PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ふわトラ遊園地

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ハーレクインは微笑むよ
 ふわふわの綿あめのような柔らかな髪をふたつに結んだ可愛らしい少女が現れた。
「はろ! お待たせしちゃったかなあ?」
 小さなめな身体をつま先立ちでぴょこっと立つと、揃えた手のひらをちょんと額に当てて軽く敬礼のような真似をした彼女は笑って名乗った。
「ナビゲーターをつとめます、リーナ・シーナですよん! シーナって読んで欲しいな。ヨロシクねっ!」
 跳ねるように歩くリーナはイレギュラーズたちを先導する。
 案内された幻想の森の木々はすぐに開けて、そこには色鮮やかな遊園地が現れた。

「ようこそ、ふわトラ・ソサエティーへ!
 ここは現実(リアル)なんて忘れて、この世界で楽しく幸せに遊びまくろーっていう場所だよ!
 ただし、掟は守ってね!」


●ふわトラ・ソサエティーの掟

1☆ROO外(リアル)の関係は持ち出し禁止!
2☆ROO外(リアル)の話題はしちゃダメ!
3☆ROO外(リアル)の正体を探っちゃダメ!
4☆ふわトラではROO外(リアル)をわすれる!
5☆ふわトラでは皆で仲良くしあわせになる♪


●現実を忘れて楽しむ遊園地
 心地よい青空の下、気持ちよいそよ風が時々吹き抜ける。
 明るい陽射しに照らされて、森の緑がキラキラと光って、木々に囲まれた草原の花は歌うように楽しげに揺れる。
 小鳥たちの鳴き声に混じって小さく聞こえるのはアコーディオンが奏でる陽気な音楽。そんなもの、どこにもないのに。
 そこに、おもちゃ箱から引っ張り出して並べたような、パステルカラーのアトラクションが並んでいた。
「すごいなあ……」
 ローレットの新米冒険者として、R.O.O内の探索に出かけたゴロリンは街でシーナに声をかけられてここに案内されていた。
「ここに行方不明者がいるかなって思ったんだけど、ただ遊ぶだけのクエストになりそう」
 それでも、クエスト受注してしまった以上、気持ちを切り替えるしかない。なんて、真面目ぶって自分に言い聞かせてみたけれど、見るからに楽しそうな遊園地に頬が緩んでしまう。
「……うん。面白そうだし、遊ぼう!」
 幸い、自分たち以外にも何人も客がいるようだった。
「あなた、ゴブリンなの? カッコイイね!」
「えっ、ええっ!」
 さて、何に乗ろうか──と考えていると、女の子のグループが声をかけてきた。今まで言われたことの無い言葉にびっくりして目を白黒すると女の子たちは華やかな声で笑った。
「ふふっ、せっかくだから普段と違う自分にならないとね! でも、ゴブリンは思いつかなかったなあ!」
 ──実は、ゴブリンそっくりのゴロリンの姿はゲーム外の姿そのままである。
 R.O.Oの中ではどんなアバターの姿でも思いのままだったのだが、長く周囲の人とは違う姿に鈍感だった自分と、その姿を酷く否定されて傷つけられた時にローレットの先輩たちに助けられた事件があったため、なんとなく「ふつうの人間っぽい」姿のアバターを改めて作る気になれなかったのだ。
「あの、僕、R.O.Oの外では──」
 騙しているようで心苦しくなったゴロリンは訂正しようと口を開いた、その口を押しとどめるものがある。
 シーナである。
「うあっ!?」
 いつの間に近づいたのか、シーナは笑顔でゴロリンの唇に白い掌を当てていて、びっくりしたゴロリンは思わず振り払って後退った。
「R.O.Oの外の話はここではダ~メ!」
 そういえばそんなルールもあったな、とゴロリンは遊園地の真ん中の日時計のそばに掲げられた掟の書かれた看板を見た。

「R.O.O外がどうであろうと、その話や関係性をここに持ち込まなかったらいいの! 例えゲームの外そのままの関係でも見た目でも──ただ、ここで『外』を持ち出さなければ。
 さ、キミもシーナといっしょにこの世界をリアルだと思って楽しもう!」

 女の子たちも華やかな声で嬉しそうにまた笑った。

GMコメント

●目的
仮想世界の遊園地で遊びまくろう!

