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シナリオ詳細

<Liar Break>狼の遠吠えが聞こえる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『最悪』の悪あがき
 ――ワオーン……
 とある幻想(レガド・イルシオン)の農村の外れの夜であった。、どんよりとした厚い雲に覆われた夜空へ、背筋が凍りつくような3つの狼の遠吠えが上がっていく。
 3つの遠吠え。だが、それを放つのは1つの影。その奇妙な遠吠えは複雑にそれぞれの音波が絡み合い、共鳴し、最終的に「現象」となる。
 その様子が異様である事は火を見るよりも明らかだった。遠吠えが広がるにつれ、異様な速度で雲が晴れ上がり、動物達が逃げ出し――そして異様に大きく見える月が顔を出す。
 
 月明りに照らされたのは――3つの頭を持つ狼の怪物。その傍らには鞭を持ち、髭を多く生やした齢五十程の男性。そして、二人を囲むように座っている小さな狼達。
「さあ、最後の悪あがきを始めよう。すべてはあのお方のために……」
 狂気的な笑みを浮かべ、男が鞭を打つと、三頭の狼は再び呪いの遠吠えを始める。今度は周りにいる狼達もそれに続く。

 何度も、何度も――そうしていくうちに、農村の方から山彦の様に遠吠えが返ってくる。
 それは狼の物ではない、人の遠吠え。否、「人でなくなろうとしている者の」遠吠えが。

 男は、高笑いとともに鞭を振りながら、その合唱の美しさに溺れ続けて。

●その牙をへし折れ

「間違いなくそれは『シルク・ド・マントゥール』の団員の足取りなのです!」
 ギルド・ローレットの一室で、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が他の情報屋の男に金貨(ないないしたものではない)を一枚渡しながら、興奮したようにそう叫んだ。
 不思議な顔を浮かべ、たまたまそこでくつろいでいた8人のイレギュラーズ達に、ユリーカは情報屋に別れの挨拶をしながら詳細を語る。
 「『幻想の外れの方にある農村に3つの頭を持つワンちゃんを連れた変な男が歩いて行った』という情報なのです!多分その人はサーカスの一員、『狼使いのザガン』なのです!」
 狼使いのザガン――それは白いひげと傍らに連れた狼達がトレードマークのサーカスの劇団員の一人だという。幻想蜂起を機に行われたノーブル・レバレッジ作戦から一転。まさに英雄の様にたたえられていたサーカス団『シルク・ド・マントゥール』の栄誉は地に落ちた。
 サーカスのメンバーは誰一人とて逃げる事を許されず、まさに壊滅は秒読みであった。何らかの方法で報復、あるいは玉砕という手段に走る事は事前に予期されていた。
 それは彼にとっても例外ではなかったのだろう。

「窮地に追い込まれたザガンは何をしでかすかわからないのです!」
 ユリーカの言葉でいう『ワンちゃん』の能力に関しては不明だが、ザガンの持つ『原罪の呼び声』を増幅する何らかの力を持っている可能性がある。
 また、ザガン本人も戦闘能力に関しては未知数だが猛獣使いという職業柄手強い可能性が高く、気の抜けない戦いとなるだろう。

「何の罪もない人たちを救えるのはイレギュラーズの皆さんだけなのです。悪い猛獣使いをやっつけるのです!」
 ふんすを胸を張るユリーカの言葉に、貴方たちは頷いた。

GMコメント

皆様初めまして、塩魔法使いと申します。よろしくお願いします。
依頼相談場所は出発前、ジュースが自由に飲める簡易な会議室となっております。
ゆったりしながら、しっかりと準備をお願いします。
【依頼条件】
成功条件:狼使いのザガンおよび彼の配下である魔獣ケルベロスの討伐。
失敗条件:イレギュラーズ達の全滅・撤退。あるいは村人の全滅

【状況】
幻想の農村の外れ、真夜中の開けた草原
足場や移動等に問題はない。イレギュラーズが駆け付け、ザガンを発見するところからスタート。
不自然に空いた雲の隙間から顔を覗かせた満月が光源になるが、プレイヤーの視界としては不十分である。
何らかの光源か、少量の光でも問題ない非戦スキルやギフトが無い限り、命中や回避に-10ほどの補正がかかります。

