シナリオ詳細
私レアハンター。スライム倒してウン百時間。でもまだレアアイテムはドロップしない。
オープニング
●それはネトゲの宿命
倒す。
倒す。
倒す。
数十の敵を。数百の敵を。数千の敵を。
倒す。
倒す。
ただひたすらに、倒す。
剣で裂いた。
拳で打ちのめした。
銃で撃ち貫いた。
炎で焼き殺した。
氷で貫いた。
雷で叩きのめした。
倒し、蹴散らし、ひたすらに倒した。
その実働時間、実に数百時間!!!
「無理っす! もう無理っすよ!」
と、冒険者風の男が悲鳴を上げた。彼の足元には無数の「スライムのような物体」が転がっていて、それこそがR.O.Oにおけるオーソドックスな敵の一体、「スラプリン」であるのである。
「泣き言を言うな! 我々は苦しいが、彼ももっと苦しんでいるんだぞ!」
もう一人の冒険者風の男が言う。彼らは、練達の研究所所属の研究者たちである。R.O.Oの調査に訪れていた彼らであるが、何も好き好んでスラプリンをひたすらに殴っているわけではない。
レアアイテムが欲しいのである。
いや、単なる物欲やゲーム攻略に対しての渇望ではない。と言うのも、このスラプリンを倒すことでごくまれに召喚されるエンジェルスラプリン、このエンジェルスラプリンを倒すことでごくごくごくごくごくごくごくごくごく稀に手に入る、エンジェルスラプリン・カードと言うレアアイテムがあるのだが、このエンジェルスラプリン・カードと言うのが、『アバターを変質させられ、ログアウトのできなくなった練達の研究員』なのである。
その、アバターを変質させられた研究員を救うためには、『エンジェルスラプリン・カードを手に入れろ!』と言う酷いクエストをクリアしなければならないのである。そこで、残された研究員たちは、日夜延々と、ここスラプリンが多数生息しているスラプリンアイランドで、スラプリン狩りを続けているわけである。
が――でない。
まったくでない。
確率は下振れに下振れを続けている。最初こそ、頻繁にエンジェルスラプリンが召喚されていたが、そのエンジェルスラプリンすらろくに出現しなくなった。
辛い。
延々と続く、穴を掘って自ら埋めるかのような作業! ハクスラと言えば聞こえはいいが、ここまで低確率だと、『小数点以下の確率で取れるって本当に? 騙されてない?』みたいな気持ちにもなる。
とはいえ――。
「ここで耐えなければ、彼らを救出することは出来んぞ……オエッ」
疲労のあまりえずく研究員。ここ最近はロクに寝ていない。体力も判断力も低下し始めていた。と言うか、ここまで出ないなんて、もうなんか、運命力的な何かが邪魔してるとしか思えない。
「……諦めません?」
と、研究員の一人が言った。
「だが――」
「ほら、今、特異運命座標がログインし始めたじゃないですか」
「うむ」
「投げちゃいましょうよ、彼らに……もう限界ですよ、僕たちも……」
うーん、と研究員は唸ったが、実際限界なのは事実である。
「そ、そうだな……とりあえず、休憩の間だけ代わってもらうって事で……しばらく休みをもらおう……」
と、研究員は告げると、ログアウトコマンドを実行した――。
●と言うわけで、今日のお仕事はレアハントです。
「レア・ハントとはネットワークゲームの楽しみ方の一つのようだな」
『理想の』クロエ(p3y000162)が言う。『伝承(レジェンダリア)』と名付けられた、R.O.O内『ネクスト』世界に存在する国家の一つ。その土地に存在する小さな村、そこに設置された『サクラメント(ログイン・ポイント)』に、特異運命座標たちは集っていた。
「趣味でやるならあきらめもつくだろうが、今回は人命救助だ。腰を据えてかかって欲しい」
クロエはユーザーインターフェースを操作すると、特異運命座標たちにクエストを送信する。
特異運命座標たちのインターフェースに表示されたクエスト名は、『エンジェルスラプリン・カードを手に入れろ!』だ。
「このクエストをクリアすることで、ゲーム内に閉じ込められた研究員を救うことができるというわけだ。だが、これもそう簡単に手に入れられるようなものではないらしい。そこで、ひとまず制限時間を決めておこう。これ以上のめり込んでも、君たちの身体に毒になるだろう、という判断だ。そうだな……」
むぅ、とクロエは唸ってから、イレギュラーズ達に告げる。
「ひとまず、一週間でどうだ。それだけあれば前任者の体調も良くなるだろう」
はぁ、と特異運命座標たちは口を開けた。とりあえず、で、一週間? そんなに? そんなにかかるものなのか?
