シナリオ詳細
<幻想配達人>白い配達人
オープニング
★
歓声がスポットライトに集中していた。
中心に立つのは一人の少女。長い髪をなびかせて、ありがとうございました、と叫ぶ声は涙で湿っぽい。
今回のライブも大成功。沢山の人が自分の歌で喜んでいくれている。……順風満帆といったところだ。
けれど、でも。足りない。控室で膝を抱えて、ぎゅっと胸元を掴む。
心の奥がじくじくと痛む。キリキリと鳴いている。
最後に彼に会ったのはいつ頃だろうか。世界一の歌姫は、遠くに出かけていったままふらりと消息を絶った一番の大好きな人のことを思い出す。
いや、ずっと、ずっと。忘れることなんてできなかったんだ。華やかな舞台の裏でも、自分の気持ちは雨模様のままで。
空を仰ぐ。気持ちにまるで沿っているような、大きな灰色の雲。
飛ぶ鳥の姿を一つ、二つ、目で追ってはため息をつく。
手紙を出したのはいつの話だっただろうか。半年は過ぎたような気も、ついさっきだったような気もする。
返事をください、と。書き綴った言葉が空中に頼りなさげに揺れていた。
今日に入ってから三度目のため息をついて、頭を振って。仕事はまだ終わっちゃいない。
スタッフの声に答える私は、いつもの陽気な自分で居られただろうか。
★
此処はあらゆる世界をしきつめた、綺羅星のような、ミルフィーユのような世界。
法律、価値観、生きているものさえも一つ一つ違って。けれど一つだけ同じものがある。
鳩が舞う、鳩が舞う。絶望も、希望も全てを織り込んで。
届けるは手紙、届くのは思い。伝えるのは言葉。そして、夢。
誰かに、何処かに、そして此処に、白い封筒と手紙を届けに来る。
そのくちばしには一通の手紙を。その翼には抱えた想いを。
それは叶わぬ思いを伝える一筋の糸。もう一度、を現にする世界。
手紙配達を望むものが居る限り、何度でもいつでも鳩は飛んでいくのだ。
その物語は<幻想配達人>。
けれど、そんな彼らにも生活があり、日常があり。……そして、限界がある。
★
『たすけてください ひとでがたりず こまっています』
そんな手紙が境界図書館へと舞い降りたのは先日のこと。これを受けた『ホライゾンシーカー』ポルックス・ジェミニは君達を集めたようだった。
「今回の依頼は、鳩さん達からよ! 彼らはこの世界の中で配達のお仕事を毎日毎日頑張っていたみたいだけど、最近お手紙が多くてちょっと手が回っていないみたいなの」
だから、イレギュラーズには彼らの代わりに手紙の配達をして、仕事を手伝ってほしい、と。そういうわけである。
「大事な想いを運ぶものだから。出来れば大切に運んであげてね。あと……」
運ぶ手紙の世界の中には戦乱の真っ只中だったり、危険な生物が生息するような場所もたくさんある。そういったものに襲われないように、白い翼のアクセサリーを何処かに身につける必要があるのだという。
「これがあれば配達人と認められ……セキジュウジ? そうね、それについては分からないけど、おんなじような物かな?」
もちろん、自らが白い翼を持っているのであればそれでも構わない。ポルックスは告げて、君達を小さな旅へと誘うだろう。
ともかく、沢山の人と鳥とで繋いで、紡いできた気持ち。今か今かと手紙が届くのを待っている沢山の人々のためにも、一刻も早く手紙が届かねばならないのだ。
- <幻想配達人>白い配達人完了
- NM名金華鉄仙
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年05月09日 22時20分
- 参加人数4/4人
- 相談4日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
★
