シナリオ詳細
深雪に途惑うシュネー・フラオ
オープニング
●シュネー・フラオ
春過ぎて、夏の気配を感じようとも大森林地帯『ヴィーザル地方』には穏やかさを感じさせることはない。貧しい地たるその場所は雪深さがまだ残り、寒さを感じずには居られない。
その中でも寒暖の差さえ感じぬ過酷に適した身を持っている女はフードを目深に被りずんずんと雪原を突き進んでいた。
「イエティ、彼等の作戦は簡単だったわね。
まあ、頭もあまり良くない種でしょう。ノルダインは。野蛮だもの。……ふふ、奴らと連合王国だなんて虫唾が奔るのは貴方も同じね?
この地を治めるは勇猛果敢なる誇り高きハイエスタだけで良いのですから!」
口癖のように女――アンナ=マーヤは繰り返した。雪女と呼ばれた誇り高きハイエスタ。
シンプルな装飾の藜の杖に薄氷を思わす瞳を覆い隠す長髪はミルクシフォンケーキの様な柔らかさ。
伸ばしっぱなしの前髪は、年頃の娘のお洒落さからは懸け離れ、妖精使いとしての鍛錬にばかり意識が言っていたことを感じさせる。
「イエティ……」
ずんぐりむっくりとした巨大な像は「グオオ」と唸って彼女に返した。
「ノルダインが言っていたわ。『あの地に向かえば、ノーザンキングスの王たる証明がある』と。
……ハイエスタとしてソレは保持しておきたいわね。ええ、ええ、そう致しましょうとも!」
――どう考えても騙されていることに、彼女は気付かない儘。
●
「聞いてってくれる?」
ひらりと手を振った『サブカルチャー』山田・雪風 (p3n000024)は眠たげな眼でぱしぱしと瞬きを繰り返しながらイレギュラーズに呼びかけた。
「実は、ヴィーザル地方……ノーザンキングスっていう連合王国が牛耳ってる鉄帝の一角ね。
そこでノルダインって呼ばれる戦闘民族が高地部族であるハイエスタに『おしえた』らしいんだ。
それがどう考えても騙されている、というか、困った感じでさ……」
ヴィーザル地方では三つの種族が小競り合いを繰り返す。ハイエスタ、シルヴァンス、ノルダイン。いざこざばかりの彼らは時に手を取り合い鉄帝を相手に戦い、時に互いの足を引っ張り合う。今回は後者である。
誇り高きハイエスタの妖精使い『アンナ=マーヤ』は雪女と称される美しい娘であるが、ハイエスタらしくプライドが高い。そして、そのプライドには似合わぬほどに頭の螺旋が少し緩いのである。
「まあ、騙されてるのがどういうことかって言うと、アンナ=マーヤはノルダインが狙っている湖畔の村へ行くらしい。
そこには『ノーザンキングスの王たる証明がある』とか言われているけど、まあ、そんなことも無く……。
ちらちら邪魔をして暴れ回るハイエスタをついでに潰して、村から略奪と蹂躙をして……それから、アンナ=マーヤが連れてる妖精、雪男(イエティ)を奪うつもりらしい」
巨躯のイエティは戦力としては十分だ。妖精使いで非力なアンナ=マーヤとタッグを組めば確かに強敵ではある。
その狂暴さを利用すれば村々を襲うことも容易になるとノルダイン達は踏んだのだろう。
「二度目、なんだけどさ」
アンナ=マーヤは一度、イレギュラーズと邂逅している。シルヴァンスに騙されて出陣した際に『あの高名な雪女!』とプライドに差し障らない程度におだててやや戦闘をしながら穏便にお帰り頂いたのだ。
今回も同じパターンだ。アンナ=マーヤが村に到着してしまえばノルダインは進行するだろう。
だが、アンナ=マーヤがイレギュラーズに足止めされて離脱したとなれば、イレギュラーズが留まるであろう村を襲うのは得策ではない。今回は何処かで隠れ見て居るであろうノルダインへとアンナ=マーヤと相対する様を見せ付ければ良い。
