PandoraPartyProject

シナリオ詳細

赤ずきんと貪食なる狼

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 森の奥にぽつんと一軒家が存在していた。
 窓辺から差し込む光は陽光の白っぽさを残し、床の木目を照らしている。
 調度品の全てが木で作られた統一されたデザイン性の中に1人、紅い頭巾をかぶった少女がいた。
「んん……んぅぅ……ん……」
 寝息を漏らしながら、ごろりと転がった少女は、やがてむくりと起き上がる。
「……んん~~」
 ぐぐっと身体を伸ばして、ふぅ、と吐息を漏らしてきょろきょろと辺りを見渡した。
「……ん~? ここ、何処っすか?」
 不思議そうにこてん、と首を傾げ、思い出そうと頭の整理を始めた。
「ええっと、たしか……いつものように学園に行って……その後は」
 目を閉じてじっとしていた少女は、ハッと我に返る。
「そうそう、ROOっていうのをやってみないかって言われたんっすよね!
 ゲームを学園側から言われてやれるなんて、って思って参加したんっすよね!」
 うんうん、と独りでに頷いた少女は、同時にぴたりと動きを止める。
 そして、先程からずっと視界に入っていた『そんなわけがない』ものに、視線を向けた。
「……だとしたら、これってどういうことっすか? なんであたし、現実の姿になってるんっすか?
 アバターをちゃんと作ったはずっす……」
 再び疑問に首を傾げ、少女は何の気なしに画面を見る。
「……?」
 そこには、あるはずの装備がない。
「あれ? どういうことっすか?」
 そのままあれやこれやと操作して、クエスト欄を見て、少女は思わず硬直した。
「――へ?」

『赤ずきんと貪食なる狼』『――緊急クエスト――』

 2段に分かれて記された2つのクエストのうち、緊急クエストの下には、『赤ずきん』の部分だけ横線で打ち消されていた。

「あなたは、当該クエストにおける救出対象となります……
 貪食より逃げ延びてください……?」
 思わず、そう声に漏らしたのと殆ど同時、外から狼の遠吠えが聞こえた。
 それも、普通の狼のそれとは思えぬほど野太く、大きな声だった。


 君達は『赤ずきんと貪食なる狼』なるクエストを受注していた。
 地球なる世界のウォーカーであれば『赤ずきん』という童話をモチーフにしていることも何となく察しもつく。
 その内容は単純で、赤ずきんというNPCを貪食なる狼なるエネミーから救う事。
 単純明快なそのクエストを、君達は操作慣れも兼ねて受注したのだ。
 8人が登録され、行こうと声を掛け合ったその時だった。
 警告音が鳴り、クエスト欄がポップする。

『――緊急クエスト――』

 そうポップしたクエスト欄の『赤ずきん』に横線が引かれ――救出対象であろうNPCの画像がじんわりと変わっていく。
 変わって出現した救出対象者は、見知った制服――希望ヶ浜のソレを着た女生徒だった。

GMコメント

 さて、そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 ROOにて緊急クエストが発生したようです。

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

 早速詳細に参りましょう。

●オーダー
【1】貪食なる狼の討伐
【2】佐熊 凛桜の生存

●フィールド
 森の中に存在する小さな一軒家と、その周囲の開けた空間です。
 本来は『赤ずきん』なるNPCとそのお祖母ちゃんが暮らしていたお家だったようです。
 遮蔽物の類は存在しません。

●エネミーデータ
・貪食なる狼
 狼と鰐を足して2で割ってサイズ感を10m規模にデカくしたような怪物です。
 本来のクエストの『貪食なる狼』の情報によると下記のような動きをします。

1:何よりも『家を破壊する』ことを優先します。
2:何よりも『赤ずきん』を文字通り『食べる』ことを優先します。
3:非常に素早く、尻尾による薙ぎ払い、巨体による転がり、突進からの噛み付きなどによる攻撃手段を持ちます。
4:その咆哮は正面から受けた者の動きを一時的に封じます。
5:貪食なる狼は『転がり』『突進』の失敗時、一時的に無防備になります。
6:HPは非常に豊富です。