「前任者は三桁時間をかけたが出なかったそうだ……まぁ、確率とは確実の事ではないので、そう言う、運が悪い事はあると思うが……」
むむ、とクロエは顎に手をやりつつ、言った。
「まぁ、ひとまずゲームになれるくらいの気持ちでいい。敵はさほど強力ではないので、基本的に『死亡』することはないと思うが……其れより、精神的につらくなる方に気を付けた方がいい。幸い、ここは現実とさほど変わらぬような感覚が得られる場所だ。休みつつ、取り組んでほしい」
クロエはそう言うと、特異運命座標たちに笑いかけた。
「辛い仕事ではあるが……ひとまず、君たちの幸運に期待するとしよう。それでは、行ってらっしゃい」
そう言って、クロエは特異運命座標たちを送り出した――。
- 私レアハンター。スライム倒してウン百時間。でもまだレアアイテムはドロップしない。完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月25日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●ようこそ、単純作業のお仕事へ
心地よい風と、穏やかな日差し。高原のリゾート地のような気温は、この時期に行楽するならぴったりのものだ。
特異運命座標たちが足を踏み入れたのは、『スラプリン・アイランド』と呼ばれる、『スラプリン』と言う雑魚モンスターのみが生息しているフィールドである。
スラプリンはどこにでもいるため、どこでもエンジェルスラプリンの召喚を狙う事は可能であるが、しかし総数を考えれば、ここ、スラプリンアイランドで狩りをすることが一番効率がいいのである。
さて、肝心の特異運命座標たちであるが、この時はまだ、活き活きとした表情をしている。
「エンジェルスラプリン、かぁ。カード以外にもレアアイテムが手に入ったりするのかな?」
『合成獣』アルス(p3x007360)が人差し指を口元に当てながら、小首をかしげる。一応のレアモンスター相手である。しかもそれを狩り続けなければならないなら、他にモチベが欲しい所であるが。
「こういうのなら、アクセサリみたいなのが手に入ったりするものだけれどね。見た目装備、って奴」
『Fascinator』セフィーロ(p3x007625)が言うのへ、アルスが言った。
「わ、だったら欲しいかも☆ミ アルスちゃんもぉ、アイドルだしぃ?」
「いいえ。高値で売るのよ……姫ちゃんやってる奴とか、その従属とかに! これくらいの副産物を期待できなければ、レア狩りなんてやってられないわ!」
と、何か暗いオーラを背負うセフィーロ。何か経験でもあるのだろうか、とアルスは内心ぼやいた。
「うーん、まぁ、モチベーションの維持になるなら、売っちゃってもいいのかも。長くなりそうだしね♪」
「しかし、一週間だぜ? メンドクセェっつーか、本気で言ってんのか、って感じだ」
『D.S.G.P.』ジリオライト・メーベルナッハ(p3x008256)が、まさにうんざりしたような様子で言う。
「マジでそんなに出ねぇもんなのか? いくら何でも、供給絞り過ぎてんじゃねぇの?」
「どうなんだろうね? こういっては何だけど、研究員の皆の運が凶悪に悪かった……と言う可能性もある」
ミーティア(p3x008617)が言った。
「アバターがレアアイテムに変換されて囚われてしまうほどだから、相当運は悪い……というか、前世で何かあくどい事でもしたのかい? と思ってしまう位だけど。まぁ、身体を壊さない程度に、とお墨付きが出てるんだ。気長に、のんびりやるつもりで行こうじゃないか」
「くそぉ、オレはさっさと終わらせて―んだが……」
ジリオライトが嘆息する。とはいえ、速めに終わらせたい、と言うのは誰もが思う所だろう。と言うより、今のところ、まさか一週間も本当にかかるとは、誰も思ってはいない。思ってはいないのだ。
「でも、根を詰めると不味いのは事実だと思うな! ハンモは2~3日はスラプリンと、フィールドの調査にあてるつもりだし」
『疑似人格』ハンモちゃん(p3x008917)が言う。
「とにかく、すぐに動くチームと、拠点を作ったり調査をするチームに分かれて、長期間動けるようにした方がいいと思うよ。一週間の期限、って言うのもいい加減に決めた数字じゃないだろうしね」
「では、それぞれチームを決めましょう」
『人型戦車』WYA7371(p3x007371)が言った。
「できる限り効率的に動き、効率的に結果を出すのです。さっさと終わらせましょう……とはいかなさそうなのが、実に遺憾ですが」
「そうね。人命もかかってることだし、早速取り組みましょう」
『ヨシ!プリンセス』指差・ヨシカ(p3x009033)が頷いて答えた。
「チーム分けは……単純にじゃんけんで決めようか。グーとパーで、同じ手を出した人たちで組む奴」
「スラプリンたちも、エンジェルスラプリンも、さほど強敵と言うわけではないですからね。倒すだけなら、研究員たちのアバターでも充分なほどでしたし」
WYA7371が頷く。
「ふむ。では、チームを分けてすみやかに……いや」
『狐の尾』コーダ(p3x009240)がこほん、と咳払い。
「きちんと計画を立てて後は根気の勝負だから。
折角だしみんなで楽しく遊ぼうか!
