シナリオ詳細
熱中者に冷水を
オープニング
●
R.O.O世界『ネクスト』における鉄帝は『鋼鉄(スチーラー)』と呼ばれている。
概ね現実の鉄帝国と同様に経済的脆弱性を抱えながらも、強きを尊ぶ国民性と共に大国の一角として北に君臨している――が。
先日。皇帝の地位にあった最強の男ブランドは暗殺された。
毒薬の類ではなく物理的な要素によって――
しかしそれを『誰』が行ったかは現状不明だ。
それは自らこそが皇帝を超えたと言う者がいない故……もあるが。
「次の皇帝は誰だ!?」
「西のガーリーか? それとも東のバビル・バビルスか? いやいややっぱヴェルスか!?」
複数に渡って『己こそが次代の皇帝である』と名乗っている者がいる為でもある。鋼鉄各地に存在する有力者はブランド死亡に伴って僭称を始めたのだ――或いは別に皇帝の座に乗り気ではない者、例えばヴェルス――もいるのだが。
先述したように強きを尊ぶ国民達の目は否が応にも強者に向く。
次の皇帝は誰かと。次にこの国を導くのは誰かと。
……まぁそういう話が出るだけならまだいいのだが。
「うわああああ――! またビーズの野郎が暴れてやがるぞ!」
「テトの野郎が仕掛けやがった! 逃げろ逃げろ巻き込まれるぞ!!」
皇帝暗殺以降、武に自信のある者が各地で『嫌な』方向に活発的になっている面もあるのだ。鋼鉄の街の一角で、今日もまた野試合――というか只の喧嘩――が繰り広げられていて。
「このクソガキャア! 降りてこいや、ぶっ殺してやるよ!!」
「あははは! 脳筋野郎に付き合うとでも思ってるの!?」
一方は筋肉隆々たる大柄の男、ビーズ。
一方は軽々と家屋の屋根上を飛び跳ねるテト。
双方ともにこの地域の力自慢だ。ビーズは腕力、テトは身軽さで。
素早く動き続けるテトがナイフを投じれば、鋭い刃がビーズの肉に突き刺さ――
「あめぇよ!! この程度で俺が殺せるかァ!!」
らない。
防御を固めた彼の肉体がナイフを弾き飛ばしたのだ。ダメージが全くない、という事はないだろうが致命には至らず……直後。家の、己が頭の上を飛び跳ねるテトに対してビーズが紡いだのは近くにあった八百屋のデカイ木箱を持ち上げて。
「死ねオラッ――!!」
「ははは――!! そんなん当たるかよザーコ!!」
テトのいる宙へとぶん投げた。
まるで砲丸投げの様な体勢から。木箱からは中に野菜でも詰まってたのかそれなりの重量がありそうに見えるが……ビーズは物ともせずに放り投げる程の膂力があるようだ。しかし、俊敏たるテトは嘲り笑う様にしながら余裕をもって回避。
再び投じるナイフ。防御。近くの物を掴んで投擲。回避。
――この繰り返しが彼らの間で行われていた。
両者は移動を続けながら尚も喧嘩と罵りあいを続けている……当然、その余波は街の者達にも波及しているものだ。ビーズが八百屋の木箱をぶん投げたのだって、あれは元々売り物であり。
「あああ――! くそ、あいつら今日も無茶苦茶やりやがって……!」
当然八百屋の主人からすれば迷惑千万だ。
喧嘩はいい。むしろこの国では推奨されている面もあろう。
だが関係のない己まで巻き込まれるのは――話が別。
「くそ! 憲兵か……いや、ここはいっそのこと旅の連中にでも頼んでみるか?」
「おおそいつは良い考えだぜ! あいつらをぶちのめしてくれる奴を探そうや!」
故に被害者たちは結託する。奴らを倒せる者を探そうと。
そしてその話が回ってきたのは――イレギュラーズ。
この街へと訪れていた『貴方達』にであった。
- 熱中者に冷水を完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月29日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
喧嘩両成敗、とはよく言ったものだ。
喧嘩を用いてお互いに切磋琢磨していると言えど。
『周りに迷惑を掛けていては、こうなるのも止む無し。二人には精々反省をしてもらおうか』
往くは『世界の意思の代行者』グレイシア(p3x000111)だ。
前方――激しい応酬が行われているのだろうか戦闘の音が聞こえてくる。
