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シナリオ詳細

【狂音カルナヴァル】氷雪の胃袋

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あの日
 フロストブルクに襲われたガーベラ・キルロード(p3p006172)たち。
 命を賭し、力の限りを尽くしてどうにかこれを退けたイレギュラーズは、ほっと肩の力を抜いた。……その姿を見られていたとも知らずに。
「なんだい不服だこの僕が、祭りに乗り遅れるなんて」
 その涼やかな青緑の影はフロストベルクのかけらを拾うと、闇へ溶けていった。

●キルロード家にて
 今日もキルロード農園は快晴だ。
「さあ、太陽の恵みは大地の恵み! 今日もがんばりますわよ! オーホッホッホッホッホ!」
 くわを担いで元気よく高笑いするガーベラ、言葉の通り農園で一働きするつもりだ。領主である自分は誰よりも率先して働かねばならない。それがノブレス・オブリージュ、キルロード家の家訓だ。そんな彼女を慕うものは多い。今も高笑いを聞いた農夫が相好を崩し、帽子をとって挨拶をしたところだ。
「今日は種まきの続きをいたしますわ。春は芽吹きの季節。掘ったぶんだけいい味になりますの!」
 彼女は農夫たちと力を合わせながら、広い畑へ手作業で種を撒いていく。もちろんただぶん投げるわけではない。きちんと穴を掘り、その奥へ埋め、土をかける。気が遠くなりそうな作業だ。けれどもガーベラはそのひとつひとつを丁寧に行っていく。
「これが終わったらお隣さんのお手伝いに行かねばなりませんわね」
 その時、蹄の音を響かせ栗毛の馬が駆け寄ってきた。
「お嬢様!」
「あらどうしましたの、花」
「お伝えしたい件がございます、お屋敷までお戻りください」

 キルロード家第15代当主、ハルト・キルロードは難しい顔で椅子に座りこんでいた。眉のあたりを時折触るのは、熟考している時の彼の癖だ。
「お兄様、なにがありましたの?」
「おお、マイシスター。戻ったか」
 普段は満面の笑みを浮かべるところだが、いまはその整った顔立ちは緊張に覆われている。
「フェスタが出た」
 その一言でガーベラはことの重大さを飲み込んだ。
 魔女フェスタ・フラウト、ガーベラ家の暗部、暗殺組織「キリングロード」の「助っ人」枠『だった』。
「フェスタが氷の力をもちいて、キリングロードの詰め所を襲撃している」
「そんな、彼らこそみずから汚れ役を買い、影に日向に私たちを支えてくれる領民の鏡ですわ!」
「ああそうだ。彼らの活動なしに現在のキルロード家はない。外部で活動しているものは花が無事を保証してくれている、だが詰め所にいた者は……」
「お兄様、弱気にならないでくださいまし。フェスタなど私が退けてみせますわ」
 そういうとガーベラはきつい眼差しで空を睨んだ。


 キリングロード詰め所地下闘技場。暗殺集団へ所属する者が日夜研鑽を積む場所だ。
 だがそこは冷凍庫のようだった。
 床は凍りつき、天井からはつららが落ちてくる。放っておけばイレギュラーズと言えど凍死してしまうだろう。そんな環境で、なお暗殺者たちは殴り合っていた。血しぶきが飛ぶのは、自分の意志ではない。すべては中央に浮かぶ影のせい。
 中空には淡い青緑の姿があった。笛を利き手にもち、見えないソファへ深々と座りこみながらフェスタは暗殺者たちを煽る。
「ほらほらさあさあ皆がんばって、右から左もずずいとな。同志の味はいかがかな。狂音スコアを奏でたならば、君らの行き先腹の中だぜ!」
 フェスタの周囲にはフロストブルクの死骸から精製した四体の氷の精霊が舞い踊っている。その氷たちがりいりいと不快な音を出すたびに、暗殺者達は苦悶の声を上げ、毒の混じった短刀で互いに傷つけ合う。くわえてこの寒さ、倒れるのは時間の問題だった。
「フェスタ!」
 地下闘技場の扉をガーベラが開け放った。
「よくも私の領民たちを!」
「おやまあ待ってたうれしいちゃんだね。元気が良すぎて花丸グッド! にしても憤慨、この僕を祭りに呼んでくれないなんて。くやしさ千万いとしさ算段、僕ね、『ファストナハト』っていう新しい遊び場を作ったんだぜ! だから伝言、つたえてみんな、と思ってたら本人が来てくれて胸が高鳴るよ!」
 ついとフェスタが見えないソファから飛び降りる。一気に室内の温度が下がった。
 あまりの寒さに歯の根をガチガチ慣らしながらガーベラは武器を手に取った。暗殺者たちがこちらへ向かってくる。緩慢な動きはまるで白いゾンビのようだ。
(誰が生きていて誰が死んでいますの? わかりませんわ!)
「あはあは逡巡、ガーベラちゃんらしいや! なんとかしてみんなを生かして帰そうと思ってるね、悪いけど諦めたほうがよくない? なにせいまから敵も味方もわからない猛吹雪の中で戦うんだぜ!」
 フェスタが笛へ口をつける。りいりいと言う音が大きくなり、視界を白が埋め尽くす。ほんのりと笛の音が聞こえてきた。それから雪を踏む複数の足音も。
「フェスタ! あなたが何を企もうと、私は絶対に折れませんわ! キルロード家の長女として、『ノブレス・オブリージュ』を果たすのみ!」
 ガーベラは吠えた。真実、心からそう信じて。

