PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Practice makes perfect

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「……ゲームなのね」
 仮想世界ネクストに降り立った『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)は、自身の腕や衣服に幾度か触れ、不思議そうな表情をしている。
 この世界はRapid Origin Online――通称R.O.Oと呼ばれるゲームの内部だ。
 プレイヤーは現実世界で専用の器具を装着し、意識をこちらの世界へと転送する。サクラメントと称される拠点に、さながら生身同然に感じられる肉体と共に現れるという訳だ。
 奇妙な夢と呼ぶべきか。否、現実そのものとしか感じることが出来ないだろう。

 ネクストに存在するのは、無辜なる混沌と良く似た、けれどどこか違った風景である。
 幻想(レガド・イルシオン)と呼ぶ国は、ネクストでは伝承(レジェンダリア)であり、放蕩王フォルデルマン三世ではなく、優秀な国王であるフォルデルマン二世が治めている。
 ここだけを抜き出すならば、まるで過去のようにも感じられるが、必ずしもそうではない。
 時系列さえ混濁した、混沌以上に歪な世界は、おそらく原因不明の深刻なバグによる影響だ。

 そも練達がこの仮想空間を作ったのは、国家的な思惑、即ち彼等が『強制召還』を打ち破り元の世界へ帰還するために、無辜なる混沌の『法則』を研究し、突破する方法を探るための大規模な実験場を本義とする。
 故にバグは解消されねばならず、原因の調査が必要という訳だ。
 だが目下、別の問題もある。
 ネクストへログインした研究者等に、『帰ってくることが出来ていない』状態となったケースがある。
 こちらは早急に解決せねばならない問題であろう。

 とはいえ、ネクストでの活動はこれまでの冒険と毛色の違う点も多々あり、ある種の不安を感じるプレイヤーも多い。VRMMOといった単語に慣れ親しんだ者からすれば、まさに『そのもの』とも言えるが、アルテナのような幻想生まれ幻想育ちにとっては、理解が難しいことも多かった。
 なにせ彼女は名前さえ『あるてな』と登録してしまい、見た目もたまたま月原・亮(p3n000006)が遊んでたゲームのイメージで作成してしまっていた。戸惑うこと、しきりといった状態である。
 あるてなのようなケースはそれなりに多いため、この依頼では、ネクストについて『実際に触れてみる』点に重きが置かれる事になったという訳だ。
 だから何はともあれ、まずはクエストを一個こなしてみようという話になったのだった。


 初夏の夕暮れは、温かな光を木々に投げかけている。
 小高い丘陵に立てば、枝葉の間から差し込む斜陽との明暗が、瑞々しい広葉樹を暗い色に染めている。
 丘の林では、このあたりの時間から、ブラッドバットなるコウモリの魔物が現れるらしい。
「そのコウモリを見つけたら、狩ればいいのよね」

 ネクストに降り立った一行は、まず『コウモリの翼』を集めることになった。
 街のおっさん曰く、魔除けを作るのに必要らしい。
 あちこちに現れるコウモリを適当に狩り、ドロップした翼を収集するのだ。
 切り取る必要などはなく、倒せばポソっと落ちると聞いた。
 持ち帰る翼は多ければ多いほど良いが、余り長居しても身体(本体)に良くない。
 数十分から数時間程度を戦いにあて、街のおっさんに翼を渡せばクリアとしよう。
 仕事は簡単なものであるはずだ。
「あれって、なんだろ?」

 あるてなが指さす先、丘を駆ける小道を挟んだ向こう側から、地響きが聞こえる。
 身体に伝わる振動は仮想現実とは思えない程の質感を伴っていた。
 音は徐々に大きさを増し、現れたのは――巨大なワームであった。
 緊張が走る中、ワームは徐々に向きを変え、再び道の向こうへと消えて行く。
 どうもここは、強力そうな魔物が出現するエリアと、隣接しているらしい。
「死んじゃうよね、さすがにあんなのと戦ったら」
 ネクストでの死は、本体には影響を与えないと説明されている。
 ぞっとしない話だが、単にログアウトしてしまうだけであるはずだ。
 可能性を燃やして戦い続けることも叶わず、仮に全員が倒れてしまえばクエストは失敗である。
 逆に言えば、誰か一人でも羽を届けることが出来ればクエストは成功とも言える。
 そういった遊びを試みてみるのも、あるいは悪くないのかもしれない。
 更に言うならば、クエストが成功した後の街を散策したりしても良いだろう。
 とにかく、要件を満たせばいいのだ。
「それじゃあ、まずはとにかくやってみましょ」
 あるてなはそう言うと、一行を振り返ったのだった。

