PandoraPartyProject

シナリオ詳細

藤隠し

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●なきごえ
 藤の名所の大きな社はこの季節、とても美しい紫を纏う。近隣に住まう人々は見頃となると神社へと足を伸ばして、思い思いに藤花を愛でるのだそうだ。
 だからだろうか。近くの山の中に、存在を忘れられた藤があった。それは美しい藤なのだという。
 しかし、時折見つけた誰かが話題にしては……それっきり。
 人はみな、神社の美しい藤を見に行ってしまう。
 人はみな、その頃に稀に人が失踪しているこに気が付かない。

 ざああ、ざあざ。
 藤花が揺れる。
 ざざあ、ざああ。
 泣き声めいた音をたてて。
 
●ある男、ある母
 神社の裏手のあの山さ、行ったことがあるだろう?
 ああ、春の花見や秋の行楽にも良いからな。桜が散った後は俺も全然足を運ばんかったんだけどよ、ちょいと前に神社で藤を見たついでに行ってみたらよ、大層ご立派な藤の木があったんだ。
 人に話すのが惜しくなるような藤だ。俺ァはお前にだから言うんだぜ?

 こら、あんた。また神さんの裏山へいったね? いつも駄目だと言っているのに、本当に利かん坊なのだから。まったく、誰に似たのかしらねぇ。
 でもね、本当に駄目よ。神さんの山ではたまに神隠しが起きるのだから。何度も行ってるけど大丈夫だって? こら! あたしはね、あんたのことが大切だから言ってるんだよ。何かあってからじゃ遅いんだからね。
 ……え? 藤が泣いている、だって? なぁに言ってるんだい。そんなはずがないだろう? ほら、莫迦言ってないで手伝いな。

●ローレット
「ウィスタリアは良いわよね、美しいだけでなく愛らしいもの」
 そうは思わない?
 艶やかに微笑んだ『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は、あなたたちに頼みたいことがあるのと話を続ける。
「子供を探してほしいの。行方不明になってしまったそうよ、ウィステリアミストのように」
 依頼主は子供の母親で、子供の名は貫太と言う。ちょっとした悪戯はするが、快活で親の手伝いをする性根の良い少年である。面倒見も良く、村の小さな子供たちの相手をよく買って出てくれているのだそうだ。
 その日も、手伝いを終えた少年は遊びに出た。けれども、いつも必ず日が暮れる頃には帰ってくる少年が、翌朝になっても帰ってこない。心配した母親は『神隠し』にあったのではと案じている。
 少年とその母が住む地域では、時折行方不明者が出る。忘れた頃くらいに、人がいなくなるのだ。それを神隠しと言う者も居るが、都にでも旅立ったのだろうと言う者も居る。
 ――しかしそれは、決まって藤の花が咲く頃に起こるのだ。
「マドンナブルーな顔で心配しているわ。無事に見つけて、安心させてあげて」
 少年は最近、藤の名所の神社の裏山に行っており、藤の話を母親にしている。
 一応少年たちが住まう村の者たちも調べてはいるが、そこに何か痕跡が残されているかもしれない。
 何か手掛かりがあれば良いのだけれど、と顎へと指を滑らせたプルーは、首を傾げながらあなたたちを見た。
「行ってくれるかしら?」

GMコメント

 ごきげんよう、イレギュラーズの皆さん。壱花と申します。
 皆さんには藤に攫われて頂きます。どんなに生命力溢れる方でも、儚く攫われます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●成功条件
 藤花迷宮を無事に抜ける
 少年を保護して連れ帰る

●ロケーション
 森の中にある藤の木の前からスタートになります。
 眼前には立派な藤の木。美しく花を垂らし、佇んでいます。つい見上げて、暫く眺めていたくなるような美しさです。
 しかし、ぶわりと風が吹いて藤の花がざわわと鳴いたなら――あなたは気付けば違う場所へ。
 前後左右、どちらを向いても藤、藤、藤。紫色の藤花迷宮に攫われてしまいます。
 あなたは行方不明となった子供を探しながらこの迷宮を抜け、外へと出なくてはなりません。
 時折こどもの声が聞こえるような気がしますが、藤が揺れているだけかもしれません。

