PandoraPartyProject

シナリオ詳細

クエスト・四つ手熊を倒して技術者を解放せよ! ただし、テクスチャはゆるキャラとする

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 いつからそこにいるのかと問われたら、はじめから。としか言いようがなかった。
 なぜ、自分がこんなところでこんな風に座っていなくてはならないのか。
 あまりにもそぐわないのはわかっていた。データ的に言うなら、ポップアップするオブジェクトのテクスチャがステージ規格とあっていない。あっていないまま、定められた規範に基づき任意フィールドに放たれたのだ。
 そう、何かの間違いだ。この場にいる自分だけが異質なのだ。わかっている。だが、どうしろと? オブジェクト自身に自滅スイッチはついていない。より高度な存在からの働きかけがなければどうにもならない。そして、優先すべきは定められた規範に基づき活動する。生きている限り生きねばならない。
 そして、森に侵入してくる奴をバラバラにしなくてはならない。

 おかしい。だって、腰くらいまでの三頭身愛されくまちゃんだったはずなのに、なんで生えてる木の枝で顔を打つほどでっかくなってるの?
 

「アバター? 何いってんの。かよわい情報屋さんにアバターとか」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、詮索すんな。と言ってから、改めてローレット・イレギュラーズを向き直った。
「この頃巷で噂のR.O.O――Rapid Origin Onlineでのお仕事です。先にいっときますが、非常に理不尽な世界設定なのですぐ死にます。ぶっちゃけ、普通の依頼で怪我する勢いで死ぬ。依頼終わった時点で生きてたら褒められるくらい死ぬ」
 ローレットの真ん中で死ぬ死ぬ連呼する情報屋。
「現実にはほぼ影響ないので安心してね。アバターのステータスにR.O.Oでのデスカウントがつくくらいで。それでどうこうなったりしないから」
 現実的にも社会的にもね。
「ただ、自分が死んだと認識するとどうにかなる向きもあるでしょ。ウォーカーは特に。例えアバターでも、自分が死という経験を乗り越えられるかな。と、しっかり考えてから依頼に参加して下さい。現実なら死んだらそれまでよ。だけど、R.O.Oでは死んでも生きてる現実があるからね。ぶっちゃけ、夜中思い出して、眠れなくなったり、トイレいけなくなったらやだろ」
 心が折れられたらお仕事受けてもらえなくなるわけで、メクレオも気を遣うのだ。
「はい、無理っぽそうなヒトは現実の依頼で会いましょー。残ったヒトは依頼の中身に入るよ。いい?」
 メクレオは、ぐるりと座を見渡した。
「――はい。じゃ、説明します。フルダイブ型仮想空間を作り出したはいいのですが、R.O.Oは深刻なバグを生じ、練達のコントロールを外れてしまいました。ログインしていた練達の研究者たちが帰ってこられない状態になってます。PCじゃなくなってるんだよ。ゲーム内に取り込まれてトロフィー扱いにされてるから自害を試みることもこともできない。ゲームに発生してる『クエスト』を解決して『獲得されたトロフィー』としてゲーム空間からログアウトさせる方法が有効と立証されたから、やることはいつもと変わらない。ただ、エラー頻出の暴走システムだ。めっちゃ死ぬ」
 この情報屋、やたらと死ぬ死ぬ言ってくる。
「いつもなら大丈夫が大丈夫じゃないんだよ。仮想空間だからパンドラなんてリアルチート使えないからね」
 即戦闘不能か。
「パンドラ使えないってことは戦闘不能は死だよ。ログアウト。退場! HP0になって踏みとどまれなかったら頭数が減るんだよ! いつもより早いペースで戦線が崩壊するってことを肝に銘じておいてね! 回復役はいつも以上に忙しいし大盤振る舞いしなくちゃいけない。墜とされたらヤバいからね。パンドラは減らしてなんぼって戦い方してるやつは仕事する前に退場にならないように! はい、復唱。僕らはいつもより踏ん張りがきかない!」
 ごく当たり前の理不尽な死が来るぞ。
「それで、一般の方々と同じ土俵。だが、みんなそれなりに腕は立つのはわかってる。でも暴走システムでめっちゃ理不尽。の二段構えだよ」
 シビアだ。
「以上を踏まえて、討伐『クエスト』いってみよー。森の中にベアベアが出る」
 メクレオは、一枚の絵を取り出した。
 希望ヶ浜のファンシーショップにキャラクター商品がある三頭身のデフォルメキャラだ。
「バグです。ここに出るべきなのはリアルな巨大熊。いや、データは熊なんだよ。体重400キロ。おててが四本あって、近接攻撃しながらマルチアクションで遠距離攻撃してくる俊敏な熊。テクスチャがPC用のアバターというか、これ、討伐トロフィーで――」
 つまり、呪われたお姫様がワンダリングモンスターにされているクエスト。倒して呪いを解くというオーソドックスなスタイルに――。
「デフォルメクマのアバター使ってた研究員がはめ込まれちゃったという訳なんだわー」
 つまり、デフォルメ三頭身クマ・ベアベアを倒して来ればいいんだな?
「スペックは四つ手リアル巨大熊のままです」
 アバターにおててないよ?
「虚空から投擲される。モーションなくなってるから――えっと、その、頑張れ」

