PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Liar Break>踊れビースト

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「やあ、近況はどうだい」
 そんな、ささやかな雑談の言葉から依頼の話を始めたのは『勿忘草』雨(p3n000030)だ。
 黒い季節外れの装束をまとい、イレギュラーズ達の前にふらりと姿を現した。まるで野良猫そのものだ。
 さて、そんな言葉から想像するのはやはりノーブル・レバレッジ作戦の事だろう。
 幻想蜂起を鎮圧した事から連なるノーブル・レバレッジ作戦は大成功を納め、貴族や民衆は味方となり、果てには国王まで動き出した。
 お気に入りのサーカスへの公演許可の取り消しは、彼らへの警告となったのだろう。
 取り消しを受け、サーカスは今、身の危険を感じて王都から姿を消し、幻想領内から逃走しようとしている。
 それに対抗するのは、先の作戦で追い風となった貴族や民衆たちだ。ローレットに協力的な彼らは各地で検問を張り、逃げ道を封鎖し始めている。
 幻想からは、逃げられない。
 サーカスが壊滅させられるのは時間の問題だった。
 しかし、それで黙っているサーカスではなかったのだ。
 ただ静かに壊滅を待つなどするはずがない。全員とは言わずとも、一部だけでも国外へと逃亡しようと反撃に出た。
 こうして、各地で事件が起こる事となる。その始まりの時がまさに、今だ。
「奴ら、もう自分らが魔種……そして、<終焉(ラスト・ラスト)>の勢力って事を隠すつもりがないね」
 まさしく、悪あがきなのだろう。生きるか死ぬかの瀬戸際で、なりふり構っていられなくなったようだ。
 各地でサーカスが起因の暴動が起きている。この混乱は捨て置けば重大な被害へと繋がっていく可能性が非常に高い。
 ――が、裏をとれば、今こそ完全に決着をつける時であるとも言える。


 つらつらと現状を振り返る文句を語り尽した雨が、だからどうしたと言いたげな冒険者達を前ににこりと笑う。
「という訳で、その延長にある一件を君達に請け負って貰いたいのさ」
 手にした端末に映し出されるのは細々とした文字列。画面を見ないままに指を二本添え、広げるように動かせば画面が拡大され地図が映し出される。
 ココ、と示した場所は幻想内部にある小さな町だ。
「サーカス団員の潜伏情報を掴んだ。それと、奴が起こそうとしてる計画もね」
 雨が言うには、一人の団員がこの町に入り込み、騒ぎを起こす事で、一人でも多く幻想外部に仲間を逃がそうという魂胆らしい。
 事件が起これば、大衆の目はそちらを向く。一方向に向けさせる事で出来る隙間をこじ開けてやろうとしているのだろう。
「騒ぎに乗じて、ってやつだね。――させるものか」
 既に団員が潜んでいる小屋は分かっている。
 この街に潜伏しているサーカス団員は獣劇士ヴァイン。イレギュラーズが駆けつける頃には、従えた獣を解き放ち町を破壊しつくそうとしているだろう。
 情報によると、ヴァインが従えた獣は2体。どちらも図体はでかく凶悪だ。
 一体は巨大な翼で風を起こし竜巻を生じさせることができ、もう一体は体内に電気を発生させる器官があるのか、雷を用いた攻撃を得意としている。
 まさに風神雷神と言った所か。
 見た目はずんぐりむっくりなフクロウと白いライオンのようであるが、油断ならない敵である。
「出来るだけ被害は抑えて欲しいんだよね。君達なら、きっとできると信じてる」
 小さな町とは言え住んでる人はそれなりだ。そして、『原罪の呼び声』の影響もある。
 しかし、狂気の影響を受けたものもいるが、これまでのイレギュラーズの活躍と『絆の手紙作戦』によって生じた僅かな狂気耐性のお陰で戻って来られる段階だという。
「これは君達が今までやってきた事の成果だ。任せきりのようだが……宜しく頼む」
 自分も手伝えることがあれば手伝うと、雨は珍しくも同行を申し出た。
 どういった結末になるにしろ、見逃せないシーンであることは確かなのだ。