「うーん、鳩らしい服装ってどんなのだろうな?」
助っ人のためと設えられた小さな小部屋、支給された小さな翼のアクセサリーを眺めながら。『蛮族令嬢』長谷部 朋子は首を傾げた。
郵便配達という時点で少し変わった依頼だが、それでもお伽噺のような言い伝えは嫌いじゃない。戦うことは朋子がいつもしているように武器を振るうことだけではないということを、彼女はよく知っているからだ。
兎も角清潔さは大事だろうか。白を基調として揃えて。鏡の前でくるりと一回転、仁王立ち。
完璧だ……。と一人悦に浸っていると、くるる。少しだけいつもより控えめな鳴き声とともに、マジ・ス・ゲートリが窓の外から顔を出す。
彼(?)も配達人というか、鳩をモチーフとした白い衣装で着飾られている。首元にはスカーフ、そしてピン留めされた翼のピンバッジ。
普段は鳩らが使うものらしく、ゲートリが身につけるとまるでおもちゃみたいになってしまうけれど、まあそれはいいだろう。
彼女らは手紙を受け取るため、思いを肌で感じるために空から、自身らが呼ばれた世界へと飛び出していった。
白く染まる視界。肌に感じる風は涼し気なものから少しだけ煙臭いものへ。そして暫くとチリチリと火を感じたあと、一気にふわりと青が広がる。
眼下に広がるのは美しい景色、ではなく。打ち捨てられた奇妙な機械の山だ。混沌に比べれば空気が悪い。人の姿は見られず、些かと不格好で無骨な世界。
それでも何処かふくらんだ熱気が伝わってきて。……遠くにぽつんと集落が見える。きっと、待っているのは彼処だろう。
ゲートリに加速を指示しながら、頃合いのタイミングで朋子は上空から飛び降りた。
まどろっこしくなったのだ。
「おっじゃまします!!! 宅配便でーっす!!」
「ひゃぁ!?」
「おっとぉ!? 大丈夫?」
目をまんまるにした女性が手紙を地面にばらまいて尻もちを着く。風に舞いかけた紙束の一枚を朋子はひっしと掴んで、地面を少しばかり砕きながら華麗に参上する。
にっこりと笑いながら朋子が差し出した手を恐る恐る取った女性は、彼女が鳩の使いだと知れば少しだけ引きつった笑顔を浮かべながら紙束と、真っ白な便箋一つを朋子に託した。
紙束は全て写真だ。生まれた息子の写真、初めて立ち上がったときのもの、1歳の誕生日。
傍から見ているだけでも苦労の多そうな世界だが、それでも写真に映る子供は幸せそうで。
きっと、彼女のくたびれたポニーテールは苦労と努力の証だろう。
「貴方のような力強い方なら、きっと大丈夫でしょうか。戦地に旅立った夫に手紙を届けていただきたいのです」
自分の名前はヘルガ、夫の名前はイーサン。少し色褪せた家族写真にはいかにも生真面目そうな男性が、不器用な笑顔を浮かべていた。
「戦はいつ終わるか分かりません。けれど、せめて彼を安心させてあげたいと思って」
「分かった。任せて頂戴! 返事の手紙もちゃんと持って帰ってくるから、大船に乗った気持ちで居てよ!」
切実な思いに応えるように自身の胸を叩き、青空のような笑顔。ひらりと手を振ってから手紙と写真をバッグにしまい込み、遅れてたどり着いたゲートリの胴体に飛び乗った。
広い空を、巨大な鳥が悠々と飛んでいく。
少しだけ晴れてきたその空を眺めながら、ふと思いついて持ってきたカメラを撫でる。
旦那さんに笑顔を持っていくのであれば、きっと妻の彼女にも旦那の笑顔を見る権利があるだろう。
少しだけ微笑んで、朋子はさらにスピードを速めた。
☆
「おや?」
「うむ。どうやら……」
『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデと『紅獣』ルナール・グリムゲルデは行く先を二人で確認しあい、不思議なこともあるものだと奇遇を笑った。
