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シナリオ詳細

赤き血路のブルースブルーフ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある商人の証言
 すすむ馬車のうえで、商人はあくびをしていた。
 幻想ラサ間の貿易ルートは芸術や学術にとって非常に貴重な生命線である。
 豊穣→海洋→幻想→ラサという経由で流れてくる豊穣文化芸術品などにいたっては、シルクの如き価値をもつことすらある。
 さすがに地球世界中世のシルクロードがごとく、山羊が実る花があるなどとは思っていないが。
 だからというべきだろうか。商人の仕事もこれまでに増して多くなった。海洋が大遠征を達成した影響は、なにも海洋国内ばかりに出るものではないのだ。
「旦那、油断しすぎですぜ。この辺は山賊だって出る」
 馬車の先頭をゆく馬上にて、ターバンをした男が振り返った。
 ラフな格好こそしているがライフルはしっかりと担ぎ、首から提げたペンダントには魔法の光が淡く灯っている。武装した護衛であるに違いない。
「そうは言ってもねえ。ジャスティーン・トロットも倒されたし、砂蠍も倒されたし、偽ザントマンだって倒されたじゃあないか。さすがに山賊なんて出ないんじゃあないかな?」
 次のあくびをかみ殺して言う商人に、護衛の男が首を振った。
「さては旦那、この商売はじめて浅いな? 山賊ってのは昔からずっといるもんなんだよ。空から一度だけ降ってきていつまでも増えない石ころとは違うんだ」
 妙に遠回しな言い方をするなと思ってみると、突如として高い岩陰から銃弾が走った。
 護衛の男がそれに気付いてライフルを手に取るも、次なる銃撃が彼の腕へと命中する。都合良く武器だけ飛んでいくなんてことはない。腕がへし折れ、千切れ、ぐねんとまがった男は馬から転げ落ちた。
 ハッとして岩のほうを見上げる商人。が、反対側の茂みから飛び出した覆面の男が逆手にもったナイフで商人の首を切り取ってしまった。大人の肘くらいまで大きなナイフに、ぬらりと血が垂れる。
「教えてやるよ商人さん。山賊ってのは、いつも自然に湧いて出るもんなのさ落としたパンに虫が湧くみてえによ」

●クリムゾン13と山賊の中の山賊
「ようグドルフ、山賊退治好きだろ? なあ、山賊殺そうぜ。なあ」
 どこか興奮した様子で鋼の義手をかざしてみせる赤いフードの男。情報屋のクリムゾン13である。厳密にはラサ・幻想間で流れる情報を売り買いする情報屋だが、彼にまつわる事件を解決したことでローレットにとても協力的だった。
 中でもグドルフ・ボイデル(p3p000694)とは浅からぬ縁があるようだ。
「うるせえな、なんでおれさまがチンケな山賊退治なんざしにゃあならねえんだよ!」
 ラサ幻想間をつなぐルートのひとつ、赤色商路。その中間地点である小さな宿場町にエンアートが酒場という場所がある。情報の集積地点であり、クリムゾン13の活動拠点だ。
 グドルフは冷えたビールを飲み干すと、空っぽになったジョッキをカウンターに置いた。
 新しくサーバーからビールを注ぎ、テーブルにだしてやるクリムゾン13。
「なあいいだろ? いい店紹介してやっからさ。可愛い新人入ったんだぜ確かネフェルストの……あー……」
 そう言いながら、コースターをスッとビールジョッキの下にしいた。
 ビールジョッキにコースターなどと、とは思わない。
 グドルフは小さくジョッキをあげて、コースターに書かれたメモを読んだ。
 そして、酔い潰れたふりをして前屈みになり、声を潜める。
「ブルースの手下か」
「厳密にゃあ支配下にあった村のやつらさ。金の供給があったから支配を受け入れていたが、まえの事件でブルース・ボイデルは収容所行きになったからな。出てくる見込みもねえ。
 母体組織も壊滅してるから金も出ねえってんで、山賊に転向したってハナシさ」
「…………そんな程度なら、そこらのテキトーな傭兵でも送り込みゃあいいはなしだ。けどサーティーン、てめぇはおれさまに話を持ってきた」
 それがどういう意味か、グドルフは分かっていた。
 ただの一般市民が喰うに困って強盗に手を染めた、などという生易しい事件ではないのだ。
「ブルースには、子飼いの暗殺集団があった。商売敵を消して自分の商売を有利に進めようって奴はいくらでもいたし、珍しいはなしじゃあねえよな」
 子飼いの暗殺者たちは母体を失い、ならばと強盗に手を染めはじめたのである。
 そんな連中。生半可な戦力を差し向けただけでは装備や物資ごと喰われるのがオチだ。
「連中の名は、『ブルースブルーフ』」

