シナリオ詳細
<フィンブルの春>リーモライザと獣の貴族
オープニング
●或る貴族の自業自得の話
「父上が戻らぬだと? どういう理屈だシュニッツェン!?」
「言葉の通りにございます、坊ちゃま。奴隷を捕らえに向かうと告げられてから半月が経ちます。遣いのひとつも寄越さずこれでは、恐らく旦那様は……」
「そんなことはわかっている! 問題は何故父上がそのような謂れなき行いを受けたかと、それだけだ!」
幻想王国、辺境貴族領、3月も末のこと。
主の元から逃げ出した不遜な奴隷を捕まえに向かう、と領主――荒れ狂っている男の父親が肩を怒らせ出ていったのが月の頭のことだろうか。細々とその後も連絡があったが、途絶えたのが月半ばほどになってから。それから、一向に情勢が明らかになっていない。……否、本人含めほぼ全員が生存は絶望的だとわかっていた。
だが、腑に落ちない。
幻想王国は貴族の国だ。如何なる『真実』が眠っていようとも、風聞としては逃れようのない事実だ。
それだけに、如何なる『腹に据えかねた事態』が起きても、多くの者は貴族の首にてをかけることはない。それはかのローレットのイレギュラーズにとっても同じ事である。やるとしても、彼等は貴族の地位を失墜させるとか悪評を広めるだとか、もう少し迂遠な方法を取るはずである。
折しも、世間はフォルデルマン三世が発布した『勇者選挙』の渦中にあり、国内に現れた多数の『古代獣』の討伐、および――国内の不正奴隷の流通その他、幻想王国の威信を回復させる各種の依頼を為したイレギュラーズを称揚する流れが出来上がっている。そんな中で奴隷を探しに出て戻らない領主――なにかの間違いでバレてしまえば家の地位の失墜は免れまい。貴族の子弟として、その青年は思案の岐路に立たされていた。
「坊ちゃま」
「くどい! よしんば父上が見つかり、その所業が流布されればどうする!? 父上が戻らぬなら次代の領主は俺だぞ、家を守るのは俺の」
ぱん、ぱん、ぱん。
貴族の子、ベルケルのド号を断ち切るように流れてきたのは控えめな喝采。そこには、先程まではいなかったであろう男の姿があった。
「……いやあ、善い心がけであります坊ちゃま。大貴族の器を感じられる良き口上でありました」
「誰だ、貴様は。……いや、違うな。どの面を下げて戻った、『猛獣使い』」
ベルケルはその顔に見覚えがあった。父に奴隷奪還をそそのかし、共に現地へと向かった猛獣使い。名を頑なに名乗らなかったが、確か奪還のあてがあると言っていたのは彼だ。確か、彼以外にも父には護衛をつけていたはずだが……。
「覚え置きいただけて光栄ですよ坊ちゃま。私も命からがら、イレギュラーズの追手から逃げたものでして……ああ、旦那様を手に掛けたのはイレギュラーズですよ」
猛獣使いの言葉にベルケルは目を細めた。
よもやイレギュラーズが貴族を手にかけまい。そんな希望的観測を正面から断ち切った彼の言葉に、ベルケルは顎をしゃくって続きを促した。
「旦那様は惨たらしく殺されました。遺品も持ち帰れませんで。彼等は暴虐でしたもので……それで、坊ちゃま。1つ提案がございます」
「言うだけ言ってみろ。1人逃げ帰って貴様の不貞、払拭できるかもしれないぞ」
もっともらしく口上を垂れる猛獣使いに、ベルケルは苛立ち紛れに先を促す。ろくなことにはならぬと脳裏に警鐘がなるが、もはやそんなことを言っていられる場合でもなかった。
「この際です。今巷間を騒がす『勇者選挙』に次代領主となられた坊ちゃまが名乗りを上げ……そして、旦那様を手に掛けた不心得者が住まう領地に古代獣をけしかけた上で我々が栄誉のみを掻っ攫う。如何です?」
「何を言っているのか分かっているのか、下郎が。父上に続き、俺にも国王陛下に弓を引く愚行を行えと?」