●ステージ:森の中の遊園地
森に囲まれた開けた花畑に遊園地はある。
小山と滝と小さな湖があり、アトラクションのトロッコの線路がひかれている。
季節も場所も関係ない色とりどりの花が咲き蝶が飛ぶ。
様々なアトラクションがあり、ナビゲーターのシーナ以外は見えない従業員が操作・案内してくれる。

・フードコーナー
大きなタープテントの下に充分な数の椅子とテーブルが並んでいる。
置いてあるのは各種ジュースとスイーツのみで、主食となるようなものはほとんどない。
クレープと紅茶くらいだろうか……。


●アトラクション一覧

・メリーゴーランド(日中のみ)
ペガサス、馬、りす、うさぎ、馬車のファンシーな乗り物が揃っているメリーゴーランド。
スタートするとゆっくり青空を飛ぶ。

・トロッコ
森の中→洞窟の中→小山→滝の順で線路の上を走る。小山はトロッコに乗っていると結構高く感じらえる。その後、滝の上から落ちる。
水飛沫に注意(虹が出る)。
スタッフがすぐに乾かしてくれる。

・バルーンブランコ
ブランコの綱に左右四個ずつの風船が付いていて、空を飛ぶ。
風船を狙ってくる鳥がたまにいるので注意。

・ティーカップ
大きなティーカップに乗ってハンドルを回すとティーカップがぐるぐる回る。
ハンドルを回さなくても回るが、回せば回すほど早くなる。
ただし、出発すると巨大ケーキの上に到着して回り出す。
激しく回すと生クリームとかフルーツが飛んでくる(食べられます)。
飲み物はない。(遠心力を考慮すること!)

・ゴーカート
小さな荷馬車を小型の大人しいグリフォンにひかせて駆けまわる。
空も地面も走り回れる。

・空飛ぶ大観覧車(夜のみ)
全員乗ると、ライトアップされた観覧車の輪が軸を抜け出て空を飛びます。
ゴンドラはソファー以外はすべてスケルトン仕様で星空を飛んでいるかのようです。
足元の森の枝には無数のランプが吊るされていて、こちらも星のようです。


●ふわトラの掟について
1~3のROO外の関係への言及禁止ですが、
シーナの前や表立ってせずにこっそりとする分にはOKです。
4もポロっと口に出すと注意を受けるくらいです。
5に関してはネットマナー的なものだと思って下さい。
もちろん、外の世界と同じ見た目・性格のキャラクターも大丈夫です。


●NPC
・シーナ(リーナ・シーナ(p3n000029))
依頼者であり、かわいい小柄な商人の女の子
「ここでは、はじめまして! リアルの話をするのは野暮だよ~?」

・ゴロリン(p3n000031)
現実と同じゴブリンそっくりの外見をしたウォーカー。ローレットの新米冒険者。
外見こそゴブリンに似ているが、性格は心優しい先輩方に憧れる普通の少年。
「リーナさん、なんか前会った時と違うような……?」
(シナリオ『ゴブリンごろごろごんゴロリン』※読む必要はありません)
一緒に遊んでもOKですが、遊ばなくても大丈夫です。
遊園地にテンションがあがってふつうの少年のようです。

・客
他に何人もお客さんがいますが、皆それぞれ楽しんでいて他人にはあまり興味がなさそうです。




●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
……今回のミッションとは関係無いところで不正確な情報があるかもしれませんが、当依頼を楽しむぶんには些細な事です。
これによって今回の依頼で純粋に楽しんだPCが不利益を被ることはありません。

────
●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
────

R.O.O、楽しいですね!
よりいっそう夢いっぱいの遊園地で遊びましょう。
よろしくお願いします。

  • ふわトラ遊園地完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2021年06月12日 18時40分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ユグゴト・ツァン(p3x000569)
お母さん
スキャット・セプテット(p3x002941)
切れぬ絆と拭えぬ声音
九重ツルギ(p3x007105)
殉教者
アマト(p3x009185)
うさぎははねる
いりす(p3x009869)
優帝
フローレス・ロンズデーライト(p3x009875)
憧れ焦がれる輝きに

