PandoraPartyProject

シナリオ詳細

フフとプティと地下迷宮。或いは、流砂に飲まれたその先に…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●流砂に飲まれて
 ラサ。
 とある砂漠の真ん中で、1台の荷馬車が停止していた。
 荷馬車の御者台には2人の女性。
 慌てたように手綱を繰るが、馬車は前に進むことなく、また繋がれた馬もいななくばかり。
 よくよく見れば、馬車の真下では地面がどろりと溶けていた。
 流砂。
 または、クイックサンドとも呼ばれる水分を含んだもろい地盤に重みや圧力がかかって崩壊する現象である。
「フフ……無理。この辺り一帯が、危ない」
 御者台に乗った小柄な少女……プティは周囲を見渡すと、抑揚のない小さな声でそう告げた。
「荷馬車を捨てても……崩落は始まっているし……」
 一方、フフと呼ばれた青髪の女性は顔を冷や汗で濡らしながら、一心不乱に思案する。
 旅の途中で流砂に飲まれるというこの窮地を突破する方策を模索しているのだろう。
 悲しいかな、これといった妙案は浮かんでこないようで、秒ごとにフフの顔色は悪くなっていくばかりだが……。
「馬だけなら、逃げられる、かも?」
「つまり、私たちは助からないってわけよね」
「運が良ければ助かる、かも?」
「流砂に飲まれかけている現状を見るに、運がいいとは口が裂けても言えないわ」
 なんて、言って。
 引き攣った笑みを浮かべたフフは、手綱を手放し、馬と馬車とを繋ぐ縄をナイフで切った。
 解放された馬は、弾かれたように疾駆し流砂地帯を駆け抜ける。
 馬が安全な場所まで逃げたのを確認し、フフとプティはほっと安堵の吐息を零した。
 それからしばらく。
 2人を乗せた荷馬車は、流砂に飲まれ砂漠の地下へと沈んでいった。

 フフとプティ。
 彼女たちは、ラサを中心に活動する行商人だ。
 街から街へと移動しながら、積み荷を売って生活している。
 そのため荷馬車の中にはいつも日持ちのする食物やその土地の民芸品が満載されていた。
 荷馬車と共に、流砂に飲み込まれたことはある意味で言うなら幸運だ。
 少なくとも、しばらくの間は飲み水や食料に困ることはないのだから。
 とはいえ、それも永久に保つものではない。
 真っ暗な地下空間。
 目を覚ましたフフは、オイルランプに火を灯し周囲の様子を確認する。
「遺跡?」
 と、壁を眺めてプティは問うた。
 土埃に汚れており視認しづらいが、どうやら壁には絵が描かれているようだ。
「そうみたいね……。酸素、というか空気の流れも感じられるし、たぶん外につながっているとは思うのだけど」
 眉根にぎゅっと皺を寄せ、フフは周囲を見回した。
 フフとプティが落ちた空間からは、四方へ小さな通路が続いているようだ。
 そのうち1つは砂に塞がれ進めない。
 残る3つの通路には、それぞれ人の通った痕跡が残っていた。
 どれも新しい痕跡だ。
 つい最近、フフとプティより先に、流砂に飲まれた者がいるのだろう。
 足跡から判断するに、4、5人ほどか。
「先に落ちたのは旅人かしら? それとも商人? 通路は広いし、荷馬車ぐらいなら移動させられそうだけど……轍は無いわね」
「追いかける? 荷馬車は……牽く馬がいない、から、わたしたちで引っ張って」
「動くわけないわよね」
 それに、と。
 フフは壁の絵へと視線を戻すと、声を震わせ言葉を紡ぐ。
「この絵……何だか不安だわ」
 ざり、と土を払ってみれば、絵の全貌が露わとなった。
 古い絵だ。
 描かれているのは、人を喰らう牛頭人体の怪物。
 怪物の背後には、流砂らしき絵が描かれていた。
 さらにその真下には、黒い墨で通路のようなものが描かれていることがわかる。
「怪物? こいつが、ここに、住んでいるの?」
「分からないわ。ところでプティ……怪物の寿命ってどれぐらいか知っている?」
「知らない。でも、悪さをした怪物の寿命は、短い」
 誰かに討伐されるから、と。
 そういってプティは、じぃと壁画へ視線を送る。

