PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ぼくは悪いスライムじゃないよ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●その男、回顧する
 あれ、僕は何をしてたんだっけ?
 確か――バグが見つかったー! おいこらてめー技術者だろなんとかしろー! とか聞こえて、とりあえず「ハイイィィ!」って返事したっけ。何で反射的に返事しちゃったんだろう、あのときの自分のバカヤロウ。
 そこからモニターと只管にらめっこして、上から下に流れる文字を凝視して。あ、これ絶対視力落ちるやつだ、辛いなーなんて考えてた……気がする。
 味気ない棒状の栄養食品や即席で済ませてたっけ。来年になったら体がボロボロになってそう……さよなら健康。こんにちは真っ赤になった数字。
 ソファで仮眠して、目が覚めたらまたチェック。この繰り返し。
 疲弊しきってた所に「もしかして実地検証した方が早いんじゃね?」と閃いた。天才。
 早速取り出した器具を章着してダイブ!
 そよそよと流れる風、ふかふかの草原に体が半分以上埋まって……え、埋まってる?
 おかしくない? バグってこれじゃない? 僕のアバターってこんなに小さくないよね。
 不思議に思いつつとりあえずぽよんぽよんと跳ねて移動する。すると周囲にいる「なにか」も合わせて飛び跳ねる。
 え、跳ねて……?
 ガサガサッ、と茂みを揺らして現れたのは水色の透けるぷるぷるボディ、スライムだった。
「なんだスライムかー……って、え? えええええ――っ!!」
 ほっとしたのもつかの間。興味津々にこちらを見つめ取り囲むスライムのボディに写った自分の姿を見て、今日一番の悲鳴を上げた。
 一本線で表現されているが円らなに見える瞳、周囲を取り囲むスライムと同じく水色のゼリーのようなぷるぷるボディ。個性なのか眼鏡をかけて空き缶を乗せている。
 どこからどう見ても冒険の序盤における名脇役、経験値の素たる『スライム』だった。
「うそ、うそだ……そんな、僕がスライム? 何かの冗談でしょ」
 慌てふためくぼくの周りで、徐々にスライム達が包囲網の輪を狭めていく。
「た、助けてー! 僕は悪いスライムじゃ無いよ――!」

●スライムが助けて欲しそうにこちらを見ている!
 仮想環境『Rapid Origin Online』、通称『R.O.O』。舞台である仮想世界『ネクスト』ログイン中の『プレイヤー』達――練達の技術者や希望ヶ浜の学生や職員が閉じ込められるという深刻な状況が発生している。
 彼らを救出すべく、イレギュラーズ達はアバターを作成し『R.O.O』へとログインを果たすのだった。

「ちょっといいか?」
 翡翠(エメラルド)における迷宮森林の入り口近くで、『バシル・ハーフィズのアバター』バシルが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「行方不明だった『雪村』という技術者が見つかったんだが、救出に手を貸して欲しい」
 森に入り少しばかり進むと、開けた草原に出る。『始まりの草原』と名付けられたエリアには沢山のスライムがおり、駆け出しのプレイヤー達がここで戦闘について学んでいくのに最適の場所となっている。
 そこに大量のスライム達が一カ所に集まって、一匹のスライムを取り囲んでいるのだという。
 いまは攻撃せず、ぷるぷるボディを時折震わせながら観察するようにじっと見ているだけなのだという。
 だが何もしなくともモンスター。群れに囲まれた技術者はドラゴンににらまれたスライムの心地だろう。すっかり震え上がってしまっている。
「その取り囲まれているのが失踪した技術者だ。彼はいまスライムの姿をしているが、周りのスライムとの見分けは……眼鏡を掛けて、頭に缶詰の空き缶を乗せている」
 どうやら直前に食べていたと情報提供された焼き鳥の缶つまが乗ってしまっているようだ。
 ちょっと可愛らしいな、と思って見ていたわけでは断じてない。決して。
「集まってる数も数だけに、もしかしたら苦労するかも知れない。今のところ周囲のスライム達は取り囲むだけだが、攻撃を全くしないとは言い切れない」
 個体だけを見れば弱いモンスターだが、今回は数が数だ。
 スライム達の体当たりとなればさほど威力は無いにせよ、技術者は体力も低い。
「彼が攻撃され倒れる前になんとか救出したい。手を貸してくれるか?」
 引き受けた、とばかりに頷くプレイヤー達にバシルはほっとした表情を浮かべた。
「頼む。震えるスライムを見ているとなんというか……心が痛むからな」

