シナリオ詳細
砦破りのジェミニ。或いは、青と赤のヒクイドリ…。
オープニング
●砦を穿つ
鉄帝国。
ヴィーザル地方のとある砦が奪われた。
比較的新しい砦であり、まだ使用には耐えられるように見受けられるが、そこは既に破棄されている。
否、正しくは奪い取られたのである。
砦を奪ったのは、たった2人の翼種の男女。
赤い短髪の女の名は“クアッサリー”
青い長髪を後頭部で1つに括った女の名は“エミュー”
髪の色や長さこそ違えど、その体躯や顔立ちは酷似している。そのことから、彼女たちは双子か姉妹であることが予想された。
背丈はどちらも180ほどと長身であり、丈の短いパンツと、厚手のコートを着用している。
2人はある日、突然砦にやってきて、見張りを務めていたノーザン・キングス所属の兵士たちを蹴散らし、追い出したのだという。
命からがら逃げだした兵士の1人は、当時の様子をこう語る。
「あいつらは表情ひとつ変えず、俺らを蹴りまわして追い出した。翼があったが、飛びはしなかったな。その代わり、飛ぶような勢いで地面を駆け回って、高く跳んだ」
露出した脚には、がっしりとした筋肉が付いていたという。
脚の先には鋭い爪が備えられており、それでもって引き裂くような蹴りを放つのだ。
「【滂沱】と流れる血は止まらず、絶えず【移】動しながら襲って来るおかげで俺らの陣形もガタガタにされたよ。直撃を受けてふっ【飛】ばされた奴も、【連】続して蹴りまわされた奴もいたな」
見ろよ、と。
そういって男は、包帯を巻かれた自身の胸部を晒して見せた。
血の滲んだ包帯の上からでも、男の胸部は陥没し、肉が抉れているのが分かる。
クアッサリーとエミューのどちらにやられたのかは分からないが、どちらにせよ彼女たちの蹴りにはかなりの力が込められていることが分かる。
「俺が生き残っているのは偶然だ。運が良かったからだ。事実、胸骨が砕けて死んだ奴や、内臓が破裂しちまった奴もいる」
決して油断してくれるなよ。
そう言って、男は足元へと視線を落とす。
●吹雪く砦
「さて……ごく小規模な砦だが、奪還を依頼されている」
戦略的な意味は薄いとは思うが……と、どこか呆れたような声音で『黒猫の』ショウ(p3n000005)はそう言った。
ヴィーザル地方でも僻地に存在する砦だ。
戦術的な重要度は低く、管理にも最低限の人数しか残されていなかったことが砦を奪われるに至った原因ともいえる。
それでも、10名前後はいた兵士たちを全員蹴散らし、砦を奪った実力は本物。
「クアッサリーとエミューの目的は不明だが、単なる愉快犯や盗賊の類とも考えづらい」
何かしらの目的があるのだろう、とショウは語った。
「先にも言ったように砦の規模としては極小規模なものだ。断崖に半ば埋もれるような形状をしており、周囲は高い塀で囲まれている」
塀には小さな扉が3つ。
そのうち1つは、クアッサリーとエミューによって蹴り破られている。
塀を抜けた先には10メートルほどの空間。
その向こうに居住区が存在しているという配置だ。
「居住区はさらに3つのスペースに分けられている。兵士たちの私室がある居住スペース、医務室や食堂といった共有スペース、武器や食料を保管しておくための倉庫スペースだな」
そして、居住区2階には大砲や機銃の備え付けられた広間。
現在、クアッサリーとエミューが砦内部のどこにいるのかは不明だ。
ともすると、砦を離れて外に出ている可能性さえある。
「加えて天候も崩れている。辺りが吹雪いているので、屋外での戦闘を行う場合は視界に注意が必要だ」
以上が、現状で判明している砦の情報。
ターゲットとなる敵の数は2人とはいえ、決して油断できる状況ではないだろう。
「避けるべきは2人の目的さえも判明しないまま取り逃がすことだ。最悪、討ち取ってしまっても構わないが、何らかの情報を得てからにしたいところだな」