●しにゃこは見た
「え、えぇ~……さっきのってフフプティさんじゃありませんでした?」
 キョロキョロと左右を見渡すしにゃこ(p3p008456)は、焦りと不安からか何とはなしにつま先で砂を掻きだしていた。
 とはいえ、砂漠に穴を掘るのは決して容易ではない。
 掘った先からさらさらと砂が流れ込み、穴はあっという間に塞がってしまう。
 いくら砂を掘ったところで、フフとプティの元へ辿り着くことは出来ないだろう。
「助けに……いえ、でも、えーと、しにゃ1人じゃ危険ですよね?」
 流砂へじぃと視線を向けて、しにゃこは顎に手をあてた。
 愛用の日傘……正確には日傘兼ライフルだが……を広げて、長期戦の構えである。
「お2人が存命していると仮定して……えぇっと、助けに行くためには」
 砂の流れに目を凝らし、しにゃこは地下の状態を予想していた。
 流砂があるということは、地下水などが湧いている可能性が高い。
 水と、そして馬車に積んでいるだろう食料があれば数日か、ともすると数週間ほど生き延びることも可能だろうか。
「とはいえ、あまり長く放置するのもいけませんね。調査の途中ですが、仕方ないでしょう」
 と、そう言ってしにゃこは近くの街へと戻っていった。

 しにゃこが砂漠を歩いていたのは“とある噂”の真偽を確かめるためだった。
 つい最近、砂漠で散見されるようになった怪物の噂だ。
 その怪物は見上げるほどの巨体と、隆々とした筋肉と、そして雄牛の頭を持っているという。
 武器のつもりか、岩盤を削りだしたような大剣を携え、砂漠を彷徨い歩いている。
 そんな噂を耳にして、調査に出かけた冒険者たちは未だに帰還していないらしい。
 噂によると、怪物の雄叫びを浴びたものは【ショック】状態に陥ったという。
 また、怪物の剣を受け弾き【飛】ばされ、大怪我を負った者もいるらしい。
 曰く、その攻撃には【致命】【必殺】の効果が乗っていたそうだ。

 近くの街へと駆け戻りつつ、しにゃこは思う。
 フフやプティが、その怪物に襲われていなければいいな、と。
「そうだ。フフさんとプティさんを助けるついでに怪物の調査もすればいいのでは?」
 いい考えかもですねー、なんて。
 しにゃこの声は、どこかラサの風に吹かれて消えた。

GMコメント

こちらのシナリオは「<Raven Battlecry>フフとプティと黒煙爆弾。或いは、ネフェルスト防衛戦…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4711

●ミッション
フフとプティの救出

●ターゲット
・フフ&プティ
フフは青髪の商人。
プティは赤茶色の髪の小柄な少女。
各地を旅する行商人。
積荷は主に民芸品や書物、食料など。
現在、流砂に飲まれ砂漠地下にある古い遺跡に取り残されている。
荷馬車も一緒に落ちているため、生活に必要なものは揃っている。
フフは判断力に長けており、また行動力にも優れている。
プティは記憶力に秀でており、1度見たものは忘れないという特技を持つ。


・牛頭の怪物×1(?)
最近、砂漠に出没するという牛頭人体の怪物。
3メートル近い巨体に、隆々とした筋肉、岩盤を削って作ったような大剣を持っているそうだ。

雄叫び:神中範に小ダメージ、ショック
 鼓膜が破れるのではないかと思うほどの咆哮

岩の大剣:物近単に特大ダメージ、必殺、致命、飛
 岩の剣による全力攻撃

・冒険者たち×4
砂漠で行方をくらませた冒険者たち。
生死不明。
牛頭の怪物を探しに行ったらしいが……。


●フィールド
砂漠、および地下遺跡。
広大な砂漠。
周囲にはサボテンが生えている。
サボテンが乱立する中、何も生えていない一角が流砂地帯だ。
また、付近にはフフとプティの馬がいる。

地下遺跡。
規模は不明。
複数の大部屋が広い通路で繋がっている……という形状をしている模様。
空気の流れがあることから、どうやら外に出るための出口がどこかにあるようだ。
 