GMコメント

猛吹雪の中、魔女フェスタを退けよう。

ご指名ありがとうございました。わーいフェスタちゃんだー。お茶会をしたいところですが、今日の所はおかえり願いましょう。

やること
1)氷の精霊4体の殲滅
2)暗殺者6人の半数以上の生存
3)魔女フェスタの撃退(最大20T後に退きます・この場合失敗扱いになります)

●エネミー
魔女フェスタ・フラウト
 ガーベラの「おともだち」で、魔種並に強い魔女です
 すべてのステータスがバランスよく高く強敵です
 詳細不明

氷の精霊 4体
 バスケットボールくらいの大きさの氷の精霊です
 EXA・命中・回避が非常に高く全レンジへ神単攻撃を行ってきます
 精霊を殲滅すると猛吹雪がやみます

暗殺者 6人
 キルロード家の暗部である暗殺組織「キリングロード」のアサシンです
 今は猛吹雪により、HPが高い以外は、一般人ていどの能力しか持っていません
 ただ致死毒による至近扇状の攻撃には注意してください
 また6T以上たつと、ランダムでひとりずつ即死していきます

●戦場
半径25mの円形リングです
猛吹雪に包まれており、至近距離までしか視界が届きません
しかし以下のものは聞こえます
・フェスタの笛の音
・りいりいという氷の精霊の音
・ゆっくりと歩く暗殺者たちの足音
開始時の彼我距離は10mです

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 【狂音カルナヴァル】氷雪の胃袋完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年05月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ガーベラ・キルロード(p3p006172)
noblesse oblige
※参加確定済み※
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
イザカ・VⅢ・モリス(p3p009602)
改造人類
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇
ハク(p3p009806)
魔眼王

