人も協力してやっと押し開けるよううな。重々しい鋼鉄の扉が彼一人の腕で開いていく。
その僅かな動きに、光さす向こう側よりワッとどよめきが起こる。
男は微笑むと、気を練り上げそれぞれの扉へトンッ手のひらを押し当てた。
衝撃。
爆音。
たったの一瞬で全開となりそれどころかとめがねごと吹き飛んでいく扉。
わきあがる歓声。
色紙を手にした少年はそれを大きくさしこんだ光にかかげた。
書かれた名を。
アナウンサーが大声で叫ぶ。
「ラドバウA級闘士――ウェイン・アイゼンナハトぉ!」
スチーラー鋼鉄帝国に古くより伝わる闘技場ラド・バウ。
国の中心であり、娯楽の中心でもあるここである意味中心となっているのがA級ランクマッチである。
数多くのランク戦が行われるこの闘技界においてS級は王や軍団長といった特別な地位のもの。彼らの対戦は実現しない夢のカードである。そのため実質的な最高ランク戦はA級戦であり、観客たちが最高の歓声を送るのもまた彼らだ。
顔やサインの書かれたTシャツが飛ぶように売れ、オリジナルのポップコーンケースが売れ、コスプレイヤーが集まり、名前をタトゥーにしたファンが名前のプリントされたカラータオルを振り回す。A級闘士とはそんなスター選手たちなのだ。
光に満ちた世界。だが光が強ければまたさす影も生まれるもの。A級戦を対象にした闘技賭博問題に、いまこのラドバウはさらされていた。
「八百長はしない。全力で戦い全力で勝敗を決める。それこそがファイターの誇りだ」
ある日の夜。鉄帝鋼街の裏通り。
背を丸めた眼帯男を前に、ウェインは両手を腰に当て堂々と胸を張った。
「ドレッドもそれは望まないはずだ。奴とはデビュー当時からのライバル。この試合を汚すことは許さない」
「……ま、アンタはそういうだろうさ」
眼帯男はペッとツバを路上に吐き捨てると、片手をかざし合図を出した。
すると余裕そうな笑みを浮かべた男たちがぞろぞろと現れ、周囲をとりかこみはじめる。
「俺はアンタみてぇな真面目野郎はキライじゃあないぜ? けどあんたが次の試合で負けてくれりゃあ大金が入るやつが大勢いるのさ。俺も、こいつらもそうだ」
「闘技賭博か。下卑た真似を……!」
嫌悪と怒りをあらわにするウェイン。
「アンタにゃ二三日寝てもらって、その間ソックリな替え玉でも出場させておくとするさ。抵抗は……しないほうが怪我が少ないぜぇ? なあ、降参しないか?」
にんまりと眼帯男は笑い。
ウェインは、合気道の構えをとった。
「愚問」
●ありえなかった歴史のはなし
――というのが、仮想世界ネクストのなかで起きた。もとい起きている事件である。
「ウェイン……か」
謎の女、ナギ(p3x008363)は情報屋の話を聞いて小さくつぶやいた。
ここは練達セフィロトネットワーク内に構築された仮想世界ネクスト。Project:IDEAの産物であり、不明なバグによって歪んでしまった世界である。
当時ログイン中だった研究員たちの意識がバグに飲み込まれ、その救出のために特定の『クエスト』を達成しなければならず、ナギたちローレット・イレギュラーズはアバターを作りこうしてログインしているのだ。
多くのイレギュラーズは自らのアバターを明かし活動するが、中にはナギのようにその正体を明かさずに活動するものもいる。それでもいい。味方であることが証明されていれば、それで良いのだ。
「で、クエスト内容は? ここまで説明したなら、ウェインの救出か何かなのだろうが……」
ナギは目の奥に不思議な光を燃やしながらも、木目の壁によりかかり情報屋に問いかける。
酒場のテーブルによりかかった情報屋は、手をかざして続けた。
「半分正解。クエストの達成条件は、『ウェインが次の試合に出場すること』だ。
そのためには闇討ちされそうになっているウェインを救出し、なおかつ急いで闘技場まで彼を送り届けなくてはならない。方法は任せるがね……」
ウェインとてA級闘士。そう簡単に死にはしないが……。
「あー、いい忘れてた。ウェイン・アイゼンナハトってのは現実(混沌側)にも実在する闘士だが、ずっと前に同様の事件で命を落としてる。バグによって戦闘力やら細部の状況うやらが歪んではいるだろうが、このまま放っておけばおそらく同じことになるだろうよ」
闇闘士たちを一人か二人倒すことはできても、数で圧倒されれば勝ち目はない。眠るどころか、彼は命を落とすだろうと……。
「この世界で彼を助けたって歴史は変わらないさ。けど、何かは変わるかもな。例えば、これからの未来とか?」
挑発するように言う情報屋に、ナギはフンと無感情そうに顔をそむけた。
