PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Re:最期に一目会えたら

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●俺は誰だ?
 カチコチ、と、時計の針が深夜の3時を指す。
 とたん、強烈な勢いで、浮いた皿が壁にたたきつけられる。

 ふわふわとした人魂。燃える白い魂が、――宙を浮いていた。

「うわああーーーー!」
 ジャスティス辺境を収める若き領主――アンクル・ヘアリージャックは身をかがめる。すれすれのところを食器がかすめ、パーティクルが千々に散っていった。
 ここのところの「幽霊騒動」。
 深夜3時ちょっきりに現れるポルターガイスト。どうやっても消えてくれないのだった。

 発端は、身元不明の遺体である。

『アアアアアア! 俺は誰ダ!?』
「わからないよ! どこからきたのさぁ……!? というか、ちゃんと埋葬したし……祈りの言葉もささげた、のに!」
『俺は、俺はいったい誰なんダ! 頭が痛イ!』
 がしゃんと、また燭台がたたきつけられた。
「ううう。気の毒だけど! 誰かもわからない。実体もない。死んだヤツの素性なんて……わかるわけが……うわっ!」
『――――!!!』
 あらん限りの絶叫が響き渡り、部屋をめちゃくちゃに荒らしていく。
 耐えろ、と領主は縮こまった。

●R.O.O.
 まるで本物のような光景。質感。水のせせらぎと人々の喧騒――。
 ここはRapid Origin Onlineの世界。
『練達』の三塔主に導かれ、イレギュラーズたちはこの世界へと足を踏み入れることとなった。サクラメントを起動し、ログインをする。
 今回の目的は、この世界の探索。
 新たな拠点が発見できればよし、というものだ。

 少し歩いていくと、……ちょうど、誰かがこそこそと庭に穴を掘っている。
「うわあああん! 領主って難しいなあ! 夜くらいは眠らせてほしいのさー!」
 穴に向かって何かを叫んでいる。
 人がいたことには気が付いていないらしい。
 ひとしきり叫ぶと、気まずそうに「あっ……」と顔をあげる。

●……さっきのことは忘れてほしいさ
「エヘン。よく来た、勇者たちよ……歓迎しよう」
 呼び出された勇者たちの目の前に、おいしそうなおやつが並んでいる。
 アンクル・ヘアリージャックと名乗った男は、どうやらこのあたりの領主という設定のNPCらしい。
 改まっても、先ほど泣き言を吐いた様子はごまかしようがない。……悟ったのか、アンクルは人払いをすると肩の力を抜いた。
「なんて、言っても今更かなあ。
ええとね……俺は、幽霊騒動に悩まされてるってワケなんだ! もう何日も!」
 よく目を凝らすと、ふわふわと浮いている人魂が見えるだろう。
「発端は、身元不明の遺体をいつもの通りに埋めたことらしいんだ。
でもね、その遺体ってのは、ほんとに……ホントに、骨ひとかけら、みたいな状態だったわけさ。
俺だって領主として、なんとかしてあげたい。なんとかしてあげたいんだけどね。
手がかりもないし、毎晩毎晩、もうほんとにここのところはずっとポルターガイスト現象が起きてて!
この人? が、誰なのかもわからないし、何を聞いても『チガウ』『そうじゃない』って言われるんだよ-!
話が通じなくって……ホントに……困ってるんだ」
 泣き言を言い、しゅんとするアンクル。

 さて。
 外の世界からやってきた、彼らにはひとつの手段があった。
 ウィンドウを呼び出し、『調べる』。
 うん、そういうことなんだろう。

 オブジェクトを見てみると、なるほど。NPC名が表示されて見えるだろう。
 どうやら、アンクルには見えていないようではあるが……。

『オオオオオ! お前たち! 俺が! 俺の名がわかるのかアアアアア!』
 彼の名前は『ジョン・D』。
 これを手掛かりに、元の世界に戻してやる。
 それが、今回のクエストのようだった。