GMコメント

 習うより、慣れろだ!
 まずはR.O.Oで遊んでみましょう。
 説明書は困ってから読む、pipiです。

●目的
 コウモリの翼をあつめて、街のおっさんに渡す。

 フィールドをうろうろしているとブラッドバットという魔物が現れます。
 倒してドロップ品を収集しましょう。
 それを適当な時間まで繰り返して、街に帰還します。
 そのほかは自由です。

 おっかなびっくり遊んでもよし、スムーズに理解して仲間をサポートしてあげてもよし。
 あまり難しく考えずに、うろうろしてみたり、装備やスキルを試したり、お望みならば死んでみたり!? 好きにしてみましょう。はじまったばかりで、せっかくなので。

●フィールド
 丘にある林や道や広場です。
 時刻は夕暮れ時。

●敵
『ブラッドバット』
 コウモリの魔物です。
 吸血や音波などで攻撃してきます。
 フィールドをうろうろしている限り、数匹ずつ現れます。

『ヒルワーム』
 たまに現れる、かなり強力な魔物です。
 無理に戦うと死ぬかもしれません。
 戦う場合は覚悟しましょう。

『スモールワーム』
 地面からうねうねと生えてくる魔物です。
 手を出さない限りは、攻撃してきません。
 口から石を飛ばしてきます。

●街
 伝承(レジェンダリア)の、王都に近いどっかの街です。
 ファンタジーの街に、ありそうなものがあるでしょう。

●同行NPC
『ロイヤルネイビー』あるてな(p3y000007)
 R.O.O初心者。レベル1。
 皆さんの仲間です。
 軍刀と、なんだか戦闘機を飛ばす装置を持っています。

※重要な備考

 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

  • Practice makes perfect完了
  • GM名pipi
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

♱✧REⅠNA✧♱(p3x000665)
薔薇を追う
Fin(p3x000713)
Fin.
レイス(p3x002292)
翳り月
Huitzilo(p3x004465)
ファン・ドルド(p3x005073)
仮想ファンドマネージャ
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
ウーティス(p3x009093)
無名騎士
婚前女中・マグタレーナ(p3x009452)
メイドイン工場

サポートNPC一覧(1人)

あるてな(p3y000007)
ロイヤルネイビー

リプレイ


 転移拠点『サクラメント』の光が薄らぐ。
 今し方まで横たわっていたはずの『Fin.』Fin(p3x000713)の身体は、気付くと確かに地を踏んでいた。

 ――ようこそ。ラピッド・オリジン・オンラインへ。

「……これがサクラメント。この世界がネクストですか」

 少し乾いた風は、あたかも慣れ親しんだ幻想の初夏を肌に伝えていた。
 鮮やかな花と木々の色彩が橙色の斜陽に煌めく、その国の名をレジェンダリアと言った。幻想のようでいて、そうではない。練達の実験的仮想空間が暴走した結果、そこはVRMMOを彷彿とさせる世界――ネクストへと変貌した結果だ。

 そういえばと『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)は思い出す。
 故郷には、特殊鍛錬用の似たようなもの――神造異界機構と呼ぶ――があった。
 自己の存在を捧げて異界に接続し、そこで冒険して『プラス』となれば、自己を『買い戻して』帰還出来るといった案配だ。それに比べれば、このラピッドオリジンオンラインの代償は軽微なものだ。
 なにせ練達側からの情報によれば、死んでしまったとしても何の害もないとされている。
 少なくとも『今のところは』。
(……後で高額の取り立てが無ければいいのだけれど)
 懸念せずにはいられない。バグの背後に潜む、何らかの悪意は仄かに感じるのだ。

