PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ムーンライトララバイ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●朝よりも遠い場所、月の光より広い庭、リンゴより冷たい眠り
 オルゴールの箱、開く。
 ねじまくキリキリ音。
 止まる、もどる、オルゴールシリンダーの逆回転。
 ピンが櫛歯を打ち奏でる音は、音は、音は……あなたを幻想の世界へ誘った。

 あなたはある日、夢を見た。
 どんな夢だっただろうか。楽しい時間か悲しい時間か、知っている場所かそうでない場所か。
 あなたは夢の中で一個のオルゴールを見つけ、何を思ったかねじを回し始めた。
 ゼンマイ仕掛けで回り始めるオルゴールの音色は夢を歪め、あなただけを残してまるでおかしな世界へと迷い込ませてしまった。

 ふるほど深い星空。
 薄青い木々。
 湖の前にあなたはいた。空には青い月。なぜだろう、月の向こうから誰かがこちらを覗いているような、不思議な気持ちがあなたの中をよぎった。
 よぎったのは心の中ばかりではない。視界の端を、木々のどこかを、青い衣の少女がよぎっていく。
 目で追おうとすれば、まるで最初から居なかったかのようにかき消えてしまうのだ。
 常に視界の端にだけ。
 枝から両足をぶらぶらとさせる少女。
 木の幹からこちらを覗く少女。
 花をむしってくるくると回す少女。
 背後から回り込んであなたの手元を覗き込む、青衣の少女。
 はたと手元を見れば、オルゴールが一つだけ握られていた。
 手になじむ木箱とゼンマイ仕掛けのねじ。見覚えのあるねじを巻いてみるが、しかし聞き覚えのあるあの音は聞こえてこない。
 箱を開いてみれば、大事なものが欠けていた。
 オルゴールのシリンダーが、ぽっかりと無くなっていたのだ。

 『探さなくちゃ帰れないよ』
 耳元で少女が囁いた。視界の端、あなたに耳打ちする青衣の少女がいた。
 振り向いても消えてしまう。問いかけても応えない。不思議な存在が、あなたのそばにいた。
 『探そう? みんな、手伝ってくれるよ』
 みんな。
 そう言われて振り返ると、そこにはあなたの仲間たちがいた。
 湖の前。広い草地。
 10人のイレギュラーズが、同じ夢の中にいた。
 『探そう?』
 あなたは何を思ったか、シリンダーを探すことにした。

GMコメント

 ごきげんよう、プレイヤーの皆様。
 今宵はよい夢が見られそうですね。

【シークレットオーダー】
 イレギュラーズたちは夢の中で別の夢に迷い込み、偶然同じ『夢の森』に迷い込んだ仲間たちと共に『自分のシリンダー』を探すことになりました。

 相談掲示板は今まさに湖の前。
 夢を自覚しつつもなぜか目覚めることのできないイレギュラーズたちが、それぞれシリンダーの抜けたオルゴールを手に集まっています。
 おや、挨拶を交わすようですよ?

【未来のはなし】
 この先の出来事を、キャラクターたちより先に知っておくことにしましょう。

 シリンダーを手に入れることで『夢の森』から帰り、現実に目覚めることができると青衣の少女は囁きます。
 しかしキャラクターたちからのどんな問いかけやアプローチにも、青衣の少女は応えてはくれないでしょう。それがなぜなのか、まだ誰も知りません。

・夢の森
 青い月がのぼる森は深く、あちこちで青衣の少女を見かけるでしょう。
 キャラクターたちに直接干渉してくるのは『耳元で囁く少女』だけで、こちらを観察したり何気なくついてくるものはあっても、なぜか触れることも直視することもできないのです。
 当然の警戒として、彼女たちが攻撃的になり自らの心身を脅かす可能性を考えるでしょう。
 しかし、なぜでしょう。
 少女たちはキャラクターたちに興味を示しこそすれ、なにもしてはこないのです。

 森の中には土と石が集まったゴーレムのようなものが徘徊しています。
 しかしどういう理由か、キャラクターたちに攻撃を仕掛けることはなく、まるで野生動物かなにかのように放置します。

・明日の依頼
 目が覚めた時、不思議な夢の話を集めているという好事家貴族から依頼され、夢の話を語って聞かせることになるでしょう。
 それが依頼報酬にあたり、夢そのものが経験値にあたります。