- 砦破りのジェミニ。或いは、青と赤のヒクイドリ…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月31日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●極寒の地の小砦
視界が白に染め上がる。
吹きすさぶ風は、身体の芯まで凍えさせるほどに極寒。
吹雪に紛れ、足音を殺し、砦へと迫る影は8。
「マリィ、気をつけてね。情報を聞く限り、相当の強敵でございますわ」
赤の髪を風になびかせ『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はそう告げた。
その言葉を受け『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)は頷きを返す。
「ありがとう! ヴァリューシャも気を付けて。相当な手練れのようだし……気を引き締めていこう!」
砦の入り口は都合3つ。
イレギュラーズは3班に分かれ、要塞への侵入を開始した。
マリア、ヴァレーリヤ、そして『お肉大好き』月待 真那(p3p008312)の3人は、破壊された扉へ向けて歩み寄る。
「私は一歩引いた位置からの支援に回るで。2人は目立って荒らされた場所がないか注意しつつクリアリングしてってな」
真那の言葉を受け、マリアを先頭に3人は要塞へと侵入。
軍の出身であるマリアにとって、敵地への侵入ミッションは慣れたものだ。
一方そのころ『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、扉の前で難儀していた。要塞の入り口のうち1つは、今回のターゲットであるクアッサリーとエミューによって破壊されていた。
では、残る2つはどうなのかというと……。
「硬く閉ざされたまま、と。結構な厚さだが……たった2人で蹴り開けて、砦を押さえてしまうとは凄いな」
「砦にいた皆さんは、最近配属されたばかりとのことでしたし……彼らが何かやらかして恨みを買ったというわけでもないでしょうか?」
そう言いながら『薔薇の舞踏』津久見・弥恵(p3p005208)は扉を叩く。
軽く目を閉じ、耳を澄ますこと十数秒。
「ふむ……近くに人の気配はなし。何処にいるかわかるれば不意打ちや奇襲を避ける事が出来るかとも思いましたが」
【エコーロケーション】では、クアッサリーやエミューの居場所を特定することはできなかったようだ。
「なるほど。では……」
弥恵の報告を受け『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は剣を抜く。
「壊してしまいましょう。おそらく敵にも気付かれるので、速度が優先です。考える時間を与えない様に一気に侵攻してしまいましょう」
なんて、言って。
扉の蝶番へ向け、大上段からの斬撃を叩き込むのであった。
砦内部、外壁のほど近くにはウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)と『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が立っている。
「フム……この様な厳しい土地に探し物か?」
「2人だけで砦に殴り込みなんてアッパレな所業だけれど、何がモクテキなんだろうね?」
片や人狼。
片や銀髪の青年。
彼らの役割は、砦の出入り口を見張ること。
吹雪に身を晒しながら、2人は並んで砦を見上げる。
砦内部で、物が壊れる轟音が響き渡ったのはそれから少し経ってからのことだった。
●双子鳥
砦の2階。
オリーブたちの眼前に、それは突然現れた。
身じろぎの一つもせず、足の爪を壁に突き立て入り口の上に立っていたのだ。
「なっ……!? せ、接敵!!」
青い髪を後頭部で1つに括った、背の高い女だ。