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • フフとプティと地下迷宮。或いは、流砂に飲まれたその先に…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月26日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
耀 英司(p3p009524)
諢帙@縺ヲ繧九h縲∵セ?°
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

リプレイ

●炎天下、行進中
 足で砂を蹴り飛ばし、褐色肌の女が駆ける。
 人の姿でありながら、人を遥かに凌駕する速力を有する彼女の名は『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)。時速にして60キロは出ているだろうか。
 彼女の本性は半身半馬。なるほど、であればそれだけの速さで走れることに何ら不思議はありはしない。生まれが砂漠であるのなら、ダートの走破も慣れたものだ。
「ざっとひとっ走りしてみたが、遺跡の出入り口も牛頭の怪物も見当たらないな……思いきって流砂に飛び込むしかないか」
 やりたくはないがね、と。
 どこかげんなりとした表情を浮かべ、ラダは呟く。

 ラサ。
 広大な砂漠の一角にある流砂地帯を訪れたイレギュラーズは、そこで姿を消したという商人フフ&プティの居場所を探し散開していた。
「ふむ。流砂に飛び込むのも一つの手ではある、わよね」
 流れる砂を凝視しながら『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)は艶やかな黒髪を撫でつける。髪に付着した砂粒が、ぱらと地面に零れて落ちた。
「……躊躇ってたらお二人の生存率が下がる。決断しなきゃ」
「危険すぎる。まずは小動物を内部へ潜らせることで探った方がいいな」
 エルスを制止した『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)は【ファミリアー】で喚んだスナトカゲを1匹、流砂の中へと進ませる。
 無事に地下遺跡にまで到達できれば、少なくともフフとプティの安否程度は把握できるだろう。

 ピンクの髪を振り乱し、『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)は岩場の影へと跳んだ。獣種特有の俊敏さでもって、右へ左へと駆けまわり、地下遺跡への出入り口を捜索している。
「二度ある事は三度ある! いや、もう驚かないですよ!」
「うん? 何がですか、しにゃこさん?」
「フフさんとプティさんがトラブルに巻き込まれるのが、です!」
『竜食い』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)の問いに応えを返し、しにゃこは地面にしゃがみこむ。
 馬に跨るシューヴェルトは、ちらと周囲へ視線を巡らし思案する。
 流砂に飲まれたというフフとプティの安否はもちろん、付近に現れるという牛頭の怪物も気にかかる。
「無事だと良いのですが……」
 煌々と太陽の輝く空を見上げて、シューヴェルトはそう呟いた。

「おい、見ろよ! この石、動いた形跡があるぞ!」
 乾いた風の吹く中に、快活な声が響き渡った。
 マスクを被って、スーツを着込んだ異様な男が砂漠の真ん中に立っている。砂漠に慣れた者がその姿を見れば「砂漠を舐めるな」と怒鳴りつけたことだろう。
 或いは、暑さで自分の頭がどうかしたのか、と疑うはずだ。
 しかし当の『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)は、平時と変わらぬ飄々とした佇まいを崩していない。ともすると、やせ我慢かも知れないが……。
「おいおい、何だこれ。砂漠ってこういうのもあるのか面白ぇな!」
「砂が流れてんのか? いや、そういう風じゃねぇな……」
 岩が動いた跡であろう。
 興味深げにそれを眺める『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)。一方、『月夜に吠える』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は砂地に残った移動の痕跡を【ハイセンス】で追っていた。
 移動する石をはじめ、砂漠では時折、通常では理解できない不思議なことが起きるのだ。
 例えば、それは蜃気楼。
 例えば、それはある日突然、砂地に残った真円の痕跡。
 例えば、それは一夜にして姿を消したオアシスの街。
 例えば、それはいつの間にかそこに居た、牛頭人身の巨躯の怪物。
「っ……お出ましだ。牛に獅子に馬と今回の依頼は獣率が随分高ぇな……つっても、一番強ぇのが馬っぽいのは笑えるが」
 仲間に合図を送るべく、ルナは空へ向かって吠えた。