GMコメント


 田奈です。
 ゲームのアバターにパンドラはくっついてない!
 いともたやすく行われる死亡判定に田奈はキャッキャしています。
 とても死にやすいので、かっこいい死にざまを追求するのも悪くないです。仮想空間だし。
 アバターのログにデスカウントつけたくない皆さんは、現実の自分を見つめ返して慎重かつ大胆に行動してくださいね!

 ●現場:森
 『クエスト:大樹を切った報い
  森の大樹を身勝手な理由で伐採させた貴族の姫君は、大樹の呪いで森をさまよう巨大な熊に変えられてしまった。呪いから逃れ、罪を贖い魂の平穏を得るには討伐されて死に至る痛みを知るしかない』
 リアルな伝承の森。植生は広葉樹林。直径20メートルの円状の空間。中心に直径3メートルで高さ80センチの切り株。熊の初期位置は切り株の上。
 
●敵:罪を贖う熊・アバター・ベアベア×1
 トロフィー:練達技術員
 体高2.5メートル、体重400キロ、見た目がファンシーなデフォルメ熊のベアベアの着ぐるみです。三頭身。偏球体の頭部に控えめな鼻面。
 ベアベアについては、希望ヶ浜や練達で情報収集可能なPCは知っていて構いません。ティーンが好きな割とポピュラーなファンシーキャラです。くたぁ。とした脱力系の熊です。もちろん、公式設定では400キロだったりしません。バグです。

 膂力は強く、俊敏。中距離からの熊タックルや熊トランプル。近接からの熊パンチ、至近距離からのベアハッグは致命的。
 距離をとると痛烈な全方向衝撃弾の餌食。
 演算だけはされる両腕×1
 データが四つ手熊なので、存在しない二本の手で遠距離攻撃してきます。熊本体と別にアクションします。
 存在しないので攻撃はできません。バグデータです。しかたないね。仕様です。
 
※重要な備考

 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • クエスト・四つ手熊を倒して技術者を解放せよ! ただし、テクスチャはゆるキャラとする完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月18日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフルハンマ(p3x000319)
冷たき地獄の果てを行くもの
ハウメア(p3x001981)
恋焔
エイル・サカヅキ(p3x004400)
???のアバター
Alice(p3x007295)
May(p3x007582)
めい☆ちゃんねる
かぐや(p3x008344)
なよ竹の
アリィ(p3x008817)
誰かを護る剣を目指して
パンナコッタ(p3x009550)
ALL IN MY HEART

