PandoraPartyProject

シナリオ詳細

孤児院の子供達

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●正義の孤児達
 『正義(ジャスティス)』。政治的にも、宗教的にも安定し、強国としての位置を築いている、R.O.O内の大国である。
 安定した国内であるが、しかしそれでも、不幸と言うものは発生してしまうものだ。誰が悪いというわけではない。こればかりは、間が悪かった――格好をつけて言えば、運命だった、と受け入れるしかない。
 例えば、家族が流行病や不慮の事故により亡くなってしまった、と言う事はありうる。そして、子供達だけが残されてしまう事も、当然のようにありうるのだ。
 とはいえ、正義が安定している以上、助けの手はすぐに訪れる。子供達はきちんと施設に預けられるようになっており、少なくとも飢えて死ぬようなことにはなっていない。
 さて、ここに一軒の孤児院がある。天義でよくみられる宗教的シンボルの掲げられた素朴な建物。入り口には、その孤児院の名を示すささやかな看板が掛けられていて、庭では多くの子供達が遊んでいるのが見えた。
「リーッタ? クスティ? どこへ行ったのですか?」
 その庭で、白衣のシスター風の女性が声をあげた。あたりをきょろきょろと見まわす。どうやら、リーッタとクスティ、と言う子供を探しているのだろう。だが、庭にも、建物の中にも、その姿は見受けられないようだった。
「マザー、あの二人、東の森の方へ行くのを見たよ」
「トルスティ! 本当ですか!?」
 マザー、と呼ばれた女性が、頭に手をやった。
「あそこには、最近外から魔物がやってきたと言ったでしょう! 入ったら危ない、と……」
「うーん、リーッタの事だから、覚えたばかりの魔法でやっつけに行ったんだよ。クスティは嫌々だけどついていったんだ。ほら、クスティはリーッタの事が好きだし」
「知ってます! でもそう言う事じゃありません。ああ、もう、どうしたらいいのでしょうか……」
 おろおろとマザーは慌てた様子を見せると、仕方ない、と頷いた。
「わたくしが迎えに行きます! いいですか、貴方達。貴方達は、今日は院から出てはいけませんよ! 年長の子が、小さな子たちの世話をしなさい。お腹がすいたらおやつやお昼をとってもいいですが、料理に火は使ってはダメです。そのままで食べらる、パンと干し肉で賄いなさい」
『はーい』
 子供達が手をあげた。マザーは大慌てで建物に入り、しばらくしてから術師用の杖を手にすると、いそいそと東の森へと向かうのだった。

