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シナリオ詳細

君が哭いた日

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●出会い

 きっと僕は、生まれてきてはいけなかった。

 深い森の、日の当たらない、じめっとした落ち葉の上。
 そこが、僕の生きる世界の全てだった。
 静かに体を横たえて、ただ空気を肺に取り込み、砂を食んで空腹を誤魔化す。
 長く、永く、続けてきた時間。
 人の世がどうであろうと、きっとこれから朽ちていくまで、こうして無為を全うするのだ。
 そう、思っていた。
「あー、わんわん! わんわん? わんわん!」
 突然の騒音が訪れるまでは。
 それは本当に急で、何事かとまぶたを開けると、人間の女の子が立っていた。
 無礼にも僕へ指先を向けて、能天気な笑顔で僕を見るのだ。
「ねえねえ、わんわん。どうしてこんなところにいるの?」
 鬱陶しい……というか、わんわんとはなんなのか。まさか、僕の名前か?
「元気ないねぇ、痩せてるし、ご飯食べないの?」
 余計なお世話だ。是非放っておいてほしい。
 そう思って、一つ吠える。
「そっか、お腹空いてたか。よぅし、私のとっておきのサンドイッチをあげるから、元気出してね! そして私はそうそうに行かないといけないからまた来るよわんわん!」
 丁寧に紙を敷いて、その上に食べ物を置いた少女はそう捲し立て、走り去っていく。
 ……まさか、ほんとにまた来るのだろうか。
 そんな未来を戦々恐々と予想しながら、口にしたサンドイッチという食べ物は、何やらごちゃごちゃとした味わいだった。

 それから毎日、雨の日も、風の日も、晴れた日も、何でもない日でも、とにかく少女はやってきた。
 そうして毎日、あれだこれだと食べ物を置いては、とりとめの無い事をしゃべって帰っていくのだ。
「ほんとはねーもうここに行くなって言われてるんだー。なんかね、わんわんは悪いわんわんだって、村の人が。こんなに大人しいのにね、なんでだろ?」
 そんなこと僕が知るわけがないし、第一止められたなら辞めるべきだ。
 自分のことながら、僕はおよそ人との共生に向いていないと自覚している。
 そうすれば、やっと静かな時間に戻るのだから。
「まあでも安心して! きっとみんなわんわんのこと知らないだけなんだよ!」
 それで何を安心すればいいのか。
 よくわからなかったが、言葉と一緒に、頭に置かれた少女の手は、暖かかった。
「じゃあねわんわん。また明日、ね?」
 そして、少女はそれから、来なくなった。
 雨の日も。
 風の日も。
 晴れた日も。
 何でもない日も。
 僕は来ない少女を待った。
 また遠慮の無い言葉を掛けられるのを、能天気な笑顔を、そこで待った。
 だけど、来ない。
 なんて勝手なんだ、人間は。僕の生き方を乱して、そのくせ放置する。
 勝手だ……それならせめて、一言だけ。
 たった一言でも、文句を言わないと気がすまない。
 だから僕は、彼女の匂いの残滓を辿る。
 森を抜け、街を一つ迂回し、小さな村に向かう。
 そこは、少し寂しい場所だった。
 間隔を空けずに並び立つ家屋は多いと言えず、話に聞く長屋を彷彿とさせる配置で、そこを抜けてしまえばあるのは馬小屋の様なものばかりだ。
 ここが、あの子の生きる人の世界なんだ。
 そう思うと、本当に自分は場違いな存在なんだと再認識する。
 それでも、一目でいい。
 元気な姿だけでも確認したい。
 確認して、もう来るなと言い聞かせて、気安い態度を謝ってもらう。
 ただそれが、僕の願いだ。
 ……でも、おかしいな。
「ひぃ!?ば、化け物だ、ほんとに来たぞ!」
 どうして君の匂いは、土の下に潜っているのだろう。
「ほ、ほらみろ、やっぱりあのガキが憑かれてたんだ!」
 ああ、そうか。人はこうして、十字の下に沈めるのか。
「殺せ、殺せ!」
 都合の悪いものを、都合が悪いままに、こうやって消すのか。
 ーー君は、死んだのか。
 君は、殺されたのか。
 僕のせいで。僕と出会ったせいで。
「くっそぉこの化けも――」
 ああ、僕のせいだ。
 きっと僕たちは、出会うべきではなかった。
 僕のせいだけど、でも、やっぱり、それでも。
『ウォオオオオオオオ!』
 おまえたちは、ゆるさない。