リプレイ


「めーい☆ちゃんねるー♪」
『めい☆ちゃんねる』May(p3x007582)が、タイトルコールする。LIVE配信だ。 ちなみ、各プレイヤーの個人情報に考慮し、適宜リアルタイムで修正が入っておりますので同行冒険者の方はご安心下さいね。お名前連呼しても、妖精さんがいい感じにピー音を入れてくれますし、解像度がピンポイントで上下します。神秘。
「ハーイ、メイなのですよ! メイが今回挑戦するクエストはこちら! 希望ヶ浜の皆さんはご存知の方もいるのですよね? あのベアベアさんがお相手なのですよ!」
 Mayが指示した方向。切り株に、ベアベアが腰を下ろしている。
 切り倒されてしまった巨木の呪いで、異形の熊に変容し、理性を失った令嬢の討伐――分類から行くと鬱シナリオなのだが。
「コラボイベント?」「シークレットかよ」「芸が細かい」などとリアルタイムにコメントが流れていく。いえ、単なるバグです。
「大樹を伐採したら呪いがかけられた、このエピソードだけで弱さ加減が伝わってきますわね」
『なよ竹の』かぐや(p3x008344)のムーンチャイルドロールにコメントが「生まれながらの傲慢キタコレ」「天上人であらせられる。ひかえい!」と「おまえらの愛で見えない」タグ不可避。
「なんか竹を切ったら麗しき姫が出てきた! ついでに黄金も出てきた! コレが王者の伝承。植物を伐採した程度で、災難に遭っているレベルの存在……あまりに可哀想で涙が止まりません」
 姫レベルが低い。と仰せである。悪気などない。厳然たる事実である。
「良いでしょう。わたくしの光輝を浴びて、呪縛より解放される栄誉を与えてやりやがりますわ」
 指さした先にベアベア。
 世界法則を瓦解させているモノがいる。間違っている。何もかも間違っている。滅ぼすしかない。リアルなテクスチャに全然はまってない。うすべったいフォルムにリアルなシェイディングが悪夢である。怒りステータスがつくってこんな感じ。
「聞いていましたが、見た目と実際のデータが違うというのは面倒ですね」
 ハウメア(p3x001981)は嘆きながら、四枚羽根をはためかせる。天使のような女性型アバターだ。
「凶暴なのに見た目はゆるキャラなせいで、何というか微妙に締まらないというかなんというか……。ハウメアです。よろしくお願いします」
 そう。ゆるい。頭がでっかく、重心バランスを完全に度外視している。なぜ自重に潰されないのだ。
「ベアベアねー。ベアベアカフェは映えるって生徒にmうぇっほん!!」
『???のアバター』エイル・サカヅキ(p3x004400)は、盛大にむせた。
 ゆるふわギャルにしては、慌て方がギャルくない。生徒――とは。深く追求してはいけない。
(私は希望ヶ浜教師のアーリアじゃなくぴちぴちギャルのエイルちゃん!)
 ヒトよ。酒飲んでアバター作ってはいけない。引っ込みつかなくなった「ぎゃる」との約束だぞ。
「――――」
(クエストのパーティーメンバーて、中身はイレギュラーズなんだよな……)
『妖精粒子』シフルハンマ(p3x000319)は、うぬうと唸った。かく言うシフルハンマも現実とは違う妖精型アバター。
 説明の時には顔見知りもいたが、今こうして顔を合わせているのはアバターだ。
 エイルは、悟られぬよう奥歯をかみしめていた。
(ていうかメクレオっち、生身の身体で集めてはいログインしてアバターで集合ね★ は、身バレ容赦なくてマジヤバ)
 だって、俺アクセスする気ねーもんさー。と、情報屋はゆるい笑みを浮かべていた。いうなれば、対岸の火事。
(キミもギャルアバターか中二病アバターにして、ほんとの私デビューさせちゃうかんね?)
 私怨――というか、八つ当たりである。
(隠す気がゼロのメイさん以外中身わからないけど、これ大丈夫なのかな……)
 と思いつつ、顔には出さないシフルハンマとエイルの目が合った。
 なんとなく笑い合う。
(にしても判りやすい子もいるけど、誰が誰だかわけわかめでおったまげーよ)
 とはいえ、初対面の相手と命の預け合いをするのはいつものことだ。問題はそこではない。いっそ、完全に初対面の方がいい気までしてくる。
(かくいう俺も隠してるが……)
 シフルハンマも鎌の付喪神が本当に妖精のようにふるまおうと思っているのだ。「お前だったのか……っ!」と言及される、すぐそこの未来。
(まあ、なんとかなるか……コンセントレーション……シフルハンマロール……)
「自分の名前はシフルハンマだよ! よろしくね!」
「アタシ、エイル。よっしくー」
 顔見知りじゃないよね、そうだよね!?
「緊張しないでねー♪ 今日の意気込みは?」
 声をかけられた幻想種の少女型アバター――『誰かを護る剣を目指して』アリィ(p3x008817)は、ひゃっと肩を跳ね上げた。
「ボ……わたし、ノr……アリィです! よろしくおねがいします!」
 ピー音って素晴らしい。
「ひゃっはー! 初クエ初クエ! ハチミツください!」
『ALL IN MY HEART』パンナコッタ(p3x009550)のニコぱ顔がフレームインである。
 ん~。ベアベアがこぼすのはよだれだけだよ?
「え? ゲームが違う? 細かいこと言うんじゃねーべや!」
 別ゲーム云々は妖精さんが対応するので安心してご視聴ください。チャンネルはそのまま。
「はいはい! 言うなれば【ALL IN MY HEART】! コッタ様だ!」
 次々とマイクを向けられるパーティの後方で、 Alice(p3x007295)は、非常に混乱していた。
(マッドハッターさまに頼まれたら、頑張らないと――)
 そもそもの依頼の大本、練達首都セフィロトの三塔主の内、『想像』を司るウォーカーには、リアルで義手を作ってもらった恩がある。
 リアルでゲームオンチと称されているが、ここは一肌脱がなくてはならない。天義にはこういうゲーム文化根差してないからね。仕方ないね。
「Aliceですっ! と、とりあえず、やれるだけ、やってみようっっ」
 ほほえましい初心者ムーブ。ほっこりする。
「はたして、どんな戦いが待ち受けているのか! こうご期待なのですよ!」
 チャンネル登録よろしくおねがいしますですよ!