GMコメント

 ROOへようこそ! 水平彼方です。
 冒険序盤に倒したモンスターってなぜか愛着が湧いて、カンストしてから見ると最初の頃を思い出しますね。

●目的
 スライムの群れから研究者を救出する

●『始まりの草原』
 迷宮森林の端にある小さな草原地帯です。
 ちょうどスライムの体が半分くらい埋まるほどの背丈の草が生い茂っています。
 風は心地よく見晴らしは良好で、これから先に待ち受ける冒険に思いをはせる……そんな場所です。

●エネミー
 スライム×いっぱい
 まるく水色のぷるぷるボディをしたスライムです。一本線で表現された、しかし円らに見える愛らしい容姿の初心者向けモンスター。
 倒してもどこからともなく湧いてくるので、適当なところで退散すると良いでしょう。
 攻撃手段は体当たりのみですが、塵も積もれば山となる。油断のしすぎにはご注意ください。

●雪村技術者
 『Project:IDEA』に携わる技術者。原因不明のエラーの解決を他の技術者から押しつけ……もとい引き受けてしまいました。
 現在は眼鏡を掛け、缶つまの空き缶を頭に乗せるスライムの姿をしています。
 缶つまは焼き鳥です。
 現在沢山のスライムに囲まれて震えています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考

 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • ぼくは悪いスライムじゃないよ!完了
  • GM名水平彼方
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グリース・メイルーン(p3x000145)
灰の流星
ハルツフィーネ(p3x001701)
闘神
ハウメア(p3x001981)
恋焔
リセリア(p3x005056)
紫の閃光
May(p3x007582)
めい☆ちゃんねる
タイム(p3x007854)
希望の穿光
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)
災禍の竜血
ひめにゃこ(p3x008456)
勧善懲悪超絶美少女姫天使

リプレイ


 爽やかな風が草原を波立たせ、豊かな大波を作り上げる。
 土がむき出しになって幾人の足に踏み固められた道は、ここから旅立っていったプレイヤーの多さを思い知れる。
 時折不自然に揺れる草むらからは、小型の動物型モンスターが現れてどこかへと走って行った。
「わー、すごく見晴らしのいい素敵な場所。ゲームの中で風を感じるなんてどこまでも本物みたい。これでスライムがうじゃうじゃしてなければ最高なのだけど」
 『冒険者』タイム(p3x007854)は清々しい空気を一身に受けながら、これから先の戦いを思って昂揚した気分が少し落ち込んでしまった。
「スライム、って聞くとRPGの序盤を思い出すね」
 グリース・メイルーン(p3x000145)が『始まりの草原』を見回しながら感慨に浸る。
「……まぁ、もっとも今回相手にするのはそうそう楽勝でもなさそうなんだけど」
「でも初心者向けの場所なんでしょう? じゃあ、気を付けてればそんなに危なくはないはず?」
 
