シナリオ詳細
オーバー(ヒート)テクノロジー
オープニング
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R.O.Oの世界におけるラサは『砂嵐(サンドストーム)』と呼ばれている。
現実世界と同じく巨大な傭兵団として活動している……が、同時に超巨大な盗賊団の側面も――いやある意味それこそが前面に出ている――のがR.O.O世界における特徴だ。かつて現実には滅びた砂蠍や大鴉盗賊団の長が中核に座しているのがその証左と言えよう。
故に彼らはあらゆる悪を肯定する。
窃盗も襲撃もなんでもござれだ。
一応、友好的な商人や個人は対等以上に扱われる事もあるが――世の中には砂嵐と『そう』ではない人物の方が当然多い訳であり。
「へへ。砂嵐に逆らうたぁ無謀だったな……オラ! ここに入ってろ!」
そしてある日。砂嵐に属する傭兵団……いや盗賊団に捕まった人物達がいた。
ネフェルストから少し離れた所にある盗賊団の拠点に囚われたのは――なんとこの世界の創造に関わっていた練達の技術者達だ。世界にログインし、多くのデバックや情報収集にあたっていたは良いのだが……世界に蔓延るバグに巻き込まれて帰れなくなった組か。
やがて砂嵐の領地に踏み込んでしまい、この盗賊団に目を付けられてしまった訳だ。
まずい。このままではどうなる事か――人身売買などをされてしまえばそれこそ救助など……
「くっ、何故だ……いざとなればどんな状況でも切り抜けられるようにチート装備を開発していた筈なのに……」
同時。両腕を拘束されながらも技術者の一人は思考を止めなかった。
そう、こんな事もあろうかと万一の事に備えて運営用のチート武器を開発してR.O.Oに乗り込んでいたのだった。何か敵対的なNPCが現れても粉砕できるようにと。
しかしいざ危険な事態に遭遇してみれば武器は一寸の役にも立たなかった。
これなら適当に棍棒でも持ってた方がマシだったような……そんな威力しか出なくて。
「これもバグの一つだというのか……!? くっ、突如武器が使えなくなるなど致命的なバグだ! これは一刻も早く上層部に報告せねば――ッ!!」
「あ。ごめん、実はね俺がよかれと思って武器のデータにアップデート掛けたら既存のプログラムが動かなくなるようになってたみたいでさー。それで粗大ごみが生まれてたみたいなんだよね、HAHAHA!」
「はっ?」
言うは共に捕らえられた研究者だ――まて今なんて言った?
聞くにどうやら彼は同僚に黙って(というかそんなに重大な不具合はないだろうと)新規パッチを当てて武器のプログラムに変更を加えていたらしい。いやーまさか既存の全てをぶっ壊すとは見抜けなかったぜ……!
いやまぁね? 仮にね? 何かあったとしてもね? 練達上層部が仕掛けていた幾つもの安全装置が機能しないはずがない! だから何かあってもすぐにサポートを受けられるだろうと過信していたらバグも発見されてこれだよHAHAHA!
「HAHAHAじゃねぇんだよ今確認したけどこれパッチでやる範囲じゃねぇだろこの×××野郎! 今まで問題なかったのになんで、んな事突然してんだ!! しかもなんかエラー吐きまくって大変な気配が……くそ! せめて告知して事前に情報共有しておけや×××! ×××××――!! こんな事するから突然Oops! とかするんだよ――!!」
「わ、やめろ! 騒ぐと連中がまた来……母国語出てるぞ! わーやめろー!」
両腕縛られながらも思わずムカついたので蹴りを叩き込む研究者――まぁ彼らのトラブルはともあれ、この状況をどうにか打破せねば身が危険。しかし武器も取り上げられ、囚われの身ではとても打開策など思いつかない。
助けは天に祈るしかないのか――
同僚にブチ切れながら、研究者は嘆く様に良い蹴りを腹に叩き込んでやった。
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「ようこそおいでくださいましたイレギュラーズ!