●マザーと、子供達を探せ
「ううん、困りましたね……」
 と、正義の騎士駐屯所で、一人の正義騎士が声をあげた。その近くには、数名の子供達が居て、そこにはトルスティの姿も見える。
「マザーが帰ってこないのよ! これは孤児院の危機だわ!」
「キミ達は、街のはずれの孤児院の子だろう? 幸せ院、みたい名前だっけ」
「アウリス、ヘリ、言ってやるのよ! あたしたちがいかに困っているかを!」
「騎士さん、騎士さん、お願いだよ。このままじゃ、マザーやリーッタ、クスティ達が帰ってこれないよ」
「わたしたちも、マザーたちが帰ってこなかったら飢えて死んじゃうわ。火が使えないから、夜になったら凍えて死んじゃうかも! 今が春で良かったの」
「と言っても……私たちも今すぐには、兵士を動かせないのです……部隊は出張に出ていて、今は街を守る最低限の人員しかいなくて……」
「にんじんがなによ! ニンジン食べられないのは子供よ! あたしは食べられるわ!」
「わたしは食べられないなぁ」
 子供達がぎゃあぎゃあとわめいている。そんな光景を、たまたま通りがかったあなた達――特異運命座標は目にする。ふと、騎士が此方に気づいたようだ。その顔を、救いの手が現れたという好機にほころばせ、
「あなた達は、特異運命座標の皆様では!」
 と、手を振る。同時に、ぴ、と、インターフェースに表示が追加された。
 クエスト発生中。
 なるほど、どうやら、目の前で起きている事件は、システムではクエストとして処理されているらしい。クエストであるならば、こちらとしても受けない理由はないだろう。
「特異運命座標どの。実は、この孤児院の子供達が、助けて求めているのです」
「冒険者さんだ!」
「すごい! はじめてみた!」
 子供達が、わあ、と特異運命座標たちに駆け寄る。
「まって! 今はお願いをするのが先よ!」
 と、少女が言う。彼女はこほん、と咳ばらいをすると、
「はじめまして! あたしはマイサ。そこの孤児院の子なんだけど――」
 と、マイサと言う少女が言うには、ここより東にある森に、孤児院の子供であるリーッタ、クスティと言う二人が、入り込んでしまったらしい。東の森には、外部から入り込んだモンスターが徘徊しているらしく、立ち入り禁止であったという。
 二人を探すために、孤児院の大人であるマザーも入ってしまった。それが、今日のお昼前の事。今は夕方だが、彼女たちが帰ってくる様子はない。
 そこで、特異運命座標たちには、すぐに森に向い、三人を見つけて連れて帰って欲しいというのだ。
「森の怪物は危険です。出来ればすぐにでも助けに行ってほしいのです」
 騎士が言う。この子供達も、マザーと言う大人も、R.O.OのNPC……つまりかりそめの命に過ぎない。だが、仮想だとしても、意思を持ち生きているもの達を、見捨てることはできないだろう。
 特異運命座標たちはクエストを受諾すると、早速、東の森へと向かうのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 森へと向かった孤児院の人達を、助けてあげてください。

●成功条件
 マザー、リーッタ、クスティの生存と救出

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●状況
 R.O.O内、正義の国。そのとある街に存在する孤児院に、マザーと言う大人、そしてリーッタとクスティと言う女の子と男の子が居ました。
 街の東の森に、魔物が入り込んだと聞いたリーッタ。リーッタは、物語の魔法使いに憧れ、覚えたばかりの魔法で魔物を退治してみせる、と森へと向かってしまいます。そんな彼女をいさめるために、クスティも同行し……そして戻りません。
 不安に思ったマザーは、無謀にも魔法の杖を片手に森へとはいってしまいます。そして、戻って来ません。
 これには残された子供達も大慌て。特異運命座標である皆さんに、三人の救出をお願いするのでした。
 クエスト発生時刻は夕刻。フィールドは、東の森。普通に歩く分には明かりには困りませんが、周囲は薄暗く、足元も見えづらくなっています。また、あまり時間をかけていると日が暮れて、夜になってしまう可能性も。
 また、森には複数の魔物が徘徊しています。注意してください。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

●エネミーデータ
 サーチャーバット ×?
  巨大な、一つ目のコウモリ風の怪物です。超音波を利用した索敵や攻撃を行っています。
  主に遠距離からの攻撃を行ってくるでしょう。超音波を受けたら、『麻痺』してしまうかもしれません。

 ライズウルフ ×?
  狼が魔力を帯びて魔物化した怪物です。見た目通りの鋭い牙と、素早さを持ちます。
  主に近距離での攻撃を行ってくるでしょう。爪焼き場による攻撃には、『出血』を覚悟しなければなりません。

 ブラッドベア ×?
  多くの人間を喰らい、魔物となった怪物です。タフさと攻撃力が脅威。
  主に近距離での攻撃を行ってきます。シンプルな高耐久と高攻撃力が厄介な相手です。

●救助対象
 マザー ×1
  孤児院の大人です。シナリオトップに立っているイラストが彼女。
  主に攻撃術式と治療術式を持っています。そこそこ戦えますが、一人では確実に力不足です。

 リーッタ ×1
  孤児院の子供です。13歳。青い髪がお気に入りのチャームポイント。
  魔法を使えますが、どれも子供の遊び程度のものです。戦力にはなりません。
  勘が鋭く、魔物の居る方向を避けられるようですが……。

