PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Liar Break>糸繰りの凶刃

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

⚫︎手繰り寄せた信頼と希望
 幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』は遂に追い詰められようとしていた。
 多くの者が動き、その活躍によって国王フォルデルマン三世を動かしサーカスの公演許可を取り消した。サーカスはツケを払う時が来たのである。
 『幻想蜂起』事件で先手を取られた分、今度は絶対にサーカスの連中に好き勝手させる訳には行かない。
 ローレットと門閥貴族の共同前線はレガド・イルシオンから脱出しようとするサーカスを阻止し、包囲網を狭めていく。
 しかし追い詰められたサーカスはそれぞれが決死の反撃、或いは掻い潜り逃げ果せようと動き出す。
 再び幻想は都市や村に混乱が撒き散らされてしまうのか─────

 ─────そうは、させない。
 確かに腐敗や傲慢の気を感じさせる貴族が支配しているが、それでも彼等はサーカスを許しはしなかった。
 悪辣と冒涜に満ちた彼奴等を兵士達は許せなかった。イレギュラーズの声を聞き、いつかの『絆の手紙作戦』を経て民衆は、人々は決意した筈だ。
 貴族だけではない。ローレットのイレギュラーズだけではない。兵士も、民衆も、力無い者達も皆が踏み出したのだ。
 今、ギルドローレットへ息を切らして駆け込んで来たのは名も無き少年である。
「サーカスの、奴らが……! あいつらが逃げ込んだ場所をみんなで囲んでるんだ!
 でも知ってる! あいつらに近付いたらまた、『この前』みたいになっちゃうって、だから……!」
 恐らくは戦えない者の中では相当の足の速さを持った子供だったのだろう。
 聞けばサーカスの一味が騒ぎを起こすべく製鉄所を襲ったというが、いち早く察知した兵士や街の人々が魔の手にかかる前に逃げ出すことに成功したのだ。
 そうして大人達は逆にサーカスの一味を製鉄所の中に閉じ込めて、少年をローレットへ向かわせたのであった。
 額から汗を流して途切れ途切れに告げる少年の肩をイレギュラーズの一人がポンと叩いた。

───「後は俺たちに任せろ」と。

GMコメント

 追い詰められたサーカス団員を倒せるのはローレットのみ。
 あなた方が民衆の希望です。

⚫︎依頼達成条件
 サーカス団員を全滅させる

⚫︎情報精度B
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

⚫︎『人形使いの道化達』
 人形使いは全員で六人。しかし三人は片手と機動力を犠牲に、大型の人形を糸で操り駆使して襲って来ます。
 総合的に見れば、【大型人形三体】と【人形使い(片手ナイフ)三人】に【人形使い(小型マリオネット)三人】の九体が敵対して来るでしょう。

⚫︎敵エネミー情報
 『大型人形』:人形使いが糸で操る、両腕両脚が斧になった金属製マリオネット。機動力は無いが防御力と接近戦に優れているので注意が必要。
 『人形使い(片手ナイフ)』:大型人形を片手と両足で操っている為、命中と回避がガクンと落ちている。空いた片手には鋭利なナイフを持っているが大した威力は無い。
 『人形使い(小型マリオネット)』:細身の小型マリオネットを操って襲って来るピエロ。反応速度と細かな操作の利く小型人形は高い命中を見せつけて来る。

⚫︎民衆からの情報
 小型人形を操るピエロの誰かが原罪の呼び声の影響を受けた狂人を糸でバラバラにしていたのを見ている。

 『人形操り(物近範・中威力』『毒ナイフ投擲(自身の死亡判定時、特レ・小威力【麻痺】)』
 『小型人形操り(物近単・小威力【連】)』『糸繰りの凶刃(物中単・高威力低命中)』

⚫︎ロケーション
 時間帯は夜。幻想の小さな街角にある製鉄所です。広さは町工場にしては広めの【R4】四方と考えて下さい。
 現在は民衆が団結した事で生まれた義勇隊が原罪の呼び声の影響を受けた者を交互に下がらせて出口を押さえています。
 イレギュラーズの活動、『絆の手紙作戦』等による影響は人々に狂気耐性を僅かながら与えているようです。
 到着してから直ぐに製鉄所の扉を開けますが、その際は一切の加減なく攻撃を扉の向こうへ集中させて下さい。
 ローレットの皆様が中へ入ったのを確認したら義勇隊が出口を封鎖して逃げ道を無くしてくれます。
 