- 吼えよ闘士ならば、と彼は言った完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年06月08日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●カーテンコールは十年前に
鋼鉄(スチーラー)の大通り。アーケード街にはポスターが連なって並んでいた。
ドレッドVSウェインの対戦カードが、近々行われるラドバウでのメイン試合となる。みなその時を心待ちにしているかのように、どこか街は浮かれた様子をしている。
中でもひときわ盛り上がりを見せていたのが、大通りにあるファーストフードショップのウェインバーガーである。
「……」
チーズバーガーを囓るナギ(p3x008363)。
まず広がるのはパティのあえて荒々しい挽肉の風味と食感。それをしっかりと受け止めるチェダーチーズの風味と醤油ベースのソースとタマネギペースト。これは悪くない、と上唇を舐めるナギ。
横で細長くカリッとしたフライドポテトをつまみ、『Dirty Angel』ニアサー(p3x000323)はそれをぴんと立てて見せた。
「替え玉試合を企むなんて、とっても愚かだよ。
だってそうだろう? 面白い試合を見に来てるのに面白くないんだ。誰も楽しくないよね。ゲームは楽しまなきゃ意味がないよ」
そして、つまらなくする手合いを叩きのめすのが最高に楽しく感じられるんだ。
ニアサーのそんな語りに、ポテトを一本奪い取る形で同意したスキュリオラス・ド・スコタコス。
「小銭のために随分とつまらない諍いをするものね、地上人というのは。ぜんぜんまったく、きょうみなんかないけれど?」
「そんなこと言って、今回は『例のオプション』に乗り気だったじゃないか」
ハニーソースのしみこんだマフィンバーガーを頬張る『ホシガリ』ロード(p3x000788)。
「それにしても……知りたくなかったな、闘技賭博があったなんて。今もあるのかな」
「さあ。悪は誰の心にだってあるもの。消すことなんてできないわ」
それはそれとして、とフライドポテトをくわえてスキュリオラスは笑顔を作った。
「混沌世界で実現しなかったドリームマッチを実現させるっていうのはいいわね。
このスキュリオラス様が特別に手を貸してあげるわ!」
「本来の混沌でなら、試合に行けずに死んじゃってた筈の人を助けて、試合に行かずに逃げ出しちゃった人を奮い立たせて……」
フィッシュフライを挟んだハンバーガーを見下ろして、『硝子色の煌めき』ザミエラ(p3x000787)はゆっくりと息を吸い込んだ。
白身魚とふんわりとした植物油の香りがする。
「違う世界だけど、一応歴史を変えるってことにはなるのかな?
うん、いいね、そういうの! あり得なかった未来が作れるなんて、ワクワクしちゃう♪」
「ああ……もしも、があるのはいいことかもしれねぇな」
『死神の過去』ミーナ・シルバー(p3x005003)はケチャップのついた親指を舌先でなめて、目を細めた。
変えられない過去があって、救えない人がいた。
けれど自分たちには記憶があって、記録した人がいた。
それはもしかしたら、『それで終わり』ではないからなのかもしれない。
見つめ直すには、きっと良い機会だ。
自分にだって、そんな『もしも』があったかもしれないと考えられる。
空想で過去が変わったりしないけど、もしかしたら今と未来は変わるかも知れないから。
「ですねっ。ドリームマッチを成立させちゃいましょう♪」
にっこりと笑って、テーブルわきに立てかけた傘に手をかける『傘の天使』アカネ(p3x007217)。
先に行って居るぞと席を立ったナギに、『カニ』Ignat(p3x002377)が振り返った。
六本足のまるっこいロボットではあるが。目(?)をちかちかと点滅させてハサミ型のアームをかざす。
「こっちはこっちで頑張るよ。けど『そっち』が安全だとは限らないから、気をつけてね」
「……ああ」
行ってくる。そう言って手を振ったナギに、Ignatもまた手を振った。
●IF
合気道の構えをとるウェイン。
流石に多勢に無勢かと思われた、その時。
「邪魔するよ」
しゃらんという抜刀の音と同時に、空を駆けるロード。
豪速で迫る彼の斬撃が、咄嗟に振り向いた侍風の闇闘士を襲った。
刀がぶつかりあい、反撃にと繰り出された闇闘士のスイングは反転ジャンプから急速に飛び退いたロードによってかわされた。
糸目を僅かに開く侍風闇闘士。
「邪魔が入ったか。だが一人増えたところで――」