●NPCデータ
・佐熊 凛桜
 希望ヶ浜学園の生徒です。皆さんより先に潜入し、あれやこれやをする立ち位置でした。
 ただし、今はバグか何かにより『赤ずきん』なるNPCの代役に設定されてしまいました。
 本来のアバターは別にあるようですが、今回は何故かリアルの姿を忠実に再現されてしまっています。
 皆さんのいう事は基本的に素直に聞いてくれるでしょう。
 ただし、現在は装備品の類が無くなり完全な無防備です。襲われたらひとたまりもありません。
 彼女が死亡した場合、明確に失敗判定となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 赤ずきんと貪食なる狼完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ザミエラ(p3x000787)
おそろいねこちゃん
じぇい君(p3x001103)
オオカミ少年
レイス(p3x002292)
翳り月
アレクシア(p3x004630)
蒼を穿つ
May(p3x007582)
めい☆ちゃんねる
デイジー・ベル(p3x008384)
Error Lady
ルイン(p3x008578)
世界終焉機構最終番
サロ(p3x008903)
旅するサロ

リプレイ


 クエストを受注した8人はフィールドに訪れていた。
「……んん。緊急クエストって、なんなんだろ…?
 バグを抜きにしても、そういう突発で起きちゃうクエストもあるのかな……」
 少しばかり不思議そうにしているのは『幽かに、ゆらゆらと』レイス(p3x002292)だった。
 人見知りの気が少しばかり顔を見せ、心細げに見えなくもない。
「緊急クエストってつまり、大急ぎの依頼ってことだよね」
 淡い金色の混じったような虹色の髪を風に払い、『硝子色の煌めき』ザミエラ(p3x000787)は恐らくを答えた。
「つまりこの人が危ないから急いで助けに行ったほうがいいってこと……かな?
 それに答えるように呟いたアレクシア(p3x004630)は少しばかり考えた様子でそう言った。
「そういうことだね……アバターで戦うのは初めてだけど、狼に赤ずきんが食べられないように、頑張ろう! ふぁいと、おー!」
 手を伸ばすザミエラの動きに合わせて動いた髪は硝子細工のようにキラキラと輝いて見えた。
「うん、詳しいことはよくわかんないけど、困ってる人がいるなら助けないと!」
 そういうアレクシアはボウガンを握りなおした。
 ここがどこであれ、アレクシアの行動原理はそれに他ならない。
 普段とは違う体で、けれど普段と変わらぬ心で、やれることをやろうと。
「うん、でも頑張るよ。頑張って助けるよ」
 驚いているのか、ついつい同じ言葉を繰り返す『世界終焉機構最終番』ルイン(p3x008578)だった。
 その言葉には、驚きや困惑よりも、遥かに一種の好奇心や喜びのようなものが詰まっているように思える。
「壊すことしか機能が無かったボクが誰かを救うだなんて、新鮮だよ!」
 ルインは棒状の何かを取り出しした。
「こういうゲームならお伽噺をモチーフにしたクエストが出てもおかしくないか」
 風に溶けるようにして自然体に佇む『旅するサロ』サロ(p3x008903)が言葉にする。
 ひどく身体に馴染むように感じるのは、その身体の内側にいるモノの本質であるからか。
「問題は赤ずきんが凛桜だということだね」
「うん、凛桜おねえちゃんを早く助けないと……ここままだと赤ずきんとして悪い狼に食べられてしまう」
 それに反応するように『オオカミ少年』じぇい君(p3x001103)も言葉にする。
 手に持つワイヤーの伸縮性を確かめる。
「何より、困っている女性を助けるのは正義の義賊としての務めだしね」
 ふふんと元気よく心に燃えている。
「そうですね。いくら此処が現実でないとはいえ、喰い殺されるのは非常にショックでしょう。その前に助けなければ」
 そういう『機械の唄』デイジー・ベル(p3x008384)はクエスト欄に遷っている狼のグラフィックを見ていた。
「……しかし、このような動物が狼としてカウントされるのは何というか、不可思議ですね」
 その狼の部分は『緊急クエスト』と表示される前から変わっていない。
 つまり、この鰐と狼を足して2で割ってサイズ感をデカくしたような怪物は、このクエストにおける元々の『狼』枠なのだろう。
「めーい☆ちゃんねるー♪」
 なんかこう、ぐいーんと引き気味からアップして『めい☆ちゃんねる』May(p3x007582)がウインクと共にオープニング演出を始めていた。
「ハーイ、メイなのですよ!
 さて、今回は悪い狼さんから赤ずきんさんを守るクエスト……だったのですが、緊急事態発生なのですよ!
 これは、失敗出来ないのですよ!!」
 クエスト開始前、今回の動画の趣旨を説明していく。
「お助けしなくては行けないのは希望ヶ浜学園の生徒さん!
 メイ達が必ずお助けするのですよ!」
 ブイっとポーズを取ったその直後。
『ゥオォォオォオオオン』
 どこまでも野太い咆哮が響き渡った。

