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シナリオ詳細

バウムクーヘン・フィロソフィー:探求編

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●豊穣でのお仕事
「あ、あうう……」
 ぱたり、と座卓に突っ伏して、橋場・ステラ (p3p008617)は呻き声をあげた。突っ伏すステラの頭の両隣には、大量の書類が積まれていて、これからさらにこの書類の確認をしなければならないのか、と思ったステラはうつぶせに顔を伏せた。
 豊穣、ここはステラの領地である。奉行所のようなデザインの役所の、その領主ようの執務室。まだ新品の香りの残る畳のそれが鼻孔をくすぐるが、しかしてそのさわやかな香りも、ステラの疲労を癒してくれるほどの効力はない。
 豊穣での騒ぎが終わり、ここも静かになるか、と思いきや……いや、確かに豊穣での事件は落ち着いたのだが、ローレット・イレギュラーズとしてのステラには、やれラサでは願いをかなえる色宝だ、幻想では奴隷市に古代獣や巨人の進軍だ、大きな事件が頻発する。いや、それだけならまだマシかもしれないが、小規模な事件とその解決の依頼は決してローレットから消えてなくなる事はなく、そうなると身体の休まる日はない。
 そのうえで、領主としての領地経営の仕事は蓄積してく。此方を処理し、あちらを処理し。空中庭園を利用した転移があるとはいえ、色々な国を行ったり来たり。某ランドの復興支援に資材を送ったり……は自分で選んだ仕事なので自己責任ではあるが、執政官も必死に書類仕事を手伝い、しかしてステラにもこれだけの書類の山が来る。
「ああ……つ、疲れました……」
 思わずつぶやく。「あ~~~」と悲鳴を上げて、一度上体を起こしてから、こんどはあおむけに倒れた。ぱたん、と畳を叩く音が聞こえて、窓から燦燦と注ぎ込む陽光が、畳の上に虹色のわっかを描いていた。
「ああ……うう、ああ……」
 あまりの疲労が、ステラから気力と思考力を奪っていた。ぽて、と畳に頬をつける。目に映る、畳の上の陽光の輪。
「バウムクーヘンだ……」
 ステラはぼんやりと、それを見ながら、呟いた。それからがばり、と起き上がる。座卓の隅に、視線を移した。そこには長方形の箱があって、「謹製・バウムクーヘン」なる紙が貼られている。執政官から、休憩の差し入れにどうぞ、と渡されたものであるが、ステラは疲労で濁った瞳でそれを見つめていた。
「……特産品……バウムクーヘン……」
 どろり、とした瞳でステラが言う――端的に言えば、ステラはこの時、死ぬほど疲れていた。

●鉄帝・北部
「というわけで、今日のお仕事は鉄帝の最新蒸気式(スチーム)バウムクーヘンオーブンの仕入れです」
「どうして」
 ジェック・アーロン (p3p004755)が胡乱気な瞳でそう告げる。ここは鉄帝、北部。春ながら肌寒く、溶け残った雪の見えるこの地に、イレギュラーズ達は居た。
「拙の領地の特産品にするんです。バウムクーヘンを。量産のために焼く機械が必要なんです」
 ステラはとつとつと語る。目は死んでいた。
「いや、バウムクーヘン……悪くはないと思うけど、どうして鉄帝まで……?」
 ジェックが尋ねるのへ、
「まぁ、確かに、機械をそろえるとなったら鉄帝か練達。汎用性がありそうなのは、蒸気で動く鉄帝の機械かしらね」
 エルス・ティーネ (p3p007325)が言った。
「でも、ジェックさんじゃないけれど。私達が鉄帝まで受け取りにくる必要ってあるの?」
「うーん、確かに鉄帝も、この辺は物騒だからね」
 オニキス・ハート (p3p008639)が言う。
「この辺は、あれだろう? ノーザン・キングスの領土と近いだろう? だから警戒するにこしたことはないと思うよ」
 オニキス・ハートの言葉に、アイシャ (p3p008698)は苦笑する。
「うーん、いくらノーザン・キングスでも、バウムクーヘンオーブンの納品を邪魔するとは思えないけれど……」
 と――。
「大変! 大変です!」
 わたわたと走ってやってきたのは蓮杖 綾姫 (p3p008658)だ。
「綾姫さん? どうしたんですか?」
 アイシャが尋ねるのへ、息を切らしながら、綾姫は言う。
「さ、先ほど業者の方が慌てた様子でやってきて、バウムクーヘンオーブンを乗せた荷車が、シルヴァンスの兵士に奪われたと!」
「ええ……」
「まぁ、大変ね。これではバウムクーヘンが焼けないわ」
 ほぅ、とため息をつき、頬に手をやるのはアシェン・ディチェット (p3p008621)である。
「……バウムクーヘン、焼けないの?」
 リュコス・L08・ウェルロフ (p3p008529)の言葉に、アシェンは微笑む。
「そうね、そうね。このままでは悪い人たちのせいで、バウムクーヘンが焼けないわ?」
「ゆるせない。バウムクーヘンを盗む人は、懲らしめるよ」
「バウムクーヘンが盗まれたわけではないのですが」
 ステラは苦笑しつつ、
「しかしこのままでは拙の領地の名産品のピンチです! 皆さん、取返しに行きましょう!」
 と、ステラの号令に、様々な思いを込めつつ、仲間達は頷くのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方のお仕事は、イレギュラーズ達の、バウムクーヘンオーブン発注(リクエスト)により発生した依頼になります。