リプレイ


 すさまじい吹雪だ。隣に立っている仲間の姿も見えない。
 だが心配はいらない、『魔女見習い』ハク(p3p009806)を筆頭に皆探索の術を持っている。
「うー、体が凍りつきそうです。けどけど、くじけるわけにはいかないのです」
「ええ、ものすごい吹雪と寒さですね。魂の奥から、凍えてしまいそうです」
『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)も相槌を打つ。
 雪によって埋め尽くされた視界をハクはにらみつける。
「今回の相手はお師様と同じ魔女と聞いてやってきたのですが、あの言動……絶対に悪い人に決まってるのです! それ以上に助けられる人がいるなら助けるのが『魔女』なのです! だからハクは魔女見習いとして出来る限りのことをするのです!」
「貴方の心の炎に手をかざしたい思いです。私が凍えてしまう前に、その炎を分けてもらいましょう」
 サルヴェナーズはハクに触れ、小さな口元をゆるやかに笑みの形にした。
「魔女、悪しき魔女よ。けして消えることなき熱の前に下がりゆきなさい」
「言いたい放題やりたい放題、するもされるもOKOK、結構毛だらけ、だってそれが僕なんだぜ!」
 フェスタの高笑いが聞こえてくる。
「さあ、リングインだ」
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)が白いスーツを強風にはためかせながら地下闘技場へ一歩踏み出す。
「久しぶりだなフェスタ。この間はまんまと遊ばれたが、今回はそうもいかねえぞ」
「やあやあ元気か、負けず嫌いのオオカミくん。あの森での追いかけっこは楽しかったねえ。僕は今でもあの日を思い出すと高ぶるぜ!」
「はっ、そいつはどうも。キルロード家となにやら因縁がありそうだが、俺は俺の仕事をさせてもらうぜ、暗殺者を救うしフェスタもぶっ倒す」
 前髪についた雪を払い除けながらジェイクは武者震いをする。心の熱さは誰にも負けない。彼の心にはいつでも帰りを待つ妻が燃えている。
「フェスタよ! その舐め腐った笑顔を恐怖と苦悶で歪ませてやるぜ!」
「あははは最高! 殺意高いね、いいよいいねえ、全力全壊かかっておいでよ!」
「フェスタ……! 貴女という人は!」
 ぎしりと歯を噛みしめる『noblesse oblige』ガーベラ・キルロード(p3p006172)。美しい戦装束を白に染めて、なお凛と立っている。
「……キルロード家に仇なすだけでなく、我が領民までいたずらに傷つけるその所業! 決して許しませんわ! ですが……その前に我が領民達を……忠を尽くしてくれる彼らを助けず、何が『ノブレス・オブリージュ』ですか! 絶対助けますわ! 力を貸してくださいまし、皆様!」
「ああ、かまわない。道すがらみたが良い領地だった。俺で良ければ力添えをしよう」
『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が口元を隠して言う。
(寒い。危険な温度だ。早めにかたをつけなけりゃ、俺たちまで氷像と化しそうだな)
 冷静に場を分析し、静かに殺意を高めていく。黄金の瞳に映るのは白い壁だが、その奥にいる存在が手にとるようにわかる。
「おい、酒蔵の聖女。後ろにいてくれよ。間違って切りたくないから、戦闘中に飛び込んでくるなよ? 報酬はこれが終わってからな」
「また支払い忘れたらお仕置きっすわぁ……」
「それはない。たぶん」
 かるいやりとりをするその後ろで、雪混じりの強風にあおられ、『闇之雲』武器商人(p3p001107)のロングチェスターコートがはためく。だがその姿は白をまとっていない。まるで雪のほうが避けているかのようだ。犬が毒物をよけるように、精霊が暗闇を嫌うように。そのものがもつ圧倒的な闇は、かすかに足元へあふれ出てこの吹雪の中でも丸い影を成している。小さな笑い声とともに。
「ヒヒヒ……先駆けの夜、といったところかね。やれやれ、我(アタシ)も放任主義に関しては人のことは言えぬ身だ。かの大魔女には今度告げ口しておくとして、とりあえずはこの惨状を収めるとしようかね」
 踏み出したその足元から雪を踏む硬い音が響く。それすらも風にさらわれていく。
「既に雪がつもりかけているようだな」
『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)がうそぶいた。ちりんと氷鈴が鳴る。同士討ちの心配はないだろう。彼はフェスタの笛の音の位置と勇ましく立つガーベラとを見比べ、肩をすくめた。
「招かれざる客。といったところか? あいにく、俺は両人の関係は知らん。ただ……」
 拳を握り、覇気を込める。
「無事を願うものが居るなら、それを叶えるのが俺の仕事だ。見捨てるのも、目覚めが悪い。それに俺は海洋生まれ、寒いのは嫌いな質でな!」
「おや、奇遇ですね」
『改造人類』イザカ・VⅢ・モリス(p3p009602)がテンペスターへまたがった。
「俺も寒いのは苦手でしてね、こうもひどい吹雪の中で戦うのが憂鬱ですよ」
 とてもそうは思えない調子で、軽口を叩きながらイザカは透視した先を見やる。そこにはフェスタがいた。視線があうとにいと微笑まれる。イザカも負けずに口の端を吊り上げる。
「こんにちは美人さん。魔女、とは貴女のことでしょうか? 俺が言えたことじゃありませんが貴女からは正道から外れた者の匂いがします。とても濃い、俺と同じ『ひとでなし』の匂いが」
「ひとでなしとはいい褒め言葉だ。花丸あげよう、この僕が」
「まあ、依頼ですのでここで果てていただきますね? そうでしょう、ジョージ?」
「ああ、手早く終わらせてやろう!」
『擬似内骨格及び外甲殻形成完了、擬似神経…接続 VⅢ、活動開始(ACT ON)!!』
 横殴りの吹雪の中、バイクの排気音が吠えた。