・体験
 キャラクターたちはシリンダーを探すなかで不思議な体験をするかもしれませんし、しないかもしれません。
 なにが影響しているのか、まだ誰も知らないのです。

【アドリブ度(注意)】
 シナリオの構造上キャラクターのアドリブ描写や設定に深く関わる描写が現われることがあるかもしれませんし、ないかもしれません。
 ですが仮に、プレイヤーのあなたがそういった部分に触れることを嫌がる場合は『アドリブNG』と書いて頂ければ関係する描写をカットしたりどうともとれるような工夫をとることができます。

【※※※※※※秘密の質問※※※※※※】
 これは秘密の質問です。
 PCの思考とは切り離す形でプレイングに記載してください。
 質問は一つだけです。

 『キャラクターが一番恐れているものはなんですか?』

  • ムーンライトララバイ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年06月19日 20時40分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

アート・パンクアシャシュ(p3p000146)
ストレンジャー
冬葵 D 悠凪(p3p000885)
氷晶の盾
桜葉 雪穂(p3p002391)
守り刀
浅木 礼久(p3p002524)
海賊淑女に愛をこめて
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
竜胆 碧(p3p004580)
叛逆の風
ロク(p3p005176)
クソ犬
パルファン(p3p005200)
艶香鳥
天宮 詩音(p3p005363)
エンド・モラトリアム
蓮乃 蛍(p3p005430)
鬼を宿す巫女

リプレイ

●青衣の少女とオルゴール
 ふるような星空の下。『ストレンジャー』アート・パンクアシャシュ(p3p000146)は薄めを開け、手にしたオルゴールの蓋を閉じた。
「不思議だけど、綺麗な場所だねえ。これほどの星空を見上げるのも、随分久しぶりだ。それとも、初めてなのかもしれない」
 目の奥には星のような若々しい輝きが残っている。彼最大の特徴であり、最大の武器である。
 枯れた目をしたアートがいれば、それは偽物だと思って良いほどだ。
「ほんとう。神秘的で素敵な場所ね~」
 日傘をさしてふわふわと浮かぶ『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)。
 彼女の手にもまた、同じようなオルゴールが握られていた。だがよく見れば、アートのものと色や材質が異なることがわかるだろう。
「夢の中をお散歩できるなんて、おばさんわくわくして血圧が上がっちゃいそうよ~」
「夢のような光景よねェ。あらやだアタシったら、そういえば夢だったわ。ふふっ」
 翼をゆっくりとはばたかせてホバリングする『艶香鳥』パルファン(p3p005200)。
 レストと顔を見合わせて『ねー』と首を傾げ合った。
 周りの景色もあいまって、この二人を見ていると微睡んできそうだ。
 『鬼を宿す巫女』蓮乃 蛍(p3p005430)がコホンと咳払いをした。
「こんな状況でなければずっと眺めていたいくらい、綺麗な場所なのですが……」
「そ、そうでありますなぁ。シリンダーを探さなければ」
 軽く肘を小突かれ、『守り刀』桜葉 雪穂(p3p002391)が背筋を伸ばした。
「ただ、探すと言っても当てはなし……」
「ですね。何かとっかかりでもあればいいのですが」
 そう言われて、『探索者』浅木 礼久(p3p002524)は眼鏡のブリッジを押した。
「『銀の鍵』というワードに聞き覚えは?」
「さあ、関係のあるワードなんですか?」
「いや、聞いてみただけだよ。うーんシリンダーねぇ。そんな小さいの見つかるかな」
 小さく唸る『叛逆の風』竜胆 碧(p3p004580)。
「実に摩訶不思議でありますが……何が目的なのでしょうね?」
 他者に促されるまま行動することにどうやら抵抗があるらしいが、そうしないわけにもいかないという状況にも納得はしているようだ。
 その足下で『脳内お花畑犬』ロク(p3p005176)が舌を出して小さくはねた。
「うーん、なんだかヘンな夢!! はやく起きて朝ごはん食べなきゃね!! ね!!」
 飼い犬が散歩を促すようであんまり悪い気はしないが、本人に言ったら怒られそうな話だ。
 皆は一旦協力しあうことにして、探索を始めた。
 歩き出す仲間たちからやや遅れて、『其の力は誰が為に』冬葵 D 悠凪(p3p000885)は振り返る。
 視界の端でスキップをしていた青衣の少女が、視界から消えた。
「なんででしょう……夢だから? 優しいようで、悲しいものを思い出すような……」
「シリンダーを探せば帰れる……いや、目覚めることができるのか。とはいえ、特に手がかりも何も無いこの状況で果たして見つかることが出来るのか……。……怖い場所だ。さっさと朝日を浴びたいものだ」
 『空虚なる■■』天宮 詩音(p3p005363)が先を促す。悠凪たちは、森や湖へと進んでいった。
 地面に刻まれた真新しい足跡。