「残念だが、一人じゃあない」
真上。太陽にかかるように開いた翼の影が急降下をしかけ、ミーナがウェインのすぐ隣へと着地した。
ウェインは構えを解くことなく、しかし敵意はむけずにミーナへと問いかける。
「誰だあんた。奴らの仲間にゃあ見えないが」
「さあ、なんなんだろうな」
闇闘士から飛んできたクナイをナイフでたたき落とすと、ミーナは彼らへと構えた。
「あんたには大切な試合があるんだろ? こいつらは私達が引き受けるさ。さっさと行きな」
「いい目をしてる」
ウェインは低く唸って、戦闘の構えをあえて解いた。
「あんたになら任せてよさそうだ。あとで好きなもん奢るぜ」
「そりゃあいい」
走り出すウェイン。その行く手を阻もうと剣やトンファーを手に取る闇闘士たちだが、物陰から飛び出したニアサーのハイキックが一人を蹴り倒し、さらなるさらなるトゥーキックがもう一人を蹴り飛ばす。
その動きから流れるように刀を抜くと、闇闘士たちへと睨みをきかせる。
「あなた達の悪行も、ここまでだね!」
「は~い、お取り込み中にごめんなさいね? A級闘士のウェインさん、試合場で対戦相手と観客の皆さんがお待ちなので、超特急でお連れさせてもらうわね!」
「白線の内側にお下がりください、ってね!」
バイクでおもむろに突っ込んでくるザミエラとスキュリオラス。
スキュリオラスは腕を巨大なタコのそれに変えると、周囲の闇闘士を強引になぎ払った。
「善も悪も急いだほうが勝ち、説明が足りなきゃ移動中になさい! ほらほら急ぐ、バショウカジキのように!」
しゅるんと腕を元の形状に戻すと、赤いバイクのタンデムシートを指さす。
ウェインがそこへ飛び乗ると、逃げ道を開くかのように前方の闇闘士たちめがけてザミエラがパチンとフィンガースナップを放った。キラキラとした粒子が舞い、激しい連続爆発と煙が巻き起こる。
咄嗟に防御した闇闘士たちの間を駆け抜ける赤いバイク。
巨漢の闇闘士がハンマーを振りかざし立ち塞がるも、そこへIgnatが乱入。
「道を空けてくれないかな? ダメ? じゃあ吹っ飛ばすね! FIRE IN THE HOLE!」
球体のボディとカニアームをそれぞれパカッと開くと露出させたレンズから蟹光線(カニビーム)を発射。
巨漢を貫いたビームが更に向こうの闇闘士たちをも吹き飛ばし、強引に開いた道をバイクが駆け抜けていく。
「くそっ、逃がすか!」
ゴーグルをかけた飛行種の闇闘士が跳躍。即座に翼を広げて急加速をかける――も、別方向から超高速で突っ込んできたアカネのアンブレラバッシュが炸裂。
あまりの衝撃に飛行種闇闘士は吹き飛び、屋根を飛び越えて回転しながら建物の裏手へと転落していく。
ちらりと見上げると、同じような飛行種闇闘士やガンマン風の闘士たちがこちらを追うべく馬やバイクに飛び乗っている。
「これは、空も安全じゃなさそうですね」
なら予定通り併走してお守りするだけです、とアカネは翼を大きく広げてスキュリオラスのバイクを追った。
●
「こちとら逃げるのは得意なのよ。逃げるが勝ち、勝てば官軍ブリスズキよ!」
アクセルをひねり加速するスキュリオラス。うなりを上げるエンジン音に、複数の黒いバイクがエンジン音を重ねていった。
ウェインが闘技場へ到達することを阻もうとする闇闘士たちである。
が、屋根から飛び出してきたミーナとアカネが跳び蹴りによって追跡者のひとりを蹴り落とす。
素早くターンし、さらなる後続のバイクへと構えた。
「言っただろ? 追わせねぇってよ。さあ、次はどいつだ?」
「ミーナさん、足止めはお任せしますね!」
倒れたバイクを奪って立て直し、その場を走り去るアカネ。
対するミーナは頷き、突っ込んでくるバイクへまっすぐに対抗した。
バイクに跨がった闇闘士は銃を抜いて発砲。ミーナはそれを紙一重で回避すると、跳躍から翼を鋭く羽ばたかせて前方へと加速。
振り抜いたナイフが闇闘士の首筋を切り裂いていく。
脱力した闇闘士がバイクから転落し、操縦者を失ったバイクもまた近くの建物へと突っ込んでいく。
一方バイクに跨がったアカネは開いた傘を盾代わりにして側面から魔術砲撃を防御。スキュリオラスのバイクを保護する。
「連中も諦めるつもりはないらしいな……」
ウェインは砲撃を続ける魔術師風闇闘士の顔をのぞき見て、小さくため息をついた。
「妨害があかるみに出れば彼らの立場も失墜する。最大の証人である俺を消したがるのは当然か」
「ま、引き受けた以上は安全が確認できるまで付き添うわよ。
ここまでお膳立てしたんだもの、半端な戦いなんて見せたら承知しないわよ!
