PandoraPartyProject

シナリオ詳細

トレインは決壊せり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●トレインとは
 トレイン、と言うのを諸兄は知っているだろうか。MMORPGにおいて、散在するモンスターに次々とヘイトを抱かせてかき集めながら、戦場を駆け回る行為である。ヘイトを抱かせた者をモンスターが列を成して追いかける姿が電車の列に似ていることから、その行為はトレインと呼ばれていた。
 トレインしたモンスターは、自分なり味方なりの範囲攻撃で一掃するのが常である。そうすれば、一度の攻撃で多くの敵を倒すことが出来て、効率が良い。
 だが、トレインには往々にして決壊の危機が存在する。ヘイトを抱かせた者が、モンスターに追いつかれ集られて、集中攻撃に耐えきれず倒されてしまうのだ。そうなると、極端にモンスターが密集したモンスターハウスと言うべき状況が出来上がり、周囲のプレイヤー達にとって脅威となってしまう。

●同じ場所を逃げ回る冒険者
「ひいいいいっ!」
 森林の中にある開けた場所を、一人の冒険者の男が悲鳴をあげて必死に逃げていた。逃げていると言っても同じ場所を円を描くようにぐるぐると回っているだけだったが、これは男にとっては仕方ないところだった。
 迂闊に森の中に入り込んでスピードを落とすようなことがあれば、たちまち後ろから追いかけて来る青い肌をした筋肉質な亜人達、ブルーオークに袋だたきにされてしまうだろう。
 この冒険者は、仲間達と共にこのブルーオーク達の討伐依頼を受けていた。そして仲間の一人がブルーオーク達に敵意を抱かせながら一カ所にかき集め、範囲攻撃で一網打尽にする手筈だった。
 だが、この冒険者のパーティーのトレインは決壊した。よりにもよって、一網打尽にすべく攻撃しようと構えていた仲間達の近くで。
 誘引されていたブルーオーク達はそのまま仲間達に襲い掛かり、瞬く間に叩きのめした。ただ一人、今逃げている冒険者を除いて。そしてこの冒険者と、ブルーオーク達との追いかけっこが始まったと言うわけである。
 この冒険者の足は仲間達よりも速く、今のところは何とか追いつかれずにブルーオーク達から逃げ切れていた。だが、それも何時までもと言うわけには行かない。走り続けるにつれて、疲労は蓄積されてくるからだ。
「誰か、助けてくれええ!」
 息が上がりはじめ、脚が棒のようになりだしたのを感じながら、祈るように冒険者はこの窮地から救い出してくれる者の存在を求めて叫んだ。冒険者自身も、そんな都合良く助けが出るとは思っていない。
 だが、助けは現れた。VRMMO空間と化した仮想環境、『Rapid Origin Online』にログインした冒険者達を救出に来たイレギュラーズ達だ。
 冒険者は、すがるような目線をイレギュラーズに向ける。もちろん、それに応えないイレギュラーズ達ではない。冒険者を救出すべく、イレギュラーズ達はブルーオークへの攻撃を始めるのだった。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。MMORPG、最近はやってないですが懐かしいですね。さて、そのMMORPGで行われていたトレインを題材に、シナリオをお送りします。
 ブルーオークを殲滅するなり冒険者達から遠ざけるなりして、冒険者達を救出して下さいますようお願い致します。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●成功条件
 冒険者達5人の救出

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 森林の中の開けた平地。時間は昼間、天候は晴れ。
 平地は直径200メートルほどあります。その周囲は森林です。
 平地にいる限りは環境による戦闘へのペナルティーはありませんが、森林の中に入ると移動力減少、中距離以遠の射程の武器の命中減少などのペナルティーが入ります。

●初期配置
 冒険者は森から直径150メートルの円周上をぐるぐると走り回っています。イレギュラーズ達がブルーオークの20メートル以内に入るか攻撃したりしない限り、ブルーオーク達は冒険者を追いかけ回しますので、イレギュラーズ達が戦闘を始めるタイミングを選べます。

