シナリオ詳細
スペッサルティンを西に
オープニング
●スペッサルティンの花嫁
西に西に、日は沈む
その日を受け止め煌めいて
輝きを編み込んだ絹糸は、昏く沈んだ一日の恐怖など退ける
陽の光が、あなたを、愛しい人を守るから
――だから、どうかしあわせに
●
地図に寄ればその地は西へと沈むように進んでいるらしい。
やっとの事で辿り着いたがその遺跡は地中に潜るように存在して居た。階段が存在するわけではない、下へ下へと続いた坂道。
闇ばかりが広がっているが此処で引き返すわけには行かない。
脚を引っかけるように下がってゆけば堅牢なる扉が存在して居た。
だが、男は臆することは無かった。どうしてもこの先に向かわねばならない。
転がっていたスペッサルティンに似た鉱石を宛がえば扉は開いた――が、突如として岩の腕が飛び出した。
此の地を守るゴーレムか。
アドリーは小さく溜息を吐いた。此れでは進むことが出来ないか。
だが、手に入れた巻物にはこの先に存在して居ると聞いたのだ。
『アレ』を手に入れなければならない。彼女に似合う花嫁衣装は『アレ』を使用しなくてはならないのだ。
ナハラ、君のためならば僕は進もう。
男の前に落ちた岩は――
●満礬柘榴石の煌めき
「……えっと、来てくれてありがとう」
辿々しくそう告げたのはファルベライズ遺跡群で『守人』をして居た『光彩の精霊』イヴ・ファルベ(p3n000206)であった。
彼女はファルベリヒトの最後の力で精霊種としてその存在を混沌世界に認められたらしい。本来意義的には性別という概念は存在して居ないそうだが、その見た目から『彼女』と称そう。
彼女はその出自故に人間の常識には疎い。世情の勉強を兼ねて情報屋としてイレギュラーズの力になりたいとファレン・アル・パレスト(p3n000188)の庇護下で日夜努力を重ねてきたらしい。
「みんなに、お願いしたいことがある。ラサの商人からのお願いだよ」
――この台詞も夜な夜な練習したらしい(フィオナ談)
「私は、ファレンとフィオナと一緒に居るから。ラサの商人の皆からの仕事を、ローレットに斡旋できると思う。頼って、くれてもいいよ」
表情に余り変化はないが自慢げな事は伝わってくる。頼られたいお年頃である精霊ファルベリヒトのかけら、心臓(イヴ)。
彼女は資料だよとイレギュラーズへと差し出した。
スペッサルティン――満礬柘榴石と言う名の鉱物が存在する。だが、今回は鉱物を採取して欲しいという依頼ではない。
其れによく似た柘榴色の輝きを宿したゴーレムがラサに存在する遺跡の一つで行く手を塞いでいるのだという。
依頼者であるアドリーと言う名の商人には妹が居た。
事故で両親を亡くして兄妹だけで過ごしてきたアドリーにとって、妹ナハラの婚礼は楽しみで仕方が無いイベントだ。
故に、どうしても幸福の花嫁となるナハラの為に手に入れたいものがあるのだという。
スペッサルティンの輝きを編み合わせた絹糸。それを彼女の人生一度の婚礼の儀に使用したいのだ。
アドリーの家には古く伝わる御伽噺が存在して居た。スペッサルティンの絹糸を編み合わせて婚礼の衣装を作れば幸せな花嫁になれる、という。
「だから、皆にアドリーを護りながらスペッサルティンの絹糸を取りに行くことをお願いしたいんだ」
どうかな、とイヴは問うた。出来れば、アドリーの希望を叶えてスペッサルティンの絹糸でナハラの衣裳を作ってやりたい。
彼にとってのたった一人の家族。婚姻で家を出ることになるならば兄として最後にしてやれる、一番の贈物だ。
「私にはそういう『しあわせ』の気持ちは分からない。けど、アドリーが必死なのは分かったよ。
……皆が、彼のお願いを叶えたら、私もそう言う気持ちが分かるかな? なんてね。どうか、よろしくね」