「いえいえ、そんな。……だって、坊ちゃまは私がお伝えしなくても名乗りを上げるでしょうから。ご安心下さい。『仕込み』は私が行いましょう」
ベルケルは猛獣使いを射抜かんばかりの勢いで睨みつけた。
この男は食えない、何かを企んでいる――だが、利用価値があるのではないかという、ただ一点の希望的観測が疑念を上書きするように迫ってくる。
果たして、ベルケルは猛獣使いの言葉通り『勇者』の名乗りをあげるのだが……名乗りを上げてから打ち立てた勇名の何倍の人々が闇に消えたのかは定かではなく。同じくらい、市井の『勇者候補』が失われたのではないだろうか。
●死の笛吹いて勇者は笑う
「奴隷を好き放題弄ぶ貴族と、それに傅く猛獣使い……いや。あの事件で糸を引いてたのは猛獣使いか。あいつらの情報を何とか得られないかとは言っていたが……」
ヲルト・アドバライト(p3p008506)はローレットから提供された『猛獣使い』の目撃情報、そしてソレに関連した貴族の身上書を前に渋面を浮かべていた。
最悪なのは、問題の貴族の息子が勇者として名乗りをあげ、不自然な――ほぼマッチポンプなのだろう――依頼達成報告を重ねている点にある。
ベルケルと名乗る貴族の跡継ぎはそれなりの剣の腕と家宝とされる両手剣で事態を収めているというが、決まって他の勇者候補達や当該地域の領民が少なからず犠牲になってから現れるのだとか。『猛獣使い』の目撃情報も決まってそのあたりに纏まっており、『古代獣』と行動をともにしていたという報告すらある。
「で、こいつらの目撃情報が正しければ次はリーモライザ領……俺の主人の領地に姿を表す可能性がある」
出現報告はかなり乱雑ながら、『勇者候補』を擁する貴族領やその関係所領などに現れるケースが多い為、ローレット・イレギュラーズ達の領地も遠からず被害に遭う可能性が示唆されていたわけだ。
「猛獣使いを引っ張り出せるかは別として、貴族のガキが領地にちょっかいかけるつもりなら……一発くらいは殴ってもいいよな?」
彼の言葉に、冗談が混じっているようにはとても思えなかった。
- <フィンブルの春>リーモライザと獣の貴族完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月29日 22時45分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
(ついにオレの主人のとこにも古代獣が来るかもしれねぇ。それも、あの猛獣使いが率いてるやつが、だ)
『被吸血鬼』ヲルト・アドバライト(p3p008506)の心中に蟠るのは、嘗て対峙した蛇の魔物、そして魔物に内側から食いつぶされた貴族の姿だ。あの時救えなかった者が居て、糸を引いた者がいて。今回も黒幕たる『猛獣使い』の掌の上にいるとするなら、誠に腹立たしい話である。
「ただでさえ勇者騒ぎには辟易としていたのだが……私欲や不正による偽勇者まで現れるとは」
「他が犠牲になってから現れて掻っ攫うのは、何かが違うよ。それは勇者じゃない」
『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)にとっての勇者というのは、一言で語れるものではない。仇敵、というのも……間違ってはいないが正しくもない。思い出されるのは1人の相手であるゆえに。彼女以外は彼にとって『偽物』なのかもしれないが、道義を違えた者は尚更に承服しかねる。
それこそ、『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)の言う通り。誰かの犠牲に成り立つ勇名を、果たして正しき功と呼べるだろうか?