実は助けを求める研究者の声を察知しまして……」
所変わって練達。今からR.O.O世界にログインしようとしているイレギュラーズ達は呼び止められた。なんでもR.O.Oを観測している練達のメンバーが、ログアウトできない状態に囚われた研究者メンバーを発見したらしい。
かの世界には正体不明のバグが発生している。それゆえに一時的に連絡が取れなくなった研究者などもいたらしいが……その一部を遂に捉える事が出来たという事か。しかし、どうにも彼らは盗賊団に囚われている様で、身動きが出来ないらしい。
「このまま彼らがまたどこかに運ばれるような事になって、見失う事があれば再発見にはどれだけ時間がかかる事か……それで皆さんには救出活動を行ってほしいのです」
目的地は砂嵐の首都ネフェルストにおける郊外だ。
盗賊団の拠点は割り出せている。その内部情報までは、バグ故かなんなのか手が出せなかったようだが……しかし恐らく複雑な構造をしているという訳ではないだろう。内部の盗賊団を撃破し、研究者を外に連れ出してほしいという依頼だ。
「まぁ要は邪魔な盗賊団をぶちのめせと」
「はい。ただ、一点懸念がありまして……」
「――と言うと?」
「実は、なんか、こう。妙な反応があるのです。
一言で言うと『オーバーヒート寸前の爆発物』があるみたいな。
そんな反応がフィールドのどこかに……」
随分と歯切れの悪い言葉だ。まるで爆発物でもあるかの様ではないか。
「いやそんな爆発物がある筈はないんですけどね……でもなんかそういう反応が見えるんですよ。こんなんに巻き込まれたら拠点ごと吹っ飛んじゃいますね」
「……つまりその爆発の前に研究者を助ける必要もある、と」
スピードも重視されるという事か――なんとも面倒な事である。
零す吐息。されどこれも依頼ならばと、イレギュラーズ達は歩を進めた。
R.O.Oの世界へ――ログインする為に。
- オーバー(ヒート)テクノロジー完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月31日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「さて――また研究員様の救出ですか……」
一体どれだけ捕まってるんですかね、と紡ぐのは『人形遣い』イデア(p3x008017)だ。
見据える先には盗賊団の拠点――あそこの中に目標がいるのか。
やれやれ練達の研究員たちも予期せぬバグがあったからとはいえ、もう少し気を付けてほしいものだが……まぁとにかく敵の数は優勢。となれば己の役割は陽動を行うべきかと思考しつつ動きを見せる。
「ったく、建物がぶっ飛ぶなんざシャレにならねぇな。盗賊共をぶちのめすだけならまだしも……タイムリミット付きってのは流石に厄介だ」
「そうだねぇ。爆発なんてぜーったいだめだからね! ま、もし万が一爆発しちゃったとしても部屋が吹っ飛ぶぐらいで済むと思うけど!」
それは『クリムゾン・ドラゴニア』アクセル(p3x007325)や『ひよっこヒーラー』ルフラン・アントルメ(p3x006816)と共に――だ。しかしラサ……いやこの世界では砂嵐、だったか。
知っている空気がここに在り、しかし違う世界。違う国。
だがそうだと頭ではわかっていても――電子たる空想の世界と言えど――
アクセルにとってはとても他人事とは思えない。
(……見過ごせる筈がない。救出に向かう皆さんが動けるように陽動に尽くさなくちゃね)
往こう。いつ爆発するとも知れぬ危険物もあるのだから。
配置に付くイレギュラーズ達――まず陽動として先陣を切ったのは。
「失礼――こちらが砂嵐に属するお歴々の集まられる地でしょうか?」
『夜の踊り子』ライラ(p3x009802)だ。
ライラ――いや現実世界におけるハビーブはこの手の輩の好悪に『解って』いる方だった。外見上無防備かつ、美貌を携えた女が訪れれば如何な反応をするかなど手に取る様にわかるものだ。ふふふ。
(――この時の為にわし好みのいい女に仕上がったアバター『ライラ』をないすばでぃにしただけの事はあるわ! 酒と金と女とちんけな自尊心はどこの世界でも、電子の中であろうと一緒であろう!)
下卑る顔を見れば己が陽動の策が機能している事に、心の中でガッツポーズ決めるものだ――あ、でもこの事はわしの妻たちには漏らさんでくれよ? 頼むぞ? ホントに頼むぞ?
