PandoraPartyProject

シナリオ詳細

セイレーネスの歌声

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 常時は大荒れなこの海峡も、とある時間帯になれば深と静まりかえって心地が良い。
 貿易商はこの静寂の隙間を縫って、海を越えて益を為す。大荷物を積んだ船を渡すのは大変な事だ。
 しかし、最近なにやら不穏な噂が立っている。
 曰く、半身が人で半身が魚の怪物がいるだとか。
 曰く、誰も居ぬ海洋のただなかで歌声が聞こえるだとか。
 きっと音もなく静かになる海峡の怪異さを見た旅人が立てた噂だろうと、貿易商たちは気にしていなかった。
 ――の、だが。


「一隻の船が帰らぬものとなったらしい」
 携帯端末を手に、画面を眺めたまま『勿忘草』雨(p3n000030)が告げる。
「これで、噂は真となったってワケ」
 帰らぬ船の話はたちまち貿易商の間で広がった。彼らも自分の命が惜しいのだ。話を聞けば出航を控え、スケジュールの見直しを始める。
 その所為で、商いの界隈は今停滞を見せている。
 このままではいけないと調査に乗り出した人々が見たのは、険しい岩肌に座る美しい人魚の姿だ。
 下半身が魚のようにつるりとした鱗で覆われ、尾ひれは月の光を跳ね返して淡く輝く。
 上半身は人の体で、それはもう美しい容姿をしていた。
 長い髪は薄桃に染まり、眸は宝石を埋め込んだが如く煌びやかな金色を抱く。弧を描く唇は果実のように赤く、艶やかだ。
 白磁の肌は滑らかで、触れれば珠のごとき弾力を持っているのだろうと想像させる。育つべきところは柔く膨らみ、締まるべきところは見事なカーヴを描く。
 美しい女性だ、と、誰もが魅了されてしまうだろう。
 それが、3人――いや、3体いる。
「見た目は女性のソレと一緒だけれど、中身は怪物だ。惑わされないようにね」
 雨が釘を刺すように告げる。実際この目で見たわけではないが、資料として見せられた姿は遠目に見ても美しい。
 そうして何より、その美貌から奏でられる歌声が聞いた人々の心を惑わす。
 航海士がその歌声に魅入られてしまえば、もうその船は終わりだ。進路の修正など聞くはずもなく、導くように響く歌声の元へと舵を切る。
 目指す先にあるのは地獄のみ。突き立った岩礁に船体が乗り、たちまち難破してしまう……という訳で。
「セイレーン……いや、セイレーネスの討伐が今回の目的だよ」
 この人魚姫たち、歌声による魅了も厄介だが、どうやら危機を感じると逃げ出そうとするらしい。
 一体が死亡した際には他の二体は怖気づいて逃げるだろう。かといって、三体を常に同時に相手するのは持久戦となる。
 どういった戦法を選び、どのように配慮すべきかが重要だ。
 また、戦場は海洋の上となる。
 近場に足場となりそうな岩礁はあるものの、海水を被り滑りやすくなっているだろうことも考えられる。
 必要であれば、大型船の手配も迫られるだろう。
「ソルベ卿との繋がりは大きな益となる。頑張ってね」
 出来る限りの手伝いはすると言い残し、雨は読めぬ笑みを浮かべたままひらひらと手を振った。

GMコメント

美しきには棘がある。

●成功条件
セイレーネスの討伐
逃走したセイレーンの数が多ければ失敗です

●場所
海洋のど真ん中です。
出現ポイントの付近には大小さまざまな岩が突き出ていますが、どれも海水を被り濡れています。
戦闘時間は海峡が静まり返る真夜中のみ。
朝方になれば、海峡は船を呑みこみ荒れ狂う常闇の魔鏡となります。

●敵情報
セイレーン×3体(まとめてセイレーネスと雨は呼んでいます)
歌声を響かせ誘惑する、海中からの奇襲などが考えられます。
個体としてはさほど強くありませんが、場の有利があり未知数です。

