グラマラスでキャンピングな一時を

オープニング

●依頼人のお嬢様
「お前が母様の家来ね？」
　ローレットを訪れた10歳女児――高貴な身分を感じさせる身なりの少女は、【強欲情報屋】マギト・カーマイン (p3n000209)に声をかけた。
「はい？」
　「どちら様？」と言いたげなマギトに向かって、少女は不遜な態度で言い放つ。
「私はヴィオラ・ウィルタレットの娘、ルビアよ。私からの依頼を引き受けなさい」
　『ウィルタレット』という姓には聞き覚えがあった。マギトが情報屋としてつながりを持っている貴族の家の１つだった。その娘が何のつもりで来たのかとマギトは訝しんだが、ひとまず営業スマイルでルビアに対応する。
「野営――キャンプというものをしてみたいの。私のために適当な従者を見繕ってちょうだい」
　依頼の目的を伝えるルビアに対し、マギトは更に言い知れぬ不審感を抱いた。
「キャンプ……ですか？　ウィルタレット家のお付きの方は御同行されないのですか？」
　マギトの質問に対し、「そ、そんなことは私の勝手でしょ！」と、ルビアはどこかむきになって答えた。
「一応、信頼できる連中は集めますが……お母様は、この事はご承知なんですか？」
　マギトの追及を受けて、ルビアは「うるさいわね！」と立腹する様子を見せた。
「引き受けないって言うなら、母様とお前が不適切な関係だって言い触らすわよ？！」
　ルビアの横柄な態度に辟易しつつも、マギトはその場を取り繕おうとする。
「勘弁してくださいよ、俺は（お貴族様の金が好きなだけであって）奥様には興味ないんで……」
　その発言が、余計にルビアの怒りを煽った。
「なによ？！　私の母様には魅力を感じられないって言うの？！」
　そんなルビアの反応に対し、「めんどくせー」という言葉をマギトはなんとか飲み込んだ。
　煮え切らない態度を見せるマギトだったが、ルビアから突き出されたものを見て、瞬時に目の色を変えた。
　巾着にぎっしり詰まった硬化を受け取ったマギトは「はい、喜んでーーー！！！！」と小躍りしそうな勢いで、依頼の内容をまとめ始めた。

●キャンプをしよう！
「どうです？　わがまま娘――じゃねえや、貴族のお嬢様のキャンプ体験を手伝うだけの簡単なお仕事ですよ？」
　本音をもらしつつ、胡散臭そうな笑顔を向けてくるマギト。
　ウィルタレット家のひとり娘――ルビアのためにキャンプの準備を手伝い、現地での安全を確保することが主な目的である。
「補足としてお伝えしときますが――ルビア嬢の家庭周りは、まあまあ複雑ですね」
　『複雑』とは――何を意味するのか尋ねれば、マギトはウィルタレット家の内情について語り始めた。
「ルビア嬢の父親は、2年ほど前に不慮の事故で亡くなっていてね……今はその奥様が、ウィルタレット家の当主を務めているという訳です」
　当主として多忙な日々を送る余り、娘との時間を疎かにしがちになる――というのは想像できなくもない。
「――というウィルタレット家を更に複雑にしているのが、騎士団長の1人の『アズール』という男でね」
　ウィルタレット家の現当主――ヴィオラは、良き相談相手としてアズールと懇意にしているという。
「アズールの評判は領内でも上の上、しかも騎士としての腕も立つ――こいつは再婚秒読みか？　と噂されている御二人ですが、ルビア嬢はどう思っているのでしょうねぇ？」
　そこまで説明したものの、「まあ、余計な地雷は踏み抜かないようにお願いしますよ？」とマギトは念押しした。

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第1章

第1章 第1節

　依頼人のルビア共々、一同は王都の賑やかな商店街に訪れた。豊富な店の数と品物の種類を誇る商店街――ここであれば、充分にキャンプの道具をそろえられるだろう。
「それで、何から準備すればいいのよ？」
　ルビアはイレギュラーズの面々の顔を眺めて尋ねた。
　貴族のルビアはやたらとイレギュラーズのことを見下し、ふてぶてしい態度でキャンプのための買い出しを進めるよう促した。
「この私がわざわざ庶民の生活を体験したいって言ってるんだから、従僕のあんたたちの不手際で、台無しになるような真似しないでよ？」