【敵メンバー】
・狼使いのザガン ×1
原罪の叫び声のキャリアーの一人。狼の魔物使い。
その目的はかく乱のための戦力稼ぎと仲間が逃亡するための時間稼ぎ。
魔種、特にクラリーチェを信仰する気を隠す意思はもはや残されていない。
高い体力と防御技術を誇り、ケルベロスを傷つける者を何人たりとも通さない。
マークやブロック、氷の鞭(物至単【凍結】)を使った攻撃を行う。

・魔獣ケルベロス ×1
ザガンの操る、3つの頭を持つ獲物に飢えた狼の魔物。
彼を倒せば村人は支配から解放されるであろう。
高い攻撃力を誇る牙や爪(物至単【出血】)や遠吠え(神域遠【混乱】)による精神攻撃でかく乱する。

・ウルフ ×10前後
ちまちま動いて通常攻撃してくるが、レベル1のイレギュラーズ1人でも倒せる。
時々遠吠えを上げるがダメージやBSなどをもたらしたりはしない。
恐らくサーカスが幻想に来る前に犠牲になった民間人の成れの果てだろう。
ケルベロスを倒しても攻撃をやめたりはしないが統率が大幅に乱れ、弱体化する。

・狂った村人 ×??
原罪の叫び声の影響を受け一時的に敵対化した村人。まるで狼の様に四つんばいで走り回る。
最初は0人だが、時間の経過と共に戦場に駆け付けイレギュラーズ達を襲う。最大は不明だが、それほど多くない。
時々遠吠えを上げるがやはり害はない。若干体力が少ない事を除けばウルフと同じ。
生死は問わないが出来るだけ彼らは生存させておくのが望ましい、ケルベロスを撃破すれば気絶して無力化できる。
戦闘が終わった後に介抱をすれば問題なく目を覚ますだろう。

【情報精度 A】
想定外の事態は絶対に起こりません。

【アドリブについて】
この依頼では皆様の活躍をできるだけ描写するため、セリフや行動にアドリブを採用する事があります。
アドリブ等の有無について、プレイングまたはステータスシート上に記載していただければ幸いです。

罪なき人々を救うため!皆様の輝かしいプレイングをお待ちしております。

  • <Liar Break>狼の遠吠えが聞こえる完了
  • GM名塩魔法使い
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月27日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
シクリッド・プレコ(p3p001510)
海往く幻捜種
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
銀(p3p005055)
ツェペシュ
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
リアム・マクスウェル(p3p005406)
エメラルドマジック

リプレイ

●狂気の月影
 狼の遠吠えが聞こえる。異様な程巨大で不気味な月が雲の隙間から顔を見せている。
 情報屋の情報を元に、幻想のとある農村へと草原を急ぐイレギュラーズ達の姿がそこにあった。
「暗いわねえ、こんなに明るいお月様が出ているのに」
『聖なるトリ』トリーネ=セイントバード(p3p000957)が、首からカランカランと鳴るカンテラをぶら下げながら、ぽつりとつぶやく。
「寧ろ完全な暗闇と言っていい。あの月は奴らの幻だろう」
 それも性質の悪い奴だ。『永久の罪人』銀(p3p005055)がそう続ける。闇が深いほど五感が研ぎ澄まされる銀には、あの輝きが幻であるとすぐに見抜くことができた。
「実際に連中が絡んだ仕事ははじめてッスけど、雰囲気所業その他もろもろ、完全な『許しがたい、よくないもの』と見えるッス」
 カンテラを持つトリーネを光源代わりにと肩に乗せながら、ハーモニアの男性――『海往く幻捜種』シクリッド・プレコ(p3p001510)は、これから会う敵の事について考えながら、隊の先頭を走る。
「うん、これまで直接関わってなくても、連中はまともじゃないって事はわかるよ。」
 大丈夫、やれるよ。やる気も無しに来ているわけじゃないから、それに――美咲・マクスウェル(p3p005192)が黒色の髪を靡かせながら、真剣な表情で、そう心配する仲間に応えながら。
 結局あいつらって悪い奴だったんだなー。そう言いながらもランプを自慢のバッドにかけながら走る『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)の顔は暗くなかった。何故なら、信頼する仲間達がいるから。
「よし! ここらでいっちょ、イレギュラーズの本気、皆で見せつけてやろーぜ!」

