シナリオ詳細
<ナグルファルの兆し> 怒れる騎士と流転する槍媛
オープニング
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初夏の木漏れ日が窓辺から覗いている。
男が舌打ちする。
「ダリウスめが死んだか」
全身から濃密な魔力を零し苛立ちを露にするその男は、視線を下に向けた。
「それもこれも、あの小娘のせいか……忌々しい、忌々しい小娘め。
素直にあの時に殺されていれば、我々がこのような目にあわずに済んだというのに」
舌打ちを再び。その視線を上にあげるのと同時、視線の先に合った扉から、ひとりの青年が姿を見せる。
「お待たせしました、父上。お呼びでしょうか?」
「ダリウスが死んだことは聞いているか?」
「……いえ、知りませんでした」
微かに首を振った青年に、男はじとりと視線を向ける。
「忌々しいことに、あの小娘の手の者やイレギュラーズの手によって殺されたらしい」
「そんな……」
微かに視線を下げた青年が拳を握り締める。
『悍ましい、忌々しい、そうは思わぬか? 兄を殺されたのだ。
あれは腕が良かった。だが結局、それでも死んだのだ』
「……はい、そうかと思われます」
『いいか、グレアムよ、この我が怒り、お主もきっと答えよう。
よく聞き、よく答えよ、私と同じく、この燻る怒りをたぎらせよ』
それは脳髄を揺らすかのような、心の奥底にある何かを騒めかせるような不思議な声であった。
「……父よ、その声は私には意味ありません。
私は、私の、アスクウィスの騎士道の在り方を為しましょう。
どうか父よ、貴方は貴方らしく合ってください」
静かに礼をして、彼はその場を後にする。
「おのれ、忌々しい……おのれ、おのれ、おのれ!」
握りしめた拳を、男は勢いよく叩きつけた。
叩きつけられた机が、音を立てて砕けた。
●
「マルク様、皆様、準備はよろしいでしょうか?」
マルク・シリング(p3p001309)を含む8人のイレギュラーズは、テレーゼ・フォン・ブラウベルクの邸宅に訪れていた。
「うん、みんなも準備は良いみたいだね」
「それでは、改めて今回の依頼についての話をさせてください」
こくりと頷いた赤髪の女性――イングヒルトはこくりと頷いたのち、
「テレーゼ様を狙った暗殺者の首魁、ダリウス・アスクウィスは騎士の家系でした。
旧オランジュベネ家に属して主家の没落に伴い、彼らアスクウィス家も衰退しました」
そういうとイングヒルトは少し視線を下げる。
「つまりアスクウィス家の旧邸宅には誰もいない……はずなのです。
ですが今回、調査をしてみたところ、彼の家に人の気配が感じられるそうです」
「それで、調査をしたいから僕達にも着いてきてほしい……ということだね」
「ええ、マルク様も仰られた通り、旧オランジュベネ家の残党はどこにいるか分かりません」
そう答えたのは、それまで口を閉ざしていたテレーゼである。
「とはいえ、治安維持に加えて現況から推察できる今後へ対応できる戦力をおくとなると、
正直なところ、人的資源が足りていません。
その点、みなさまの実力があれば問題ない……と思うのです」
テレーゼはそういうと、静かにイレギュラーズに視線を向けた。
「何もなければいいのですが……恐らくは何かあるでしょう。
イングヒルトさんには道案内をお願いしますので、どうか皆様、ご無事でのご帰還を」
そういうと、テレーゼが目を伏せた。
●
イングヒルトの道案内を受けたイレギュラーズは、アスクウィス邸へ到着していた。
「何者だ?」
姿を見せたのは、紳士風の男だった。
「……ジュリアス・アスクウィス卿、お久しぶりです」
イングヒルトが声を出した。
「……貴様、イングヒルトではないか」
ぴくりと男が青筋を浮かべる。
「そういえば、お主らがいたあの部隊の行方はようとして知れなかったが、
生きておったか。それで……なぜ、お主はここにいる?」
紳士風の男――ジュリアスがその声色に怒りを滲ませる。
「よく見れば、貴様ら……イレギュラーズか。
イングヒルト、お前は『そちら側』に着いたのか? 裏切者が――」
その瞬間、ジュリアスの全身から魔力が爆ぜ、形を帯びて騎士の鎧のように姿を変える。
「――殺してやる、殺してやろうぞ! イレギュラーズども!!