●藤花迷宮
 どの身長でも『胸のあたりまで藤花が垂れてくるなあ』と感じられる不思議な迷宮です。
 時折『ひとらしき』姿が見えます。座って藤を見上げていたり、寝ていたり、散策していたり……しますが、生気らしきものは感じられません。触れれば藤の花となってその身は崩れて消えていきます。
 最奥には森の中で見た大きな藤があります。

●藤の精
 最奥の藤の下には5歳くらいの、可愛らしい女の童がいます。この藤の木の精です。
 お兄ちゃんと遊んでたら知らない人いっぱいきた。ふええ、こわい。

 少女を倒すのは、同じ年頃の子を手にかけるのと同じくらいの難易度です。
 藤の精を退治しても藤の木自体に影響なく外に出られますが、数年は花を咲かせません。迷宮内の藤が傷ついた場合は『外』の藤の木に同じだけの被害が出ます。

●少年
 名前は貫太。10歳くらい。
 女の子が寂しそうにしていたから遊んであげています。
 藤の精を守ろうとするでしょう。

●ご注意
 心情系になります。
 このシナリオにはいくつかの失敗へのトリガーがあります。
 最善を目指す、もしくはそれを引かないよう行動して頂ければ、良い結果が迎えられることでしょう。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • 藤隠し完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ヴァールウェル(p3p008565)
妖精医療
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
新妻 始希(p3p009609)
記憶が沈殿した獣

リプレイ

●藤唄
 柔らかな風が、藤の花を揺らす。
 美しく花を垂らす藤は穏やかに揺れ、ざああと花たちはざわめきあった。
「これは見事ですね」
 藤を見上げた『竜胆に揺れる』ルーキス・ファウン(p3p008870)が、思わずホウと感嘆のため息とともに言葉を零せば、ローレットでともに依頼を受けた仲間たちも同意を示して頷いた。
「本当に美しい花ですね」
 あまり藤をゆっくりと眺めたことがないのだと出発時に話していた『妖精医療』ヴァールウェル(p3p008565)も愛おしげに金の瞳を和らげる。連なる藤の花は美しく、ただの花見であれば本当にゆっくりと眺めていたい。そう思っているのはヴァールウェルだけではないはずだ。『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)も、本当にと頷いた。
「こんなに美しいのに、この藤があまり見られないというのも少し勿体ない気がしてしまいますね」
「そうですね。こんなに素敵に咲いているのに、誰にも見て貰えないのは……やっぱり寂しいんじゃないかしら」
 藤の名所が近くにあり、そちらで沢山の藤が見られるとなれば、ひと足が無いのも仕方がないのかも知れない。しかし、忘れ去られて消えかけたことのある『鏡越しの世界』水月・鏡禍(p3p008354)には他人事のようには思えず、悲しげに瞳を細めて、労るように幹を撫でた。
 各々思い思いに藤を見上げたり、立派な藤の幹の裏に依頼された子供が居ないかと見て回り、そうして再度藤の前に揃った時――周辺の木々を轟々と鳴らすような強風が吹いた。
 髪を、藤を、激しく揺らす風に、反射的にまぶたを閉ざせば――。

 てんてん、てん。
 手鞠を突いて、少女がわらべ唄を紡ぐ。
 てんてん、てん。
 少女が突く様に、少年は上手い上手いと楽しげに笑って手拍子を打つ。
 唐突に、ふ、と。少女が顔を上げ、少年は首を傾げた。
「どうしたの?」
「……だれか、きたみたい」
「誰かって?」
「わからない。けど……」
「ふぅん? まあいっか。今日はいっぱい遊ぼうな!」
「うん!」
 悪い気配では、ない。
 だから、迎え入れましょう。
 おいで、おいで。
 そうしてわたしと遊びましょう。
 あなたがわたしを愛してくれるのなら、ずっと、ずぅっと。
 どこにもいかないで、ずぅっと一緒に居てね。
 どうか、わたしを忘れないで――。