●牛頭の怪物
 雄たけびをあげる牛頭の怪物。
 筋骨隆々たる赤銅色の肉体。その手に握るは、岩を削りだしたような巨大な剣だ。
 鼓膜が破れるのではないか、というほどの大音声。
 獅門は思わず耳を塞いで、顔を顰めた。
 ビリビリと体を打ち付ける音の波が、獅門の体力を僅かに削った。
「くっ……ルナ!」
「応! まずは一気に接近するぜ! っても、その後は俺ァ 後ろで待機だ」
 なんせ紙なんでな、と冗談めかしてくっくと笑いルナは地面を蹴り飛ばす。
疾走。
 後に続く獅門は腰の刀に手をかけた。
 速度を乗せた前肢による斬撃が、大上段から牛頭の怪物を襲う。岩剣でそれを弾いた怪物は、続く獅門の斬撃を頭を振り回すことで迎撃。
 弾かれたルナが地面に転がり、獅門は怪物の眼前で姿勢を崩した。
「ハッ、すげぇ迫力だ。ゾクゾクしてきたな!」
 手にした魔刀を眼前に構え、英司が接近。
 牛頭の怪物めがけ、斬撃を見舞う。
 生憎と、分厚い筋肉の壁に阻まれ大した傷は与えられてはいなかった。
 下方より振り上げられた怪物の拳が、英司の顎を掠めた。
「……ぁ!?」
 ガクン、と英司の膝が崩れる。
 頭を揺らされたことによる脳震盪だ。
 敵の眼前でこれはまずい。大ダメージを覚悟した英司だが、予想していた次の痛みは訪れない。
「速攻で決めるぞ」
「了解です!」
 響く銃声は2発。
 駆け付けたラダと、しにゃこによる牽制射撃が怪物の動きを止めた。
 怪物は岩剣で銃弾を弾きながら、数歩後退。
 遠方より駆けつけてくるラダとしにゃこを一瞥すると、くるりとその場で踵を返した。
 サボテンの群生地へと向かって逃げる怪物の背には、数本の矢傷や、火傷の痕が残っている。

 サボテンの群生地には、巨大な穴が空いていた。
 地下へと続くその穴は、どうやら地盤の崩落により出現したもののようである。
「この下が地下遺跡で間違いないようだな。しかし、砂漠の怪物か」
「怨霊の類はいないようだが……怪物の住処にしては平和だな。地下遺跡がどのようなものかは分からないけどね」
「牛頭は、おとぎ話では迷宮で出現すると聞いたことがあるが、こちらはどうだろうな」
 ジョージとシューヴェルトの調べでは、地下遺跡は思ったよりも危険の少ない場所のようだ。とはいえ、牛頭の怪物がそこを住処としていることには違いない。
 決して油断の出来る場所ではないだろう。
「とにかく、他に入り口が無いならここに飛び込むしかないだろ。待ってろよ、2人共!」
「さーて、インディジョーンズの時間だ。幸いこっちにゃ白馬に乗った王子様が付いてる。お嬢ちゃんらは運がいいぜ」
「王子ではなく貴族だが……まぁ、貴族騎士として僕とヨモツヒラサカが、2人を守ってみせるさ」
 獅門と英司を先頭とし、一行は地下へと降りていく。

 すんすんと鼻をひくつかせ、しにゃこが地面を這っていた。
 餌を探すネコ科の動物を思わせる。
「フフプティさん達の匂いとか、しにゃ覚えてないですかね……」
「……覚えているから、そうしていたのではなかったのか」
 そんなしにゃこを見下ろして、ラダは呆れた吐息を零した。
 黴や埃の臭いはすれど、人の臭いは微塵もしない。しにゃこは首を傾げながらも、一心に前へと進んで行く。
「せめて方向が分かればな……」
「それか音ね。わたしは目の前の視界が見える程度だけど、足音等が拾えればいいのだけれど」
 ジョージとエルスは足を止め、物音を探って耳を澄ませた。
 ごう、と風の吹き抜ける音。
 人の声や足音などは聞こえない。
「あ!!」
 代わりに、しにゃこが何かを発見したらしい。
 身を起こした彼女が指さすその先には、巨大な裸足の足跡があった。
 おそらくそれは、牛頭の怪物が残していったものだろう。