●死して大いなる蓮より出でる様を君は泣いて見迎えるだろうか
 草原を青い蝶が飛んでいる。
 ハチドリが右上へ、左下へ、右下へ、左上へとんでゆく。
 光さす門のさきへゆく。
 水音のするほうへ。
 草を踏む靴底。
 放り出した足のつま先が触れたのは、金属の非常階段だった。
「生きたいか」
 非常階段を上る。
「名を書け」
 非常階段を登る。
「貴様は生きられる」
 非常階段を昇る。
「但し」
 非常階段を。
「――」
 暴風。
 コンクリートの縁に立つ。
 はるか眼下の人混みよ。
 眼下を飛び行く白い鳩よ。
 身体のかたむきよ。
 重力よ。
 あらがえぬこの世の全てよ。
 今ゆく。

 蛍は眼前を青衣の少女が横切ったことに気づき、はたと首を振った。
「何か、気づいたことでも?」
 アートが声をかけてくる。蛍は笑みを浮かべていいえと返した。
「それにしても、あまりにも手探りだ」
 オルゴールのシリンダーなどという、親指ほどの物体をこの広い森の中から探すのだという。
 アートの声にはどこかうんざりとしたトーンが混ざっていた。
(若い頃だったら、もう少しマシなことを思い付いたろうか。それとも、もっと無心に動けただろうか)
 何気なくむしった葉の青い葉緑体に、顕微鏡のように拡大された葉の筋に、若々しい男の姿が見えたように思う。
 失くした教え子、伝えられなかったこと。
(余計なことばかり思い出すな……)
 視界の端を青衣の少女がよぎっていく。
 遠い物語に溶け込むように、アートの視界はきらめきに沈んでいった。

(これは本当に夢なんだろうか? 何かの前兆だったりするのだろうか?)
 礼久は森の中をゆっくりと歩いていた。
(ここは俺の能力が適用されないようだ。それに……)
 礼久は視界の端々に映り込む青衣の少女に問いかけてみた。
 正体を尋ねたり、目的を尋ねたり、シリンダーのありかを尋ねたり。色々とやってみたが、こちらから何かアプローチしようとすれば青衣の少女は視界から消えてしまった。
 まるで触れようとすれば逃げる川魚のように。しばらくすればまた視界に映り込む。
(もし、消えていく夢の集合体的な存在とか、消えたくない夢の人格的な存在なら、俺のギフトの世界に住まわせてあげられるかもしれない。……悪いものじゃないならね)
 そんな風に思ってはみるが、語りかけることはおろか、触れることも直視することもできなかった。
 その理由も、まるで分からないままだ。
 暫くすると、木の幹に背を預ける詩音を見つけた。
 具合が悪そうだったので調子を尋ねてみると、詩音は『大丈夫だ』と言って首を振った。
「あまりよくない幻覚を見たらしい。美しい場所だと言っても、夢なんだな」
 早くここから帰りたい。
 詩音はため息のようにそう言った。