「へへ、こんな所に嬢ちゃんが一人で何の用だ?」
「ええ……此方においでの方々は、随分とお強いと伺いました……
些か訳ありでして、どうか私達を匿ってはいただけないでしょうか」
背後にこっそりと控えていた『いもうと』のNPCと共に。
彼らの手中に自ら入り込んでいく――であれば。
「よし。今の内に進むとするか――頼りにしてるぜ、グレイシア」
「此方こそ、敵との遭遇時等頼りにさせてもらう」
その陰にて。言うは『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)と『世界の意思の代行者』グレイシア(p3x000111)の二人だ――奴らの警戒が圧倒的に緩んでいるこの隙に研究員たちの所在を探ろう。
暗がりに乗じて内部へ侵入。後はグレイシアが生命の鼓動を感知するのみ。
誰が誰とハッキリ分かる訳ではないが――非戦闘員の脅威度はそう高くあるまい。ならばある程度『アタリ』を付ける事は不可能ではなく、故にグレイシアが捜索を担当し、リュカは万が一の時の為の荒事の為の警戒を成す。
「救出対象は、ええと二人? だったかしら! 無事だといいのだけれども……怪しげな反応もあるし、救出を果たせたらさっさと退散したい所ね……!!」
「まぁ……なんだろうな、その、報連相は大事に、ってな……! いやな予感がヒシヒシしてるのがホントにやべぇ気がするが、努力するぜ――無事に帰れるようにな!」
更に万一荒事が始まった際に備えて敵を呼び寄せる事にも役立つランプを『霞草』花糸撫子(p3x000645)は準備し『冒険者』イルミナ(p3x001475)は周囲の気配を窺って己が役目の時を今か今かと待っていた。
……肌を刺すように来る『嫌な予感』がなんとも、心に不安を抱かせるが。
しかし即座に何かが起こる訳でもあるまい――気を引き締め周囲を注意して。
「むむ、なーんか砂嵐はさ、ここだけじゃなくて全体がというか……ラサより危ない感じがするよ! こっちだと地元……えぇと翡翠とはあんまり仲良くないのかなぁ……でもラサと言えばル……リュカさんとディルクさんも一緒なんて心強……」
同時。共に進むルフランが視線を向ける先はディルク――いや違うこれはリュカ――え、そっくりでは? え、えっ? えっ!!?
「ええ、ディルクさんじゃないの――!? だってそっく、もが!?」
思わず大声を出してしまいそうになった所で口を塞がれるルフラン。リュカの大きな手の内で『もごーもごもごもご? もごご!』と言っているがなんと発音しているのだろうかこのリスは!
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さて――ライラの陽動は正に佳境を迎えていた。
話の前にと盗賊どもにしなだれかかってお酌を自ら。さすれば、おお出るわ出るわ鼻の下が伸びる連中が。奴らもすっかり気を許している様である――まぁいもうとNPCはともかく、一人で何か出来るなどとは思ってもいないのだろう。
実際は陰で動いているメンバーがいるのだが。ふっ、ついでに感応的な踊りでも披露しつつ武勇伝でもせがんでみるか――? まぁもしかするとガチめに迫られてくる可能性が無いわけでもないのが怖いが。
「ぷはー! いや今日は良い日だぜ! 人も浚う事が出来たしな、へへ!」
「まぁ……皆様に捕らえられるような輩がいるのですね? 何と愚かな人たちでしょう……けれど、皆様がいらっしゃるとはいえ怖いわ……もっと遠くに遣って下さらない?」
「へへ、安心しろよお嬢ちゃん。牢に閉じ込めてるから出てこれねぇさ」
目を潤ませて懇願するライラだが、流石に移動までは促せなかったか。
まぁ良い。元々本気で移動させる事よりも、それにより生じる隙が味方の支援となれば――と思っていたのだ。逆に己を遠ざけるなら何人かの足止めにも繋がろうと。
しかし周囲には盗賊だらけだ。これで戦いが始まれば己は絶体絶命の危機だろう。
まぁ所詮この世界はゲーム。万が一死してもやりようはある――と思っていれば。
「さあさあ、楽しいことがお好きならこちらにいらっしゃい! たくさん聞いていって!