「――だからコウモリの翼を三枚集めてほしいのさ」
 一行が話しかけたのは、指定された壮年の男であった。なんでもお守りを作りたいらしい。
「分かったよ。っと。……私が上手くやってみせるさ」
 俺じゃなくて私。俺じゃなくて私。
 ろーるぷれいというやつだとイズルが念じる。中々難しいものだ。主に心理的に――とはいえ(まあなんとかなるだろう)と考え直す。
 そんなイズルの隣で、首を捻ったのは『メイドイン工場』婚前女中・マグタレーナ(p3x009452)だ。
 この世界にアクセスするにあたって、それぞれが思い思いのアバター、要は好き勝手に『姿』を用意する必要があった。皆はどのようにアバターを作ったのかと。仲間達を見れば、誰であるのか分かる者も居れば――おそらく見知ったイレギュラーズの誰かとは思うが――腕を組んで黙っている『最後の砦』Huitzilo(p3x004465)のように、正体が分からないものも居る。マグタレーナはといえば、とりあえず『昔の姿』に寄せてみたのだが、はて。『マシン』というものはちょっと『カタコト』にするのがお約束だと聞いた覚えもある。『キャラ付け』と言うのが『そういうものか』どうかはひとまず置いておくとして。これはこれで、なんだか楽しい気もしてくる。
「と言う訳でメイドつまり女中デス。ついでに婚前ですが――それは要ラナイ?」
 依頼主は何も応えない。
 無視をされた訳ではない。おそらく『応えるように出来ていない』のだ、この依頼主(NPC)は。
「それじゃあ、頼んだよ」

 ――クエスト スタート――

 話を聞きながらそんなことを思っていると、軽快な効果音が響いた。
「なるほど、これが入門用のクエストと」
 何でもこの依頼主(NPC)は、何度でも全く同じ台詞を吐き、同じクエストが発生するらしい。
 余りに不自然であり、バグの影響だろう。
 得心した風に頷いた『仮想ファンドマネージャ』ファン・ドルド(p3x005073)もまた、状況を実感する。
 気付けばケルト調の音楽も奏でられているではないか。それがバグの影響か、はたまた初めから用意されたものかまでは分からないが、ともあれ。
「せっかくの機会ですから、色々慣らしていくとしましょう」
 ファン・ドルドの言葉に一行が応じる。

(……しっかり慣れておくのは大事だよね)
 慣れぬ世界なら、慣らすまでという仕事だ。
 何らかの意思があるとして、その存在がゲームを模したならば、ゲームとして挑むのが筋というもの。なんなら楽しんでしまえば良い。
(こっちでの活動の為にも……、うん。頑張ろう……!)
 身体だって、全く違うのだ。
 ならば良い機会だと『幽かに、ゆらゆらと』レイス(p3x002292)も決心する。
 クエストを無事に終えたら、後は色々試してみたいところだ。

「まずはそのコウモリを探すとしよう。簡単な依頼こそ手を抜いてはならぬ」
 腕を磨くのも兼ねて、『名もなき騎士』ウーティス(p3x009093)達は町の門を後にする。
 軽快な曲がフェードアウトし、叙情的でどこか寂しげなものに切り替わる。相も変わらずケルト調だ。
「なんだか楽団でも背負ってるみたい……少し、ううん。とっても変な気分」
 なるほど、混沌生まれ幻想育ちの『ロイヤルネイビー』あるてな(p3y000007)としては、これはこれで落ち着かない所もあるのだろう。
「邪魔なら切ってしまえばいい」
 低く渋い声でHuitziloが応える。
「そういうのもあるのね。どうしようかな。でもありがと」

 依頼の内容は兎も角――石も、道も、木々も。本物としか思えない質感がある。
 感覚だけでリアルを見分けるのは難しい――か。
「……神様も驚く偉業じゃねぇの」
 もう一つの『世界』を作るなど。
「そうだね……」
 呟いた『偽りの獣(レイナ)』♱✧REⅠNA✧♱(p3x000665)にイズルが応じた。
 ――尤も。♱✧REⅠNA✧♱は思う。
「んなことしたら普通は天罰がくだるもんだけどな」


