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シナリオ詳細

ヴィーザル戦線異状アリ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ヴィーザルの傭兵部隊
 鉄帝北東部には、ヴィーザル地方と呼ばれる大森林地帯がある。
 そこでは三つの部族たちが作り上げた連合国家、『連合王国ノーザン・キングス』が存在し、鉄帝国へ対して遊撃的な戦闘を仕掛けている。
 ノーザン・キングスを構成する三つの部族、その内の一つ、シルヴァンス。獣種が大半を占めるその部族は、鉄帝の様々な技術や遺産――掠奪や横流しなどを経て入手した――を利用し、生活と戦いを繰り広げている。
 彼らの扱う武装は、具体的には、突撃小銃じみたライフルや、スチーム起動型のパワードスーツもどきなど。鉄帝の現在の技術から、いわゆる遺産クラスのオーパーツ迄を巧みに扱う彼らは、ノーザン・キングスでも知略家として――言い方を悪くいえば、悪知恵の働く連中として――名高い。
 シルヴァンスはヴィーザルでも北部にあり、その大地は冠雪していることが多い。その雪に覆われた森林の大地を、防寒具と小銃で武装した10歳前後の子供達が行軍していた。彼らの服には、シレネの花をモチーフとした部隊徽章が貼られていて、この部隊徽章は、アドラステイアに属する傭兵部隊、『オンネリネン』の所属を意味する徽章であった。
「雪と……銃ね。天義の方じゃ、銃なんてなじみのないものだけど、いい加減なれたわね」
 リーダー格と思わしき少女がそう言った。青い髪のショートカットの人間種の少女である。シルヴァンス風の衣装や装備は、雇い主の要望なのだろう。となれば、今回オンネリネンは、シルヴァンスの勢力に雇われたとみるのが正しいだろう。
「だね……っと、で、ありますね、かな」
 ブロンドの、犬耳の獣種の少年が言った。恐らくはサブリーダーにあたるであろう彼もまた、ヴィーザル風の装備をに身を包んでいる。子供達で構成された近代軍隊のようないでたちは、ある種ごっこ遊びをしているかのような錯覚を覚えるが、しかし彼女らの持っている武器には実弾が込められている。
「慣れてもらわないと困るねぇ、君たちにはそこそこお金かけてるんだから」
 完全獣化した、二足歩行のアライグマの獣種が言った。シルヴァンス風の野戦服に身を包み、背中に小銃を背負ったアライグマは、少女たちに告げる。
「君たちが上手い事やってくれたら、僕たちは継続して、君たちの部隊と契約してもいい。もちろん、オンネリネンの本部とね。長期契約だよ、長・期・契・約。安定した収入って素敵じゃない?」
「了解であります、司令官(コマンダー)」
 シルヴァンス風の敬礼をとる子供達。教え込まれたそれらは、このアライグマの趣味だろう。うんうん、とアライグマは頷くと、
「じゃあ、行軍訓練を終えたら、早速実践にうつってもらおうか。まぁ、監視役として僕と、数名の兵士が同行するよ。まずは派手に、君たち傭兵部隊のお披露目といこう。まぁ、気楽にやってくれたまえよ。欠員が出たら(しんだら)次を雇ってあげるからね。はっはっは」
 手を洗うかのようにもみもみと手をもみながら、アライグマは言った。死んだら次を雇ってやる。血も涙もない言葉だが、しかし子供たちにとっては、継続した報酬……つまり、家(アドラステイア)の家族たちの糧が得られるのだと、そう悪い言葉ではないように思えていた。
「プルム。此処は寒いね」
 ブロンドの少年が言った。プルム、と呼ばれた青髪の少女は、
「そうね、パヌ。此処は寒いわ」
 少し微笑んで、そう返した。

 その数日後に、シルヴァンス戦士たちに率いられた子供達の傭兵部隊が、国境――ノーザン・キングスと鉄帝の領土の境だ――の鉄帝駐屯地へと奇襲を仕掛けた。
 戦果は上々であり、生き残った鉄帝兵士たちの報告から、子供達の傭兵部隊の存在がローレットへともたらされ、そして。