リプレイ

●ははです
 R.O.Oの行方不明者を探すためにログインした一団だったが、彼らが受けたクエストは言葉通り『遊園地で遊ぶ』だけのものであった。
「せっかくですから今日はこの遊園地でたくさん遊びましょう……!」
 『かつての実像』いりす(p3x009869)は、控えめながらも前向きな提案をした。『最高硬度の輝き』フローレス・ロンズデーライト(p3x009875)も頷く。
「ええ! 園内にこの世界の迷子の方がって思ったのですけれど、それもなさそうですしね! でも、クエストは受けてしまったのですし折角ですから楽しみましょう!」
 そんなわけで彼らはこの日最初の気持ちの切り替えを行ったのだが、違和感はすぐに訪れた。
 まず、『うさぎははねる』アマト(p3x009185)が『母胎』ユグゴト・ツァン(p3x000569)へ親しげに微笑みかけた。
「アマトは遊園地もはじめてです。嬉しいです、おかあさま」
 続いてフローレスがそんなアマトの手を取った。
「さあ! アマトもいりすも迷子にならないよう、姉たるワタクシの後をしっかりと付いてくるのですわ!」
「……え?」
 混乱するいりす。対してユグゴト・ツァンはいつも通り微笑んでいる。
 『生存カウンター4』九重ツルギ(p3x007105)が考えるように唇に手を当てた。
「これは──もしかするとアクセスファンタズムの暴発、ですか」
 悪びれず首を傾げるユグゴト・ツァン。
 彼女はすべての存在を『子供』と見做して『彼女なりに』愛する妄想癖を持ち、そのアクセスファンタズム『同一奇譚』は一定の条件で極稀に『自分をユグゴト・ツァンの子供』だと誤認させる。
 状況を飲み込むと『描く者』スキャット・セプテット(p3x002941)が声を張り上げた。
「お父様とお母様だなんて、そんな……最高すぎる!」
 驚くいりすをよそにスキャットは熱く語り出す。
「憧れていた家族との当たり前の生活! その片鱗が味わえるというのは、素晴らしいなR.O.O!」
 すでに術中に嵌っている様子を見せたフローレスも両手を広げて誘う。
「遊園地に訪れたワタクシと皆さん。家族連れで……そういう経験は、ワタクシもあまりありませんけれど、そう、そうした気分も楽しみましょう!」
「……家族、ですか……。わたしは一番下の子ども、でしょうかね……?」
 フローレスはどうやら正気を失っているわけではないと判断したいりすは、少し考えて──それを受け入れた。
「では、俺は父親役でも担いましょうか」
 ツルギが微笑むと、ユグゴト・ツァンも嬉しそうに笑い返す。
 ──ユグゴト・ツァンが父親という役割を理解したのか、ツルギを父親と言う『子供たち』だと見做したのかはわからなかったが、こうして依頼は開始された。設定も少々変わったが、それもまたこの世界の楽しみ方だろう。
「お母さんは子供の為なら何だってするのよ。さあ、遊具全制覇往くわよ!」
「皆さん、迷子にならないように楽しみましょうね」
「はい!」
 こうして、ユグゴト・ツァンとツルギ夫妻及び、スキャット、フローレス、いりす、アマトの四姉妹(?)は家族として遊園地を楽しむことになったのだった。