 一行が丘を進んでいると不意に地響きが聞こえた。
「あれって、なんだろ?」
「噂のヒルワームというものデショウ」
 あるてなの問いにマグタレーナが応える。
 どうやらコウモリの狩り場(狩るのはどちらだ?)と隣接して、凶悪な魔物が生息しているらしい。
「死んじゃうよね、さすがにあんなのと戦ったら」
「あんまり……相手したくない、かな……」
「同感」
 レイスとあるてなが頷き合う。
「本来の幻想王都の近郊ではお目にかかれないでしょうね。ならば、あちらを進むべきかと」
 丘の影からワームの頭が見える。頭だけでも身の丈を遙かに越える大きさは、竜と見まごう程に――
「ああ。無理をするものではない」
 FinとHuitziloの提案に是非もなく。
「では殿を務めよう」
 ウーティスを最後尾に、一行は林の中を進む。
 そうして次の丘を登り始めた頃、ちょうど数匹のコウモリが居る。
 ちょうど手頃な依頼だ。まずはこの世界での基本的な戦い方をマスターしておこう。
「それじゃあ、まずはとにかくやってみましょ」
 一行が得物を構えると同時に、再びBGMが勇壮な曲へと変化した。

「攻撃を仕掛ければいいのかな」
「先にこれを試させてくれ」
 Huitziloは自身にアクティブスキル3――ビジュアルや扱い方などは仔細にカスタマイズ出来るらしいが――を施してみる。エネルギーが身を包み、視界の片隅にアイコンが現れた。ダメージの一部を反射する意味を持っている。あまりに『ゲームらしい』体感だ。
 事前に聞いていたシステムとも、また少し違う気がする。仮に『今回のシステム』がそのまま『別の場所』にも通用するならばありがたいが、よりリアルなケースもあるならば『混沌での戦い方』に近くなるかもしれない。あるいは今回同様にゲーム的ではあっても、システムが全く違うという場合も考えられるだろう。そうなると、厄介極まりない。ログインの度に対処を決めなければならない訳だ。
 一行は『バグだらけ』の意味を、理解しはじめていた。
「いいぞ。仕掛ける準備は整った」
「分かったよ」
 踏み込んだイズルが術を放って見せる。白いエネルギーになぎ払われたコウモリの輪郭が赤く発光した。
 同じ赤色に光る矢印が突如コウモリから出現し、イズルの頭上まで駆けてくる。
 向き直るコウモリにイズルは身構える――が、それだけだった。
 敵対心が向いた訳か。
 ならば。
「……悪いが俺に付き合って貰う」
 そう言ってコウモリとイズルの間に割って入ったHuitziloへ、赤い矢印が注ぐ。
 Front Guard。敵対心を自身に集中させるスキルだ。
 大きく羽ばたき高く舞い上がった三体のコウモリは、次々にHuitziloへと体当たりする。
 脳髄を揺さぶるリアルすぎる衝撃と共に、自身とコウモリの生命力を示すゲージが減少した。
 だが、たいしたことはない。強くはない相手だ。
 この分ならば、体力自体は数分もあれば充分に回復するだろう。なら『反射』の付与回数に気を配るべきだと判断する。

 大盾を構えた♱✧REⅠNA✧♱が、手にした杖を思い切り振りかぶる。
 純白のエネルギーがコウモリを強かに打ち付けた。
 手応えはあったが、違和感は拭えない。まるで無辜なる混沌へ召喚された時のようだ。
 あの時も身体に違和感を感じたと思い出していた。

 そんな時だ。
 空中が揺らぎ、そこから『何か』が『染みだし』始めたのだ。


「……何だ?」
 一行に緊張が走る。
 現れたのは、三体のコウモリだ。
 まるでこちらに気付いて居ないかのように羽ばたき続けている。
「どなたかに伺った、ポップというものでしょうか」
 Finの弁は納得出来る。『そういうもの』なのだろう。
「……なるほど」
 ウーティスの見立てでは、あのコウモリは三体で一つのユニットを構成しているようだ。
 なにせHPを示すゲージが一つしか見当たらない。
 そして新たなコウモリもまた同様。ならば――
 六体のコウモリを見据え、ウーティスは裁きの光を纏う。闇駆ける一陣の風となり、戦場を貫いたウーティスの背後で、最初のコウモリ三体が夕焼けの光に溶け消えた。
 その瞬間に、ぽそっと一枚の翼が落ちる。
「毟る――必要はないのデシタネ」
 マグタレーナがそれを拾おうと触れると――
「……これハ」