●ヴィーザル戦線異状アリ
「小金井さん、小金井さん」
 ローレットの出張所で依頼を探していた小金井・正純(p3p008000)は、背後から声をかけられた。そこに居たのは、手に資料を抱えながらぱたぱたと飛んでいた『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)で、
「ちょーっとお耳に入れたいことが。恐らくアドラステイア関連のお話です」
 アドラステイア、という言葉に、正純の眉がぴくり、と動く。
「……お聞きします」
「お、ではこちらの席にどうぞ!」
 ファーリナに促されるまま、テーブルの一つにつく。ファーリナはテーブルの上に、抱えていた資料を放り投げて、うち一枚を広げた。
「鉄帝の方から依頼が来てるんですが、ノーザン・キングスのシルヴァンス勢力に、『子供達だけで構成された傭兵部隊』が雇われていて、対処してほしいと。鉄帝の人達はまだ詳細を掴めてないようですが、これって間違いなく」
「オンネリネン、ですね」
 正純は眉をひそめた。正純も以前、深緑の地で遭遇した事が有る。アドラステイアが創設した、子供達だけで構成された傭兵部隊、オンネリネン。彼らはアドラステイアが国外にて資金を得るための手段の一つと目されており、ここ最近では様々な場所での目撃例がある。
「ですよね、こんな真似する連中、アドラステイア以外に存在して溜まるものですかって」
「彼らは鉄帝にまで顔を出し始めましたか。流石に、この傍若無人さには怒りを覚えます。……今回の依頼は、彼らの排除になるのですか?」
 ですね、とファーリナは言った。シルヴァンス・オンネリネン傭兵部隊は、定期的に領土境界線上の鉄帝駐屯地に遊撃を仕掛けてきているらしい。何度か追い返してはいるものの、このまま放置していては被害は増すと言うもの。
 もとより、鉄帝はヴィーザル地方を重要視していないため、大規模な軍の派遣も難しい。となると、当地の領主たちにとって、頼れるのはローレットのイレギュラーズというわけだ。
「ご依頼に参加なさるかはお任せしますが、とりあえずこんな依頼があるって事でご報告です。ご都合つくようでしたら、どうぞよろしくお願いしますね!」
 ファーリナはそう言うと、依頼書のみを残して再び資料を持ち上げて、忙しげにパタパタと飛んでいった。正純は腰かけた椅子に身を預けて、依頼書を眺める。
「アドラステイアめ……」
 正純は小さく、そう呟いた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方の依頼は、小金井・正純(p3p008000)さんの情報(アフターアクション)によりもたらされた依頼になります。

●成功条件
 すべての敵の撃破(生死を問わない)。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 アドラステイアに所属する、子供達だけで構成された傭兵部隊オンネリネン。
 彼らがノーザン・キングス、シルヴァンス部族に雇われ、鉄帝への攻撃を繰り返しているという情報がもたらされました。
 領土境界上の駐屯部隊は、ローレットへ同部隊の対処を依頼します。
 依頼を受諾した皆さんは、駐屯地で敵を待ち受け、撃退することとなります。
 作戦決行タイミングは、敵の襲撃により朝・昼・夜のいずれかが変わります(基本的にはランダムになります)。
 作戦フィールドは鉄帝駐屯地。周囲には、駐屯軍が設置した建物や資材などが残されており、適切なスキルやプレイングなどがあれば利用できそうです。

●エネミーデータ
 アライグマの獣種 ×1
  シルヴァンス部隊の1部隊司令で、オンネリネン傭兵部隊を雇って運用を目論むシルヴァンス軍人です。
  主にライフルを装備した、遠距離攻撃を行っています。
  戦闘能力はそこそこですが、旗色が悪くなるとさっさと逃げます。彼(彼女?)の逃走は依頼の成否には関係しません。

 猫の獣種 ×1
  シルヴァンス部隊に所属する職業軍人です。
  鉄帝の遺跡から発掘された、スチーム・パワーローダーを装備しており、高い防御技術を保持しています。
  また、一回目のEXF判定には(必殺などで攻撃されない限り)必ず成功するという特殊スキルを持ちますが、このスキルで復活した場合、このユニットのすべてのパラメーターが低下します。(パワーローダーから離脱して生身になった、というイメージです)