「めーい☆ちゃんねるー♪」
 妖精AIに向かってバッチリ映えを意識したお決まりの挨拶とポーズを決めて『めい☆ちゃんねる』May(p3x007582)の配信がスタートした。
「ハーイ、メイなのですよ!
 ゲームといえばスライムさんは定番ですよね?
 今回はたくさんのスライムの中から良いスライムさんをお助けするクエストなのですよ! お助けするスライムさんは……眼鏡をかけて、空き缶をのせてるですか?」
「そう、特徴って確か眼鏡と缶つまの空き缶を乗っけているんだよね。でも見た目は同じになってしまっていると……やれやれ。これは結構目を凝らさないと間違えそうだね?」
 グリースが見渡すが、それらしきものはまだ見当たらない。
 愛らしい天使の翼をもったテディベアに乗った『魔法人形使い』ハルツフィーネ(p3x001701)とハウメア(p3x001981)上空から偵察する。何かに気がついたハウメアが指さした方角にはぷるぷる震える水色の群れ。
「ひいぃいい――!」
 その中央らへんから悲鳴が聞こえた。
「ふむぅ?
 これが都会のスライムさんの流行ファッションなのですか?」
「あ、誰かいる……! た、たすけてええ! あと人がめっちゃデカいい」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねるスライム――もといスライムの姿になった雪村が群れの中から顔を出す。
 飛び跳ねる空き缶、オーバル型の地味な眼鏡がちょこんと乗っている。
「混沌のいかがわしいスライムと違って随分可愛らしいのね。わあ、痛っ!」
 タイムが足下に転がるスライムを突くと、痛みと共にダメージが入った。
「可愛くたってモンスター、やっぱりわたし達とは分かり合えないの……? ゲームだしそれはそっか!」
 タイムがはしゃぐ横で、リセリア(p3x005056)は彼がこうなってしまった原因について考える。
(多分、ログインした際のログイン先のアバター情報が、何らかの理由でNPCとして存在しているデータに切り替えられている……とかそういうものなのではないかと思うけど)
 ゲーム的に考えれば、普通は操作できないNPCを操作できる、と思えば面白そうではあるが。
「フルダイブ型で、自分の身体としてスライムみたいなものに入れられるというのは、なんともはや……」
 リセリアは心中お察しいたします、と哀れみの目で雪村を見た。
「スライムに眼鏡……どのように装着されているのでしょうか。ゼリーに沈んでいるのか……不思議な力で浮いているのか。興味が尽きません」
「うっうっ……動きに追従するモーションまで着いてる」
 ハルツフィーネの問いに涙声で答える雪村。なぜか作り込まれていて外れないらしい。
「たくさんのスライムが集まると一面水色で、まるで泉のようですね……。ひ弱なスライム姿でこれだけの数に囲まれれば、確かに恐ろしくなりますね」
「急ごうか、余り時間をかけるのは良くないだろうから」
 ハウメアのの言葉に『白竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)が頷いた。
「ほぅ、スライムですか! 序盤の雑魚ですよね! ひめも知ってますよ!
 そんな雑魚がいくら束になった所でひめに叶うわけ無いんですよ! 丸さならベネディクトさんのアバターも負けてませんしね!!」
「ふふ、ありがとう」
 『勧善懲悪超絶美少女姫天使』ひめにゃこ(p3x008456)に愛犬の姿を借りたベネディクトはふさふさの毛並みを揺らして尻尾を振った。
「雪村さんはとんだ災難ね。心細い思いをしてるでしょうし早く助けよう!」 
 タイムのかけ声に、八人はスライムの群れに向かって駆けだした。


