シナリオ詳細
大きな『枷』と小さな『鍵』と
オープニング
●枷
パークという鍵師は、善やら悪やらに無頓着な人間だった。
「仕事をくれるなら誰でも手伝ってやるよ」
世間サマでは幻想国家が奴隷を禁じるだとかなんとか騒がれていた時期にあったが、そういったパークの人柄もあって、奴隷を封ずる枷や牢屋の鍵の製造を請け負う事は多かった。
大金を払えば、それに見合う鍵と錠を提供してやる。ただそれだけ。自分は奴隷商売だのとは関係ない。そうタカを括って日常を過ごしていた。
「奴隷商売に加担したものを捕らえよ!!」
その結果はといえば、典型的なオチがついた。枷と牢屋の鍵を提供してやった奴隷商や山賊の誰かがパークの事を鮮明に明かしたのか、幻想国家においてその鍵師は陽を浴びる事が出来なくなった。
泥まみれの路地や腐臭漂う下水を這うようにして追っ手を躱す日々。自分の浅はかさよりも、自分の事を売った奴隷商達の事を呪った。
もはや命さえ、マトモな暮らしさえ保証されれば、誰でもいい。俺を助けてくれ。
「おやおや、汚らしい鼠が迷い込んだものだ……」
その最中に性悪な好事家に出会えたのは、このパークという鍵師にとって僥倖でもあり、悪夢の始まりだったのかもしれぬ。
●鍵
ギルドローレットにて。リトル・リリー (p3p000955)はエディともう一人の少女の周囲を、心配そうにグルグルと駆け回っていた。
「外せそう?」
「うぅむ」
エディ・ワイルダー(p3n000008)の対面にいるのは、リトルが件の奴隷騒動の最中に助け出したガウという少女である。
何やら彼女の腕を弄っていたものだから「何かよからぬ事をしていないか」と事情を知らぬ者から訝しげにされたが、その手元をよく拝見してみれば何をしているか理解出来た。痛ましくも、嵌められて手首に食い込んでいるのである。
「これは、まぁ、なんとも……」
ガウという少女は枷が奴隷の時そのまま外れぬ状態にあるのであろう。救出されて以来リトルやその周囲の仲間が水や食事を与えているものの、枷をつけたままでは根本的な解決にはならぬ。
されば解錠の技術を持ったギルド員をひとまず頼った次第であるが、その仲間達をもってしても「至難」という二文字に阻まれる。
枷に苛まれている本人の前で鍵を外す事が出来るか否かとは口が裂けても言えないが、正直な事を考えれば――
「こういう一点モノはね、鍵師にとっては一種の芸術品さ。いかにも『自分以外が開けられるもんなら開けてみろ』って造りをしてるだろう」
その場の誰しもが難しい表情をしている最中、一人だけ柔らかく苦笑していた。『黒猫の』ショウ(p3n000005)だ。彼はリトル達に対して、一つの書類を寄越してみせた。
その内容というのは、とある好事家が他人の美術品を窃盗するという計画を未然に阻止するというものである。「枷とその件に何の関係が?」
エディが不思議そうに首を傾げると、ショウは枷に指をさした。
「技術がある鍵師というのはね、難易度の高い鍵を造るのが得意なら難易度の高い鍵を開けるのも得意ってのがいる。その鍵師は、件の奴隷騒動で浮き世を追われた奴らしくてね。それまでの経緯を辿ってみると――」
その窃盗計画の核となる人物と、このガウという少女の枷を製造した者が一致したというわけか。
「匿ってやった鍵師の技術を悪用して、余所サマから美術品を盗もうという魂胆さ。でも悪い事は出来ないものだね。こうやって君達に未然にバレてしまうのだもの」
黒猫のショウは、イレギュラーズに対して説明を始めた。
- 大きな『枷』と小さな『鍵』とLv:5以上完了
- GM名稗田 ケロ子
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月09日 22時02分
- 参加人数8/8人
- 相談4日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「技術以外に頓着しない職人、時世に乗じるろくでなし貴族……腕と金はあっても、しょーもないわね」
好事家の屋敷を遠巻きに視界に入れてそう語るは『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)。
その屋敷は典型的な金持ちの住居といった様子で、私兵が警護を固めている事からも作戦目標の屋敷なのだと分かる。その私兵側はいかにもその筋の人間であるが……。