 クスティ ×1
  孤児院の子供です。15歳。茶髪の男の子。
  剣を使えますが、子供の遊び程度のものです。戦力にはなりません。
  冷静な判断力を持っているため、彼が居れば、無謀な行動はしないはずです。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • 孤児院の子供達完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月08日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グレイシア(p3x000111)
世界の意思の代行者
リースリット(p3x001984)
希望の穿光
レイス(p3x002292)
翳り月
レニー(p3x005709)
ブッ壊し屋
ルチア(p3x006865)
ルチア・アフラニアのアバター
ホワイティ(p3x008115)
アルコ空団“白き盾持ち”
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
座敷童(p3x009099)
幸運の象徴

リプレイ

●夕闇の森で
 バサバサと、森の中を奇怪なコウモリが舞っていた。一つ目の目玉の両端に翼が生えたような化け物だ。それはこちらを嘲るように飛行し、三日月のように開いた口元から甲高い鳴き声をあげた。
 それを合図にしたみたいに、木々と草の合間から、魔物の群れが飛び出してきた。見た目は狼だが、鋭い牙と爪、そして鎧のようなかたい毛は、真っ当な生き物のそれではない。
「来たぞ! 迎え撃つのじゃ!」
 いち早く、敵の存在を、その耳で察知していた『幸運の象徴』座敷童(p3x009099)が叫んだ。そのまま、青白い幽炎と共に、静かに舞う。舞は仲間達の背中を押す活力となる。それを背に受けたまま、仲間達は迎撃の態勢をとった。
 同時に、周囲の生命の存在を察知することのできる『世界の意思の代行者』グレイシア(p3x000111)が声をあげる。
「小型が3、中型が4だ。人の子供、大人の感じは周囲にはない」
「では全力で行きましょう。速やかに処理して、捜索に戻ります!」
 リースリット(p3x001984)の言葉に、『ルチア・アフラニアのアバター』ルチア(p3x006865)が頷く。すでに戦闘態勢をとって居た一同は、飛び掛かってきた狼……ライズウルフの鋭い爪を、手にした武器で受けて払った。
「かかって来ると良いよぉ、遠慮は要らないからねぇ……!」
 『ホワイトカインド』ホワイティ(p3x008115)が、その手にした武器を掲げた。陽光の如き眩き輝きが、魔物達の注意を引き付ける。飛び掛かってきた狼の爪を、ホワイティは盾で受け止めた。ガチリ、と爪が楯をこする。
「このくらいじゃ、わたしはひるまない、よぉ!」
 ホワイティが、楯を力強く叩きつけて、狼と地へと叩き落す。ぎゃん、と悲鳴を上げて転がった狼を、太陽の剣が貫いた。狼ががふがふと瀕死の吐息を吐き出して、そのまま絶命した。
 目玉のコウモリ・サーチャーバットが一斉に甲高い声をあげた。頭をぶん殴られたような衝撃=超音波の攻撃が、ホワイティに迫る。
「ぐ、うっ!」
「任せて、散らせよう」
 『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)が第二スキルを発動。神聖なイメージを持つ光が波状になって解き放たれ、コウモリたちを叩き落した。
「レニー」
「おう!」