 問題の村まであと数百メートルといったところ――一層狼の遠吠えが大きくなったその時、『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が「待った!」の声で皆を止める。
「もうこれイジョウは走るヒツヨウはないみたいだ。ほら」
 ある方向を、彼が松明で指し示す、そこにいるのは、狼達の姿。そして、中心に居るは狼の怪物
「これは……ヒサシブリに強敵そうだね。チワキニクオドルってやつだ」

 そう、まさにそれは怪物というのにふさわしい姿であった。
 狼にしては巨大な胴体、漆黒よりも黒い毛並み、そして、鋭い牙の生えそろった3つの頭。間違いない、奴がケルベロス……そして、傍らに1人の男を携えている。「狼使いのザガン」!

「嗚呼、邪魔が入ってしまった。こんなにも美しい遠吠えだというのに……遠吠えが良く響く夜は、必ず良い事があった日だった」
 向こうもこちらに気付いたのだろう。
 鞭を持った初老の男性――『狼使いのザガン』は、天を仰ぎ月を眺めながらそうつぶやいた。
「少しでも多くの戦力を誘導し、あのお方の為に働ける……なんと素晴らしい日だろうか!」
 そして、鞭を一振り――狼の怪物にその衝撃が伝わると、飼い主の意思を汲み取り、その頭を垂れる。次々と二人を囲む狼達が鳴き止み、遠方からの山彦も途絶え――不気味な静寂が訪れる。初老の男性は、ゆっくりとこちらの方を向き問いかける。
「運命特異座標達よ……共に余興に浸ろうではないか? 君達もあのお方の素晴らしさを知るべきだ」
 その問いかけに、『商店街リザレクション』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)はため息をつきながら。
「生憎と私には『呼び声』というやつは効き目がないものでね。君らの芸も余興としては悪くないが、しかし今回の一件で貴族に知り合いが出来てしまった……そして私は知人の顔に泥を塗る趣味はない」
 そう否定し、魔力媒体である鞄と傘を持ちなおす。ああ。とリアム・マクスウェル(p3p005406)もイシュトカに続けるようにザガンに言葉を叩きつける。
「無辜な民を傷付ける者を、俺は決して許さない」
 リアムが双剣を構え、ザガンにその刃を向ける――他のメンバーもまた、同じ心境でそれぞれの戦闘態勢に入る。

「この月の下で私に勝てるとでも?」――ザガンがその様子を嘲笑い……前傾姿勢、狼どもと共に突っ込んできた。

●魔狼との死闘
 だが、ケルベロスだけは動かない、こちらをじっと見つめて、ただ警戒するだけ。幾ら狂気に堕ちたと言えど「原罪の呼び声」であるザガンが無策に突っ込んでくるとは思えない。ヤツは囮だ、まずは取り巻きの狼どもから始末するべきだ、戦士達はそう即座に判断し、動き出す。
 まず躍り出るは美咲とリアムのコンビだ。美咲が禍々しい杖より魔力の衝撃を放ち、狼を蹴散らす。「リアム君!」今だよ、と言う言葉が出る前に、リアムが光の剣を構え、弱った狼にとどめを刺していく。華麗なコンビネーションに思わず二人の表情が緩む。
 だが、それでも狼達の勢いは緩むことはない、そこで洸汰がわざとらしく呆れた表情をして一歩踏み出し、挑発する。
「オレが相手だ! 全員纏めてかかってこい!」ホームラン予告のポーズ。安い挑発だが、狼達を引きつけるにはそれで十分であった。遠吠えをあげ、勢いのまま飛びかかる狼達、だが、その爪はバッドに弾かれ、かすり傷をつけるのが精一杯。次第にやけになり、2匹、3匹と集まってくる。呆れ顔の洸汰。
「あれれ、こっちに来ちゃって大丈夫なのー?ほら、今からスッゲーのが、飛んでくるぜー?」
 その言葉を狼が理解できるはずもなく――「こぉぉぉぉけえぇぇぇ!」轟音と突き抜ける光の波に、かき消されていく。
 こけっ、一仕事終えた顔のトリーネが翼を羽ばたかせる。
「そう!あなた達は今日、食う者から食われる者になったのよ!」そう言い放つと、もう一発、激しい轟音をお見舞いする。
 その様子に気を取られたのだろう、ザガンがほくそ笑み、後ろから洸汰とトリーネの方へ鞭を振るい、まずは二人を始末しようとかかるも――
「おっと、そうはさせないッスよ!」
 シクリッドが魔砲で弱ったウルフを蹴散らし、ザガンの前に立ちふさがる。
「おのれ……!」「あんた自身、こっちよかよーっぽど戦えるだろうし、少しは付き合ってもらうッス!」
 洸汰の方へ向かう事ができず、氷の魔力を込めた鞭をシクリッドに叩きつける。だが、それでもピッタリとマークされ、動くことすら自由にできず。
「暗夜は俺の独壇場よ……風情が図に乗るな」
 すっかり気を取られていた狼達もまた銀の放つ魔法攻撃に弾き飛ばされていく。その銀に飛びかかる狼もまた、イシュトカによる援護射撃にか弱く弾かれる。
「少々頑丈なようだが、我々の敵ではない。このまま押し切らせてもらおう」
 首尾は上々、向こう側の戦線は乱れだす。だがイレギュラーズ達は確信していた。やつらがこの程度で終わるはずが無いと。