- スペッサルティンを西に完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月30日 22時00分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
イレギュラーズ達を迎え入れて、情報を伝える。そんな当たり前の様なことでもイヴと呼ばれた精霊種にとっては初めてで。
「ふふ、なんでも初めてっていうのは緊張するわよね。私も初めて人前で踊った時のことを思い出すわ」
穏やかに、ひとつ声を掛ければイヴはハットしたように背を伸ばした。『剣靴のプリマ』ヴィリス(p3p009671)は僅かに屈みイヴの瞳を覗き込む。
「初めましてね、イヴ。依頼、頑張ってくるわ」
「初めまして。ヴィリス。気をつけて」
イレギュラーズを送り出すだけの仕事。故に、自身は『見ているだけ』しかできないことを学んだイヴの表情を盗み見てから『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)はその顔つきが遺跡の地底湖で見た時と随分と変化したように感じられた。彩り溢れるファルベライズ遺跡群。その守人であったイヴは何人たりともこの先には進ませるまいと凜とした空気を纏っていたようにも思える。
(表層を覗くだけではわからないかもしれない。でも、君は確かに成長しているんだね。……そっか、良かった)
辿々しくも『人間』になる道を辿っている。だからこそ、『君が居るから』ニア・ルヴァリエ(p3p004394)が自己紹介を終え「これからは頼りにさせて貰うよ」と笑いかけたその言葉に喜ばしいと笑みを綻ばせるのだろう。
「頑張ってるのは、応援してあげたいって思ってるし。初依頼、成功させてあげなきゃね。
それにちょっとばかり個人的な興味もあるんだ。誰かの幸せを願って、ってのは……素敵な話だと思うからさ」
「興味……」
誰かの幸せを願う――それがスペッサルティンの御伽噺。そんな誰かの為を願った仕事を彼女が『依頼』して来る事が喜ばしくて。『天地凍星』小金井・正純(p3p008000)の口元はついつい緩んでしまう。
「イヴさん、お元気そうでなによりです。それに、ふふ。ええ、とてもお似合いですね。
イヴさんから頂いた情報での初任務、必ず成功させましょう。――しあわせを知っていただくために」
お似合いだと、情報屋である自分を褒めてくれるその一声にイヴの心は躍った。「はい、頑張って下さい」と何とか紡いだ言葉へと『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)は勿論よ、とウィンクを一つ。『ラサ』ではその名も通る夜色の娘はラサの新たな情報屋を歓迎するようにその肩をぽんと叩いた。
「情報屋イヴさんの初めてのお仕事……何とか成功に導く為にも精一杯力になってあげなくちゃね!」
「仕草が、ディルクに似て」
「え、」
首を傾いだイヴの背後で笑みを噛み殺している気配を感じる。保護者の視線から小さな咳払いを一つ――エルスは「お仕事を確認しましょう」と言った。
スペッサルティンの花嫁――その御伽噺を確認のように語ったイヴに『くろいかおをかおかおかかか』高槻 夕子(p3p007252)はアメジストの様にきらりと輝く瞳で「えー! いい!」と同意を示した。
「花嫁衣装! ずっと大事に思ってた妹の為に作る祝いの衣装! あこがれー。乙女としてきゅんきゅん来るわ!」
兄が妹の為に。そう願ったその思いは『きゅん』と来て心が躍るというモノだ。自身で手に入れたいと願ったアドリーは感激する夕子に頬を掻き照れくさそうである。
「おいおい、泣かせるじゃねぇか……。こいつは必ずハッピーにならなくちゃならねぇ、五体満足で家に帰してやる。絶対にだ。
……フラグになる言動は慎まないとな。でもこういうのって注意してる時ほど出ねぇか?」
