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シナリオ詳細

<ナグルファルの兆し>nomina nuda

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「マルガレータ・フォン・ミーミルンドについて?」
 そう問われた側である『奇しき薔薇』ベルナデット・クロエ・モンティセリ (p3n000208)はよく知っていると頷いた。
 癖の付いた金の髪を美しく結い上げた女は「またなんでミーミルンドなんだい? 落魄れた家じゃあないか」とそう言った。

 ベルナデット・クロエ・モンティセリ――社交界の仇花、ローザミスティカの異名で通る『犯罪者』
 彼女はフィッツバルディ家に一員である。フィッツバルディ派貴族であるモンティセリ家に嫁ぎ、嫁ぎ先で起こった不審死の責任を問われた不幸な女。
 監獄島の実質的支配者であったが、『幻想を騒がせる一件』で毒には毒だと言わんばかりに秘密裏に外へと引っ張り出されてきたそうだ。
「帰る前に可愛い玩具(アンタ)達の顔でも見て帰ろうと思っちゃいたけどね、はあ、そうかい。ミーミルンドが黒幕と。
 あのオドオドしたベルナールの坊ちゃんがそんな事出来るわけなかろうに。マルガレータと『同じ』かねえ……」
「同じ?」
 マルガレータについてを問うた側である『春疾風』ゼファー(p3p007625)はローザミスティカの言葉の意味が何となくは分かっていた。
 スピリタリスの街、崩壊したその場所。
 そこで勇者選挙に託けて力なき子供達が犠牲となる『段取り』が整っていた。
 死を糧にするという何らかの儀式。マルガレータの為と願う複数の人間。
「……ベルナール・フォン・ミーミルンドは口車に乗ったか、担ぎ上げられただけって?」
「まあ、そこまでは言わないさ。聞いてみりゃあ、ベルナールの坊ちゃんも随分『変わって』しまってんだろう?
 色々と尾鰭は付いているだろうがね、まあ、敵の手の内を探りたいってんなら先ずはその周囲の情報を確かめるのは良い事さ」
 ふむ、とゼファーはローザミスティカの顔を見遣った。

 ――月の男爵。美しき幻想の智慧。『相談役』『賢者』

 そう謳われていた頃のベルナール・フォン・ミーミルンドは跡形無く。
 今は、『マルガレータ・フォン・ミーミルンド』の格好を真似した女性のような姿かたちをして居る。
 美しい銀髪に濃い化粧がそのかんばせを多い女を粧い続ける。
「噂があるのだけれど、ローザミスティカはどう考えるか聞いても良くて?」
「ああ、どうぞ」
「『マルガレータ・フォン・ミーミルンドを蘇生させたい』と考えている」
 その言葉にローザミスティカは「まあ、ありえるだろうねえ」と小さく笑った。

●マルガレータ・フォン・ミーミルンド
 ローザミスティカ曰く、その女は変わり者であった。
 ミーミルンド男爵家は落魄れたと言えども『王の相談役』として爵位を賜っている。故に、ミーミルンド派と呼ばれる小さな派閥を形成する事が叶っているのだが……
 その家の『マルガレータ嬢』が王太子であるカイン――現王フォルデルマン三世の婚約者候補に名が上がった時に不味いことになったと感じたそうだ。
「『本人』に興味はなくとも、王妃の座には興味がある奴はそりゃあ多いだろうさ。
 アタシかい? アタシは元から公爵家の人間なんでね、興味は無かったさ。まあ、色々と婚約者候補の名はあがるもんだよ」
 けれど、マルガレータはマルガレータという本人に『事情』があったのだ。
 主義主張が余りにも貴族らしくはない。