●鳥となりて羽ばたいたとて、飛び方を知らねばアスファルトに落ち行くか
 湖のほとり。アートはロープの端を持ってキャンプチェアに腰掛けていた。
 ロープが大きく引き、これはいけないと立ち上がると、つながった先を引き上げるようにたぐっていく。
 湖の水面を割り、碧とロクが顔を出した。
「中には落ちてなかったね! そっちは?」
「残念ながら……」
 碧は小さく首を振って、湖から地上へと出た。
 同じく這い上がり、ぷるぷると水を払うように身体をふるロク。
「この後、パルファンさんと一緒に森を探すんだ! 森をお散歩! 楽しそう!」
 ロクは前足ではねてみせた。
 この状況を嫌がっているのか楽しんでいるのか。
 どちらかは分からないがふと静かな湖の水面をみてしゅんとした。
「何か見つけたのか?」
 アートがそばによっていくと、ロクは振り返って口を開いた。
「なんにも! それよりお散歩しよう! お散歩! 楽しいよ! ね!」
 ロクは目をきらきらとさせると、一旦置いておいたオルゴールの箱を口にくわえようとした。
 するとどうだろう。箱がひとでに開き、音楽がなり始めた。
「これは……」
 シリンダーのないオルゴールが鳴るはずはない。碧が箱を覗き込むと、確かにそこにはシリンダーが入っていた。美しい音色を奏で、ロクはどこか懐かしそうに音楽に聴き入っている。
「いつのまに見つけたのでありますか」
「え、なあに? 聞こえない! それより朝ご飯食べなきゃ!」
 ロクは一度目を閉じると、青白い光に包まれて消えた。
 咄嗟に伸ばした碧の手は空振り、気づけばオルゴールもまた消えていた。
「一体、どういうことなのでしょう」
 碧は試しに自分のオルゴールを取り出し、箱を開いてみた。
 そこにはやはりシリンダーは入っていない。
「なぜ消えて……いや、むしろ、『いつ』シリンダーが入ったのでしょう。誰かが見つけて入れた?」
 碧が問いかけるようにアートの顔を見るが、アートは小さく首を振った。
「湖に入る前から見ていたが、誰も箱に触れていない。箱の中身が空だったことは、皆知っている通りだ。俺のオルゴールも同じように……」
 アートもまた懐からオルゴールを取り出し、箱を開く。
 開いて、大きく目を見開いた。
「なぜだ……」
 アートの箱から古い古い音楽が鳴る。
 音に目を瞑り、アートは理解したように立ち上がった。
「そうか。俺はもう、気づいていたのか。克服していたと、いうのか」
 きらりと星のように輝く目を前に向ける。
「分かったぞ。シリンダーのありかが。シリンダーは皆――」
 アートが、青白い光に包まれて消えた。

「あら、ロクちゃんはどこかしら」
 翼を羽ばたかせ、パルファンがゆっくりと降下してくる。
 碧はパルファンの顔をまじまじと観察したあと、オルゴールの箱を翳した。
「ロク殿はシリンダーを見つけて……恐らく、帰ったのであります。箱を開いてください。シリンダーはありますか?」
「それは……」
 パルファンは取り出したオルゴールの箱を開き、目を細めた。
 しばらくしてから、閉じる。
「入ってないわねェ」
 困ったように首を振る。
「アタシ、早く現実に帰りたいわ。現実感がないのに、他の仲間達の存在が強くて頭が混乱しちゃうの。まるで水に垂らした墨みたいよ、いずれは一緒になって、どっちが本当かわからなくなっちゃうの」
 アタシたちもさっさと探して帰りましょ?
 パルファンはそう言って、再び空へと飛び上がった。
「もう一度空から探してみるから。見つけたら教えてね」