 広い通路を進んだ先に、その怪物は立っていた。
 手には岩の剣を携え、こちらを見やる瞳は怜悧。
 その脚元には、姿を消した冒険者たちの物であろう剣と盾とが落ちている。
 怪物の背後と、そして左右にはそれぞれ通路が伸びていた。
「背後の通路が怪しいか?」
 と、そう告げたルナが姿勢を低くし、駆ける脚に力を溜めていく。
 岩の大剣を足元に突き刺し、怪物はじっと一行を見た。
 冷たい瞳だ。
 怒りも、焦りも、敵意も浮かんではいない。
 そのことに疑問を感じながらも、ルナは地面を蹴りつけた。風の如く、迫る黒い獣の突進を怪物は腕を交差し、受け止めた。
 その隙にジョージと獅門は、ファミリアーを左右の通路へ走らせる。フフやプティの居場所が分かれば、最短距離で彼女たちを助けに行けるからだ。
「分かっているとは思うけど、牛頭の怪物以外にも警戒しておくのよ!」
 仲間へ注意を促しながらエルスは駆けた。
 その手に握る大鎌を、大上段より振り下ろす。怪物はそれを、手にした剣の柄で受け止めた。横薙ぎに振るわれる剣の腹がエルスの右腕を殴打する。
 弾かれたエルスは、しかし地面に足を滑らせ姿勢を維持した。
 低い位置から上段へ向け鎌を一閃。
 それが怪物の腕に深い傷を刻んだ。
 飛び散る鮮血が、エルスの頬を朱に濡らす。
 エルスを援護すべく、シューヴェルトが怪物の右方向から回り込んだ。
「竜食いの貴族騎士が、お前たち魔物を退治して見せよう!」
 怪物は剣を手にして、右の通路へと移動。シューヴェルトの進路を塞ぐように剣を横に薙ぎ払う。
 剣の切っ先が壁を砕き、石の破片が飛び散った。
 踏鞴を踏んだシューヴェルトの眼前に怪物が迫る。振り下ろされる大剣を回避しながらシューヴェルトは後退。次第に左の通路へと追い込まれていく。
 獅門と、そして英司も戦線に加わるべく駆け出すが、ラダはそれに待ったをかけた。
「あ、なんだよ?」
「違和感がある。しにゃこ……“視ていた”か?」
「うぅん? 何だか、誘導されている、ような?」
 英司の問いにラダとしにゃこが答えを返した。
 ライフルを構え、怪物の動きを細かに追っている2人の目には、その行動が奇怪に映った。先ほど、シューヴェルトが右方向へ動いた際には、近くに居たエルスやルナを無視し、それを迎撃に向かった。
 一方、今現在は先行した3人を相手取りながら、左の通路へ追い立てているようにも見える。
「つまり、右の通路が怪しいってことか? 餌を取られたくないんだろ?」
 と、獅門が告げた、その直後……。
「いや。違うな……見つけた。フフとプティは、左の通路の奥にいる」
 ジョージの放った【ファミリアー】が、フフとプティの居場所を遂に突き止めた。

 念のため、と。
 ラダの放った音響弾が、爆風と怪音波を撒き散らす。
「エルス! 左の通路へ進め!」
「え!? 何? 聞こえないわ!?」
「……しまった。先に指示を出すんだった」
「こっちですよ、付いてきてください!」
 駆け出したしにゃこが、エルスやシューヴェルト、ルナへ向けて指示を出す。
 身振り手振りを駆使した指示に、ようやく3人はラダの意図を察したのだろう。怪音波に耳を押さえた怪物を尻目に、一行は左の通路へ駆けていく。
 剣を手にした怪物は、しかし黙って立ち去る一行を見送った。

「フフさん! プティさん! 生きてる!? 助けに来たわ!」
「行方不明だった冒険者さん達も一緒みたいですね! まったく、困ったものですね。美少女はトラブルに巻き込まれる運命にあるので仕方ないですが!」
「って、行方不明の冒険者って4人じゃなかったか? 5人いるぞ?」
 エルス、しにゃこ、英司の順に言葉を投げる。
 通路の最奥、広間のようになった区画にフフとプティは焚火を灯して座していた。2人の背後には馬車が一台。焚火を囲むように、5人の冒険者が横たわっている。
「行方不明になった冒険者は4人……とのことだったが、どうやら俺たちの知らない遭難者がいたらしいな」
 フフやプティよりも先に流砂へ落ちたのだろう。
 憔悴している冒険者たちを一瞥し、ジョージは僅かに顔を曇らせた。
「骨折している者もいるのか。怪物にやられたか? だが、もう大丈夫だ。これ以上は指一本、触れさせん」
「しにゃこさん? あ、いや……違うのよ。この人たちは、怪物にやられたんじゃなくて」
「怪物が、ここに運んできた、よ。怪我をしてて、動けない、から」
「うにゃ? どういうことです?」
 理解できない、と。
 頭の上に「?」を浮かべ、しにゃこは首を傾げるのだった。