やれやれ、これ以上好き勝手させる訳にも行くまい。
テトとビーズ。両方同時に――制圧する。
「……てか、どう考えても確実に近所迷惑だろ!! 想像ってヤツがつかねーのか……いや、まぁ、うん。元になったトコでも確実に『ありえそう』なのが始末に負えないんだけどさ……」
「ホント、鉄帝らしいと言えば鉄帝らしいけど――あ、違った! こっちでは鋼鉄だったね! もう、雰囲気が全く一緒だからか、つい間違えちゃうよ……気を付けないと!」
その中でも動きが俊敏たるテトの方へと向かうのはグレイシアに次いで『結界師のひとりしばい』カイト(p3x007128)と『サクラのアバター』桜(p3x005004)も、だ。
二人もまたR.O.Oにおける鉄帝たるこの国『鋼鉄』に思考を巡らせる――世界が違ってもこのように血気盛んとは、正に『らしい』とばかりに。
だからか、桜は思わず言い間違えてしまう事もあるものだ。ネクスト世界に不慣れである事も相まって、気を抜けばここがリアルの鉄帝であると、つい思ってしまう。
だがいざや戦いが始まればどちらであろうと同じ事だ。
跳躍。軽やかに舞うテトの進行方向へと辿り着け、ば。
「さぁ――鋼鉄のクソ街で起こるクソイベント! ああ正に期待通りの! そしてわたくし好みの! 暴力で解決できるスーパーわくわくミッションでございますわ!」
「おっとぉ? 何かなお姉さんたち、ボクと遊びたいの!?」
「ええ、えぇ勿論ですとも! 武をもって、語り合いましょう!」
嬉々として『なよ竹の』かぐや(p3x008344)がテトへと戦の火蓋を切るものだ。
どこに敵がいるかの調査――? 煩わしい。
心にもない説得でのお涙頂戴――? そんなのため息が出てしまう。
かぐやにとってはとにかく『殴れ』とするだけの――つまりこのような依頼こそが己にとっての至上であった。持て余した力をただただ喧嘩に。発散するかのようにただただ相手に!
――まずは奴めの鼻っ柱を折って差し上げよう。
「さあさあ早速始めましょうか。鋼鉄流の挨拶で!」
テトが屋根から別の屋根へと跳躍する瞬間――彼が地から足を放している瞬間を狙って、かぐやが放つのは竹槍だ。
踏み込み、上半身に捻りを入れて。放つ一閃は神速の如く。
ブチ落としてやろう――そして当然、かぐやに続いて桜達も彼へと。
「身軽さが自慢らしいけど……それだけならやりようはいくらでもあるよ!」
『テト・テーランとは貴様か?
なんでも、速度だけが自慢のハツカネズミの様な奴だと聞いたのだが――
成程。噂に相違ない様だ』
撃を放ちつつ布陣する。テトがビーズの方へ往かぬ様に。
予期せぬ横殴りの者達に対して――二人が間違っても協力せぬ様に。
●
「あぁ? んだぁありゃあ……どこのどいつだ乱入してきたのはよぉ!」
その様子を、テトを追っていたビーズは見た。
――予期せぬ戦闘が始まっている。
聞こえる戦闘音は激しく、しかし己らに横から介入する者がこの街にいたかと――
「やれやれ。愉快などんちゃん騒ぎは『現実』と似通って結構だが……
迷惑している者が大勢いるんだ――軽く蜂の巣にさせてもらうぞ」
「ええ――さて、わたし達も行きましょうか」
瞬間。ビーズの身へと射撃を叩き込んだのは『胡蝶の夢見人』君塚ゲンム(p3x000021)と『ヨシ!プリンセス』指差・ヨシカ(p3x009033)だ。彼方より至る無数の銃弾がビーズご自慢の肉体へと直撃し、次いでヨシカがビーズの足を止めるべく――地を砕く一撃を。
テトの方には近寄らせぬ。さすれば防御の姿勢で構えたビーズが攻を防いで。
「づぉ! 誰だテメェらは!!」
「今から倒すんだ、別に名乗るほどの事でもない――だがお前の名前、俺の『表』での名前と似ていて、ある意味名乗った方が面白い気もするが……」
まぁいいかと君塚ゲンムは呟くものだ。
しかしビーズの奴、思いっきり射撃をぶち込んだのに物ともせずにこちらに闘志をむき出しにしてくるとは――やはり事前の情報通りタフであるのは確からしい。まぁ死なれても面倒なので、助かるといえば助かるが。
「しかし! 周りを鑑みず暴力に思考を優先するその性根……許せません!