●成功条件
 バウムクーヘンオーブンを取り返す

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●名声について
 此方では、鉄帝が舞台となりますので、鉄帝での名声が取得できます。

●状況
 領主としての仕事を行っていたステラさん。疲れからか、バウムクーヘンを領地の名産品にしようとぼんやりと決めます。
 そこで試しに、鉄帝製のスチーム(蒸気式)バウムクーヘンオーブンを仕入れ、豊穣へと運搬しようとしたのですが、よりによって鉄帝での受け取りの日、バウムクーヘンオーブンはノーザン・キングスのシルヴァンス勢力に奪われてしまいます。
 一刻の猶予もありません。ステラさんの領地の名産品のため、このシルヴァンス勢力を追いかけ、バウムクーヘンオーブンを取り返しましょう。
 皆さんはシルヴァンス勢力を追い、冠雪森林へと到達しました。此処から森林の中を探索し、シルヴァンス勢力に追いつき、倒すのです。あまり探索に時間をかけていると、逃げられてしまうかも……。
 作戦決行時刻は昼。足元は雪で覆われている他、シルヴァンス勢力が逃げこんだのは冠雪森林ですので、視界が悪くなっています。

●エネミーデータ
 犬の獣種 ×8
  獣人形状のシルヴァンス兵士です。突撃小銃を持っており、中距離ほどのレンジでの戦いを得意とします。
  最前線で戦う兵士と言った所です。数が多いですので、集中攻撃に注意しましょう。
  『出血』系統のBSも使用してきます。

 ウサギの獣種 ×4
  重火器で武装した、シルヴァンスの兵士です。遠距離レンジでの戦いを得意とします。
  威力の高い攻撃を行ってきますが、その分機動力や反応が低めです。

 羊の獣種 ×2
  様々なアイテムで、味方の能力を底上げしたり、治療を行う衛生兵です。
  いわゆるバッファー・ヒーラーの類。主に後方で援護を行っています。

 猫の獣種 ×1
  スナイパーライフルを装備した、シルヴァンスの兵士。超距離レンジでの戦いをメインに行動します。
  この集団のリーダーになります。狙撃による『痺れ』系統のBSの付与に注意しましょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のごプレイングをお待ちしております。

  • バウムクーヘン・フィロソフィー:探求編完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年05月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
※参加確定済み※
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
※参加確定済み※
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
※参加確定済み※
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
※参加確定済み※
アシェン・ディチェット(p3p008621)
玩具の輪舞
※参加確定済み※
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
※参加確定済み※
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
※参加確定済み※
アイシャ(p3p008698)
スノウ・ホワイト
※参加確定済み※