「自由と云うのは責任は全部自分持ちと云う事ですからね。相手を選ばず鍵屋の商売をするのでしたら」
美咲に相槌を打つ『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)。治安機構にコネを作ってないからそうなるのだと言いたげな節が窺える。
自分達も今回に限ってはその点で同じであるが……その為にも目立たず偵察を行うべく、美咲は《ファミリアー》で鼠だとか鳥だとかの小動物を喚び出したが――
「あぁ、喧嘩はダメだよ! ほら、えっと、仲良くー」
同じく『リトルの皆は友達!』リトル・リリー(p3p000955)の呼び出した仔猫からじゃれつかれ始めていた。
召喚者二人は苦笑しつつ動物達を一旦引き離して、鳥の方は別口で侵入する仲間――『孤独のニーヴ』ニーヴ・ニーヴ(p3p008903)の方へ渡した。
「おや、可愛らしい鳥さんだ」
「この仔と好事家の目を合わせるのは、出来る?」
予め打ち合わせていた作戦の事を思い返す。ニーヴはにんまりと微笑みながら頷いた。
「ガウくんの、あの痛々しい様子は決して見ていて愉快なものではないからね。なるべく死者は出さないように頑張るよ」
●
イレギュラーズの作戦内容は、まず最初に班を偵察組と好事家へ直接接触する者達に別ける。
その先兵となるのは可愛らしい動物達だ。ファミリアーという使役術においては、召喚者と視覚などの感覚を共有出来るのだから都合が良い。
「……下水道を通って潜入するのはあまり良い気分じゃないわね」
鼻を摘まむ仕草をする美咲。リリーも仔猫が蜘蛛の巣に突っ込んだのか、「わわわ」と驚いた様子で反射的に手を動かしている。とはいえ、そういった難所を通る小動物は余程の事がなければ気取られないのが利点だ。
二人は屋敷構造や人員の装備、万が一の逃走経路だとかをニーヴ達に伝えてから、一旦彼らの作戦に委ねる事にした。
「止まれ、要件はなんだ」
好事家と接触する為に作戦を開始したニーヴは、入り口の方で警備に呼び止められる。
ニーヴの立ち振る舞いや雰囲気もあって特別疑われていない様子だが、何ら用件もなしに入れてくれるといった様子ではなさそうだ。
やり取りの最中、一緒に同行していた『魔女見習い』ハク(p3p009806)が前に歩み出る。
「カルラ様に珍しいアイテムを見て欲しいのです」
「アイテム?」
「そう、カルラさんはそういう代物を高く買い取ってくれると聞いてやってきたんだ。ボク達には手に余る代物でね」
ニーヴは話を合わせ、警備に対してそういった口上で好事家と接触したい旨を伝えた。
警備は「会う約束無しに通していいものか」と難しい顔をしたが、用件がある程度の妥当性があるのもまた事実である。
折衷案として「ちゃんと約束を取り付けてまた後日」と無難な返答をしようとしたところで、ハクが上目遣いに擦り寄った。
「どうしても今日中にお会いしたいのです……だめ、ですか?」
「うっ……」
ハクは齢十四の、子供といえる部類だが――服装をそれらしく可愛く着飾ってみれば男にとって無碍に扱うのは気が引ける容姿をしている。
彼女の上目使いが警備の人間に刺さった瞬間を目の当たりにして、苦笑するニーヴ。警備は彼の視線から逃げるように顔を背け、咳払いをしてから一言。
「あー、ちょっとそこで待っていろ、雇い主に今から掛け合ってみる」
警備の一人が屋敷に入ってものの数分でニーヴとハクは応接間まで通され、好事家ズァ=カルラと対面する事が出来た。
「ようこそいらっしゃいました。珍しいアイテムとはいかに?」
これが暗殺依頼だったらもはや達成は目前なのだが、残念ながら今回の目的はそうではない。ニーヴはこれからどう話を運ぶか頭の中で考えながら、一言目を切り出した。
「はい、スターバードという鳥なのですが」
カルラは目を丸くして驚いた表情をした。《スターバード》――レリックアイテム。……少なくとも目の前の好事家にとって容易い代物でないのは確かだろう。
美咲から預かった鳥の姿を少しばかり見せながら、こっそりと相手の方に囁いてみせる。
「貴重な代物ですので、人払いをどうかお願いできませんか」
カルラは悩んだ。好事家達にとって、アイテムを売り込みにきたフリの強盗なんて話は日常茶飯事だ。だがレアアイテムを持った彼らの機嫌を損なう事は極力したくない。
「よろしいでしょう。おい、お前達。部屋の外に出ておれ。ダイジョオブ。何かあったらすぐ呼ぶから」