GMコメント

●目標
・隣の町へジョン・Dを連れていく
(※山賊退治ははオプションです)

●味方NPC
領主:アンクル・ヘアリージャック
「ええ、なんでわかったの!?」
「そりゃあ、助けてくれたら大助かりだけど!」
元の世界のグリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)さんのご友人、とよく似たNPCのようです。
ゲーム内では、グリムさんとも初対面となります。

立派な先代、先々代と比べるとひ弱とみられがちで気を張っていますが、気さくな人物です。
最近寝ていない模様。

●『ジョン・D』について
名前と形のない人魂。ふわふわと浮いています。
あばれていましたが、名前を呼んでからはおとなしいようです。
心得のある人物であれば「どうしても成仏できない」「しかし理由を覚えていない」ということがわかるでしょう。
死んでいるため、かばったりする必要はありません。

名前を出すと、町の人から情報が聞けます。
・『ジョン・D』は街道を挟んだ隣町から出稼ぎに来ていたようだ。
・飲んだくれていたどうしようもない人間だった。
・しかしここのところは娘が結婚するというので、何やら心を入れ替えて金をためていたようだ。
・隣町への街道は山賊がはびこっていて、あえて通ろうというものはいない。
・隣の町にサクラメント? に似たオブジェクトがあったらしい……(目的地ということです)。

●敵
イカサゴ山賊団(6名)
「ヒャッハーーー! まーたカモがネギをしょってやってきたぜぇ!」
「ああん? 今まで倒してきた人間の名前なんて覚えてねぇなあ~!」
 追いはぎを生業とするパワータイプの山賊団。
 隣町へ向かうと遭遇します。
 手口は、落とし穴を掘り馬車が横転した際を狙うというものですが、不意を突くことも可能でしょう。
 通行人から通行料を巻き上げようとしますが、金持ちには目がくらみがち。
 討伐は任意です。

イカサゴ(BOSS)
「馬鹿な奴だぜぇ! 金さえ置いてけば命まではとらないってのによーーー!」
 大斧を持った男です。範囲・物理。

部下たち×5
 イカサゴの部下。弓や剣などを持っています。グラフィックは使いまわしです。

 自身を殺した山賊団を前に、ジョン・Dは悔しそうにしていますが、「やるべきこと」のほうが大切であると感じているようです。
 拠点には空っぽのカバンや財産がうちすてられており、山賊を倒すかうまく忍び込むかすると、ジョン・Dの手紙と金を取り戻すことができます。
 手紙は娘を捨てたことを詫びて、「幸せに」というような内容です。

●その他
隣町ではちょうど娘の結婚式が執り行われており、出くわすことになるでしょう。
残念ながら、娘にはジョン・Dが見えないようですが、ジョン・Dはその姿が見られただけでもうれしいと言い残して成仏します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • Re:最期に一目会えたら完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ニアサー(p3x000323)
Dirty Angel
神谷マリア(p3x001254)
夢見リカ家
真読・流雨(p3x007296)
飢餓する
イデア(p3x008017)
人形遣い
きうりん(p3x008356)
雑草魂
壱狐(p3x008364)
神刀付喪
ルイン(p3x008578)
世界終焉機構最終番
指差・ヨシカ(p3x009033)
プリンセスセレナーデ