貴様らのせいで、我らはこのような惨めなことになっているのだからなぁ!」
あまりにも身勝手な憤怒を向け、ジュリアスが叫ぶ。
「出でよ、我らの血脈よ、我が力に応じて姿を見せよ!」
魔力で出来た剣を、ジュリアスが地面へ突き立てた。
直後、周囲が震え。大地から盛り上がるようにしてそれらは姿を見せた。
- <ナグルファルの兆し> 怒れる騎士と流転する槍媛完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年06月04日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「まあ、随分と酷い逆切れなのです。
世の全ての凶事など自分のせいか運が悪かったかの二択なのですのに」
指輪から魔力糸を紡ぎ、『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は猛る魔種を見上げた。
「しかし、物語の中とは違い精神性と暴力は相関しないのですよね。
ましてや魔種とあっては……ですので、死なない様に頑張らせて頂くのです」
敵の魔力に煽られて、ハタハタとフードが揺らめいた。
「イングヒルトさんのかつての主を余り悪く言いたくは無いけれど……
貴族としての責務も騎士としての在り方も忘れた貴方を、このままにしておくには行かない。」
杖を突きつけるようにして構えたマルク・シリング(p3p001309)は膨れ上がるジュリアスの魔力を前に杖を握る手に力が籠った。
「……イングヒルトさん」
「はい」
「落ち着いて。あいつの言葉に惑わされないで。僕達がついてる。
貴女の選んだ道は、決して間違いなんかじゃないんだから」
「……はい」
隣に立っていたイングヒルトが小さく頷いて走り出した。
「裏切者がァァ!!!!」
敵の怒号が響き渡る。
(魔種。……オランジュベネ子爵家に仕えた騎士家の者が魔種か)
魔晶剣を構えた『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は敵の様子を見ながら静かに思考する。
「アスクウィス家……当主ジュリアス・アスクウィス卿。
御子息ダリウス・アスクウィスを刺客として放ったのは貴方ですか」
「ダリ……ウスゥ……」
血走った眼がリースリットを向いた。
「ォォォォォ!!!!」
理性のない声で猛る。
「もう正気じゃあないな」
拳を握り締めた『竜剣』シラス(p3p004421)はそんなジュリアスの声に小さく言葉を漏らす。
今の『これ』に何を問うたとしても碌な答えなど返ってこない。
「詳しい事情は知らないけれど、どうやらかのイオニアスと縁のある家らしいね。
そして我が国で起きた一連の事件に乗じた叛逆者というわけだ。それも魔種。
まったく愚かしくて笑ってしまうな」
愛剣を軽く握り『銀なる者』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)はジュリアスへ視線を向ける。
「人でも家でも滅ぶべき時には滅ぶものだとは思いますが、
滅びに抗うものの姿勢を責める事は出来ません……ですが。
それは逆恨みを肯定するものでもないでしょう……」
告げたとてそれを聞き入れられるとは『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)も思っていない。
静かに弓を構えた。
「……大当たりみたいだね。
オマケに相手は魔種になってこっちを殺る気みたいだし……」
拳を握り締めた『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)は視線をジュリアス――の両脇に向ける。
「行こう、皆。例え相手が強力な魔種だったとしても、私達ならきっと勝てるよっ!」
その言葉と共に、花丸は踏み込み、タイラントめがけて駆け抜けた。
「ひぃ……もう魔種が出てきたのね……
あ、あたしなんか一瞬で転がされちゃう気がするんだけど……
し、死にたくないよぉ……うぇ……」