ハクが周囲に視線を回し、そして一つの花瓶を見つめながら口を開いた。
「まぁ、あの花瓶。素晴らしいものですわね」
「む、お嬢さん。お若いのに分かりますかね」
「えぇ、こう見えても“眼”には自信がありますの」
そう微笑むハクの眼が少し妖しく光る。カルラはひとしきり頷いて、その花瓶についての価値だとか手に入れるのにどんなに苦労したかだとかを自慢げに語った。
好事家同士ならそんな世間話も面白い話題なのだろうが、イレギュラーズにとっては中身のない退屈な話だ。
そんな話が出来て好事家はえらく機嫌がよさそうである。ニーヴとハクはここいらが攻め時であろうと踏んで、作戦を進める。
まずは美咲から預かった鳥をカルラの目の前に突き出して、ファミリアー越しに《魔眼》を使えないか試してみる。催眠状態に追い込もうという魂胆だ。
「どうでしょうか?」
同じように魔眼が使えるハクも、直接カルラと視線を交わした。
カルラの方は真剣に鳥やハクを見つめるのを繰り返していて、実際いかほどに魔眼が通用したのかまでは確証が持てぬ。
然らば、商談の続きのようにやればいい。ニーヴはそう考えた。
「貴重な鳥ですから、ボク達も手元に置いておくのが怖くて。この前なんて家の鍵がこじ開けられてたんです」
「ほう、それは難儀な……」
「どうせ泥棒に取られるくらいなら、価値が分かってくれる誰かに売ってしまった方が有益でしょう。カルラさんなら警備も厳重でしょうし、鍵だって」
「えぇ、勿論ですとも。その為に専門の錠前師を雇ったくらいですから」
魔眼のおかげか、ニーヴの口先のおかげか。カルラはそんな事を滑らせた。上手くいけている。
ニーヴはいつ踏み抜いてしまうか分からない薄い床の上を歩く気持ちで、カルラから重要な情報を聞き出していった。
●
「鍵と聞いて参上! わかる、わかるぜ! 鍵ってのは芸術品。ましてや一点モノとなればほんと自分だけにしか開けられない『とくべつ』だからな!」
感動したように語っているのは『鍵の守り手』鍵守 葭ノ(p3p008472)。鍵精霊たる彼にとって、錠としてのベンチマークは美術品に映るのだろう。
「確かに優れた技術を持っているみたいなのに、勿体ないね」
それが奴隷の手首に食い込んでるのだからあんまり褒められた話ではない。『救いの翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)は「ちゃんと真っ当な事に使えばよかったのに」と、鍵守の様子から純粋にそう思った。鍵守は難しい顔で頭を掻いた。
「まぁ、そこは仰る通りで。ガウって子もかわいそうだしな。開けられるもんなら開けてみろ、なんて挑戦。鍵精霊として本来は受けて立ちてぇけど……そういうコト言ってる場合でもないからな。作者本人に聞いてみるしかねえか」
そういって彼が視線を向けた先の屋敷では、警備が真正面の玄関などに集中している様子が窺える。ニーヴ達が上手く事を運んだのだろうか。
美咲もそれに頷き、ファミリアーと連携して屋敷の偵察を行っていたリトルが案内を申し出る
「ブラッドや皆と一緒に頑張るよっ」
「……うん」
リトル・ブラッド。三十二糎たる少々大きめの人形にも見える彼女だが、リトル・リリーの言葉に応えるように体躯相応の大鎌を構えた。数名ぎょっとする。
「……殺さないでね? ちゃんと情報聞き出してね?」
正直なところ、積極的に命のやり取りはしたくない。
「しょうがないなぁ……ガウの為にも"今日は"ちゃんとやるよ?」
「なんだこのデカいダンボール」
屋敷の廊下にて、やたらデカいダンボールが置かれていた。どれくらいの大きさかというと、人が余裕で入れそうなくらいにデカい。警備員はそれを訝しげに見ていたが、
「おおかた等身大の石像か何かの蒐集品だろ。壊して弁償沙汰になるのも面倒だ」
他の警備員にそう言われて放っておく事にした。
「…………いなくなった?」
「えぇ」
そのダンボールから弾き出されるようにして飛び出してきたのは『特級回避盾』ヒィロ=エヒト(p3p002503)。それに続いて他の仲間達も続々とダンボールの外に出てくる。
「も、持っててよかったローレットダンボール」
「オレはもう入らねーからなソレ……」
「リリーもやだぁ……」
体躯の小さい鍵守やリトル姉妹は危うく仲間達に押し潰されていた様子。……ファミリアーの偵察やニーヴ達の工作も相俟って、なんとか屋敷内部に潜入する事が成功したようだ。さてこれからどうするか?