 ――奴隷だって人間だもの。正当な人権を与えるべきです。家族として扱いましょう。

 まるで犬猫の保護施設でもあるかのように。奴隷を買っては自身の邸宅で保護をする。名は、あくまで与えず『仮の番号』を可愛らしくなぞり呼んだ。
 何時か、名乗りたい名前が出来たら自己申告を。
 学も、食も、何もかも。衣食住をしっかりと与えた奴隷達は上流階級に召し抱えられることもあれば、市井で商いを行う者も居た。
 一人前になれば、恩を返したいと願う子供達。其れを是とする『慈善事業』

「ねえ、王族や貴族に生まれただけで支配階級に生まれ、貧民に産まれただけで虐げられる理由は何かしら?
 私は男爵家に生まれて綺麗なドレスに身を包んで、食事だって整ったものを食べられるわ。けれど、それはあくまで『親がそう』だったから。
 ……それって、不公平よね。奴隷だと言われても、彼等は同じ人間だもの」

 そんな台詞を口にしては続けてきたその『慈善事業』を利用して、婚約者候補に名前を挙げたのは話題性作りだった。
『貴族らしくない』『国母に相応しくない』『落ち目の男爵家令嬢』『イイコちゃんぶった女』と後ろ指を指されるマルガレータ。
 だが、インパクトは十分だ。
 あとは、カイン王子の目にとまれば――……


「まあ、どうなったかは解るだろうに。
 目立ちすぎたマルガレータは物の見事に馬車の事故で死んじまった。
 護衛騎士は……アンタ達の所のギルドマスターがアタシに渡してくれた情報を見りゃ『スピリタリス』で反転してたそうだねえ」
「ええ。マルガレータ様を護れなかったって悲しんで、ね」
「――そうかい、そりゃあ……。

 ああ、丁度良い。此の儘茶会を楽しんで『知りたいことを知って帰りなさい』。その前に一つ頼まれてくれるかい?」
 表情を一度たりとも返ることのない女は紅茶を自身で準備すると席を立った。
 擦れ違いざまにイレギュラーズへと大してぽつりと一つ。

「窓の所に三人。それから、外であと五人。
 ……よっぽど『マルガレータ様』について知られると困る奴がいるんだねェ。
 守ってくれるかい? これでも、今はフィッツバルディ家の『お客様』である『ベルナデッド様』だからね」

 ――刺客がやって来たか。
 茶会の前に其れ等全てを撃退してしまった方が良いだろう。

GMコメント

 夏あかねです。

●成功条件
 ・刺客を倒しきること
 ・ベルナデットとの優雅な茶会(情報交換)を楽しむこと。

●フィッツバルディ別邸
 フィッツバルディ公爵家の所有するタウンハウス。その中でも最も郊外に位置して目立たない場所です。
 ローザミスティカ曰く「アタシを隠している」そうです。故に、様々な障害が訪れたのでしょう。

●刺客達
 窓の外に3人、更に外側には5人だそうです。合計8人。手練れでしょう。
 彼等はローザミスティカごと皆さんを始末してしまいたいのだと想定されます。
 理由は『マルガレータの話をするから』だと思われますが彼等を捕縛し情報をゲットしても良いかもしれませんね。
 ……その後昏睡させておけば問題は無いでしょうから。

●ローザミスティカ
 フィッツバルディ公爵の姪。社交界の仇花。見た者に『外見を何となくうやむやに勘違いさせる』ギフトを所有しています。
 監獄島と呼ばれる幻想王国の犯罪者収容施設の実質的権力者です。
 今回は幻想を騒がせる奴隷騒動に犯罪者の投入を行うために『取引』をして手を貸したようです。
 フィッツバルディ公爵とも気の置ける中ではないようです。彼女自身もワケありですから……。
 社交界に関しては詳しく、現在においても『手足』達が社交界での情報を収集し続けているようです。

●お茶会、情報交換
 社交界の情報にはこの人。ベルナデッド・クロエ・モンティセリ、こと『ローザミスティカ』です。
 彼女は様々な情報に精通しているために、本件を取り巻く貴族達の事情について『犯罪者独自ルート』を使用した彼女の意見を聞くことが可能です。
 刺客を撃破後、普通にお茶会を楽しんでも大丈夫ですし、何か聞きたいことがあればどうぞ。
 お茶会では上質な紅茶やサンドウィッチなどの軽食を頂くことが可能です。
 ローザミスティカは『現在は貴族ではない』ので何だって適当に答えてくれます。責任は取りません。