「小癪な手を使うようだが、この程度で負けるような老兵ではないわ……!」
 不安は的中する。ザガンが不気味にニヤつく。こちらが押され、ザガン本人も食い止められているというのにそれでも未だに勝利を確信している。
「ケルベロス、吼えろ!」
 ザガンが吼える。それと共に、ケルベロスが3つの頭を一斉に挙げ、それに応えるように、今までよりも遥かに強く吼える。魂が震え上がる程の遠吠え――魔力により空間が歪む程のそれは呼び声の影響を受けぬ旅人でさえ、何人かに意識に乱れが生じるほどのものであった。
「この悪趣味な遠吠え……絶対よくないやつッス! さっきから『オオカミになれ』って頭に響くッス!?」
 特に幻想種であるシクリッドは耳を抑え、月から目が離せず悶えるほど。その狂気を、トリーネが鶴ならぬ鶏の一声で打ち払い、イシュトカが経読により皆の正気を取り戻していく。
「狼になれですって、なんだか嫌な予感がするわねぇ」
 その予感は当たってしまう、対処に追われるイレギュラーズを高笑いで挑発するザガン――次の瞬間、突然、謎の塊がイレギュラーズに2体、3体と飛び込んでくる。
「何だ、こいつらは!? 狼か?」
「いや。人間種だ」
 まるで狼の様に四つん這いで走り回り、襲い掛かる人間種……洸汰の問いかけに答えながら、まさかとイシュトカが唸る。
「村人だね、この服装は、それに――」
 美咲が若干震えた声で推理する。そうだと言わんばかりにザガンが笑い、氷の鞭を2発、3発とイレギュラーズに打ち込んでいく。「外道が――」そうリアムがこぼしたのも無理はない。
 この狼使いは、人間を知能を狂気の狼に変えて、支配する――更に増える、四つん這いの人間達、あたりは一気に混戦状態に陥り、一気に苦戦の相へと変わる。