既に気圧されている感満載の『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)は自分の射程としては近すぎることもあってそそくさと後退する。
●
身を翻して駆け抜けたイングヒルトがジュリアスへと至近し、連続する刺突を叩き込んでいく。
怒りに遮られて避ける余裕がないのか、あるいはそもそも回避能力がさほど高くないのか、ジュリアスの身体に傷が増えていく。
花丸はジュリアスの方へと動き出したグランドタイラントの前へと割り込んだ。
「そっちには行かせないよ」
両腕に力を籠め、闘気を燃やすように身を躍らせれば、2体のグランドタイラントは花丸へと釘付けとなった。
振るわれたタイラントの足が花丸を蹴りつける。
体勢が崩れるも、そんなものを気にすることなく、花丸はタイラントめがけて拳を叩きつけた。
もう1体が振り抜く拳に合わせるように、花丸も拳を叩き込んだ。
「祖国に弓を引き、あまつさえ僕達にも刃向かう。今ここでその首を差し出してもらおうか」
揺蕩う魔力が剣身を覆いつくしていく。
リウィルディアは静かに剣を振り抜いた。
波打つように迸る閃光がジュリアスへと炸裂する。
「ォォォォ!!!!」
猛る。黒騎士の如き魔が怒号を上げて魔力剣を横薙ぎに払った。
風を切る漆黒の剣は横薙ぎに空気を抉り、イレギュラーズを巻き込んで広がった。
ほぼ同時、ヘイゼルは前に出た。
「本当に怒っているのです? 誤魔化しているだけでは無いのですか。現在の惨めさを」
術式が展開し、無数に構築された赤い魔力糸が迸り、ジュリアスの黒い身体を紅く染め上げていく。
藻掻くジュリアスを抑え込むように、ヘイゼルが糸を絞れば、敵の視線がヘイゼルを射抜くように見る。
(あの魔力剣、実体が無い分、間合いは自在だが言ってしまえば長物だ。
密着すれば間合いの短い武器のほうが有利……だけど)
薙ぎ払いを直感的に跳躍して回避したシラスは削られた地面を見て舌打ちしたい気持ちにかられながら、ジュリアスの背後へと回り込む。
見るからに重厚そうな黒い魔力の鎧目掛け、踏み込んだ。
堅牢な魔力に遮られて芯へと容れるのは難しく思えるその一瞬、鎧の微かな関節目掛け、シラスは脚を叩き込んだ。
魔力の軌跡を描いた足がジュリアスの身体に吸い込まれていく。
「ジュリアス・アスクウィス卿……貴方は何時、そうなったのです。
イオニアス・フォン・オランジュベネ挙兵の折からですか」
リースリットは鮮やかに金色を纏う雷光の剣を振り抜くと共にジュリアスへと問う。
明確な『憤怒』を纏い、暴れる男に理性のようなものがあるとは到底思えない。
それでも、その問いかけに――いやその一部にジュリアスが反応を示す。
(イオニアスは言動からして恐らくは『憤怒』の魔種だった。
そうすると、感染源が彼である可能性は高い)
イオニアスと戦った時のことを思い出せば、その推測は容易だった。
もしそうだとするのなら、今も潜伏している魔種がいることは間違いない。
「イオニアス……様……」
小さく呟いたジュリアスの剣身が鳴動する。
「声が、呼吸が、心音が、激烈な攻撃を行う一挙手一投足が。
その一つ一つの音から激しい怒りが伝わって来ます……
耳を頼りに狙うわたくしには狙いやすくもありますが……」
反響も、超聴力も関係ない。そんなことをするまでもなく、敵がどこにいるのか丸わかりだ。
ゆえに、マグタレーナは静かに弦を弾き絞る。
弾かれた魔力矢は真っすぐに駆け抜けていく。
まばゆく輝く閃光はジュリアスの身体に楔を突き立てた。
奈々美が地面へ投げつけた護符が目に痛い光を放ち始める。
やがて護符からは摩天楼を築くネオン尽くしの高層ビルが出現、真っすぐにジュリアスへと突撃をかます。
冗談みたいな技だが、撃ち込まれたジュリアスはその規模もあって身体に傷を増やす。
マルクは魔力を籠めた。
杖より与えられた充実した魔力を杖へと還元していく。
魔力は杖の先端へ伝い収束を繰り返す。
圧倒的な質量を帯びたそれは、スパークを立てながら真っすぐにジュリアスの身体へと吸い込まれていく。
「テレーゼ様の剣として、ジュリアス・アスクウィス、貴方を討つ!