●シーナ
 入場ゲートを潜るとふわふわ髪の女の子が駆けて来た。依頼者のシーナだ。
「わぁい、来てくれたんだね! うっれしい~☆」
「はわ、リーナ様。現実で知っている人に出会うの、はじめてなのです」
 アマトが兎耳を揺らして嬉しそうにシーナへ近づく。
「……? !!」
 すると、シーナの笑顔がピシリと強張った。
「お客さま~? 依頼時にお話した掟を覚えてますかぁ?」
 あっと小さく声を上げて、アマトが両手を自分の小さな口に当てた。
「……むぐぐ。掟、ですね。現実のことはお話しない……おぼえました」
「よくできましたぁ! ではでは掟を守って楽しんできてくださいね~!」
「待て」
 去ろうとしたシーナをスキャットが呼び止めると、シーナは剣呑な眼差しを彼女へ向けた。
「何か不満でも?」
 しかし、スキャットは肩を竦める。
「そうじゃない、こちらの世界でとある画家がどういう評価かなって思ってね。聞かせて欲しい」
「画家? うーん、そういうのにうといシーナにはちょっとわからないですけど、そういえば今日は他にも画家さんがいらしてたから聞いてみてくださいねっ☆」
 ニコっと笑うとシーナはまた他の客の元へ駆けて行った。


●メリーゴーランド
「これはインスピレーションが湧きそうだ。さあ、乗ろう、この身は全て芸術のためにあるものだっ!」
 ゲート前のメリーゴーランドはタイミングよく並ばずに入れた。
「アマトは、うさぎさんに乗ります!」
 フローレスとツルギは白馬を選んだ。
「どれに乗ろうかな……?」
 いりすは乗り物を選ぶため待っている他の乗客たちに気付くと、慌てて手近なリスにしがみ付いた。

「さあ、参りますわよ、ダイヤモンド◇パワー!  ぶっちぎりで駆け抜けますわー……わああっ!」
 フローレスが命名したばかりの白馬に声をかけると、それらが大きく飛んだ。
「わ。メリーゴーランドって空を飛ぶものなのですね」
 目をキラキラと輝かせるアマト。空を飛び始めたメリーゴーランドに全員が驚く。
「空中散歩と洒落込みましょう」
 ペガサスに跨ったユグゴト・ツァンは甘い憧れが胸に広がった気がして目を細めた。
 彼女いわく『飾り物』の、甲殻じみた虹色の大翅はこのように飛ぶことはできない。
 微風の心地よさにツルギも身を任せる。
「俺も翼はあれど、ここまで優雅に大空を飛べる機会はありませんからね」
 更に上空ではアマトが満面の笑みで両親へ手を振っている。
 足元のパステルカラーの遊園地は甘い砂糖菓子に似ていた。


●バルーンブランコ
 バル―ンブランコは風船を結びつけたブランコで飛ぶアトラクションだ。
「あちらをお母様とご一緒しようか」
 エスコートを申し出るスキャット。
「まあ、優しい子。空飛ぶ感じだがさっきとはちょっと気色が違うな?」
 目を眇めるユグゴト・ツァン。
 いりす、フローレス、そしてスキャット、ユグゴト・ツァンの順でゆっくりブランコが浮き上がる。
「わ、わぁ……! 本当に飛んでる……!」
「ビュンビュン揺れて風も感じられて気持ち良いですわ!」
 歓声をあげる子供たちを後ろから嬉しそうに眺めてるユグゴト・ツァン。振り返ったスキャットが母に聞こえるように声を張り上げる。
「お母様、私は飛行種だ。万が一落ちたって飛べるしどうって事はな……ひゃうっ!?」
 フラグは即座に回収された。
「あの鳥もアトラクションの……、あれ……なんかこっちに……?」
 いりすが怪訝な顔をする。足元の木立から声を上げて大きな鳥たちが次々に飛び立ちブランコの風船にちょっかいをかけ始めたのだ。
「!? ま、待って! ホントに待って!!」
「あ、ちょ!? 鳥さん!? 鳥さん!? 風船をつついてはいけませんわ! 何をしますの! ぴぇ!?」
 大きく揺れるブランコに慌てたフローレスは綱にしがみ付く。
「や、やめろ!風船を割るなっ……落ちるじゃないか!」
 叫ぶスキャット。
 次々悲鳴を上げる客を質の悪いこの鳥たちはからかっているのだろう。しかし、鳥に加減はわからない。揺れるブランコの下には地面しかないように見える。
 すると、母が声を張り上げた。
「ああ、こら! 其処の鳥(こ)! 風船割らないで!!! 好い子だから大人しくしてなさい」
 お構いなしに風船を揺らしていた鳥とユグゴト・ツァンの目が静かに合う。
 偶然なのかこの地と相性が良いのか、同一奇譚は再び発動した。
「そう、一緒に楽しみましょう」
 散々な目に合ったが二度目の空の旅も終了した。
「お疲れ様。助けに行こうかと思ったけど無事で良かったです」
 よろよろと降りて来たスキャットたちをツルギが労う。
「うぅ。怖がっている間にお母様が鳥になにかしたようだ……凄いな。母は強しという事か」
 最後のブランコの軌跡をなぞるように鳥の群れが降りて来る。
 兄弟が増えた。


