PandoraPartyProject

シナリオ詳細

紫陽花茶房

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●雨模様
 住宅街から少し外れた通りに、和やかな佇まいの家屋がある。軒先には手作り感溢れる立て看板。そこには『紫陽花茶房』と書かれていた。
 仄かに薄暗い――まだ準備中であることが窺える――店内。綺麗に並べられたテーブルに椅子。そのうちの一脚に座り、頭を抱える女性がひとり。
「どうしよう……」
 呟き声は虚しく響いた。彼女は深く深く、溜め息を吐く。
 ――だってまさか、こんなことになるとは思っていなかったのだ。
 かたん、と音を上げながら立ち上がった女性は、緩慢な足取りで縁側へ向かう。そこには色鮮やかな紫陽花が咲き誇る庭が在った。
 彼女は庭の紫陽花を眺める。眉を下げ、心底不安そうな表情で視線を空へと移した。紫陽花が、雨の匂いを運んでくる。

●つまりは、アルバイトなんです
「お仕事をもらってきたのです!」
 むふー、と鼻息荒く仕事を持ってきた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。彼女は早速資料を読み上げる。
「依頼主のお名前は、彩原・花さんといいます。花さんは、つい最近お店を持ったそうです」
 依頼主は祖父の家を改築し、カフェを開くことになったらしい。開店の準備は順調だったが、プレオープンを目前にとんでもないことが起きた。
「口コミでお店のことが広まったのか……予約が殺到したとのことです。加えてアルバイトの人がこのタイミングで急病で倒れられて……」
 一言で言えば、人手が足りない。花は知人や友人を頼ってみたが、生憎と誰も捕まらなかった。
 プレオープンまでもう時間がない。困り果てた彼女は、ローレットに助けを求めたという次第だ。
「――なので皆さんには、アルバイトをしていただきます」
 もちろん長期的なものではなく、一日限定のアルバイトだ。
 続いてユリーカは、花の店の詳細を話し始めた。
「花さんのお店は『紫陽花茶房』といって、紫陽花を売りにしたカフェなのです」
 店には庭があり、彼女の祖父が遺した紫陽花が咲いている。その庭は開放されていて、テーブル席から紫陽花を楽しむことができるとのことだ。
「そして極めつけが提供される紫陽花スイーツ! とても可愛美味しそうなのです!!」
 曰く『紫陽花スイーツ』とは、パフェやあんみつなどを、紫陽花を模した練りきりとアイスで飾ったもの。見た目は華やかで、味も美味しいそうだ。
 ユリーカは目を閉じ、ほぅ、とため息を漏らす。
「……ボクも食べてみたいです。お仕事が終わった後、紫陽花スイーツを振る舞ってくれるらしいですよ!」
 お仕事終わりのご褒美ですね、とユリーカはころころ笑った。
「やることとしましては、接客とキッチンのお手伝いです。花さんが指示を出してくれますので、わからないことは伺ってみてください」
 補足として、女性は着物にフリル多めのエプロン、男性は甚平にギャルソンエプロンが制服として用意されていることをユリーカは言い添えた。
 あらかた説明を終え、彼女は集まったイレギュラーズを見回した。
「では皆さん、宜しくお願いするのです!」

GMコメント

こんにちは、文灯です。紫陽花の季節ですね。
今回はカフェをお手伝いするお仕事です。
カフェのアルバイトってちょっぴり憧れます。

●成功条件
カフェのプレオープンを成功させる。

●ご褒美タイム
お仕事が滞りなく済んだ場合、紫陽花スイーツが振る舞われます。
(※ちょっとしたご褒美なので、描写量はあまり多くありません)
また、トラブルが起きた際は、ご褒美タイムはおあずけになります。

●以下読まなくてもいい花女史の情報
彩原・花(さいはら・はな)
小さい頃からおじいちゃん子で、よく祖父の家に入り浸っていました。
祖父は庭の紫陽花をとても大事にしていました。
祖父と紫陽花を見るのが、彼女の楽しみでした。
それから数年が経ち、祖父は病の床に臥して、帰らぬ人となります。
祖父が愛した庭の紫陽花を色んな人に知ってほしい。
そうして彼女は、紫陽花茶房を開くことを決めたのでした。