 ハウメアが伝えた位置に到達すると、ぽよぽよぷよぷよと揺れるスライムの群れがあった。
 まずは敵情視察。というわけでベネディクトは円らな瞳でじっと観察し、スライムの習性などを探ろうとした。
「飛び跳ねて移動して、暫く立ち止まってまた移動。攻撃方法は体当たりだけだったか」
 雪村スライムのことも敵視しているわけでは無く、敵では無いが自分たちとは違うから気になる程度のもののように見える。
「ちょうど真ん中辺りに雪村さんがいます、右側が少し薄いでしょうか」
 ハルツフィーネが上空から突入ポイントを探る。スライムの密度が薄い右側に回り込む。
「ならそこから攻めるのがよさそうだね」
 グリースが鷹の目を使いハウメアの示した場所を見た。V&F H137『karma』を握り具合を確かめる。
 クマさん=エンジェルに乗ったハルツフィーネが眼鏡を掛けた缶つま眼鏡スライムの姿を認めると、手を振って存在をアピールする。
「必ずそこまでいきます。声を上げずなるべく動かないで下さい!」
 返事は無いが、代わりにぐずぐずと泣き濡れた声が聞こえてきた。
 プレイヤー達の姿を認めたスライム達が、缶つまスライム――以下缶つまでお送りします――にくるりと背を向けた。
 そしてぴょんぴょんと飛び跳ねながらプレイヤー達の方へと動き出す。
 ハウメアが唇にそっとフルートを寄せて旋律を奏でると、道を拓くように氷の矢の雨を降らせた。
 敵を察知したスライム達が一斉に飛び跳ね、プレイヤー達に体当たりを始める。「ひぎゃああ!」と情けない悲鳴が聞こえてきたが、敵を含めておそらく缶つまには害は及んでいないはず。
 悲鳴をかき消すように、クマさんが両手を挙げ威嚇のポーズを取り、がおー! と咆哮する。衝撃波が同心円状に広がり、スライム達がぽんっと音を立てて消えていった。見た目の割にとてつもなく凶悪なクマさんである。
「やはり数が多いな。こうまで多くては確かに油断は出来んか」
「そ、そうだね!」
 愛らしいポメラニアンの姿からは想像がつかないような騎士の威厳を備えた言動に、タイムは思わず伸ばしかけた腕を引っ込めて近場のスライムに→+℗を入力しぱんちを叩き込んだ。まさかのコマンド入力式である、難易度が高そうな気がするのは気のせいか。否! 攻略本を読み込んで対策はバッチリである、多分。
「特徴って確か眼鏡と缶つまの空き缶を乗っけているんだよね。でも見た目は同じになってしまっていると……やれやれ。これは結構目を凝らさないと間違えそうだね?」
 グリースが隙間をのぞき込んで空き缶を探すものの、ここまで数がいるとさすがに探すだけでも一苦労だ。ベネディクトやリセリアが人助けセンサーで探ってくれているものの、数がすごく……多い。
「それにしても……何故あんなに集られているのでしょうね。
あの缶か眼鏡からそういうオーラでも出ていそう、です」
 上空のハルツフィーネの言葉にグリースはそういうものがあるのかも知れないと思いつつ、引き金を引き続けた。

 なんとか突破口を開こうと、ベネディクトも愛らしい前足で懸命に応戦する。その姿を見る度にタイムが心の中で「可愛い!」と見えないハートのボタンを連打していることは、今のところ知らぬところである。
 敵を見つけて殺気立った――彼らの表情は単一で、どちらかというと常に呑気に見える、スライム達はこの場に存在するプレイヤー達を注視している。
「あっ、居ましたですよ! 眼鏡スライムさんですね。今ナイト君がいきますからね」
 Mayはデフォルメされた小さなナイト君を呼び出すと、眼鏡スライム目掛けて人差し指でビシッと指さし「行けっナイト君!」とかけ声を入れつつ投げた。
「はぁッ!」
 気合いの一斉と共に四聖刀『陣』の刀身を閃かせ、リセリアが飛燕を放つ。澄んだ金属音を響かせ、三日月のような光のエフェクトがが飛ぶ。現実世界では無い、目で楽しませる仕掛けに心が弾む。
「さぁちゃちゃっと片付けて帰りますよ!」
 ひめにゃこはブレイジングドライブVを構えると、指先で弦をかき鳴らす。アンプも無いのにキレのあるいい音が辺りに鳴り響き、すぱんっとスライムを切っていった。飛行部隊付近に居たスライム達はこれであらかた片付いただろう。
 そうこうしているうちに数が減ったものの、どこからともなくスライム達がやってくるのだった。