……こうか?」
何か見覚えのあるキャラロールなどを見せつつ、コーダが肩をすくめた。
かくして一同は、一斉にグーとパーを出していった。
●一日目
ぽん、ぽん、ぽん、と、様々な色のスラプリンたちが跳ねている。スラプリンたちから、能動的に攻撃してくることはない。いわゆるノンアクティブモンスターという設定をされているのだろう。攻撃しなければ、無害な奴だ。
「なるほど。一気に物量で押しつぶされる……と言う事は無いのだな」
コーダが嘆息する。飛び跳ねるスラプリンたちは、足元で草などを食べている。コーダが先ほどドロップした『スラプリンのコア』と言うアイテムを地面に放ると、スラプリンたちはそこ目がけて動いて、己の体内に取り込んでしまった。
「加えて、アイテムを取り込む性質があるらしい。誘い出すのは容易のようだな」
「この辺の地理も確認してきたよ~」
ハンモちゃんが地図を片手に、やってくる。
「湖を中心に、浅い森が点在している感じのフィールドだね。餌場……と言うか、スラプリンは何でも食べるみたいで、餌場みたいなたくさん集まっているの場所はないみたい。しいて言うなら、木の実がよく落ちてくる木の下とか」
ハンモちゃんが、足元に飛び跳ねる緑色のスラプリンを撫でた。スラプリンは感情の読めない可愛らしい顔でプルプルと震えている。
「だから、すごくシステム的って言うのかな。出てきたのを見つけ次第叩いていく感じ」
「あとは、コーダもやってたけど、ドロップした不要アイテムをフィールドに放り投げて、釣ってくる感じね?」
と、セフィーロ。
「大雑把な方針は、
1.見つけ次第潰す。
2.アイテムに釣られてきた奴を潰す。
3.とにかく潰す。
……かしら。やだ、本当に大雑把ね。しかも実に単純作業」
セフィーロが肩をすくめた。
「後は……どれくらいの確率でエンジェルスラプリンが召喚されるのか、を調べたい所だけど。そこは試行回数かなぁ」
ハンモちゃんが言うのへ、セフィーロが頷く。
「確率がシステムから公表されてない以上、地道に検証するしかないわね。ま、まずは初日ですし? とにかく始めましょう」
「おっけー☆」
きらりん、とポーズを決めるアルス。
「長丁場になりそうだけど、アルスちゃんと一緒に頑張ろうね☆彡」
「Vっと救出しちゃいましょ☆」
仲間達は頷くと、早速、手近にいたスラプリンに攻撃を仕掛けた。赤いスラプリンは、特に反撃する暇もなくぱん、とコミカルにはじけて消える。ドロップしたアイテムをめがけて、他のスラプリンたちがぽんぽんと飛び跳ねながらやってくる。それをターゲッティングして、攻撃。はじける。
攻撃する。はじける。
攻撃する。はじける。
攻撃する。はじける。
攻撃する。はじける。
「……これって」
アルスがさっそくつかれたような様子で言った。
「ホントに、単純作業……」
「言ってはいけないわ」
セフィーロが言った。
「心を無に。試行回数がすべて。今からそんな様子じゃ早めに潰れるわよ」
「先が思いやられるな……」
コーダが呟いた。
6時間後。
「とりあえず拠点設置って事で、こんな感じでいいか?」
ジリオライトが腰に手を当てて嘆息した。すぐ近くには、いくつかのテントが設置されていて、内部には簡単な休憩所となっている。
島の中央、大きな湖のほとり。穏やかで過ごしやすい場所に、一行は休憩用の拠点を作り上げていた。近くの木の間にはハンモックもあり、一見すれば、優雅なキャンプの準備であるが、実際には苦行から逃避するための場所づくりである。
「お疲れ様です。ジリオライトさん」
WYA7371が言った。
「簡単に調査した限りですが、湖には可食できる魚も泳いでいるようです。釣り上げて食べれば、人類の方には気分転換にもなるでしょう」
「あー、釣りねぇ。まどろっこしいのは向いてねぇんだよなぁ」
頭を掻くジリオライト。クエスト開始からそろそろ六時間と言う事で、日は落ち始めている。