「巡回の警戒なら私に任せて」
「お、じゃあ罠の対処ならオレに任せな」
そのように申し出たのはヘイゼルと鍵守だ。ヘイゼルの方は《エコロケーション》や《聞き耳》といった技術を使って、屋敷内に残った警備を探知すると仲間に伝えた。
巡回の警備についてはそれである程度やり過ごせるだろう。鍵守も、道中に仕掛けてあった鳴子などの装置を無力化していく。
「パークはあまり良い扱いは受けていないそうだし、断片的に伝え聞くところの人柄によると我が身を哀れんだりしてそうだ」
ミニュイはそういって《人助けセンサー》なる、助けを呼ぶ声を探知出来る技を使うという案を示した。実際、ミニュイやヘイゼルの耳にはすすり泣くような男の声が時折聞こえる。ミニュイは「パークのものだろう」と確信づいて、巡回の兵士に警戒しながら仲間と共にその方向へ歩んだ。そして。
「いかにも、って感じね」
扉の前で二人の警備が立ち尽くしている光景を目の前にする。他の部屋はそういった事はなかった。ミニュイの探知もあって、この部屋にパークが囚われているのは間違いない。
「……殺った方がいい?」
好戦的なリトル・ブラッドは大鎌を構える。ひとまず彼女を制止しながら、イレギュラーズはどうすべきか各々考える。
パークは頼りない蝋燭の灯りを目の前に思索に耽っていた。
「カルラの盗みに付き合ったとして、俺はどうなる……」
良くて飼い殺し。最悪口封じの為に殺される。そんな未来が見えて、パークは奴隷商売に加担した事を嘆き、泣き叫んだ。
「悪かった。もうしないよ。誰でもいいから、俺を助けてくれ……」
「その言葉、本当ね?」
密室状態である薄暗い部屋に女達が突然現れ出でて、パークは驚きのあまりひっくり返った。
「静かに。幽霊なんかじゃあないわ」
女達はヘイゼル、ミニュイと名乗ってから侵入してきた経緯を説明した。
「ははぁ、成る程。壁抜け……」
幽霊の正体見たり枯れ尾花。落ち着いて声を潜めながら対応するパーク。
「あなたの技術を見込んで仕事がある。合法の」
「我々が御願いしたいのは貴方の作った枷の解除。当然、此処からの移送とその後の潜伏も此方で手配致します」
「作った枷? ……奴隷の枷か」
察しがいい。自分が手がけた仕事くらいは頭に入っているのだろう。
「だけどそれを開ける鍵を造るにゃ此処じゃ道具が足りねぇ。逃げだそうってなら、表沙汰になる前に殺されてもおかしくないぞ」
そう難しい顔をするパークに対して、ヘイゼルは言葉を返した。
「此処でのビジネスは既に当局が嗅ぎ付けておりますので深入りは厳禁。依頼を受けて頂ければ証拠となる鍵も此方で処分してあげるのですよ」
そう言われると、パークとしても反論はない。彼女達の手際も良かった事だし。
「分かった。両方とも協力させてもらう」
「何か話し声がしないか」
「話し声?」
扉の前で見張りを続けている警備二人が、部屋の中でヒソヒソと何か言い合っているのを感じ取った。念のため、部屋の中を確かめてみよう。そういった最中である。
「あぁ、やはりこの手の警備は手間取るようね」
何者かの女性陣――美咲達が警備の目の前に踏み入った。
「な、何やっ」
警備二人は声を張り上げて叫ぼうとする。この状況で先手を取ったのはヒィロ=エヒトとリトル・ブラッドである。
二人は一方に攻撃を集中させ、怯ませる事に注力する。そうして隙が出来た警備を目の前に美咲が呪文を詠唱する。
「神気、閃光っ!」
激しく瞬く神聖の光は、警備員二人の眼を焼いた。怯んでいた方の警備員はそれをマトモに受け、そのまま倒れ込んでしまう。心配そうに様子を窺うリトル・リリー。
「し、死んでないよね?」
「大丈夫。峰打ち、ってヤツよ」
「美咲さん、さすがですっ!!」
手際の良さに、キャーキャー黄色い声をあげるヒィロ。
「く、ぐそ……」