 *マルガレータ・フォン・ミーミルンド
 ベルナール・フォン・ミーミルンド男爵の亡き妹。フォルデルマン三世の婚約者候補でした。
 奴隷制度を厭い、奴隷達を養い教育を施す慈善事業。ある意味『綺麗事しか解らないお嬢さん』そのものです。
 王家主催の舞踏会に赴いた際に馬車の事故で亡くなったそうですが……。

 *ベルナール・フォン・ミーミルンド
 奴隷騒動で名が聞こえてくるミーミルンド男爵家の当主。美しい男性でしたが、現在は『女性』、そう亡き妹の格好をして居ます。
 彼自身はマルガレータの忘れ形見である奴隷達を大切にしていたようですが、『大切な子ほど早く手放そう』としていました。
 そして、現在は自身の家の家族(奴隷)を派閥内へと差し出し、其れ等が勇者候補として各地で犠牲となったようです。

 *クローディス・ド・バランツ
 ミーミルンド派の青年。奴隷市の黒幕だとされています。ベルナールに心酔し、褐色の肌の少年が好ましいそうですが……。

 *フレイス・ネフィラ
 ????

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <ナグルファルの兆し>nomina nuda完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月03日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ

リプレイ


 一級品ばかりを取りそろえた上質な客間。フィッツバルディ家が所有するタウンハウスとして申し分の無いその空間で、気軽なお茶会での『トーク』で本日の仕事はお終い――と考えていた『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は「やれやれ」と肩を竦めた。
「おもてなしが必要だというのならば、仕方在りませんわね」
 少しばかり手荒いもてなしであれども客人は喜ぶと、本日の主催は軽やかにヴァレーリヤへと返事をした。溜息を吐いていたヴァレーリヤの傍らで『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)は「お客さんが来たね」と窓の外をちらりと見遣る。
「全く……どこの世界も政界の闘争というのはおどろおどろしいものだね……」
「ですが、愉快そのものでしょう」
 実に興味をそそられるのだと『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)はそのかんばせに笑顔を張り付けた。
「マルガレータ嬢について聞きたかったのですが。『お客様』がいらっしゃるとのこと。
 ……このタイミング、というのはどうしたことでしょうね。『事故に見せかけて殺された』以上の事があるのでしょうか」
「さあ、どうだろうねえ。『事故に見せかけて殺された』という事実そのものが『口封じ』の内容かもしれないよ。アーヴィン卿?」
 軽口を挟んだローザミスティカにウィルドは「それも在りますか」と頷いた。市井でのマルガレータ・フォン・ミーミルンドの死因は『事故死』だ。それがそう見せかけられ殺害された事こそ、最も知られたくないことであろう。
「ちょいと特殊とは云えVIPを狙いに来るなんて、ねえ。こいつは終わった後も中々怖い奴だわ?」
 くすくすと小さく笑った『春疾風』ゼファー(p3p007625)はローザミスティカに「耳が良いのね」と揶揄うように笑った。
「勘が良いのさ」
「さて、お客様のお迎えの準備は?」
 問い掛けたゼファーの言葉にドレスの裾を持ち上げて剣靴を覗かせた『剣靴のプリマ』ヴィリス(p3p009671)は「丁重におもてなししてあげましょう」と唇に笑みを乗せる。
「お邪魔虫だもの。前奏は手早く終わらせて楽しいお茶会にしましょうね?」
「ふふふ。けれど、わざわざ刺客を差し向けてくださるなんて。とっても『愉快』だと思いませんか?
 知られたくないからこそ、口封じを。そうなると知りたくなるのが人情と言うものですよね? お茶会に花を添えて貰ったかのよう」
 くすくすと笑みを零した『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は窓を一瞥して小さく頷いた。
 前線へ向け、外部へ気付かれぬように近付いてゆく『挫けぬ軍狼』日車・迅(p3p007500)は「良い天気ですね」とわざとらしく声に出した。
 彼が流し見る先にはローザミスティカの護衛を務める『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が立っている。壁を抜け、外を確認するココロは四方をチェックして「本当に良い天気ですね、『窓』を空けても良い風が入りそう!」とわざとらしく言った。
 それこそが合図だ。直ぐ様に地を蹴り外部へと飛び出したのは迅。窓の外で此方を伺っていた三名の刺客を真っ直ぐに視認する。
「おや、『虫』だ。ローザミスティカ殿、如何なさいますか?」
「やだねぇ、虫なんて『部屋の中に入れないで』おくれよ」
 揶揄うような声音が飛ぶ。迅は唇を吊り上げて、意表を突いて敵へと鋭い一撃を放った。ついで、速攻作戦だとゼファーの槍が外へと飛び出す。放たれるは瞬天三段、絶技が刺客の喉元近くへと飛び込んだ。
「な――」
「あら、お喋りに来たんですか? ごめんなさい。紅茶が冷めてしまいますから……」
 三日月に歪んだ眸を向けて四音の放った光は奔流の如く刺客を飲み込んでゆく。居場所の分かっていた三人からさっさと終わらせるのだ。
 迅の広く確認する視点を活用し、ヴァレーリヤはメイスを『どっせえーーい!!!』と振り上げた。
「マリィ、そちらは任せましたわよ!」
「勿論さ、ヴァリューシャ!」
 ガイアズユニオンの軍人は護る事を得意とする。だからこそ、『物騒なお客様』から護りきって見せようとマリアは紅色の光を纏いながらやる気に満ち溢れて。