暴力で解決しようとする者は、より大きい暴力に捻じ伏せられる物――
拙者が! それを教育してあげましょう!」
とはいえ目標に変わりはない。アイツはぶちのめす!
高らかに心中にて宣言するは夢見・ルル……違った。『航空海賊虎』夢見・マリ家(p3x006685)だ。ふふふとドヤ顔の彼女は、自らの象徴たる猛虎の魂と共にビーズの懐へと跳躍。
「御両名落ち着いて下さい! 暴れては何も解決しませんよ!! あっ、聞いてくれませんね……という事は仕方ありません! 不本意ですが実力行使に出させて頂きます! ええ、これは――話を聞いてくれない貴方が悪いのです!!」
「な、なにを言っていやがるテメェ!!? 話を聞いてないのはテメ……」
ふふふそれ以上喋らせませんよ……とばかりにマリ家が紡ぐのは串だ。
それはあらゆる防を穿つ電磁の一閃。突いて突いて突いて突く――それは肉体への損傷よりも精神へのダメージを与える為に! 如何に優れし肉体を持とうと、内からまで眼鏡とは限るまい……これぞマリ家流殺法・串の術『マリ屋』!
「ふむ――貴様がビーズか? ヴァンの街で一番の力自慢だと聞くが……しかし少年にも我々にも苦戦する今の貴様を見るに、到底そうは思えぬな。所詮噂には尾びれがつきものという事か」
そしてダメ押しとばかりにビーズを煽るのが『UNKNOWN』プロメッサ(p3x000614)だ。
奴に恨みはない――が、これもゲーム故、特に因縁の類を気にすることもあるまい。
その自慢の鼻をへし折らせてもらうとしよう、だから。
「それとも……敗北が怖いか? 或いは己よりも『上』がいる事を知るのが――怖いか?」
「――上等だテメェ!! 碌な死に方は出来ねぇと思いやがれよゴミがァ――!!」
奴を引き付ける。
力には力をもって。真正面から叩き潰すべく。
強化装甲に身を包んだプロメッサと、己が肉体を誇るビーズの激突が――衝撃波を生み出した。
●
二分された戦場。それはイレギュラーズの策通りで――
されど、どちらも激しい応酬が行われていた。
ビーズの方は力と力のぶつかり合い。そしてテトの側は。
「さぁって。冷水はねぇが――氷なら大して変わんねーよな?」
速度と技の中で。
その渦中。カイトは己が姿と同様の分身――しかし目だけは青の――をテトへと向かわせていた。
己は近く。攻撃が届く位置に潜伏しながら機を窺おう。
表向き分身が『攻撃出来ている』様に見せかける事が出来れば最上だ――が。
「ハハッ! ボクに氷を、だって?
そうはいかないなぁ――戦いってのは燃えるものだからね!」
されど戦闘力のない分身では荷が重いか。放たれたナイフが胸元に吸い込まれるように。
死すれば消えるは分身故――だが、カイトの力がこれだけで終わりな筈もない。
「へッ、逃がすかよッ!!」
相手の行く先を取る様に。さすれば顕現せしめしは――壁だ。
見えぬ、不可視の壁。どれだけ素早く動ける者でも障害物があれば自由自在とはいくまい。
敵の動きを制限し、先を読んで狙い穿つ。
打ち込む結界が冷気の流れを醸し出し――テトの身を極寒にて縛らんとすれば。
「自信満々は結構だけど、相手の力量は見極められる方がいいね!