●同行NPC
『勿忘草』雨(p3n000030)が同行しますが、戦闘には参加しません。
事前に必要な船の手配や、戦闘中の船の維持に努めます。
用事がある場合はなんなりとお申し付けください。基本的には不干渉です。

  • セイレーネスの歌声完了
  • GM名祈雨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月25日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
戦気昂揚
サンディ・カルタ(p3p000438)
須臾を盗む者
リチャード・F・ロウ(p3p000871)
law of jastice
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
九鬼 我那覇(p3p001256)
三面六臂
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
エリク・チャペック(p3p001595)
へっぽこタンク
ファリス・リーン(p3p002532)
戦乙女

リプレイ


 イレギュラーズ達は地元の漁師や船乗りに協力を得て、ソナー付きの大型船を借りる事となった。併せて退路を塞ぐための網等の貸し出し許可も得ている。
 『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)の交渉術の甲斐あってか、自身の損失を気にする彼らも安全な航海のためならと名乗り出たのだ。
 そこに『law of jastice』リチャード・F・ロウ(p3p000871) が言い添えれば頑固に渋る者もなかった。協力してほしいと説得を受ければ、討伐する手段を持たぬ彼らは頷くのみであった。
「助かったよ」
「なに、これぐらいはな」
 同行する雨が船に揺られつつ、仕込みを始めるリチャードへ会釈する。操縦の心得は多少なりとも持ち合わせているが、辿り着くまでは専門に任せる事にしていた。
 ソナーに表示される情報を眺めながら、巧みに船を操るのは『海抜ゼロメートル地帯』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)だ。
 底の見えない闇海は、海を縄張りとするセイレーネスにとっては質の良い猟場だろう。海底を見晴らすためのソナーは彼女らの接近を事前に知らせてくれる。奇襲される心配はなさそうだ。
 航海術に長けたエイヴァンが操作する船は順調に目的地へと向かっている。波は多少荒いものの、操縦に影響が出るほどではない。
「そろそろ着くな」
 海神の勘は鈍っていない。経過時間や航行距離から凡その推測を立てて顔をあげた。
「そうね。もうすぐ見えてくるわ」
 羅針盤を片手に航海のサポートをしていた『銀翼の歌姫』ファリス・リーン(p3p002532) が空から降りてくる。道中の岩礁の位置は逐一報告していた。ソナーでの確認と、目視での確認。対応は充分だ。
「こちらも準備完了でござる」
 リチャードの陣地構築を手伝う為にマストの上にいた『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)が声をあげる。器用にバランスをとって、揺れる船上でも落ちずにいられるようだ。
 縄の張りを軽く引っ張り確かめながら、下呂左衛門は広がる海原を見渡す。陸地での依頼も難なく熟せてはいるが、やはり水が近いと落ち着く。
 逃走阻止の仕掛けをヘマする訳にはいかない。丁寧に見直しすれば、するりと甲板へ降り立った。
「海洋に戻るのも久し振りね」
 上部の仕掛けを終えたのを見守れば、『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883) は自身の手元にある網を張っていく。
 ふと顔をあげれば、郷愁誘う海が一面に広がっているのだ。依頼中とは言え、多少なりとも感慨に耽るのも許されるだろう。
「セイレーネスって何が目的で船乗りを惑わすのでしょうねぇ」
 もしかして捕食かも、などと『へっぽこタンク 』エリク・チャペック(p3p001595)がお道化て見せれば、想像したのか下呂左衛門がふるり震える。
 セイレーネスをおびき寄せるためのパーティの準備も順調だ。
 エリクは戦場となるであろう甲板に灯りを取り付けていく。こうすることで航海中や戦闘中の視界の悪さをカバー出来るだろう。
「機があれば、友誼を結んでみたかったである」
 『三面六臂』九鬼 我那覇(p3p001256)が殊更残念そうに言葉を続く。海人種も存在する幻想では、人魚も珍しくはないだろう。
 惜しむらくは、彼女らにその気がなく、会話も成立しないということ。
 既に被害を出しているセイレーネスに躊躇は不要だ。討たれて当然の存在とも言える。
 三者三様に過ごす船上で、波音に混じって澄んだ音が聞こえた。