「アンナ=マーヤは騙されてるぞ! とか言っても理解しないし、寧ろ怒ると思うから、そこは、まあ、おだてて上げて……。
ノルダイン達はイレギュラーズって聴けば今回は退いてくれると思う。
アンナ=マーヤがイレギュラーズと懇意にして居るように見せかければ一番。
村の蹂躙と一緒にアンナ=マーヤを襲ってイエティを奪えないって理解するだろうしね」
面倒だろうけれど、と雪風は肩を竦めた。彼女を勇猛果敢なハイエスタとして扱い、誇り無きノルダインがアンナ=マーヤを足がかりに村を襲う切欠としようとしている事や濡れ衣を着せられる可能性を示唆してやれば彼女のプライドを傷付ける事はないだろう。
「まあ、今回もオーダーとしては、さ、アンナ=マーヤとイエティを追い返して欲しいって感じかな。村を守る為にも、どうかよろしく」
- 深雪に途惑うシュネー・フラオ完了
- GM名日下部あやめ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月16日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
初夏の気配を漂わせるヴィーザルの風が頬を撫でる。足首を擽る草のざわめきを通り過ぎてから『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は嘆息した。
この地方には大きく三つの部族が存在し、其れ等が徒党を組んだり小競り合いをしたり。面倒さに拍車を掛けるように『小競合い』の側の仕事が降って湧いてきたのだ。
ハイエスタ――雷神の末裔を称する高地部族は誉れ高く、勇猛果敢であるそうだ。妖精使いやドルイドが多いこの部族の女、アンナ=マーヤが『また』も他部族に乗せられたと言うのだから。
「……なんとも面倒な女ですね。実に『ハイエスタらしい』凍り付いた頭脳を持っているようですが、それが力を持っていて、尚、面倒です」
ハイエスタは誇り高い。故に他を見下す傾向がある。其れだけなら叶わないが妖精使いとしても名高いというのだから実力があるだけに対処に困る。
「まあ……アンナちゃんったら……また騙されちゃったのねぇ……」
苦く笑いを浮かべた『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)の傍らで何処か困った顔をしたのは水精ウンディーネ。水の気配を纏いふわりと漂う天女の如き娘は逸れでも嫌いではないのでしょうとジルーシャへと揶揄うように。
「ええ……真っ白で人を疑うことを知らないような、純粋な――ホント、雪みたいに綺麗な子。
とっても可愛くて素敵だと思うけれど……だからこそ心配になっちゃうわ」
妖精(せいれい)を使う彼女に興味が無いわけでは無い。一度目の逢瀬では誉れ高き中に甘さを感じては居たが『二度目』になれば苦い笑いも浮かぶというものだ。
「アンナさん。悪い子ではないみたいだけれど。誇り高いのと、ほんのちょっぴり、血の気が多いのかしらね……」
こてりと首を傾いで『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)はそう言った。悪い子ではない、という言葉へと『春疾風』ゼファー(p3p007625)はうんうんと頷いた。
「あわてんぼうというか、猪突猛進というか……相変わらずみたいね。ま…だからこそ『悪い子じゃあない』んでしょうけど、ねえ?」
「まるで春一番の風みたいだわ」
ラヴに違いないとゼファーは揶揄い笑った。長い銀髪を風が揺らし撫で付ける。『悪い子』ではないが、乞うも騙されやすいとなれば本人の性格的な問題も大きいだろう。
「まあ……なんというか……誇り高いが故、というやつかしら?