足が良くても目が悪いんじゃ、宝の持ち腐れだよ!」
「なんだいお姉さん。まるで――ボクより強いみたいな言い草じゃないか!」
立て掛けてあった梯子を駆けて、足りぬ一歩は壁を蹴って。
直上へ、跳躍一瞬。桜の目線がテトへと追いつく――と同時に放った撃は確実に当てる事を宿命としたモノだ。如何にテトが早かろうが飛び跳ねようが、そんなことは知らぬ見えぬ当てれば良いのだと言わんばかりに。
足を削る。奴めの躱す力を削いで、味方の援護の一端と成せば。
『速度だけが自慢のハツカネズミの様な奴だと聞いたのだが――成程、確かに矮小だ』
「逃がしませんわよ! 天を舞う翼がある訳でもありますまい……えぇ、串刺しになりなさいな!! こら、逃がしませんわよ!! うらぁっ! もういっちょ!! 死ねェ!! 足掻くなァ!!」
次いでグレイシアとかぐやの一撃も追いつくものだ。
呪いにて縛らんとするグレイシアの一発はマトモに当たれば脅威となろう。体力を吸い取る力も宿していれば――テトから反撃のナイフが投じられてもそう易々と落ちる事はないものだ。そしてかぐやは引き続き渾身の投擲を逃げるテトへと放ち続ける。
「う、うわぁ!! なんだこのお姉さんは……ちょ、あんまりにも殺意が高いよ!?」
「これは迷惑を被った八百屋さんの分! これはそこの果物屋さんの分! これはさっきうっかり私が足を踏んでしまった方の分! そしてこれは――三丁目のタナカさんの分ですわ! 死ねッ――!!」
「途中からなんか理由おかしくない――!?」
ブチ当てる。ああブチ当てる。絶対に。
かぐやが目指すのは完全なる勝利だ。ただ買った、と言うだけではまたこの騒動は繰り返されるかもしれぬ――ならば彼には二度と暴れる気概もなくなる様なトラウマをと、再発を防ぐための慈悲の殺意を放つのだ。
『ふむ――どうしたかね? 速度に自信があったようだが、だんだん余裕がなくなっている様ではないか。お疲れならば結構な事だが……所詮井の中の蛙と言う事か』
「な、なにを――ボクを舐めるなよ!」
直後、竹槍を躱した横から衝撃をテトは受ける。
グレイシアの一撃だ。疲れが見えてきたが故にこそ、奴は逃走一択になるやもしれぬ。
――それを防ぐ目的でも煽っていくとしよう。
中々に優位を取れなくなっており苛立つテト。それを包囲する様に立ち回りながら。
「そろそろクールダウンの時間だな――手伝ってやるよ、頭の芯から冷えつきな!」
そしてその足を遂に捉えたのがカイトだ。
呪いの結界が。楔状の結界が複数、点を成してテトを捕らえる――
氷獄に囲うが術者の原点。結界師たる彼の真骨頂たれば。
「過信したのが君の敗因だよ。
元気が有り余ってるなら――ラド・バウにでも行って、自分を高める事だね!」
瞬間。桜が身動きとれぬテトの懐へと踏み込んで。
顎を撫でる様に。素早く打ち抜いた一閃が――彼の意識を刈り取った。
「ぬぉぉおおおお――ッ!!」
同時。ビーズ側の戦況は――良くも悪くも『派手』であった。
「あなたの腕力は岩をも砕くらしいわね?
……でも、腕力なんて無くても、岩どころか地面も割れるわよ
簡単なモノを砕くことが出来るのが――そんなに誇らしいの? 安いわね」
「うっせぇぞこのアマが――!!」
激突するはヨシカとビーズだ。拳の一閃が地へと放たれれば衝撃が周囲を襲う。
建物を揺らさんばかりに。重戦車の如き圧が此処にはあった。
(……うう~ん! こりゃすっごいなぁ! ホントリアルじゃん! フルダイブ型ってのもそうだけど五感もあるし……これゲームしてるって事忘れちゃうんじゃないの!? 練達も凄いものを開発したよね!)