「火も起こしとくか。スラプリンしかいないって言うから、そこまで危険てわけじゃないだろうが」
「薪になりそうなものは集めておいたよ」
ミーティアがそう言いながら、森から木の枝などを抱えてやってくる。
「長丁場になるから、ある程度木も切って、乾燥させておくよ……しかし、なんだか奇妙な感じだね。仮想のゲームの中なのに、本当にキャンプをしているような気分だ」
「でも、やっぱり仮想空間の中なのよね。自分のパラメータとか、スキル欄が視界に表示されたりするの、本当に不思議」
ヨシカが顔の前あたりで手を振るってみた。たぶん、あのあたりにパラメータが見えたりするのだろう。そう言う所は、やっぱりゲームの中なのだ。
「それより、そろそろ六時間よね。交代の時間かしら」
「そうだね。Aチームの仲間もそろそろ戻ってくる……おっと、噂をすれば、だ」
ヨシカの言葉に、ミーティアが言う。視線の先には、苦笑交じりで戻ってくるAチームのメンバー、つまりアルス、セフィーロ、ハンモちゃん、コーダの姿があった。
「んー、残念。いきなりドロップ報告したかったんだけどなー☆」
アルスが言うのへ、コーダが続いた。
「敵の戦闘能力自体は、さほどではない。エンジェルスラプリンがやや硬い程度か。だが、やはりレアアイテムと言う事のようだ。今のところ、それらしいものは発見できなかった」
「で、ありましょうね」
WYA7371が頷いた。
「研究員たちも百時間ほどかけて出なかった、と言うほどです。流石に6時間で入手、となると虫が良すぎるかもしれません」
「ま、すがっちゃうのが人間ってものでね?」
セフィーロが肩をすくめた。
「こっちで収集したデータも共有しておくよ。大体、スラプリンを4~50体倒した辺りで、エンジェルスラプリンが出る位の確率みたい」
「うへぇ、めんどくせぇな……しかし、そのくらいの確率でエンジェルが出にくくなった、って事は、研究員たちも運が悪すぎるっつーか。疲れて見落としてたんじゃねーの?」
ジリオライトの言葉に、
「ありうるかもね……凄い疲れてたらしいし」
ヨシカが言った。
「まぁ、でも、流石に一週間もあれば大丈夫でしょ。さ、交代するわよ。皆はしっかり休んでて。また六時間後にね!」
ヨシカの言葉に、仲間達は頷く。
この時は、まだ皆、気楽に思っていた。
まだ。
●三日目
「プリンセス……パイルハンマー!」
天空に描かれた魔法陣から、巨大な杭が出現して、落下する。その直下に居たエンジェルスラプリンが、取り巻きのスラプリンもろとも、杭の下敷きになってコミカルにはじけた。
「出た!?」
ヨシカが声をあげるのへ、
「…………」
ジリオライトが無言で首を振った。
「あーっ、もう! これでエンジェルスラプリン何匹目!?」
頭を抱えてヨシカが吠える。最初の頃こそ、自分のアバターのモチーフにしたキャラの攻撃を再現されたスキルの演出に感動したものだが、何度も見ていると徐々にその感動もマヒしてくるものだ。
「これで、実に六百三十――」
「やっぱ言わないで!」
WYA7371が律儀に答えるのへ、ヨシカは止めた。聞きたくなかった。
「それで、出たレアが、なんか変な頭装備が一個だけだって? あれはどうしたんだ」
ジリオライトが言うのへ、ミーティアが答える。
「セフィーロちゃんが休憩中に、街に売りに行ったよ。結構な値段で売れたらしくて、その予算で食材とか拠点のグッズを買ってきてもらってる」
「そりゃありがてぇが、しかしうんざりすんなマジで~」
ジリオライトが頭を乱雑にかき乱した。これまで相当数のスラプリンを倒し、エンジェルスラプリンを倒し。
しかしながら、レアアイテムであるエンジェルスラプリン・カードはドロップせずじまいだった。
「もしかして、天文学的な確率が設定されているのではありませんか。0.000~といったレベルの」
WYA7371の言葉に、
「バッカなんじゃねぇの!? 馬鹿なんじゃねぇの!?」
ジリオライトがキレた。