リプレイ

●心のこり
(今回は護衛クエストかあ……。
序盤はお使いばっかりだったりするから楽出来ると思ったんだけどなあ……)
 なんてことを、『ヨシ!プリンセス』指差・ヨシカ(p3x009033)は思ったが。
 ちょっと油断が甚大な事故を招く――というのは、『ご安全に!プリティ★プリンセス』が教えてくれる。
(なんてったって今の僕はプリ★プリのヒロインなんだからね! やるか……)
「人? を運ぶのが今回の依頼、なのですね」
『人形遣い』イデア(p3x008017)はジョン・Dを見やった。
「幽霊さんを隣町まで運んで未練を晴らす依頼かぁ」
『世界終焉機構最終番』ルイン(p3x008578)の目には、透明な非破壊オブジェクトが映る。
「キミの名前はジョン・Dくんだね!ㅤ私はきうりんだよ!ㅤよろしくよろしく!」
『雑草魂』きうりん(p3x008356)はぶんぶんと握手をするモーションをとる。
「よくわかんないけど、キミを隣町まで連れて行けばいいんだね!ㅤまかせてまかせて!
バッチリ護衛するから!」
『ああ、よろしくな』
「死人ともこうして話せるというのは流石ゲームですね。
目的があるというのならちゃんと運んで差し上げましょう」
 イデアは使用人のお辞儀をする。
「それにしても、憶えてもいない何かの為に幽霊になってまで固執するなんて……余程の事なのかしらね」
 ヨシカが人魂をつんつんとすると、形がないはずのソレは揺れた。
(全く、娘さんには生きている内に孝行させてあげないといけませんよ?)
 事情を聴いて、『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)は苦笑する。
(心を入れ替えるくらいなら、最初から優しくもできたろうに……)
『恋屍・愛無のアバター』真読・流雨(p3x007296)は、やるせない思いに考えを巡らせる。
 もしそれが早ければ、……間に合ったのかもしれない。
(だが、まぁ入れ替えられるだけマシか。そして家族が家族を思う心というのは尊い物だ。それを奪われるわけにもいくまいよ)
「さぁ、取り返しに行くとしようか。奪われたモノを」
「ええ、参りましょうか」
 イデアと流雨――メイド服を着た二人が、対照的に屋敷の扉を開いた。

 未練。
 わざわざ送り届けるのに護衛がいるとは思えないが、未練を果たす手伝いならば。
 モノに宿った、魂のしなやかさというものを、壱狐はよく知っている。
 きっと壱狐ならそうすると思った。
「しかし、成仏や記憶についてはどうしてでしょうね。ROOだから、で済ませていいものでもない気がしますが」
 壱狐の言う通り、この世界は不思議な世界だった。
「未練ってよくわからないモノだね。
人のやりきれなかった感情が死んでも残るって不思議」
 ルインは”気持ち”に思いを馳せる。
 遥か遠き世界にて人類を滅ぼした神造兵器。
 これはなんなのだろう。
 この世界はなんなのだろう。
 夢見るような、この世界は――。
(ボクは人をほぼ同じ形で造られたけど、そんな機能あるかどうかもわからないし
感情を得た今のボクにはそんな機能もあるのかしら?)
……山賊さんを壊して少しはそれを理解できるといいのだけれど、と、純粋な気持ちでルインは思った。

「心配いらないよ。山賊は倒していく。楽しそうだからね」
『Dirty Angel』ニアサー(p3x000323)はまっすぐに言うことができる。
 ニアサーは強い。しなやかで、刃は鋭い。
「ああ。全く、型通り過ぎる山賊には困ったものだ。物のついでに片付けてしまおうか」
 と、壱狐が請け負った。
「ええ、お掃除はメイドのたしなみです」
「ふむ。僕はぢごくぱんだ、だということだし。……できるだけのことはしよう」
「きうりを食べる人はおおいほうがいいよね?」
「ううん、取り返したいからじゃないんだ。手紙はジョンにとっては大事なのだろうが、ニアサーにはそう感じないよ。
詫びたいなら会って話す他はないのだから」
「そのとおりだニャ!」
『怪盗見習い』神谷マリア(p3x001254)はぴかりと目を輝かせ、ぐいぐいと空に伸びる。……完璧に均整の取れたプロポーションで。
「全くおさがわせな山賊どもだニャ
まー、にゃの技でいっちょ軽く片付けてやるかにゃ!」