GMコメント

依頼を担当させて頂きます、祈雨と申します。
ついに攻めの契機を掴んだイレギュラーズ達はいかように動くのか。
以下に概要と補足をば。健闘を祈ります。

●成功条件
獣劇士ヴァイン及び使役獣2体の討伐

●場所
幻想領内にある円形の小さな町です。
人口は多くありません。町の中心部に広場があり、周囲一帯が住宅街のようです。

●敵情報
獣劇士ヴァイン
20代半ばに見える男。獣使いですが、本人も銃を携帯しています。

フクロウ(風使いの獣)
ずんぐりむっくりなフクロウのような獣です。
竜巻を生じさせて攻撃、音波での範囲攻撃などが考えられます。

ライオン(雷使いの獣)
白いライオンを数倍大きくしたような獣です。
周囲一帯に雷を落とす、硬化した爪でひっかくなどが考えられます。

●同行NPC
『勿忘草』雨(p3n000030)が同行します。
戦闘時の補佐として人民の避難や回復等動きますが、指示があれば従います。

  • <Liar Break>踊れビースト完了
  • GM名祈雨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月29日 22時46分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
黒杣・牛王(p3p001351)
月下黒牛
ガドル・ゴル・ガルドルバ(p3p002241)
本能を生きる漢
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー
星影 霧玄(p3p004883)
二重旋律
キリカ(p3p005016)
禍斬りの魔眼
リラ・アクィラ(p3p005099)
ネバーモア
猟兵(p3p005103)
砂駆く巨星

サポートNPC一覧(1人)

雨(p3n000030)
勿忘草

リプレイ


 辿り着いたイレギュラーズが見たのは、立ち上る黒煙と燃え盛る炎だった。逃げ惑う人々は悲鳴を上げ、決まった避難所もないのか散り散りになっていく。
「仲間を逃がすための行動――と言えば聞こえはいいが……」
 『本能を生きる漢』ガドル・ゴル・ガルドルバ(p3p002241)が見渡す限り、聞こえの良い言葉に反して、訪れているのは悲劇に過ぎない。
 破壊、暴動、殺害……褒められる行為ではないのは確かだ。
「これ以上、サーカスによる被害を増やす訳にはいかない」
 沸き立つ情動は、この先遭遇する獣劇士ヴァインへ。自身が犯した愚を分からせるために。
「ええ。街を破壊し、人々を害すなど……見過ごす我らではありませんよ」
 被害状況を確認しながら歩み寄る『禍斬りの魔眼』キリカ(p3p005016)は眉根を潜めた。平和だっただろう街に突如訪れた不幸は看過できない。
 仲間の為にという大義は敵ながら見事と言えるが、それを放っておく事とはわけが違う。
「慈悲はねーですよ……覚悟してくだせー」
 見逃す一手は存在しない。『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)が我先にと足を踏み出し、被害が広がりつつある地区へと向かっていく。
 ようやく追い詰めたのだ。ここで絶やさねばならない。
 実際に広場を見て、事前に把握しておいた地図と照合する『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370) はぐるりと見渡した後に一方向に視線を留めた。
「窮鼠猫を噛む、とはこの事かの」
 被害はまだ町全体に拡大していない。となれば、被害が既に出ている方へと向かえば遭遇できるだろう。マリナが向かった方向がそうだ。
「此度のネズミは随分と大仰じゃが、噛みつかれる前にとっとと始末してしまうのじゃ」
「そうですね。まず、遠ざけねば」
 『月下黒牛』黒杣・牛王(p3p001351)が頷けば、広場の確認もそこそこに敵がいる方を見据える。接敵は早い方が良い。巻き込まれる住人が多くなれば、それこそ思うつぼだ。
「ここは任せました。行ってきます」
「ステージへの過ぎた執着に幕を下ろしてあげましょう」
 言葉を継ぐ『ネバーモア』リラ・アクィラ(p3p005099)も後に続き、広場から駆け出す。無粋な演目は終演すべきだ。
 避難を請け負った二人へ声をかけると、ヴァインとその使役獣を迎え撃つ面々は轟轟と唸る音の方へと駆けて行った。獣の低い唸り声が聞こえる。
「俺達も行こう!」
 『二重旋律』星影 霧玄(p3p004883)はパチンと手を叩くと目を閉じる。避難に際して、動かせる人員は多い方が安全だろう。
 ギフト、零と無限の永劫輪廻。
 目を開ければそこには、瓜二つの人間が立っている。違いはといえば髪の色ぐらいだろうか。霧玄が黒髪に対し、相対する人物の髪色は白い。対の人格、零夜だ。
「ったく、これが最後の大博打って感じかァ?」
 やれやれと肩を竦め、『同胞殺し』猟兵(p3p005103)が溜息を吐く。似たような状況に追い込まれれば、さしもの猟兵も大博打を打つだろう。
 しかし、今は追いかける側だ。
 仲間達の背を見送り、その先にいるであろうヴァインと獣達を遠くに見据える。逃がすつもりなど毛頭ない。
 まずは懸念となりうる住民の避難が先だ。
「心強いよ、ありがとう」
 避難を担う雨も交えて、四人となった彼らは町の人達を救いに走りだした。