 ウサギの獣種 ×3
  シルヴァンス部隊に所属する職業軍人です。
  鉄帝から収奪したスナイパーライフルや、バズーカ砲などで戦います。
  主に超距離からの攻撃を行っており、近接されると攻撃手段が減ります。

 プルム ×1
  オンネリネン傭兵部隊に所属する、リーダー格の少女です。青い髪のショートカット、人間種の少女。
  彼女がフィールドに存在する限り、オンネリネン所属ユニットの命中が若干上昇します。
  主に突撃小銃による中距離戦闘を行ってきます。サーベルも装備しているため、近接戦もそこそここなせます。

 パヌ ×1
  オンネリネン傭兵部隊に所属する、サブリーダー格の少年です。ブロンドの、犬の獣種の少年。
  彼がフィールドに存在する限り、オンネリネン所属ユニットの回避が若干上昇します。
  主にスナイパーライフルによる遠距離攻撃を行ってきます。接近されると攻撃手段が減ります。

 オンネリネン傭兵部隊 ×13
  オンネリネン傭兵部隊に所属する、10歳前後の少年少女たちです。特徴や種族は様々。
  主に突撃小銃による近距離~中距離戦闘を行います。敵部隊の主戦力はこの子達です。
  また、プルム・パヌ・オンネリネン傭兵部隊は、一切の説得には応じず、基本的に最後の一人になるまで戦います。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • ヴィーザル戦線異状アリ完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月09日 22時03分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
クィニー・ザルファー(p3p001779)
QZ
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
ルリ・メイフィールド(p3p007928)
特異運命座標
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
黒水・奈々美(p3p009198)
パープルハート
玖珂・深白(p3p009715)
キリングガール