 ラ、ラ、ラ――

 紡ぐ言葉は判らずとも、奏でる音で心を通わす。
 音楽とは、そういうもので。セイレーネスは声という楽器を通して船乗りたちに語り掛ける。
『こちらへ、こちらへ、どうぞ私たちのうたを聞いて――』
 誘った者たちへ贈るのは、彼女らなりの心を込めた歌なのかもしれない。答えは、彼女たちしか知らぬ侭。
「船を近付ける。準備は出来たか?」
 心乱す歌声は風に掻き消える。音の在処に迫る為、エイヴァンは慎重に船を岩場に幅寄せた。


 船の上は、さながら舞踏会の如く華やかだった。
 おびき寄せる為に用意された数々の料理や酒が甲板に並ぶ。これが依頼でなければ夜通し語り明かして交友を深めるようなものなのだが。
 ファリスの奏でるリュートが、イリスの歌声に寄り添い見事な調和を見せる。
「(人を魅了するがゆえに、討たれねばならないとは……)」
 リュートを奏でながら、ファリスは誘い出す対象へと思いを馳せた。
 セイレーネス。
 歌姫たるファリスと同じく、声をあげ音律を紡ぐ事で人の心を釘付けにする。翼を持つ歌姫と違うのは、魅了した者を破滅へと追いやるところだ。
 もし、彼女らにきちんと道を示す者がいたならば。もし、正しくその歌声を使うことが出来たならば。
 心許すことはなくとも、ファリスはセイレーネスへ憐憫の情を抱く。奏でる指先は緩慢になり、歌の終わりと共に音は波音に呑まれ消えた。
「次、Math Arc Earlyで始まる歌――」
 とん、とん、とん、と指先でリズムをとれば、歌い始めるイリス。ステージもない場所ではあるが、船首に立てば注目の的にはなるだろう。
 スポットライトはない。マイクもない。しかし、確かにそこには歌姫がいた。
 そして、歌声や用意した料理を肴に酒に興じる者がいくつか。とはいえ、未成年も混じる一行ではあるので勿論ノンアルコールが大半だ。
「良い歌です」
「もう飲めないでござるぅ……」
 リチャードが機嫌よく拍手して、知ってる曲が続けられれば共に歌う。朗らかな雰囲気は酔っているようにも見えた。
 むにゃむにゃと酔いつぶれて今にも寝そうなのは下呂左衛門だ。彼もまた、演技ではあるが。
 ちゃぷんと水の跳ねる音がした。見れば、船のヘリに肘をついてじいと見つめる双眸がある。
「お前――」
 エリクが声を掛ければたちまち跳ねて、弧を描く。ヒトと同じ容姿、滑らかな肌、そして鮮やかな鱗。
 件のセイレーンの一人であろうことは察しがついた。歌や音楽、様々な料理に惹かれてきたのだろう。警戒する人間がいないとなれば、近付くことも容易い。それが、仕組まれたことだとは知らずに。
「あれが人魚であるか」
 我那覇の六つの視線の先、岩場に腰かける彼女たちセイレーネスは、それはそれは美しかった。
 話に聞いた通りの、――いや、それ以上の美貌を誇る。
 薄桃に染まった長い髪は艶やかに、月の光を返して淡く灯っているようにも見える。双眸は星を溶かして秘めたかのように眩い金色を返し、どんな宝石の輝きよりも魅惑的だ。
「うーん。なんとも美しいしエロい」
 水も滴るなんとやら。透明な水の珠が白い肌を伝うと見事なカーヴを描いて目を奪われる。伸ばした指先がなまめかしく見えてしまうのも致し方ない。
 そんな美人三姉妹を視界に収めたサンディは素直な感想を零した。イレギュラーズでなければきっと今頃メロメロに魅了されて、堪らず船から飛び降りたかもしれない。
 岩場の上で歌を奏でるセイレーネスへ、サンディは身を乗り出してにんまり笑う。
「美女の歌なら大歓迎だぜ?」
 指先に挟んだカードをひらひらと風に揺らし、セイレーネスが座している岩礁へと放った。それは逸れる事無く一直線に目当ての場所に突き刺さる。
 招待状だ。ぷつりと歌を止め、興味深そうにカードを見やるセイレーネスは海へと飛び込んだ。
 数秒訪れる静寂。変わらぬ波音だけが支配する世界で、エイヴィンがソナーに映る陰に気付いた。
「来るぞ!」
『――――!!』
 言葉にならない声をあげ、どぷりと海から跳ね上がったセイレーネスがイレギュラーズ達に牙を剥いた。