●どうやって行く?
「街道が怪しいニャ! わかっちゃったにゃ~」
「街の人たちに聞き込みをしてきたわ。って、すごいな……」
 マリアとヨシカが戻ってきた。
 壱狐に出発まで少々待ってほしい、と言われていたのだが……。
 職人魂。
 その腕はいかんなく発揮されていて、ボロボロの使われていなかった馬車が、あっという間に見事な馬車になっていた。
「うわっ、すごいね! これで商売できそう!」
 きうりんがぽふぽふと良い席を確保する。
「あら、このメッキの剥がれは……なるほど、わざとなのですね」
 イデアが感心して頷いた。
「はい。『訳アリな金持ち』という雰囲気です。あまり立派に作りすぎても、手を出されない可能性があります。……そこのレバーを押せば、脇が開きますよ」
「にゃにゃ? これかにゃ?」
「おお? 押してみなよ~」
 あくまでも怪しいレバーは静観するきうりん。
「あ、ぼ……わたし? はいっ! 脱出口ヨシ!」
 ヨシカが指をさすと、見事に、扉には見えない箇所の板が開いた。
「これなら……襲撃もたやすそうだ。僕は、馬車のそとから襲撃しよう」
 流雨は頷いた。

●謹製馬車での優雅な一日
「揺れは問題なさそうですね。そう作りましたが、ほっとしました」
 壱狐が、馬車の出来に満足したようにうなずいた。
「……信じられないほど乗り心地がいいわね」
 ヨシカはふかふかのクッションにもたれかかる。
 怪しまれないように、自然な雑談をすることとした。
「ねえねえ、一日に必要な野菜の量ってどのくらいか知ってるかな?」
「お野菜、ですか。食べものの、バランスは大事ですよね」
 きうりんの問いかけに、イデアは楚々として頷いた。
「……食事というものは、難しいな。とる必要がある、というのは新鮮だ……と、さて、そろそろ隠れておくか」
「ニャー! 了解ニャ」
 流雨とマリアが離脱し、襲撃のために潜んだ。
「……うん、風が気持ちいいな」
 ルインは、イデアの隣で護衛のふりだ。
「これでどうだろう。護衛に見えるかい?」
「ええ」
 ルインはちょっと顔をしかめながら周囲を睨むようにして、それからふふっと笑って、また見張りに戻る。あれはなんだろう、と目にとまるものすべてに目を輝かせる。
 乗馬とお嬢様方の引率は、メイドとしてのたしなみである。
(……実は乗馬はできますが御者は経験があまりないのですが何とかなるでしょう。ええ、きっと、たぶん)
 馬は、吊るされたきうりを目標に走っていた。
「へへ、きたぞ、獲物が……」
「おーーほっほっほ!」
 ニアサーの美しいイエローゴールドのタイラントラインがはためいている。
 分かりやすさ優先。ちょっとくらいわざとらしいほうがいい。らしい。
「ニアサー、こんな感じでいいかな?」
 がたん、と馬車が落とし穴に接近する。
「キャーーーーーー!!!」
「かかったぞ!」
 馬車は、大きく跳ぶはずだった。

「っていうのが敵の狙いニャ。りょーかいりょうかいニャ」
 マリアはフンフンときなくさい地面をかぎつけた。
 ワーキャットの大怪盗にとっては、闇纏いなどお手の物。敵が仕掛けた罠は、もう、笑っちゃいたくなるほどにお粗末だ。
「というわけで」
 さくっと先行して、小石をぶつけた。
 トラバサミはガチっとはまって、動かなくなった。
 これはまず小手調べ。……本命が落とし穴。
「はい、いっちょあがりにゃ」
 キャッツイリュージョン。カモフラージュの土をどさどさと崩壊させて、わかりやすいように跡をつける。近くによって見ないと、何が起こったかわからないことだろう。
「あれーおかしいにゃこわれたにゃ」
 棒読みのマリア。
「なんだ、これ!? おいい、どうなってやがる!?」
「にゃぁあぁん♪」
 とけるような猫撫で声。
 仲間が盗賊を引きつけるうちに、ニアサーが素早く動いていた。
 手綱を引き、しっかりと見える凸凹を横に避けた。刃を一振り、綱を切って馬を逃がす。……彼らには、関係がないことだから。
「くそっ、いったいどうなってやがる」
「カモとかネギとかそんな名前じゃない。私はニアサー」
 はっきりと告げる。