 タンクがいない。熊相手なのに重装備持ってるPCがいない。
 軽装甲ばっかである。いや、熊打ちと思えばいいのかもしれない。逆に考えれば、熊とフルアタックとか無理してやることじゃない。ましてやレベル1パーティである! 命を大事に。たとえ、デスペナなし。ゲームのデスカウントが一個増えるだけだとしても。
(デスカウントってなに、怖!!)
 Aliceは、手の中のカードナイフを握りしめた。
(だだだだって、オープンしたてのレベル1で一体何ができるかな!)
 というか、ゲーム自体が初心者でいきなりスキルのカスタム始めたら、どんな人生を歩んでこられた案件だ。
(なるようになれ! 普段の依頼でもできることは必死に探してきたもの!)
 いろいろ取り落としているかもしれないが、前に出る。背後をとって、こっちを向いたら中距離に移動だ。
「仮想空間であれば、多少の無茶はしても良い。なんなら死んでしまっても構わない。
────なんて考えるのは二流の思考」
 かぐやは、優雅に指を熊に向かって差し伸べ、竹槍を構えた。そのフォームは投擲。竹槍をお投げになるのですね、おひいさま!
「負け癖、やられ癖を一旦つけてしまえば、拭い去るのが難しいのが人という生き物。結果としてそうなってしまうのは仕方無いにせよ――」
 伏せた目がちらりと流れた。
「心構えとしては、ゲームの中だという甘えは抱かずに臨みたいところ、ですわね」
 その意気や、あっぱれである。
「メイは、ベアベアさんに対抗してペンギンの着ぐるみなのですよ! これでマスコット対決にも勝利してみせるのですよ!」
 でべでべしている着ぐるみスキンはショップでどうぞ。リンクはこちら。
「初陣がまさかのタンク……自分は非戦メインの遠距離アタッカーなんだけど……」
 シフルハンマは蒼白だった。妖精さんサイズなので目立ちにくいが顔色悪いのだ。
「まあ、自分以外タンク出来そうな人居ないから仕方ないんだけど……もー!」
 コメントも「まぢか……」の嵐になっている。
(デスカウントゼロ目指してるのにいきなり危険なことをすることになるとは……)
「えっと、わたし、いつもと戦い方ちがうけど、頑張ってたすけ――ます!」
 アリィ、吶喊!
 アタッカーちゃん、練習中らしい。がんばえ~。とコメントが流れる。温かく見守る態勢。やさしいせかい。
「こんなところで死んでしまう場合じゃないのですよ! メタルスミスのシフルハンマ! 生存執着フル活用で生き残ります!」
 スキル活性化つきのペリドットが揺れるアンクレットは、天国に飛んでいかないための足かせだ!