 8人の後ろに姿を見せた一般的な『狼』とは明らかに風貌の異なる怪物が、その身を鰐のようにくねらせて家の方へ突撃していく。
 ザミエラ、アレクシア、レイスの3人は狼の向かう先、一軒家へと走り抜けた。
「おまたせ! 助けに来たよ!」
 アレクシアは窓をぶち破って突入する。
 見ればベッドの上で驚いた様子を見せるクエスト欄でみた少女の姿がある。
「び、びっくりしたっす! ええっと??」
 混乱した様子を見せる『赤ずきん』こと凛桜に、アレクシアは手を伸ばす。
「今すぐこの家を出よう!」
「外出た方がいいっすかね……?」
「……あれがこの家を潰したらひとたまりもないはずだよ」
 レイスはちらりと家の外に視線をやる。
 そこには怪物の姿が見える。
「あれが狼っすか!? 流石に無理っす!」
 跳び起きた凛桜がアレクシアの手を取れば、3人はすぐさま走り出す。
「みんななら大丈夫だと思うけど、狼もなんだか強そうだから、急いだほうがいいよ」
 ザミエラはちらりと狼の方へ視線を向ける。
「そうっすね。このアバターだと正直一発で死んじゃいそうっす」
 ちらりと後ろを見て頷いた凛桜を囲うようにしながら目指すは草むらの方向。
 安地とはいうが、このフィールドに置いて完全に安全な場所というのは望むべくも無さそうではあった。
 狼は戦場を駆け抜ける。
 5人を跳び越え、一軒家へと突撃をぶちかます。
「お家を壊して赤ずきんさんを食べたいのなら……メイを倒してみるのですよ!」
 Mayは狼と家の間へと割り込んだ。
 啖呵を切るようにして狼に視線を合わせるが、しかし。狼の視線にはMayの姿は入っていないようだった。
 その傍ら、カタパルト状のシールドから射出された小さなナイトがじぇい君の方へと飛翔し、その盾のように立ちふさがってみせる。
(事前情報を考えると、正面に立つのは怖いね……)
 サロは狼の背後を取ると、リュートを弾いた。美しき音色が刃の代わりとなり、響き伝わっていく。
 獣の身を撫で騒めかせる旋律が、やがて狼の耳を打つ。響き渡る旋律を振り払うように狼が首を振った。
「僕も一応狼だけど、容赦はしないよ」
 じぇい君は手に握るワイヤーに短剣を括り付け、それを狼目掛けて投げつけた。
 真っすぐに走ったナイフが狼の身体に突き立つと、それをワイヤーで引き戻しもう一度の投擲。
 二度に渡る投擲に微かに狼の身体に血がにじむ。
「さぁ、張り切っていってみよう!」
 ブゥンと音を立てながらエネルギー刃を呼び起こしたルインはそれの中心を分離させると、二本を併せ持ち、横薙ぎに振るう。
 あふれ出したエネルギー体の刃は真っすぐに飛翔し、狼の身体を一軒家から弾き飛ばす。
「そんなに大きい体躯ですから、撃つのも楽でありがたい限りです」
 デイジーは落ち着いた様子でマジックブックを開いた。
 便宜上は狼に分類されているようだが、本来の狼とは明らかに別物の巨体である。
 やたらと大きなその身体であれば、外すのはそう簡単ではない。
 ふわりと開いたマジックブックが毒々しい閃光を放つ。
 その直後、翳した掌に毒々しい渦が巻き、一条の紫が走り抜けた。
 紫色の光は真っすぐに狼へと炸裂する。