GMコメント

 情報屋クリムゾン13より、ラサ傭商連合からの間接的な依頼をうけあなたは新たな山賊退治にかり出されました。
 対象の名は『ブルースブルーフ』。
 ただの山賊と違うのは、彼らは元々悪徳商人ブルース・ボイデルが商売敵を消し去るために使っていた子飼いの暗殺集団であったということ。
 『奪う』という手段以外を教わることなく訓練されていった彼らは、母体であるブルースが『偽ザントマン事件』にて母体が消滅した後もそれ以外の手段で生きることができませんでした。
 彼らを放置すれば商路のひとつが潰され、文化や経済に少なくない打撃がおこるでしょう。
 彼らの装備や人員が拡大していけば、やがて通りがかりの商人を襲うだけに足らず近隣の村々を喰いかねません。
 そうなる前に、断固たる鉄槌が必要なのです。

●ブルースブルーフ
 暗い装束で統一した10人あまりの集団
 暮らしていたらしい土地も追われ山賊化したようで、彼らのアジトは明らかになっていません。
 よって、彼らを倒すにはまず彼らに『出てきて貰う』必要があるでしょう。
 特定のルートを、商人に偽装して通ることで注意を引き、襲撃をしてきたら応戦するかたちで彼らを倒すのです。

 といっても、彼らは死ぬまで戦う理由がないので多少の抵抗をうけたら撤退してしまうかもしれません。
 多少のダメージを与えられれば一応依頼は成功扱いとなりますが。再発を完全に防止するには彼らの息の根を止めるほかありません。
 具体的には、逃走対策を用意しておくのがよいでしょう。
 行動を阻害するタイプのBSだと若干ヨシ。それを上回るくらいの作戦が立っていればもっとヨシ。そもそも逃げようがない状況を作れたなら最高にヨシです。

 フィールドは岩の多い山道で、草木もそこそこにあるようです。視界が通りすらく、そのため山賊側も奇襲がかけやすいという利点があります。(だからこそここで襲ってくるとも言えます)

●おまけ解説
・クリムゾン13
https://rev1.reversion.jp/guild/1/thread/4058?id=1396655#bbs-1396655

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 赤き血路のブルースブルーフ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月13日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

リプレイ


 目を閉じると風のにおいがした。
 砂と草のまじったそれは、空の広さをいまにも思い出させてくれる。
 馬車の揺れのなかで。
 『青き砂彩』チェレンチィ(p3p008318)は隠した片目を閉じたまま、雲のまばらな空へ視線をあげた。
「暗殺集団が山賊に、ですか。
 奪う以外の選択肢がなければ、そうなるのは必須という感じでしょうかねぇ。もっと色んなことを知っていれば、他に生きる道も沢山あったでしょうに。
 ……まぁ、こうなってしまった以上、今更どうにも変えられないのですがね」
「暗殺集団……ブルースブルーフ。そんな彼らが山賊にと言うことなのよね?」
 『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)の問いかけに、チェレンチィは肩をすくめることで返した。
 彼女からすれば、『居場所を失った殺し屋』の生き方などいくらでもありそうなもの……だが。
 そうでない者もあったか、もしくはそうすることを怠ったのか。はたまた、他の選択肢を先に捨ててしまっていたのか。
 力も立場もまとめて失ったエルスにとって、力だけが残った人間の気持ちは解りがたい。
 わかるのは……。
「何にしても見逃せない。このまま放って置いたら悲しむ方々が増えるわ!」
 ということ、だけだ。
 そんな二人の様子を横目に、『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は『ほう』とため息をついた。
 力も立場も失ったのは、アッシュも同じだ。
 その二つをどうとらえていたのかの違いだけで。
(望んでいたのか、いなかったのか。
 どちらにせよ、その為に生き生かされて、他に術を持たなかったのであれば。
 此の帰結もまた、必然なのでしょう……)
 チェレンチィも、エルスも、アッシュも。ある意味三人は似ていて、ある意味で全く違っていた。
 人生も世界も『失ったらおしまい』になってくれなどしないと、知っているという点を交差して。