 本性を曝け出し、狂気の声を上げる道化達に今こそ鉄槌を下しましょう。
 ヒロイックなプレイングやアドリブOKの記載によって能力に補正がかかります。
 皆様の健闘を祈ります。

  • <Liar Break>糸繰りの凶刃完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月27日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ロザリエル・インヘルト(p3p000015)
至高の薔薇
ジェニー・ジェイミー(p3p000828)
謡う翼
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
クロニア・ヴェイル(p3p001380)
解き放たれし者
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
リーゼル・H・コンスタンツェ(p3p004991)
闇に溶ける追憶
シロ(p3p005011)
ふわふわ?ふわふわ!
エウラリア(p3p005454)

リプレイ

●道化と対峙する者達
 街角の製鉄所の周辺では多くの男や女達が集まっていた。いずれもその表情に余裕は無く、その中には憲兵らしき者の姿もあったが、製鉄所から少し距離を置いた所で倒れ込む様に座り込んでいる。
 製鉄所の正面扉を十数人の男達が必死に抑えている、その向こうからはまるで豪雨の如き衝突音が聞こえて来る。
 裏口には大量のバリケードが置かれているが、途中で罠だと気付かれたのか何か失敗したのか。少なくとも彼等の抑える扉を突破されれば義勇隊を名乗る彼等は血祭りに上げられるだろう。
 義勇隊が抑える扉の向こうで、その本性を曝け出したサーカス団員達が惨劇を生もうとしているのだから。
 その時……扉のネジが飛んだと、誰かが言った。
 もうダメだ女達だけでも逃げろと、誰かが叫んだ。
 頭を抱えて動けない者達は顔を上げる。今ここでサーカス団員の中に混ざる『原罪の呼び声』のキャリアーたる者が出て来てしまったなら、恐らく正気を失う。
 そうなってはここまで狂気に抗って来た意味が無い。そんな事を認めたくない、折れたくなかった。
 憲兵の男はかつてローレットの特異運命座標が運んできた『手紙』を握り締めた。
 彼等、イレギュラーズの多くは異なる世界から来た旅人でもある。
 そんな彼等が繋いだ希望をただ諦めて失うなど、どうして許容できるのか。
「お前ら魔種なんかに、負けてたまるか……!!」
 男は半ば殴り付ける様に扉に駆けて行く。鋼鉄製の扉を通して伝わる尋常ならざる殺気に呻くが、決して下がろうとはしなかった。
 他の男達も額から流れる汗を拭いもせず、扉を抑え続ける。