「お嬢さん、少し視線を向けるのを許して欲しい」
 まじまじと、彼女を見詰めるマリア。彼女の姿を焼き付けて、作り出すのは幻影だ。敵を騙す『有効手段』として使用する其れは本来のローザミスティカと同じように緩やかに動いた。
「ああ、聞いて下さい、皆さん。こーんな大きな動物見たんですよ、象っていうのですけど」
 ――扉側、廊下。
 ココロの視線、そして身振り手振りがそう示す。にんまりと微笑んだ彼女はローザミスティカの傍らで護衛役として立っていた。
 ココロの示した仕草に小さく頷いた四音は唇に笑みを零し、ちらりと傍らのヴィリスを見遣る。
「ええ、踊りましょう?」
 そっとゼファーと四音の手を取った。主神軍馬と呼ばれたその力を駆使し、乙女はふわりと躍る様に善戦する。
 ファタリテ/ヴァリアシオン。
 運命に踊って、ヴィリスは直ぐさまに滑り込む。刺客が二人。捕えたと華麗なステップを見せる。疾く進む乙女のリズムに合わせてゼファーは一気に槍を構えた。
 百花咲かせ、変幻自在にして、活殺自在。乙女の槍が狂い咲く。ひゅ、と掠めたナイフの傷口に淡い光が踊った。
「皆さんの命を癒し守るのが私の使命。必ず守ってみせます。ええ、勿論。敵(あなた)の命も奪わぬように気をつけなくっては」
 くすくすと笑みを零した四音は意地の悪い微笑みを浮かべて。