「君たちに急ぎの依頼だ」
 イレギュラーズを集めた『黒猫の』ショウ(p3n000005)は短くそう言うと、一息をいれて説明を始めた。
「ここからそう遠くない村で、魔物が現れ、暴れている。それは大きい犬の様な見た目で、大きさは大体3m程といったところだそうだ」
 既に数人、死傷者が発生しているらしい。
 だが今から向かえば、これ以上の被害は出ない可能性があるという。
「その魔物、どうやら一ヶ所から動くことが無いようでね。被害にあったのは最初にそこに居た者と、倒そうと無謀に突っ込んだ者らしい。
 まあ、いつまでそうしているかわからない以上、急ぎなのは変わらない」
 と、そう説明を締めたショウは手に持った資料の紙をイレギュラーズに渡すと、
「調べられるだけの情報はそこに記しておいた。君たちへの依頼は、とりあえずその魔物が二度とその村へ行かないようにすること。方法はいつも通り、君たちに任せるよ」
 そう付け加えて、送り出した。

GMコメント

 ユズキです。
 あんまり使われてないスキルってありますよね。
 色々なスキルが色々な効果を生み出す気がするシナリオをしたいと思って作りました。まあでもいつも通りやりたいようにやりましょう。

●依頼達成条件
 村から脅威を取り除く

●目標敵
 魔犬:
 近距離の単・域範囲の攻撃スキルと、回復スキルを持っている化け物。
 
 ・爪による切り裂き(物近単+防無)
 ・尻尾の薙ぎ払い(物近域+飛)
 ・噛みつき(物至単+流血)
 ・咆哮(回復+再生X)

 攻撃はかなりの高火力が予想されます。
 また、人語を理解はしますが喋ることはできません。
 接触初期は怒りで思考も恐らくはまとまってないでしょう。
 その他、どんな事を考え、どう動くのかは、実際に現場で対面しなければわかりません。
 

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしています。

  • 君が哭いた日完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月21日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アムネカ(p3p000078)
神様の狗
如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
キュウビ・M・トモエ(p3p001434)
超病弱少女
雷霆(p3p001638)
戦獄獣
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
城之崎・遼人(p3p004667)
自称・埋め立てゴミ
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
村昌 美弥妃(p3p005148)
不運な幸運

リプレイ

 僕はただ、約束した明日を待っていた。

●内に抱えたモノ
 その村は、閑散とした場所だった。
 特筆すべきものはなく、むしろ家と田んぼ以外に風景を説明する言葉が無い。
 だが、そんな村には今、異様な化け物が居座っている。
 凶悪な眼光、剥き出しの歯、土を削る鋭い爪。
 恐ろしい犬の魔物がそこに居る。
「……なんだかおかしな犬だね」
 到着してすぐ、伝え聞いた魔物の様子を見たイレギュラーズは、観察する事を選んでいた。
 それは『神様の狗』アムネカ(p3p000078)が呟く様に、魔物の様子がおかしいと感じたからだ。そもそも、依頼の内容を聞いたときから彼らには引っ掛かる部分もあった。
 それは、【一ヶ所から動かない】という点だ。
「目的、もしくは事情がある、か?」
 そう考える『戦獄獣』雷霆(p3p001638)の言葉に根拠はない。
 しかしそれは、今は未だ、という意味でだ。
「すぐに襲いかかってくる、という感じでもなさそうね」
「そうね……けれど多分、これ以上の接近は、彼の琴線に触れそうよ」
 観察を続ける内に、わかってきた事がある。
 それは、『超病弱少女』キュウビ・M・トモエ(p3p001434)が言う様に、襲って来る事は無さそうだと言う事と。
 『サフィールの瞳』リア・クォーツ(p3p004937)が警告するように、一定の範囲内。恐らく魔物を基点とした半径50から80mに侵入すれば、敵と見なされるレッドラインと言うことだ。
「……なにかしらね、この旋律」
「よく、わからないな……多分、でも、一番近いのはきっとーー」
 リアの持つ、感情を旋律として捉えるギフトと、『自称・埋め立てゴミ』城之崎・遼人(p3p004667)が使う、感情を探る能力。二つを合わせて分かるのは、
「きっとこれは、絶望だ」