『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)がからからと笑えばアドリーは「お手柔らかに」と可笑しそうに小さく笑った。青年を護衛しながら遺跡を進むのは重労働であるが嫌な気分ではない。
「妹さんが結婚か。そりゃめでたい。
たった一人の家族の晴れ舞台だ。出来る事だけの事はしてやりたいもんだよな。その美しい絹糸が見つかるように全力で応援させて貰うぜ」
任せろと『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)は胸を張った。カムイグラとは婚礼の儀も違うが、それでも家族のためを願う気持ちは万国共通だ。
「どうか、妹のために……宜しくお願いします」
青年にハンスは大きく頷いた。イヴのはじめの一歩、妹のためと走るアドリー。ちゃんと、応えて見せなければ。彼等は、今日も懸命に生きている。
――今日という日の花を摘め。
●
遺跡を傷付けないために。ニアはこれから先も『花嫁のため』にに訪れる者が居るだろうと保護の陣を張り巡らせる。
「へえ、此処が『スペッサルティン』の遺跡?」
辺りを見回した夕子が西へ西へと下り降りて行く坂道に気をつけるように一歩に歩と進む。暗がりにも適応した吸血種の目で暗がりを見詰めていたエルスは「この辺りはでは一人で来たの?」とアドリーへ問い掛けた。
「そうです。坂道で転げ落ちそうになりましたけれどね、これもあの子のためですから」
「ふふ、そうね。結構キツい坂だもの」
くすくすと笑ったエルスにアドリーは頬を掻く。正純は青年の勇気を称賛しながら宝物庫までの安全確認も確りと行っていた。坂道には人が通った痕が存在して居る。真新しいソレがアドリーに付けたモノなのだろう。
「……この辺りで転ばれました?」
「えっ」
どうして、と照れくさそうに呟く青年に跡が残っていると正純は囁いた。獅門がどれ、と月の目薬でまじまじと見遣れば擦れた痕が存在して居る。
「此処で転んだのか? 全く、そのまま『帰ったら、妹におめでとうって言うんだ』なんて言い出さなくって良かったぜ」
急な坂道をカンテラで照らした英司はナハラとの思い出を聞きたいと肘でつんつんと突いた。大切な妹と、その愛しい人が出会うまでの紆余曲折の物語。聴けば、アドリーは妹を宝物のように扱っているらしい。
「さて、アドリー。妹が『今まで幸せだった』と言ってくれるか『今の方が幸せだった』と言ってくれるかどっちが良い?」
「ええ」
「ジョークだ。どっちもだと応えられるように取りに来たんだろう? 此処に!」
ほら、と英司が指さしたのは宝物庫の扉であった。ヴィリスが「ここがそうなのね」と周囲を見回し耳を欹てる。奥から聞こえるのは守護射の駆動音だろうか。
「それじゃ、準備しましょうか。……必ず成功しましょう」
それはイヴの為でもあるのだとヴィリスは意気込んでいた。彼女の初めての『お願い』が素晴らしい結果になるように。それでも、気負いすぎてはいけないかとくすくすと笑う。
「そうだ。やる気が溢れすぎてスペッサルティンの糸までぶち壊しちゃ目も当てられねぇだろ?」
「ええ、ええ。いつも通りが一番だわ。私たちの今回の役目はゴーレムの相手。お人形遊びはもう卒業したわよ?」
ヴィリスの義足が鈍い光を帯びる。美しい、常人のものではない足先はダンスをするのに適しているように。下がっていて欲しいと囁いて死極の剣に適した太刀を握る獅門が構えを取る。
「とりあえずは……あの邪魔なゴーレムを片付けるところからだな!」
地を蹴った――その刹那。風を切るように青い羽根が舞踊る。
大いなる意志は錬金術として少年へと力を与える。『虚刃流』を用いた存在しない爪が天を掻く。
「――道、切り拓きますッ!!」
それは活路を開くが為の突破口。傍らに幸いを見出す旅路。心を貫き青に染め、未来ではなく今その一度をその手で掴む為にハンスは飛び込んだ。