「自分が上を目指すんじゃなくて、他を蹴落として結果自分より上が居なくなるように仕向けるのは、勇者とは言えないんじゃないかっておもうっすー」
(なーんか話だけ聞くと可哀想な人だけれど、本人は……必死なんだろうな)
(貴族の重荷……か、そうね、それも父の悪行が自分にのしかかるのは嫌よね)
式神に運ばれてきた『扇風機』アルヤン 不連続面(p3p009220)の正直な言葉を聞きながら、『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)と『展開式増加装甲』レイリー=シュタイン(p3p007270)は、双方複雑そうな表情で相手を見た。
ヲルトの話に上った『猛獣使い』なる人物が今回の諸悪の根源であることは疑いようがなく、その口車に乗せられているベルケルになんの落ち度もないと結論づけるのは難しい。されど父の亡き今、その汚名を雪ぐ手段として『勇者選挙』に乗ったのは理解できなくはないし、手段は正しくないがそうやって積極的に動こうとするのは……貴族としての誇りで動いているフシがある。重ねて述べるに、手段が最悪だが。
「ウィズィ、今日は私の横、お願いね」
「OK。私とレイリーの双壁なら、どんな敵でも負ける気しないね」
ウィズィとレイリーの2人は、互いの掌を重ね健闘を誓い合う。相手に思うところがあれ、背景があれ、古代獣を制圧しベルケルを捕らえるという目的に変わりはない。轡を並べる上で、信頼し合う仲間が側にいることは心強いことこの上ないのだ。
「小生に任されたおーだーというのは実にシンプルなものであるな。是則飛ぶ鳥を落とす勢いで飛ぶ鳥を落とせば良い、といったものと見受けられる」
「ははは、蛇に羽が生えてるんだねぇ。気持ち悪い」
遠く、空の向こうから異様な鳴き声とともに飛来する影を目を眇めて確認した『蔵人』玄緯・玄丁(p3p008717)はどこか不愉快そうにその歪さを貶し、『神仕紺龙』葛籠 檻(p3p009493)は鼻を鳴らして自信有りげに胸をそらしてみせた。
そこそこに実戦を積んできた自信と、己の眼に対する信頼が檻の様子に顕れている。玄丁の不満はもう少し直截的で――人ないしはそれに類するものを斬れない、というものであった。
「オレが……いや、オレ達で止めるぞ!ㅤ手を貸してくれ!」
「もちろん。僕が治療するから、皆は遠慮なく戦ってくれていいからね」
「勇者の端くれ頼まれたら断れないっすー」
己の戦いへの流儀を曲げてまで先頭に立ったヲルトの頼みを、誰が断れようか。それはヨゾラも、アルヤンも同じこと。
「私の名はレイリーシュタイン! さぁ、魔獣よ! 全て討伐してやろう!」
「さあ、Step on it!! さっさと終わらせましょう!」
高々と騎士盾を構え宣言するレイリーと、大ぶりなナイフを構え、握りしめた拳と心臓を起点として魔力を巡らせるウィズィは、迫りくる古代獣に宣戦を布告する。
他の面々も其々の得物を構え、異様なフォルムの敵を迎え撃つ。……勇ましいその姿を、きっと偽りの勇者が見ることはないのだろう。誰に見せる為でもなく、ただ目の前の義務と向き合う為に彼等はいるのだから。
●
「さっさと同士討ちしてもらうっすー。頭数を減らせば傷つく人も減るっすよー」
アルヤンの放った呪歌は狙い過たずトビ・トミ1体を捉えると、その思考を鈍らせ、敵意の指向性をかき乱す。突如として仲間から同士討ちを受けた個体はしかし、それに対する動揺よりもレイリー等への敵意が勝った様で、勢いを落とさず襲いかかる。
「感情を揺さぶられた相手ほど狙いやすい的もない。2人には感謝せねばな」
「蛇を先に倒しておかねば後々面倒であろう。他の鳥も狙えるなら申し分なし」