「私のスキルは全て超射程、森の中から狙撃する事も可能です……流石にフィールドに入らないとダメージが入らないとか無いですよね?」
 ハウメアがアクティブスキルを立ち上げる。
 実際、フィールドインしないとサイトアイコンが反応しない。リアルのようには融通が利かない。フィールド外から失礼します漁夫の利キル対策だろう。
 森の中に身を潜めたハウメアは、黒銀のフルートに唇を寄せた。旋律は影の矢と化すはずなのでエフェクト追加をお待ちください。
 着弾したベアベアの不安定な頭部がよりグラングランしていている。
(……なかの技術者さんは大丈夫なのかな? 心配だ)
 Aliceの心配はもっともだが、着ぐるみそのものではないから、脊椎複雑骨折の心配はいらないぞ!
「メイは中衛に構えてサポート役をするのですよ!」
 とにもかくにも、スキル1でシフルハンマに再生と反撃属性。
「可愛い敵ですが、油断せずいきましょう」
 Aliceが呟いた。
「わ、かわいい……けど、ごめんね!」
 熊の背後にAliceが近づいているから、注意が自分に向くように、声を上げてアリィは白銀に輝く細身の剣を振るった。
 がわぁっとベアベアが腕を振り上げた。ぶん。振り下ろした。ばべちっ。
 サウンドエフェクト、間抜けでかわいいけど、質量が暴力。
 アリィの意識が遠のく。ぎゅいいいんとHPカウンタが減っていく。
「っ……!? うそ、こんな強いの……? ゲームなのに、現実みたいに身体が痛い……」
 ぺしょっとなったアリィの様子に、散開している長距離アタッカー達は気合を入れた。
「知ってる知ってるああいうファンシーなキャラほどくっそ強いってコッタ知ってる!」
 恐るべき滑舌。そんなコッタが手にしているのは巨大な円錐だ。引き金もなければ弦もない。ヒト、それをパーティークラッカーという。垂れ下がっているひもを手に巻いて、パンナコッタはにかっと笑った。
「『アクティブスキル2』! うるせぇ特殊化が間に合わなかったとか言うなし!」
 たぶん間に合ってないのコッタだけじゃないし! 本当はたぶん青いエフェクトとか入ってるはずだったんだ! ――申請通過後にご期待ください。
 ボゴンと、ベアベアの頭部に着弾――今っ! する。ぐらりとかしぐベアエアの頭部。真横に転げ落ちそうで怖い重心無視のくたくたフォルム。
 それが、その反動をそのままシフルハンマへのヘッドバットに込める。妖精にとってはデフォルメ熊の顔面などヘビートラックのフロントにさも似たり。次元によっては勢いあまって転生しちゃいかねない。
 だが、やったベアベアも痛い。Mayの付与が効いている。
「いやこれリームー! 何で前衛選んじゃったかなアタシ!?」
 エイルが泣き言言っているが、至近スキルオンリーでキャラ構築してるからだね。仕方ないね。
 エイルは自分の胸甲の中に手を突っ込んだ。Mayの妖精さんが解像度を落とした。取り出した液体を煽ったー! 「*このギャルは成人です」とテロップが入る。妖精さんの気配り。
「泥酔酔拳遣い★」
 爆誕。
 今、不安定な造形に耐性不利BSを食らって限りなくグラングランしているベアベアと酔眼朦朧キメた酒ク――もとい――酔拳使い。
「ホァタァァァ! やってやりまひょ! くまさん何体にも見えるウケるwww」
 ろれつが怪しい。横合いから殴りつける。
 視覚データ上、ベアベアは前衛と殴り合うことしかできないように見えた。だが、データは四つ手熊。投擲スキルがあるのだ。
(見えないといっても、流石に何の予兆もなくという事は無い筈です)
 ハウメアは、ベアベアを凝視していた。何か、予兆が、ある、はず。
 その時、不自然にベアベアの肩とか後頭部とかお耳のあたりの毛がふあっとした。見えない腕が投擲モーションに入った。
「――全方位衝撃弾!」
 ハウメアが叫んだx
 次の瞬間、ゴッと何かが風を切って全方位に衝撃が走る。エフェクトだけとはいえ、体が割られる感覚などそう味わいたくない。
 エイルの前に立ちふさがって、Aliceは衝撃弾を余計に浴びた。
「私は何もできないけれど、貴方が生きてくだされば戦闘が終わる」
 画面の端のパラメーターは危険色になり、細くなり、点滅し――。
「依頼遂行のため、任務の満了のため、身を呈すことになんの躊躇いがありましょう!!」
 ログアウトプロセスの薄れいく意識の中、Aliceは大事な人の名前を呼んだ。
 (ううっ、マッドハッターさまへ。この世界ちょっと殺意高くないですか? Aliceは驚きました、き、緊急メンテとかないんですかーー!)
 暴走システムに届くかどうかわからないが、お問い合わせフォームから一筆送るといいかもしれない。