そのビーズの一撃を跳躍して躱しながらヨシカは――いや『中』の定は思考を巡らせていた。
それはこの世界そのものに。ビーズと戦う前から感じてはいたが……この世界『ネクスト』のリアルさと言ったら形容しがたい程の再現度だ。いや普段は練達から出ない故に他の国の様子とかは全く知らないが――しかしこれだけの華麗なグラフィックでありながら、タイムラグも処理落ちも存在しないとは。
「うう~んこの中なら冴えない僕も美少女だしそれも悪くないかも知れないな……おっと! 今の僕は美少女だからこんな言葉遣いじゃいけないね――そう! 身が綺麗であればこそ、心も可憐でなくては、ね」
ますます外に出る必要がなくなりそうだと感じながら、ヨシカはビーズの一撃を受け止める。
――重い。流石は力自慢を自称するだけの事はあるか。
だが、あぁ一回ぐらいは殴られる感触も確かめておきたかった所なのだ――あ、痛い。まずいこれ痛い! 骨が折れたんじゃないかコレ!? あ、イタタタ!! イタ――い!! 死ぬ――!?
「やれやれ目の前の相手にばかり集中するのは構わないが……後ろがお留守すぎるぞ」
だがそこへ紡がれるのは君塚ゲンムの撃だ。
後方より隙だらけの背中へと君塚ゲンムが射撃を。
『表』でも似たような事をやっている気がするが――まぁ、だからこそ手慣れた様子にて。
「所詮筋肉ダルマでしかないのかね? ああ――これでは手合わせ願った事が恥ずかしくなってしまうぞ。もう少しこちらの事も考えてほしいものだ……あまりに頭が脆弱すぎるても困るのだよ」
次いでプロメッサがビーズの顎へと肘を叩き込んだ。
アッパーの様な姿勢から、流れる様に回し蹴り。足を払いて斬撃一閃。
――止めぬ動きこそ彼の力。逃げず、退かず、真正面からねじ伏せる。
相手の防を貫き、芯へと通して。
「ォ、ぉぉお! 俺と打ち合って勝てるつもりか――!?」
「然り。見せかけだけの柔い体など――なんの脅威にも感じないのでな」
せせら笑うように。拳と拳の応酬が高速連打。
胸を打ち、腹を割るが如き一閃を。頭にぶち込み、肩を狙って振り下ろし。
――血反吐吐く。電子の空間と言えど痛みもリアルで、しかし。
「フ、フフ……まだ、まだだ……あぁ、”楽しみ”は、これからだ!
至高を見せろ! 私の背中に土はつかぬぞこの程度で――!!」
それでもプロメッサは笑った。
不思議な高揚感が彼の心中に沸き立つ。データではない、確かな鼓動が此処にある。
骨の砕きが心地よく。死線の中にある魂こそが活力の権化。
――やがてビーズの足が少しずつ、少しずつ。
震える様に。力を失い始めれ、ば。
「やぁやぁそろそろ限界ですか? それなら――貴方の悪事を数えて頂きましょうか!」
その時。串の権化たるマリ家が大きく息を吸って。
「ええ――!!? なーんですってぇ――!!!? あの路地裏にある酒場を破壊したのもビーズ殿の仕業ですって!? えええ!? しかもその隣の隣にある酒場で虹を吐いたのも!!? ひどい! なんて外道なんでしょうか――これはお仕置きをせねばなりません!」
「はっ? テメェ、な、なにをいって……!」
「しらばっくれるつもりですかぁ~~~!? みーんな聞いてるんですよ~~!! ねぇみなさーん!!」
つ、罪を擦り付けようとしている!! 某ヴァレ家のあれそれの罪を!!
皆に聞こえる様に大声で言うなんて……くそうルル家許せねぇ!! あ、違ったマリ家!! ここに至るまでに負った傷の所為でビーズは反論の声を出す事もままならない……それはちくちくちくちく串で彼の気力を奪い続けていたが故でもある。
無論大怪我はしないように急所『だけ』は外しておいたのだが。ええ、急所以外には思いっきり刺してますけど。ふふ。
でもこれも拙者を捉えることが出来ないビーズ殿が悪いんですよ!