「――レーゼ……アァァ――テレーゼ・フォン・ブラウベルクゥゥゥ!!!!」
魔力剣の出力がその名を聞いて膨れ上がっていく。
ぎらついたジュリアスの瞳がマルクを捉え、魔力剣の奔流がマルクの身を包み込んだ。
●
戦いは続いている。
渾身の力を振り続ける魔種の猛攻に幾つものパンドラが開き、傷は増えつつあった。
ジュリアスが怒号を上げ、再び剣を振るう。
豪快にふるわれた魔力剣が直線上を焼き払う。
合わせるように動きだしたイングヒルトが正面からジュリアスに挑みかかるのがこちらから見えた。
ヘイゼルは正直なまでの振り下ろしに対して術式を起こす。
無数に編み込まれた赤い魔力糸が障壁を築き上げる。
ミシミシと鳴った障壁が砕けるより前にヘイゼルは直線上から退避した。
「怒り頼りの出力など持続できません。
受け切って見せませう。その僅かな刻限を」
その身に刻まれた魔紋が、瞳が深い赤色に染まる。
ジュリアスの全てを否定するように、何もさせないと静かな気迫を籠めて。
「ったく、戦い方がジジイじゃねえな。大人しく庭木でも弄ってろ」
シラスは手に魔力を籠めていく。
無茶苦茶な火力で直線上を削る振り下ろしが視線の先で振り抜かれた。
シラスはその挙動を観察し続けた。
僅かに見えた鎧――その関節部。
身体強化術式を起動させ、踏み込みと同時に貫き手を叩き込む。
腕を強かに貫き、引き抜くと同時に、何か違和感があった。
続けるように足を払い、蹴りを関節に打ち込みつつ、やはり違和感。
(この鎧、もしかすると……)
連撃の終息と同時、シラスは睨むように敵を見た。
空間を断ち割るようにリースリットが横薙ぎに緋炎を振るった刹那。
緋色の焔がジュリアスの身体を絡めとっていく。
「貴方達が敗れたのは、何もテレーゼ様のせいではありませんよ。見当違いも甚だしいというものです」
リースリットは敢えてそれを口にした。
叛乱の挙兵を行なった時点で、そもそもの勝機はなかった。
それに対する反論とばかりに一層と魔力を燃え滾らせるジュリアスが激昂とともに魔力剣を振り抜いた。
タイラントの足元、花丸は拳を握り締めた。
「――怒りに呑まれて剣を振るってるなら、やり様はいくらでもあるんだよ」
深呼吸。振り抜いたタイラントの足を前に転がって躱して起き上がると同時、花丸は拳を振り抜いた。
壊すことしかできぬ真っすぐな拳打は闘志と絡み、風圧を衝撃波に変えてジュリアスの鎧目掛けて駆け抜けていく。
タイラントが振り抜かれた拳が花丸を撃ち抜く。
その瞬間、リウィルディアはそちらを見据えて剣を立てた。
花丸の身に蓄積する傷は多い。
剣を指揮棒のようにして振るい、自らの心持を平常へ戻して、賦活力へと変換し花丸へと降り注がせる。
(なにか知っていることがあれば、煽ったら多少吐いてくれはしないだろうかと思っていたけど、あの様子だと難しいだろうね)
リウィルディアはジュリアスの様子を見ながら考えていた。
怒り狂いまともではなければ口を滑らせやすい。
だが、あそこまで完全に理性を失うほど狂っていては意思疎通など到底不可能だ。
マグタレーナは魔力の奔流の重い音を頼りに静かに矢を放った。
静かに放たれた呪いは一条の矢となり疾走し、敵の黒い魔力の鎧に浸透していく。
「空間を歪めその腕が、剣先が捻じれ虚空を斬らせれば、
如何に射程が自在の剣と言えども誰の身も斬る事は叶わないでしょう」
苦悶にも似た声色でジュリアスがうめき声をあげるのを聞きつけて、マグタレーナは静かに言葉にした。
「……は、早く倒れるか……あっちいってぇ……あたしもたないからぁ……うぅ…」
半ば恐怖に支配されながら、奈々美は護符を取り出した。
それをジュリアス目掛けて投擲する。
護符は真っすぐに飛び、ジュリアスの腹部へとぺたりとくっついた。
その直後、ジュリアスが同じ場所に手を当ててうめき声をあげる。