●ブルーオーク ✕20
 青い肌をした、筋肉質な亜人です。その見た目どおり尋常ではない膂力を持ち、繰り出される戦斧による一撃の威力は極めて大きなものとなっています。
 攻撃力と生命力がずばぬけて高くなっていますが、その他の能力もバランス良く高い水準にあります。ただし、【怒り】に対してだけは耐性がなく、自動的に特殊抵抗判定が失敗します。
 攻撃方法は【出血】系列BS付きの戦斧のみです。
 
●逃げている冒険者
 ブルーオークから逃げている冒険者です。今は何とか逃げられていますが、それも疲労によって限界となっています。
 もしイレギュラーズ達が変に様子見をしたり、戦闘をはじめるタイミングを選べるからと言って準備に時間をかけ過ぎれば、追いつかれて叩きのめされてしまうでしょう。
 なお、冒険者とブルーオークの移動は、何故か完全に同タイミングで発生、処理処理されています(そのため、円周上をぐるぐると逃げ回るという事態が発生しています)。

●倒れている冒険者 ✕4
 トレインの決壊によってブルーオークに倒された冒険者達です。命に別状はありません。
 平地の中心に4人とも倒れています。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • トレインは決壊せり完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァリフィルド(p3x000072)
悪食竜
ラピスラズリ(p3x000416)
志屍 瑠璃のアバター
マーク(p3x001309)
データの旅人
アカネ(p3x007217)
エンバーミング・ドール
イデア(p3x008017)
人形遣い
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)
災禍の竜血
カノン(p3x008357)
仮想世界の冒険者
ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録

リプレイ

●逃げ惑う冒険者を前にして
 森の中をかき分け進むイレギュラーズ達は、安堵半分、呆れ半分と言う顔をした。その先の開けた場所で、救出対象の冒険者達――『Rapid Origin Online』にログインしたまま戻れなくなった、練達の研究者達のアバター――のうちの四人が既に倒れ伏し、その周囲で残る一人が青い肌の筋肉隆々の亜人、ブルーオークの群れから必死に逃げ回っている光景を目にしたからだ。
 こうなった原因を、一行は情報屋から予め聞かされてはいた。トレイン――敵にヘイトを抱かせてかき集め、引き連れながら戦場を駆け回る行為――の失敗である。しかし、話を聞くのと実際に見るのとでは、やはり印象は大違いだ。
「MMOのお約束とかよく知らねえんだけど。こういうトレイン? の失敗って、良くある事なのか?」
「そうですね、たまにあるようですよ。それにしても、こういうところは、ゲームらしいですね。
 トレインなんてこうでもないと、見られませんからね」
 ボーイッシュで小柄な少女、『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)が疑問を口にすれば、クラシカルなメイド姿の『人形遣い』イデア(p3x008017)が答える。ルージュはふうん、と納得した様に頷き、イデアは物珍しいものを見る様な目で、逃げ回る冒険者を見やった。
(現実だとあまり余裕のない、場合によっては手遅れ感もある状況ですが……)
 SF的な未来風の、漆黒の鎧兜で頭も身体も覆っている『志屍 瑠璃のアバター』ラピスラズリ(p3x000416)には、それでもゲームの様な仮想環境の中と言うだけで楽しむ余裕が出来てしまうのが、不思議に思える。
(まあ、死が直ちに影響しないというだけで、ゲームと言うには少々剣呑なものではありますか、ROOは)
 そう、『Rapid Origin Online』で死ぬ様なダメージを受けても、『無辜なる混沌』にある肉体が死んだりすることはなく、強制的にログアウトを強いられるだけだ。だが、『Rapid Origin Online』はまがりなりにも『無辜なる混沌』を模しており、その上で『無辜なる混沌』ではあり得ない様な理不尽な様々のバグに蝕まれているのであるから、少々どころではなく剣呑な世界であった。
「あ~……」
 何とも言えない様な声を漏らしたのは、茜色の傘を差した純白の天使、『傘の天使』アカネ(p3x007217)だ。アカネ自身も似た様な戦術は使うものの、さすがに二十体を引き連れるのは、欲張りすぎだとしか思えない。無理せず安全に、と言うのもトレインを行う上で大事なことのはずだ。
「あんなに沢山の敵を引きつけるなんて、ぞっとしないな……」
 現実の本人そのままに、刀と盾を持たせただけの姿をした『マルク・シリングのアバター』マーク(p3x001309)は、あからさまに顔をしかめた。『Rapid Origin Online』に似ているとされるMMORPGにおいて、トレインのやり過ぎはマナー違反と言われる。だが、少なくとも今はそんな事を言っていられる場合ではない。
「トレインですか……トレインとその決壊は自己責任、ではありますけども」
 そこまで言った蒼髪金眼の若い女性、『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)にしても、それは同じである。そうした反省は、後でも出来る。今は、危機にあるこの冒険者達を救出するのが先だ。
「成程、作戦は悪くは無かった様子だが……こうなってしまったのなら仕方が無いな」
 ふむ、と頷きながら『白竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)は格好良く言うのだが、その姿はキリンの背に乗った大きめのポメラニアンだった。メインのアバターが構築出来ていないので、使い魔のポメ太郎の姿を借りているらしい。