●方針
「あの犬の後ろ、お墓だったわよね」
 と、そう気づいた『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)は思う。
 ……なんだかとても、面倒な仕事を受けた気がするわ。
「とりあえず、情報収集でいい? 私と遼人は見張りに残るから、後は……」
「あたしは残る。あのお墓の人と、話せるか試してみたいの」
 真剣な顔で言うリアに、ユウと遼人は頷き、三人は仲間を見る。
「ああ。どうやら単純な話ではなさそうだしな。調べるのは、それなりに得意だ」
「ワタシも、何かを聞く為の手段ならありマスぅ。とはいえ、時間をかけすぎないように、デスねぇ?」
 それに頼もしく応えた『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)は、静かに村の内へと歩いていき、『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)もそれに続く様にアホ毛を揺らして行く。
「なら、俺は死人の為に出来ることをしよう」
 その最中に聞ける事もあるかもしれないからね。と、アムネカは被害者の元へ。遺体への扱いに長けた彼にしか出来ないことがあるのだろう。
 そして、キュウビもまた、村人へ事情を聞くためにその場を後にする。
「じゃ、あたし達に出来ること、しましょうか。話を、聞かせてね」
 恐らくそこにいるであろう魂へ、リアは接触を試みるのだった。

 
●経緯とは
「お、おいお前らなにしてんだよ、さっさとあれをぶっ殺せよ!」
 真っ黒な獅子の前で、ビビる内心を隠すように村人が叫んでいた。
「まあ、落ち着け」
 これでは話も聞けないと、雷霆はたてがみを掻きながら思う。拳で語り合えるならいいのに。
「あのぅ~」
 と、困った彼の横を通りすぎながら美弥妃が行く。するりと村人に寄り付き、薄く笑みを浮かべて見上げるように顔を作り、
「聞きたいんデスけれどぅ」
 いいデスかぁ? と、耳朶を優しく打つように声を出せば、村人は自然と頷いた。
「すごいなそれ」
 任せた方がいい。そう判断した雷霆は、美弥妃の手腕を見る。
 曰く、魔犬の事を知っていた村の大人達は、とある少女がそれに見初められた。と、そう判断したらしい。
 そして。

「警告?」
 二度と関わらない、近付かない。それを、村は少女に求めたらしい。
 魔犬は恐ろしい生き物だ。もしかしたら少女を追い、村へ来るかもしれない。
 例え今は大人しくても、いずれ牙を剥くかもしれない存在と、親しくするなんて言語道断である、と。
「それがどうして、あの犬があそこに留まる事に繋がるのですか?」
「あの娘が呼んだからだ! それ以外に理由なんて考えられないだろう!?」
 果たしてそうだろうか。
 キュウビは考える。過程と結論の間には、大きな空白がある、と。
「それ以外の理由、あるかも知れませんね。例えばほら、お腹を空かせて来て、実はあの場所に食料があるとか」
 言いつつ、それはないだろうなと思う。だが、ある種これも誤魔化しの範疇だろう。口車に乗れば、それでよし。
 そして村人は、まんまとキュウビのそれに乗せられる。
「そんなわけない、あそこにあるのはーー」