輝くなら思いっきり輝いてきなさい! ホタルイカのように!」
ビッと親指を立てるスキュリオラスに、ウェインは苦笑を返した。
「はじめからそのつもりだ。奴との対決は……誰にも穢させはしない」
そこへ新たな追跡者たちが現れた。
数頭だてで猛烈に走る馬車と、その御者席で拳銃を構える闇闘士である。
もちろん馬車の中にはぎっしりと闇闘士たちが乗り込み、こちらへ飛び移る準備を整えている。
「あれに群がられたら流石にキツいわね……けど、大丈夫!」
スキュリオラスがヒュウと強く口笛をふくと、十字路の左右から合流する形でザミエラとロードが出現。跨がった馬を器用に操り、馬車を両サイドからサンド。
「ここから先は通せんぼよ! どうしても進みたければ、私達の屍を超えていけ、ってね」
ザミエラは馬車内へと飛び込むと懐から取り出した複数の手榴弾のピンをまとめて抜いた。
「うおお……!」
目を見開き、彼女を蹴り出そうとする闇闘士たち。が、それを阻むロードが闇闘士たちを蹴りつける。
直後、爆発。
横転する馬車と投げ出される御者。
かろうじて生き残った闇闘士が馬車から這い出て追跡手段を探そうとするが、すらりと抜刀する音で振り返った。
ロードである。
闇闘士は……茶色いロングコートの内側から拳銃を抜くとウェスタンハットのつばを指で上げた。
サングラスを指で摘まみ、ぽいっと放り投げるロード。
「まさか、ガキから逃げるわけねぇよな?」
「年齢を盾にするヤツは嫌いだ」
そう言いながらも闇闘士は――素早く射撃。と同時にまっすぐ突っ込んでいたロードは刀を振り抜き、闇闘士の手首から先を切断。
勝った、と思った瞬間闇闘士は口をあんぐりと開いて喉の奥からビーム発射レンズを出現させた。
至近距離。飛び退こうとしたロードの腕を掴む闇闘士。
だがその刹那、ピンの抜けた手榴弾が回転しながら彼らの間へと飛び込んできた。闇闘士の目に反射して見える、ザミエラの『ばきゅん☆』というジェスチャー。
ラドバウへ向かうバイクを、複数のバイクが追跡している。
はじめの集団はまいたようだが、向かう先が知れているだけあって用意されていた別のチームが追跡にかかっているらしい。
両サイドの道から合流してくるニアサーとIgnat。
Ignatはいつのまにか女性型のボディに変化しバイクに跨がっている。
「女性型のアバターは胸とか腰とかバランスにまだ慣れないなぁ。こればかりは走りながら慣れるしかないところだね!」
「それはいいけど、こいつらを追い払わないと安全に会場に到達できそうにないよ」
ニアサーは大通りを走りながらかすめ取るようにポールをキャッチすると、くるりと回して後方へ投擲。更に開いた手のひらから発光する無数の球雷を発射した。
それらに直撃して転倒。バイクごと路上を滑っていく追跡者たちを振り返り、Ignatは姿勢を整えた。
別の追跡車が側面へと追いつき、抜いた拳銃で発砲。Ignatは背中に保持していたソードビットを重ねるように展開して防御すると、『仕方ないか』とつぶやいてバイクからぴょんと飛び上がった。
瞬間、光に包まれたIgnatは鋼鉄のカニ型マシンへと変形。背中から露出した大砲を乱射すると、追跡者へとたたき込んでいく。
そして再び女性アバターへチェンジするとソードビットをハサミ状に重ねて展開。防御をかためた追跡車をすぱんと切断していく。
ニアサーもここぞとばかりにバイクへと立ち乗りし、シートを蹴って後続の追走者めがけて跳び蹴りを繰り出した。
「ラドバウはもうすぐ。――ナギくん、後は頼んだよ!」
●もうひとつのIF
ウェイン・アイゼンナハトがラドバウに到着する、その少し前。
「どこへ行くつもりだ、殴鰐ドレッド」
裏路地からスッと現れた金髪女性ナギの呼びかけに、ザックを肩からさげていたドレッドヘアの褐色ディープシー男性がぴたりと足を止めた。
「いや――『吼龍』と呼ぶべきか?」
振り返った彼の顔を、ナギは……■■■は初めて見た。けれど、なぜだろう。前にも一度こうしてにらみ合ったことがあったような気がした。