 『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)はシュッと拳を振り込んだ。
「『奪う』という手段以外を教わることなく訓練されて、その生き方しか知らない……か。
「少し同情するかな……。ワタシだって昔困窮した時は……」
 膝をかかえて小さくなった『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)に、花丸はちらりと視線をやった。
 声をかけてほしいのか、そっとしておいてほしいのか、フラーゴラの左右非対称な目はときどきどちらかわからない光り方をする。
「他の方法だって、あったはずだとおもう……」
「だね。人は学べる。学んで変われる。殴って壊すことだけが戦い方じゃない。『殺し屋』なら、知っていそうなものだけど」
「ん」
 突き出した拳は空を穿ったが、不思議と風を壊す音がしなかった。やさしく差し伸べたてのように、なぜかそれは見えた。
 フラーゴラは揃えた膝に顔を埋め、目を閉じる。
「けど、しかたないよね」
「そ。道を選んで山賊になった以上は、覚悟を決めてもらおっか」

 仕方なく山賊になった殺し屋たちがいたという。
 他に方法を知らなくて他人から奪うことにした者たちだという。
「まっ、ある意味マットーな生き方だよな。今更ハンバーガーショップでバイトしろってのが酷だぜ。俺やアンタのスマイルじゃ零円どころか……」
 『最期に映した男』キドー(p3p000244)はこらえきれずに腕で口を押さえて笑った。
 鼻をほじっていた『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)がにらみつける。
「あんだてめぇ」
「アンタがっ、くく……赤いサンバイザーつけてるとこ想像して……『ご一緒にポテトはいかがですかァン』って、くくく……!」
「お? なんだ? 山賊ぶっ殺すまえに死にてえみてえだなあ」
 キドーの頭をわしづかみにするグドルフ。
 掴まれたまま、キドーはぺったりと寝てしまった元モヒカンヘアーをつまんだ。
「誰だって後戻りなんかできやしねえんだ。過去ってやつは拭き忘れたクソみてーにくっついてくるがよ、因縁なんか引きずってもしかたねェんだ。さっさと拭いちまおうぜ、山賊」
「…………うるせー盗賊」
 そこで、ふと。馬車の幌の上から声がした。『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)のものだ。
「皆さん。じきに目的のポイントにつきます。準備を」
 サルヴェナーズの声を受けて、キドーとチェレンチィが黒いローブを纏って馬車から離脱していく。
 グドルフたちも麻の大袋をかぶって馬車の荷台で身を隠し始めた。
 麦の香りが残る袋の内側で、目を閉じるグドルフ。
「山賊になっちまったもんは仕方ねえんだ。『冴えたやり方』なんて、もう遅いんだよ」


 高い岩山に面した道を、ことことと馬車が進んでいく。
 御者席に並んで座ったフラーゴラとアッシュが、どこか楽しそうに足を交互にゆらゆらとさせていた。
「たのしそうだね……?」
「そういえば馬車で此処に座るのは初めてです。ちょっと得をした気分です」
 にっこりと笑う二人。馬車の後ろからはエルスとサルヴェナーズが足を投げ出すようにして腰掛け、景色をぼんやり眺めている。
 傍目から見れば……もとい略奪者から見れば、美女と物資が満載のとてもおいしい通行人に見えることだろう。
 ごちそうのふりをした毒だと気付くことができれば、明日の命もあったのやもしれないが。『求められた相手を必ず殺す』ということを生業としてきた暗殺集団ブルースブルーフには、どうやらその危機感知能力が欠けていたらしい。
 スン、と鼻を鳴らすアッシュとエルス。
 ほんのわずかに香った火薬のにおいに反応し、エルスはサルヴェナーズをかかえて荷台の内側へ。アッシュはフラーゴラにピッと親指で方向だけを示した。
 恐ろしい反応速度で御者席に立ちそして飛び上がり、スナイパーライフルによって放たれた弾頭をムーンサルトキックで弾き飛ばすフラーゴラ。
 よもや奇襲をこんな形で弾かれるとおもわなかった狙撃手はその場を走って離れようとする――が。
 立ち上がったその瞬間にすぐ後ろで爆発音が響いた。