彼女らの行き先は同じ世界。街がいくつもいくつも繋がった一つの国の、互いに譲れない理想を掲げて争い続ける二つの勢力がある世界。
受け取り手はその中でも同じ男性で、彼の妻と子供が今から向かう送り手だ。
「まさか鳩の真似事を夫婦揃ってすることになろうとは……」
「たまにはいいじゃないか。それに、私達への依頼にぴったりだと思わないかな?」
思わず真顔になってしまうルナールに、ルーキスはからりと微笑む。
自らの白いキャスケットを軽く手で抑え、同じように白い――こちらは一時的に染めているだけだが――二対の翼を揺らしてみせた。
ちらりとルーキスはルナールの格好を眺める。真っ白なスーツ、赤いネクタイ。少し短めのズボンに、頭には自らのものと揃いのキャスケット。
意外と服装を揃えてみれば、絵になるのかもしれない。仏頂面だけは頂けないが、それは自分がうまくフォローすればいいだろう。
「危ない場所はお手の物だしね。さあ、急ぐとしよう!」
「仰せのままに。……此処かね」
街と街の、なにもない荒野を歩いて暫く。城門を潜り抜け、密やかなマーケットを通り抜ける。
何の変哲もない、こじんまりとしたレンガ造りの家があった。ルーキスがノックをすれば現れたのは、きらきらと目を輝かせたまだ幼い少女の顔。
その期待に満ちた顔に答えるように、ことさらに笑顔を作る。
「ぽっぽー、可愛いお嬢さん。お手紙を貰いに来たよ」
トドメとばかりに翼をばさり。謎の鳩パペットがぱくぱくとするのにルナールはぎょっとしたが、反面少女からは歓声に近い声が上がる。
「はと……さん! 来てくれたの? おかーさん、おかーさん! はと、はと来たよ! あのおまじないほんとだった!」
「へ? ……あら、そのバッジは……」
そして少女は奥へとバタバタ小鼠のような勢いで向かい、母親と思わしき女性を引っ張り出してくる。
彼女らが二人の相手となる送り手なのだろう。それならば、ルナールも覚悟を決めねばならない。
「あー、手紙の回収に来たぞ」
そう仏頂面ながらもこわばった笑顔で女性に声をかけ、手を出しだした。
あとは手はず通り。彼女らから手紙を受け取って、送るだけ。だけなのだが。
「ありがとうございます、鳩の方。これが手紙です。あちらで番の方が受け取ってらっしゃるゲルダ……娘のものと、私のもの。両方うちの旦那のなんですけどね。少しばかり私の話、聞いていってくださいよ」
「確かに、受け取った。……って、うん?」
「皆さんは手紙と一緒に思いも連れて行ってくれるんですよね。亭主ってばこんな小さな子ども置いて何年も帰ってこないんです。どっかで事故にでも遭って死んでないか私は心配で心配で……」
心配と少しばかりの怒りが混じったような語調で女性は捲し立てる。あまりの勢いに軽く怯みながらも頭を掻いて。
「うーーん、内戦だしなぁ…旦那も早く帰りたいとは思ってるんじゃないか?」
「まあ、そうなんですけどね。でも、手紙にも書いたんですけど、どうか鳩さんからも一言言ってやってください。早く帰ってこいって」
「……まあ、任された。無事に戻ってくるようにって伝えておくさ、アンタのためにも、子供のためにも」
大事な人と離れ離れになったときに感じる寂しさも、ソワソワと落ち着かない心配さも理解できる。
そう頷いた所で頬に何かがあたり、思いっきり押し上げられる感覚。
「笑顔が硬いぞ、ルナール先生?」
手紙を受け取り終わったルーキスが後ろからルナールのほっぺたを持ち上げてもにもにと揉んでいた。
あまりの唐突さと、豪快なフォローに思わず苦笑が漏れる。
「表情が固いのは何時もの事だ」
けれど。妻の期待とあらば応えないわけにはいかないだろうか。
少しばかり考えて……。気合を入れるように手を握りしめ。