 雪をかき分け、テンペスターが走っていく。いの一番に飛び出したVⅢは矢のように氷の精霊へ突進していく。りいりいと不快な音が耳を殴るがVⅢはものともしない。ただ疾走する、その勢いのままに精霊へ衝突、寸前、テンペスターがターンして回避した。座席にVⅢの姿はない。彼の姿は上空、ぎりぎり天井近く。インパクトの直前に跳躍したのだ。
「VⅢ反転マッハキック!」
 精霊を踏みつけるように直撃。ガシャンと音を立てて精霊の一部が欠ける。不快な音が抗議するように強く鳴った。VⅢは精霊を足場にまたも大ジャンプ、一回転からの姿勢制御でより強く精霊を踏み抜く。
 りいいいいいいいいいい!
 精霊が断末魔をあげた。内側からヒビが入り、砕けていく。VⅢはさらに空を切り、戻ってきたテンペスターの上へまたがった。鮮やかな連携はまるで主人と猟犬のようだ。生体部品で作られたテンペスターが主人の意に反することはない。VⅢのほうもテンペスターを信頼していた。
「あと3体、この調子なら早く片付きそうですね。厄介なのは暗殺者でしょうか」
 テンペスターを操り、助走をつけるためいったん引くVⅢ。
 透視の瞳の向こうでフェスタがひきつるように笑った。
「せっかくおやおや作ったコなのに、こうもあっさり壊されちゃたまらないねえ、僕君ちゃん?」
 VⅢが言い返そうと口を開く、その肩をぽんと叩かれた。
「アレの相手は我(アタシ)に任せておきなよ。口車に乗せられるとろくなことがない、そういう手合いさ」
 武器商人はもういちどVⅢの肩を叩くと前へ進み出た。
「やあ久しぶりだね。こちらの旦那を覚えているかい?」
 フェスタは右反面でしかめツラを、左反面で皮肉な笑顔を器用に作ってみせた。
「忘れやしないよジェイク君に、ええ面憎い商人ナマモノ、今日は何を売りに来た? 土砂降りかい、谷底かい、悲鳴かい目眩かい? それなら僕の専売特許」
 フェスタが大きく笛を鳴らした。
 氷の精がつららを発射する。
「喧嘩を売るつもりが売られたのはどっちだろうな、フェスタ?」
 しかし氷の精霊が放ったつららを、ジェイクが次々と撃ち落としていく。
 ハイランクのイレギュラーズでも人によっては難しい動き、それをジェイクは並外れた命中率で可能にしていた。
「商人! そのまままっすぐ行け! 俺が援護する!」
「ありがたいねえ、ヒヒ」
 ゆらりゆらりと2重の冠をその身に巡らせ、武器商人はフェスタのもとまで悠々と歩いていく。過酷な吹雪もソレにとっては涼風のようだ。仰ぎ見よ、その偉容を、礼賛せよ、その異様を。
「たとえこの目が見えずとも、その愉悦は我(アタシ)にゃよくわかる。さて。前座を楽しんでもらおうとしようか、狂音の魔女」
 ある一点を越えた時、武器商人の足元の影がぼこぼこと沸き立った。そのまま前へ前へ、影がずるりと伸びてフェスタの足元へ巻き付く。フェスタはそれを振り払った。
「なァに、大して時間はかからんだろうよ。絶望の干渉の片手間に我(アタシ)と遊ぶことなど容易かろ? ヒヒヒヒヒ……!」
「それそれそれだよ商人め、まったくもって食えないやつだよ。断頭の魔女めによく言っておいて、僕は僕の遊び場を作ったってね!」
「あァあァ、ちゃァんと言っておくとも。尻百叩きにしといてくれって。小さなかわいい旋律の魔女、キミの本当の姿を見せてくれたっていいんだよ?」
「あいにくごめんだペテン師め! ライヘンバッハの滝へ沈めよ!」
 フェスタが笛をかき鳴らす。氷の精霊の合間にのそのそと暗殺者が這い出してくる。這う、その響きが似つかわしいほど動作は緩慢で、彼らに限界が近いのが見て取れた。
「チッ! 急がねえと死んじまうな。フェスタ、おめえの相手は後の楽しみにとっておいてやる!」
 ジェイクは両手をクロスさせ、狼牙と餓狼の銃身を重ねた。凶銃の殺気を啜りとっていく狼牙。冷たい弾丸へ類まれな殺意が流れ込んでいく。頂点へ達した時、ジェイクはクロスをほどき、踏み出すと同時に狼牙を一発、コンマ遅れて餓狼で追撃。狼牙から発せられた黒い奔流の中、一筋の流星のように餓狼の弾丸が。魔王の怒りを思わせる連撃が、すさまじい勢いで氷の精霊へ襲いかかり、食いつぶす。
 ガシャン。またひとつ割れて消えゆく精霊。室内の猛吹雪がすこしだけ軽くなる。腐ったなめくじのようだった暗殺者たちの動きがわずかに回復するのをジェイクは見て取った。
「死んでもらっても困るが、ピンピンされるのも困る、まったく厄介だぜ」