 頷いて飛び出した『ブッ壊し屋』レニー(p3x005709)が、堕ちたコウモリが飛びずさる前に一気に接近、剛毅なるおもちゃの剣を振り下ろした。鈍器めいたその一撃がコウモリを再び地面にたたきつけ、そのまま地にめり込ませ、命を奪い取る。
「もう一度飛べると思ったか? ねぇよ!」
 レニーが横なぎに剣を振るうと、今まさに飛んで逃げようとしていたコウモリに、横ざまに直撃した。野球のボールめいて飛んでいくコウモリが、気にぶつかって潰れる。それでもなんとか逃げようとするコウモリ、そして残る狼たちを、しかし『翳り月』レイス(p3x002292)の第一スキルが発動。氷のツタの様なエフェクトがコウモリ、狼たちを捉え、その樹氷にて敵を足止めする。
「逃がさない……! 逃がしたら、それだけ子供達とマザーさんが危険にさらされる……っ!」
 レイスを中心に、再度発動するスキル。樹氷のエフェクトが濃さを増して魔物達をがんじがらめに足止めし、その動きを阻害する。
「そのまま抑えておいてください……踊れ、フレイオン!」
 リースリットの手にした杖が掲げられると、その先端が輝いて、激しい風が巻き起こった。そこに杖より放たれた火炎が混ざり合い、さながら炎と風の竜巻とかして魔物達を舐めつくす。逃げることなどできず、風炎の無知に打ち据えられた魔物たちは、次々とその身体を地に横たえていく。
「これで……」
「全部だ。ご苦労」
 グレイシアが言いながら、周囲を探る。森の躍る無数の生命、その中から知るべきものを取捨選択する。
 例えば、強靭なるもの――これは魔物の類か。
 それから、確かに大きいが、同時にか弱き者――これは、NPC(救出対象)をさす。
「周囲は変わらずだ。座敷童、そちらは」
「こちらもじゃ。魔物は散ったが、人は見つからん」
「わたしにもまだ反応がないねぇ」
 ホワイティが言う。触角を意識するように、頭上を気にするように、視線を上に向ける。触角に動きはない。
「少なくとも近くには居ないという事だろう。だが、森は広大だ。探索の手を休めるわけにはいくまい――イズル、ホワイティの傷を癒しておいてくれ」
「うん、分かったよ」
 グレイシアの言葉に、イズルが頷いた。第一スキル、その神聖なエフェクトが舞い踊って、ホワイティの傷をいやす。
「ありがとうねぇ」
 ほんわかと笑うホワイティ。しかしすぐに引き締めた表情をとった。
「森に突入してから、時間が少し経ってるねぇ。まだ日は落ちない様だけれど、このままじゃあ」
「ええ、日が落ちれば、探索は困難になります」
 リースリットが言う。日が落ち、夜になれば、魔物は活発化し、視界も闇に閉ざされる。NPCの救出が今回の特異運命座標たちに課せられたクエストだが、それを達成するのが些か厳しいものとなるだろう。
「なぁに、大丈夫さ。オレ達にできないことはない」
 と、にっこりと笑ってみせるレニー。ハッタリのようなものだったが、しかしそれでも、『きっと、できるだろう』と言う思いを抱かせてくれる。
「これまではひと固まりで動いていたから……しばらくは、散開して捜索、かな?」
 レイスが言うのへ、レニーが答える。
「ああ、少し捜索範囲を広げた方がいいだろう。左手にグレイシア、右手に座敷童。中央にホワイティで、それぞれの探査スキルの範囲を広げる。どうだ?」
「効率的だ。吾輩は構わんよ」
 グレイシアが言うのへ、残る2名も頷いた。
「じゃあ、そうしようか。戦闘になっても、なるべくすぐに駆け付けられる距離で。離れすぎないように、ね」
 レイスの言葉に、仲間達は頷いた。