リプレイ

●雪の戦場
 ほう、と息を吐けば、白いそれが空へと昇る。
 季節は春ではあったが、ヴィーザル地方でも、特にこの辺りは未だに雪深く、肌寒い。
 鉄帝への、ノーザン・キングス、シルヴァンス勢力からの攻撃。その迎撃に駆り出されたイレギュラーズ達は、領土境付近のこの地で、雪と格闘しながら、防衛陣地を築いていた。
「私の故郷は天義北方教区の国境沿いでね。山を越えてしばらくしたら、そこはもう別の国だったわ」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は、スコップを地面に突き刺しながら、ほう、と一息をついた。見上げる、雪と森林の大地。あのずっとずっと遠くに、天義の地があるのだろうか。そう思うと、何か懐かしいような、不思議なような気持がこみあげてくる。
「小さな頃に見上げて、向こうには怖い国があるって思ってたわぁ……小競り合いもしてたしね。実際大人になってみて……不思議ね。その怖い国に立って、怖い国同士のケンカを仲裁しなくちゃいけないの」
 アーリアの表情は、登り始めたばかりの太陽に照らされて見えない。何を思うのだろうか……例えば、亡くなった父の顔かもしれない。
「鉄帝は幻想とバチバチにやり合ってるって聞いたけど、そんな風に内戦もしてるんだね?」
 『キリングガール』玖珂・深白(p3p009715)が、ふうん、と頷きながら、言った。
「呆れるわね、それでよく戦争なんて起こす気になったものだわ。それとも、内戦、と言うほど、ノーザン・キングスは相手にされてないのかしら」
「この辺は、平定しても労力を吸われるだけでうまみがない、って聞いたわぁ」
 アーリアが、むぅ、と唸りつつ、言った。鉄帝国中央にとっては、貧しい辺境の地を、本腰を入れて待て制圧し、その地の住民を食わせてやるほどの理由も余裕もないのだろう。敵が連合王国を僭称して本格的に侵攻してくるならまだしも、小競り合い程度となれば、新兵たちの戦闘訓練程度に使ってやろうという思惑も、発生するものかもしれない。
「なるほど、同じ兵力を割くなら、肥沃な大地に向けた方がいいって事ね。分からないでもないけど」
 うん、と頷いて、深白がざくり、とスコップを突き刺した。雪と一緒に、土を掘る。作るのは塹壕や、落とし穴のような罠の類だ。
 敵は襲撃を定期的に仕掛けてくる。斥候からの報告で、今日中の動きは発覚していたが、しかし確かな襲撃時刻までは解らなかった。そこで、この様に早朝から、迎撃の準備を整えているのだ。
「はいはーい、危ないのでどいてほしいのです。資材持ってきたのですよ」
 と、両手に様々な資材を大量に抱えて、『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)が空を飛んでやってくる。二人の近くに着地して、どさり、と資材をおろして、ふぅ、と一息。額の汗をぬぐう。
「準備は万端なのですね。このペースで行けば、お昼までには陣地の構築は終わるのです。後は、敵の襲撃がそれ以降なのを祈るばかりですが」
「一応、感情探知には引っかからないから、近くに潜んではいないみたいねぇ」
 アーリアが言うのへ、声をかけたのは、『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)だ。
「三人とも、交代の時間だよ! 少し休んで、身体を温めておいてね」
「向こうにまだ使えそうな小屋がありましたので、環境を整えておきましたよ。隠れ家のように使えるはずです」
 『天地凍星』小金井・正純(p3p008000)が微笑んで、言った。
「では、少しお休みをいただくのですよ」
 ルリがそう言うのへ、アーリアと深白が頷いた。雪を踏みしめて、小屋へと向かっていく。
「さ、作業を始めましょう。アドラステイアの傭兵部隊が来るまで、きっと時間はないでしょうから」
「あどらすていあ……たしか天義の方にある、子供たちの国だっけ?
 子供たちだけでどうやって生活していくんだろうと思ったら…こんなとこにきて出稼ぎとか。
 もしかしなくても、その国おかしいんじゃない?」
 正純の言葉に、ルアナが言った。正純は手にしたスコップを地に突き刺して、頷く。
「ええ。自分たちは都市に篭もり、子供たちを金稼ぎの道具に各国に派遣する。恵まれぬ子供たちを利用し、自分たちの思うまま操る――まさに外道の極み」
 正純の顔が、怒りの色に些か、染まった。幾度もなく正純はアドラステイアと戦い、そして数度、彼らが国外に派遣した傭兵部隊、オンネリネンとも接触した。
「彼らと戦い、助け出すことのできた子もいます。助けられなかった子も……でもそれは、あくまで対症療法的なものでしかありません。根源を断つに、私はあまりにも、無力が過ぎる。私はいつになったら、あの子たちをを真の意味で救えるんだ……」
 ざく、とシャベルを土深くに差し込んだ。苛立ちをぶつけるように。或いは、悲しみを払うように。
「あまり思いつめないで……って言うのは気休めになっちゃうけど。でも、わたしだって、子供達をそんな風に使う人たちを、許せないって気持ちは一緒だよ」
 わたしもこどもだけどね、と、えへへ、とルアナは笑いつつ、
「だから、わたしも頑張るよ。こんな国が、二度と興らないように。わたしは勇者だからね! やってみせる!」
 ぐっ、と胸を張る、ルアナ。正純は少しだけ微笑んだ。
「そうですね。頑張りましょう」
 絶望するには、まだ早い。二人はさっそく、作業を再開した。