しなやかで、そして筋肉質な長い脚による蹴撃がオリーブの顔面目掛けて放たれる。
身動きの一つもせずに潜んでいたことで、弥恵の【エコーロケーション】でも人と判断できなかったのだ。何しろ、3人が踏み込んだ2階部分には、大砲や機銃といった大きな道具が多く転がっていたのだから。
一撃。
オリーブの剣が、蹴りを弾いた。
大きく傾いだオリーブの身体。弥恵はその隙に、階段の下へとバックステップで降りていく。
さらに一撃。
入口扉の上部を掴んで、振り子の要領で追撃を放つ。
オリーブは、身を捻ることでそれを回避。同時に鋭い斬撃を叩き込んだ。
刃がエミューの腕を裂く。
しかし、浅い。
エミューは手で入り口の縁を弾くと、身体を前へと押し出していく。
勢いのついた蹴りが、オリーブの胸部を打った。鎧に覆われた胸部に強い衝撃を感じ、彼はもんどりうって階段を転げ落ちる。
「クアッサリー!!」
階段の下へ向け、青い髪の女性……エミューが叫んだ。
「ちっ……って、いない!?」
咄嗟に背後を見やった弥恵の視界には、しかし誰の姿もなかった。
「弥恵さん! 注意を逸らしては……!」
「あ、え……」
階段を転げ落ちていくオリーブの頭を足蹴にして、エミューは天井付近まで跳躍。
イズマの振るった細剣を回避し、エミューは天井に張り付いた。
それも一瞬。
天井を蹴って、踊場へと向けてエミューは跳んだ。
「待て、俺たちは話をしに来ただけだ!」
剣に魔力を纏わせながら、イズマは叫んだ。魔力により形成される黒い顎を、しかし放つことは出来ない。
エミューの進行方向には、弥恵の姿があるからだ。
イズマが攻撃を躊躇ったその一瞬の隙を、エミューが見逃すことはなかった。
一瞬の間に弥恵へと接近したエミューは、片足を軸とし身体を旋回。
蹴撃を放つが、弥恵は身を伏せそれを回避した。
「やはり、簡単に会話に応じてはいただけませんか」
タン、と。
軽い音を鳴らして、弥恵は体を階段の下へと投げ出した。
ふわり、と甘い香りを散らし、彼女は踊る。
明かり取りの窓から差し込む白い光が、彼女の姿を照らし出した。まるで無防備。敵を前にして踊る彼女から、エミューは目を離せない。
ゆらり、と。
エミューの視界が揺らいだ直後、ジワリと端からソレは黒い染まっていく。
「く……しまった。クアッサリー!!」
エミューが叫ぶ。
直後、階下で口笛を鳴らす音がした。
時刻は少し、巻き戻る。
マリア、ヴァレーリヤ、真那の向かった共有区画。
食堂も倉庫も医務室も、どこもが綺麗に整頓されていた。
医薬品の類は棚にしっかり並べられ、包帯の類は取り出しやすい位置にある。
食料品は、野菜や肉と種別ごとに整頓されて箱の中に納まっていた。
武器、弾薬にもまるで触れられた形跡はない。
「強いて言うのなら、リネン類がどこにも見当たらないね?」
「衣料品もやね。元から無いんか、どこかに移動されたんか」
「居住スペースの方にあるのではなくて? それか、既に持ち出したのかしら?」
はて、と首を傾げながらヴァレーリヤは調理場の方を覗き込む。
「あら、綺麗」
「綺麗? 男所帯の砦の厨房が、かい? 指揮官が几帳面だったのなら分かるけど……」
「男所帯の台所なんか、汚れっぱなしが基本やもんね。生ゴミの類も処分されとるみたいやし……」
顔を突き合わせ、3人は「はて?」と首を傾げた。
その直後……。
2階付近で、何かが壊れる音がした。3人が知る由もないが、それはオリーブが階段を落ちる音だった。
『接敵!!』
オリーブの声に反応し、3人は2階へ向けて走り出す。
共有スペースから通路に出たところで、3人は階段から駆け下りて来たエミューと、居住スペースから駆け付けたクアッサリーの姿を目にする。
「エミュー! 無事か!」
「傷は浅い。それより、敵襲だ。縄張りにいた連中の仲間かも」
「どうする? 逃げるか?」
「否、蹴散らせばいい!」