──────ドドドドド……ッ!!
 鋼鉄を打つ音でも男達の雄叫びでも無い、馬の蹄が街道を鳴らす音がその場に轟いた。

「あの馬車! ローレットだ、ローレットの彼らが来てくれた!!」
「馬鹿ッ、手を緩めるな扉が壊されちまう……!」
 恐らくは扉の向こうにいるサーカス団員達にも聞こえていたのだろう、ローレットの名が出た瞬間に扉への衝撃が勢いを増した。
 思わず怯む義勇隊の面々の前に滑り込んで来た馬車の荷台がその幕を開ける。
「扉を、開けて下さい───!!」
 『笑顔の体現者』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)を筆頭に八人のイレギュラーズが馬車から飛び降りた。
 状況は明白。彼等を疑う事をする者も無し。
 直後に躊躇なく義勇隊は互いの顔を見もせずにそれまで全力で閉じていた鋼鉄扉を開け放った。
「よお、道化師」
 扉が開放された瞬間、『闇に溶ける追憶』リーゼル・H・コンスタンツェ(p3p004991)と道化師の仮面の奥に光る紅い瞳が交差する。同時に扉から猛烈な勢いで伸びるは巨躯の金属達磨が振り下ろした刃。
 しかしその刃がこの場の誰かを傷付ける事は、無い。寸前にリーゼルの投げ込んだ投擲物によって爆炎と衝撃が撒き散らされ、大型人形が弾かれる。
 最早そこで繰り広げられたのは殺意の衝突である。
 爆炎の煙に『絆の手紙』ニーニア・リーカー(p3p002058)がダメ押しに放った毒霧を切り裂いて一気に三体の金属人形が飛び出す。
 薙ぎ払われる鎌をユーリエの周囲から飛び出した鎖が絡み横合いへ引き摺り倒し、先に吹き飛んでいた大型人形の操り手の道化師を拘束することに成功する。
 その鎖を潜る小型人形が突き出した槍の穂先をエウラリア(p3p005454)が撃ち込んだ銃弾で弾き、煙と人形達の向こうに見えた影を更に数発弾丸が打った。
 揺らぐ道化師。漏れる憎悪の声。微かに変わる道化師達の呼吸のリズム。
 渦巻く毒の霧を薙ぎ、『謡う翼』ジェニー・ジェイミー(p3p000828)の戦輪が投げ撃たれる。息を吐かせぬ怒涛の連撃は恐るべき精度で操り動かされる小型人形と打ち合い、やがてリーチと威力の差で敗北した小型人形の片腕を破壊して弾き飛ばした。
 煙と霧が晴れたそこには奏者を守る鉛色の大型金属人形達。
 その道化師達に、鋭くも妖しい声が投げられた。
「サーカスは面白かったからあれだけやってなさいよ、ほんと人間って愚かなのだわ! ─────『妖掌・炎花一輪《プリティデッド・ファイアワークス》』……!!」
「ひ……!?」
 瞬間、『暴食麗花』ロザリエル・インヘルト(p3p000015)から無数に伸ばされた幾多もの蔓に咲き乱れた大輪の薔薇が次々と弾け飛び。肩を撃たれて防御を取れなかった人形使いを中心に爆発が広がった。
 それと同時に、遂にイレギュラーズは内部へと踏み込んだ。
「ここから先はオレ達の仕事だな。行くぞ、ヤツらを狩り尽くす」
 『解き放たれし者』クロニア・ヴェイル(p3p001380)が粉塵の中へ飛び込み、大型人形に繋がる糸で体を支えていた道化師に肉薄する。
「ッッ……~~~!! な、め、るなぁああああぁあ!!」
 道化師から咆哮が上がる。仮面を脱ぎ捨て、突き出した舌で宙を舞っていた糸を引き寄せ手繰り。クロニアの腕を絡め取ることで躱したのだ。
 ユーリエの放った鎖を引き千切らんばかりに、痛々しくも血を流しながら回避に全力を注いだのは執念からか。

 そこで遂にイレギュラーズの全員が中へ入った事で扉が後方で閉じられ、重低音がその場に木霊する。
 一瞬の静寂と空白に乗じて、白い影が駆け抜けた。
「……よくやったよ同志たち」
 刹那に響く声。
 その声の主は扉の周囲に固まっていた人形使い達とは一線引いた後方、暗がりに佇んでいた。軋む人形の駆動音からして人形使いには違いない……だが。
 しかし、暗がりに潜んでいた人形使いが両の手を一閃させた瞬間、突入時直ぐに駆けて行った『ふわふわ?ふわふわ!』シロ(p3p005011)の周囲から無数の銀糸が乱れ舞い上がったのだ。
「よーこそローレットのマリオネッタ。そしてッ! ここでッ! 私と踊れぇええひゃっはははあぁぁ!!」
「っ、わぁああ……!?」
 恐るべき銀閃の嵐に身体中を切り裂かれ、シロの悲鳴が上がった。
「シロさん!?」
「……っうう、シロは大丈夫! ユーリエさんはピエロさんたちを!」
 鮮血が散るその瞬間を見ていたユーリエが慌ててポーチに手を伸ばしたのを、シロが耳を立てて止める。幸いにも傷は致命的なものではないらしい。
 そして彼女はまだ動ける。
「わるーい人はシロたちがゆるさないんだからね! こらしめてやっつけちゃおう!」
 痛む傷ではなく目の前の敵を見据える。暗がりに未だ潜んでいるであろう道化師から目を離さない。
 そのシロの声に仲間達は頷く。
「義勇隊の皆の頑張りにはキチンと報いなきゃね!」
「ええ、これ以上サーカスに好き勝手させるわけには参りません」
 ニーニアとエウラリアが前に出る。その後ろではリーゼルが蛇腹剣を担いで、暗がりに佇んでいる道化師に首を切るジェスチャーを見せた。
「もう公演は終いなんだ、空気の読めない道化師が辿る運命は言うまでもないよな?」
「……」
 後方にいるユーリエはローレットに来た少年や、今までこの製鉄所の扉を閉じていた義勇隊を思い出す。
 こうしてサーカスを追い詰め、まさに袋のネズミとして正面から戦えるのはローレットだけの力ではなかった。自分達はきっかけに過ぎない。
 絆を繋いだのは、皆が立ち上がったからだ。
「もう、誰も悲しまない様に。涙を笑顔に変えることが出来るように────私たちが、最後の希望なのだから!」
 応えなくてはいけない。
 今度こそ悪に負けないという事を証明するために、彼等はここでサーカスの狂気を討つ。
「…………ひひっ、ははは……! どちらにせよ私達は死ぬとしても、最後にその希望を壊せたらどんなに素晴らしいだろーねぇえ?」
 暗がりから現れたのは周りにいる道化師の格好をした者と変わらない。ただのピエロ。
 だがその背格好は、衣装のデザインは、どこかで見たピエロと似た物だった。
「さーぁ、いくよ同志たち。こうなったからには腹を括ろうじゃないか、それをあの人はきっと笑ってくださるさ!」