「はぁ、はぁ……な、なんなんだテメェらはあああ!」
思わず叫ぶビーズ。テトも同じ事を思っていただろう。
――されど彼らが『誰』であるのかなど関係ない事だ。
『我らは依頼でここにきているだけだからな――もしも反省する意志があるならば、次は周りに迷惑を掛けぬ様に配慮する事だ』
「お前たちより余程強い連中はごまんといるのだ。それをだな、2人だけの世界に浸ってどっちが強いだの弱いだのついでに周りに迷惑かけての……えぇい、とにかくこのような行いばかりしている貴様らは二流なのだ」
テトを制したグレイシアが言葉を紡ぎ、君塚ゲンムも頷くものだ。
小人閑居して不善を為す――狭い世界に引き籠っていたらろくなことが無い。
日々鬱憤を晴らすだけの戦いに満足している様では小物に過ぎず排除も頼まれよう。そう、だから。
「もっと広い世界に身を投じるを投じる事だな――案外、楽しいぞ?」
ひとまず今は痛い目にあっておけと。
ビーズを打ちのめす最後の一撃を――投じた。
巨体が倒れる。それは同時に終幕の合図でもあり。
「そうだよ、特にテト君――スリなんてしてないで、ちゃんと闘士として生活を立てなさい! 暴れるだけの毎日なんて……二人ともこのままじゃすっごく恰好悪いよ!!」
「イテ、イテテ! やめてお姉さん! は、反省してますから! アイタタタ!」
後は軽くお説教だけしておこうと。
桜はテトの耳を摘んで引きずる様に。力と言うのは相応しい場所で紡がれるべきなのだ。
ともあれこうして一件落着。お灸を据えられれば暴れる事もなくなろう、多分。
「……まぁ、また喧嘩しそうになったら制するけどな」
二回でも三回でも。物分かりが悪いなら叩き潰すと。
カイトは吐息を漏らしながら――現実とよく似た『鋼鉄』の街中の空気を感じていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
ネクスト世界における鉄帝……『鋼鉄』での一時、如何でしたでしょうか。
皇帝が倒れたこの国ではいずれ真の強者が上に立つのでしょう――
ありがとうございました!
GMコメント
鋼鉄の元が鉄帝なら、こういう事もきっと日常茶飯事……!
それでは以下詳細です!
●依頼達成条件
『ビーズ』と『テト』両名の撃破。
●戦場
鋼鉄郊外に存在する街『ヴァン』の住宅街です。
後述するビーズとテトが暴れています。奴らをぶちのめしてください。
周囲は家屋や商店が立ち並んでいる様です。
時刻は昼。特に視界に問題はないでしょう。
●ビーズ・ビーズ
ヴァンの街で一番の力自慢を自称する筋肉隆々の男です。
粗暴かつ短気な性格ながらも、彼の優れた腕力は岩をも砕くとか。また、その自慢の筋肉は防御面にも優れているようです――反面、あまり俊敏性はないのかいつもテトには逃げられています。小回りにも優れていないように見受けられます。
キレると周辺の被害などなんのその。
木箱を投げつけたりと無茶苦茶に暴れ始めます。
●テト・テーラン
ヴァンの街で一番足が速い、己より優れた者はいないと自称する少年です。
実際屋根の上を軽やかに跳躍するなど非常に身軽であり、投げナイフを正確に相手に投じるなど刃物の扱いにも優れています……が、ビーズと比べると明らかに腕力で劣っています。耐久面もビーズと比べれば大したことはないでしょう。
普段はその俊敏さをスリなどの窃盗に使っている困った奴でもあるとか。
ビーズをよくキレさせる様に、相手を舐める様な発言をして挑発する傾向がある様です。それは意図的でもあるようですが、同時に彼自身が俊敏さに自信を持っていて周りを『ノロマ』と思ってる事もあるかもしれません。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
Tweet