 ともあれ、助けを求められたならば、動かないイレギュラーズ達ではない。それに元々、冒険者達の救出が依頼なのだ。
「それでは、冒険者の方々を助けると致しましょう」
「ええ、これも折角の縁です」
「困ったときは、相身互いだからね」
「助けを求められたのなら、それに応えるのは吝かではありません」
「はい、行きましょう」
 イデアの呼びかけに、アカネ、マーク、カノン、ラピスラズリが頷いた。一行は一息に森を抜け、冒険者とブルーオークが追いかけっこをしている近くにまで躍り出る。
「そこのにーちゃん。助けに来たぜ!! おれ達でそのブルーオークは引き受けるから、タイミングを見て抜け出してくれよ」
「良く頑張ったな、此処からは俺達が引き継ぐ。気を緩めず、もう少し頑張ってくれ」
 ルージュとベネディクトは、逃げ惑っていた冒険者を安心させ、励ますべく呼びかけた。突然目の前に現れたイレギュラーズ達の姿と、助けに来たと言う呼びかけに、冒険者は元気づけられ喜びに顔をくしゃくしゃにし、追いかけっこもあと少しだとばかりに棒の様になった脚に力を込めた。

●ブルーオーク、誘引開始
「我が役目は倒れている冒険者たちの捕食……ではなくて、トレインの引き継ぎであるな」
 何処までがボケで、何処までが本気かは不明だが、全高三メートルにならんとするドラゴン、『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)の言い間違いは、危うくのっけから依頼失敗を確定させかねないものだった。が、ともかくヴァリフィルドは冒険者とブルーオークがぐるぐると追いかけっこをしている円周上へと突入する。
「ウオオオオオオォ――――!!」
 聴く者の魂を震わせる様なヴァリフィルドの咆哮が、ブルーオーク達に向けて放たれる。ビリビリとした衝撃と共に咆哮を耳にしたブルーオーク二十体は、残らず冒険者からヴァリフィルドへと、敵意の矛先を切り替えてその憤怒と狂気を宿した目を向けた。その間に、ブルーオーク達に追いかけられていた冒険者は、この円周上からの離脱に成功する。
「貴方は雨! 私は傘!」
 そのうちの一体をアカネは空から指さし、罪ありきと告げて挑発する。ヴァリフィルドが引き寄せたブルーオークを、少しずつ引き剥がして殲滅担当の所まで誘導し、各個撃破しようと言う心算だ。そして、ブルーオークは装備が戦斧だけであり、アカネにとっては幸いなことに遠距離攻撃を行う手段を持ち合わせていなかったことから、悔しがりながらもアカネには何も出来ずにただ誘引されるだけであった。
 一方、それ以外のブルーオーク達は咆哮を放ち終えたヴァリフィルドが動き出そうとする前に、ヴァリフィルドに殺到してその動きを封じた。入れ替わり立ち替わり、ブルーオーク達はヴァリフィルドを戦斧で斬りつけていく。堅牢な守りを誇るヴァリフィルドだったが、さすがに二十体近いブルーオークに攻撃されてはたまらず、翼や鱗の至る所に傷を刻まれ、そこから血が流れ落ちていった。