●ティーカップ
「あのぅ、大丈夫ですかぁ!?」
 ぴょこんと顔を出したのはシーナだ。
「ごめんね、この鳥たち最近イタズラが酷く……マジかよ」
 絵本のプリンセスよろしく、大きな鳥たちを肩や手に止まらせて愛でているユグゴト・ツァンの姿にシーナは真顔になった。
「そう、ここにいるの。じゃあ子供たち、お母さんは次に行きますからね? 無茶はしないのよ」
 鳥たちに別れを告げている彼女に近づくシーナ。
「さあ、お母さんとあっちに乗りましょうね」
「オカーサン? え??」
 次のアトラクションへ着いた。
「俺はここで待ってます。楽しんできてください」
 ケーキの上で回るそれを一目見たツルギは、少し離れたベンチに向かった。潔癖症ゆえの判断だが、座って手を振って家族を見送る姿はまさに休日のお父さんである。


 スキャットと共にティーカップに乗ったいりすは緊張していた。
「FPS酔いは経験したことはありませんが……実際の身体のことを考えると……その、あんまり回したくないんですが」
「気にするな。のんびり楽しむのもいいだろう」
 ゆったりとティーカップにもたれかかったスキャットといりすは回る景色を楽しんだ。
「でも最後にちょっとだけ……」
 もう終わり、と言う時になっていりすがハンドルに触れてスキャットの方を見る。笑ったスキャットもそれに手を置く。
「えいっ」
 ティーカップが止まった時、跳ねたクリームの欠片がどちらの頬にもついていて、ふたりは思わず笑った。

「ものの本によれば『遊園地といえばコレ。とにかく全力で回すべし!』とありましたわ!」
 フローレスの説明にドキドキしながらアマトはハンドルに手を添えた。
「ハンドルをいっぱい回すといいのですか?」
 景色がどんどん早く流れてゆくのを見ながら、二人はハンドルを回す。
「このままスピードの向こう側にも行けそうな気がいたします!」
 フローレスが笑った時だった。
 びちゃっ!
「わ、ケーキ? クリーム!?」
 回し過ぎた反動か生クリームが次から次へと飛んでくる。
「やああ!?」
「わああ」

 ユグゴト・ツァンに手を引かれたシーナは母と共にティーカップに乗っていた。
「このハンドルを回せば好いのね? ええっと、えい! ──ちょ、ちょっと早くないかしら?」
「回したのアンタ……わああッ」
 ユグゴト・ツァン、実はくそざこ三半規管である。キュウと目を回した彼女をシーナは慌てて捕まえてガクガクと揺する。無論、悪化した。
 両者の手を離れたハンドルが自由にぐらんぐらん回ってティーカップは深くケーキを削り始めた。
「あっ……クリームが! クリームが貌に!!!」
「オカーサン!?」



 アマトたちがシーナと一緒に母を支える。
「う、ううん……目が回る」
 どろっと流れ落ちる生クリームを滴らせた真っ青なユグゴト・ツァン。
「ご迷惑おかけしましたね。ほら、あなたがたはこちらです」
 ツルギは待っているうちに用意したのか、濡れタオルなどで手際良く妻や子供たちの世話を焼く。ベンチは子供たちに譲り、『美と叡智の座』によって出した椅子に目を回したユグゴト・ツァンを休ませる。
 その姿は遊園地で燦然と輝く理想のお父さんであったという。