グレイシアと檻は近付いてくるトビ・トミ、そしてその周囲を飛び回る石の鳥目掛け飽和攻撃よろしく攻勢をかける。トビ・トミ達には相応に手傷を負わせているようだが、石の鳥にはやや通りが悪い。とはいえ、両者の攻撃精度は極めて高く、そもそも『多数を相手に外さない』ということが驚嘆すべき事実なのである。
「血を流して殺し合って初めて本領発揮……なんて悠長なことは行ってられないからね。早々に片付けさせてもらうよ」
玄丁は抜刀一閃、影を伴った三連の斬撃を放ち、ついで首を落とさん勢いの一刀を振り下ろす。仲間達の攻勢で避けるに窮したトビ・トミの1体は、一連の攻勢に思わず姿勢を崩す。
「上出来だ。ここまで弱ってるヤツなら……俺が殺せない理由がない」
ヲルトは、玄丁が弱らせた個体の間合いに踏み込むと、連続して攻撃を叩き込み、撃ち落とす。猛攻に対し粘ったほうなのだろうが、それにしたって相手が悪すぎた。残ったトビ・トミ2体も――強敵とはいえ致命的な欠点を持っている以上、イレギュラーズの敵ではない。問題は、数でまさる石の鳥の方だ。
「皆、調子は大丈夫……じゃないよね、今治療するよ!」
「こっちからも攻撃は届くっすけど、距離をとって全員がちくちくやられるのはキツいっすー。どうにかならないっすかねー」
空中で同士討ちしてくれているうちはまだいいだろう。だが、正気を保っている石の鳥達は空中高くにとどまり、光を遮り視界を奪いにくる。或いは、一瞬のうちに突っ込んでくると、次の瞬間には空中へと逃げ去っていく。巧みな身捌きは、確かに並の戦術、敵意の操作のみでは簡単に制することは難しく思えた。
「ウィズィ、こっちは任せて!」
「レイリー! お願い!」
……並の戦術ならば、だ。
ウィズィと視線と言葉を交わしたレイリーは、大きく息を吸い込むと、肺腑の酸素全てを使い切るかの如き大咆哮を放った。仲間を守るという決意をそのまま相手に叩きつけたそれは、遠くで纏まっていた石の鳥達の敵意を纏めて惹きつける格好になった。
そして、それらが一気にレイリーへと突っ込んできたのに合わせウィズィが改めて敵意を自らへ引き寄せる。
息のあった連携は、信頼あってのもの。
「さっさとやられろ!ㅤ後がつかえてんだよ!」
「石を斬るのは趣味じゃないんだよね。任せていいかな?」
「むぅ……適不適というのもあるであろう。そちらの蛇は残さず倒すのだろう?」
激しい攻勢をかけるヲルトの傍ら、玄丁は石の鳥に向けかけた刃をそらし、トビ・トミへと斬りかかった。
主張はどうあれ、『敵を倒す』という一点に関して彼はその意志を違えることはない。檻は、一瞬のやり取りで玄丁なりの誠意を見抜き、信頼するに足ると判断した。
「これで最後だ。あとは一気に仕留めてしまおうか」
グレイシアの引いた弓から、魔力で編まれた大顎が吐き出される。残り1体となったトビ・トミは、正気を取り戻す間すら与えられず飲み込まれ、ズタズタに引き裂かれ地に落ちた。……残すは、7体ほどに数を減らした石の鳥達。
「……ベルケルとやらが近付いているようだな。様子見をしているようだが……」
「じゃあ顔を出す前に片付けるっすー。ビリビリっといくっすよー」
「僕も治すし、攻めに回るよ! 一気に片付けよう!」
眉をひそめ、その気配に気づいた檻の言葉に応じるように、アルヤンの電撃がほとばしり、ヨゾラの竪琴を起点とした魔力の奔流が敵味方問わず吹き荒れる。敵には害を、味方には祝福を。誰ひとり傷つけぬという決意のもとに、彼の持つ膨大な魔力を食い散らしながら吹き荒れる。
「…………貴様等がイレギュラーズか。ここに来た古代獣はどうした」
「殺してやったよ。俺の主人の領地にけしかけるとはいい度胸だな、クソ貴族」
最後の石の鳥が地面に落ちるのと、長剣を抜く音と共に実力に見合わぬ豪奢な装備に身を包んだ男――ベルケルが現れたのは同時だった。イレギュラーズの策が勝ったか、はたまた彼の戦略眼の至らなさか……いずれにせよ、彼の剣が何かを斬る機会は、この瞬間に失われることとなった。