●藤花迷宮
 強風が収まったことを肌で感じながら瞳を開ければ、そこは――。
「……ど、どこですかここ?」
 パチリと緑の瞳を瞬かせた『記憶が沈殿した獣』新妻 始希(p3p009609)は、慌てて周囲を見渡した。辺りは藤の花がいっぱいで――と言うよりも、『藤の花しかない』。つい先刻。目を閉じる一瞬前までは仲間も居たはずだ。それなのに、彼等の姿すらない。
 藤色に染まる景色の中にひとり、始希はぽつんと、佇んでいた。
「こんにちはー! いきなりお庭に入ってごめんなさい! 迷子を捜してたら迷子になってしまった人達です!」
 もしかしたら誰かのお庭かもと思った始希は、ひとまずよく通る声を意識して明るく元気に挨拶をしてみる。しかし返る声はなく、眼前の藤がさやさやと揺れるだけだったため、「気を付けて探させてもらいますー!」と声を投げて歩き出そうとした。
 その時、眼前に垂れた藤の花が、暖簾を分けるようにスッと割れた。
「ああ、よかった。始希さんに逢えた」
「ルーキスさん!」
「あっ、お二人共! 急に皆さんが居なくなってしまったので吃驚しました」
 別方向の紫から蜂蜜色が覗き、ホッとしたように碧眼が人懐っこそうな笑みを作る。『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)だ。
「ウィズィさんも! よかった。知らないお庭に来てしまって、少し不安だったのです」
「ここ、誰かの庭ではなさそうですよ」
「そうなのですか!?」
「私も違うと思います。どちらかと言うともっと不思議な……とりあえず、調べるためにも見て回りましょうか」
 私はマッピングをしていきますねとウィズィが申し出て、お互いに出来ることをしようと伴に歩き始めた。

(ここは普通の空間ではなさそうね……)
 垂れている藤の花をかき分けていくらか進んだ『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は、先程から抱いている違和感が正しいものだと判じた。藤棚となっていたとしても、見上げても藤しか見えず、しゃがんでも藤しか見えないというのはおかしい。何かの力が作用した迷路のようなものではないだろうか。だとしたら、行方不明の少年はここへ迷い込んでしまったと考えて良いだろう。
 藤花の中を歩けば、ひとの姿が時折見える。それは近付いた時には消えている幻のようであったり、話しかけても何の反応を返さない。人のようであって生気は感じられない、『人らしき』もの。
「触れると藤の花になって散ってしまう……、作り物?」
 事前に村で聞き込んだ行方不明者の男性に似た姿を見つけ、その肩に触れて声を掛けてみたが、その姿は藤の花となって消えてしまった。
 違和感は、もうひとつ。
(――居なくなった時の姿のままだったわ)
 男性が居なくなったのは、もう二十年も前だと言う。年老いているだろうから解らないかも知れないけれどと、前置きとともに当時の姿を聞いたというのに――これは一体どういうことだろうか。
「こんにちは、ここで何をしているんですか?」
 声が聞こえた方へと向かえば、鏡禍が人らしきものへと話しかけている。それは返事を返さないけれど、彼は気にした様子は見せず、次へ、その次へと、人影を見つけては声を掛けていっているようだ。
「あ、アルテミアさん」
 何か反応があるひとは居たかと声をかければ、鏡禍は静かに髪を揺らして否定する。けれどそれでも鏡禍が声を掛け続けるのは、もしかしたら彼等も藤の一部で、掛ける声が藤へと伝わるかも知れない。誰かに声を掛けられることによって、藤の寂しさが少しでも紛れるのではないかと思ってのことだ。
 ――ポロン、ポロロン♪
 どこからともなく聞こえる、美しい竪琴の旋律。
 何だろうと首をかしげる間にもふたりの元へと次第に近付いてきていることがわかり、何か新たな不思議現象が起きているのかも知れない、とふたりは警戒をする。
 けれども。
「ハァイ、おふたりさん。ここにいたのね」
 見えた姿は知った顔。
 演奏を止め、珠簾のように手の甲で藤花簾をさらりとかきわけたジルーシャが、美しい笑みとともにかんばせを覗かせれば、ふたりは詰めていた息を吐きホッと笑みを見せる。
「ふたりはどう? 何かわかって?」
 アタシはそうねぇとジルーシャが話すのは、近くに話しかけられる精霊がいないか試したことだ。結果としては応えるものはなかった。けれどそれは、この迷宮を形成している唯一の存在がどこかに居るということでもある。もしくはここ自体が――その精霊の『中』か。
「とりあえず、皆と合流した方が良さそうね」
 ポロンと竪琴を爪弾いて歩くこと、暫し。
 揺れた藤花の奥から美しい金が覗いた。
「ああ、皆さん」
 髪よりも明るい星色を和らげたヴァールウェルが合流し、一行は四名となった。
 彼もまた、ジルーシャと同じ試みをした。そして出た答えも同じもの。
「同族の気配は感ぜられるのですが、全てが靄に掛かっているように遠く感じます」
 まるで春の明け方の靄のようだと垂れる紫を手ですくい、けれどと白皙に睫毛の影を落とす。
 ――けれど確かなことがひとつある。
 この迷宮の主には、こちらを害する気が微塵もないことだ。