●鉄の人形
 かくして戦いの演目は再開される。
「やぁー!!」
 即座に体勢を直したシロが凶刃を放った道化師に飛び掛かって細い脚を振り抜き、頭上から飛び込んで来た小型人形が絡め取るように受け流す。
 そちらの動きと同時に大型人形が、エウラリア達がクイックドローさながらに動いた。
「胸糞は悪いけど今までの仕事よりはマシかもしれないわ。あいつらが、やっと、撃って殺せるところまで出てきてくれたのだから」
「ええ……!」
 エウラリアの銃口が火を噴く。それに続いてジェニーが戦輪をクロニアと接触していた人形使いへ投げ撃つ。
 飛び散る火花。宙へ躍る人形使いと大型人形。咄嗟に短く後退しながらクロニアと射線上に人形を割り込ませ、庇われる形で防いだのだ。
 それでも人形使いの受けた傷は深く。迂闊に攻められない事は下がったことからも見て取れた。
 否。仲間の状態を知ってか他の大型人形を操る道化師二人も同時に人形を盾として動いていたのだ。
 人形達の動作を阻害すべく動いていたリーゼル達の脇を、地を這うように身を低くした道化師と腰程度の小型人形が駆け抜ける。
 狙うは後衛の中でも一際『輝いて見えた』少女……!
「ユーリエ! そっち行ったぞ!」
「……!」
 リーゼルの声にユーリエがフランベルクを突き出し、懐に潜り込んだ小型人形の脚部──槍の穂先になっている──爪先を受け止めた。
 ギチギチと鋭利な波を打つ刀身を滑る刃によってユーリエの頬が僅かに切れて、細く血が伝い落ちて行く。
「さーて、邪魔させてもらうわよ」
 シュル。という蔓が這う音が聴こえた。
 次の瞬間に容赦なく炸裂音が轟き、拳大の銃火と共に小型人形とそれを操っていた人形使いが弾かれた。
「私は人間を殺すのは大好きだけど他人に人間を殺されるのは好きじゃないの、分かったかしら?」
「助かりましたロザリエルさん!」
「どうやら攻めるのはこいつらに任せるみたいね、合わせるわよユーリエ」
「はい!」
 ジャキンッ! と鎌を腕部から伸ばした小型人形が二体ユーリエ達を狙う。
 そこへすかさずジェニーとエウラリアの援護射撃が割り込むが、人形使い自身含め軽快なステップと足捌きに直撃を躱されていく。片腕を失った人形に至っては千切れた腕の鎌を武器に銃撃を防いでいた。
 だが、それで十分。
 リーゼルの側から爆炎が巻き起こった直後、その炎風に煽られた人形達に黒い霧の残滓漂う鎖が鋭く巻き付いたのである。
「ぐゥゥ……ぬあ!?」
「人間も面白いおもちゃを作るものね! 私の荊ほどじゃないけど」
 動けない。
 一気に伸びて来た蔓に囲まれた人形使い達の目が仮面の奥で見開かれる。最悪の花弁が咲き乱れた時、彼等は────