「この私がネオ・フロンティアを離れている間に不届き者がいると聞いて!」
 声をあげ、迎え撃つのはイリスだ。
「イリス・アトラクトスよ。文句があるならかかってきなさい!」
 名乗り口上でセイレーネスを煽り、イリスは自身に敵意を向けさせた。
 一体のセイレーンが歌を奏でる。どこか物悲しい響きを持った歌は脳を揺さぶり、数人がよろめいた。歌による精神干渉だ。
 先制をとばかりに連携を仕掛ける人魚姫。その美貌からは想像もし難い声を張り上げ、鋭い鉤爪で襲い掛かった。
「良い歌ね。私には響かないけれど」
 身を屈め、襲い来るセイレーンの懐に潜り込んだイリスが身体をひねり、勢いを付けて盾で迎え撃つ。手に直接伝わってくる反動は相当の物だが、この程度で威力を弱める女ではない。床にたたきつけるようにして殴りつければ短く息を吐いた。
 セイレーンもただやられるばかりではない。
 追撃を仕掛けようと身構えたイリスを尾で突き飛ばし甲板を這う。庇うように前に出たセイレーンが歌いだした。
 一体がやられれば、もう一体が。三位一体といったところだろう。
 脳を揺さぶる音に顔を顰める。直接的なダメージはないものの、精神的な摩耗が今回のネックだ。耐性が落ちれば魅了されやすくもなる。
 海と、自身と、セイレーネスの立ち位置を測り、エイヴァンは逃走に備えて調整する。海中に逃げられてしまえばほとんど詰みだ。
「ふん。事務仕事よりは百倍マシだな」
 鼻を鳴らし、肩を回す。やはり現場に向かい、これぐらいのスリルがなければ。
 人数差での有利もあり、イリスに気をとられているセイレーンへと素早く肉薄すれば拳を穿つ。
 恰幅の良い男が仕掛ける格闘術は力強く、ダメージをいなしきれなかった人魚は弾き飛ばされ床を跳ねた。甲板に爪が立てられ嫌な音が響き渡る。
「さあ、人魚たちよ。三面六臂の壁を越えてみるがよいである」
 跳ね飛ばされ、滑り往く先で迎え撃つ我那覇はその六本の腕でセイレーンへと組みつくと、軽々と宙へと放り出した。
 弧を描くセイレーンの鱗が月光を返し、一種の美として顕現される。
 その実、三つの顔を持つ男が下半身が魚の怪物を振り回しているのだから妙な齟齬に襲われるだろう。
 叩きつける衝撃で船が揺れる。大型船でなければあっという間に転覆してしまっていただろう。
 苦痛の表情を見せた人魚がその月明りの瞳で我那覇を睨みつけた。直後、ぱかりと開けた口からは鼓膜を突き破るような絶叫が駆け抜けた。強靭な精神を持つ我那覇と言えど、近しい距離での音攻撃には堪らず顔を顰めて距離をとる。
 そこを狙うのは仲間のセイレーンだ。襲い掛かり、そのまま海に引き摺りこもうと腕を伸ばした。
「へっ、こいつを喰らえ!」
 すかさずサンディがフォローに入り、ヒュウと吹いた不自然な風に赤が乗る。
 チリと火花が映えれば、たちまち炎が燃え広がった。禁呪とされた魔法も、水の多いこの場所でなら躊躇いなく放てるというもの。タンクに引火することさえ気を付けておけばなんら問題はない。
 セイレーネスの悲鳴と共に、人肉の焦げる嫌な臭いが立ち込める。それもすぐに潮風に攫われていった。