 再びスライムがひしめき合う草原に戻った所で、スライム達も負けじと体当たりを食らわせてくる。
 当たったところでぷるぷるボディに跳ね飛ばされダメージを受けるだけなのだが、回復手段が無いため適当なところで見切りをつけなければならない。
 先ほどよりもばらつきがあるため、まだ望みはあるかな。とグリースが銃を構え狙いを定めた先で、なんと、二匹のスライムが缶つまにくっついていた。
「おっと、僕が見てるところで飲み込むの禁止! ってね!」
 ヴォーパル・スターで華麗に撃ち抜くと、缶つまはほっと胸? をなで下ろした。
「……消えるかと思った。くっついたところで消えないけど」
「あと一個だったね」
 その様子を見ていたハルツフィーネは缶つまの近くに降り立ち、クマさんが威嚇するように両手を構えた。
「常識的に考えて……草原のスライムより、私のクマさんの方が上です。がおー」
 がおーっ!
 そう、このクマさんは強いのである。咆哮でスライムを蹴散らせるほどに。
 この草原でも弱肉強食の世の中なのは変わらない。駆け出しのプレイヤーがレベルを上げ、やがて蹴散らされるスライム達。今も昔も変わらない光景だ。
「こんな時こそ慌てず騒がず、です。実験が失敗して爆発した時もそんな感じ、と聞きました」
「いや待って爆発しないからひっぱらないないでええ!」
「よーし、ここはわたしに任せて雪村さんを!! ……一度言ってみたかったのよねコレ」
 タイムは薄くなったスライムの壁をぱんちで攻撃しつつはしゃいで、否真面目に戦っていた。
「スライム相手にこの奥義を見せるときが来るとは」
 すぅ、と深く長く吐き出した呼吸に合わせて、リセリアは神経を研ぎ澄ませる。四聖刀『陣』に『気』を込め、刀身が纏う紫電と共に切り裂いた。
 地上に雷鳴が迸る。容赦ない一撃に驚きつつも、缶つまは「侍……やだ、格好良い」と胸をときめかせるのだった。
「いた!」
 リセリアが開いた突破口へと、ベネディクトは小さな手足を必死に動かして走る。凶暴な肉体を駆使して体当たりすると、スライムを蹴散らした勢いのまま無理矢理突破した。
「大丈夫か? 助けに来たぞ」
「ぐずっ」
 鼻は無いのにみっともなく啜る音が聞こえる。とても不思議な現象が起こったが、今はそれどころではない。
「心細かっただろう。だが此処からは俺達に任せてくれ、ちゃんと現実世界へ連れて帰ってやるからな」
 ゆっくりと宥める声音ともふもふの毛並みに癒やされて、缶つまも落ち着きを取り戻していた。
「それじゃあ今度は退路がひつようかなー!」
「どうかな、飛んで脱出できそう?」
 ひめにゃことMayの問いに、ハウメアは「ええ」と頷いて返す。「問題ありません」
「それなら、少しでも飛びやすいように周りを蹴散らすのですよ!」
 じゃーん! と取り出したのは今回、とっておきのMODを適用したスカイフォース・アタックだ。
 カタパルトに並ぶのはこだわり抜いたフォルムのペンギンさん達。その名も『ペンフォース・アタック』。
「ペンフォース・アタック!! 出撃なのですよ!」
 腹ばいになってつるつるとカタパルトを滑るペンギンさん。ぽーんと空中に放り出されると、キューンと滑らかに空を飛びスライム達へと攻撃を仕掛けていく。とてもかわいい。
「きゃーっペンギンさんかわいいですね! ひめも負けて居られませんですよ!」
 エレキギターの音色に合わせて編隊飛行するペンギンさん達。缶つまは「この戦場には歌が足りない気がしたな」と後から振り返る。
 その頃地上のスライムには変わった動きが見られていた。
 数匹のスライムが集まり、もぞもぞと体を震わせると現れたのは大きなスライム!
「合体して王様スライムになっちゃった!? うそ、こんなの聞いてない!」
 しかしここで引く訳にはいかない! 
「はああああっ!」
 コマンド『←↙↓↘→+℗』を入力。すごいぱんちを叩きこむ!
「このままでは埒があかないですね、ならひめに任せるのです」
 スライムの前に立つと、ひめにゃこは愛嬌たっぷりの笑顔を向けた。
「ひめにゃこはー、今日も~超絶カワイイー☆ さぁ、ひれ伏せ雑魚共! ひめはこっちですよ!」
 果たして、アクセスファンタズムの効果は如何に。
「おかしいですね、バグでしょうか!? ひぃー! イテテテ、し、しんじゃう!!」
「おっとひめにゃこさんが人気者に! ペンギンさん、追いかけますよ!」