店を開くにあたり、不安を多く抱えていますが、
祖父のことを想いながら、気丈に振る舞っています。
何か言葉を掛けて、勇気づけてあげてください。
きっと皆様の言葉が力になります。


皆様の心のこもったプレイングをお待ちしております。
どうぞ宜しくお願いします。

  • 紫陽花茶房完了
  • GM名文灯
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年06月20日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
クィニー・ザルファー(p3p001779)
QZ
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
小鳥遊・鈴音(p3p005114)
ふわふわにゃんこ
カシミア(p3p005160)
森の守護者
猫屋敷 音子(p3p005264)
彼は誰時

リプレイ

●紫陽花日和
 紫陽花茶房に集まった面々を見回し、花は空を仰いだ。天の助けだわ、とこの瞬間を噛み締め、次いで自己紹介と感謝の言葉を述べる。全員が簡単に自己紹介を終えると、花は早速店内を案内した。
 テーブル席、キッチン、お手洗い――そして花は最後に縁側を案内する。彼女の手によって、庭に続く戸が開かれた。
 そこには、美しく咲き誇る紫陽花たちがいる。花びらの露が朝の光を浴びて、きらきらと輝いているように見えた。きっと、花が欠かさず手入れをしているのだろう。
「すてきな、お庭……見とれてしまいます、ね……」
 垂れ下がったふわふわな耳をぴるる、と震わせた『さまようこひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)は、思わずそう溢していた。それはそれは大事にされてきたであろう庭の紫陽花。花の、祖父への想い。来てくれた人たちにもそれを感じて貰えたら嬉しい。そして、気持ちよく過ごして貰いたい。メイメイはひっそりと思う。
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ」
「本当に綺麗ですね」
 紫陽花を眺め、目を細めた『彼は誰時』猫屋敷 音子(p3p005264)は、そっと花に頭を下げる。
「花さん、今日は一日よろしくお願いしますねー。あなたのおじいさんが残した大切なモノ、お客様に見せびらかしましょう!」
「アルバイトさんがプレオープン前に急病なんて……」
 『ふわふわにゃんこ』小鳥遊・鈴音(p3p005114)は、かつて薬屋を営んでいたので、その大変さはよくわかる。猫耳をへちょりとしおれさせた彼女だったが、すぐにぱっと明るい笑顔を浮かべた。尻尾もぱたぱた揺れている。
「微力ながら鈴音もお手伝い致しますにゃ! 頑張って成功させましょうね♪」
 ふたりからのあたたかな声援に、花の表情も綻ぶ。
「ふふ。えぇ、もちろん!」
「ここは雨が似合う素敵な佇まいですわね。これが『ワビサビ』というものでしょうか」
 木造の建物、広い庭、咲く紫陽花。非常に心を和ませてくれる。『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)は、ふっと笑みを溢して独り言ちた。
 紫陽花に思い入れのある花を微笑ましげに見つめる『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)。
「ここは是非ともプレオープンを成功させて、花ちゃんに笑顔になってもらいましょう~。えい、えい、お~」
 ゆったりした掛け声で拳を天井へ向けると、花も一緒に拳を突き上げた。
「こういう仕事はやりがいがあるねー! 人を助けて喜んでもらえるように頑張る……」
 うんうん、と『QZ』クィニー・ザルファー(p3p001779)は頷き、いいことだ、と呟いた。
「せっかく素敵なお店を開くんだもん、プレオープン絶対成功させないとね!」
 お店のお手伝いができるなんて、とっても楽しみ。人懐っこいカシミア(p3p005160)の笑顔は、花の心を和ませる。
 あの、と花に声を掛けたのは、『夜鷹』エーリカ・マルトリッツ(p3p000117)。彼女は少し俯きがちに、ぽつりぽつりと気持ちを言葉にのせる。
「……あのね。おじいさんがのこしてくれたたいせつな場所。きっとみんなもすきになる。もっとすきになってもらえるように、がんばるから」
 いちにち、よろしくおねがいします――。たどたどしくも、真っ直ぐなエーリカの言葉に、花はしっかりと頷いて応えたのだった。