 地を蹴って躍り出るように。ヴァレーリヤは「行きますわよ!」と紅十字を握りしめた。それこそは愚かな理想の為に進み出る、直情的な一撃。適うことなき未来を目指した英雄譚の如く。
 指示受けて、最短距離で飛び込んだ彼女は迅の『眼』の情報を確認しメイスを突き出した。
「――主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に」
 唇乗せたその音に合わせて真っ直ぐに飛び出した迅のスピード乗せた拳は破壊的に敵の意識を眩ませる。
 雨の如く、飛び込んで。肌一筋、掠めた刃になど木を止める事はない。鳳兵の本領は魂(こころ)に刻んだ不退転、ただひとつ。
「ヴァリューシャ!」
 マリアの呼ぶ声にウィルドが「あちらへ」とヴァレーリヤへと指示をした。壁を抜ける。唯一人、飛び込んできた刺客に向けてヴァレーリヤは勢い付けて殴りかかる。
 静かな声音で視線を奪う様に、ウィルドは「甘いですね」とくつくつと喉を鳴らした。ローザミスティカを庇う様に立ったココロ、その傍らでマリアがばちりと紅色の光を放つ。
 あと一人。其れを捕えれば終わり――此処からは自身の出番であるとウィルドはゆっくりとしゃがみ込んだ。
「我々に何を聞かれたら困るというんです?」
 捕えた賊を見下ろしていたウィルドの笑みはローザミスティカに言わせれば『島の奴等より恐ろしい』らしい。
 ぞう、と血の気の下がってゆく其れ等を言いくるめる彼は正しく『悪徳貴族』そのものであった。
「ああ、ちなみに隠しても無駄ですよ? 同僚の方は既に口を割りましたので、これは確認作業です。
 ですがまあ……アナタの返答で情報の確度があがるなら、貴方自身やご家族に便宜を図ることはできますとも」
「――マルガレータが『他殺』だと公言されては困る。死人に口なし、ヤツは事故で死んだんだ!」