村の一角に、三人程の遺体が横たわっていた。
 それらは一様に、体を斜めに切り裂かれて絶命している。恐らくは、即死だっただろう。
「安らかに」
 目の前に迫る死の瞬間。それがいかに恐ろしいものだったか。
 恐怖に歪む顔を安らかなものに変え、傷を隠し、正式な埋葬までの一時の処置をするアムネカは、その作業の最中にふと、思い付いた風を装って言葉を作る。
「あの犬はどうしてあそこにいるんだろうね。腹が減っているなら、人なんて襲わずにもっと食料のある場所を荒らしそうなものだけれど」
 アムネカの見た限り、あの傷はどうみても、殺すために付けられた傷だった。
 しかし、殺すためだけに来たのなら、ここに並ぶ体はもっと増えているはずだ。しかし実際はそうではない。
 と、いうことは、どういうことなのか。
「そんなこと、あんたらに関係ないだろ。ただあの化け物を消してくれればそれでいいんだから」
「いいや、関係はある」
 そこに口を挟んだのは、ハロルドだった。
 いいか?
 と、人差し指を立てて前置きをする彼は、苛立つ村人へ言葉を作る。
「見たところあの魔犬、かなり手強そうだ。出来れば弱点を知りたいんだ、どんな些細な事でもな」
 ……言葉は慎重に選ばないと、だな。
 今行っているのは、いわば説得だ。依頼側にそんなことをするのはおかしな気分だが、事情を知らなければイレギュラーズの気持ちは纏まらない。
「聞かせてよ、何が起きているのか。心当たりくらいはあるんじゃないの?」
「それか、心当たりがある人間の情報でもいいんだ。なにか……」
「ああもう、わかったわかったよ!」
 腹立たしい、そんな態度を露にしたその村人は、片手を乱暴に振って、投げやりに語り出す。
 あの犬がなぜあそこにいるのか。そして彼らが、何をしてしまったのか。
 聞かされたのはつまり、そういう話だった。

●真相
 情報収集から戻る5人を待つ最中、リアが行ったのは、魔犬の下に眠る者との疎通だ。
 死して間もない魂は、彼女の意識にはっきりと映り、声を聞かせてくれる。
「つまり、貴女は……殺されてしまったのね?」
 それは、少女の告白だった。
 村が忌み嫌い、そして恐れた魔犬と接触を持った事で、村人からの嫌悪を向けられた事。その目から逃れる様に魔犬の元へ通った事。
 その末に、魔犬を呼ぶつもりなのではと疑われ、そして命を奪われた事。
「……ああ、大概現実って、悪い事が当たるように出来ているのかしらね」
 リアを通して伝えられる事実に、ユウは額に手を当てて深く息を吐き出した。
「止めないといけないわ」
 そう思う。これ以上、あの魔犬を暴れさせてはいけない、と。
「そうなると、説得しなきゃならないわけか」
 遼人が見る先、明らかに冷静ではない犬がこちらを見ている。
 動かないのは、やはりあそこに少女がいるからなのだろう。立ち尽くし、誰も近づかせないと見せる姿はまるで、守人の様にも見える。
「すまない、遅くなった」
 そうして集まったイレギュラーズに、
「あの魔犬を、殺さないでほしいの。少なくとも、そう願っている人が確かに一人、いるから……だから」
「わかっている」
 リアの訴えを遮って顔を見合わせる8人の気持ちは、ただ一つの方向を向いている。
「止めよう。これ以上の悲劇を、起こさせないために」