今宵、一夜限りの歌声を――お楽しみあれ!」
直後に騒ぎが発生する。それは花糸撫子の一声だ。
派手に動くその様子は――救出班の存在を隠すため。
これは只の襲撃であると。腰に付けたランプと、神秘なる声が周囲に満ちる。
一体何事かと、近くに至る者あらば彼女は引き連れ攪乱するのだ――
「ほら、こちらを見て?」
折角……とは言わないけれど歌っているのだもの。
この一時だけしか聞けぬ歌声に酔い痴れて?
「さぁさどうしたァ! この程度かよ、テメェらの実力ってのはよォ!!
砂嵐ってものの程度が知れるなァ!!」
同時。アクセルもまた赤き獣が襲来したかのごとき一声を。
砂嵐所属盗賊団ってのがどの程度の手応えか……お手並み拝見、と言った所か。
『殺意』を伴う一撃を敵へと。彼もまたこれでもかと、派手に暴れて注意を引き付ける。
流石に一撃ではくたばってくれないだろうが……まぁ。
「こちらとしてもお寝んねしてくれないと困るんでね――二回でも三回でもやってやんよ」
口端釣り上げ『狩る』側だと。
闘志を漲らせて――暴れるものだ。
「くそ!! どこの手のモンだテメェらは!!」
「囲め囲め――!! 敵は少数だぞッ――!!」
「よっしゃ、遂にアタシの出番だー!!
いいよいいよ! ぶっ飛ばされたい奴ー、前に出てこーい!」
であればやはり多くの気配が『そちら』へ向かう――イルミナの声も発せられ、より激しい一撃が振り下ろされれば文字通りに吹き飛ばされる者もいるものだ。
「受けられるもんなら受けてみな、チャンスは一度っきりだぜ……でぇい!!」
壁にぶつけて音を鳴らし。全てを己に集中させ――故に。
「――無事か? 奴らに捕らえられた練達の研究者だな?」
その間に、グレイシアが研究員たちの下へと辿り着くものだ。
牢の前。鍵を悠長に探す暇はない故、なるべく静かに壊しながら彼らに接触して。
「な……ま、まさか救援か!!?」
「ああ、混沌――つまるところ現実のイレギュラーズだ。待たせたな」
「然り。練達の側から依頼を受けてな……詳しい経緯は省くぞ。
それと悪いが、抱えて逃げる程の余裕は無い。吾輩から離れないように」
リュカも加わり拘束を解き外す。こういった行動も、アクセル達が暴れている今しかないのだから。
制限時間はあとどれくらいだろうか――? もう少しばかり時がある事を願いながら、グレイシアは周囲の様子を一端確認する。多くはライラや花糸撫子たちが引き付けているはずだが、全員が全員あちらに行ったとは限らない。
近くから人の気配はないかと探り、警戒し歩を進めていれ――ば。
「――いるな。前方、気配がするぜ。こっちにはまだ気づいてねぇようだがな……」
後を歩むグレイシアの行動を手で制したのはリュカだ。
ここまではなんとか静かに来れたが、流石に帰りまで平穏とはいかぬか。
――だがそんな事態は当初より想定済みだ。
遂に己の出番が来たのだと分かれば――彼は跳躍して。
「遊んでやる暇はないんでな。悪いがさっさと沈んで貰うぜ!」
加減はしねぇ、とばかりに。目前にいた敵二人を纏めて巻き込む撃を一つ。
懐に一気に飛び込んでぶち込んでやるものだ――機先を制し、一気に流れを呼び込もう。グレイシアもまた続く様に、己が影を操る術を行使。奴らの動きを阻害しリュカの動きを支援しよう。
――各所で響き渡る戦闘が激化している。
陽動と、救出と。それぞれが役目を果たしているのだ――
あとは最後まで果たせるか。脱出を果たせるか。
数で勝る盗賊団が徐々にイレギュラーズ達を押し込む様な動きも見せ始めた、その時。
「んぉ? なんだお前ら……ぎゃ!?」
倉庫の方へと辿り着いた人影が――二つ。
それはルフランとイデアだ。迷子の様に『ふえーん』と悲しい声を挙げながら、油断させると同時にルフランは見張りの男の腹へ無慈悲なる一閃を叩き込んでやった。えっへん。かわいいは武器!