「よし、では……」
2人は軽く手を打ち合わせると、階段の真下で背中合わせに身を低くする。
「「やろうか」」
同じ声、同じタイミングで2人は告げる。
クアッサリーは階段へ。
エミューは共有スペースへ向け、床を蹴って跳び出した。
「真那は外の2人へ連絡を! 私はエミューをブロックしますわ!」
メイスを構えたヴァレーリヤが前へ出る。
ヴァレーリヤの進行を援護するべく、真那は懐から銃を抜いた。
連続して撃ち出される弾丸が、エミュー目掛けて跳んでいく。火薬の爆ぜる乾いた音が砦全体に響き渡った。
「よっしゃ! ド派手な発砲音なら砦中に響くやろっ! これが狼煙代わりや!」
そのことごとくを、エミューは跳躍することで回避。
けれど、その分だけ彼女の進行速度が送れる。
「マリィ!!」
「ヴァリューシャ! 頼んだよ!」
ヴァレーリヤの振り上げたメイス、その先端にマリアが乗った。
全身をバネのようにして、ヴァレーリヤはメイスをスイング。その勢いでもって、マリアの身体を天井付近へ目掛けて撃ち出す。
「なっ……この」
赤き稲妻を身に纏い、宙を疾駆するマリアへ向けエミューが踵落としを放つ。
その直後、真那の放った弾丸がエミューの脚首を掠めて抉った。痛みに姿勢を崩したエミューへ、マリアは肉薄。
「蹴りが得意なようだけど、私も負けないよ!」
赤雷を纏った蹴撃を、その膝へと叩き込む。
破砕音。
次いで、鳴り響く銃声。
岩の砕ける音がしたのは、ヴァレーリヤのメイスが壁を打ったためか。
鳴りやまぬ戦闘音を聞きつけたイグナートとウルフィンは、砦へ向けて駆けていく。
「イグナート。貴様、どうする? 我は2羽の目的次第では手伝ってやらんこともないと考えているが」
「んー、モクテキ次第かな? 何でこの砦を襲ったのかはテバヤク殴り倒して吐かせるのがイチバンだと思うケド」
「ふむ……それもそうだな」
などと、短く言葉を交わした2人は走る速度を上昇させる。
2人が砦の入り口へと差し掛かった瞬間、2人の前に何かが弾き飛ばされてきた。
「っ⁉ オリーブ!?」
血を吐き、呻くそれはオリーブ。
鎧の胸部がへしゃげている所を見るに、蹴りの直撃を受けたのだろう。
内臓にもダメージがあるのか、ともすると胸骨に罅でも入っているのかもしれない。
「って、マズい。扉ガワへ移動出来ないようにブロックしなきゃ……」
「任せた。我が飛ばされても取り逃がすことがないようにな!」
砦の入り口で腰を落としたイグナート。
その横を、骨槍を構えたウルフィンが駆け抜けていく。
砦へ入ったウルフィンの視界で、赤い髪の女が舞った。
それは、左右の脚に弥恵とイズマを引っ掻けたクアッサリーだ。
階段の上部から、2人を脚に引っ掛けたまま跳躍したのだ。その腹部や脚からは血が滴っているのが分かる。
イズマやオリーブの剣で裂かれたのだろう。
「それに、前が良く見えていないようだな」
クアッサリーの眼差しは虚ろ。
おそらく【暗闇】の状態異常を受けているのだろう。
「また来た。出て行け貴様ら! ここは私たちの縄張りだぞ!」
弥恵とイズマの顔面を踏みつけ、床へと叩きつけたクアッサリーがウルフィンの元へと接近していく。地を這うように肉薄し、顎へ向けて爪先蹴りを繰り出した。
ウルフィンはそれを寸でで回避し、お返しとばかりに側頭部へと槍を打ち込む。クアッサリーの頭が揺れた。「ぎ」と、短い悲鳴を零したクアッサリーの鼻から血が溢れる。
けれど、クアッサリーは止まらない。
ウルフィンが槍を引き戻すのとほぼ同時、その胸部へ向け渾身の前蹴りを叩き込む。
ウルフィンの身体が後方へ飛んだ。
壁に叩きつけられた彼を一瞥し、クアッサリーは次の獲物……すなわち、イグナートへと襲い掛かった。
「縄張り? この砦のことか、それとも近くにシュウラクでもあるのカナ?」
自身へ【ティタノマキア】を付与したイグナートは、腰の位置に拳を構えた。