●トロッコ
「全制覇は無理よね……まだぐるぐるしてる」
「うーん……わたしもやめておこうかな」
「行っておいで」
 子供たちを送り出したユグゴト・ツァンは甘さ控えめのレモネードを飲みながら、乗車口へと走ってゆく子供たちをツルギといりすと共に見送った。
「ここは平和です。掟を破るような輩はいないようですね」
「R.O.Oは正義ですもん!」
 ツルギはシーナに話しかけた。
(ここまで徹底してリアルを持ち出さない様に言われるのはやはり不自然ですが、シーナさんの本性(なかみ)を見る機会は無さそうですね……)
 ツルギの思惑に気付いた様子もなく、シーナは彼らに手を振って去って行った。
「ここに行方不明者が居る可能性も在るのよね? ほら、楽しい夢からは帰れないって言うし」
 シーナを見送った後、ユグゴト・ツァンはふと園内で手助けしてくれている『見えないスタッフ』の存在が頭を過った。そのまま『同一奇譚』を使って何もない空間を凝視しようとして──嘆息した。
「じっと見たくても眼振(ぶれ)てたらダメじゃない」
「大丈夫ですか? 無理は禁物です」
「大丈夫」
 少し休んだらトロッコの降り口辺りで花でも摘みながら子供たちを待とうと、彼女は頭を切り替えた。
(うーん、確かに楽しいけど行方不明者はホントに居ないのかな……)
 いりすは妙に不穏に感じる掟がどうしても気になった。
(ま、まぁとにかく、怪しい人がいれば──?)

 フローレスにぐいぐい引っ張られながら、アマトとスキャットがトロッコへと急ぐ。
「おっと!」
 その時、一匹のゴブリンとぶつかった──遊園地でゴブリンとぶつかるのは自然ではないが、なにしろここはR.O.Oだ。
「ゴロリン、一緒に乗るぞ!」
「一人で乗るのはどうかなって思っていたのでぜひ!」
 意気投合した四人はトロッコに乗ることになった。
「これくらいの絶叫系なら慣れっこだ。異世界で乗った事が……嗚呼、ここで現実(その)話は禁句だったか」
「シーナさん……なのかな。あの人、そう言ってましたよね」
 ゴロリンも気にするように周囲を見回す。
「とにかく勢いに任せて楽しむとしよう。暗い洞窟だろうと山の上だろうと、恐れる事は──」
 もちろん、そのフラグも回収された。
 落ちる瞬間のフワッとする感覚にアマトの耳がぞわっとなる。
 だが、それよりも先頭席を落水の飛沫から守る物が無いのが問題だった。
 ばっしゃん!
「わぷっ!」
「ぷはっ! こんなにびしょ濡れになるなら事前に雨具を買っておくべきだったな……一生の不覚!」
 嘆くスキャット。悲鳴を上げたアマトはゆっくり止まるトロッコの上で、しかし、満面の笑みを浮かべた。
「ずぶ濡れになっちゃったけど……おねえさまたちもずぶ濡れなのです、ふふ、みんな一緒!」
 濡れねずみになった四人は手際よく土産物屋のTシャツまで用意してくれた父の世話になってちょっとダサめのTシャツ姿に笑いあった。
「いいねぇアンタ、ストレスフルだ!」
 聞き覚えのある台詞にスキャットが振り返る。
 そこには『家族サービスに疲れた休日のお父さん』風の男を探しては嬉々として話しかけている『七色Alex』小昏 泰助がいた。
(何か騒がしいと思ったら……何でお師様がこんな所に!?)
 驚きながらも好奇心が湧く。
(こちらでは接点はないが、やはり電子世界の自分をどう評価しているか気になるところだ……よし)
「画家とはあなただな? スキャット・セプテットだ。聞いたことがあるかな」
「やあ、そこの家族サービスのお父さん。いいねぇアンタ」
 マイペースに、ちっとも自分に気付かない師匠に業を煮やしたスキャットが思わず切り出す。
「ベルナルドはご存知だろう」
「……確かに俺の弟子だがコイツでは羽ばたかなかった残念な奴だねぇ。やめやめ、アンタとそんな話したって面倒しかないだろ」
 そう鉛筆を振り上げた次の瞬間、小昏は「ストレスフルだ!」と顔を輝かせて楽しそうに絵を描き始めた。
「……ここでも相変わらずだな」
 肩を竦めてスキャットは家族の元へと戻った。