●マザー
 夕日がまた少し傾く。夜が近づく。
 マザーと呼ばれる女は、この時、昏い森を歩いていた。見つけ出すべき子供達は見つからない。まるでそう運命づけられているかのように。このマザーは気楽な性格をしていたが、しかしさすがにこの時には、心に不安の影が差していた。
「……ランプを持ってくるのを忘れてしまいましたね。忘れたというか、持ってくる意識がなかったのですが。もっと早く見つけて帰るつもりでしたし……」
 不安を紛らわせるように、マザーは呟いてみた。現状を言葉で説明した所で、現実は変わらない……子供達(リーッタとクスティ)は、見つからないままだ。
「ああ、神よ……どうぞあの子達をお守りください……ついでで良いですので、私も」
 軽く瞳を閉じて、祈る――同時に、近くの木陰、その草むらががさがさと音を立てた。
「もしかして、リーッタとクスティですか!?」
 これぞ神の思し召しか、とマザーは顔をほころばせるが、草木をかき分けて現れたのは、狼の如き魔物の姿であった。
「……あはは、すみません、人違いでしたね!」
 ゆっくりと後ずさる……だが、すぐ近くの草むらから、また別の狼が姿を現し、唸り声をあげた。
「……神よ、さっきのお祈りですが、訂正させてください。どうぞリーッタとクスティをお守りください……それからついでじゃなくて、今! 私もお守りください!」
 とは言うものの、そこで怯えてうずくまっているような性格ではない。手にした聖術用の杖を胸に抱き、何とか迎撃の態勢をとる。
「大丈夫、大丈夫、今までもやっつけてきました……一対一でしたが、ええ。一体増えたくらいなら、なんとか」
 がさり、と草むらが揺れる。追加の狼が1,2,と、マザーをあざ笑うかのように姿を現した。
「神よ、私何かしました?」
 その問いに答えるように、ヴぁう、と狼たちが吠えた。ぬらぬらと光る汚れた牙。それが、柔らかい肉を食い破らんと、マザーに迫る。
「流石の私もこれはちょっと……!」
 たまらず悲鳴をあげる――が。
「そのまま姿勢を低くしていると良い」
 低い声が響く――マザーはその指示に素直に従った。途端、その頭上をかけるは『影』。走る影はマザーの近くにいた狼を捉えるとそのまま生命力を吸いつくし、狼を干からびさせた。
「退路は開けたぞ。此方へ来ると良い」
 マザーが顔をあげると、そこには手を掲げ、影を操るグレイシアの姿があった。
「し、神父様ですか!?」
「いや? 吾輩はそう見えるだけであるよ」
 そう答えつつ、グレイシアはマザーを見据えた。
(勘違いした、か。元より、子供を救うために自ら危険に身を投じるなど合理的ではない……それでこそ人間であるが、これが仮想空間上の制限であると考えれば、やはり恐ろしいものであるな)
 些かに眉間を歪めるグレイシアに、マザーが首をかしげた。
「な、何か?」
「いや、下がっているがいい……レニー」
「応よ!」
 レニーが頷き、草むらから飛び出す。狼の一匹を捕まえて、その脳天におもちゃの剣を振り下ろした。下手な鈍器より強烈なそれが叩きつけられ、狼が昏倒。動かなくなる。
「アンタがマザーだな? 子供たちのためとは言え無茶するぜ。待ってな、こいつらを片付けたら、すぐに子供達も迎えにいく!」
 レニーが、飛び込んできた狼の横面を、おもちゃの剣で殴り飛ばした。フッ飛ばされた狼が地面にたたきつけられ、それでも再度立ち上がるのへ、レイスの第二スキルが着弾する。反動を受けるほどの強烈な魔術の奔流が、狼を打ちのめした。
「大丈夫? 怪我はない?」
 スキルを放ちつつ、レイスがマザーへと尋ねる。
「は、はい! 私、健康的なので!」
「そう、よかった。そこで待ってて。グレイシア君、残り一匹!」
「承知した。吾輩が捕らえる。止めをさせ」
 グレイシアが頷いて放つ影が、最後の一匹を捉えた。そのまま、レイスの魔力の奔流が叩きつけられ、そのまま狼は消滅する。
「す、すごい……!」
 へたり込んだマザーが感心したように呟くのへ、レニーが手を差し伸べた。
「立ってくれ。悪いが、休ませてやれる時間はない……意味は解るな?」
「そ、そうです! クスティとリーッタ! あの子達……というか、リーッタが結構無茶する子で! たぶん、森奥のブラッドベアを退治しに行ったんです! さっきの狼とかもそうなんですけど、外から来たって言う凶暴な魔獣……」
「分かってる、話は全部マイサって子達から聞いた」
 落ち着かせるように、レニーが言う。続きをレイスが引き継いだ。
「ごめんなさい、話を聞いて、私達の指示に従ってほしいの。近くに仲間達がいるから、まずはそっちに合流するよ。それから……森の奥に、二人は向かった可能性が高いんだね? 一緒に、森の奥までいこう」
「分かりました」
 マザーが頷く。
「ではこちらへ、マザー。これよりあなたは吾輩らの護衛対象となる。迂闊な行動は慎んでくれたまえよ。……子供が心配なのは、分かるがね」
 グレイシアの言葉に、マザーはこくこくと頷いた。どうやら指示には従ってくれるらしい。タスクは半分完了した。インターフェース上のクエスト進行状況に第一タスクの完了が明示され、続く子供達の救出の項目がちかちかと点滅している。