●
「而して、ベルケルとやら。何故に彼の猛獣使いに従うのだ?」
「貴様等に語る言葉などない、父上を殺めた恨み、晴らさせ――」
檻の問いに対し、ありったけの殺意を返したベルケルであったが、さりとてその言葉は最後まで続くことはなかった。ヲルトの血液がベルケルの神経、その快不快の基準をぐちゃぐちゃにかき乱したからだ。
「一発ぐらい殴っていいって話だったな。殴るぞ」
「このっ」
続けて振るわれた拳を、ベルけるは避けることが出来ない。他方、ベルケルから放たれた拳はヲルトに届くことはない。……そう、拳だ。立派な剣を腰に吊っておきながら、彼は拳でヲルトに抗した。殴られて、意識が混濁していてなお、しかし彼の身に異変が起こる様子はなかった。……少なくとも、『仕込み』はないらしい。
「勇者候補に名乗りを上げて以降、いくつかの魔物を退治したと聞いたが……いつも犠牲が出てから姿を現していたらしいな」
「……それがどうした。奴等は何かを襲っている時こそ隙を見せるだろう。それに襲われた領地の主は何れ劣らぬ下衆共だ。間引かれて何の不具がある」
「それは間違ってるっすよー」
グレイシアの問いかけに流暢に、かつ冷徹に応じたベルケルの言葉に異を唱えたのはアルヤンだった。アルヤンは続ける。
「民を守り、導くのが勇者っすからー。少なくとも、自分はそう思ってるっすー。だから、相手の行いとかそういったもので助けるかそうでないかをより分けるのは褒められたことじゃないっすー」
「汝が分別がつく年頃なのは見てわかるが、それならば余計にどうすべきかなどというのがわかるのではないか? そのような事をしてまで己で功を立てねばならぬと思った理由はなんだ?」
檻は、アルヤンの言葉に歯噛みするベルケルの姿に心底から疑問を呈した。物事の分別、善悪を理解しているであろう青年が、それなりに古代獣を倒してきた彼が、それでも他人を害することに躊躇しない理由がわからない。どこかそうすることに強迫観念があるような。
「……まず罪を自覚しなさい、それが大事よ」
「ならば、父上を殺した貴様等の罪は」
レイリーが続けざまにピシャリと言い放つと、ベルケルは動揺の色を濃くし、己が『そう』してきた起点に立ち返る。即ち、イレギュラーズに報復するために勇者の名を騙った理由、復讐の二文字のために声をあげた。だが、それに対するヲルトの言葉は全く想定しないもの。
「俺はお前の親父を殺してない。けど、死なせた。それが罪だってんなら、お前の親父が道連れにした村人を死なせたことも俺の罪だ」
「……死なせた?」
「そうだよ、飼ってた奴隷もろとも村を消そうとしたのも、親父をそのダシにしたのも、全部『猛獣使い』だ」
ヲルトの口から語られた事実に、ベルケルは声を失った。おそらく事実かどうかを理解できず……否、理解していてなお思考の何処かで拒絶しているのだろう。
「君の願いは……本当に為したい事は、何?」
「俺……俺は」
「冷静に振り返る暇もなく、ひたすら戦っていたんでしょう。……良い機会ですから、自らの誇りが何処にあるのか、今一度考え直してみたら如何です」
ヨゾラの問いに、絞り出すように何事かを告げようとしてベルケルは言葉に詰まった。父の復讐――だけでは足りない。どうしようもない行為に手を染めた彼を、自分はきっと擁護できない。だから勇者として名をあげ、父の汚した家名を雪ぎたかった。
ウィズィの言葉に、幾ばくかの真実はあった。どこか間違っていると思いつつ、彼は剣を握ることだけ考えていたのだから。道理と思ってやった非道、その何割かはきっと『猛獣使い』の甘言に唆されて、一種の狂気にあったのかもしれない。
「貴様が何を思って勇者を目指してるか、吾輩にはわからぬ。しかし、仮にも勇者を名乗ろうとするのであれば……二度とふざけた真似はせぬように」