●フードコート
 フローレスは両手を胸に重ねて感嘆する。
「ここではクレープも好きなだけ食べても大丈夫ということになりそうですわね? しかも、食べ放題とか最高ではありませんの!」
 ツルギがテーブルに添えたのはサキモリ☆キッチンで作ったサンドイッチだ。
「甘い物が苦手な方はこちらを。今日のお昼にと持ってきて良かったです。……手洗い、うがいは忘れずに」
 それぞれ食べ物や飲み物を用意して家族でテーブルを囲む。
「たまにはこういうのも……、その、楽しい、ですね」
 色々なものを少しずつ食べて楽しみながら、いりすが微笑む。
「みんなでご飯を食べるのは『おいしい』です。家族と一緒だと、もっと『おいしい』ような気がします」
 現実の味はわからないが、アマトはこの時心からそう思った。
「ユグゴト様がおかあさま、ツルギ様がおとうさま……おかあさまとおとうさまがいるの、はじめてなのです! 今日だけだけど、おねえさまや妹もできてなんだかとっても嬉しくって楽しくってわくわくなのです!」
 夢のようだった。
「? おねえさまは何を描いているのですか?」
 アマトは食事をしていたはずのスキャットが何かを描いていることに気付く。
「この日の記念の絵を描こうと思ってな」
 サンドイッチを食べながらスキャットがそれを見せる。
「うん、会心の出来だ!」
 思わず掲げた絵に、他の座席からクスクスと笑いが漏れる。
「……な、誰だっ、私の絵を笑ったのは! この芸術は素人には分からない……という事にしておいてくれ!」
 絵を降ろすといつものように言い訳を並べるスキャットへ、しかし、アマトは激しく首を横に振った。
「いいえ、思い出が形になるのはすごいのです!」
 楽しい食事はあっという間だった。
 あちこちの楽しそうな声を聞きながら、アマトは最後に振り返る。
(……ここでアマトがニルに戻らなかったら、ニルは行方不明になった人になっちゃうのでしょうか。……ここには、そうやって行方不明になった人もいるのでしょうか?)
 胸が騒ぐ。
(ニルは現実が好きだけど、もしも現実があんまり好きじゃなくって、ここがあんまりにも居心地よかったら……そう考えると、ぞわってするのです)
 あくまでここは『夢』の世界なのだ。
 ──楽しい時間はあっという間に過ぎて、やがて日が暮れた。


●観覧車
 ライトアップされた観覧車を感激して見上げる、いりす
「最初から気になっていました……! の、乗ってみたいです…!」
 もちろん、誰も異論はなく最後にその家族で一台のゴンドラに乗り込んだ。
 アマトがはしゃいだ声を上げる。
「わぁ! 空も、地面も、キラキラお星様!」
 今日、最後の空の旅だ。
「天にも地にも星が在るだなんて、ひどく幻想的じゃないかしら」
 母の言葉に家族は頷く。
 全員で乗ったゴンドラは、空の星と大地の灯りに囲まれて美しかった。
「今日はこの遊園地でたくさん遊びましたね……」
 いりすが忘れないようにじっと景色を目に焼き付けていると、外を見ていたアマトが嘆息した。
「……現実と違う、現実を忘れる場所。ここを出たら、皆様と家族な一日は終わっちゃいますね。さみしいけど、別の場所で会ったら……また、家族になれたら、嬉しいのです」
 ユグゴト・ツァンが振り返り、もう一度、子供たちを愛でた。
(なんだかいつもより口調が上手く言っている気がするわ……透明な足場に無数の星辰(シナプス)、素敵な時間を有難うね)
 ゆっくりゴンドラは地上へと戻る。




成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

まさかのプレイングを頂いて「たいへんなことになってしまった」とニコニコしました。
R.O.Oらしくていいですね!
お母さんもお父さんもお子様たちも、みなさまお疲れさまでした!

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