●目標変更:敵の討伐
 闇から流雨が現れた。ぢごくぱんだは闇に潜むけもの。
 素早く、相手をかく乱する。
「っ!」
「無駄な抵抗は止めて投降したまえ。君達とて死にたくも無いだろう」
 絶ぱんだ祭り。闇に潜んだ流雨は、大跳躍して刃を向けた。
 流れる様に、斬りつける斬撃のエフェクトが舞い落ちる。
「下がれ!」
 盗賊は完全に油断していた。これは脅しだと思っていた。やり過ごして逃げるつもりだと踏んでいた。違う、攻略だ。
 負傷は浅く、しかし、確実に当てることこそが狙いだった。
 かすめた刃が動きを止めた。
「こっちのターンにゃ! 馬鹿め、罠にはめられたのはそっちの方だにゃ!」
 しなやかな肢体をばねに、マリアは敵に飛びかかる。マリアのネイルスラッシュが、次々と敵を切り刻んでいった。
「そうですね。……看過してはおけません」
 壱狐の陰陽五行の太刀が振るわれる。
 この武器をどう振るえばいいのかは、自身が良く知っている。術式を纏った一太刀は、想像を絶するような威力だった。
 スリップダメージを表示するレイヤーが重なった。反撃を食らえども、HPは奪った分で均衡を保って動かない。
「てめぇら、何してやがる! こうなったら人質を……っ!」
「させないよっ!」
 ヨシカはプリンセスチャージをきらめかせた。
 賊を前にして悲鳴を上げるような、普通の女の子だったはずの彼女の正体は、そう。魔法少女だ。粒子に包まれ、まばゆく輝いて、一瞬のうちに衣装をまとった。
 魔法少女プリティ★プリンセス。
「みんなの道にわなを仕掛けて、襲撃するなんて許せない! ……プリンセスパイルハンマーヨシ! 今日も一日、ご安全にっ!」
 空中に召喚された杭。プリンセスパイルハンマーがどすんと重量のある音をたてながら落下してきた。鋭さを増した一撃だった。
「貴方達のそのねじ曲がった性根……私が工事して直してあげるわ!」
 ずっしんと地面が揺れる。
「下がっていてくださいませ、ジョン様」
 イデアはひらりと馬に飛び乗った。馬の一頭は、自分の騎乗用の相棒。
 御者よりはこっちのほうがやはりしっかりくる。
「ジョン様を護る必要はないですが馬車が無くなると面倒ですから」
「安心してください。頑丈に作りましたから。存分に」
 壱狐は横転した馬車を遮蔽物に使い、降り注ぐ弓矢を防いだ。
 陽の構えと陰の構え。呼吸が調和し、整っていく。
「ありがとうございます。では、ご遠慮なく。あまり時間をかけても仕方がないですし速攻で決めたいですね」
 イデアは、一体は片手で手綱を握り、もう一方の手は空へと伸ばす。鍵盤を奏でるような動き。馬車から転がり落ちるようなそれは。
「!? まだやつらがいたのか、いやっ、なんだ!?」
 大剣をふりかぶり、人影が、山賊へと斬りこんでゆく。
「動きがおかしいぞ! 人間じゃない」
 ご明察。イデアが操っているのは人形だった。人には不可能な動きで、しなやかに武器をふるう。
「通すことはできませんよ」
 壱狐の刀が賊の一撃を阻んだ。きらりと光るエフェクト、「ほいほい! りょーかい!」と、きうりんの癒しが飛んでいった。
「テメェ、俺たちを倒そうってのかよ!」
「うん、もちろん。この刀はとっても良く斬れるし」
 ニアサーはねじ込む。
 二連の風。
 ニアサーの身体を吹き抜けていく、弐つの風。
『オストヴィント』は、ニアサーの傷の分だけ強くなる。少し泣きそうな、風の音。
 多勢に無勢だったはずの情勢はいつの間にか逆転している。
「ほら、綺麗だよ?」
 倒れた盗賊から、墓標のように、ライト・ピラーが建った。
「ニアサーは、止められないよ」
「へえ、ここが急所だね」
 ルインの目にうつる、効率的な『壊し方』。
 群れでも、身体の一部でも。生物でも、それはオブジェクト。
 HPがあれば破壊ができる。……効率的なウィークポイント。
 ルインが狙ったのは、まっすぐに敵のリーダーだ。そこさえ潰してしまえば、攻略は容易そうだった。
「くそっ、どうして俺たちがこんな目に遭わなきゃいけない?」
「……? 怒ってるの、かな」
 ルインは不思議そうに首を傾げる。なら、盗賊なんてやらなければいいことだ。
「まあ、君たちが壊してきた人の分を返しに来ただけだから恨み? を抱かないで欲しいな」
「よおし!ㅤかかってこーい!!」
 みずみずしいきうりんが、戦場でまぶしくビタミンをふるう。
 野菜の本能。どうしようもなく食欲を、――比喩の意味ではなくほんものの食欲を掻き立てるフレッシュさ。訳の分からぬままに、賊はそれに群がるしかなかった。
「どけえええ! 俺のきうりだ!」
「みんな、これを食べて!」
 ぶちい、と腕に生えたきゅうりをもいで、スポーツドリンク感覚で仲間に渡していった。
「やべえ! アイツやべえぞ!」
「もごもご……美味い」
「食べてんじゃねぇ!」
 ご安心あれ、リボーンベジタブルによってぽいぽいといくらでも生えてくる。回復の文字色のダメージが無数にポップアップする。