 風下に立ち、潮風に薄まった血潮の臭いを感じながら、下呂左衛門は畳みかけるようにナイフに手を掛ける。自慢の御髪を喰らう炎を、縁のない火の粉を消し去ろうと暴れる人魚はなんとも言えない感情に襲われるようだ。今ならば、仕掛けられる。
 集中。息を止める。周りを流れる風。狙うべき標的。全てを意識の内に入れ、一閃、刃を横に凪いだ。
 時間が止まったような錯覚に襲われる。ぴたりと刃先が止まり、一瞬の後に紫電が閃いた。
 炎に焼かれ、紫電に溶かされ、セイレーネスは言葉にならない声をあげる。それでもなお、彼女らは敵意に満ちた眼差しをイレギュラーズへと向けた。
「聞いてられない声ですねぃ。お前らの呼び名など、害獣で充分です」
 信念の鎧を纏ったエリクはやれやれと首を振った。
 今の所、合間合間に挟まれるセイレーネスの歌声に魅了された者はいない。脳を揺さぶる音は確かに精神を摩耗させるが、まだまだこちらにアドバンテージがあるだろう。
 三体のうち、損傷が少なさそうな一体に目途を付ければエリクは距離を詰めた。
 攻撃されると理解したセイレーンは尖った爪で敵対するものの、海という利を奪われた彼女らは隙が多い。海へと退避しようものならば、エイヴァンが退路を塞ぎ妨げる。
 一瞬のタメ。嫌な音を立てるのは、自身の筋肉か。己の全力の膂力で打ち付けたシールドは、物理的にセイレーンの脳を揺さぶった。
「同じ歌でも、私は違う」
 俯けた顔をあげ、ファリスは凛としてセイレーネスに立ち向かう。スゥと鋭く息を吸えば、仲間の為に、自分の為に、歌いだす。勇気を奮い立たせる歌は、時として戦場の要ともなりうる。
 ファリスの歌に被せるように、セイレーネスが歌いだした。三体がひとつになって奏でる音楽は、聞く者の心に容易く潜り込む。
 思わず、聞き入ってしまう歌だ。
 その言葉は判らずとも、その意味は分からずとも、聞いたが最後、魅了する。幾人もの人間がこの歌に憑りつかれ、そして命を落としたのだろう。
「(こんなの、認めない)」
 笑顔になれない、歌なんて。
 口を閉ざしたファリスが眉根を寄せて魅了に耐える。セイレーネスへと向かう足を自覚すれば、次の一歩を踏締めて釘付けにした。
 船首を陣取るセイレーネスに対して、船尾側まで身を引いたリチャードは銃口を向ける。
 組み立てられたAMRはそれだけで重量感を感じさせる代物だ。手にかかる重さは尋常ではないが、そこから撃ち出される弾丸の威力は凄まじい。
 銃身に並行に視線を合わせ、狙いを定める。不安定な戦場、暴れ狂う人魚、味方の奔走。全てを組み合わせ、最適な狙撃ルートを割り出せば、一発。
 サプレッサーの取り付けられていない対物ライフルの音は全員の耳に届いた。
 射出された弾丸は鱗を抉り、セイレーンの体内を突き抜ける。悲鳴にも似た絶叫が迸った後、身体を甲板に投げ出し動きを止めた。
 その声に反応したのは仲間のセイレーンだ。牙を剥き、歌を止めて、まるで獣の如くリチャードへと襲い掛かった。
 ――が。
「助かる」
「うむ、当然の事である」
 いち早く襲撃に気付いた我那覇がリチャードとセイレーンの間に割り込み、攻撃を受け止める。
 排出された空薬莢が金属音を立てて甲板を転がり落ちた。セイレーンと拮抗する我那覇の背を尻目に、リチャードは揺れる船上を駆けていく。
 次なる標的へ弾丸を打ち込むために。その命を止めるために。