 ――『イイコちゃんぶった女』
 それがマルガレータ・フォン・ミーミルンドへの評価だったと告げるローザミスティカにココロは肩を竦めた。乾いた笑いが過ったのは、自身とて偽善的に生きてきていると自覚するからだ。
「……わたしもそんな風に言われてしまう時もあります。でも、生きたい人を助けるのは大事なこと。
 奴隷が普通の人並みに生きられるようにするのも大事なこと。そう思えるのは、わたしの宝物。何言われても止める気ないです」
「それはね、アンタが何にも縛られないからこそ発言できるのさ。マルガレータは貴族だ。それもこの国のね。
 特権階級である女が……『仮にもミーミルンドという名家に生まれた女』がおいそれと口にしていいものじゃあない」
 ローザミスティカの言葉にココロはぐ、と息を飲んだ。この国では身分が重要視されている。フィッツバルディという『名門』に生を受けた女の言葉故に、重たい。
 テーブルの上に並んだ茶菓子も紅茶も全てが彼女の為に準備されていたのだろう。ヴィリスは「あ、このお紅茶美味しいわね」とぱちりと瞬く。流石は幻想の名門貴族の一員だろうか。
「ベルナデット君、此方も分からないことばかりで迷惑を掛けると思うけれど……」
「ああ、構わないさ」
 気遣うマリアにベルナデットは小さく笑みを浮かべた。
 茶会の始まりに、何から話そうかと場を伺うイレギュラーズの中でふんわりと微笑んで居た四音はフィナンシェを片手に「聞いても?」と首を傾ぐ。
「単純な興味ではあるのですけれど、兄はどうして妹の真似なんてしてるんでしょう? 予想だけでも伺ってみたくなったのです。
 故人を偲ぶ、あるいは忘れないようにしてるんでしょうか?」
「それもあるだろうねェ。……喪失に耐えられなくなったのさ。
 ベルナールが妹を溺愛していたことは有名だったからね。それがあんなお粗末な終わりだったとなりゃ、そりゃあ……ああもなるさね」
 そんな彼が表舞台に出てきたのは『奴隷市』に関わったからだと言われている。ヴァレーリヤは奴隷取引に関わった人間について知る事で、ベルナールを担ぎ上げた者の目的や正体に迫れるのではと考えていた。
「例えば、最近、頻繁に出入りし始めた場所……特にひと目につかない場所や、深夜に出掛けている場所があるのかしら」
「ああ、それなら『逆』さね。『頻繁に誰ぞを屋敷に呼んでる』噂はあるようだけれど――まあ、あのミーミルンド派が徒党をなすというのも愉快なことさ」
「可笑しいことなんですか?」
 首を傾げたココロに「落魄れていたからねえ」とローザミスティカは笑う。派閥も集まることは余りに少なかったが最近は貴族達が頻繁に出入りしているようである。
「ならば最近、大規模な投資をし始めた場所はないのかしら? 資金と物の流れを追うのも大事だと思いますの」
「そうさね……ああ、最近になって廃鉱山を購入したそうさ。領地拡大とでもいうのかね。オランジュベネに近い場所に領を持っているだろう?
 随分と手薄になっていたあの辺り一帯の領地を買い取ったそうだよ。碌に使い物にもならなそうなのにねえ」
「……最近、出入りし始めた者のうち、呪術師等、素性の怪しい者はおりますのかしら?」
「まあ、それはたんまりと」
 奴隷取引の手引きをしていたのはクローディス・ド・バランツ。ミーミルンド派の一員で有ることが判明している。
 だが、どうしてベルナールが『担ぎ上げ』られたか。逆に、彼が目的として居るであろうマルガレータ嬢に関しても知っておきたいとウィルドはベルナデットへと問い掛けた。
「マルガレータ嬢の件、やったのはフィッツバルディ派ですか? ああ……犯人はハッキリしているのかが気になります」
「さあねえ。どこの派閥かは大きくは知らないけれどね。『まあどこぞの貴族の雇った奴等』だったことは確かのようだよ。
 アタシは『実行犯』がウチの島に少しだけ遣ってきた時に話したけれど……失脚を狙ったんだろうね。随分と目立ちすぎていたから」
 ウィルドは成程、と小さく頷いた。だが、少しだけというのは『誰かの手によって介入があった』のかとゼファーは疑問に思う。
「マルガレータ……彼女に関わる場所、人間。盤上に出ていない駒……落ちぶれた家の慈善事業に当時、怪しい後ろ盾はいたのかしら?」
「さあ。どうだろうねェ。アタシとしちゃあ温厚な牝鹿のお貴族様なんかは好きそうな一件だと思うけれどね。
 どちらかと言えばミーミルンドは落魄れていても過去の威光に縋って取り入ろうとするヤツは山ほどいたさ。有象無象が『引き立てる』にゃ丁度良い」
 ローザミスティカのその言葉にゼファーはぐ、と息を飲んだ。
 そうだ。この国はそういう場所なのだ。熟れた果実が腐り行く様。過ぎたる栄光にもたれ掛った若き王を傀儡とする貴族達。三大と呼ばれた其の一席にミーミルンドを並べて側近となりたい者は山ほどに。
「アンタは――そっちのお嬢ちゃんも不快に思ったのかい? これがこの国、幻想王国(レガド・イルシオン)さ。
 栄光ばかりに縋って、目先の餌ばかりに食らい付くピラニアみたいな腐った大人が馬鹿らしいワルツを踊ってる」
 随分と皮肉った言い方だとゼファーは小さく笑ったのだった。