「よし!お嬢ちゃんの手紙もお母さんの手紙も頑張って届けてくるっぽ」
「…………ふふ」
可愛らしく見えたのだろう、ルーキスは小さく笑ったが、唐突な冗談に少女も女性もぽかんと口を開けた。その様子に気づいたルナールは思わず羞恥で顔を覆う。
「…………すまない、笑える冗談も言えない不器用さで」
「い、いえ……。ありがとうございます、お願いしますね! ルナール先生」
「おかーさんのも、わたしのも。ちゃんとおとーさんに届けてね! ぜったいだからね!」
「……ああ」
少しだけ生暖かくなった現場をそそくさと後にして。少しばかり遠い場所であるから、其処までは空の旅。
この世界に伝わる乗り物だという空飛ぶカピバラに跨りながら、沈みかけた夕焼けの空を眺めた。
「大丈夫さ、心意気は伝わっていたとも」
なんてからかい混じりにルーキスが背中を叩くものだからルナールは若干凹んでいたが、まあ、それでも目的地にはたどり着く。
記された地図の、記された部屋の窓をルナールがコンコン、と叩く。
現れた男に、月のように真っ白な髪の夫婦が手紙の訪れを告げるのだ。
「ハローハロー、貴方の娘さんから手紙のお届けだよ」
へろへろで、一生懸命書き直したことが伺えるたどたどしい宛先の手紙をルーキスが差し出す。
「こちらもアンタ宛の手紙だぞ、因みにこっちは奥さんからな」
少しだけ滲んだサインを相手に見えるようにして、ルナールが便箋を差し出す。
喜色を抱え、2通とも大事に手紙を抱えた男性に、ルーキスは伝言もあるんだが、と切り出す。
「『さっさと帰ってこないと娘がお前の顔を忘れるぞ』……だそうだ。大変だろうが無事に戻れよ。家族が待ってるんだ、アンタの代わりは居ないんだからな。」
「想ってくれる人間が居るっていうのは良い事だからねぇ。泣かせないようにちゃんと帰ってあげるんだぞ。ね?」
その後涙まじりになった男性を宥めるのに時間がかかったけれど、きっと気持ちは伝わったはずだ。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
はじめまして、もしくはお久しぶりです、金華鉄仙です。
大事な人と、大事な人が、気持ちを伝え合う橋渡しをお願いします。
こちら私の前作<幻想配達人>白い便箋、そして<幻想配達人>白い封筒の続編になりますが、そちらは把握せずとも大丈夫だと思います。
●世界観
<幻想配達人>と呼ばれる世界で、様々な小世界が連なるオムニバスな世界です。
一人ひとり、もしくはプレイングを合わせた方々で別の世界に飛ばされ、鳩から手紙を受け取ることになります。メタ的に言うと何を言っても秘密は守られます。
そのため、希望する世界観等ありましたらそれとなく伝えていただけると情景描写などに利用させていただきます。無ければそれっぽく書きます。
たとえば冒頭の世界はアイドルと少年の恋物語です。
ただ、全世界共通して白い鳩が手紙の運び手である、という認識があり、鳩だけは何があっても殺さないという風潮があります。
今回はそれを利用して、鳩らしい服装で依頼に望んで下さい。
●目的
手紙を待っている人に渡す。そして、少しばかりの交流をする。
●書いていただきたいこと
・手紙の送り手、受け手(関係性も合わせてどうぞ)
こちらは鳩から説明される、という感じになりますのでPC既知情報です。
・届いた手紙の内容
・手紙の見た目
・PC様の心情、鳩成分、どのようなアクションを起こしたいか
あたりがあるととてもリプレイを書きやすいです。
アドリブ多めになると思います、ご容赦下さいませ。
他にもどんどん心情や行動などください!!! 助かります!!
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