気絶しなかった警備員の方は、命からがら笛を吹く。弱く鋭い音が鳴る。それを止めるべく、小さな妖精と小人が警備員めがけて思いっきり攻撃をかました。
「かーすどばれっとーっ!」
「ちょーっとの間、静かにしてもらうぜ!!」
「ぐわっ!?」
その体格差にもかかわらず、リリーは魔法の弾丸で警備員を地面に磔にし、鍵守はそのまま格闘術じみた戦い方で意識を刈り取った。
「何か音が鳴りませんでしたかな」
「いえ、聞こえませんでした」
訝しげにする好事家カルラと神妙な顔をするニーヴ。そろそろ催眠も解除されている頃か。不審な事もあって警備の者が部屋へ立ち入り、「念のため例の部屋に数名回します」といった相談がなされている。
これに幸いだったのは、ハクが美咲のファミリアーを連れてきてくれている事だろうか。味方が増援を察知し、回避するのは容易かった。
さて、脱出の事を除けば残った問題は一つだ。
「鍵は何処にあるか、でしたな。ミスターニーヴ」
もはや思考がよどんでいないにも関わらず、その話題を持ち出すカルラ。私兵を傍において彼はゆっくりと立ち上がり、飾ってあった猟銃を構えてニーヴとハクを脅しつけた。
「何処ぞから探りを入れるように頼まれたのでしょう」
商売人はこういった事になると聡い部分がある。だがニーヴとハクもイレギュラーズだ。
「ハク、避けて!」
「白々しい盗人め!」
戦闘に動いたのはほとんど同時。私兵が切り込んだのをニーヴが避けて、その隙をカルラが猟銃で撃ち貫く。マトモに胸元を撃たれたニーヴは血が混じった咳をしながらも、どうにか天使の歌――回復を紡いでその場を凌ぐ。
カルラが弾丸を込め直して、ニーヴを追撃しようとした所だ。
「……っ!?」
カルラは猟銃の引き金を引こうとするが、指が痺れた。傍に控えていた私兵も、驚いた表情をして固まっている。
「もっと手練れを雇うべきだったね」
ハクが行使した麻痺の魔眼。その視線に捉えられた者は蛇に睨まれたが如く動けなくなる。美咲達が部屋へ踏み入って、迅速に私兵やカルラの元へと詰め寄って彼らを取り押さえる。
「まぁ、こういった犯罪の証拠は手元に置いておくのが安心よね」
美咲はカルラの懐から鍵を奪い去る。目的の、破壊すべき違法な鍵だ。
「か、返せ」
カルラの懇願を意に介さず、美咲は手元に魔力を溜める。
「嫌よ」
その魔力に鍵に宛がわれると、甲高い音を立てて粉々に砕け散った。
●
銃声が鳴り響いて、正面玄関から大量の私兵が押し寄せるまでイレギュラーズは予め調べておいた逃走ルートでなんとか逃げ果せた。
「うーん、鍵を手早く残さず破壊する……美咲さんナイス!」
「ヒィロもよくやったわね。終わったら衛生スプレー……しても、さっぱりはしないだろうなぁ」
とはいえ、それには下水道など不衛生な道を通るハメになったが……背に腹はかえられない。
「で、この嬢ちゃんが――最近の騒動で助け出された奴隷ってヤツか?」
ローレットギルド。ガウを目の前にして難しい顔をするパーク。
「うん! 外せるん、だよね?」
「…………」
パークが難しい顔をしているから、リトル姉妹も段々不安げになってくる。
「いや、自分が造った枷を外せないなんて言わないさ。ただちゃんと道具を取り揃えてからだな」
「あー、まぁそういうもんだよな。鍵って」
パークの説明に頷く鍵守。鍵というのは道具が準備してあっても造るのに数十分以上掛かるのは珍しくない。色々と小難しい説明をしている最中にも、鍵守はしきりに頷いた。
「お前さん詳しいんだな」
鍵守に視線を移すパーク。
「なにせオレは鍵精霊だからな! 鍵と聞いて攻略できない鍵があったら鍵精霊失格だろ?」
鍵守は己の鍵についての知識や、ギフトについて打ち明けた。それを聞いたパークは、鍵守にこう頼み込んだ。
「お前さんが手伝ってくれりゃ、だいぶ短縮出来るかもしれん」
「なんだって?」