 Mayを躱すように体を円状に丸めた狼がぴょんぴょんと後退し、咆哮を上げる。
 びりびりと響く声が耳を打つ。動きを封じられるほどの事ではない。
 幸い、距離的に遠すぎるのだろう。
 その直後、狼は疾走し、じぇい君めがけて牙を剥いた。
 防御技術を駆使して勢いを殺すも、鋭利な刃が強かにその身を削っていく。
 じぇい君は懐から取り出したポーションをあおるように飲む。
 消費されていったHPのゲージが回復していく。
「悪い狼になんか負けないよ!」
 手で口元を拭って、顔を上げる。目の前には狼の瞳が映る。
 マークし続けるMayは、その様子を見つつ、スカイフォースカタパルトを広げた。
「賢者センセー! 教えてくださいですよー!」
 そういや、スカイフォースカタパルトより飛翔した小さな賢者風のマスコットが宙に浮かんで一緒に出来た黒板で何かを示す。
 それは範囲内の味方に各々のスキルの効率良い使い方を指導するユニットである。
 確かな講師の確かな教鞭に支えられ、仲間たちの動きが良くなっていくのが見えた。
 サロは家の残骸を何とか利用できないか考えていた。
 残念ながら砕けた家の残骸のうち、遮蔽物になるほど大きな物はそう簡単に動かせそうにはない。
 出来るとしたら、何とかして残骸の方へ誘導することぐらいだろうか――だが。
 敵は家を破壊する事に執着しているようだ。
 その内側にいるであろう、獲物を目指して。
「赤ずきんを探しているのかい?」
 リュートの旋律を響かせる。
 騒めく旋律に当てられて、狼がしびれを起こしたように見えた。
 ルインはその金色の瞳に狼を映し出していた。
「さあ、クラッシュでブレイクでデストロイだよ!」
 二本に分けたビームヴァジュラをかち合わせる。
 バチバチと音が鳴り、触れ合わせるたびに反応を起こして徐々に膨張を繰り返していく。
「思う存分に味わって、塵も残らないぐらいに壊れてね!」
 膨張した二本の刃を合わせ、上段から振り下ろす。伸長した刃が真っすぐに狼の身体に焼き付いた。
「このまま焼いてあげます」
 マジックブックの頁がめくられ、赤いエフェクトが輝いた。
 やがて、狼の頭上に炎を模した渦が巻き、矢じりのようになって降り注ぐ。
 矢が狼の身体を焼き付けていく。
 その身に残り続ける炎に狼が唸り声をあげた。
 ザミエラ達3人はフィールド内の森の中へと息を潜めていた。
「……こっちに来るよ」
 草むらから顔を出したザミエラの視界に、家を砕いた狼がきょろきょろと周囲を見渡した後、地面をすんすんと嗅いでいるのが見えた。
 そして、上げられた顔は、真っすぐにこちらを向いているのだ。
「そっか、狼だから鼻が利くんだ」
 疾走する狼がこちらに近づいてくると共に、ザミエラは凛桜の前に立った。
 そんなザミエラに対して、狼は直前でくるりと身を翻し、巨大な尻尾で薙ぎ払う。
 にやりと口角を釣り上げて笑った狼と凛桜の間に、アレクシアは入れ替わるように立ちふさがった。
「何があっても護るからね」
 ちらりと視線を後ろへ向けた後、低く唸る狼へと視線を向けた。
 飛び掛かるように突っ込んできた狼に対して、アレクシアは短剣を抜いて刃を合わせて勢いを殺す。
 レイスはそんな狼に視線を向け、サイズを構える。
(まだROOでの戦いに慣れてるとは言い辛いし……そもそも、やっぱり戦いは怖いけど……)
 握りしめた手を伝ってサイズの切っ先に魔力が集束していく。
「……それでも、少しくらい、力に……!」
 踏み込むと同時、思いっきり振り抜いた。
 魔力を帯びた切っ先で、円を描くようにしてくるりと切り裂いた。、