●開花
 開店前に掃除を終え、卓の番号を記した紙、マニュアルやスイーツの盛りつけをイラスト化したものを用意する。客を迎える準備は万端だ。
 客に渡すメッセージカードは事前に作成してきた。花からも許可を得て、渡すタイミングは会計の際ということになった。いよいよ、紫陽花茶房が仮オープンする。
 オープンを報せるために、カシミアと音子はひょっこりと外を覗き込む。するとそこには、開店を待つ予約客がずらりと列を作っていた。
「うわぁ、すごい行列だ!」
「皆様お待ちかねですね。中へご案内しましょう」
 そうだね、とカシミアが頷き、客の前に姿を現す。ふわり、紫陽花で飾った長い髪が揺れた。甚平姿が珍しいのか、予約客たちの視線がカシミアに釘付けになる。
 着物姿の音子が後を追うように姿を見せると、そちらにも視線が向けられた。可愛い格好ね、と囁く声が聞こえる。
「いらっしゃいませ。紫陽花茶房へ、ようこそ!」
「大変お待たせ致しました。順番にご案内しますね」
 予約リストを片手に、音子が客の名前を確認し、席へと案内していく。
「いらっしゃいませ~。ご注文を承ります~」
 ひらり、ふわり。歩く度に揺れる愛らしいフリル。淡い水色の着物は涼やか。素敵な着物を着られて、レストは内心うきうきしている。
「紫陽花パフェをひとつと、あたたかいほうじ茶で」
「私は紫陽花あんみつに、冷たい緑茶でお願いします!」
「はい、かしこまりました~。お待ちの間、紫陽花観覧をお楽しみくださいね~」
 レストがすっと手で示すと、ふたり組の客はそちらを見遣る。縁側に咲く鮮やかな紫陽花を見て、ふたりの瞳は輝いた。それを見たレストは、ひっそりと微笑む。
「オーダー入ります~、紫陽花パフェ、紫陽花あんみつ、ホットのほうじ茶にアイス緑茶をひとつずつ~」
 記念すべき、お客様第一号からの注文だ。レストのオーダーの声に、
「は、はい!」
 花がガチガチに硬直しながら声を上擦らせる。緊張している様子が見て取れた。
「大丈夫です、私たちが丁寧にお手伝いしますもの」
 その肩に触れた鈴音は、勇気づけるように声を掛ける。ふわふわな耳をぴんっと立たせて、気合は充分。
「え、えと……ここが、お客さまにとっても、思い出の場所になる……ように、わたしも頑張り、ます……!」
 ぽそぽそと小声で――しかし力強く、メイメイはぐっと拳を握って花と向かい合う。
「はい! 鈴音も皆と一緒に頑張りますから、花さんも一緒に頑張りましょうね♪」
 ふたりからの言葉に、花の表情が緩んだ。緊張して硬くなっている場合ではない。しっかりしないと。
「――ありがとう! 鈴音さんはパフェをお願い。メイメイさんはあんみつを頼めるかしら」
 指示を受け、ふたりは安堵した様子で作業に取りかかる。
「ドリンクは――」
「それなら私が作るよ!」
 ぱっと手を挙げたクィニーは、ホット用とアイス用のグラスをひとつずつ取り出してドリンク作成の準備を始めた。
「QZさん」
「このカフェも紫陽花も、私は一目で気に入っちゃったよ! すっごい綺麗! 花ちゃんの思う通りにやればきっと大丈夫」
 私達はもう紫陽花大好き仲間だからね、と茶目っ気たっぷりに片目を閉じるクィニー。今日は幾らでも頼ってちょうだい。そう続けると、花は小さく頷いて応える。
「キッチンの皆様、オーダーが入りました。紫陽花ゼリーがおふたつ、紫陽花ケーキをおひとつ、それとお飲み物はアイスティーのミルクがおふたつ、レモンがおひとつでございます」
「ありがとう、エリザベスさん! ドリンクがすぐ出るから、提供お願いしますね!」
「ええ。……彩原様、お時間がある時に休憩がてら、ホールへいらしてくださいませ」
 エリザベスの提案に、花はきょとりと目を丸くする。しかしすぐに、ええ、と返事を返した。
「はーい、ホットのほうじ茶、アイス緑茶お待たせ!」
 クィニーがドリンクをエリザベスに渡すと、彼女は軽く会釈をしてホールに戻っていった。
 ちょうどその横をエーリカが擦れ違う。華やかな青色の着物、ひらひらのエプロン。それが恥ずかしいけれど、少しうれしい。
「夜鷹さん、紫陽花スイーツの提供お願いね!」
「は、はい」
 おそるおそるトレイを持ち、鮮やかに彩られたスイーツをのせる。崩れぬよう気を付けて運び、記念すべきお客様第一号の元へ。
「……おまたせいたしました」
 そうっとテーブルにスイーツを置けば、客からは喜びの声が上がる。
「うわぁ、かわいい!」
 ――花のようだ、とエーリカは思った。ぱっと綻ぶ、笑顔。ほんのすこし、こころがあったかい。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
 音子の声で我に返る。しっかり、お客様をお迎えしなくては。いらっしゃいませ、と小さい声ながらも、きちんと目を見て。
(「す、すまいる」)
 忘れてはいけない、だいじなこと。にっこり笑顔の音子よりは控えめだけれど。
「テーブルまでご案内致します」
 薄紅の裾を翻し、音子は客を席まで案内する。紫陽花がよく見えるような最短ルートを辿れば、後ろから聞こえる客の感嘆の声。
「それじゃあ……紫陽花パフェをふたつと、ホットコーヒーひとつ、オレンジジュースをお願いします」
 こうしてホールで周囲を見回すと、よくわかる。紫陽花を見つめる人々の笑顔。知らず、音子も微笑んでいたようだ。
「では、ご注文を繰り返させていただきます――」