「おいおいパパに教わらなかったのかァ? 人のケツを狙う時ぁ自分のケツを閉めておけってよぉ!」
 足下に倒れたスポッターの男。
 いつもにまして言葉のガラがわるくなったキドーが、妖精魔術のこもった手投げ弾をひょいっと高く放り投げた。
 その様子を思わず目で追った狙撃手――の背後に、黒い影がさしこんだ。
 否。チェレンチィが滑り込み、気付いた頃には彼女のナイフが狙撃手の首筋にかかっていた。
 悲鳴をあげるまもなく吹き上がる鮮血。ごぼとぼと音を立て崩れる狙撃手を、チェレンチィは岩場から蹴り落とした。
 奇襲を行った側が奇襲をうけるというこの状況を、どうやらブルースブルーフたちは想定していなかったらしい。
 高所より転落してきた仲間が地面で弾けるさまを見て、回れ右をして逃げだそうと――して、思い至った。
 罠にかけようとしたカモがカモでなかったこと。であれば、なんだったのか。
「けっ……杜撰な仕事ぶりだねえ、山賊もどきの三流ども。このおれさまがホンモノってやつを見せてやろうか?」
 馬車から転げ落ちた麻袋から腕がのび、頭がはいだし、ごきごきと首をならしながら大柄な男が姿を見せる。
 その顔に、その振る舞いに、ブルースブルーフの暗殺者はおもわず声をあげた。
「グ――グドルフ・ボイデル!」

「ほいっと、花丸ちゃんラブリーチェーン!」
 先端が手錠になった細長い鎖を、遠心力をかけつつ投擲する花丸。
 腰から拳銃を抜いた相手の手首にそれはひっかかり、とんでもないパワーで引っ張られる。
 咄嗟に至近距離から銃撃をしかける――が、花丸は銃口を手のひらで包んで覆うようにおさえてしまった。
 普通にやったら手のひらに穴が一個できあがるだけだが、前後のスライドを封じられると発射できないタイプだったらしくトリガーが固定され、射撃不能と見切った相手は腰のナイフに手を伸ばした。
 だがそんな猶予を、花丸たちが許すはずはない。
「アッシュさんエルスさん、パス!」
 チェーンをひきながら蹴りつけ、強引に突き飛ばす花丸。
 そこへ、エルスの鎌がひっかけられ、瞬間的に相手の首が刈り落とされる。
 刃の軌跡に氷の風がはしり、エルスは小さく息をついた。
 かざした指を、パチンと鳴らす。
 氷が散って周囲へと広がり、その一部にアッシュがそっと指を立てた。
 魔法の発動を予測した男の一人が防御魔法を発動させるが……。
「一瞬、遅い」
 バチンと弾けた灰色の雷が、空色の光を伴って駆け巡っていく。
 まるで意志をもった蝙蝠の群れの如くブルースブルーフの暗殺者――否、山賊達の間だけを抜けていく。
「あまり特異運命座標を舐めない事ね。
 もっとも、今回は見逃してあげられないのが残念なところだけど。
 さ、無駄話も程々に。その身の覚悟が決まったかしら……!」
 見栄を切るエルス。その一方で、山賊たちが大蛇の群れに襲われる幻覚に囚われていた。
「ふふ、先程の威勢はどうしたのですか? この蛇を操っているのは私ですよ。早く私をどうにかしないと、頭から食べられてしまうかも」
 指でくいくいと手招きをして笑うサルヴェナーズ。
 無理に暴れた山賊たちは互いに衝突したりもつれ合って転んだり、中にはサルヴェナーズへ掴みかかることが出来た者もあったが……。
「死んどけ、偽物」
 後ろからグドルフによって頭を鷲掴みにされ、大きく空へ振り上げられた。
 視界が縦向きに回転し、頭から地面へと転落する。
 白目を剥いて停止する山賊を横目に、フラーゴラは折りたたみ式のライオットシールドを展開。
 回り込むことで退路を奪うと、盾の端からちらりと顔を覗かせた。
「奪う事しか知らない三流達……かかってきなさい!」