 ――コウモリの翼×1を獲得しました。

 翼は光の粒子となって、視界の片隅に見える袋のアイコンへと吸い込まれていった。
 なんだか、慣れないものである。ゲームというやつは。
「お次はこちらデスカ。ならばコレをぶっ放してミマス」
 巨大なセーカー砲(!?)を構えたマグタレーナが、砲撃を放つ。
 轟音と共にコウモリのゲージがみるみる減って行く。
「このまま片付けてしまいましょう」
「うん……これなら。そんなに……難しくは……なさそう」
 ビームの刃から放たれた光がコウモリを焼き、大鎌から放たれた光刃がコウモリを切り裂く。
 Finとレイスによる立て続けの攻撃に、再びコウモリが溶け消える。
(連携はこんな感じ……かな。魔法での戦いも……慣れていかないとだし)
 今度は二枚の翼が落ちた。

 かれこれ狩ったのは十セットほどか。
「集中攻撃する? 目印つける? ……っと。これで大丈夫かな」
「感謝する」
 イズルが振りかけたポーションの薬液が光の粒子となり、ウーティスのゲージが戻る。
 自身にも回復を施したウーティスが、美しい剣でコウモリを切り裂いた。
 戦闘の合間に大量のポーションを使ったが、時間さえあれば、とにかく無限に回復出来るのは強みだ。
 突如、地を割って出現する小さなワームもあったが、ほぼ巻き込むこともなく対処出来ている。
「こうしてみると、不思議なものだな」
 ウーティスがしゃがみ込む。スモールワームと表示されたモンスターは、どうにも平和な生き物らしい。一行が戦闘を繰り広げている最中にも、怯えもせずにウネウネと揺れているばかりだ。
 これが微かにでも攻撃に巻き込んだ途端、狂ったように石弾を放ってくるから豹変ぶりに驚かされる。
 そうなれば「諦めて倒すほかない」とはウーティスの言だが、幸いそういった事は殆ど発生しなかった。
「ドロップする翼の数はランダムですか。ゼロから最大で三枚といった所ですね」
 ファン・ドルドは「こちらも狙ってしまいましょう」と続けて、またいつの間にか居る更なるコウモリを指さした。生息しているというか、出現(ポップ)している。完全に『ゲーム』だ。
「え、と……ちょっと……試してみたい、ことが……その」
「どうぞ。いかようにも」
 レイスの提案に、ファン・ドルドが両手(でいいよな?)を広げる。
 コウモリの視界から外れるように立ったレイスが、その身を宙に消えさせる。アクセスファンタズム『月の姿は虚ろとなりて』の効果である。総じて混沌での『ギフト』と呼ばれる能力より、強力なものが多い。
 試してみた所、これなら状況に応じて、不意打ちにも使えそうな気がする。上手く扱いたいものだ。
 今回のコウモリやワームは、どうにも、なんというか機械的すぎるのが難点ではあるが。毎度毎度、こんな案配という訳でもあるまい。より生身に近いケースも充分にあり得るだろう。

 そのまま、幾度かの交戦が続いている。
「一定以上倒したら実績など解除されないかね?」
「実績?」
「いや、今のはメタ発言だ。あまり作法として宜しくなかったな」

 ――実績が解除されました。ウーティスがバットマッシャーの称号を獲得しました。

 あるのかい。

 陽光は更に傾き、辺りはほの暗くなってきていた。
「余所見をするな。俺が相手だ」
 再びHuitziloへ敵視を移したコウモリを、一行は集中攻撃で撃破した。

 翼は、さすがに充分だろう。
 そんな所で、そろそろ頃合いか。
 町に帰還したなら、後は自由である。


「さて。話しかければいいのでしょうかね」
 ファン・ドルドが依頼主に問いかける。
「納品の件ですが、こちらに」
「――だからコウモリの翼を三枚集めてほしいのさ」

 ――クエスト スタート――

「……おっと。これは。では、こうですか」
 眼鏡のずれを戻し、ファン・ドルドはストレージからコウモリの翼を取り出して依頼主へ手渡す。
「ありがとう。これでお守りを作ることが出来る」
 翼は依頼主の手の中で吸い込まれるように消え失せた。