「……難しい事がよく分からないのですが、マルガレータ殿が生き返ったとして何か厄介な事になりそうでしょうか?」
「死人は生き返らない」
 ローザミスティカの冷たい言葉に迅は驚き彼女のかんばせを見遣った。
「アタシの旦那も、マルガレータも。何方も生き返ることはない。それこそ、神様だって許しゃしないよ。
 もしも蘇ったんなら、それはマルガレータじゃない。『マルガレータ』の体を借りた政治利用の下らないお人形遊びさ」
 蘇り。その言葉にウィルドは「マルガレータの事故現場はご存じですか?」と問うた。
「王都近くの森。馬車で帰ろうとしていたところを、そりゃあまあ、ざっくりとしたそうだよ。どうして?」
「『死人を糧にする術』を使う者が居るそうです」
「へえ……?」
 一体誰、と言いかけたベルナデットにココロは直ぐ、口を開いた。
「フレイス・ネフィラは? ローザミスティカさんは何かご存じですか?」
 ココロにローザミスティカは「此れは歴史の勉強ではあるのだけれどね、古い文献ではイミルの民っていうのがあったそうさね」とティーカップから手を離し唇をなぞる。悩ましげな彼女も掴み切れていないことがあるのだろう。
「イレギュラーズの、仲間の命を奪おうとしてるんです。見逃せないから。万全の準備をされるまえに追い詰めないと」
「彼女が今『存在して居る』ならばそれは唯のバケモノさね。……ああ、そうかい。イミルの……。
 じゃあ、結論はこうさね。
 ベルナール・フォン・ミーミルンドは妹を亡くし失意のどん底であった。だが、彼は腐っても名家ミーミルンド男爵家の主だ。
 だからこそ、彼が得られる可能性のある栄光欲しさにピラニアが寄ってきた。骨まで食い付くさん勢いでね。
 妹の姿を忘れぬように。『妹を殺したヤツらへの意趣返し』にあの姿を盗るほどに追い詰められていたベルナールはイミルの文献を手にした、と。
 ――死者を蘇らせる秘術。
 その言葉に踊らされて、そりゃあ、愉快に強欲に。奴はマルガレータを取り戻して王妃の座に宛がおうと声高に宣言する奴等に乗せられた」
 まるで御伽噺を語るような。ベルナデットは楽しげに小さく笑う。
「そんな有り得もしない呪術に身を窶してでも、取り戻したかった。まるで子供の我儘さね。
 それに熱狂して悪ふざけのように国盗りに精を出した奴ら全員がベルナール・フォン・ミーミルンドを担ぎ上げてお祭り騒ぎさ!」
「……酷い」
 ココロは息を飲んだ。追い詰められた男が藁にも縋る思いで求めたそれは『魔性の呼び声』のようなものだったのだろう。
 まるで、今まで関わってきた『呼び声』の様な、狂気にも似た一縷の望み。それしかないと、無数の命が失われていく悍ましさ。
 止めなくてはいけない。誰も彼もが熱狂にのめり込む。『そうすることで願いが叶う』――そう、思い込みが加速しているのだから。
「……序でに勇者の血筋について、本当にあの王様だけ?」
「さあ、ねえ。けれど、これは『フィッツバルディ派』の女としての意見だよ。――余計な事は、考えちゃあいけない。勇者王の血筋は王家だけ」
 その言葉は酷く冷め切っていて、ゼファーは小さく息を飲む。余計な事を考えない。それが『この国の在り方』なのだから。
「ベルナデッド君は虎は好きかい? 獰猛だけど可愛いと思わないかい?」
「……そういう生き物ほど可愛らしく陥落させたいだろう、猫のように」
 その眸がマリア・レイシスという娘が虎と呼ばれていることを指しているのだと気付いてから、マリアは「わ、私の事を好きか聞いたんじゃないよ!?」と慌てたように立ち上がる。傍らに腰掛けて居たヴァレーリヤは「マリィ?」と揶揄うような眸を向ける。
「ち、違う。ただ、質問攻めも疲れるだろうと思って! し、信じておくれよ、ヴァリューシャ!」
 そろそろ茶会もお終いの時間だろうか。愉快だったと微笑んだベルナデットは客人に「お帰り」の準備をするようにと家令を呼び寄せる。
「ああ、一つだけ思いついたの。この騒動って貴女はどんな結末を予想しているのかしら?
 今私が出ている舞台の筋書きくらいは知っておきたいわ。私が自由になれたのもこの騒動のおかげなのだしね。最後まで踊り切らないと」
 問うたヴィリスにローザミスティカは「アタシの予想でいいのかい?」と瞳を細めた。
「噂の英雄が揃い踏み。煽てられただけの悪人の終わりなんざ――何時の世も決まってるもんだろうに」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 素敵なお茶会でしたね!

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