ゴーレム三体の無機質な気配が警戒を怠ること勿れと変化を齎した。ニアの巡らせる結界が、支えてくれていることを感じながらヴィリスは先手を狙う。
「人の恋路を邪魔するお人形さん! プリマに蹴られて壊れなさい!」
ハンスを巻き込まぬように。剣の靴を纏ったプリマは躍動的なステップを踏んで踊り狂う。舞台の上で乙女の輝きは霞むことなどないと、知らしめるように。
突如とした『侵入者』に無機質ながらも振り向いたゴーレムの前で風がゆらいだ。祝福の盾を前に、精霊の風に行っておいでと誘うのは決意の短剣。
鋭く研ぎ澄まされた猫の目はゴーレムをしっかりと睨め付けていた。少女のその体に狙い定めたように石躯が動き始めればアドリーがひいと小さく呟いた。
「さて、良いお兄ちゃんでしたなんて言われたかないだろ? 後ろに下がってくれ。――一体、来るぞ!」
アドリーの肩を掴んで後方へと引き摺った英司。その言葉に反応し前線へと飛び込んだ封蝋より現われた大鎌。
溶けない氷鎖のペンデュラムが揺らぐ。魔術と格闘、織り交ぜた奇襲がゴーレムのその硬い岩肌へと叩き付けられた。
●
誰かの幸いを願う。ソレは良きことだ。スペッサルティンの絹糸で願い紡いだ花嫁衣装――それは妹にとって最高の思い出となる事だろう。
「ええ、妹思いな兄を持てて妹さんも幸せでしょう。……少しばかり無鉄砲な気もしますが、まあそれはそれ」
くすくすと小さく笑みを零してから正純は神弓を構えた。ぴんと伸びた背筋、一射に魂を込めて放つのはどうしようもないほどに不可避の矢。
星の加護を聞きエルスの奇襲に姿勢を揺らがせたゴーレムの足を狙う。縫い付けられたように膝を突いたそれが鮮やかな光を帯びる。柘榴石で作られたかのような躯は優美そのものだ。その赫々たる色彩は星の死を思わせて。
「敵でなければ星を思わせるようなその鮮やかな輝きを鑑賞したいところですが、依頼主さんの手前もあります――さっさと片付けましょう」
正純の言葉に頷いたが速いか、夕子の表情が変化する。先程までの明るい少女のかんばせが一転して何者かの影を宿して。
「朝の角度が438797秒を超えた時、列車は音もなく昔話の心意気を繰り返しましょう。だって豚は兎を着て踊るのだから」
指さすように明後日を。列車の汽笛を聴いたかの如く放ったのは絶望の海。それは青青青青青青ああああああ―――――何だったか。
頭を抱え、呪いを帯びたように淀んだ空気を醸した夕子の前で、ニアがとん、とんとステップを踏み続ける。風に乗れ、風の精霊は共に踊ること求めているのだから。
澄んだ風の気配に、悍ましく淀んだ夢のような。
その中でヴィリスは何とも奇妙な気配だと覚悟と自由の象徴たる意匠で舞踊る。軽快なステップは乙戸が泣くとも崩れることは亡く。熱狂は苦痛を気付かせることはない。
飛び込めば、切っ先が固くゴーレムへと叩き付けられた。腕に僅かな痺れ――だが、幻夢桜獅門が振るう攻勢戦術は確かなものである。
乱撃は鋭利に叩き付けられる。鮮やかなゴーレムが鈍く淀む。その気配は夕子の纏った淀んだ夢まぼろしのような変化を遂げて。
「――変わるぞ!」
英司が周囲に飛んだ石のかけらからアドリーを庇い、そう叫んだ。頷いたのはハンスが早いか。
その淀んだ気配は美しさの行きさえ潜めさせるように。短期決戦で終わらせるならば――放つのは虚刃流の継承、唯彼なりの到達点。あらゆる障壁さえも蹴り破った虚なる光。槍を模してゴーレムの胸を貫けば僅かな光が漏れる。
美しい、と正純は感じていた。ソレは星の瞬きにも似た、鮮やかな光。
「星の一生を見て居るようですね。苛烈に燃え盛り、ついには己の火に耐えきれず潰えて行く――」
それは寂寞にも似た、命のルール。星々の一生を知り、星々の声を聴く。星の巫女は鮮やかな煌めきを射た。穿つ、命は不幸をせせら笑うよりも尚美しい。祈りを込めた星光の様に。
「守っているだけなのでしょう? スペッサルティンの御伽噺を。ええ、そうね。