ジュリアスの胡乱な瞳が奈々美を見る。
「ひぃ……! こっち見ないでぇ……」
マルクは杖を媒介に魔力を練り上げる。
収束した魔力を杖の先に集め、術式を展開、それを振り下ろした。
生み出されたのは聖域。温かな聖域の中で仲間たちの傷が癒えていく。
けれどそれだけでは足らない。
癒しきれなかった仲間に祝福の歌を奏でるべく、直ぐに魔力を練り上げていく。
●
「大人しく殺されておればよいのだ……貴様ら!」
血走った眼で激昂したジュリアスの視線がヘイゼルを貫く。
(なんでせう……嫌な予感が……)
警戒し、張り巡らせた魔力糸による障壁。
両手で剣を握り締めたジュリアスが袈裟切りに剣を振った。
それを見た瞬間、退避行動に移る――いや、移ろうとした。
焼けつくような痛みが胴を貫いていた。
(――回避できなかった? この男の精度が上がったわけではないようですが)
魔力糸の障壁を形成しなおしながら、異様に重い一撃に間合いを開ける。
「ヘイゼルさん!」
マルクはそれを見るや、直ぐに杖をヘイゼルに向けた。
急速に練り上げられた魔力をヘイゼルの身体へと振り下ろす。
温かな光がヘイゼルの身体を包み込んでいく。
(今の攻撃、ヘイゼルさんが躱せないってことは……もしかして)
じっと敵を見ながら、マルクもそれその攻撃の推測を立てていく。
軽く開くようにして術式を通す。
極限の集中の先、シラスはジュリアスの鎧、その弱い関節部分目掛けて飛び込んだ。
それは文字通りハルピュイアが爪を以って肉体を切り裂くが如く斬撃が見舞われていく。
連続した攻撃がジュリアスに風を開く。
その瞬間、ジュリアスの全身を覆っていた漆黒の鎧が砕け散り、紳士風の姿へ逆戻りする。
「……やっぱり、その鎧、そういう術式か何かか」
「ぐはっ……はぁ、はぁ、おのれ――イレギュラーズめが……忌々しい……おのれ、おのれ――」
ぎろりと睨むジュリアスの手に握られたままの魔力の剣が、一気に膨張していく。
「お、後れを取ったが……次はこうはいかぬ……忌々しき奴らめ――」
そういうや、剣を逆手に持ち直し、地面へと突き立てた。
刹那、闇があふれ出してジュリアスを包み込む。
「逃げるのか。小娘と侮ったテレーゼ様から。イオニアスを討った僕らから」
「その台詞、忘れるな――次は必ずや首をはねてくれる」
マルクの言葉に吐き捨てるようなジュリアスの声がどことなく響き、その姿が掻き消えていた。
主を失ったタイラントたちが吼えはじめた。
憎悪と嘆き、苦悶に満ちた遠吠えを聞きながら、リウィルディアは愛剣を逆手に握った。
姿を見せた二頭の悪性が蛇行しながらすさまじい速度でタイラントの片方へと食らいつく。
両腕に噛み付かれたタイラントが悲痛に雄叫びを上げた。
発狂するように声を上げたタイラントは、八つ当たりぎみに花丸を見下ろし、片足を振り上げて蹴りつける。
それに合わせるように花丸は拳を叩き込み、反撃の一撃を打ってから、少しばかり間合いを整える。
引き絞った拳で空気を思いっきり殴りつけて、迸る打撃がタイラントの顎へと炸裂し、大きく揺らす。
瞬間、脳震盪を起こしたのか、そのタイラントがぐらりと倒れこんでいく。
「……や、やっとどっか行ったけど……まだこいつらが残ってるよね……」
深呼吸した奈々美は華凝石をギュッと握りしめ、護符諸共地面へ叩きつけた。
脳震盪を起こして倒れたタイラントの足元辺りが盛り上がり、ネオンの建築物がタイラントを真上へ突き飛ばす。
少しばかり浮いたタイラントは、そのまま自然落下して地面へ。衝撃で起きたのか、呻きながら起き上がる。
その様子を感じ取りながら、マグタレーナは弓を弾き絞る。
放たれたる呪言の矢はぐるぐると渦を巻きながら走り抜け、グランドタイラントの心臓部をくり抜くようにして浸透する。
内側、核をぐねりを捩じり取った呪いにグランドタイラントが断末魔の雄叫びを上げ、倒れていく。