「広場は危ねぇからな! 必ず避けろ!」
 零夜が声をあげれば、他方では霧玄も同様に声をあげる。
 目についた人がいれば駆け寄り、怪我の有無を確認後、街の外へと向かうように指示をした。
 見慣れぬ人間ではあろうが、こちらに害するつもりがないと分かれば街の人々は素直に頷く。パニック状態にある彼らに道を示してくれる存在は今、有難かった。
「オラ、此処は戦場になンだ。危ねェからさっさと逃げとけ」
 多少荒っぽい言葉で避難を呼びかける猟兵の言葉に怯えつつも、方向が分からなくなり誤って広場へとたどり着いてしまった人々は踵を返す。
 戦闘中に乱入される危険は出来るだけ避けたいところ。
「怪我したくねェ奴は離れてろ。守りきれる保証はねェからな!」
 蜘蛛の子を払うようにしっしと手を払えば三百六十度見渡し、人手の少ない方へと歩いていく。逃げ遅れた人がいないかの確認だ。
 逆側では、霧玄が一人の男性の前で膝をつき様子を窺っていた。
「大丈夫?」
 声をかけるものの、返ってくる反応は乏しい。サーカスの狂気の影響が迫っているのだろう。
 スゥと息を吸えば、優しい音で言葉を紡ぐ。騒ぐ風に乗る歌は、その荒々しさとは裏腹に優雅に響いた。
「――諦めないで 息をしているなら どんな壁だって乗り越えられるんだよ」
 リズムを付けて紡がれた言葉は、果たして届いたのだろうか。
 苦しそうに呻いていた男が目を瞠り、何かに耐えるように眉間にしわを寄せた。
 『原罪の呼び声』の影響は今なお広がっている。しかし、霧玄達イレギュラーズの活躍によって生じた僅かな狂気耐性のお陰で戻って来られる人も少なくない。
 溜息を吐き、顔をあげた男は力なく笑い「ありがとう」と霧玄へ声をかけた。そうして、危なっかしくも自力で街の外へと向かっていく。
 イレギュラーズがしてきた事は、決して無駄ではなかったのだ。