(この藤は……只の迷子という訳じゃなさそうだ)
 藤たちの揺れるさわさわと心地よい音が響く空間で辺りを見渡した『救いの翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)は、さてどうしたものかと一考した。考えたところで進むほかはないのだが、只の迷子でないのならば友好的に見えるように振る舞うのが良いだろうと判じて、極力のんびりとした足取りで、藤を楽しげに見て回る体を意識することにした。
「嗚呼、それにしても美しい」
 時折足を止め、藤を愛でることも忘れない。
 そっと手を伸ばして花に触れ、顔を寄せれば芳しい香り。
 甘くて華やかな香りを歩く度に身に纏いながら、歩を進めていけば――ポロン。美しい竪琴の音色がミニュイの耳にも届いた。
 竪琴の音に全員が集い、得た情報を共有しながらイレギュラーズたちは迷宮を進んでいく。
「――今、子供の声がしませんでしたか?」
 ルーキスの声に、全員は口を閉ざして耳に意識を集中させる。
「あら、ほんと。確かに子供の声が聞こえるわね」
「楽しげに遊んでいるような声ですよね」
 あっちから、とルーキスとジルーシャが指差す方向は一致した。
 イレギュラーズたちがふたりの聴力を頼りに向かう方角を決めて歩けば、藤の帳は次第に晴れていく。