 動かなくなったセイレーンの、魂の逝去に、残されたセイレーネスが気が付いた。
 か細く鳴く声はまるで親を失った子猫のようで、どこか居た堪れなさも窺える。しかし、彼女らは既にその手で沢山の命を奪った者たちだ。情を与えるべき存在ではない。
「悪いが、逃すつもりはないのでな。ここがお前らの墓場だ」
 海に生き、海に逝く。
 それがせめてもの供養というものだろう。逃げ場を求めたセイレーンの進路に割り込み、エイヴァンは重盾『海洋』で道を閉ざした。
 それでもなお突進を仕掛けるセイレーンだが、盾は一ミリたりとも揺るがない。再びその盾が動いた時、セイレーンは大きく跳ね飛ばされた。
 見開かれた双眸に映ったのは、縄の牢。リチャードが巡らせた陣地構築が残るセイレーネスを閉じ込めた。仕掛けを起動させるロープを手にしたリチャードが、甲 板に転がるセイレーンを見下ろす。
 瞬間的に、彼女は理解した。この男が監守なのだと。
 追い詰められたセイレーンはリチャードへと襲い掛かる。そこを狙うのはエリクとファリスだ。
 地から剣の一撃を。空から盾の一撃を。
 息絶えるのも、時間の問題だった。
「さらばである。友たり得た者よ」
 助けを求め、視線を巡らせたセイレーンが最期に見たのは、同じ亜人であり異なる道を歩む我那覇の姿だった。
 一方で、網を食いちぎって逃走を試みる者もいた。その姿はまさに獣そのもので、美しさの欠片などない。なりふり構わぬ姿は見苦しい。
「ここまでござるよ」
 下呂左衛門が甲板から身を乗り出したセイレーンに組み付いた。重力には逆らえぬ二人はそのまま転がり込むように海へと転落する。増援に駆けつけたイリスが二人の後を追い、海へと飛び込んだ。
 セイレーネスの狩場。常闇の海。
 しかし、それは、二人も似たようなものだ。多少の不利はあるものの、ディープシーたる彼らは溺れる心配など必要ない。
 もんどりを打って暴れるセイレーンに、情け容赦なく突き立てられる下呂左衛門のナイフ。
 赤い紐が海中を泳ぎ、下呂左衛門を突き飛ばしてセイレーンは遠くへ遠くへ沈んでいく。下呂左衛門を追い越し、イリスが追撃を仕掛けるために接敵した。その距離、僅か数メートル。
「逃がさねえぜ!」
 ガァンと金属を殴りつけたような音がすれば、穏やかな波面に水柱が迸った。サンディが放った弾丸は海面を穿ち、飛沫をあげる。
 暗闇の海でさえも明るく光る鱗が一瞬、透けて見えた気がした。泳ぐ進路を邪魔されて、態勢が崩れたのだろう。
 刹那、人魚の身体が海中から突き上げられた。
 追いついたイリスが仕留めたのだ。赤い尾を引き、岩礁へと叩きつけられるセイレーン。
 最期の抵抗とばかりに開いた口から、歌が再び紡がれる事はなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

プレイングお疲れさまでした。
海の平和は守られたことでしょう。いよいよ夏本番。準備万端に迎えられる事を願って。
ご参加ありがとうございました!

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