 ――クエストが完了しました。

「お納めを」
 続いてFinもコウモリの翼を手渡す。
「ありがとう。これで……」
 レイスが手渡す。

 ――クエストが完了しました。

「ありがとう」
 一行が手渡す。手渡す。手渡す。
「あり……ありありありあり」

 ――クエ。クエクエクエクエ。

 ははぁ。なるほど。これは一目瞭然にバグっている。まさか仕様か。どっちだ。
 そんなこんなで納品を終えた一行は、日が暮れるまでの僅かな時間を自由に使うことにした。

「わたしは町を歩いてみようかな」
「同行しマショウ」
「では、お嬢様方。エスコートはお任せ下さい」
 マグタレーナとあるてな、ファン・ドルドは町をぶらぶらと歩き、観察をはじめた。
「あるてなサンの気持ちは分かる気がシマス」
 アバターならマグタレーナも、視覚による観測をしても永遠が失われることはない。


「こちらも散歩と行きましょうか」
 Fin達、有志は再び林へと足を運んでいた。
「何か採れたり、しないかな」
 レイスは、見つけたハーブを摘んでみる。
 だがどうしたことだろう。先程のようにストレージへとは格納されないではないか。
「幽霊でも……触れる?」
 ただ、花の感触がする。
「色々な条件が、まだちょっと分からないかな」
 イズルもまた首を傾げる。採集ポイントなどは知っておきたいところだが。
 こちらの赤い実は食用にも適するから、一つつまんでみれば――甘酸っぱい。
 味どころか食感まで、あまりにリアルだ。

 Huitziloや♱✧REⅠNA✧♱も余った時間を利用し、実験をしている。
 変化可否の要点は大きさだろうか。
 うまく番外のAP回復が出来ればよいのだが、どうにも前例らしい前例が作れない。
 寝れば良いのだろうか。それとも何かクエストや施設でもないものだろうか。
 ともあれここはバグだらけの世界、次のログイン時に同じ結果かは謎だ。

 と、ふたたび地響きだ。
「死は、気にはなりますが」
「……意図的にカウントを増やす気にはなれないな」
 この世界での死は影響ないと説明はあったが、Finもイズルも、わざと死ぬのは気が引ける。
 まさか増やせば新要素が実装されたりなどと思えど。
 とはいえその時はその時だ。そもそも意図せずとも、勝手に溜まるかもしれない。
「ちょっと遊んでみるか」
 ♱✧REⅠNA✧♱とウーティスが得物を構える。
「トレインはしたくないが、この世界の『仕様』はどうだろうか」

 ――

 ――――

「ところで。あるてなさん、ちょっと試したいことがあるので、お付き合いいただけますか?」
 町の散策を終えた頃、ファン・ドルドはあるてなを誘った。
「いいけど、どうしたの?」
 首を傾げるあるてなに、ファン・ドルドは迷い無く手を伸ばす。
 張りと弾力、柔らかで。
「んあ、ちょ、ちょっと。え、なに」
「これは、R.O.O.と現実世界の触感の差異の検証です。
 豊かな胸を揉んだ時の感触の違いを体感で検証しようと思いまして」
「……は?」
「いやこれは有意義なことですよ。我々のR.O.O.での身体の使い方に関わる重要な検証で。あ、なんか飛行甲板から雷撃機と急降下爆撃機が離陸して……痛い痛い痛い! な、なるほど、R.O.O.ではパーティアタックは可能、と……あいっ!?」
 それは『心眼』を会得した者のみが到達せし境地、されど。
「かっ」
 ファン・ドルドが宙を舞う。

 あい。そして、か。
 この場では仔細語られることなき、本日決まった設定である。
 後の事は、たった今グラフィカルな粒子となり、ログアウトした彼に任せようではないか。

 敬礼。

成否

成功

MVP

ファン・ドルド(p3x005073)
仮想ファンドマネージャ

状態異常

♱✧REⅠNA✧♱(p3x000665)[死亡]
薔薇を追う
ファン・ドルド(p3x005073)[死亡]
仮想ファンドマネージャ

あとがき

依頼お疲れ様でした。

はじめたてのゲーム感を、お楽しみ頂ければ幸いです。
MVPは世界の秘密を決めさせた、もとい暴いた方へ。

それではまた皆さんとのご縁を願って。pipiでした。

PAGETOPPAGEBOTTOM