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第1章 第2節

　つんけんした態度を取るルビアだったが、『花嫁キャノン』澄恋（p3p009412）はにこやかに対応する。
「――まずですね、ルビア様。きゃんぷってお家でない場所で生活することになりますから、それはそれは沢山道具を持っていかないといけないのです」
　キャンプで必要となる基本的な道具について説明する澄恋の横で、『最期に映した男』キドー（p3p000244）はどこか渋い表情をしていた。
　――んーキャンプ……ねえ。こいつはアレかねェ……。
　キドーはルビアの家庭環境からあることを推察していた。
　――あのぐらいの難しいお年頃にありがちなアレよ。家出よ。
　ルビアは商人に声をかけ、キャンプ道具がそろった一角をイレギュラーズと共に物色する。品物を眺めながら、キドーはキャラバンに属して旅をしていた頃のことを思い返していた。
　――旅の途中で野宿することはあったが、野宿自体が目的ってのは初めてかもな。
　澄恋の話に関心を寄せていたルビアは、
「ふ～ん……いろいろそろえる必要があるのね。じゃあ、それを全部買うわ。お金の心配なら無用よ」
　ルビアは貴族の令嬢の財力を見せつけ、ランタンやテント、調理道具など、次々と品物を購入していく。
　キャンプの費用はすべてルビアが持つという流れに、キドーはひとりほくそ笑む。
　ガキのお守りなんて御免だなんて思ってたけど――。
「――うめえ依頼じゃねェかよ！」
　心の声が漏れ出たキドーに、訝しむルビアの視線が向けられたが、キドーは咳払いをしてごまかした。
「こちらの商品はいかがですか？」
　そう言って、商人はルビアに寝袋を勧めてきた。
「練達の職人が特別な技術で作った寝袋ですよ。雲の上にいるような心地で、ぐっすり眠れること間違いなしです」
　高級羽毛寝袋を値踏みしているルビアに向けて、キドーは「こういうのはケチらない方がいいぜ」とそそのかす――助言し、人数分の高級寝袋が手に入る流れとなった。
「荷物運びならお任せください！」
　澄恋はロバ型のロボットやドローンを駆使し、大量のキャンプ道具を運ぶ役目を買って出る。
　「か、変わったロバね……」と、ルビアはロボットのメカ子ロリババアを興味深そうに眺める。
　子どもらしく興味を示すルビアに対し、「乗ってみますか？」と澄恋は促した。
「わ、私を子ども扱いするつもり？」
　ルビアは可愛げのない反応を一度は見せたが、どこかもじもじしながら、
「……で、でも、そんなに乗ってもらいたいなら、乗ってやってもいいわよ？」
　メカ子ロリババアにまたがり満足そうなルビアを連れて、一行は食料品の市場を見て回る。
　澄恋はキャンプに臨む気分を盛り上げようと、食材を選びながら言った。
「せっかくの冒険の時間です。おやつとか、日頃食べられなさそうなものとかも買って、楽しんでいきましょう！」
　澄恋から好きな料理や食べ物について尋ねられたルビアは、どこか浮かない表情でつぶやいた。

成否

成功

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第1章 第3節

「……ホットチョコレート」
　ルビアはおもむろにつぶやいた。
「昔は母様がよく作ってくれたわ。暖めた牛乳にチョコレートを溶かすの――」
　ルビアはぽつりぽつりと家族の思い出を語り始める。
「母様は魔法が使えたのよ。どのメイドにやらせても、母様以上においしいホットチョコレートを作れる者はいなかったわ」
　自慢気に語るルビアだったが、その口調は次第に憂いを帯びたものになっていく。
「皆でお庭でおしゃべりしながら飲むホットチョコレートは、とてもおいしかった……でも――」
　どこか物悲しい表情を覗かせながら、ルビアは続ける。
「母様は執務で忙しいし、もう父様もいないし、昔のように作ってくれることはなくなったわ……」
　不意にメカ子ロリババアから降りたルビアは、飴細工の並んだ屋台を見に向かう。その小さな背中は寂しさを訴えているようにも見えた。

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第1章 第4節

　『汚い魔法少女』メリー・フローラ・アベル（p3p007440）は1人本屋へと向かった。そこで厳選した初心者向けのキャンプの本を購入し、
「じゃ、あとは書いてあることに従ってね」
　当然のようにルビアに手渡した。それ以上のことは何もやる気を見せないメリーに対し、
「あなた、仕事する気ないの？　役に立たないわね」
　偉そうな物言いをするルビアに向かって、メリーは歯に衣着せぬ意見をぶつけた。
「うるさいわね。そういうあなたは雇った人間ばかり引き連れて、どうせ一緒にキャンプしてくれる友達もいないんでしょ？」
　ルビアは顔を真っ赤にして反論した。
「そ、そそそそそそんなことないわよっ！！！！　け、け、結構いるわよ！！」
　動揺を隠し切れていないルビアを放置して、メリーはすでに別の店を覗いていた。
　――ある程度利用価値があるなら、仲良くしてやってもいいけどね。
　メリーはルビアのことを、恩を売る対象としか考えていなかった。

成否

成功

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第1章 第5節

「はい、これはキャンプのために買った食材だよ」
　『Meteora Barista』モカ・ビアンキーニ（p3p007999）はルビアが持てるだけの荷物を手渡す。しかし、ルビアはどこか不満そうな表情を浮かべて、
「どうして私が持たなくちゃいけないの？」
　モカが差し出した紙袋を受け取ろうとしなかった。モカはあくまでルビアにも手伝わせようとする。
「……庶民のキャンプを体験したいって言ったよね？」
　ルビアも強固な態度を示して譲ろうとせず、モカに対して反抗する。
「それはあなたたちの仕事でしょ？　私がやる必要は――」
「庶民には、荷物を持ってくれる従者なんていないぞ」
　そう言い切るモカから紙袋を押し付けられ、ルビアは怒りで表情を歪めた。だが、ルビアは耐えて大人な態度を見せる。
「庶民の暮らしを理解するためにも、大目に見てあげるわ」
　偉そうな物言いに変わりはないが、ルビアは一定の理解を示した。
　――私はお客様に料理を作り、食べていただき対価を得る。その点において、お客様は平等だ。金持ちから平民、大人から子供までな。
　モカはその信条の通りに仕事をこなす構えで、調理道具や火を起こすために必要な道具を中心に、最低限のものを取りそろえる。ロバにも荷袋を備え付けて運ばせるなど、大半のキャンプ道具はモカが引き受けた。
　モカがルビアに手渡した荷物の中には、ひそかにホットチョコレートの材料も詰められていた。

成否

成功