リプレイ

●取り返せ、バウムクーヘンオーブン!
「ふふ……ふふふふ……」
 戦う前から疲労にどろりと濁った瞳。『敏腕整備士』橋場・ステラ(p3p008617)は冠雪森林の雪を踏みしめながら、辺りをじろじろと見まわす。
「拙の領主としての仕事を邪魔するだなんて、良い度胸をしていますね?
 分かりました、泣いたり笑ったり出来なくしてあげましょう……」
「た、戦う前から相当疲れているね……ステラ……大丈夫かな?」
 『黒の猛禽』ジェック・アーロン(p3p004755)が心配げに声をあげる。頭に手をやって、苦笑した。
「日々のお仕事でお疲れなのでしょうね……ステラさんのためにも、バウムクーヘンを作ってさしあげたいです」
 『スノウ・ホワイト』アイシャ(p3p008698)の言葉に、ジェックは頷きつつ、
「うん、それはわかるけど……何でバウムクーヘン?」
 再びの疑問の声をあげるのへ、答えたのは『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)だ。
「バウムクーヘンは美味しいからだよ!」
「そうですね、バウムクーヘンは美味しいですものね」
 アイシャが頷く。
「いつもはステラに闘技場で吹っ飛ばされてる気がするけど、今日は忘れるよ! ちゃんと領地の事を考えてるステラは偉いと思うし、バウムクーヘンが焼けるオーブンもすごい! どうやってバウムクーヘンって焼くのかな? 焼きたてって美味しいのかな? 楽しみ!」
 ワクワクと告げるリュコスは、しかし次の瞬間、肩を落とした。
「でも、盗まれちゃったんだよね……ゆるせないよね」
「盗まれる、と言うのも、鉄帝のこの辺り……ノーザン・キングスの領土に近い場所だからこそのおはなし、かしらね?」
 『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)が、口元に手をやりつつ、いった。
「ああ、いえ……奪うだけならラサでも有り得るわね……。
 食糧が不足している地域だと……こんな事も起きてしまうのかしら?」
 むぅ、と唸るエルス。いや、食料が不足していてもバウムクーヘンオーブンは盗まないのでは? と思ったりもしたがそれはさておき。
「バウムクーヘンを食べたいのなら、ご一緒したい、って誘ってくれればよかったのだわ?」
 と、『玩具の輪舞』アシェン・ディチェット(p3p008621)はそう言いながら、足元に視線を移す。足元には、自分たちの足跡の他に、何か、車輪のようなものを転がしたみたいな平行な線と、大勢の足跡が残って見える。雪や草などで巧妙に隠されていたが、ディチェットのように注意深く探せば、それも見つかると言うものだ。
「シルヴァンスの人達が、こっちに向ったのは間違いないみたい。このまま足跡を探しながら、追うのだわ」
「今のところ、温度視覚には人みたいなものは引っかからないね」
 『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)が、前方へ視線をやりながら、言った。その視界は、温度を色彩で表した世界が広がっている。今のところ、人の体温を持つような姿は見当たらず、雪で冷えた冷たい色の世界が広がっていた。
「……なんか、バウムクーヘンオーブンの事を考えていたら、食べたくなってきたね。バウムクーヘン。早く取り返して、ステラの領地で焼き立てを食べよう……」
 オニキスがそう言うのへ、『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)が頷いた。
「きっと、ステラさんの領地の皆さんも、バウムクーヘンオーブンの到着を待っているはずです! 早く取り返しましょう!」
 と、言うのだが、果たしてステラが領地の者にバウムクーヘンオーブンを仕入れることを通達したかはわからない……と言うより、今回、割とステラの思い付きと言う所はあるので、意外と領地の民にとっても寝耳に水の話なのでは? と言う気がしないでもない。
「……しかし、何でバウムクーヘンオーブンなんて、シルヴァンスの奴らは奪ったのでしょう? 食べたかったのですかね? バウムクーヘン?」
 本日何度目かの疑問が、綾姫の口からついてでる。本当に、これはイレギュラーズ達にとっては謎だった――。