他者にぶつける、という形で騙されてるうちは実力はあるようだからまだ良いとして。
そのままでは何れ直接自身が狙われる時がくるでしょうし、このままではそうなった時にどうにもならなくなりそうね」
肩を竦める『月花銀閃』久住・舞花(p3p005056)の言い分は尤もだ。アンア=マーヤは其れなりの実力を有するが、何れは非道な罠に掛るときが来る。ジルーシャは「心配ねえ」と頬へと手を添え溜息を吐き舞花も小さく頷き返す。
「うっかり屋さんなのかな……まあ、私もあんまり人のこと言えないけどね」
頬を掻いて小さく笑った『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は「できるだけ穏便に事をおさめたいね」と仲間達を振り返る。湖畔に吹いた風が嵐のように木々を荒らす。その中に感じた白雪の気配は『彼女』の訪れを告げるか。
「凄腕の妖精使いなら、お話とかしてみたいし!」
「そうだね。むむむ……。なんとかこちらの言い分に納得してもらって早期にお帰りいただきたいところだね……」
『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)はふる、と小さく震えた。僅かな寒さ、それは白いずんぐりむっくりとした『精霊』を感じさせた。
その精霊の名は――イエティ。
「イエティのためにももっと自分を大事にしてほしいって、今度こそ伝えなくっちゃ」
ジルーシャは雪が降る直前の冷たい空気のように、それが現われたことに気付いた。
「まったく、ノルダインも悪辣な事を考えるものね……。
睨み合う状態から抜け出したいのは分かるけれど、よりによって謀略で事を運ぼうとするとは、誇りも何もあったものじゃないわよね」
其処まで口にしてから『額面通りに受け取るアンナ=マーヤもどうなのか』という言葉を飲み込んだ『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)は眼前に見えた美しき白雪のような娘をその鮮やかな空色の双眸へ映して。
●
ミルクシフォンケーキのような柔らかな長髪は風に揺らぐ。薄氷の眸はイレギュラーズを映して僅かに彩を帰す。
「何方……?」
首を傾いだ彼女の纏ったヴェールはふわりと揺らいだ。その姿は正しく白雪のように美しい。「アンナ=マーヤ、私のことは覚えてる?」とゼファーは偶然に出会ったように粧って微笑んだ。
「このだだっ広いヴィーザルでまたまた会っちゃうなんて、ちょっとした運命感じちゃわない?」
「覚えてるわ。驚いたの、皆さんお揃いでって感じだもの……お名前は、生憎知らないけれど」
肩を竦めるアンナ=マーヤは「私ったら世情に疎いの。何せ、此処はヴィーザルですもの」と付け加える。軽口には付き合う『余裕』はあるようだ。それもこれも、彼女は偶然に出会っただけと思い込んでいるからだろう。
「アラ……!? ハァイ、久しぶりね、アンナちゃん。それにイエティも」
大げさに口元を押さえてから柔和に微笑んだジルーシャにアンナ=マーヤは「お久しぶりね」と応えを返す。傍らのイエティもアンナ=マーヤに合わせて静かそのものだ。
「……! この方が、アンナ=マーヤさんなの!? 当代一の妖精使い、雪女のアンナ=マーヤ……!?」
わ、と驚き息を飲んだラヴは「何て美しいの……」と聞こえる程度の声音で囁いた。薄氷の眸がちら、とラヴを見て僅かに自信げに細められる。
「ええ、私は『雪女』、アンナ=マーヤ。……それにしても、貴方達はイレギュラーズでしょう。どうして此処へ?」
不思議そうな表情を見せたアンナ=マーヤにマリアはこの調子ならば『出来るだけの対話』でお取引頂けるだろうかと舞花を見遣る。
こくん、と小さく頷いた舞花は戦闘に備えてイエティを見据えていた――流石にイエティと話しても意味が無いことは分かるが、ノーマークで居るのも危なっかしいからだ。
「アタシたち、ノルダインがこの村を狙っているって聞いてきたのよ。何でも『ノーザンキングスの王たる証明』があるらしいのだけれど……この辺りの精霊たちはそんなもの見たことないって言うの」
ぴくり、とアンナの指先が動く。精霊達も聞いたことがないという言葉に反応したのか彼女は「イエティ」と囁いた。
「アンナちゃんも聞いてみてくれない? ……同じ妖精使いだし、この土地の精霊たちの声はアタシよりよく聞こえる筈だもの」
「ええ、ええ、けど……『貴方達も其れを狙いに来た』のね?」
睨め付けるその眸にオリーブは「少し落ち着いて下さい」と彼女を宥めた。美しいかんばせに浮かんだ疑いはイレギュラーズに向けるべきではないと彼は前置く。
「ノルダインが狙っている場所のすぐ近くにそんな物があるなんて、都合が良過ぎませんか?