 さて、ステージから外れて荒れ狂うサーカス団の一員は、何処だろうか。
 蛻の殻と化した小屋から逸れ、イレギュラーズは被害の広がる街並みを行く。
 煉瓦造りの壁からぬうっと白く太い脚が生えた。頬を撫でる風が一瞬強く渦巻き、鋭い羽根が宙を舞う。その先に、獣に比べてちっぽけな男の姿があった。
 ――捉えた。
 ヴァインの目の前に牛王が躍り出る。
「我が名は黒杣の牛王! 獣を侍らせ己だけ高みの見物するだけの無能者で無くば、我を仕留めに来るがいい!」
 堂々たる名乗りだった。柔和そうな外見にそぐわぬ凛とした名乗り口上はその差も相まって響き渡る。
 狂う獣達の目がギョロリと牛王を睨みつけた。
 その隙を狙うのはキリカだ。視線が牛王へと向けられた今、自身に向けられる目はひとつとして存在しない。
 風のように距離を詰めれば、真白の獅子の懐へ潜りこむ。
「余所見をすれば斬ります。本懐を遂げたいならば、まず我らからですよ」
 投げるには少々抵抗が強すぎた。が、態勢を崩させた獅子はキリカの存在に意識が傾き牙を剥く。
「役者の皆さま、ステージはこちらよ」
 クロスの裾を摘まみ、お淑やかに一礼すればリラは広場の方へと手招いた。それぞれ獣の意識を引いた牛王とキリカが誘導へと駆けだす。
「行け猛獣、一人も残すなァ!」
 名乗り口上に依る怒りは充分だ。ヴァインもまた、イレギュラーズが邪魔者であると気が付き、獣達に追うよう鞭を撓らせた。
 二人に添うようにデイジーはタンと軽くステップを踏めば、神の依代を手にくるりと舞う。移動しながらも榊神楽を途切れさせずに進むデイジーの目に、一瞬、怯える兄妹の姿が映った。その奥に見えた人影を確認すれば、息を吸う。
「そら、こっちなのじゃウスノロどもめ」
 声は人影に、雨に届いた。
 振り返った彼は目礼を返し、逃げ遅れた子供たちへ手を差し出す。無事を横目に確認すれば、デイジーは満足げに笑んでその背を見送った。
 広場で迎え撃つのはガドルだ。隆々とした筋肉を誇る巨漢はのうのうと導かれて獲物を追う獅子と猛禽を目にしてにやりと口角をあげた。
 戦う事は生きる事。目前に迫る闘争の気配に悦を得る。
 開けた場所へと飛び込んできた二体を追うように、細身の男も後に続く。手には獣を使役するための鞭の他、拳銃が握られていた。
 男が広場へと踏み込んだ後に、スッと現れる影。
「サーカスは楽しませて貰いましたが、そちらも充分楽しんだでしょー」
 マリナは逃げ道を封鎖する如くヴァインの背後に周り、魔法の銃口を向けた。