 一方、えっちらおっちらと、バウムクーヘンオーブンの乗った台車を引っ張る、獣化した犬の獣種たち。その先頭には、これまた獣化した――この部隊の獣種たちは、みな獣化している――猫の獣種が、スナイパーライフルを片手に、冠雪森林を行軍していた。
「あのー、リーダー」
 と、傍らにいた、ウサギの獣種が、猫へと声をかける。
「これってどう見てもバウムクーヘンオーブン……」
「シャラップにゃ!」
 猫が叫んだ。
「八人のローレット・イレギュラーズが極秘で受け取りにやってきた機械にゃぞ! ぜったい、鉄帝の秘密兵器に違いないにゃ!」
 現実から目を背けるように、猫が言った。
 そう、それが、イレギュラーズ達の疑問の答えである。彼らは、ステラたちローレットのイレギュラーズ達が物々しくも受け取りにやってきた機械を、何らかの秘密兵器に違いないとふんで奪い取ったのである!
「いや、どう見てもバウムクーヘンオーブンですわん」
 犬が言った。
「お腹減ったわんな」
「これ持ち帰ったらバウムクーヘン焼こうか」
「いいですめぇ」
 羊が頷いた。
「ゆだんするにゃ!」
 ぱしぱしと、猫が地面を猫パンチした。
「奴らはこの秘密兵器を取り返しにやって来るにゃ! 警戒を怠るにゃ~~!」
「いやぁ、こんなの絶対に取り返しに来ませんッて……」
 ウサギがそう言った瞬間、後方から、
「みつけました!」
 との声が上がった。慌てて振り返れば、そこには疲れからかすごいぐるぐるおめめでこちらをにらみつける、ステラの姿があったのだ!
「拙のバウムクーヘンオーブン!」
「げぇーっ! ほんとに取り返しに来たわん!」
「ほら見ろ、やっぱり秘密兵器だったにゃ!」
「いや、相手もバウムクーヘンオーブンって言いましたけど」
「会話から想像するに、不幸なすれ違いがあったみたいダネー」
 ジェックが胡乱気な瞳で見つめつつ、続ける。
「そう言うわけだから。返してくれれば、お互いこれ以上疲れないで済むんだけど」
「シャラップにゃ! じぇっく!」
「何で名前知ってるの? と言うかその呼び方と口調、何かを思い出すからやめてほしいんだけど」
 ジェックが頭を抱えた。
「バウムクーヘンオーブンとは、間違いない、何らかのコードネームと見たにゃ! ほんとは鉄帝の大量破壊兵器に違いないにゃ!」
「え、そうなんですか?」
 綾姫が尋ねるのへ、
「ううん、100%バウムクーヘンオーブンだけど」
 オニキスが言った。
「だまされねーにゃ!」
 地団駄を踏む猫。ぼふぼふと雪が舞う。それからばっ、と手をあげると、シルヴァンス達が一斉に武器を構えた。
「どっちにしても、人のモノを奪うのはよくないことだよ!」
 リュコスが言う。ド正論だ。
「食べ物の恨みは恐ろしい、と言うわね。どうやら、その身で味あってもらう必要があるみたい」
 エルスがゆっくりと、武器を構えた。
「本当は戦わずに済ませたかったけれど……すこし、懲らしめてあげる必要があるみたいね」
 ディチェットも、形のいい眉をあげて、むっ、と相手をにらむ。
「おなじ獣種どうし……それに、兎なんて、少し複雑ですけれど……!」
 アイシャが構える。一触即発の状態。ステラが声をあげた。
「これは、負けられない戦いですよ!」
 ぐるぐる眼。
「拙の領地のため、人々の安寧のため、バウムクーヘンのため! いざ、勝負です!」
 と、その言葉を合図に、双方は一斉に戦闘を始めるのであった――。