それにそんな物があるなら、誰にも伝えずノルダインの連中自身で回収するでしょう。あるいは貴方に手を汚させ、自分達は悠々と略奪……なんて事も?」
「……そうね」
オリーブにとって、その言葉でアンナ=マーヤが何も疑う事をしなかったならばどれ程に『凍り付いた頭脳』なのかと疑う程であった。だが、一応は彼女も物を考え、道理を見るか。悩ましげに考えを巡らせる様子には僅かな安堵を覚えた。
「そんな凄いものがあるとしたら、きっと普通の道具じゃないよね?
何らかの魔力を秘めてるとか……そういうもののはず。アンナさんは優秀な妖精使いだって聞いてるよ。
それなら、そんな魔力とかが感じられないのはわかるよね? アンナさんなら、此処に在るかどうか解ると思うんだ」
自分たちとて『王の証明』の所在は分ってはいない。けれど『優秀なアンナ=マーヤ』なら。アレクシアの言葉に僅かに気を良くしたアンナ=マーヤはもう一度「イエティ」と囁く。
ルチアが視線をやればイエティは『空間』に向かって何かを話し始めていた。
イエティに周辺を探って貰って居るのだろうか。巨躯の獣がアンナ=マーヤを護る様にぐうと小さくなく声を聞き、舞花は「イエティは何と?」と問い返す。
「……信用するか迷ってるのよ。貴女達だって私を騙している可能性はあるわよね?」
「うう……どうか信じてもらえないだろうか? 無いものは無い。私達にはどうすることも出来ないんだ。
もし仮に君の言うように王たる証明などという物がこの地にあるなら、とっくに持ち出されているとは思わないかい?」
マリアは「聡明な君ならなんとなく察しているような気もするけど」と付け加えた。実力が認められていることは心地よい。何とも言えない満足感を覚えるアンナ=マーヤはううーんと唸った。
「あの、私達は先程村に寄って来たけれど……とても、そんなものがあるような所では無かったわ。
そうよ、真に王たる器に反応するならば、アンナさんがそれを感じられない筈がないでしょう? それに、私達はノルダインからこの村を護りに――」
は、とした様にラヴはアンナをまじまじと見遣った。『村の護衛』である自分たちと、『王の証明』を取りに来たアンナ=マーヤ。
「! まさか、ノルダインの策略? 私達、嵌められたの……?
私達を倒したアンナさんを、村の護衛を襲った張本人と仕立てあげる気ね……私達が敵わないと知って……!」
ラヴの眸が真摯に告げる。其処に嘘はないと察知してアンナ=マーヤは「私が、犯人に……?」と問い返す。
「さっきも言ったけど、ノルダインがこの村を狙ってるんだ。このままアンナさんが長居すれば、きっとハイエスタは濡れ衣を着せられちゃうよ」
「――ノルダインと貴方達、どっちも信用ならないのよ!」
苛立ちを滲ませたアンナの背後からイエティが飛び出した。彼女の感情に『反応』を示して主人を護る為に飛び出したか――
●
巨躯の腕を振り下ろしたイエティを眼へと映して『水月』の境地に至った舞花は流れを制して斬り伏せる。攻防一体の構えをとり、深く息を吐く。
「……アンナさんを落ち着かせねばなりませんか」
その足に力を込めて、地を蹴った。軟らかな土へと爪先が食い込む感覚、次いで、風が肌を撫でる。
(少し暴れたら満足して帰ってくれないかな……イエティ君も『戦うため』にコンディションを整えてきたのだろうしね……)
マリアは「ごめんよ!」と声を掛けた。パチパチと音を立てたのは彼女の体から発した電磁力。
紅雷は限界出力を越えて放電する。初夏のヴィーザルを蒼褪める蒼雷状態への移行。軌跡を描きイエティへと鋭い蹴りを叩き付ける――が、寸での所で腕に弾かれる。
「イエティ君はアンナ君を守っているつもりなんだね。君のご主人様は『迷っている』ようだけれど」