 誘いこまれたと気付いた時にはもう遅かった。しかし、獣劇士の男はにたにたとした下卑た笑みを崩さない。まだ勝算があると思っているのだろう。
「それでは開幕いたしましょう」
 広場というステージへと招かれた獣劇士と使役獣。リラはまた一度礼をすると神具を片手ににこりと微笑む。
 誰にでも見せるその笑みは、笑っているというにはあまりに冷たい。
「無粋な演目ですもの、どうぞお早く」
 淡く暗い光がリラの周囲に揺蕩う。術式によってつくられた光は、持ち上げられた指先の示す先へと放たれた。ヴァインとライオン、フクロウを別つ光術だ。
 二体を同時に相手とるつもりはない。
 厄介であろうと判断したフクロウへと詰め寄る合図となった。
 土埃が収まらぬ間に、距離を詰めるイレギュラーズ。ばさりと風結んだフクロウが晴らす時には、既にキリカが懐へと潜りこんでいた。
「この剣も、役に立てるなら」
 切り伏せましょう、魔の者を。
 狙うは読めぬ瞳で立ちはだかる風神だ。フクロウのような愛らしい外見ながら、やる事為す事獰猛に尽きる。誘導の合間も、ひとたび翼を鳴らせば外壁にかまいたちの傷跡を残し、ひとたび喉を鳴らせば音が振動を伝えて物を崩壊させた。
 キリカは妖気苛む刀を傍らに携えたまま腰を落とす。抜刀するにはまだ早い。
 ふっと息を止めれば一瞬、地を蹴り猛禽の懐へと潜りこむ。
 相手が異形だろうとなんだろうと構いやしない。掴めぬ虚空でなければ、技は通用する。
 態勢を崩しぐらつくフクロウは、暴れるようにして翼を動かし半ば無理やり竜巻を生じさせてキリカを吹き飛ばした。ダメージを往なしてキリカは一旦身を引く。
「魔種に仕えている獣は、果たして……」
 動物疎通のスキルを持っている牛王は、無差別に荒れるフクロウに対して真摯に向き合った。
 彼らは魔種そのものなのか、あるいは魔の力を持っているだけの獣なのか。
 もし獣使いに出会わなければ、従うことにならなければ、彼らはこうして暴れ狂う獣になり得なかったのではないだろうか。
 ローレットの仕事故、討つ事には変わりない。しかし、通じ合えるのであれば、最期の言葉くらいはと牛王は思う。
 返ってきたのは、脳を揺さぶる超音波だけだった。
 一瞬目を伏せ、祈りを捧げる。次に見せた瞳には、命を絶ち切る事の迷いなどなかった。距離をとる為、牛王はバックステップを踏みながら弓兵の如く矢を放つ。 狙いは怪周波をまき散らす獲物へ定めた。
「さー、華々しく散ってくだせー」
 追い打ちをかけるようにマリナが敵の抑えにかかる。描かれた光印は対象の能力を簡易的だが封じるものだ。
 風にあおられ、混じる鋭利な羽根刃に頬を裂かれるも致命的なダメージはない。
 飛び立つフクロウは中々にして厄介だった。空に邪魔のない広場は格好の狩猟場だっただろう。
 しかしそれは、イレギュラーズにとっても変わらない。大空を泳ぐデカデカとした鳥は、その素早さにさえ留意すれば狙いやすい相手だった。
 猛きフクロウへと総攻撃を仕掛ける面々を見やり、矛先を獅子へと向けたデイジーは大仰に肩を竦めてみせた。
「妾の様な華麗な乙女が斯様な化け物の抑えとはの」
 自身の数倍はあろうかというライオンが唸り声をあげて見下ろしている。ともすれば、身長程もあろうかという牙に貫かれてしまいそうだ。一手のミスが、重大な損傷に繋がりかねない。
 秘宝たる壺を手に、デイジーは軽やかに舞う。くるりとステップを踏めば、次の瞬間にはライオンの足元へと身を寄せていた。
「おお、こわや。恐ろしゅうて涙が出そうなのじゃ」
 言葉とは裏腹に、挑戦的な表情を見せるデイジー。対して雷神は邪魔な羽虫を払うかの如く、爪を立てて前足を振りかぶった。
「おっと、俺を忘れてもらっちゃ困るなあ?」
 少女と猛獣の間にとってはいるのはガドルだ。同じく獅子の抑えについた大男が逆ベクトルのパワーで前足を殴りつけ、攻撃を相殺する。
 膂力だけでの殴り合いだ。このまま拮抗していれば、いつかは圧される事も目に見えている。
 そこへ援護射撃の如く放たれるのはヴァインの弾丸。いち早く気付いたデイジーが防御の構えに入るものの、貫く弾は少なからず肉を抉る。
 イレギュラーズの考えに気付いたのだろう。情など持ち合わせていない男は、自らが使役する猛禽を捨て、少しでも数を減らす作戦に出た。
「早う頼むぞ……」
 痛みに顔を顰め、デイジーは治癒符を取り出しながら仲間を見やった。