●誰の為
 レッドライン。
 それは、魔犬が敵と認識する境界線の事だ。
 そこに、ハロルドが踏み入る。
「ーー争う気は無い、止まれ!」
 張り上げる声を切り裂く様に、魔犬は爪を振り上げてハロルドを打った。
 ……やはり言葉だけでは止まらんか!
 聖剣の守りを持ってしても、爪による一撃は強力だった。次まともに喰らえば、恐らく体が保たない。
「聞かせてくれ、お前の気持ちを!」
 それを理解した上で、止めると決めた。だから、雷霆も前に出る。
 同時に叫ぶ声は、確かに届いているはずだ。届かせる為の能力を、彼は持ち合わせているのだから。
「オオオオオオオ!」
 だが、魔犬は止まらない。吠えながら口を開けて、雷霆の肩に食らい付く。
「ぐ、ぅっ……!」
「仕方ない、殺さないようにもだけど、殺されないようにもしないと、だ!」
 横合いから行くアムネカは、左拳を握り込む。雷霆の体に食い込む牙を抜くために、魔犬の顔面にストレートをぶちこんだ。
「今のうち、回復頼んだよ!」
 アムネカへと注意が向いた隙に、美弥妃とキュウビが行動を起こす。それぞれが放つ光は、ハロルドと雷霆に向けられたものだ。
「人は浅はかデスからねぇ。怒るのも無理はありません」
 美弥妃は、暴れる魔犬を見ながらそう思う。
 でも、
「でも、デス。少女の声を聞かずに暴れるあなたも、同じく浅はかではないデスかぁ?」
 その言葉が聞こえたのか、それとも通じたのかはわからないが、喉奥から沸き出る唸りを響かせた魔犬は美弥妃を睨み付けた。
 しかしその視線を、遮る様に立つ影がある。
「聞いてくれ」
 遼人だ。
 美弥妃の代わりに視線を受け止めた彼は、自分に向かって猛然と突撃してくるソレに向かい、言葉を続ける。
「……わんわん」
「ッ」
 一言だ。
 ただ一言が、喉元に迫った鋭い爪を止めた。
「彼女に、そう呼ばれていたんだろう? 僕達なら、君に彼女の言葉を、心を伝えられる」
 だから、と続く言葉を待たずに魔犬は飛び退る。
「まだ、少女の事を想ってるのね」
 その行動が、彼らにとっての光明だった。
 ただ感情のまま、憎しみのまま人を襲うのでなければ、少女の為に動くのなら。
「これ以上貴方が暴れたら、本当に彼女が悪者になってしまうわ! あの村人達の言うように、貴方は害のあるものなんだって……そんなこと、彼女は望んでない!」
 そして、それは自分達も同じだ、と。
 少女の為に、少女が信じた魔犬の為に。
「あの子の死が間違いだと、そう思うのならもう、暴れてはいけない。貴方が自身の凶暴性を見せれば見せるほどに、あの子の死は『正しいことだった』のだと、この村の人は思うでしょう。殺されて当然だ、と」
 思いを伝えるキュウビの声は、静かなものだった。
「……それは貴方にとっても、許せないことのはずでしょう?」
 なぜならもう、あの魔犬はわかっているはずなのだ。
 激しい攻めの姿勢だった様子は勢いを落とし、今はまるで、駄々をこねる様に吠えて唸り、爪を振り回すだけになっている。
 それはきっと、行き場の無い感情の発露なのだろうと、イレギュラーズは思った。
 同時に、それを鎮められるのは少女だけだろう、とも。
 だから。
「聴いて」
 少女の声を、リアは音にした。
 傍らに感じる少女の想いを捉え、それを即興演奏として音色に変え、組み合わせて、一つの旋律として確立させる。
「貴方を想う彼女の声を、彼女を想う貴方に」
 届かせる。
 とても穏やかな、優しい旋律を奏で終わる頃には、もう恐ろしい魔犬の姿はそこになかった。
 そこに居るのは、丸い瞳をした、地面に寝かせる大きな尻尾が特徴の、ただの大型犬だ。
 きっとそれが、少女が愛し「わんわん」と呼び親しんだ、魔犬の本当の姿なのだろう。