ぐう、と獣が鳴く声がする。ゆっくりと歩み出したラヴはイエティをまじまじ見遣ってから『アンナ=マーヤを目にしたときから変わらぬ感動』をそのかんばせへと浮かべ続ける。
「彼がイエティね……強大な力を感じるわ……!」
夜を鞣した外套は星の色と月の香りを纏わせて。ぽろりと涙一粒落ちれば夜を織った拳銃に力を与え続ける。
大切なパートナーのことを認めることもお忘れ無く。蝕みの術を放ったラヴを一瞥するアンナ=マーヤの眼前へとゼファーが滑り込む。
至近距離、身の丈の程のひとふりは、女の横面を撫でるのには丁度良い。
「この間は消化不良だったでしょう? だから、今回はもっと愉しませてあげるわよ」
「む、むう!」
子供が地団駄を踏むような。そんな気配と共に魔力が放出された。雪女と呼ばれる所以。六花がふわふわと舞い落ちる。
「蛮勇のノルダインが態々小賢しい手管を駆使したという事は、彼らは貴女とまともに戦っても勝てないという事。その力は流石ね、ハイエスタの誇り高き妖精使い」
褒め湛える舞花はイエティは素晴らしいとでも云う様に微笑んだ。アンナ=マーヤは気分が良くなってくる。
流石は主を守る存在だ。イエティはアンナ=マーヤを護る為に前線へと飛び出している。ゼファーの接近を許したことを悔んでいるかのようにも見えるイエティへと向けて、オリーブの三次元的な空間機動より繰り出した空中殺法が放たれる。
「アンナさんも驚いたし、腹が立ったと思う。だから、満足するまではお相手するから。落ち着いて?」
ね、と微笑んだアレクシアはイエティの拳を受け止めるべく前線に立った。
コルチカム・アウトゥムナーレ。魔力の花弁がその白き体を穿ち続ける。毒花の残滓が風に掻き消えれば、イエティが更なる怒号を発した。
勝手に騙されて、勝手に暴れ回る。そんな身勝手であれど、誉れ高き彼女が『家族』の為を思ったのならば全てを否定は出来ない。
サポーターであるルチアはアンナ=マーヤは真っ直ぐな娘なのだと感じていた。支援を施し、イエティの攻撃を受け止めるアレクシアを見据える。
(……イエティが満足しないのかしら)
暴れるためにやって来た。実力を発揮しなくては帰るに帰れない妖精の暴れっぷりが激しくなって往く。
イエティが暴れ回る中で、アンナ=マーヤは頭を抱えていた。
つまり――『イレギュラーズ達はアンナ=マーヤと戦うようにと仕向けられている』というのだ。優しい嘘だ。
「私達はあくまで『ノルダインから村を守りに来た』の。つまりノルダインがこの村を襲撃しようとしているという情報がある。
けれど、ここに来たのは貴女。……可笑しいとは思わない? まるで、私達とぶつけようとしているようだもの」
「何だか、もう、どっちにも腹が立ったのよ。ええ、ええ、誇り高き私を馬鹿にしてるみたいで!」
実際に馬鹿にされているのだろう――とは舞花は口が裂けても言えやしなかった。
「アンナに聞きたいのだけれどね。っていうか。そもそも、そんなのがあるって伝承でもあったワケ?
本当にあったとして、こんな特徴の無い村にある様には思えないのよね!」
「――確かに!」
ぴた、と足を止めたアンナと同時にイエティも動きを止める。『こんな村』の言葉に激しい同意を覚えたのだろうか。
オリーブは矢張り彼女の頭脳は凍り付いているのではないか、と感じていた。確かに、イレギュラーズを全面的に信用しろというのも難しい話だが、形振り構わなくなれば『納得できる方』を信頼するしかあるまい。
「アンナさん、私達の倒すべき敵はノルダインよ! ここは一時休戦しましょう……!」
其の儘、動きを止めたアンナ=マーヤは「信頼するわ」と小さな声音で溢す。
「……貴方達、私達を傷付けすぎないようにと気を配っていたでしょう? なんでだって考えていたけれど、そうよね。私達、敵じゃないって事よね?