 三度目の爆炎が巻き起こり、製鉄所内の天井が大きく揺れて一部崩れる。
 大型の金属人形の後ろで籠っていた人形使い達から舌打ちが鳴った。
 こうして表に出て来て暴走の限りを尽くそうとしていた彼等に信頼関係など存在しない。原罪の呼び声のキャリアーである彼等は『己の狂気』に望むがままに溺れようとしていたのだから、当然と言えば当然である。
「いくら体が大きくても、僕達はそれよりも大きい想いに背中を押せれてるんだから、負けないよ!」
 振り回される斧を躱しながらニーニアが大型人形の一体を引き付け(マーク)する。粉塵散らすその猛然とした勢いに圧倒されず、彼女はその背後に隠れている人形使いに魔術を撃って牽制する。
 一瞬、大型人形使い達が自身の人形に盾となるよう操作したのを見計らったリーゼルが前へ出た。
 丁度小さな白兎と距離を空けた姿を見たのだ。
 あの凶刃を放った道化師。即ちリーダー格であるピエロの。
「おっ……とぉ!」
 爆炎。衝撃波に煽られて道化師の体躯が吹き飛ばされたかに見えたが、身を捻って天井から突き出た鉄骨を足場にして何事も無く着地した。
 小型人形を操る糸に加えて凶刃の要となる銀糸が揺れ動く。
 数滴落ちた雫が道化師の腕から流れた血だと、果たして気付いているのか。
「……ところで、後は向こうの臆病なヒキコモリどもにお前だけだな?」
 リーゼルの目が銀糸を揺らす道化師に向かう。
「さーぁて、ね。先に逝ってしまったのは寂しいが、私達は元よりそのつもりだったからねぇえ」
「何がしたかったんだか。ハッ、ある意味、あんたらの無礼な振舞いのおかげで王様は正気を取り戻したとも言える。そういう意味じゃあ、道化師の面目躍如だなあ。良かったじゃねえか」
「嬉しいねぇえ! サーカスという概念が生まれる以前、道化師とはそういう存在だったと聞くもの……ひっひひはは!」
 ピエロの全身が揺れる。まるで蜃気楼の様に、その姿がブレる。
 刹那、道化師の姿が銀糸に包まれて──────

「跳べ、リーゼル!!」
「ッ!」

 ジェニーの怒号が届いた瞬間、弾かれたようにリーゼルの足はその場から飛び退いた。
 爪先が宙を浮く感覚。衣服と手足を『風ではない物』が撫でる感触。直後にリーゼルの居た位置を大量の銀糸が渦巻いて霧散したのだった。
 間一髪。まさに紙一重の差。
「……なぜ………」
 完全に躱された事に凶刃を放った道化師が仮面の中で驚愕する。
 その隙を逃しはしない。
「すき、あり……!!」
「っくゥ!?」
 一気に距離を詰めたシロが懐から膝蹴りを繰り出し、道化師を打ち上げた。即座に振るわれる人形繰りの指捌き。
 それを、今度はニーニアが察知した。
────「来ますシロさん!!」
 滑り這う人形の背中から飛び出した無数の刃が回転し、首を狙って来たそれをシロは人形の胴体を蹴り飛ばす事で致命的な一撃を避けて浅い傷に留めて回避できた。
 止まっていた時間が戻っていたかのように道化師が血を転がり、衝撃に悲鳴を漏らす中。遂に大型人形達が動き出す。
 恐らくはそれが彼等の作戦だったのかもしれない。
「くく、あの人の言った通りだ。面白い、この状況から生き残ればさぞ外の連中を殺す時、快感なんだろうな……なあ? 死ねぇぇえァアアアアアア!!」
「……! 貴方達の悪行、私たちが許さない!」
 目の前のニーニアを轢き潰すべく薙ぎ払われた大型人形の斧腕を、少女は寸前にやはり察知して飛び越え。その隙を狙ってユーリエの鎖が、エウラリアの銃撃が、ジェニーの戦輪が一斉に奏者を襲う。
 回避のしようなどある筈も無い。だがそれでいいと意識の途絶え際に大型人形の道化師は笑い、ナイフを握る手に巻き付いた鎖を眺めながら呟いた。
 他の二人も突如防御を捨てて大型人形を操作していた。
「来るぞ!」
 轟と暴風撒き散らして、斧の腕脚が回転鋸の如く床を切り裂き暴走する。だがそれをジェニーが飛び越え、瀕死だった人形使いへ戦輪を投げ撃つ。
 クロニアもまた唸りを上げる巨大斧を潜り抜けて、痛む身体を叱咤して駆け上がった。
 絶命した道化師から瞬時に投げ撃たれたナイフ。腕を犠牲にして防いだ彼は畳みかける様に人形使いへ肉薄して拳を連打する。
「~~ッ……!!」
 刹那に人形繰りを行いながら道化師はジェニーとニーニアの視線に気づいた。何故もっと早く気付かなかったのか、彼女達はただ単に手先を見て攻撃を察知していただけではないか。
 大型人形がクロニアへ斧を振り下ろそうとするも、ロザリエルの銃撃が奏者の命をあっさりと刈り取った。
 最後に彼もまたナイフを投げ撃ったが、その刃はロザリエルの頬を浅く裂いただけで終わった。
「……本当に、胸糞の悪い連中だ」
 ジェニーがユーリエから受け取ったポーションをロザリエルに渡しながら、道化師達の最期を見て吐露する。
 鉄の人形。サーカスとはそういう人間ばかりだったのか。