●地下迷宮からの脱出
 おそるおそる、といった様子でプティはルナの背に乗った。
「おー……けっこう、高い」
 馬車には御者を務めるフフと、怪我をした冒険者たちが乗せられている。
 馬車を引くのは、シューヴェルトの愛馬であるヨモツヒラサカだ。
「あの、本当に大丈夫なの?」
 と、御者台に乗ったしにゃこへ向けてフフが問う。
「ふぁい?」
「あ、いえ。何でもないわ」
 馬車に備蓄されていた干し肉を頬張っているため、しにゃこは言葉を返せない。
 代わり、というわけでもないがエルスと獅門は己の武器を掲げたうえで、にぃと笑みを返して見せた。
「酷い目に遭ったわね……でももう大丈夫」
「何があろうと守ってみせるさ。さぁ、早々にこの遺跡を脱出するぜ」
 馬車に先行するラダやジョージもその想いは同じだろう。
「行きも帰りもおっかねぇが。ま、なんとかなるだろ」
 いざとなれば、己が身に変えてもフフとプティを逃がして見せる。
 そのような決意を胸に秘めた英司であるが、その想いを表に出すことはしなかった。

 はじめに、流砂に落ちた男が1人。
 落下の衝撃によって、気を失ったその男が目を覚ました時、目の前に居たのは怪物だった。牛の頭に人の身体。岩剣を携えたソレに向け、半狂乱のまま男は矢を撃ち込んだ。
 矢を受けた怪物は、ゆっくりとどこかへ立ち去っていく。
「助かった」と、安堵した拍子に、彼は再び気を失った。

 それからしばらくして、男の元に4人の冒険者たちが運ばれてきた。
 運んできた来たのは、牛頭の怪物だ。
 冒険者たちは流砂に飲まれて、地下迷宮に落ちたらしい。うち1人は、強く頭を打っており、動かすのも危険な状態だ。
「地上を目指そうにも、怪物が恐ろしくてな。身動きが取れなかった」
「怪物が俺たちを襲ってこないと気付いた時には、衰弱して碌に動ける状態になかったんだ」
 地下迷宮を抜け、地上に戻った冒険者たちがか細い声でそう告げる。
 動けなくなった冒険者たちを、怪物はフフとプティの元へと運んで行った。
 フフとプティは馬車の積荷を使って冒険者たちを治療した。
 火もある。水もある。食料もある。
 冒険者たちの体力が回復し次第、地上へ向けて移動を始めようとした矢先に、イレギュラーズが駆けつけた、というわけだ。
 
 すっかり日の落ちた夜の砂漠を、イレギュラーズとフフとプティ、冒険者たちは街へ向けて移動する。
「結局、あの怪物は何がしたかったんだ?」
「さぁね? 何はともあれ、連中が助かったのはあの怪物のおかげってことだ」
 怪我をして、満足に動けないままに砂漠へ連れ出されていたのなら、冒険者たちはそう遠くないうちに干からびて命を落としてしまっていただろう。
 そうならなかったのは、怪物が幾らかの知性を有していたからだ。
 日を遮る地下空間。
 僅かであるが水もある。
 おかげで彼らは、生き延びた。
「グンナイ・ベイビー」
 背後にチラと視線を向けて、英司はそう囁いた。
 サボテンの並ぶ砂漠の一角。
 その真ん中に月を背にして立ち尽くす、牛頭人身の怪物が踵を返してどこかへ消えた。
 きっと、彼は地下迷宮へと戻っていくのだろう。
 誰もない。
 静かで、暗い、地下の世界へ。

成否

成功

MVP

ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
フフとプティ、そして冒険者たちは発見され、無事に救出されました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
また縁があれば、別の依頼でお会いしましょう。

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