「そうも言いたくなる気持ちはわかるわ……確かにこのドロップ率、おかしいわよ……」
ヨシカがお腹のあたりを押さえた。ストレスで胃が痛くなったのだ。
「とにかく、いったん休憩に戻ろう。流石に、しんどくなってきたよ……」
ミーティアの言葉に、仲間達は頷く。かれこれ、休憩を含めたとはいえ、三日ぶっ通しでゲームをしているのだ。
拠点に戻ると、肉と野菜の焼けるいいにおいが漂っている。追加で手に入れた肉や魚を、バーベキューで焼いているわけだ。これはアルスの提案でもあった。
「ん、おかえり、みんなー☆」
当のアルスが、串に刺した肉をほおばりながら言う。
「その様子じゃ、ダメだったみたいね?」
ハンモックに寝ていたセフィーロがそう言うのへ、
「ええ。討伐数も共有しておきます」
WYA7371の言葉に、セフィーロが頷く。
「取り合えず……飯、いいか……」
ジリオライトの言葉に、コーダが頷いた。
「ああ、休むと良い。カード探しは俺達が引き継ぐよ」
「頼んだよ。……あー、ちょうどいい天気だ。気分転換に湖で泳いでくるよ……」
ミーティアの言葉に、仲間達は笑った。
「ゆっくりやすんでね。ハンモ達は行って来るよ」
そんな言葉を残して、Aチームは狩場へと向かう。
この時は、まだ、笑ったり遊んだりする気力があったのだ。
●最終日
「…………」
ハンモックに身体を沈めて、セフィーロは静かに息を吐いた。
休憩拠点である。そこでは、Aチームのメンバーが、静かに、静かに体を休めていた。
三日目までの元気な様子など、もはやそこにはない。アルスすら、まるで電池が切れたみたいに、テントの中でうつぶせに倒れてぴくり問いも動かずにいる。
疲れていた。
誰もが疲れ切っていた。
一週間に及ぶ単純作業。それがもたらす疲労。それは、初日は予測できぬほどのハードなものであった。
辛い。とにかくつらい。
敵の関係で『死亡』するようなことはなかったが、とりわけ精神的な疲労はひどく蓄積し、特異運命座標たちのやる気を思いっきり破壊していた。
「今日で……終わりだっけ……」
アルスが言った。
「ああ」
コーダが言った。流石のコーダも、疲労の色が濃い。もくもくと、死んだ魚のような目で焚火を維持している。
「今日……ドロップするかしら」
「ああ」
セフィーロの言葉に、コーダが頷いた。多分聞いていなかった。
ふと、コーダが隣に視線を移すと、ハンモちゃんが木を切って、何かを制作していた。しばらく見ていると、それが即席の鳥居であることに気づく。
「……ハンモちゃん、それは」
コーダが尋ねるのへ、ハンモちゃんは言った。
「神頼み」
「神頼み」
「オネガイシマスオネガイシマス……」
虚ろな目でぶつぶつと呟くハンモちゃん。コーダは深く嘆息した。
どっちに転んでも。
今日、この苦行は終わるのである。
「さあ、Step on it!! 狩り尽くしてやりますよ!」
と、半ばやけっぱちのように叫ぶWYA7371。その周囲に浮遊する小型浮遊砲台やレーザーライフルから、一斉にレーザーが撃ち込まれ、エンジェルスラプリンがポップに爆散する。
「出ましたか!?」
「まだ……」
ヨシカが力なく返すのへ、WYA7371は返した。
「オッケー次次! 諦めなければ絶対いけますよ!」
とはいえ、全員の疲労はもはや限界に近い。効率的に敵を倒す続けることには成功していたが、それでドロップ率が上がるか、と言われればそうではないのである。
特異運命座標たちはまたスラプリンを作業的に撃退し、エンジェルスラプリンを倒し、スラプリンを倒し……という作業を、この日だけでも相当数続けていた。
「これで……何匹目だっけ……」
ミーティアが言うのへ、
「覚えてねぇ……」
ジリオライトが力なく返す。
「なんにしても、これで限界、かな……」
力を振り絞って、ミーティアがフルートを拭く。魔力を乗せたそれ(スキル)が、刃となってエンジェルスラプリンに迫り、爆散させた。
Rare Drop!