●終幕
「そしてだれもいなくなった、か。笑えないねぇ……思ったよりずっと寒い筋書きだ」
 ピエロは既に自分一人だと理解して、割れた仮面を剥いで帽子も捨てた。
 そこに露わとなったのは栗毛色の少女だった。紅い瞳は額から流れて来た血によって濁り、虚ろなものとなっていた。
 戦意を失ってはいない。
 静かに指先と足首を動かした直後、彼女の小型人形が両腕から鋏を出して臨戦態勢となっていた。銀糸もまた揺れ動き、恐らくはいつでも射程内の獲物へ躍らせるつもりなのだろう。
 だがそれも一人では勝利を掴めない。
 例え彼女が敬愛するサーカスの幹部の一人と同格だったとしても、個人での戦いを求めてしまった人形使い達では野垂れ死ぬのが良い所だった。
「私達は一人で勝ちたかったのさ、本当はサーカスなんて……反吐が出たよ」
 ユーリエが、ニーニアが、ジェニーが、その場に駆け付けて武器を構える。
「だけど他に思いつかなかったし、求めていた『破滅』がいつか手に入るならと思っていた。鼻にかけて笑ってしまうねぇ……ひ、ひひ……」
 道化の少女は笑い、身を屈めた。
 エウラリアが、ロザリエルが、クロニアが、シロが最後の行動を終えようとする。

「良い演目だったよ、イレギュラーズ……お前達の絆と、紡ぐに至った可能性はとても。とても魅力的だったさ。外の連中も……上手くやってくれたよ……ひはは」

 相手が民衆だけなら、負けなかった。ローレットだけなら逃げ切れた。
 本当に、手強い連中になってしまった。
 そう口の中で呟いた少女は紅い瞳を揺らした直後、製鉄所内に激しい戦闘音が暫く鳴り響き。やがて静寂が幕を閉ざした。

成否

成功

MVP

ジェニー・ジェイミー(p3p000828)
謡う翼

状態異常

シロ(p3p005011)[重傷]
ふわふわ?ふわふわ!

あとがき

 かくしてサーカスの最期の暴発の一端は、誰も悲劇に巻き込まれず。
 義勇隊だけではなく、民衆の誰もが紡いで得た強固な絆は狂気だけの強さを凌駕できた。
 この夜に戦った者達全員が掴んだ勝利はきっとこれからも続いていくべき想いだろう。

 お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
 あなた達の活躍によって人々の『可能性』は確かに狂気に打ち勝つ事を証明するに相応しい勝利を掴みました。
 彼等民衆もこの夜を思い出せば、きっともう幻想蜂起のような事は繰り返されないでしょう。

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