 だが、それでも。イレギュラーズ達は諦めなかった。
「なるほど、ヨビゴエってのはヤッカイだね。」
 イグナートが呟く、確かにやっている行為外道だ、恐らく既に狼になった人達は救えないのだろう。だが、それでもするべきことは変わらない。
 たった一つ、こいつを、ケルベロスを――
「ゼンリョクで殴るッ!」
 叫び、松明をケルベロスの方へぶん投げる。草が燃え広がり、ケルベロスの周囲を明るく照らす。
「多少明るくなったが、まあ良い……何も支障はない」
 銀が杖を振りかざし、狼達を弾き飛ばす。その間にできたわずかな隙間を見逃さず、遠吠えを挙げるケルベロスに、イグナートの拳による、踏み込みからの強烈な一撃がぶつけられる。
「イマだよ!」
 遠吠えが止まった次の瞬間、皆が魔狼を止めんと即座に囲んでいく。
 遠吠えを邪魔されて不機嫌なのだろう、ケルベロスは怒りのまま、爪を振りかざす。その一つ一つが致命傷になりかねぬ威力で、イレギュラーズ達を引き裂かんとばかりに1人、また一人とその強烈な爪で引き裂いていく。
 狼達もまた、主たるケルベロスを守ろうと、遠吠えをあげながら、ケルベロスを囲む戦士達に集団で飛びかかっていく。
「構うものか、この村の人々は必ず救って見せる……!」
 爪を受けながらも、一歩も怯むことなく、リアムが立ち向かう。彼の持つパンドラが光り輝き、剣から出るオーラがオーロラの様に、より一層大きく、強く光り輝く。
「美咲が開いてくれた道だ、ただ突き進むだけ!」
 特大の2本の光剣による全力の一撃――それはケルベロスの背中を引き裂き、首を一つ、跳ね飛ばす。だが、残る2本の首には憎しみが込められており、弱弱しさを見せつつも攻撃の勢いはより激しさを増していく。
「そういう事だよ!」
 イグナートが強敵と、仲間の特攻に興奮した様子で、拳に全身全霊を込めた一発を浴びせる。その様子を微笑みながら美咲がケルベロスの背後に回り、リアムの突けた背中の傷を更に深くするように魔力の衝撃を放つ。
「トリーネさん、お願いします!」
「ふふん、何をしようとも私達には敵わないわよ!」
 言われなくても、とトリーネが上機嫌で仲間を癒し、聖なる力で悪しき獣を浄化していく。そのトリーネに、村人が口を異様に開き、飛びかかるも、イシュトカの威嚇術で一撃で吹き飛ばされる。
「すまないな、すぐに終わる……大人しくしていてもらおうか」
 傘で狼の爪を防ぎ、堕ちた同胞への情けの一撃を加えていく。気絶するもの、意識はあれど大人しくなり、攻撃の意志を失うもの――狂気に耐性をもった村人達もまた、完全に術からは解放されないものの、少しずつ理性を取り戻していく。
「私は村人を落ち着かせる……狼は君に任せるよ」
「了解――例え元が何だろうが関係ない、始末するだけだ」
 銀は、死霊術で既に力尽きた狼の肉体を盾に纏い、一匹、一匹と確実に狼にトドメを刺していく。力尽きた狼は屍となり、更に銀の盾へとなっていく。

「こ、これは……!」
 ザガンが、ふと戦場を見渡す……あれほどまでに圧倒していたというのに、なぜ、どうして。
「ケルベロス! 今行くからな!」
 挑発に乗ってしまっていたことにようやく気付いたのだろう、ザガンが慌て、ケルベロスの傷を癒そうと駆け寄る、だが。既に洸汰とシクリッドに挟まれ、一歩たりとも動けない。
「き、貴様らぁ!」
 強烈な鞭の一撃。だが、全力で守りを固めた洸汰には致命打を与えることができず、焦りが出てしまう。その隙をシクリッドが見逃さず、巨大な鉄の塊をザガンの大腿に叩きつける。
「これは狼にされた人たちの分! そんでこっちは、さっきの遠吠えのお礼ッスよ!」
 もう一発、今度は胴に叩きつける。
「がはぁ――!?」
 膝をつくザガン、それでも、ケルベロスの方に賢明に腕を伸ばす。
「ほ、吼えろ……! 足掻け……! ケルベロス……!」
 イレギュラーズ達の手により、いつの間にか、更に首を一つ落とされていたケルベロスが、残ったたった一つの首で、寂しそうに、遠吠えをする。
 しかし、既にそれはイレギュラーズも、村人達も……既に手遅れになっているウルフ達ですら、支配をする事は叶わなかった。
 残った力を全て搾り、悪あがきの一撃を与えて――グルゥ、鳴き声と共に崩れ落ちた。
 ケルベロスは死んだ、魔力が尽きたのだろう。徐々に雲が再び閉じ始め、異様な月を隠していく。
 その月を見上げ、鬼の形相。鞭により強い冷気を纏わせ、ザガンが吼える。最後の力を振り絞り、一人でも多くの人間に原罪の呼び声をまき散らさんとばかりに。もう、狼も村人も残っていない。たった一人の遠吠え。