●クスティとリーッタ
「リーッタ、頭を低くして。あいつ、鼻は利かないみたい」
 草むらに隠れながら、少年……クスティが呟く。傍らにいた少女、リーッタは、大きな入門用の魔術書を抱えながら、顔を青ざめさせていた。
 草むらの向こうには、巨大なヒグマのような怪物が何かを探しているようだった。白々しい、何かとは、つまり僕たちだ、とクスティは思った。
「ごめんなさい、ごめんなさい、クスティ。私、もっと上手くやれると思ったの。物語の魔法使いとか、聖女アストリア様みたいに」
「分かってるよ、リーッタ。君は悪くないよ。ちょっと相手が悪かっただけだ」
 震えるリーッタの頭を、優しく撫でてやった。
「私、私、悪い子で……クスティを巻き込んでしまったわ」
「違うよ、リーッタ。僕は好きでついてきたんだから、君に責任はない。むしろ止められなかったのなら、僕が悪いと思わない?」
「クスティは悪くないわ!」
「僕もリーッタは悪くないと思う。だから、おあいこ」
 そう言って励ますものの、状況は良くない。あのクマは、間違いなくこちらを探している……今は隠れられているが、逃げ出す手段は乏しい。
 一か八か走って逃げるか? リスクが大きい。リーッタを見捨てて囮にすれば逃げられる、と、彼の冷静な思考が可能性を囁く。冗談じゃない、だったら一緒に死んだほうがましだ、とクスティはそれを即座に却下した。
「結局、大人が来るのを待つしかないのか……」リーッタ、守れなくてごめんね。僕がもっと強かったら、こんな所で……」
「いいや、『君は大人になれる』。そして今度こそ、守るべきものを本当に守ってやってくれ」
 声が響いた。クスティとリーッタは、顔をあげた。気づけば、隣に誰かがいた。
「おっと、ロールプレイだ……と言うわけで。助けに来たよ」
 イズルだった。
「助けに……?」
 同時に、前方で戦闘音が鳴り響いた。
「こっち、だよぉ! 子供達には近づかせないよぉ!」
 ホワイティが叫び、楯を掲げた。強烈な爪撃が、楯の上からホワイティの体力を奪い取る。くうっ、とうめいた。
「えへへ、普段は前に出るみんなって、こんな風に誰かの楯になって、傷ついてたんだねぇ! R.O.Oで気づいて……まだ慣れないけどぉ!」
 守り抜いて見せる……たとえ、それがNPCであろうとも! それが騎士としての在り方だ! ホワイティが楯でクマを押し返す! 同時、
「切り裂け、シルフィード!」
 リースリットの手にした書物がバタバタとはためき、疾風が刃のように奔った! クマ目がけて走るその風の刃が、クマの左腕に深い切り傷を残した。ぎゃあ、と悲鳴を上げて、熊が吠える。
「イズルさん、二人の確保は!?」
「万全だよ」
 リースリットの言葉に、イズルが頷いた。それを確認すると、リースリットは再び風の刃の術式を解き放つ。無数の刃が、熊の身体を連続で切り刻んでいく。
「ホワイティさん、抑えつつ後退してください! 座敷童さんも、サポートお願いします!」
「了解じゃ! しかし……」
 ちらり、と子供達を見やる。そこでは、マザーが嬉しそうに二人を抱きしめている光景があった。
「笑えんのぅ……これが理想じゃ。じゃが、まるで『そうはならなかった』と誰かにあざ笑われているような気がするわ!」
 わずかに湧いた怒りをぶつけるように、座敷童が蹴鞠を蹴りつける。幻惑するようにブレながら飛来するそれが、熊の顔面に叩きつけられ、その目くらましとなった。