 そうして立派な藤の木の下に、少年と少女を見つけた。

●いとし
「あ、貫太くん見っけ! かわいこちゃんも初めまして!」
 両手を振りながら近寄るウィズィの姿に大きく身体を震わせた少女を、少年が庇うように背中に隠す。知らない大人が、何故か自分の名前を知っている。
「……あんたたち、誰? なんで俺の名前、知ってるんだ?」
「あなたのお母さんに聞いたからですよ。こんにちは、貫太くん」
 少年と少女たちの傍へとゆっくりと近寄ったイレギュラーズたちは近すぎない距離で足を止め、彼等に合わせて身を屈めたりしゃがんだりして挨拶をする。大柄の始希にいたっては伏せの姿勢だ。
「ハァイ、こんにちは。アンタが貫太ね。それからそっちの子は……お名前、なんていうのかしら?」
 問いには答えず、少女が少年の着物を不安げに掴む。それに気付いた少年が、少女の手を優しく握った。大丈夫だよ、と告げるように。
「この子は『お藤』。俺、お藤と遊んであげてるんだ」
 な? と貫太に顔を向けられた少女が、控えめにこくりと頷く。貫太に名前を聞かれた時自身の本質を答えた少女――藤の精だったが、どうやらそれが名前だと思われたらしい。
「お母さんが心配してたよ、一度帰って顔を見せてあげた方がいいんじゃないかな?」
「母さんが心配? どうして?」
「どうして、とは……? 日が暮れたら子供は家に帰るべきだよ」
 幼い頃に時間を忘れて遊んだ経験は、ミニュイにもある。友達と遊ぶのがとても楽しくて、一日中どころか次の日もその次も、それこそ永遠にその時が続けば良いと思えた。けれど親を心配させてはいけないし、孝行息子の彼にならそれだけで足りると思っていた。
 しかし、貫太は不思議そうに首を傾げるばかり。
 もしかして、と気付いた始希が言葉を足した。
「ここは外の時間が分からないから貫太くんは気付いていないかもですが、貫太くんが日が暮れても帰って来ないってお母さんは心配してて、村の人達も探しているんです」
 心配をして自分たちで出来るだけ探し、それが難しいと判断してから依頼を出して、イレギュラーズが集まって現地へ向かい――数日は経っているはずだ。
「……? 俺、まだそんなに遊んでいないよ?」
「……おにいちゃんをつれていくの?」
 少女の声に、警戒の色が強く滲む。
 ざわり、と。藤の花が風もないのに音を立てた。
「ううん! 綺麗だから遊びに来ちゃっただけだよ!」
「……ね、よかったらアタシ達も遊びに混ぜて頂戴な。鬼ごっこもかくれんぼも、大勢いた方が楽しいでしょ?」
「あそんでくれる、の?」
 すぐにパッと笑ってみせたウィズィと、彼女とともに頷いて遊びを提案するジルーシャの顔を、藤の精は交互に見る。その瞳には迷うような色がある。期待をしてしまってもいいのか、と。
「でも……」
 寂しい思いをしてきた藤の精は、一時の楽しさの後に訪れる酷い寂しさも知っている。楽しいからこそ、更に寂しくなってしまうのだ。
「心配しないで、大丈夫よ。お藤ちゃんが寂しい思いをしない方法も遊びながら考えるから」
 約束、と差し出される小指。
 藤の精はジルーシャを見て、貫太を見上げて。
 それからおずおずと自分から前へ出て、幼い指をジルーシャの白魚めいた指へと絡めた。
「うん、やくそく」
「よかったな、お藤!」