 熱を持った砂が螺旋を描いて巻き上がり、卵の殻のように男を包み込んでいく。
 悲鳴をあげて手を伸ばした男はしかし、手首から先だけを残して砂に包まれ、そしてむなしくもがいて動きを止めた。
(あなた方の役割は、終わってしまって。
 もう、何処にも行けなかったのですね。
 其の気持ちは、少しだけ知っています。
 ほんの、少しだけ)
 その様子をじっと見つめていたアッシュは、長い髪を払ってきびすを返す。
 ふと見れば、花丸がチェーンをあちこちの山賊に絡みつけては引っ張り込み、暴れる彼らを押さえつけていた。
「頼むぜェ花丸! おさえとけよ! ……ソラァ!」
 勢いよく助走をつけたキドーが跳び蹴りによって山賊を押し倒すと、魔法を込めたナイフを突き立てる。
「キドーさん一人そっち行ったよ!」
 花丸のチェーンを断ち切って山賊のひとりが逃げ出すも、キドーは振り返り無言のまま邪妖精を行使。飛びついた黒犬型の邪妖精が山賊の足や脇腹にかじりつき転倒させた。
 その一方で、フラーゴラはライオットシールドによる猛烈なチャージアタックによって岩壁に山賊をプレスし、ずるずると崩れ落ちるさまを黙って見下ろしていた。
 背後から山賊が拳銃を構えるが、発射より早くスウェー移動をかけ弾を回避。至近距離まで迫って蹴りを繰り出した。吹き飛ばされた山賊が馬車に激突し、崩れ落ちる。
「イイオンナ5人、しかもかなりの上玉を前にみすみす逃げを打つたあねェ。だからてめえらは一生三下なのさ。腐ったパンに湧く虫みてえだな!」
 グドルフはその男を掴み上げると、鼻先まで顔を近づけ上下の歯をみせるようにスマイルを作った。
「ブルースをぶちのめしたのはこのおれさまさ。憎いかい?
 そうだよな、急に食いっぱぐれちまったんだからな!
 おれさまを倒せば、ブルースの監禁場所を教えてやっても良いぜ?」
 おら、根性みせろや。そう言って突き飛ばした山賊は力なく馬車に寄りかかり、そして地面へ倒れた。
 残る山賊も順調にかたづけたらしいサルヴェナーズが、魔術によって蝕まれびくびくとけいれんを続ける山賊を片足で踏むように押さえつけながら唇を歪ませる。
「さあ、どうします」
 その問いかけは、残るひとりの山賊に向けられていた。
 悲鳴をあげ、武器を捨て、一目散に逃げ出す山賊。
 サルヴェナーズはそれをただ見送り、ため息交じりにうつむいた。
「先送りにした苦痛など、ろくなものではないでしょうに……」

 みすみす逃がした、わけではない。
 頭から血を流し、よろめきながら走る山賊は、ついに山中にあった小屋へとたどり着いた。
 一見廃墟にも見えるが、そうではない。
 扉に手をかけ魔術式の鍵を取り出しドアノブに近づけた。
 手が震えているせいか、鍵穴にはいらない。
 がちがちと鳴る鍵にしびれをきらしたのか、山賊はついに叫びをあげた。
「入れ、入れよ! 鍵ってのは鍵穴に入るためにあるんだろうがよお!」
 叫びのかいあってか、スッと差し込まれる鍵。
 ガチャンとロックがはずれ、扉を開いた――その瞬間。
「逃げ切れると、本気で思っていたんですかねぇ」
 すぐ背後で声がした。
 すぐ、背後である。
 現にチェレンチィの顎は山賊の肩に乗り、耳元へささやきかけている。
「あの包囲のなかを? 準備万端武器満載の傭兵部隊に狙われて? 幸運にも?」
 咄嗟にふりかえり、チェレンチィを突き飛ばして走り出す。
 が、チェレンチィは追いかけなかった。
 なぜなら、男の両足はスパンと切断されていたからだ。
 顔から倒れた男に、歩み寄る……エルス。
「生かしておけば反省する者もいるけれど……。
 でもこれ幸いと再度悪さに手を染める者も少なくはない。
 そういう方々を見分け捌くのも……必要な事、よね」
 問いかけるように述べた言葉に、チェレンチィは肩をすくめて返した。


 後日談、ではない。
 ブルースブルーフのアジトとみられる小屋を発見したエルスたちは、一旦仲間と合流してから小屋の探索を行った。
 かなり貧窮していたのか、慣れない狩りをしようとした形跡や盗みを試みた形跡も多く、ここが彼らの追い詰められた『穴蔵』なのだとわかる。
 だがそんな形跡のなかにひとつだけ。
「これは……」
 手帳の切れ端をみつけた。
 走り書きで、こうある。

 『青肌の居場所をみつけた』

成否

成功

MVP

チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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