「おまかせあれ」
 サルヴェナーズが立ちはだかる。
「例え視界が通らなくても、貴方がたは逃しません。ここを通るというのであれば、私を倒してからにして下さい」
 暗殺者たちがのたのたとサルヴェナーズへ向かっていく。砂漠の蛇の毒牙を恐れたのであろうか。悪夢から来る恐れと不安に手足を縛られたかのように暗殺者達は歪な動きをする。
 サルヴェナーズの美しい灰色の髪が旗のように戦場へひるがえる。その細い肢体めがけてナイフが振り下ろされた。ばっと飛び散るのは血ではなく蛇蝎に羽虫、ナイフを持つ手に食らいつきじわじわと広がっていく。
「あ、があ、あ……」
 かろうじて残っていた意識でその暗殺者は悲鳴を上げた。
(すまないと謝るのは簡単です。ですが、ここは戦場、決着が付くまで私も引くわけにはいきません。……でも、どうか死なないで)
 サルヴェナーズは物憂げに隠した瞳で暗殺者を見つめる。一瞬だけ心が通じ合った気がした。かつて聖なる石、いまや災厄の魔石と呼ばれる、その輝きを宿したまなこに。暗殺者はさらに苦しみ、自分で自分を心の臓を貫こうとした。
「気をたしかに持つのです!」
 ガーベラが割って入った。
「あなた様こそ領民の鑑。誇りを忘れてはなりません! どんな悪事も、汚れ仕事も、領民の豊かな暮らしと笑顔のため……! 思い出しなさい宣誓の言葉を!」
 その暗殺者の目にかすかに光が灯った。
 ――我らはキリングロード、災禍払う最下の者なり。我らはキリングロード、真心から人でなしの者なり。我らはキリングロード、罵詈雑言こそ本懐なり。
「……お、じょう、さま……」
「ええ、私ですわ。助けに参りましたのよ。すこしの間お眠りなさい」
 ガーベラは温かく微笑んだ、凍りつきそうな心を溶かしていく笑みだ。優しく、頼もしく、ガーベラは微笑んでみせる。そしてそのまま大外刈りで暗殺者を組み伏せ、背後から首を締め上げる。ものの数秒もしないうちに暗殺者は気絶した。
 じったりと動き続ける暗殺者へ、ハクが鋭利なまなざしを向ける。
「吹雪で視界が見えない? 舐めるなです。位置さえ把握していれば魔眼は発動できるです!」
 高らかに叫び、断罪の魔眼を発動させる。多大すぎる威力を調整するため、ハクは片目を隠す。それでもハクの目を見た暗殺者が次々と苦悶の声を上げる。
「輝く魔眼は神子の証! 夜明けの神よ、我が命に答え、その威光を顕し給え!」
 脳に直接作用する魔眼の光がきらめきとなってハクの瞳からこぼれ落ちる。涙のように。きらきらと輝きながら垂れ落ちる涙は吹雪にさらわれてハクの影を彩った。美しい眺めだが、それはハクの命を削っているに等しい。頭がずんと重くなる。それでもハクは負けずに立ち続けた。
「そろそろ暗殺者が吹雪に耐えられなくなる頃合いだ」
 戦場全域を見渡していたジョージが焦りをあらわにする。ハクによって傷つけられた暗殺者へ猛然と近寄り、ストレートからの慈悲の一撃を叩き込む。
「アンタは何も悪くないが、すまんな。こっちとしてもアンタには生きていてほしいんでね」
 気絶した暗殺者へは目もくれず、次の標的へ。今は時間が惜しい。
「アーマデル、そっちは任せた!」
「了解」
 金の瞳の元アサシンが吹雪の中走る。ホワイトアウトしそうな視界の中でも、サルヴェナーズの周りへ集まった暗殺者の生の鼓動はよく聞こえる。くわえてそこへはハクが断罪の魔眼を打ち込み続けている。英霊が彼の背後へ現れる。アーマデルへ憑く亡者のように。髪はざんばら、頬はコケて、目は落ちくぼみ、かつての偉大な面影はどこにもない。だがアーマデルが不殺の一撃を放った瞬間、その姿は全盛期のものへと変わった。美しく生まれ変わった英霊がアーマデルへ手を添え、技の威力を強化する。
 ジョージの方も負けてはいない。次々と暗殺者を倒し、身柄を確保する。
「っ! ……間に合わなかったか」
 ジョージはその暗殺者を抱きしめ、未練を断ち切るように後ろへ放る。ひとりだけ、間に合わなかった。だがしかしジョージは、ひとりで済んだなどと言える性格ではない。後悔は怒りに変わり、ジョージが氷の精霊へそれをぶつけた。
 任が解けたサルヴェナーズが、暗殺者たちをリングから避難させていく。事前に用意していた毛布でくるみ、仮の寝床を作ってやる。氷の精霊はすべて片付けられ、暗殺者たちも救助され、静かになった地下闘技場にはフェスタだけがいた。