「こっちこっち! おにさん、こちら!」
 薄い藤色の袖を揺らして、幼い少女が楽しげに駆ける。
 藤の精が楽しめる速度で追いかけていた始希は、「あっ」と上がった声に反応して素早く駆けた。
 躓いた藤の精は次に襲い来る痛みに目を閉じるも、その痛みはいつになっても訪れない。ゆっくりと瞳を開ければ、ふかふかな始希の腕の中。藤の精がありがとうと告げる前に、始希は捕まえたと朗らかに笑った。
「藤さんはここの外へ出ないんです?」
「おそと?」
「藤さんが外へお出かけできれば、貫太くんや皆さんと遊べますよ」
 きょとんと始希を見上げた藤の精は、始希の言葉に泣きそうな顔になる。
「だれもわたしにきづいてくれないの。みんなわたしをわすれるの」
 時折、貫太のように気付いてくれる人が居る。けれどそれは、とても稀なのだ。人が来ること自体が少なく、偶然波長が通じた人のみが気付いてくれる希薄な存在だ。それに、遠くにはいけないのだと藤の精が告げる。
「……俺は忘れません。また遊びましょう」
 みんなのところへ戻りましょうと、抱えたまま移動して。
「とてもたのしかったの。……だからおにいちゃん、わたしさびしくないよ」
「お藤、母さんが心配しているみたいだから俺は一度帰るけど、また遊びに来るからな」
「うん」
 今日は、たくさん遊んだ。手鞠で皆で遊んで、指遊びをして、綾取りをして、それから鬼ごっこ。たくさん駆けて笑って、とても楽しかった。
「おにいちゃんとおねえちゃんたちも、ありがとう」
 けれどやっぱり、お別れは寂しい。先程まで笑顔で溢れていたのに、藤の精は悲しげに笑う。
「また、遊びに来ますね。お祭りやお花見は好きですか?」
 しゃがんで顔を覗き込んだヴァールウェルの声に、うんと頷く声が返る。
「みんなにこにこ、にぎやかはすき」
「でしたら、村の人にお願いしてみます」
 ですから、人を勝手に連れてきてはいけませんよと優しい声音とともに小指を差し出せば、「やくそくする」と小さく指が絡んだ。
「僕も村の人に話してみます。こんなにも綺麗なのですから、みんなきっと藤を見たいって思ってくれますよ」
「私もちょいちょい来るからね。……っと、出来た。ほら、友達の証!」
「これ、わたし?」
「そうだよ、可愛く描けているでしょ?」
 これと同じ絵を村の人に渡しておくねとウィズィが告げれば、アルテミアが神社の人にも渡しましょうと提案をする。神社の神主に経緯を説明して周知させれば、神社で藤を見たついでに寄る人も増えるだろう。そこへ続く路の整備が必要ならば、アルテミアは手伝いも申し出るつもりだ。
「貴女が寂しい思いをしないように、贈り物をしてあげるわ」
 それに、神職につく者になら藤の精の姿が見えるかも知れない。精霊との共存は周辺の環境にとっても良いものとなるはずだから気にかけてあげてと伝えれば、きっと話し相手や遊び相手も見つかるはずだ。
 別れはいつだって惜しくなるが、あまり長居しすぎる訳にはいかない。
 今日は帰るねと手を振ってから、別れ際にそういえばとルーキスが口を開いた。
「お兄ちゃんより前に、ここへ来た人はいる? その人は今どうしているのかな」
「みんな、いるよ」
 ルーキスの言葉に、藤の精がふくふくとした幼い指を向ける。イレギュラーズたちが来た方角だ。やはりあの『人らしき姿』の者たちがそうなのかと、イレギュラーズたちは顔を見合わせた。
「みんな、もうはなさなくなっちゃった……けどね、やくそくしたとおり、ずっといっしょにいてくれるの」
「その人の『ともだち』が外で待っているから、一緒にお家へ連れて行きたいんだけど、いいかな?」
 ふるり、少女の頭が振られる。
「駄目?」
 ふるり。
 駄目ではなく、『できない』だ。
「みんな、ここにしかいないの」
 連れていこうとしたところで、彼等の身体は既にない。
(過去神隠しで人間が消えている。けれど、今も藤の精が寂しがっている。というのは、そういう事だよね)
 人はこの空間で長くは生きられない。この空間と『外』では時間の感覚が違う。ほんの少し貫太が遊んでいただけでも数日経っているのだ。この空間で数日過ごせば、『外』では年単位で時が流れ、その時の流れは同じだけ人の魂へ作用しているようだ。
「それなら少し、外で賑やかにしてもいい?」
 神社の人を呼んで、弔うことはできる。知らないおじさんたちがたくさん来て、太い声で歌うかも。なんて告げれば、藤の精はくすくすと微笑った。
「またね、お藤ちゃん」
「また、美しい花を見せてくださいね」
「それじゃあ、お藤。また明日」
「うん。またあした」
 明日は、お外で遊ぼうね。
 少年と少女の小指が柔らかく結ばれ、そうしてそっと分かたれた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

シナリオへのご参加、ありがとうございました。

『いとし』と書いて藤の花、です。
たくさんの優しさに溢れるプレイングをありがとうございました。
おつかれさまでした、イレギュラーズ。

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