「ほぁああああああっ!?」
 エイルの突っ込み気味の裏拳がベアベアの横っ面を殴打した。
 死ぬのも経験かなーと思っていたエイルの鼻先でAliceが「唐突に消えた」
 体も残らない。視界の隅のパーティーメンバーのカウントが7になる。
「いやいやいやいや、タンクはこっちの仕事だってば」
 シフルハンマがエイルの前に立ちふさがった。
「飛んでけ、ベアベア。アクティブスキル2――仮名シールドバッシュ!」
 身長45センチの妖精が2・5メートルの熊を浮かせる。飛んだ。ベアベアが宙に吹っ飛ばされた。
「スカイフォース・アタック出撃なのですよ!」
 カタパルト式シールドの変則アタックである。
「そういえば、これMODでデザイン変えられるのですよね? 視聴者の皆さん! オススメの可愛いMODを教えてほしいのですよ! コメントよろしくお願いしますですよ!」
 ぬいぐるみのくまさんのどてっぱらに艦載機を叩き込みながら言うセリフではない。

 この好機を逃す射撃陣ではなかった。

 遠距離勢からの攻撃が曲射を描いてベアベアに降り注ぐ。竹槍がざっくりベアベアの頭部を貫いた時は全員研究員の心配をした。いや、着ている訳ではないので心配しなくていい。ナカノヒトなどいない。
「当たらなければどうということはないし、つまり動きを止めちまえばいいんだべ!?」
 いい感じにやばげなHPパラメータを横目に見ながら、パンナコッタは照準を定めた。
「さぁ、AIMしてやるぜ。おまえのHEARTをよ!」
 
「貫かれた心は、凍り付くのか? 恍惚するのか? 無防備になるのか? それとも全乗せしちゃう?」
 スキル2の特殊化が間に合わなかったのはこっちに手をかけすぎたからだ。
「さぁてお立合い!」
 盛大に打ち出された中身は、BSで出来た紙テープと紙吹雪のような、まさしくベアベアをレッドゾーンに叩き込むクラッカーだった。
「――この時を待っていました」
 これ以上はないBS山盛りの状態で、ハウメアは空気をつんざく光の一撃をベアベアのだらしなくデロンと開いているのがチャームポイントのお口目掛けてぶち込んだのだ。


 めい☆ちゃんねるでは、実況がエンディングに入っていた。
 
『これで解放されました……ありがとう』
 令嬢の魂が召されていく。きらきらしたエフェクトが薄くなっていくのを見上げながら、シフルハンマは声を絞り出した。
「い、いぎのごった……っ!」
 ガチガチに固めた甲斐があった。
 画面の隅にトロフィー獲得表示。これで、技術者の一人が覚醒するだろう。
もしも運よく生き残れれば、熊を倒してホッと一息
「ほ、本当に強かったね……みえない攻撃は、ずるいよぉ……」
 アリィのパラメーターはもうミリを通り越してドットだった。何で立っているのか自分でもわからない。だが、アリィは立っていた。多分転んだら痛さでログアウトするぎりぎりラインで立っていた。
 エイルは、急に黙りこくった。酒が切れたのだ。素面に戻るって怖い。
 森の中から、射撃陣も出てくる。
「さてさて、記念すべきメイの最初の戦闘はいかがでしたか? 今回は生き残れちゃいました。ゴーストモードのお披露目をしたいよーな、したくないよーな? 良ければ、高評価、チャンネル登録よろしくお願いしますですよ!」
 ペンギンさんがでべでべ手を振る。
「それでは、また次回の動画でお会いしましょうですよ。チャオーなのですよ♪」


「――ログアウトを確認しました。お疲れ様です。ログイン時間が推奨時間を大幅に超過――」
 彼が目を開けると、そこは森の中ではなく、現実だった。

 研究員一名、回収確認。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

Alice(p3x007295)[死亡]

あとがき

お疲れさまでした。技術者さんは無事に解放されました。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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