「行くぜフェスタ!」
 ジェイクが黒顎魔王を放つ。直撃したと思った瞬間、フェスタは数多の楽譜となって身をかわした。しかし再び姿を現した時には、痛そうに肩を押さえている。
「ノーダメージとはいかなかったか? 当然だ、ガンマンを相手にそれだけで済んでありがたいと思え!」
「あいてて、やるねえお見事だ、この僕に褒められたんだから自信持っていいぜ?」
「笛も吹けなくなった体でよく言う! 今度の遊戯も俺たちの勝ちだ!」
 イレギュラーズたちが次々と攻撃をしていく。そのたびにフェスタは楽譜に身を変える。だが無傷はとはいかないようで、顕現するたびに傷が増えていく。
「あれあれもしかしてこれピンチってやつ? この僕がここまで追い込まれるなんて思わなかったぜ! さすがイレギュラーズ、僕の心を高ぶらせる! ガーベラちゃん、ガーベラちゃん、にらめっこしましょう、笑ったら負けよ、あっぷっぷ!」
「貴女と遊んではいられませんわ。例え貴女が何を企もうと私は立ち向かい、阻止しましょう。それが……かつて貴女の「おともだち」だった私の務めですわ」
「フェスタ様はハクの優しいお師様と同郷のの魔女だと聞いてるのです……なのにどうしてこんな酷い事が出来るのですか!」
「ひどいことなんてしてないだろ。ちょっと遊んだだけだぜ、人聞き悪いねふふふのふ」
「だがお帰り願おうか」
 ジョージが肉薄する。瞬天三段が入った途端、フェスタはバラバラの楽譜になり、地に落ちた。
 次の瞬間、楽譜は消え去り、フェスタがジェイクの背後を取っていた。ねっとりした声で耳元へ話しかける。
「僕ねぇ、君のことが気に入っちゃったよ。また遊んでくれると嬉しいなぁ」
 ジェイクは返事の代わりに振り向きざまに鉛玉を打ち込んだ。またバラバラになったフェスタが、今度はVⅢの前に現れる。
「君もねぇ、殺意高くてすごく良かったよ。ついよがっちゃったなぁ。実に良かった」
『生憎と、ここが貴女の行き止まり(デッドエンド)です』
 ぺろりと舌なめずりをするフェスタへVⅢは問答無用でマッハキックを入れる。ケタケタと笑い声が地下闘技場へ響いた。
「ここらでいったんお別れしよう。なに悲しむなよ。さよならって三回いっちゃうぜ?」
 楽譜は散り散りになりやがて空へ解けていった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

フェスタを見事撃退。暗殺者5人を救出しました。

それでは、またのご利用をお待ちしております。

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