「これは、まずいですね。ヴァリフィルドさんから、早々に『タゲ』、と言うのですか。引き剥がさないと」
「そうですね……豚さんこちら! 手の鳴る方に――ですよっ!」
 ヴァリフィルドを以てしてもブルーオーク達の攻撃に次々と傷つけられ、流血を強いられる状況に、ラピスラズリとカノンは危機感を抱き、さらにブルーオークをヴァリフィルドから引き剥がさんとする。
 ラピスラズリは胸や腰の装甲に備え付けたダーツを投げ、カノンは魔力の弾丸を連射した。ダーツと魔力の弾丸は別個のブルーオークの顔面に命中し、ヴァリフィルドへと抱いていた敵意をそれぞれラピスラズリ、カノンへの敵意で上書きすることに成功する。

 アカネ、ラピスラズリ、カノンがヴァリフィルドからブルーオークを引き剥がして誘引した先には、イレギュラーズ達からの集中攻撃が待ち構えていた。
「前衛戦闘は経験無いけど、予習はちゃんとしてきたつもりだから……!」
 マークはラピスラズリが誘引してきたブルーオークに対して、渾身の力を込めて四聖刀『陣』を振るう。それぞれ東西南北を司るという聖獣の力を宿していると言う刀身は、マークの全身全霊の斬撃に応えるかのように、堅固であるはずのブルーオークの身体を肩から胸板まで斬り裂いた。
「こいつは、如何だぁ! ルージュ、アターック!!」
 味方に誘引されて横並びになったブルーオークに対して、一気にまとめて攻撃出来る射線を確保すると、ルージュは奇怪な形をした剣『魅剣デフォーミティ』から謎の光を放った。ビームの様な光の流れは、ブルーオーク達をまとめて包み込み、その身体を灼いていく。
「まだまだぁ! もう一回だぜ!」
 さらにルージュは、返す刀でもう一度同じ光を放ち、ブルーオーク達を光の中に飲み込んだ。
「──行くぞ、キリンくん!」
 ベネディクトは騎乗しているキリンに声をかけると、ブルーオーク達の頭の上から、前脚の蹄で次々と踏みつけさせていった。ルージュの光を受けた隙を衝かれたところに、頭上から蹄に襲い掛かられてはブルーオーク達に対応する余力はなく、次々と繰り出される蹄を頭や肩に受けるしか無かった。
「決して弱くは無い相手だと思っていたが──やはり、これだけでは倒れてはくれんか」
 イレギュラーズ達からの集中攻撃を受けても、傷は受けつつもまだ倒れる気配のないブルーオーク達。ベネディクトはそのタフさに舌を巻きながら、独り言ちた。

「――さすがに、これは重い、ですね」
 他のイレギュラーズ達がブルーオーク達と戦闘している間、イデアは昏倒している冒険者達の救出を試みていた。自らの操る糸で四人をまとめて簀巻きにし、戦闘の間を縫いながらずるずると引っ張って戦場の外へと引きずっていく。ただ、四人を一度に運ぶのはさすがに重すぎて、安全圏にまで離脱するのにかなりの時間を要してしまった。
「それでは皆様はここで休んでいてくださいね。あとは我々におまかせを」
 簀巻きにした四人を木に吊るし、癒やしを施してからそう告げると、イデアは仲間達の元へと向かっていった。