迸る紫電を纏った拳をカウンター気味に解き放つ。
バチ、と。
空気の爆ぜる音がした。
閃光。
暗い視界が白に染まった。
跳躍の勢いを乗せた蹴り脚へ、イグナートは渾身の拳を叩き込んだ。
拳と蹴りとが衝突した瞬間に、吹き荒れた衝撃はかなりのものだ。耐え切れず、窓ガラスが幾つか砕け、甲高い音を鳴らして散った。
●縄張り
地に伏せた状態から一撃。
マリアはそれを踏みつけ、止めた。
床を蹴って跳躍。ついでとばかりにマリアの顎へ膝蹴りをかます。
顎を打たれたマリアが大きく仰け反った。
矢のように体を伸ばし、天井付近へと跳んだ。エミューの爪先が、マリアの顔面を踏みつける。
マリアは後転しながら、エミューの膝裏へと蹴りを叩き込んだ。
天井を蹴って、エミューは跳んだ。
弾丸のような勢いで、マリアの顔面へ再度膝を叩きつける。
「ヴァリューシャ!」
「えぇ、任せてください!」
重力に引かれ、マリアは床に倒れ伏す。
その胸の上を、ヴァレーリヤのメイスが通過した。
渾身の力で振り抜かれた一撃が、エミューの膝を正しく捉える。ぐしゃり、と骨の砕ける音がした。
悲鳴をあげ、倒れたエミュー。
無事な左足で床を蹴って、後方へ跳ぼうとするが……。
「その機動力、奪わせてもらうよ」
踏み込んだその足元を、真那の弾丸が撃ち砕く。
床板が砕けたことで、踏み込みの力は減衰。エミューは姿勢を崩し、その場に倒れ込んだ。
「足場が悪くなったら、機動力も半減やろ?」
「それに、貴方達の欲しい物なら、もう確保してしまいましたわよ?」
銃口を突き付けられたエミューは、迂闊に動けないでいた。
さらに、ヴァレーリヤの告げたその言葉に、エミューは肩を跳ねさせる。
「……だから、奪い返しに来たんだ。私たちの縄張りを返せ」
膝を砕かれ、本来の機動力も発揮できない状態にあるエミューだが、その瞳に宿る戦意は未だに衰えてはいない。
タタン、と軽い足音を鳴らし弥恵は舞う。
吹雪の中、踊る彼女はさながら雪の妖精のようだ。
甘い香りが漂う中、クアッサリーはそれを見ていた。
血に濡れた身体。
痛みによるものか、顔には汗が浮いている。
けれど、彼女は美しかった。
「……こんなところで、舞踏戦士と逢うとは」
悲しいな、と。
そう呟いたクアッサリーの左右から、イズマとオリーブが斬撃を叩き込む。
イズマの剣は足元へ。
オリーブの剣は胸部へ迫る。
伏せても、跳んでも、それを回避することは出来ない。
ならば、前に出るだけだ。
「舞踏を中断させるのは惜しいが……」
床を踏み込み、弾丸のように前へと跳躍。
舞う弥恵の顔面へ、鋭い蹴りを放った。
けれど、しかし……。
「目的もなく暴れている風でもないな。理由を聞かせてもらおう」
弥恵は床を蹴り飛ばし、天井付近まで跳んだ。長い黒髪が、蛇のように夜闇にうねる。
彼女の背後より現れたのはウルフィンだ。
降り抜かれた骨槍を、回避するのは不可能だろう。
【恍惚】を付与された身で、受け身も取れずにその一撃をまともに喰らう。血を吐きながら、転がりながら、後ろへ下がるクアッサリーへイズマの細剣が迫った。
「広間……は、距離があるな。そこの部屋だ」
イズマの指示に従い、イグナートが近くの一室へ駆け込んでいく。
細剣を回避したクアッサリーが、部屋の方へと1歩近づく。
「えぇ、了解しました。ついでに軸足も斬らせて貰いましょう」
そこへ迫るオリーブは低い位置で剣を振るった。エミューはそれを回避するべく軽く跳躍。瞬間、オリーブは剣から手を放す。
「な……ぁ?」
「レスキンさん、後はよろしくお願いします」
クアッサリーの身体へ体当たりをかますオリーブは、部屋の中で待機しているイグナートへと後を託した。
不安定な姿勢からの体当たりだ。
衝突の瞬間、オリーブの体勢は崩れ床に倒れる。
弾かれたクアッサリーは、部屋の中へと転がり込んだ。
仰向けに倒れたその眼前を、イグナートの拳がよぎる。