私達を騙して混乱させて倒そうとしているわけでも、宝物を独り占めしようとしているわけでもないみたいだもの」
分っていたの、と問うたルチアに「私は『雪女』、誉れ高き戦士だもの」とアンナ=マーヤは胸を張る。
故に、此処で戦いはお終いなのだと杖を背負い直してアンナ=マーヤはイレギュラーズをおずおずと見遣る。
「その……疑って御免なさいね。二度目だから、どうにも疑ってしまったのよ。都合良く私の前に現われるものだから……」
「いいや、良いんだよ。その、アンナ君が自分で気付いてくれたのならば其れだけで満足だ」
にんまりと微笑むマリアに満足して引いてくれるのならば其れで良いとオリーブも頷く。
「アンナさん、避ければ妖精の使役術とか教えて欲しいな! 魔法について、聞いてみたかったの!」
「……む、む。でも長居をすればハイエスタは濡れ衣なのでしょう。なら、またよ」
アレクシアは「また」と彼女が告げた言葉にぱちぱちと瞬いた。彼女の纏う空気が柔らかくなったようにも感じられる。
満足したかと問うたマリアにも「暴れてすっきりしたわ」とアンナ=マーヤは友人と語らうかのように肩を竦めて笑っている。
「出来れば、次に会う時は仲良くお喋りでもする暇を持ちたいものね?」
ゼファーの言葉に、くるりと振り返った『雪女』は「聞いても良いかしら」と囁いた。
「――私が、もしもノルダインやシルヴァンスに襲われたら助けてくれる? イレギュラーズの……あ、今度は名前、教えなさいよ」
「ええ、勿論。ね、今度は直接アンタに会いに来ていいかしら? せっかくこうして知り合えたんだもの、アタシ達と友達になって頂戴な♪」
にんまりと微笑んだジルーシャが手を差し出せば、軽い握手の後、アンナ=マーヤはイエティの元へと走り寄る
「次は『喧嘩』なんてしないで済むと良いわよね」と揶揄い笑って手を振った。――どうか、無事でいてとアレクシアは願わずには居られなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
この度はご参加有難う御座いました。
アンナ=マーヤは皆さんにとても興味を持っております。良き友人になれるような、そんな気をさせて。
また、ご縁がありましたら何卒宜しくお願いします。
GMコメント
日下部あやめと申します。
アフターアクション有難うございます。
前回は『吹き攫うシュネー・フラオ』登場したアンナ=マーヤとイエティです。
●成功条件
イエティ、『雪女』にご帰宅頂く
●『雪女』アンナ=マーヤ
ミルクシフォンケーキの様な柔らかな長髪と薄氷の瞳を持った鉄騎種。
妖精使いと呼ばれており、氷や雪を好み使役するために雪女の異名を持ちます。
儚げな風貌をしていますが勇猛果敢なハイエスタとしての誇りを胸に抱いています。
彼女自身はハイエスタの優秀さを示し、ノルダインとシルヴァンスなど必要ないことを示すべくノルダインの提示してきた情報に従っています。(本人は何処か抜けたタイプの女性である事が伺えます……)
後衛タイプ、イエティの支援を行います。
●『イエティ』
大柄な雪男。妖精です。アンナ=マーヤが使役しており、非常に凶暴で強力です。
アンナ=マーヤを護るように立ち回り、ハイエスタ以外の種族に対しては非情です。
前衛タイプで拳を武器に立ち回ります。とても凶暴な性質です。
●現場情報
ヴィーザル地方に存在する湖畔の村。ノルダインが標的とした地の程近くです。
アンナ=マーヤはその地に「王たる証明」があると信じています。そんな物はなく、嘘の情報だと教えて上げて下さい。
此の地を狙い、イエティも略奪しようとするノルダインはイレギュラーズとアンナ=マーヤ&イエティが懇意にしていると聞けば今回は手出しをすることはしないでしょう。
野蛮なノルダインが嘘を吐いてハイエスタを愚弄していたと知ればとても怒り、八つ当たりを行ってくる可能性があります。ある程度相手をして上げて満足してお帰り頂いて下さい。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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