 あえて離れるように走るひめにゃこを追いかけながら、ペンギンさん達も次々発艦していく。
「ならこちらは逃げるために足止めをしよう。何、竜の戦いは追い詰められてからが本番だからね。いや、今はポメラニアンのアバターだったか」
「ふわもこのイケメンポメラニアンにございます」
 缶つまの周りに集まったプレイヤー達。あとはこの場から逃げおおせるのみだ。
「私が道を拓きます」
 リセリアは言うや否や巻き込まない程度に離れると、再び銀閃『天雷』を放つ。
 そちらに注意が向き、スライム達がまばらになった隙を突いて、ハウメアが缶つまを抱きかかえてふわりと空へ飛び上がる。
「……へ」
「……あ、スライムの身体って柔らかくてヒンヤリして、なんだかずっと抱きしめていたくなりますね?」
 そのまま全速で飛び、距離をとるハウメア。缶つまはスライムではない、暖かくて柔らかい膨らみ包まれていることに気がついて無言になった。
 全国のハウメアさんファンの皆様、いかがお過ごしでしょうか。僕はどうしたら良いでしょうか。魂が飛びそうです。
「いっそげ~! てっしゅ~!」
 ハウメアに続けとタイムが元気よく走る。
「▼しかし まわりこまれてしまった! ってならないように……これなら大丈夫そう。
 あ、余裕ありそうだったら飛べる人運んで運んで! 多分僕軽いよ! 重さがね!」
「ではクマさんに掴まってください」
 ハルツフィーネがグリースの側にクマさんを降ろすと、彼女を連れてつかの間の空の旅へと案内する。
 その下ではベネディクトとリセリアが殿となり、スライムを牽制しつつ走る。端から見ると主人とペットの様相だった。
「残っているのはひめにゃこさんとMayさんね」
 十分に距離を取ったハウメアが二人を助けるべく、黒銀のフルートの音色を奏でようとしたときだった。
「ひめがスライムにやられてあられもない姿になるのを期待した読者の皆さん残念でした! サラバダー!!」
「あ、ちょっと――」
 Mayが制止する間もなく、ひめにゃこは手にしたスイッチを連打した。派手なエフェクトをまき散らし爆発四散するひめにゃこを、Mayの中継カメラの向こう側、カタパルトに整列したペンギンさん達が整列し敬礼して見送った。ムチャシヤガッテ。
「……安全なところまで還ってきましたし、ログアウトしましょうか」
 スライムの包囲網を抜け距離を取った今、スライム達が追いかけてくる気配はない。
 今まで通り『始まりの草原』で駆けだしプレイヤー達の最初の敵として立ちはだかるべく、ぷるぷるボディを震わせている。
 ハルツフィーネが気を取り直すようにそう言うと、プレイヤー達は各々のタイミングでログアウトしていく。
「雪村さん、怪我はありませんか?」
 優しく抱いた缶つまに語りかけるハウメアの姿は女神のように神々しく慈愛で満ちていた。
 こくこくと頷いて、実際には体をぷるぷると震わせて返事をした雪村に、ハウメアは安堵の息を漏らした。
「これでもう大丈夫ですからね」
 さあ、帰りましょう。との言葉に従って、雪村もまた待ちわびた現実世界へと帰還を果たした。
「それにしても、彼がログアウトするまで妙に顔(?)が赤かった気がしますが、大丈夫でしょうか?」

 ――――
 ――
 
『はい、今日の動画はいかがだったでしょうか?』
 後日、めい☆ちゃんねるに投稿された動画は翡翠の街にリスポーンしたMayの姿を映し出していた。
『いかにスライムさんが初心者向けと言っても、こんなに多いと大変なのですよ!
視聴者の皆さんも、油断していたら足元をすくわれちゃうかもしれないですよ?
 では、今回の配信はここまで! また次回の動画で! チャオーなのですよ♪』
  

成否

成功

MVP

なし

状態異常

May(p3x007582)[死亡]
めい☆ちゃんねる
ひめにゃこ(p3x008456)[死亡]
勧善懲悪超絶美少女姫天使

あとがき

 無事? のログアウトおめでとうございます。雪村は無事ログアウトいたしましたので、ミッションコンプリートです!
 お疲れ様でした。お楽しみいただけたでしょうか? 僕はとても楽しかったです。
 皆様にとって楽しいR.O.Oであったのなら幸いです。

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