 巨体に違わぬ豊富なHPを持つ狼との戦いは続いていた。
 雄叫びを上げた狼が再びの突撃を開始する。
 ブロックを試みたMayの身体が軋み、グラフィックがパキリと砕け散った。
 突撃していた狼は、そのまま勢いを殺さず突っ込み、木をへし折り倒れこんだ。
「やられてしまったのですよー!!
 でも、あの傷の様子ならもう少しで倒せそうなのですよ!
 これはもうゴーストモードで実況継続するしかないですよ!」
 カメラを回したまま、Mayは腹いせにパンチしつつ実況を続けていく。
「ふふ、ねえ知ってるかな? 硝子って脆くて割れやすいけど、破片はとっても鋭くて痛いんだからね!」
 ザミエラは静かに笑みを湛え、狼へ飛び込んだ。
 刻まれた傷は多く、痛みは多い。
 けれど――それでいい。硝子は砕けることで美しさを失い鋭さを増すのだから。
 鏡細工のような髪を靡かせ、叩きつけた衝撃が無数の破片の如く狼の身体を切り刻んでいく。
 凛桜を連れて狼から退避したアレクシアは振り返る。
「ひとまずはここにいて」
「了解っす!」
 凛桜が頷くのを見て、狼の方を向けば狼が倒れているのが見える。その瞬間、矢を番え、静かに引き金を弾いた。
 引いた引き金から跳んだ矢が狼の身体に炸裂するのとほぼ同時、既に放っていたもう一本が狼の身体へ突き立った。
「恐ろしい化け物だったけど、やっぱり動きは獣らしいね」
 知性より本能を優先したような動きにより大きな隙を曝け出した狼へ向け、サロは再び旋律を奏でる。
 美しき旋律が獣の脳髄を揺らし、更に動きを鈍らせる。
(……それにしても、なんていうか、ボクらが猟師みたいだ)
  追い詰められた狼を見つめながら、サロは脳裏にはそんな思いがよぎっていた。
 童話に置いて、赤ずきんを救い狼と対峙するのは猟師の役目。
 間違いなく、それこそがクエスト受注者の立ち位置なのだ。
 レイスじゃそれに続けるように、サイズを構えた。
 這う這うの体で起き上がろうとする狼の腹部めがけ、思いっきり鎌を薙ぐ。
 放たれた斬撃は魔力を帯びて駆け抜け、狼の身体に大きな傷口を押し開いた。
「AI(おまえ)なんかに負けない……!」
 短剣を抜いて、じぇい君は走り抜ける。
 ごろりと横たわり暴れる隙だらけの柔らかな腹。
 真っすぐに駆け抜け、剣を閃かせた。
 がら空きな柔らかい皮膚を抉り削り取る剣技に、狼が悲痛な声を上げた。
 続けるようにデイジーがマジックブックを開く。
 禍々しい紫色のエフェクトがあふれ出し、一条のきらめきを描いていく。
「これで終わりです」
 真っすぐに尾を引いて撃ち抜かれた毒の輝きは、狼がだらりと開けた口の中へと炸裂し、その内側から汚染する。
 ルインはその大きく開いた傷口を見つめ、ビームヴァジュラを一本に直す。
「破壊はボクの真骨頂で十八番だからね。
 大丈夫、確実に壊してあげるよ」
 振り抜いたビームが真っすぐに飛翔し、狼の傷口へと炸裂する。
 尾を引いて描かれた軌跡と音が響く。
 倒れた獣は回避の隙もなく攻撃を受けてバランスを崩す。
 零れ落ちた血が魔力に代わってルインへと吸い込まれていった。

 戦いが終わった後、じぇい君はお腹をさすっていた。
「お腹すいたね……美味しい物でも食べに行きたいな」
「皆さん何処から来たんっす? 私、この近くの町なら美味しいパン屋さんを知ってるっすよ!
 折角だから案内するっす!」
 その言葉とほぼ同時、、8人はクエストの完了通知を得た。
「じゃあ、私、ちょっと着替えてくるっす! ちょっと待っててほしいっす!」
 なんてことを言って、救出された凛桜がログアウトする。
 そうして、改めて9人は案内されたパン屋に訪れていた。
「あんな目にあった言うのもおかしいけど、どれだけ動いても息切れしないなんて……」
 アレクシアは少しばかり笑みを浮かべ。
「ふふ、ちょっと楽しいね!」
 外の世界であれば、良くなってきたとはいえ身体が弱いアレクシアにとって、それは思いもよらぬ喜び足りえた。
 なにより、感覚のほとんどが現実と大差ないからこそ、その思いは強かった。
「たしかに、そうっすね! 疲れないのはいいことっす!」
「あ、あの……」
「どうしたんっすか?」
 きょとんとした表情を浮かべているのは凛桜だ。
「怪我とかは……なかった?」
 会話の糸口をさぐるように呟けば、凛桜は不思議そうにきょとんとして、直ぐに軽く笑みを浮かべた。
「おかげさまでぴんぴんしてたっすよ! というか、一度でもダメージ入ってたらヤバかったと思うっす!」
「……そ、そう……それで、もう一ついいかな……?」
 不思議そうに首をかしげる凛桜に向けて少しだけ深呼吸を繰り返し。
「ど、どういう経緯でNPCになったのか、分かる? 選ばれる前に何かしたのか、とか……」
「うーん……別段特別なことをした記憶はないっすね。起きてみたらあの姿であの家の中にいたんっす。
 それが分かれば先輩たちのお役に立てたかもしれないっすけど……ごめんなさい」
「それより、先輩もどうぞ、食べた方がいいっすよ! 馬鹿にできないっすよ!」
 そう言って凛桜はレイスへパンを差し出した。
 その話を横耳に聞いていたサロは少しばかり考える様子を見せる。
(なんだか悪意を感じる事態だったけど、バグの原因とかは地道に調べていくしかないか……)
 気になりこそはすれ、ひと先ずは対処療法的にしていくしかなさそうだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

じぇい君(p3x001103)[死亡]
オオカミ少年
May(p3x007582)[死亡]
めい☆ちゃんねる

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
若干の辛勝、ではありましたが、勝利です。

PAGETOPPAGEBOTTOM