●勝利条件:ボスの討伐
「にゃあ! そっちにいったにゃあ!」
「こちら、問題ありません」
 イデアは、自身を狙う不届き物を、キックで蹴り飛ばす。人形を操糸技術によってあやつりながら――つまり、自分と人形、両方を正確に動かしている、ということだ。
 このあたりで、決めるか。
 壱狐は動きを止めた。懐まで飛び込むことで、威力を最大まで高める。
「コイツ! 死にてぇのか!?」
 星神徹しが、敵を切り裂いた。
 流雨のぱんだくろーが、氷の刃を繰り広げる。
 流雨の一撃によって、指揮系統は混乱していた。
 生殺与奪、加減の一撃。今回の場合が意味する戦闘不能とは、すなわち戦闘を続行する意思がないところまで追い込むことだ。
(此方が有利になれば、投降する者もでるやもしれぬ)
 狙いの通り、何人かが膝を屈して、武器を放り投げて降参の構えを見せた。
「てめぇら、皆殺しにしてやるー!」
 ぱきり。
 みずみずしい野菜が折れるようなもぎたての音がした。
「死んでもみんなを守りきるぜ!
みんなを傷つけたいなら、まずは私を殺してからにしなよ!!」
「きうりん……!」
 きうりんの犠牲を背に、ヨシカはぐっと掌を握る。
「大切なものを奪われた人達の気持ちなんてあなた達には分からないでしょう
けれど、その受けた痛みをこのパイルハンマーで心の奥深くまで味合わせてあげるわ!」
「後は頼んだよ……!」
 きうりんの渾身の癒しの力。
「ありがとう」
 風を受けて、ニアサーは、引かない。
 一撃。
 二撃。
 それは、「あゆ」と「こち」の二撃を基とする連携攻撃。
オストヴィントの連撃が、斧の可動域を自然と狭める。防戦一方、力自慢の賊も、遠心力を乗せなければ本来の力を発揮することはできない。
 がきん、と、斧をついた。
「金はいらない。命をちょうだい」
「ぐ、ぐああああー!」
 見事な一撃だった。