●
「うぅ……帰りにおいしいもの食べたいわ……」
2体目のグランドタイラントを倒し終えた後、奈々美は腰を抜かせ、ぺたんと地面に座り込んだ。
糖分を求める頭とカロリーを求めるお腹の鳴き声が鳴る。
「敗北の先にある未来を受け入れることができれば、呼び声に堕ちること無く再起出来たかもしれなかったのに」
ジュリアスの撤退とグランドタイラントの崩壊後、惨状の残るアスクウィス邸を見ながらマルクはぽつりと呟いた。
視線を彷徨わせたマルクの視界の先でイングヒルトの方へリースリットが近づいていくのが見えた。
「イングヒルトさん……アスクウィス家はどのような方々でしたか?」
それを彼女に問うのは酷であると分かっていても、知っておくべきだ。
彼女やアスクウィスにとっての主君――イオニアス・フォン・オランジュベネもかつては理想に燃える領主だったと聞く。
夢破れ、挫折の果てにあそこまで堕ちたのだと。ならば――アスクウィスはどうであったのか。
(メイナード卿やイングヒルトさん達も主家に巻き込まれた立場なら、アスクウィスも同じではある……)
リースリットの言葉に、問われたイングヒルトは少しばかり押し黙っていた。
「……どういうべきか。少なくとも、ダリウス様が火事で火傷を負ってしまわれるまではまともでした。
才能ある嫡男を失ったジュリアス卿は癇癪ぎみになられたと聞きます。
ダリウス様に代わって嫡男となったグレアム様は、嘆かれるばかりのお父君に反発するようになったとも聞きます」
微かな寂寥を滲ませて言葉に変えるイングヒルトは、そこで一息をついた。
「私がアスクウィスを知っていたのはダリウス様が火傷で廃嫡されるまでですから。
その後の事は伝聞でしかありません。ですが……私の知っている彼らは騎士らしい騎士の、良い方々であったと、記憶しています」
言葉を探すように少しずつ言って、イングヒルトが視線を建物から外すのをリースリットは見つめ続けていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
こんばんは、春野紅葉です。
こちらはマルク・シリングさんのアフターアクションにより発生しました。
●オーダー
【1】ジュリアス・アスクウィスの撃退
●フィールド
アスクウィス邸の中庭です。
整備が疎かになって久しいのか、かなり雑草に塗れていますが、戦闘に支障はありません。
●エネミーデータ
・『怒れる老騎士』ジュリアス・アスクウィス
魔種です。全身を漆黒の魔力で出来た鎧で包んだ騎士風の姿をしています。
その手に握る魔力で出来た剣は実体が無い分、射程が自在になっています。
神攻系の攻撃を振るうでしょう。
怒りのまま、【渾身】属性のスキルをぶん回してきます。
渾身が使えなくなるまでの間、殺す気で耐え抜いてください。
・グランドタイラント×2
周囲の死霊が魔力と反応して暴走し、2mほどの巨人風に姿を変えたものです。
正確にはどちらかというと悪霊やゴーレムの類に分類できます。
【乱れ】系統、【足止め】系統のBSを持ちます。
●友軍データ
・『流転する槍媛』イングヒルト
マルクさんの関係者でもある紅髪赤眼の女性です。20代前半。
槍を片手にやや軽装な鎧姿をしており、騎士というよりは戦士といった雰囲気があります。
戦場では手数と反応速度を駆使して攻めかかり、本命のアタッカーへつなぐサポート役のような動きを熟します。
イレギュラーズと同等程度の実力を持ちます。
何か特別にさせたいことなどあればプレイングでのご指示をお願いします。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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