「罠は三重にしたよ」
 『QZ』クィニー・ザルファー(p3p001779)がそう言う。まず一つ、単純なロープの罠。これは見つけてもらうための罠だ。それを避けた先にあるのが、落とし穴。深いわけではないが、足を止める程度の力はある……が、これもデコイだ。本命は、その先には仕込まれたピアノ線で、それに絡めとられる、という構図になる。
「それを突破しようとロープやピアノ線を切ったら、塹壕が崩れて廃材が倒れ込んだりしてくるんよ」
 クィニーがそう言うのへ、『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)が関心の声をあげた。
「す、すごいわね……ミリタリー漫画、みたい……!」
「軍隊の漫画があるべ? 軍記物語みたいなものだべか。私も見よう見まねだけれど、効果のほどは保証するよ」
 クィニーの言葉に、奈々美はぱちぱちと拍手する。
「午前中には来なかったね。過度に緊張する必要はないけれど、そろそろ警戒を強めた方がいいかもしれない」
 『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)が言った。見やるのは、ヴィーザル地方方面。雪と冠雪樹林の向こう。太陽はちょうど中天。交代で食事と休憩取りつつ、警戒を続けていた。
「オンネリネン、か。新緑や、ラサ、幻想にまで現れたって言うけれど。ついに鉄帝、それもノーザン・キングスに雇われて……」
「えっと……子供の傭兵、なのよね……? それこそ、趣味の悪い漫画だわ……! ヒドいはなしよ……」
 奈々美が複雑そうな表情で言うのへ、クィニーがその綺麗な眉をひそめた。
「子供を唆して、ねぇ。私の国では重罪なんだけど、これを正義と言い張る奴らがいるのか……。
 ほんッと、……信じられん」
「ひともみに潰せないのは理解してるけど……何とか少しずつでも手を打たないと。
 天義にとって、取り返しのつかないことになるかも知れない……!」
 サクラが同意するように頷いた。と、ガチャリ、と隠れ家の扉が開いて、中に待機していたメンバーが飛び出してくる。
「アーリアさんの感情探知に、反応があったのです」
 ルリが言う。メンバーに緊張が走り、奈々美は、ひっ、と軽い緊張の悲鳴を上げた。
「そちらは休憩なしで恐縮なのですが……」
「だ、大丈夫よ……気は重いけれど、お、お仕事だから……やらなきゃ」
 奈々美の言葉に、クィニーが頷く。
「……シルヴァンスの連中を倒して、子供達は救う。やってやるよ!」
「はじめよう、皆」
 サクラの言葉に、仲間達は頷いた――。

●中天の戦場
「んー、あれは鉄帝軍人じゃないねぇ」
 アライグマの獣種が、双眼鏡を覗き込みながら、言った。
「助っ人でありますか」
 プルムがそう言うのへ、アライグマが笑う。
「だねぇ、君たちのオトモダチ、ではないか。あれはたぶん、イレギュラーズだ。ローレットのね」
 ぽん、とアライグマは手を叩く。
「君たちはよくやってくれたよ。君たちが全滅しても、僕はオンネリネンと契約を続けることを約束しよう。その上で、これは最後のテストだ。君たちが、ローレットに対して、どれくらい戦えるか」
「問題ありません」
 プルムは頷き、傍らにいたパムに指示を出した。オンネリネンの子供達が、少しずつ前進していく。
「隊長、彼らは勝てますかね」
 ウサギの獣種が尋ねるのへ、アライグマの獣種は、少し悩んだ末に、言った。
「んー、よくて半壊、悪くて壊滅。ま、そこそこ動けるんじゃないかな? 君たちもいるしね。この地をとれればラッキーだ、君たちも頑張りたまえよ」
 猫の獣種が頷いて、パワーローダーを起動させる。ざ、と雪を踏みしめて、シルヴァンス達も進む。