「さぁ、今のうちだよぉ!」
 ホワイティが、再度楯で敵を殴りつける。体勢を崩したクマが倒れ込むすきをついて、
「今です! 撤退します!」
 リースリットの言葉に、仲間達が一斉にひき始める。
「た、倒さないの?」
 リーッタが尋ねるのへ、
「最優先するべきは、君たち三人の無事だからね」
 イズルはそう言って、笑ってみせた。
 果たして手負いとなったクマは、自身の命を最優先としたのか、特異運命座標たちを追ってくることはなかった。一同はそのまま森の奥から離れ、入り口目指して歩きだしたのである。
「さて、救出対象を見つけたとはいえ、油断は出来ん。ホワイティは三人の直掩についてほしい。吾輩が前、座敷童が後ろで索敵するぞ」
「はぁい」
「了解じゃ」
 二人が頷く。座敷童は笑いながら、マザーとクスティ、リーッタへと近寄る。
「怖かったろう? 子供達にはお菓子がある。食べて落ち着くとよい。マザー・カチヤには、ランプを持って子供達の足元を照らしてもらおうかのう?」
「あ、ありがとう……!」
「そうですね、ランプ役、承ります……って、アレ? 私、名乗りましたっけ?」
「いや、依頼をくれた騎士から聞いたのじゃよ。カチヤ殿、で間違いなかったかのう?」
「ええ、そうですよ。オンネリネン孤児院のカチヤです」
 そう言って笑う。刹那、座敷童はひどく暗い眼を見せた。
「そう。貴方が」
「座敷童殿」
 イズルが言った。
「勘違いならすまないが……その人は、あなたの知っている人物ではない」
「分かってる……でも」
 座敷童は頭を振った。
「そうじゃのう、すまなかった。索敵をしてくるよ、気をつけてな」
「……なんか私、怒らせちゃいましたか?」
 きょとんとしているカチヤに、イズルは頭を振った。
「いいえ……ちょっと……昔をね、思い出しちゃったみたいで。『貴女は』何も悪くはないよ」
 イズルは少しだけ複雑そうに、笑った。
「もうすぐ森を抜けます……帰り道は魔物とは会いませんでしたね。まるで、そう設定されているかのように」
 リースリットが言う。
「そこは……ゲームって言う体なのかなぁ。楽なのはありがたいけどねぇ」
「まぁ、クリアするまでがクエストだ。警戒はしておこうぜ」
「レニーの言う通りだね……でも、もうすぐ森の入り口みたいだよ」
 レイスの言葉に、一同は前方を見る。
 すぐに森の入り口が見えていて、その瞬間、インターフェース上にクエストクリアの文字が躍った。
 救ったものは、NPC。かりそめの命。
 されど、成し遂げた行いに、曇りなどはないはずと。
 特異運命座標たちは、そう思いながら、街へと帰還するのであった。

成否

成功

MVP

ホワイティ(p3x008115)
アルコ空団“白き盾持ち”

状態異常

ルチア(p3x006865)[死亡]
ルチア・アフラニアのアバター

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、孤児院のマザーと子供達は無事に帰ることができました。
 彼らはこれからも、幸せに過ごしていくのでしょう。
 そしていつか大人になって、夢をかなえるのかもしれませんね。

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