「まだ、やり直しはきくんだからね」
人の願いに寄って成り立つ勇者は、人の不幸を足蹴にすべきではない。グレイシアの言葉には、僅かな怒気が孕んでいる。続くレイリーの声は、彼女なりの……自戒も込めた忠告なのだろう。自分にできなかったやり方で、歩み直してほしい、という。
ベルケルはその場に膝をつくと、空虚な面持ちで暫し押し黙っていた。彼が顔を上げ立ち上がるまで、当面の時間が必要となるだろう。
……それよりも。
「オレの主人にだけは触れさせねぇ。お前もだよ、猛獣使い」
「いやはや、貴殿らは私の飼う獣よりもずっと獰猛でいらっしゃる」
ヲルトの鋭い視線が注がれたのは、すぐ近くの木立に向けて。影から漏れ出たのは、壮年と思しき男の声だ。姿は見せず、しかしその気配は、直感的にイレギュラーズ達の背筋を粟立たせた。
「ベルケル様はもう少し見込みのある方だと思っていたのですが、お父上のようにはいきませんな。……お父上のように欲深く愚鈍であらせられれば、もうすこし価値があったのですが」
『猛獣使い』の声はそれきり聞こえなくなった。だが、一同は理解した。あの声の主は……まぎれもなく、魔種そのものであると。
次も間違いなく、イレギュラーズに標的を絞ってくるだろう、と。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
皆さんの活躍で、ベルケルは無事確保されました。どうやら『仕込み』はされていなかったようですが、確保が遅れれば別の意味で万が一のケースが考えられたようです。
そんなわけで、『猛獣使い』の正体と狙いがはっきりしました。何れ決着の時が訪れることでしょう。
GMコメント
アフターアクション、領地、そして明確に利他的な目的意識! 興奮してきましたねぇ!
●成功条件
・『トビ・トミ』、『石の鳥』の撃破
・ベルケルの身柄確保
・(オプション)重傷者を出さずにベルケル出現まで持ちこたえる
・(オプション+)ベルケル出現までに敵を全滅させる
●トビ・トミ×3
蛇の体に羽根が生えた、所謂和製ケツァルコアトル。
和製(豊穣っぽい)ので呪いに関する能力特化です。
・非常に感情が揺れやすいです(精神系BS、というか怒り耐性が低い)。その代わり神攻とEXAに振ってます。
・神秘通常攻撃【レンジ2】【範】【呪殺】【攻勢BS回復・小】
・蛇眼(A):神超単、【万能】【呪い】【呪縛】
・呪圧(A):神特特(自身を中心にレンジ3)、『抵抗×1.5』判定に失敗時、付与されているBSを1段階強化
・暴風(A):神中範、【飛】
●石の鳥×10
石の肉体を持つ鳥です。防技・物攻が高め。
・常に飛行状態にあり、飛行戦闘ペナルティを蒙りません。ただし30m以上飛び上がることはありません。
・石の雨(A):物中列、【出血】【窒息】
・石体激突(A):物遠単、【移】【ショック】
・遮空(A):物遠範、【暗闇】
●偽勇者ベルケル
拙作『<リーグルの唄>一宿一飯に報いるは晴耕雨読の範なり』にて惨死した貴族の子供です。成人済み。
それなりに成長しており物事の善し悪しが理解できるタイプですが、基本的に猛獣使いの言葉に従う形で行動を起こしています。
武器は両手剣、それなりにサマになっています(推定Lv5~10程度)。
彼が出現するのは戦闘開始後10T以降、以後出現判定成功時。
彼が戦闘に参加する意志がある場合、一部の古代獣はベルケルにのみ敵対行動を起こさなくなります。
●猛獣使い
上記のシナリオで村に蛇をけしかけた男らしい。
現時点ではソレ以上の方法が殆どない。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
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