 飛び交う銃弾が、塹壕に突き刺さる。一歩ずつ、間合いを詰めてくる傭兵たち。後方からは、兵隊たちの射撃が跳ぶ。
「はじめよう、あの厄介なウサギたちを釣りだすよ!」
「了解なのです。援護は任せてほしいのです。傷は必ず癒すのですよ」
 クィニーの言葉に、ルリが頷いた。同時、編み上げられた回復の術式を背に受けつつ、クィニーが飛び出す。
「子供達を前線に立たせるなど! そんな行いが! お前らは胸を張って誇れるというのかッ!
 答えよ!
 その行いは、天に、地に、己に、家族に、祖先に、子孫に、真に恥じぬものかと!」
「ちっ、あいつを狙え! パヌ、お前もだ!」
「りょ、了解であります!」
 クィニーを狙い、ウサギとパヌが走り出す。クィニーに近づき、短銃による射撃を撃ち放った。クィニーは細槍を回転させて、銃弾をまとめてはじき返す。
「よし、あいつらの主装備はこの距離なら使えない……!」
「パヌはこっちが受けるよ!」
 サクラが叫び、走り出した。向かうのは、犬耳の少年、パヌ。その手にした剣を、振るった斬撃を、パヌは狙撃銃の銃身で慌てて受け止めた。
「貴方達全員、絶対に助けてみせる!」
「じゃあ、黙ってやられてよ……!」
 怯えるように叫ぶパヌの言葉に、サクラは心を痛める。そこで手を取ってくれないのか。それほどまでに、心を蝕まれてしまっているのか。改めて、アドラステイアへの怒りが、サクラの胸の内に浮かんだ。
「そうじゃない……こんなことを、貴方達がしないで済むように!」
 一方、
「じゃあ、プルムはアタシね!」
 飛び出す深白が、銃弾の雨を縫って走る。この程度の銃弾なら、何度踊ったことか!
「さあ、ダンスはお得意かしらお嬢さん? 一緒に踊ってもらうわよ」
「くっ……皆は前進して! 私がこの子を押さえる!」
 ナイフを抜き放つプルム。振るわれるそれを、深白は自身のナイフで迎撃、打ち合う。
「今のうちに、残りの子供達を!」
「分かったわぁ! ……ごめんね、すこし、辛くするけれど……!」
 掲げるその手には、黒い手袋が陽光を受けて輝く。アーリアはすぅ、と息を吸い込むと、妖艶な声色を乗せて、誘惑するように呟く。
「ほら、敵は私たちじゃないわ――目の前の子よ」
 囁く魔女の声は、子供達に心を蝕み、足並みを崩れさせた。
「今……撃ちます!」
 その隙をついて、ぎり、と正純が弓を引き絞る。
(貴方たちは、こうして見知らぬ地で戦わされることになんの疑問も持たないのですか。
 いえ、ないからこうして死を恐れずに向かってくるのでしょう……。
 説得や、言葉が届かぬことは分かっています。
 だから、多少手荒でも……!)
 ぎり、と弓にさらに力を。悲しみと、大人たちへの怒りを乗せて。
「あなた達を止める。これ以上、余計な罪咎を追わぬように!」
 解き放つ! 放たれた矢が、天を割き、空から降り注いだ! それは、闇夜に光る眩き星! 天より降りた狼のごとく地をかける一撃! 足並みを乱した子供達を撃ち貫き、その一撃が子供達の意識を失わせていった。
「残った子供達を!」
 アーリアが叫んだ。
「お願いします!」
 正純が叫んだ。
「まかせて!」
 勇者(ルアナ)は飛び出した。罠に引っ掛かって、動けなくなっている子供達を、剣の腹で叩いて気絶させる。曲がりなりにも、子供に振るう暴力に、ルアナは僅か、心を痛める。
「嫌な戦い……!」
「ルアナ、プルムの抑え、手伝って!」
 あらかた子供達を倒したことに気づいて、深白が声をあげた。ルアナが走る。刃を掲げ、跳躍、上段から振り下ろすそれを、プルムは小銃で受け止めた。小銃の銃身が立ち割られる。
「ねぇ。どうしてあなた達は戦っているの? 今の生活、楽しい? 毎日ちゃんと笑えてる?
 今やってることが正しいって心から思えてる?」
「そうね。此処は寒いわ……早くあったかい所に帰りたい。でも、私達が頑張らなきゃ、皆が寒い思いをするの!」
 振るわれるナイフが、ルアナを襲う。ルアナは大剣で受け止め、
「そうじゃないの! あなたがこんな思いをする必要なんてないんだから!」
 ルアナの反撃が、プルムを打った。慈悲の一撃が、プルムを気絶させる。
「こんな思いをする必要、無いんだから……!」
 ルアナが辛そうに、声をあげる。
 一方、アライグマは、ふむん、と唸り声をあげて、呟いた。
「これはダメそうだね。でも、一定の成果はあった。ああ、君たち、適当に切り上げていいよ。僕は帰るからね」
 ゆっくりと後ずさりし、戦場から離脱を計るアライグマ――その腕に、ハート型の傷口が突如開いた。放たれたハート型の魔力弾は、奈々美の放った一撃だ。
「べ、別に、逃がさない、みたいなこと言わないわ」
 おどおどと――しかし、その眼に、確かな怒りを湛えて。
「でも、こ、子供を盾にするよう奴は、許さないから……あ、あたしだって、魔法少女なのよ……!」
 その言葉に、アライグマはぎり、と奥歯をかみしめた。
「紫色の。君の事、覚えたからね」
「えっ。で、出来れば忘れて……!」
 憎悪をぶつけられた奈々美は一瞬、怯んだが、次の瞬間にはアライグマは走り出していた。それを追うものはいない。
 一方、戦局は、確実にイレギュラーズ達へと傾いていた。厄介な狙撃手はクィニーに抑えられ、残るメンバーによる攻撃が、傭兵たちを確実に無力化していく。
 スナイパーライフデルで殴りかかってくるウサギを、クィニーは後方に跳躍して避ける。その背に、
「大丈夫なのです? もう少し、頑張ってほしいのです!」
 ルリの回復術式が飛んで、倒れそうな膝に力を込めた。
「大丈夫! ええ、そうだとも! こんな人たちに負けたりはしないっ!」
 クィニーが叫ぶ――同時に、大地が走った。噴き上がった雪と土が、ウサギを巻き込んで土葬する!
「お待たせ! そっちに合流するわぁ!」
 アーリアが叫ぶ。同時に駆けだしたサクラが、ウサギを切り伏せた。
「パヌは、ひとまず気絶させた! 残りは、シルヴァンス達だけ!」
「了解! もう加減は必要ないべ!」
 クィニーの細槍が、ウサギを貫く。一方、残る猫のパワーローダーと、深白の戦いが続いていた。振るわれる拳が、深白の身体を打ち据える。
「痛った! 誰が当てていいって言ったのよ! 」
 吠える深白、正純が声をあげた。
「下がってください! パワードスーツごと撃ち抜きます!」
 ぎり、と正純が弓を番えた。引き絞る。力を込めて。祈りを込めて。怒りを込めて。
「……届かない。私の声も祈りも願いも……されど――!」
 放つ。放たれた矢が、パワードスーツごと猫を貫いた。
 天津甕星。
 おお、空に眩き美神の星よ。
 一撃よ、魔性を纏え、邪魔するものを貪り喰らえ。
 ああ、ああ、この祈り。我が祈り。我が願いを、明けの明星、まつろわぬ神に、奉る。
 ああ、届かずとも。ああ、承れずとも。
 この祈り、我が願い、我が痛み――止むことはなく。
 魔性の一撃が、最後のシルヴァンス兵を撃ち貫く。
 ぎにゃ、と悲鳴を上げて、猫がパワーローダーから放り出され、そのまま意識を失った。
 ふぅ、と正純は息を吐いた。
「いつまで続く……この地獄は……」
 そう言って、天を見上げる。
 星は何も答えない。