●祝福の鐘の音
「にゃにゃ! 勝利ニャ!」
「まだ、続けるか?」
 流雨は油断なく攻撃しながら、残党を見渡した。戦意を失った山賊たちは、逃げ出したり、やぶれかぶれに襲い掛かってきたりなどだ。
「まぁ、生きていればやり直す事もできる。死ねば「次」は無いが。この世界の理は解らぬし「例外」もあるのだが。僕としては、どうせなら生きて君達の奪った物の重みを噛み締めてもらいたいのでね」
「物の重み、かあ。難しいね」
 ルインはきょとんと首を傾げた。
「まぁ、後で役人にでも突き出せばよいだろう。先を急がねば。拠点で金と手紙は忘れずに回収せねばならぬしな」
「そうね。さあ、さっさと大事なものを取り返しに行きましょう」
「……これだな」
 壱狐は手際よく、カバンと遺品を見つけた。奪われた金も……。

「さて、金と手紙は間違いなく渡すが。彼の死を伝えるべきなのかな」
「難しい、ところですね……」
 晴れ舞台。
 本来であれば、これは「家族」の問題。
 ジョン・Dが理由を覚えていないなら、本人に確認もできぬし。結婚式というハレの日ではあるし。とはいえ墓にも入れないならジョン・Dが報われぬ気もする。
「見てもらうことも話し合うことも今はできなくても、気にするほどではないよ。必ずまた逢えるからその時に話せばいい。嘘じゃない。ニアサーにはわかるから」
 ニアサーの言葉に、ジョンは揺れた。
 ジョンの言葉はずいぶん聞こえづらくなっていた。
「おまたせ! 結婚式一緒に見ようか!」
 リスポーンしたきうりんの意見はシンプルだった。
「んー、娘さんとジョンくんの間にどんな遺恨や悔恨があるのかはよく知らないけど、まぁ一目見たいっていってるんだから、見れたらジョンくんは嬉しいはず!」
「こちらをどうぞ」
 イデアがものを渡せば、……何も言わずとも、誰からかはわかったようだった。
 鞄の中に入っていた手紙も。中身を私が知る必要はない。
(幸いの席なのですから今日結ばれた彼女たちに祝福を)
 いまのところは、行方不明ということになるのだろう。
「貴方のお父さん、貴女にこれを渡すまでは死んでも死にきれないって。大好きだったお酒もやめて……愛されてたのね」
 ヨシカの言葉に、花嫁は気丈に笑った。
「わたし、おとうさんをずっとまってるんですよ」
「……しかしいいですよね、結婚式」
 イデアはしみじみといった。
「うん。結婚式とは華やかだねぇ」
(でも……ジョン・Dさんは喜んでいるのだろうか
悲しんでいるのだろうか)
後悔、懺悔、喜び、祝福――とても複雑な感情。
「よくわからないや。やっぱり人は不思議だなぁ」
 確かなのは、この光景はクエストをクリアしないと見れなかったものだ、ということだ。

「きっと、幸せにね。
それがお父さんの心からの願いだろうから。
ご安全に、ヨシ」
「無事成仏できますように!」
(……これで、良かったんだろうな)
「彼の死は、新婚生活が落ち着いたころに、それとなく伝わるように取り計らってもらうか」
 これも縁だろう、と、流雨は思った。
「わかるよ」
 ニアサーが空を見上げた。

成否

成功

MVP

壱狐(p3x008364)
神刀付喪

状態異常

ニアサー(p3x000323)[死亡]
Dirty Angel
神谷マリア(p3x001254)[死亡]
夢見リカ家
イデア(p3x008017)[死亡]
人形遣い
きうりん(p3x008356)[死亡]
雑草魂

あとがき

クエストクリア、おつかれさまです!
結婚式はつつがなく終わり、生活が落ち着いたころに話が伝わったことで、ジョン・Dの墓が作られたようです。

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