「これが噂の武器だね! ……なんか温かくない? すっごい温かくない?」
「ふむ――しかし、随分と『力』も感じるものですね」
これは戦力になりそうだと、イデアは手に抱いて握り心地を確かめるものだ。
爆発されてはたまらないので取り扱うなら慎重に――だが。しかし剣はやはりいいものだ……この世界では『糸』を使っているが、しかし現実の感触からすればやはりこちらも捨てがたい。
「いざという時の自衛にだけ用いてみましょうか――むっ!」
瞬間。背後に迫っていた気配を素早く感知したイデアが剣を横薙ぎ。
それは反射に近い咄嗟の出来事であった。いつもの様な感覚で剣を振るえ、ば。
空間を捻じ曲げ壁を破砕し、全てを飲み込む時空の歪みを伴う撃が――発生した。
至っていた盗賊は悲鳴を挙げる間もなく一刀の下に――
「…………よし、とても強力な武器が手に入りましたね。すぐに捨てたいですが」
「そ、そうだね! 皆の助けに行こうか!! 私たち、ヒーラーだしね!!」
めっちゃくちゃ熱くなってる武器をルフランは見ながら心の臓の鼓動が跳ね上がるのを確かに感じていた。これが……恋? いや命の危機感だなコレ。ともあれ研究者は救出し、厄介な剣も入手した――あとは上手く撤退するのみである!
●
「ハッハ――ッ!! 俺はまだ生きてるぞ!? どうしたよ気概を見せろやァ!!」
多くの傷を負おうとも、多くの血を流そうともアクセルの闘志は衰えなかった。
それよりも倒した数の方が多い――地を舐めている盗賊団は既に幾人も。
急所を狙いて正確に穿つ。
追い詰められれば追い詰められるほどに牙を見せるのが。笑みを見せるのが獣の証だ。
「さてさて……そう簡単に命を差し上げる事は出来ませんので。ご了承のほどを」
同時。盗賊団の中にいるライラは流石に危機に陥っていた。
これ以上は時間も引き延ばせぬと彼女も己が闘争の意思を振るわせるのだ。周囲は敵ばかりとなれば恐らく生きては戻れぬが……かといってタダで死ぬつもりも毛頭なかった。情熱的な夜の踊りは、観客を千夜一夜の夢へと誘い――夢心地のままにそれぞれを狂わせる。
「――見て、アクセルさん! 合図だわ!」
瞬間。アクセルは花糸撫子が指差した方を見れば、そちらからは火の手が上がっていた。
決して火の勢いは強くはない。恐らくマッチなどを用いて布や紙類に火をつけた程度だろう。
しかしその程度であっても煙は上がる。そしてソレだけで十分だ――
「研究員は救出した、と。これで皆にも伝わるだろう」
「ああ――さ、あとは全員で帰って打ち上げと行こうや」
その行動を果たしたのはグレイシアだ。拠点が火事という意識もあらば、盗賊団たちの注意も散漫となろう。その間に陽動組の撤退もしやすくなるはずだ――だからこそリュカは一足早く拠点に戻り、陽動組の支援を行う。
まさかラサをモデルにした相手と戦う事になるなど初めは思っていなかったが。
しかし――人浚いを是とする様な輩は気に食わない。ぶちのめすに遠慮はなくて。
「成程な、現実のディルクのアニキも……こんな感じなのかねえ」
零すように呟けば。
かつての人身売買事件を止めに走った際の気持ちが、なんとなし分かるようだった。
「よし、退くぞ――! 敵に構うな、出口の方を一直線に目指すんだ!」
同時。内部ではアクセルが声を荒げて脱出の道を辿っていた。
流石にそろそろタイムリミットも来るはずだ。時間は分からぬが『嫌な予感』がする。
邪魔をする輩をねじ伏せて。火事も発生している混乱の中を突き進み――
「みんなー! こっちだよこっち――! 怪我してる人、いる!?」
「私も微力ながらお手伝いしますよ。あと一歩なのです、参りましょう」
さすればルフランとイデアと合流する。彼女らの治癒の力が働けば傷を癒して。
そして――その手に抱いている剣が、なんか、めっちゃ凄く熱を発してた。
……見るだけで既にオーバーヒート直前であることが分かる。
「チョーヤバイってソレ! 早く捨てよ!? アタシの勘がずーっと囁いてるんだよな!」