「とりあえず、子供達は無事だね」
 サクラが言った。ルリが、子供達を運んで、一か所に集めていった。念のためロープで拘束している。
「……良かったのです。流石に気分は良くないのですから」
「部隊の指揮官は逃げたみたいねぇ。あのアライグマ……許せないわぁ」
 アーリアが言うのへ、クィニーが頷く。
「いずれ捕まえて、罰を与えてやらないといけないね」
「子供を使うなんて、軍人の風上にも置けない奴だからね」
 深白が頷く。
「この子達、どうなるのかな……」
 ルアナが言うのへ、
「ひとまずは、鉄帝にあずかってもらうか……今なら、幻想中央教会でも預かってくれるはずです」
 正純が言う。
「傭兵、ね……」
 奈々美が、呟いた
(あたしも似たようなものか……。
 いつの間にか……た、戦いにも慣れてきてるし……。
 あ、あたし……どうなっちゃうんだろ……)
 その想いは、うちに渦巻き。しかし消えることはなく。
 様々な思いを、イレギュラーズ達のその心に残し。
 しかし白い大地は何も答えることはなかった。

成否

成功

MVP

クィニー・ザルファー(p3p001779)
QZ

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、シルヴァンス勢力を撃退することに成功しました。
 洗われたオンネリネンの子供達は、ひとまず事情を把握した鉄帝の人々によって保護されているようです。

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