「詳しい事は後だ! 必要な道具を集めてから説明する!」
技術者とはよく分からない。何に使うか分からない道具や材料を近隣の鍵屋から取り寄せると、鍵守とパークはあれやこれや専門的な事を話し合いながら――ものの短時間で小さな鍵を造り上げた。
「え、もう出来たの?」
エディ達が四苦八苦しても開けられなかった枷が、こんな小さな鍵で開けられるとは思えない。しかし、パークも鍵守の表情は自信ありげだ。
「解錠方法、あんな構造になってたんだな。へへへ」
「おい、それは企業秘密だ」
鍵守が何やら新しい知識を手に入れたようだが……まぁ、さておき。リリーは受け取った鍵をガウの枷にはめ込み、力を込める。
――カチャリ。
枷は軽快な音を立てる。そうして、食い込んでいたガウの手首や脚から離れて、床にごとりと落ちた。
ガウは眼を瞬かせ、自由になった手首を目の前に翳す。様子を窺っていたエディやショウは大きく頷いて「依頼は完了だ」とイレギュラーズに告げる。
ブラッドは「やれやれ」と気疲れしたようにガウの隣の席へ座り、リリーは大喜びしながら、ガウの体に飛びついた。
「……これから、一緒にお外で遊べるよねっ!」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼お疲れ様でした。
GMコメント
●成功条件:
・『鍵師』パークを生存状態で救出。
・違法な鍵の破壊
窃盗に使われる鍵が既に製造されていると思われる。パークに聞き出すか、何らかの手段で捕捉せよ。
●ロケーションと傾向:
依頼はギルドローレットから始まる。一定時間の準備時間を経て、好事家の屋敷に向かい囚われているパークを連れ出す事が大目的である。
好事家の屋敷は幻想の金持ちよろしく私兵をいくらかも雇っており、真っ向から戦闘を挑む場合は屋内での対多数戦が想定される。
もしイレギュラーズの中に口の達者なモノがいるなら、何かしらの口実で好事家に接触し、陽動を謀る事も出来るかもしれないし、隠密が得意なら仲間と協力して非戦闘で救出・破壊工作を進行出来るかもしれない。
各々の得意分野から作戦を導きだすのがよいだろう。
●エネミー:
私兵*二桁
好事家が金で集めた私兵。良くも悪くもイレギュラーズにとって有象無象に近いが、その物量において真っ向からの戦いは時間が取られる。油断しすぎても戦闘不能に追い込まれるかもしれない。
もし戦闘になったら「パークを殺される事」や「鍵を何処かに隠される事」が一番警戒すべき事だろう。
『好事家』ズァ=カルラ
パークを匿った屋敷に人物。蒐集癖があり、パークの技術を見てそれを窃盗に使う事を考え出した様子。典型的な物欲の強い人物で、レアアイテムに目がなく、もしかしたらイレギュラーズの装備品に興味を向けるかもしれない。
また、表向きは“まだ”何も悪い事はしてないので、外に逃げられて第三者に助けを呼ばれると大変面倒。その場合は撤退せざるを得ない状況として依頼失敗となる。
ちなみにズァ=カルラにとってパークの存在は隠しておきたい様子。彼はお尋ね者だもの。
●NPC:
『鍵師』パーク
ガウの枷を造った鍵師。立派な枷や牢屋を造ったとの事だが、製造方法は企業秘密。
彼を救出して協力させれば、ガウの枷を外す事は出来るはずだ。
あまり良い扱いは受けてらしいので、救出さえ完遂すれば説得は容易だろう。
『狗刃』エディ
【不殺】を持った標準的な性能の前衛戦士。
ちょっとした隠密能力を有しているが、交渉面の駆け引きなど得意ではない様子。
ガウ:
リトルの関係者。
今回は枷が嵌められている為、戦闘能力は無い扱いとする。
何か考えがあれば、連れて行って交渉材料の一つに使えるかもしれない。
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