「ええ無論です――ルフランさんも、いいですね?」
「オッケーだよ! うんうん、こんなの捨ててさっさと打ち上げいこー!」
イルミナの背筋に鳥肌が立つが如く。故にイデアが糸を操り、ルフランの手にある物も含めて――拠点の方へと投げ込むものだ。『ごはんごはん~♪』と甘いキャンディを舐めながらルフランが勝利を確信すれば。
「待ちやがれテメェら! このままタダで帰すとでも――」
盗賊団が声を荒げた矢先、その足元に落ちてきた剣の熱量が最高点へと達すれば。
直後。爆発音が轟いて、核爆発みたいなキノコ雲が発生する――
衝撃波が周囲を襲い。窓を割って熱風と共に。
イレギュラーズ達は既に幾らか離れていたが故に怪我はなかった、が。
……えっ。めっちゃ危なくない? え、あんなの今まで振るってたの? えっ?
「……………………うん! でもみんな無事だからいいよね!!」
思わずリス顔のルフラン。
一歩間違えれば壊滅してた現場だったが、まぁ終わり良ければ全て良し!
ええとこういう時はどういうんだったか。そうそうこうだったかとイデアが。
「……たーまやー」
……きたない花火ですね。
一瞬で廃墟になった盗賊団のアジトを見ながら――イデアは虚ろな瞳でそう零したとか。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
うーん。たーまやー!
はい! 依頼お疲れさまでしたイレギュラーズ!
はちゃめちゃな領域の爆発……これもR.O.Oが故という事でしょう。
ともあれ研究者は助け出されました! 囚われていた彼らもログアウト出来る事でしょう。
ありがとうございました!
GMコメント
崩れないバベルがあるのに母国語って出るのかと思ったんですが「幸せ」と「ハッピー」という二つの異なる国の言葉が同時に存在している様に問題ない範囲であれば元々の世界の言葉が出ても特に不思議はないんじゃないかというかまぁ細かい事は良いんだよと言う事で一つ!
●依頼達成条件
建物が吹っ飛ぶ前に囚われた研究者二名の救出!
●フィールド
ネフェルスト郊外の傭兵団――というよりも盗賊団の拠点です。時刻は夜。
周囲は人の住んでいない廃屋などが並んでいる場所で、その一角に彼らがいます。そこそこ広い人数が収容できる建物の様です。周囲が暗いので近づくのはさほど難しくないでしょう。
救出対象者はこの拠点の中のどこかにある牢屋に囚われています。
探し出し、救出してあげてください。
●敵戦力『砂嵐所属盗賊団』×??名
悪名高い砂嵐に属する傭兵団――いや、盗賊団の者達です。
何名いるか正確な所は分かりませんがイレギュラーズよりも数が多いのは確実です。十人以上は間違いなくいるでしょう。装備は剣や斧、それから弓など物理的な要素に寄っている様です。
シナリオ開始時は拠点で酒を飲んだりしてます。
●運営用特殊武器(剣)×2
研究者が持ち込んでいた運営用の武器……が、なんか間違った調整をしちゃったらしくて使い物にならなくなっていました……と思いきや。実は攻撃力0の状態から少しずつ、少ほんの少しずつ攻撃力が上がっていってるみたいです……それこそ延々に。
しかしデータ負荷なのかバグによる特性なのかオーバーヒート寸前です。
その内大爆発を起こします。今は拠点の倉庫に放置されてるようですが……
手にした人物は一時的に大きな攻撃力を得ることが出来るでしょう――
●救出対象
練達所属の研究者二名です。
R.O.Oのテストの為にログインしていたのですが、バグなどが重なりログアウトできず、やがて砂嵐所属の盗賊団に捕まってしまいました。なんか喧嘩してますが、とりあえず彼らを救出してあげてください!
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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