●バウムクーヘンオーブン争奪戦
「えーい、迎え撃つにゃ! うてうてうてーい!」
 犬たちが小銃を構え一気に引き金を引く。たたたん、と小銃がリズミカルに歌い、銃弾が宙を割いて飛ぶ。
 だだん、と音を立てて、銃弾が雪に突き刺さり、或いはイレギュラーズ達へお襲い掛かった! イレギュラーズ達は、それぞれ回避・或いは武器や防具でそれを受け止めて見せる。
「数が多いですね……まとめて打ち払い、それから攻勢に出ましょう!」
 ステラの言葉に、一行は頷く。
「じゃあ、アタシと」
「私で、血路を開きます!」
 ジェックが銃を構え、綾姫が刃を構える。
「アタシが撃つ。それから続いて」
 ジェックが撃ち放つ銃弾たちが、宙をかける! 放たれた銃弾の雨は不規則に降り注ぎ、前方に立つ犬たちに降り注ぐ!
「うっわ、あぶねぇわん!」
「なんて撃ち方するわん!」
「銃だけではありませんよ、我が権能、受けていただきます!」
 と、綾姫の周りに漂う塵が、動きを止めた。途端、その塵は刀のなりそこないのように固まり、刃物のようになって、宙を飛んだ。そのまま犬たちを切りつける!
「ぎゃわーん!」
「イヌイチロウー!」
 犬が倒された仲間の名を呼ぶ。ジェックはポリポリと頭を掻いた。
「何か、気が抜ける奴らダネー」
「バウムクーヘンオーブンを盗む方たちですし……」
 綾姫の言葉。さもありなん。
「だけど、油断できる相手でもないね。全力で撃たせてもらうよ」
 オニキスが言って、ぐっ、と大地を踏みしめる。構えた銃砲。
「接地アンカー射出。砲撃形態に移行。砲身展開。バレル固定。超高圧縮魔力弾装填」
 がこん、とスライドレバーを引く。チャンバーに魔力弾が装填。
「8.8cm大口径魔力砲マジカル☆アハトアハト、発射(フォイア)!」
 ずどん、と音を立てて、魔力弾が解き放たれた! オニキスのマジカル☆アハトアハト、それが宙を切り裂き、犬たちのど真ん中を突き進む!
 すべてをなぎ倒しながら、貫通していく魔力弾。触れた犬たちが、次々に吹っ飛ばされていく!
「ぬわーーん!!!」
「イヌジロウーー! イヌサブロウーーー!」
「これで道は開いた……いけるよ、皆」
 オニキスの言葉に、仲間達は頷く。
「うしろの羊さんたちがじゃまだよね? ぼくがいくよ!」
 リュコスが突撃する。その手に振るう影の爪、そして牙。速度を乗せた一撃が、杖を構えた羊の、杖を切り裂いた。
「め、メェーッ!?」
「バウムクーヘンを盗むなんて、だめなんだから!」
 続くリュコスの一撃が、羊を打ち倒して、雪の上に転がした。めぇ、とうめいて、羊が意識を失う。
「め、めぇ! ひつじのすけ! 今助けるメェ!」
 もう一人の羊が慌てて駆け寄ろうとするのへ、
「ロマンティックな夢は好きよ? 幸せな気持ちになれるもの。目覚めた頬はまっかっか、目覚まし時計はバラバラ――あなたもどう?」
 撃ち放たれたディチェットの麻酔弾が、羊の腕に突き刺さった。
「め、めぇ、くらくらするめぇ、もうだめだめぇ……」
 羊がふらふらと揺れて、倒れ込む。
「おやすみなさい? 良い夢を」
 優しく微笑むディチェット。そこへ、ウサギたちからの重火器の砲撃が跳ぶ。どん、と放たれたバズーカのような弾丸が地面に突き刺さり、小規模な爆発を引き起こした。足元の雪が粉塵となって飛ぶ。
「もう、乱暴だわ!」
「大丈夫ですか……!?」
 癒しの歌を歌い、アイシャはディチェットの傷をいやす。それから、シルヴァンス兵士たちへ視線を向けて、声をあげた。
「泥棒さん、オーブンを返して下さいませ。
 もしもバウムクーヘンを食べたいあまりに盗んでしまったのでしたら、あなた達の分もお作り致しますから……!
 どうかステラさんからバウムクーヘンを奪わないで下さい。
 バウムクーヘンは、今のステラさんにとって生きる希望なんです!」
「いや、そこまででは……」
 一瞬、正気の目に戻ったステラが呟く。
「確かにバウムクーヘンは食べたいけど、もう事態はそんなこと言ってられる状態じゃないにゃ! これはもう、猫の意地だにゃ!」
「もう、わかりあえないのですか……!?」
「避けられない戦いもあるにゃ!」
「すみません、もうちょっと付き合ってやってください」
 ウサギがぺこぺこと頭を下げた。
「かなしいですけれど……しかたありません……! であったのが、この様な場所でなければ……!」
「悲しい戦いだにゃ……!」
「これはバウムクーヘンオーブンを巡る戦いなのでは?」
 流石に胡乱気な表情をするエルス。
「それはステラさんにとって、この大事な計画の核を担う特別なものなわけよ、だいたいあなた達にそれが扱えるのかしら?」
「わん? そう言えば、誰かこれの使い方知ってるわん?」
「さぁ……」
 案の定、と、げんなりした表情を見せて、額に手をやるエルス。
「特産品が生まれて、それが売れたなら、ここもきっと豊かになる……バウムクーヘン事業が軌道に乗れば、必然、バウムクーヘンオーブンの需要も増える。需要が増えれば雇用が生まれて、貴方達も真っ当な仕事にありつけて、お金も稼げるわ。そういう思いがステラさんにはあると思うの。貴方達のことも考えてのことなのよ」
「え、ごめんなさい、拙そこまでは」
「とにかく!」
 ステラの言葉を、エルスは遮った。
「そんなステラさんの思いを踏みにじるなら、私も容赦はしないわ!」
 エルスが大鎌を出現させ、それを片手に突撃する。振るわれた魔力を込めた一撃が、持っていた重火器ごとウサギを斬り、打ち据えた!
「こんな部隊、帰ったらやめてやるーっ!」
 ウサギが悲鳴を上げながら昏倒。
「くそーっ、まけるにゃ! うてうて! はんげきにゃー!」
 猫の号令一下、シルヴァンス兵士たちの反撃が始まる。撃ち放たれる銃弾、砲弾。しかしそれらは、イレギュラーズ達を止めるには不充分である!
「マジカル☆アハトアハト! 撃つっ!」
 オニキスのマジカル☆アハトアハトが再び火を噴いた。フッ飛ばされる犬たち。
「悪い子は、お仕置きだよ!」
 リュコスの爪が、ウサギを打ち払う。ぐわー、と悲鳴を上げてウサギが昏倒。残る犬も、
「おやすみなさい。寝冷えをして風邪をひかないようにね?」
 ディチェットの麻酔縦断が貫いて、昏倒させた。
「ば、ばかにゃ! 我が精鋭が!」
 猫が地団駄を踏む。ざっ、とその目の前に、ステラが立ちはだかった。
「むむむ……お前、この兵器を……何に使う気にゃ……」
「決まってるでしょう?」
 どろり、と濁った眼で、ステラが言った。
「世界平和……じゃなくて、拙の領地の特産品のためです!」
 どん、と効果音が出てきそうなくらい、胸を張って、ステラが言った。何も間違っていない。そもそもこれは兵器ではない。バウムクーヘンオーブンなのだ。バウムクーヘンを焼く以外にどんな使い道があるというのだろう。
「バウムクーヘンオーブンは渡さないにゃ!」
 最後の抵抗とばかりに、猫は拳銃を構えた。が、その引き金を引く前に、ステラの放った黒の大顎が、拳銃もろとも猫へと食らいつく!
「ぎにゃー! まいったにゃー!」
 猫は悲鳴を上げて、昏倒する。どさり、と猫が雪の上に倒れる。ステラはそれをどろりとした眼で見つめながら、ふぅ、とため息をついた。
「戦いは、いつも空しいものですね……」
 そう呟く。
 空は無駄に晴れ渡り、無駄にさわやかで冷たい風が吹いていて、無駄になんか悲しい戦いでもあったかのような気分になった。
 実際には、バウムクーヘンオーブンの取り合いをしただけなのだが。