●ブルーオークの猛威
 戦いが進むにつれて、ヴァリフィルドが引き寄せたブルーオークは主にアカネとカノン、ラピスラズリ、そしてヴァリフィルドが危ないと見たマークによって、少しずつ引き剥がされていった。だが、多数のブルーオークに囲まれたヴァリフィルドが傷ついていくペースも速く、身体の至る所に傷を刻まれてしまう。
 ルージュ、ベネディクト、そして冒険者達を保護し終えたイデアは、何とかヴァリフィルドが耐えられるうちにヴァリフィルドから引き剥がしたブルーオークを各個撃破せんと猛烈な攻撃を仕掛けるも、ブルーオークの生命力はやたら強靱であり、思う様にはその数は減っていかない。
 それでも、ヴァリフィルドの前のブルーオークは三体にまで減った。他はアカリが四体、カノン、ラピスラズリ、マークが一体ずつブルーオークを引き受けている。だが、空にいて攻撃されないアカリはともかく、ブルーオークを引き寄せ続けたカノン、ラピスラズリ、マークの傷も相応に深くなっていた。

「我が眷属として、その力を存分に発揮してもらうぞ」
 目の前の深く傷ついたブルーオークを、ヴァリフィルドは強靭な顎と鋭利な牙でバキバキと食い千切り、噛み砕いていく。ヴァリフィルドによって食われたブルーオーク、正確にはそれを構築するデータは、ヴァリフィルドのアクセスファンタズム『ドラゴンクロニクル』によって、頭部が竜となり身体中に鱗を生やした眷属として再構築され、ヴァリフィルドの側へと出現した。
(何とか、この四体だけでもここに繋ぎ止めておきませんと……)
 アカネは、罪を告げることで自らへと誘引した四体のブルーオークのうち、その効果が切れた個体に対して改めて罪を宣告し、自らへと誘引する。何しろ、アカネが空を飛びブルーオークに攻撃されることがない以上、時を経ることで煽られたアカネへの敵意が失せればブルーオークは他に流れてしまうのだ。
 それでも、ブルーオークのアカネへの敵意が失せるまで約四十秒しっかりと保ってくれるのは、有り難い話ではあった。そもそも、アカネに攻撃出来ない以上、いくら敵意を煽られていてもブルーオークは他に流れて当然でさえあるのだ。それが、確実に一人で四体を押さえ込めているのだから。
 ブルーオーク達のうち、アカネに誘引されている四体はアカネに手を出せずに悔しそうにするしかなかった。だがヴァリフィルドの側にいる二体が、もう少しで仕留められるとばかりにヴァリフィルドを狙う。そのうち一体の攻撃は先程ヴァリフィルドが再構築した眷属が盾となって受け止め、消滅と引き換えにヴァリフィルドを守ったが、もう一体の攻撃は眷属という盾を喪ったヴァリフィルドに命中した。
「すまぬ……後は、頼んだ……」
 累積したダメージによって、ヴァリフィルドが死亡した扱いとなり、そのアバターがこの場から消滅する。
 カノン、ラピスラズリ、マークもブルーオークに攻撃されたが、カノンは戦斧が身体を掠めるに留め、ラピスラズリは力に押されそうになりながらも漆黒の盾で戦斧を受け止めた。マークは戦斧をまともに受けてしまったが、気力を振り絞ってこの場に留まり続ける。
「よくも、ヴァリフィルドにーを!」
 ヴァリフィルドを倒されて怒りに燃えるルージュは、ヴァリフィルドの前にいた二体のブルーオークをルージュアタックの射線に捉えられる位置へと動くと、『魅剣デフォーミティ』の切っ先をブルーオーク達に向けた。そして光の奔流を放ってブルーオーク達の身体を光で覆い、青い身体を焼き焦がしていく。
「畳みかけるぞ! 頼む、キリンくん!」