紫電が散った。
視界が白に染め上がり、直後、胸部を襲う衝撃。
「その体勢じゃ回避も防御も間に合わないダロ? 悪いけど、コブシを叩き込ませてもらうヨ!」
木っ端と吐血が飛び散る光景を最後に、クアッサリーはとうとう意識を手放した。
クアッサリーが捕縛されたことにより、エミューはついに抵抗を止めた。
「それで、何の為にこんなことを? 何か探し物でもしていたのかい?」
マリアの問いに、エミューは小さな声で答えた。
敗者であると自覚しているのか、自棄に素直だ。
どうやらクアッサリーやエミューは、実力至上主義者であるらしい。つまり、敗者はすべてを失い、勝者はすべてを手に入れる。
命も、糧も、情報も……。
「元々、ここは私たちの縄張りだった。私たちが旅に出ている間に、気付いたらあいつらがこんな家を建ててたんだ」
だから、奪った。
自分たちの縄張りに造られた砦を、そのまま住居として奪い取ろうとしたのだ。
「家族が住んでいたのかい? その人たちはどこに?」
ヴァレーリヤから手渡されたタオルで、血濡れた顔を拭いながらマリアは問うた。
その問いに、エミューは首を振って「分からない」と答えを返す。
「生きているかもしれない。どこか、別の場所にいるかも……皆がいつでも、戻ってこられるように、部屋を整えて待っていようと思ったんだ」
それが、2人が砦に滞在していた理由だ。
その話を聞いて、真那は表情を曇らせる。
「どんな時でも、故意に人を殺めるってのは間違ってるで。きちんと罪を償わせたいところやけど……」
最悪の可能性として、クアッサリーやエミューの仲間たちは既に落命している可能性もある。そして、それを成したのは砦を建てた兵士たちかもしれない。
「生きているなら、また逢いたい。もし、命を奪われないのなら私たちは仲間を探しに旅に出るよ……私たちは敗者だから、縄張りはもうアンタたちの物だから」
なんて、嗚咽を堪えるようにそう言って、エミューは視線を伏せたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
クアッサリー&エミューは捕縛され、砦から追放されました。
依頼は成功となります。
2人の目的に関しても聴取が完了。砦を利用するノーザン・キングスの兵士たちへそれは共有されました。
この度は依頼へのご参加、ありがとうございました。
また、縁があれば別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
クアッサリー&エミューの目的を判明させること
※目的不明のままクアッサリー&エミューに逃亡されると依頼は失敗となります
●ターゲット
・クアッサリー&エミュー
赤い短髪、長身の翼種がクアッサリー。
長く青い髪を1本に括った長身の翼種がエミュー。
2人とも厚手のコートにショートパンツといった服装をしている。
素早い身のこなしと冷静な判断、力強い蹴りを用いて戦闘を行う。
蹴砕:物近単に大ダメージ、移、連、滂沱
流れるように繰り出される鋭い蹴撃
鉄穿:物近単に特大ダメージ、移、飛、滂沱
勢いをつけて繰り出される渾身の蹴撃
●フィールド
ヴィーザル地方の小さな砦。
吹雪の絶えない土地であり、視界は不良。
砦は崖に半分ほど埋まったような形状をしている。
砦外周には高い塀。
3つの扉があり、そのうち1つは蹴り破られている。
塀の内側には2階建ての住居。
1階部分には
兵士たちの私室がある居住スペース
医務室や食堂といった共有スペース
武器や食料を保管しておくための倉庫スペース
2階部分には機銃や大砲の設置された広間がある。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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