ふと、やたらとデカいファンファーレと共に、一行のインターフェースに文字が躍った。
エンジェルスラプリンが爆散した跡地に、一枚のカードが転がっている。
「……」
全員が、無感情にそれを見ていた。
色々と振り切ってしまったので、リアクションが取れなかったのだ。
ぴこ、とカードが立ち上がった。
「た、たすかったー!」
カードが叫ぶ。
「ありがとうございます! 私、練達の研究員です! 皆さんのおかげで……」
感激のあまり飛び跳ねるカード。しかし、あまりにリアクションのなさに、カードはぴこ、と動きを止めた。
「……お疲れ、ですよね」
「そうだね」
ミーティアが言った。
「……ログアウトしますね」
「そうして」
「では、その……ごゆっくりお休みください……」
カードがぺこり、と頭を下げると、ログアウトして消えていく。
全員が、その場に座り込んだ。それから、全員が、一度視線を合わせると。
そのまま倒れ込んで、しばらく動けなかった――。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
……本当にお疲れさまでした……。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
うええええ、もうスライム狩りたくないよぉ……。
●成功条件
『エンジェルスラプリン・カード』の入手
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
●状況
R.O.Oを調査中の研究員が、アバターを変質させられ、『エンジェルスラプリン・カード』と言うレアアイテムになってしまいました。
そして、このカードを手に入れる条件が、『スラプリンを倒すことでごくまれに召喚されるエンジェルスラプリンを倒すことでごくごくごくごくごくごくごくごくごく稀に手に入る』という、非道なもの。
前任者は三桁時間に及ぶ激闘の末ドロップできず、疲れたので寝ています。お疲れさまでした。
さて、皆さんはこのエンジェルスラプリン・カードを入手すべく、彼らの仕事を引き継ぎ、一週間頑張ってカードを手に入れましょう。
とはいえ、延々と狩りをしていては体力も精神力も疲労します。程々に休憩をとって、健全にハクスラしましょう。
クエスト発生時刻は、皆さんが活動する時間帯で変動。フィールドは、『スラプリン・アイランド』と呼ばれるエリアで、あまり深くはない森と、中心に大きな湖のある、内陸リゾートみたいな感じの場所になっています。
●エネミーデータ
スラプリン種 ×∞
スラプリン、と呼ばれる、R.O.Oでもオーソドックス、かつ弱いエネミーです。可愛いのでマスコット的にも扱われます。
赤、青、黄色、緑、紫、と体色が異なる存在がおり、それぞれ通常、氷、雷、草、毒、と言う属性を持っているようです。
属性ごとに攻撃手段が異なります。共通しているのは、この種を倒し続けていると、ごく稀にエンジェルスラプリンがフィールドに召喚される、と言う事です。
エンジェルスラプリン ×∞
スラプリン種を倒すことで、ごくまれに召喚される、スラプリンたちのボスのようなモンスターです。
ボスクラスですが、決して強力と言うわけではなく、皆さんなら油断せず戦えばあっさりたおせるような相手です。
主に物理属性の近距離攻撃を行ってきます。稀に神秘属性の遠距離攻撃も。
問題は、このモンスターを倒すことで、すごくごくまれに、『エンジェルスラプリン・カード』が手に入る、と言う事です。
皆さんの目的は、このすごくごくまれに手に入るアイテムですので、延々とこのモンスターたちを狩り続けることになります。
以上となります。
それでは、皆様のご参加と、プレイングを、お待ちしております。
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