●またね
「どういうつもりだ、なぜあの化け物を殺さない!」
 魔犬の説得を成功させたイレギュラーズだが、その結末を村人は納得しなかった。
 詰め寄ってくるその抗議の声に、しかし、彼らは「はて?」と首を傾げて言う。
「依頼は村から脅威を取り除く、だった筈で、殺せとは言われていない」
 と、言うか、だ。
「浅はかな妄想で女の子一人殺して、その結果何人も死なせたって自覚……ありマスぅ?」
 事の発端は既に露見している。村の人間達からも、魔犬からも、少女からも聞いたのだから、これは間違いない事実だ。
 誰が悪いのか、そういう話になったのならばそれは、
「彼女を殺したお前たちが悪い」
 それが真実だ。
「あの魔犬の望みは、少女の側にいること。つまり、遺体を移せばここには二度と来ない」
 そう説明する遼人の声は冷たい。ただただ事実を冷然と述べるだけだ。
「わざわざこれ以上争う必要もないだろう。去ると言うのだから、それが一番賢い判断ではないか?」
 不平不満はお互い様だろう。蒸し返して殺し合う必要などない、と、ハロルドは説く。
「し、しかし……」
 素直に納得したくないのか、思い通りに動かない事に駄々をこねているのか、渋る村人の声はしつこい。
「静かに暮らしたいのデスよねぇ……?」
 それは確認の声だ。
 これまで通り平和でいたいのなら……
「余計なことはするな」
 と、美弥妃は釘を刺す。
 その迫力に圧された村人は、首を一度縦に振るしかできないのだった。


 少女の体は綺麗なものだった。
 胸に一つ空いていた穴はアムネカが綺麗に塞ぎ、見目を繕う事で生前とほぼ変わらない姿になったように見える。
「……死人の代弁者として、出来ることは出来たかな。君も、安らかに眠って」
 簡素な葬儀も行い、留まっていた少女の魂も無事に天へと昇っただろう。
 そう思い、ふと雷霆は思う。
「これからあの犬は、どうするのだろう。少女の墓守りとして、静かに過ごしていくのだろうか」
 もうこの村には来れないだろうが、墓を移すならきっと、どこか人の居ない場所なのだろうと思う。
「二人一緒に、森へ帰るんじゃないかしら。多分、もう人の来ない場所で」
 なんとなく、森の奥深く、木漏れ日の射す場所を想像しながらユウは呟く。
「人々に害を及ばさなければ、魔犬の望む通りにさせてあげたいわね」
 キュウビが言うように、他のみんなも同じ気持ちでーー
「ね、ねえ、よかったらあたしの居る孤児院の近くに来ない?」
 え、なに言ってるの?
 おずおずと提案したリアに向けられるそんな視線に、わたわたと手を振りながら彼女は続ける。
「や、もちろん、皆と彼が良ければ、良ければよ?
 ……だ、だって彼を放っておけないもの……!」
 しょうがないじゃない、と言わんばかりの訴えに、嘆息とも呆れとも思える様な吐息が散見する。
 ただ、まあ。
「決めるのは、彼だろう」
 少女を背に乗せた魔犬は、リアを含めたイレギュラーズを一瞥してから鼻を鳴らす。
 そうして後ろを向き、去っていく背中がどこへ向かうのか。それは、誰にもわからない。
 しかし、もしかしたら。
 どこかの孤児院の近くで、また、その姿が見られるかもしれない。側にはきっと、優しい音色が響くだろう。

成否

大成功

MVP

アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先

状態異常

なし

あとがき

 ユズキです。
 正直に申しまして、OPに適当に散らばせた幾つかの事柄を全部拾われた上に対策まで取られていたので内心、はい、素直にですけれど、「ちくしょう」と思いました。
 次はもっと意地悪にしようと思います。

 それではまた、よろしくお願いします。

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