『本当に有るか分からないからこそ御伽噺』なのだから――あなた達には悪いけれど……ここを通してもらうわ!」
強者の前で懼れる事はない。それは乙女心と尊敬と、全く違った二種類の織り交ぜになったエルス・ティーネが戦場へ向かう確かな決意。
それを胸にし、赤犬装束に身を包んでエルスは放った膨張する黒。喰らい付くは直死の魔性。ただの一度の決意の如く。
口を開いて飛び込めば真っ直ぐに夕子が指をさす。邪悪な怨霊と呼ぶべきか、彼女の背後に立っていたのは黒い顔のヒトガタ。
「脾臓がぁわわちぬいよに塗りつぶさてぐるぐるぐるぐるお店がひらき時速364キロの冥王星が指三本で抗うのです。帰る」
それを認識してよい物か。悪い物かも区別はなく。言葉にするのも控えたくなる憎悪と嫌悪。そして――狂気の乙女がからからと笑った。
その笑い声はヴィリスのリズムを崩さない。ひゅうひゅうと吹いた風の中、ニアは「さあ、どうなる?」と小さな声音で囁いた。
英司には見えているだろう。心優しき青年に「この戦いが無事に終わったら――」なんてジョークを交えて後ろから見ていたのだから。
ゴーレムが一つ、その躰を崩したようにごろごろと落ちてゆく。その躰を乗り越える様にニアが地を蹴り残る二体の前へと躍り出る。
もう一つも足が崩れるか。ヴィリスは踊り、それが崩れ去る光を真っ直ぐに見据えた。目隠しの奥でさえ感じる眩さが、正純の言う『命の終わり』か。
「綺麗ね」
囁く声に、「そうだね」と一言、ハンスが返す。今日という日の為に。命を燃やし、使い、この時を戦い続ける。この日の花は、この日の為に。
花開くように、虚空を切り裂けば、柘榴色の体の光が砕け散った。太陽が、落ちる様な鮮やかさで。
「おやすみ、綺麗な綺麗な人形さん。宝物、頂いていくね」
すぺっさるティンの守護者の沈黙に、祈るように囁いて――
●
それは太陽の気配を孕んでいるのだと聞いた。ニアにとって太陽と言われれば親友の――ニアと呼んで楽しげに微笑む彼女の顔が浮かんでしまう。
「せっかくだから、あたしも絹糸探しを手伝うよ。代わりといっちゃなんだけど、ちょっとばかし分けてもらえたらなって。
あたしにも、幸せになってほしい、護りたいって思ってる子がいるから……さ。勿論、自分の手で見つけたいって気持ちを無碍にする気は無いからね」
手伝うだけだと笑いかけたニアにアドリーは「一緒に探して、一緒に手にしましょう」と意気込んだ。
「スペッサルティンの絹糸……ね。一体どんな代物になるのかしら……」
スペッサルティンの絹糸を前にして、エルスは不思議そうにまじまじと眺めた。「……花嫁衣裳か……乙女の憧れ、だなんて皆言うわよね……」と呟き、その絹糸から作られる花嫁衣装に思いを馳せたエルスの傍らで正純が「エルスさん」とその名を呼んだ。
「イヴさん――いえ、此れは屹度フィオナさんでしょうね。伝言です。『いつ着るんですか?』と」
「へ、わ、私は着る予定は無いけれど?! ……ディルク様?! な、なんであの方が出てくるのよォーー!!」
想像してしまったか、慌てたように叫んだエルスにアドリーは振り向いて可笑しそうに小さく笑った。
戦闘時の『狂気』をすっかりと忘れ去ったように夕子は「んー」と首を捻る。太陽の気配。西へと降りた遺跡。ならば――
「太陽の気配を探す……東側かな?」
「どうでしょう……アドリーさん、頑張りましょうね。きっと、見つけられるでしょう」
彼の、妹を思う気持ちは本物だ。しあわせの気持ち、そう言葉にすればハンスは自信はそれを知らないのかも知れないとさえ感じていた。
手助けだけ、高さが必要ならば自分が担うと告げて祈る。幸福を願う彼の幸福をハンスが願う。その尊い心の、背中を押せますように、と。
「あ!」
男の言葉に覗き込んだ獅門は「それがスペッサルティンの絹糸か。本当に綺麗だな」と頷いた。太陽の気配、それがこう言うものなのかと呟けば英司は「熱くはないんだな」と揶揄い笑う。