●ささやきは教えている
『シリンダーはあるよ』
『シリンダーはあるよ』
『ここにあるよ』
 耳元で囁く少女の声に、雪穂は疲れたように首を振った。
「先程から嘘ばかりであります。探しても探してもシリンダーなんて……」
「そうね~。けれど……」
 足下の草をかき分けていたレストが、背伸びをするように立ち上がった。
 いくらかの木々を挟んだ向こうを、ゴーレムがゆっくりと横切っていく。その肩に、腕に、青衣の少女が腰掛けたりぶら下がったりしていた。
 やはり目で追えば消えてしまうのだが、ゴーレムは変わらずそこにあった。手を振ってみるが、こちらに興味がないかのように通り過ぎていく。
「襲ってこないし、優しい子なのかしら~?」
「少なくとも、敵ではなさそうなのであります」
 うーんといって背伸びをする雪穂。
 いつまでも草をかき分けるのに疲れたのか、赤い一人がけのソファに腰掛けた。なにか話題を、と上向く。
「一緒にいたアート殿、あの方と面識はありますか?」
「あら、どうして?」
「少し気になるのであります」
「あら~」
 レストは頬に手を当ててにんまりとした。
 そういう意味じゃ無く、と両手をふる雪穂。
「ほかにも蓮乃殿、浅木殿、天宮殿……もといた世界の話が聞きたいのであります」
「『日本』のことかしら」
 レストはいつのまにか二人がけになっていたソファに腰掛け、ティーポットを手に取った。雪穂と自分のぶんを、カップに注いでいく。
「不思議ね~。全然違う場所の筈なのに、似た場所から来た人たちが沢山いるなんて」
「偶然かもしれませんが」
 ティーカップを手に取り、表面の湯気を吹く雪穂。
「折角、生き残ったのでありますから」
 湯気の向こうに見知った光景があった。
 床。
 壁。
 鉄の臭い。
 亡骸。魂の抜けた人間だったもの。見知った顔の息絶えたさま。
 風に湯気が消え、雪穂は呼吸の止まっていたことを自覚した。
 ティースプーンの表面に映った青衣の少女が、『もう大丈夫だよ』と囁いたように思えた。
 同じささやきを、レストは角砂糖の瓶に見た。
 カフェテーブルに二つ並んだオルゴールの箱。
 それらがひとりでに開き、同時に音を鳴らし始めた。
 レストにとってとても懐かしい音楽が。
 雪穂にとってとても懐かしい音楽が。
 それぞれの耳にだけ聞こえた。
「あら、そんなところにあったのね~」
「はい……自分たちは、知っていたはずなのに」
 オルゴールに手を伸ばす。
 二人は青白い光に包まれ、消えた。

 パルファンは空を飛んでいる。
 星々の中を潜るかのように、きらめく海を泳ぐかのように、広げた翼で滑空していく。
 星々の輝きの合間に、家族の顔が見えた気がした。
 いや、すこし違う。
 姿は見えたのに、顔もその表情もぼんやりと曇ってわからなかった。
 何かを喋っているように見えるのに、まるで水の底にあるかのようにぼやけて聞こえない。
 パルファンは目を閉じ、オルゴールの箱を強く握りしめた。
 開かぬように。
 見えぬように。
 聞こえぬように。

 礼久や詩音、蛍たちは未だ森を探索している。
 彼らとは別行動をとっていた悠凪は、思うようにシリンダーを探して歩いていた。
 続く石畳。
 並ぶ家々。窓が割れ炎が上がる町。
 悠凪はシリンダーを探し、郵便ポストやゴミ箱の蓋を開いていた。
『何か出来たはず』
 郵便ポストのさきにある無限の暗闇から、自分の声がした。
『もっとやれたはず』
 ゴミ箱の底にひろがる無限の水底から、自分の声がした。
『わかっていたはずなのに』
 割れた窓の先。燃える炎のむこう。
 真っ赤に焼けた空のすべてから、自分の声がした。
 シリンダーは見つからない。
 あるのは分かっている筈なのに。
 あるのは知っている筈なのに。
 気づいている筈なのに。
 耳元で、自分のものではないささやき声があった。
『ここにあるよ』
 瞬きをする。
 目を開けば、青い森と湖があった。
 悠凪はオルゴールの箱を取り出し、開く。
 シリンダーは、そこにすっぽりと収まっていた。
「……そう、でしたね」
 音楽が聞こえる。ずっとずっと昔から知っていた音楽が聞こえる。
「『するべき行動』は、本当ははじめから分かっていた筈。あとは、直視するだけ」
 再び目を閉じた悠凪は、小鳥の声で目を覚ました。
 ――そこは、自分のベッドの上だった。

●夢を知るもの
 後日。10人はひとつところへ集まった。
 互いに同じ夢をみたことを話すためだ。
 シリンダーを見つけ、目を覚ました者。見つけられはしなかったが、やがて自然と目を覚ました者。
 状況は様々だったが、所々でぼんやりとしていて要領を得ず、夢らしい曖昧さで語られた。
 この話は不思議な夢の話を集めているという好事家貴族の耳にはいり、語って聞かせることになるのだが……その内容は、知っての通りである。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――welcome home
 ――good morning

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