●そして、次なる工程へ
 かくして、一行はバウムクーヘンオーブンを取り返すことに成功した。
 バウムクーヘンオーブンの乗った台車を引き、ついでに倒したシルヴァンス兵士たちを縛り上げて台車にのせて連れていき、鉄帝側の当局へと引き渡す。
「名産品のバウムクーヘンができるの……祈っててやるにゃ……」
 猫はなんか、悟ったような顔で、ステラにそう言った。
「ありがとうございます、ねこさん……」
 ステラもなんか、目の端に涙を浮かべながら、そう言った。なんか歴戦のライバルとの悲しい別れに見えた。実際にはさっき会ったばかりなのだが。
「それはそれとして」
 ジェックが言う。
「今日はバウムクーヘンオーブンの受け取り。この後は、領地に納品するんだね?」
「そうね……とはいえ、これをもって空中庭園のワープは難しいかもしれないから、普通に海路を使って豊穣まで?」
 エルスが言うのへ、
「なんだぁ、すぐにバウムクーヘンが焼けるわけじゃないんだね……」
 リュコスが、残念そうに言った。
「でも、特産品を作るってワクワクするわよね……。
 私も自領地ではいつもこんな感じ! 楽しくなるのよね!」
 エルスの言葉に、ステラが頷いた。
「はい! なんだかとっても楽しいです!」
 ぐるぐる目。
「バウムクーヘンを作るにしても、色々材料が必要だものね? でも、早く作る所が見たいわ? どうやって動くのかしらね、このオーブン……?」
 ディチェットが言うのへ、オニキスが頷いた。
「うん。バウムクーヘン、どうやって作るのかな? すごく興味があるよ」
「では、皆さん、このままバウムクーヘンオーブンの運搬を続けましょう!」
 綾姫が言うのへ、
「ええ。領地に戻ったら、とびきり美味しいバウムクーヘンを作りましょうね?
 ふふっ、とっても楽しみです♪ 」
 アイシャが微笑んで、頷いた。
 かくして、一行は、バウムクーヘンを作るための第一歩を踏み出した。
 これから皆に、どんな困難が待ち受けているのだろうか?
 それはまだ、誰にもわからない。
 負けるな、ステラ! くじけるな、イレギュラーズ!
 最高の特産品バウムクーヘンを作り上げる、その時まで!

成否

成功

MVP

アシェン・ディチェット(p3p008621)
玩具の輪舞

状態異常

なし

あとがき

 リクエストありがとうございました。
 皆さんのバウムクーヘン焼きの旅は、これから始まるのです!

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