「見つけられたね、おめでとう。それと、あたしからも。妹さんに、どうか幸せにって伝えておくれ。
会った事は無いけれど、アドリーを見てれば良い子だってのは分かる。こういうのは皆でお祝いしなきゃね。祝福がありますように、ってさ」
ニアへと有難うございますとアドリーは頭を下げた。良ければ、と見つけた糸を分けるアドリーにエルスは不思議そうに糸を見遣る。
「これ、分けて貰えるの……? ……でも」
花嫁になる予定もないのに――と考えたエルスのその思考が分っているかのようにアドリーは「女性の夢ですし、幸いが訪れるかも知れません」と微笑んだ。
「ふふ、じゃあ……貰っておくわ」
「あ、よろしければ私も少し分けていただきたいのですが。構いませんか? しあわせを、教えてあげたい方がいますので」
是非、と正純に頷くアドリーへハンスもよければ、と微笑んだ。
「気が遠くなるほどの日々を掴んだこの糸なら。僕の幸いを、大切な誰かと結んでくれる気がしたんだ」
獅門と夕子はアドリーに帰ろうと手を差し伸べる。
「俺は式を見られないけど、これで仕立てた花嫁衣装はきっと素敵なんだろうな。
改めて妹さんの結婚おめでとう。沢山の幸福が訪れるよう俺も祈っておくぜ」
「最高の結婚式になるといいね!」
「はい、イヴ。これをあげるわ。情報屋としての初依頼成功おめでとう」
その後――手が不自由していなければ、何かを編んで上げたけれどと困った顔をするヴィリスへとイヴが「習います」と飾りを編んだのは余談である。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
皆様が幸せでありますように。
GMコメント
夏あかねです。イヴ、情報屋頑張ってます。
●成功条件
スペッサルティンの絹糸を手に入れる。
●現場情報
ある地下遺跡、西へ、西へと続いていく坂道の奥にはゴーレムが守る広い宝物庫が存在して居ます。
地下であるためにそれほど散開して戦う事はできません。また、天井まで大凡2m程度です。範囲攻撃などの巻き込みには注意して戦闘して下さいね。
●スペッサルティンのゴーレム 3体
遺跡内部に存在する柘榴色の鉱石をその身体に宿したゴーレムです。大きく、堅牢であるようです。
柘榴色の鉱石の煌めきが変化することで使用する攻撃が神秘・物理と切り替わります。
鮮やかな光を帯びているときは神秘攻撃を、昏く淀んだ光を帯びているときは物理攻撃を使用します。
●商人アドリー
ラサの商人。イヴが仕事を受けた相手です。
幼い頃に事故で両親を失って妹・ナハラと二人暮らし。二人三脚で頑張ってきました。
彼の家に伝わる御伽噺の『スペッサルティンの花嫁』をなぞり、ナハラを幸せな花嫁にするために努力を重ねて来ました。
手に入れた巻物でスペッサルティンの絹糸の場所へ辿り着きましたがゴーレムが邪魔で進めません。
どうしても己の手で手に入れたいと同行します。戦闘能力はありません。
●『スペッサルティンの花嫁』
御伽噺です。スペッサルティンの光で出来た絹糸を編み合わせて作られた花嫁衣装を身に纏うことで幸福になります(要約)
その花嫁は陽の色の煌めきを受け、幸福になる事ができるのだそうです。
スペッサルティンは西に。沈む日を受け止め続けた石の輝きで出来た糸は如何なる時も花嫁を守ると伝えられています。
ゴーレムを倒した後、絹糸はフィールド内の何処かに存在して居るでしょう。
淡い光、太陽の気配を探すように進みましょう。きっと、大切な人の幸福を願う気持ちがあれば見つけることが出来ます。
また、スペッサルティンの絹糸は希望すれば少しなら分けて貰う事ができます。もしも、よろしければ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
Tweet