「君の犯した罪は重すぎる。その野望を抱いたまま滅ぶがいい」
 イシュトカが静かに宣告する。高まるイレギュラーズ達の士気、傷だらけの男の身体。もう負ける要素など、どこにもない。
「諦めが悪いんだね、まあ。私達も同じだけど」
「これで終わりだ」
 最後の大仕事とばかりに、美咲が魔法陣を展開し、放出、その魔力を剣で受け止め、リアムが二人分の火力を叩き込む。
「なんで悪いやつらってあきらめも悪いんだろな?」
「ふん、どうせ自暴自棄にでもなっているんだろう」
 洸汰がバッドを構え、反撃の一発をぶちかます。ザガンが怯んだその瞬間に、銀が狼の死体から負のエネルギーを束ねて射出。
「さあて、最後の踏ん張りどころッスね!」
 勝利を確信したシクリッドが狼をなぎ倒しながら、ザガンに最高の一発を叩き込む。そのまま、鋭い爪を輝かせながら、イグナートが〆の一発を叩き込む。
「コイツでトドメさ!」
 男の守りが、次第に崩されていく。反撃の鞭を振るうも、8人相手には最早多勢に無勢。
「あなたの敗因は鶏とかひよこじゃなく、狼なんて怖いものを使ったことよー!」
 トリーネが、引導を渡さんと大量の星を召喚する。浄化の光を放つ大量のヒヨコがザガンに襲い掛かり、彼の身体が見えなくなるほどになってしまう。
「な、なんだこいつらは! 離れろ! うご、ぐおおおぉおおお!?」
 可愛らしい見た目とは裏腹に、響く爆音と激しい光――ヒヨコまみれのまま、ザガンが倒れ込んだ。


●狼の遠吠えはもう響かない
「そうか、そういう事か。私は、時間稼ぎにすらならなかったというのか……嗚呼」

 異様な月が厚い雲に覆われ、隠れていく。地面に横たわったザガンが、必死にそれに手を伸ばそうとするも、もはや重力にすらかなわない。
「嗚呼……クラリーチェ、様、必ずや、この世界に終焉を――」
 男はそう呟くと、瞳を閉じ、もう、動くことはなかった。

「いよっし!」完全に動かなくなったザガンを見て、イグナートが勝利の雄叫びを挙げ――照れてしまったのか、笑みながら鼻を擦る真似をしてごまかす。
 洸汰もまた、戦闘中激しい攻撃を受けつつも決して折れなかったバットを掲げ、やっつけてやったぜ!そう勝ちポーズを決め、その隣でトリーネが顔を伸ばし、ドヤ顔をする。
「来世があれば狼使いじゃなくて鶏使いになりなさいなー!」
 響き渡るのは狼の遠吠えではなく、神鳥の鳴き声。その鳴き声によって呼び声の影響から解放され、他のメンバーに介抱されていた村人達も次々と目を覚ましていく。

 混乱する村人達でざわつく草原の中。美咲は複雑な心境で男の亡骸を眺める。
「クラリーチェ様、か。どの世界でも、信仰者というのはさ……哀れなほどに自己に拠所を持てないんだね」
「信仰とは何か違った気がしたッスけどねー」
 よくわからないッス、シクリッドがどこか呆れた表情で共に亡骸を見つめていた。

 世界に仇を為す一人の男の野望は、これにて潰えた。
 イレギュラーズ達は、傷を癒し、日の出と共に急いでローレットへの帰路につく。
 まだ、戦いは残っている――男の最期の言葉に、イレギュラーズ達は、まだ見ぬ決戦への決意を固めるのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 悪しき獣使い、ザガンは滅びました。村人は救われ、彼とケルベロスによって捕らわれていたウルフ達の魂もようやく安らかに眠る事ができるでしょう。
 かなりの強敵だったのでしたが村人10人、全員を正気に戻した上でケルベロスとザガンを撃破できました。イレギュラーズの皆様の手腕と念入りな計画による完璧な勝利なのです。
 言葉では言い表しきれないほど素晴らしいチームでした。特に自らの危険を顧みず、村人の救出の為に勇敢に立ち向かった貴方にはささやかなプレゼントをさしあげます。

 それでは失礼させていただきます、塩魔法使いでした!
 貴方達ならば、この先に待つ決戦をも乗り越えられる、そう信じております。

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