 ベネディクトはキリンを駆り、ルージュアタックの光に覆われているブルーオーク達の前へと進ませる。そして光が消えてブルーオークの姿が見えるようになると同時に、キリンに前脚で何度も踏みつけさせた。ブルーオーク達は直前まで眩い光に覆われていたため視覚が回復しておらず、なすすべもなくキリンの蹄を上から何度も叩き込まれて、踏まれた跡を頭や肩に刻まれていった。
「私も追撃しましょう――黒騎士の刃、その身に受けて下さい」
 ルージュとベネディクトの攻撃を受けたブルーオーク二体のうちの一体に、黒騎士が迫る。イデアが指先から伸ばした糸で操る、等身大の人形だ。黒騎士は剣を大きく振りかぶると、ブルーオークの右肩から左側の腰にかけて、斜めに斬りつけた。ルージュアタックの光に灼かれ焦げた青い肌に、紅い筋がざっくりと深く刻まれる。
(これ以上は、私も危ないですね。今のうちに、あそこの二体を何とかしないと……)
 既に幾度かブルーオークを誘引して傷を負い、今なお一体のブルーオークを誘引しているカノンには、これ以上ブルーオークを誘引する余裕はない。ならばとカノンは、イデアの操る黒騎士に斬られたブルーオークに『ワンドオブダークネス』を向けて狙うと、魔力の砲弾を放った。砲撃はブルーオークの鳩尾に深く突き刺さり、ブルーオークの身体をくの字に曲げさせ、苦痛にうめかせる。
 カノン同様、傷を負いなお今もブルーオークを一体誘引しているラピスラズリにも、これ以上ブルーオークを誘引する余裕はない。
(……せめて、こちらだけでも倒れてくれればいいのですが)
 そう願いながら、ラピスラズリはブルーオーク達の後方に回り込むと、『魅剣デフォーミティ』を横薙ぎに振るい、ブルーオーク達の背中を斬った。ピッと横一文字に剣閃が走った後に刻まれた傷は、パックリと開くと紅い血をだらだらと流させる。斬られたブルーオーク達は大きく仰け反ったが、それでもまだ倒れる様子は見せない。
「現実世界では、守られてばかりだから……せめてこっちでは、誰かを守れるように、なるんだ……!」
 既に倒れていてもおかしくない傷を受けていながら、マークはギリッと歯を食いしばって、ダメージでガクガク震える脚を踏ん張らせる。そして四聖刀『陣』を八双に構えると、残る力を振り絞ってイデアの黒騎士に斬られたブルーオークを袈裟に斬った。黒騎士に斬られた傷と合わせて、ブルーオークの胴体にはXの字の深い傷が刻まれた。それでようやく、このブルーオークは斃れた。

 その後イレギュラーズは、時間を要しつつも残るブルーオーク達を次々と撃破していった。マークがついに力尽きてログアウトを強いられたものの、アカネが空から引き付けている四体を残すのみにまで至れば、最早イレギュラーズ達が攻撃されることはなく、勝負は決まったも同然となる。
 イレギュラーズ達が最後のブルーオークを倒すと、木に吊るされていた冒険者達は地面に下ろされ簀巻きにしていた糸から解放され、ブルーオークから逃げ惑っていた冒険者とともに救出の礼を述べた。が。
「トレイン、というのもいいですが、安全にも気をつけなければいけませんよ?」
 ……イデアをはじめ、イレギュラーズ達からしっかりと説教されることになったのだった。

成否

成功

MVP

ヴァリフィルド(p3x000072)
悪食竜

状態異常

ヴァリフィルド(p3x000072)[死亡]
悪食竜
マーク(p3x001309)[死亡]
データの旅人

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によって、冒険者達は無事にブルーオークから救出されました。
 MVPは、初手でブルーオーク達の敵意を引き寄せてほぼ一身にその攻撃を受け続けたヴァリフィルドさんにお送りします。

 それでは、お疲れ様でした。

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