 轟と耳をつんざく音が鳴れば、フクロウが生み出した竜巻が瓦礫を巻きこんで天に昇る。重量を備えた暴風は、取り巻くイレギュラーズにぶち当たり骨を軋ませた。
 だが、長くは続かない。
「まあ、まあ、しぶとい事」
 攻撃に傾倒する面々を陰ながら支えるリラは、名乗り口上によって集中的に狙われがちな牛王のフォローに入った。防護の構えとリラのヒールなくば、耐える事は厳しいものとなっただろう。
 一方で、回復する力など持ち合わせていないフクロウはあからさまに弱りきっていた。流す血で羽根を汚し、とうとう青の空へはばたく事もなくなった。
 地を這ったまま、風を起こす。ヴァインによる命を忠実に、文字通り命枯れるまでこなすつもりだろう。
 果てる時は近い。
『ビィイイイイ!!』
 最期の一声は、フクロウらしからぬものだった。
 なりふり構わぬ突進を、真っ先に目についたのであろうマリナに仕掛ける。重量のあるそれが全力でぶつかったのならば、無事ではいられない。
 しかしマリナは冷静だった。
 刻一刻と迫る死期を傍目に、銃を構える。狙いは真っ直ぐに突撃してきているのだから、エイムを合わせる必要もなかった。
「フィナーレでごぜーます」
 その一言と共に放たれた魔力は、瞬く間に猛禽を呑みこんで爆ぜた。
 ひとつの命が絶え、イレギュラーズは次なる標的へと切り替える。抑えに入っていた二人は被弾も多く、限界も近い。
「まだじゃ、ここで終わるにはまだ、」
「そうだとも、終わりになるのはアンタだぜ猛獣使いサンよォ!」
 劣勢に陥ったデイジーとガドルの耳に届いたのは、避難へと奔走していた猟兵の声だった。続いて霧玄と雨も合流する。
「お待たせ」
「ようやっと来たか。ここからが本番だな」
 護りの構えに重点を置き、獅子からの猛攻をしのいでいたガドルがにやりと笑う。本能をむき出しにした凶悪な笑みは、今まで秘めていたものをそのまま現していた。
 握りしめた拳は、何よりも硬い武器と成る。
 牙を剥き襲い掛かる獅子を前に、恐れる素振りなど一切ないまま頬桁を殴り飛ばした。
 巨体が宙を舞う。
 動く標的を捉えた霧玄が、自身を中心に手で半円を描いた。なぞった先に現れるのは白と黒のコントラスト。宙に浮かぶそれはピアノの鍵盤だ。
「――風よ凪げ 雷よ唸れ 狼煙をあげよ」
 紡ぐ歌は魔力を乗せて力となる。光速の魔力弾が組み上げられるとほぼ同時、射出されれば白きライオンの四肢を貫いた。
「さあ、お眠りなさい」
 至近にいたり、キリカは斑毛になった獅子の喉元を視界に捉えた。生物すべてにおいて、急所となりうる場所だ。
 体術に傾倒していた戦い方から一転、刀の柄に手を掛ける。
「左様なら」
 流星の如く流れた剣先は、見事に獅子の命を刈り取った。
「お主だけになってしもうたのう」
 ゆらり、傷だらけの身体を起こしながらデイジーはヴァインに向き直る。
 白き毛皮を血に埃に汚し、横たわる大獅子はもう二度と動くことはない。
 元はきめ細やかであっただろう羽根は散り散りに落ち、風を凪ぐ翼をこの猛禽はもう操ることは出来ぬだろう。
 獣を失った男に出来るのは、手にした銃を撃ち込む事だけだ。
「くそ、くそ、くそう……! 俺は、こんな所で……!」
 震える手で取り囲むイレギュラーズへ銃口を向ける。デイジーが一歩近付けばデイジーへ、ガドルが一歩踏み出せばガドルへ。
 もはや戦略など持ち合わせていない。そして、彼は恐らく、援軍など来ない事も理解していた。
「畜生はただ本能のままに生き、人に使役されるだけの運命だと思っていました」
 私も、そうやって生きるのだと。
 このような畜生でもと自嘲のように口にする牛王は、ヴァインに真っ直ぐ向き合った。獣使いと、黒毛の雄牛。
 本来あり得た上下関係は今、逆転していた。
「ヴァイン。必ずあなたたちサーカス団を討ちます」
 退路はもう存在しない。逃走するという選択肢すら、ヴァインには残されてはいなかった。錯乱状態に陥りかける獣劇士の男との距離を詰め、猟兵は手にした大剣を構える。
「じゃァな、博打はてめェらの負けだ」
「ヒイッ、やめ――!」
 目を見開いたヴァインは情けない叫び声をあげ、腰を抜かして後退る。投げる視線も冷たくなるものだ。猟兵が振り下ろした愛剣Garmは、迷いなくヴァインを切り伏せた。
 見苦しくももがいた男はやがて生への執着を言葉にならぬ声で口にし、緩慢に手足を動かしたのちに息を止めた。
「役者は捌けて、ステージは静寂に。サーカスの道理に倣いなさいな」
 リラの言葉はもう、サーカス団員には届かない。静かになった男は舞台から堕ち、血の中に沈んだ。
「貴方がたは、多くを奪い過ぎたのですよ」
 見下ろすキリカがぽつりとつぶやく。救われる道は、なかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

プレイングお疲れさまでした。
サーカスによる襲撃は各所で鎮圧された事でしょう。この先、どうなるかは貴方がた次第。偉大なる功績に称賛を。
ご参加ありがとうございました!

全く関係ない話ですが、でっかいライオンの描写をしながら、これだけでっかい猫がいたらなあ……なんて考えていた祈雨でした。もふもふ。

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