互いに沈黙は三秒。
先に口を開いたのは、ドレッドのほうだった。
「俺はこの試合には出ない。追放なり告発なり、好きにすれば良い。アイツの名誉に泥を塗るくらいならな」
低く重厚な声。ナギはその言葉で、ドレッドの狙いを察した。
そして小さく両手を上げる。
「勘違いしているようだが、私はあの闘技賭博組織どもとは無関係だ。連中の敵だ、と行った方が適切だな。今、仲間がウェイン・アイゼンナハトをラドバウに送っている所だ」
対するドレッドの方は息をついて、首を横に振った。
「そういうことか。驚かせるな」
ドレッドはそうとだけ言って、そして再び歩き出した。
回り込むように立ち、そして立ちはだかるように両手を下ろすナギ。
「それでも変わらん。俺は出場しない。誰もこんな試合を望んじゃいないさ。『伝説殺し』がウェインのランクアップ戦を邪魔する所なんざ、な」
「本当にそれでいいのか?」
「他人のお前に分かるかよ」
ナギを押しのけて進もうとするドレッド。すれ違うその時、ナギはこう言った。
「『お前を倒してこそ、本当の伝説になれる』……だったか?」
「……」
それはどんな言葉よりも、ドレッドの足を。そして呼吸を止めた。
そして。
振り向きざま。
ドレッドの重すぎる拳と、ナギの拳が激突した。
「戦って、伝説を作って来い」
その日、大歓声のなかである試合が幕を開けた。
ウェインVS『吼龍』。
大勢がウェインの勝ちを予想し、期待し、そんなブーイングだらけの会場に現れるドレッドヘアの男。
HAHAHAと声をあげて笑い、観客たちに堂々と中指を立てる。
「作れるもんなら作ってみろ、伝説を。そして――」
――吼えよ闘士ならば
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――クエスト完了
――研究員の救出に成功しました
――ネクスト世界においてウェインが生存しました
――ネクスト世界において闘士『吼龍』が残留しました
GMコメント
●クエスト
・成功条件:ウェインが試合に出場すること
・オプションA:■■■■が試合に出場すること
・オプションB:■■■■VSウェインが実現すること
このシナリオは救出パートとチェイスパートに別れます。
●救出パート
闇闘士たちに囲まれ絶体絶命の闘士ウェインを助け出します。
このとき闇闘士たちを全滅させる必要はありません。
なぜなら一分でも早く闘技場に向かわなくては、ウェインは試合に出場できず不戦敗となってしまうからです。(厳密にはソックリの雑魚偽闘士が出て試合を台無しにしてしまうことになります)
ですのでここは、派手に乱入して闇闘士たちを殴りつけ、包囲を開いてウェインをここから脱出させるというポイントに注力することになるでしょう。
●チェイスパート
馬やバイクにのって闘技場へ急ぎます。
闇闘士たちも同じように馬やバイクで追ってくるので、これを撃退しながら突き進むことになるでしょう。
フィールドは鋼商店街大通り。いろんな障害物や通行人がいるなかを突っ切ることになります。時には横道にそれたりチームが分断したりするかもしれません。
また場合によっては強敵を体当たりで足止めし、『ここは任せて先にいけ』をする必要が生じる場面もあるでしょう。
■■■NPC解説■■■
●ウェイン・アイゼンナハト
ラドバウA級闘士。混沌側では故人。
ローレット・イレギュラーズである夜式・十七号(p3p008363)の父であり、闘技賭博八百長問題に巻き込まれ死亡したと見られている。ただし死の真相は不明。
ネクスト内でのように、当時は古いライバルとの対決が執り行われる予定だったが、片方は試合を前に失踪し、片方は試合前に死亡してしまったため試合は中止となってしまった。これは後の大きな悲劇にもつながることになる。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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