●雨に咲く
 夕方に差し掛かる頃、空には雨雲が広がっていた。しかし曇り空の下の紫陽花もまた風流だった。
「またのお越しをお待ちしております」
 会計を終えた客に、音子はメッセージカードを手渡す。受け取った客はカードを眺め、ふしぎそうに首を傾げる。
「これは?」
「はい、私どもでお客様に送る言葉を書かせていただきました」
 今日の記念に、是非。そう伝えると、客はメッセージカードを胸に抱く。
「ありがとうございます。素敵なサプライズですね」
 どうやら喜んでもらえたらしい。表情は変えなかったが、音子はほっとしていた。
「ママぁ、パフェまだ来ないの~?」
「今頼んだばっかりでしょ。もうちょっと待ってなさい」
 不意に上がった声に気付き、レストが歩み寄る。声を上げたのは幼い少年だった。
「あらあら、かわいい坊ちゃんね~」
 声を掛けると、少年は驚いた様子でぱちぱちと瞬きを繰り返す。恥ずかしいのか、母親の背に隠れてしまった。その仕草がまた可愛くて、レストはゆるりと目を細める。
「ほら、ボク? こっちを見てちょうだいな~」
 レストが手を差し出すと、その掌にぱっと現れる愛らしいリス。いつの間にかレストの手へと視線を向けていた少年は、突然現れたリスに驚き、そして瞳を輝かせた。
「すげー! 今のどうやったの!?」
「実はおばさん、魔法使いなのよ~」
 掌のリスが姿を消したと思ったら、今度は少年の頭の上に。彼が、わっ、と声を上げると次はレストの着物の袖にリスが移動している。
「んふふ~、あまーい紫陽花スイーツはもう少し待っててね~?」
 瞳をきらきらさせた少年は、ぱちぱちと拍手をする。スイーツを待つ間も楽しんでもらえたようだ。
「紫陽花パフェお待たせー!」
 と、そこに花の声が掛かった。少年が注文した紫陽花パフェが完成したようだ。カシミアがスイーツの提供に向かう。
「こちらもお願いしますわ。紫陽花あんみつです♪」
「ドリンクも出るよー!」
 鈴音とクィニーからも声が掛かる。わ、とカシミアが目を瞬かせた。ホールを担当している仲間は、オーダーを受けたり会計中だったりと皆手が塞がっているようだ。
「パフェを提供してから戻るね!」
「あ……、わたし、手伝いましょう、か……?」
 小さな声でおずおずと申し出たメイメイ。カシミアはぱっと明るい表情で笑った。
「本当? とっても助かるよ!」
「メイメイさん、宜しくね。もう少ししたら落ち着くと思うから……」
 花が申し訳なさそうに眉を下げるが、メイメイはぶんぶんと首を振った。もふもふ耳も一緒にぷらぷら。
「お任せ、くだ、さい……!」
 薄紫色の着物を整え、彼女はスイーツとドリンクをトレイにのせてホールへ向かった。
 ティータイムを過ぎた頃に、店はようやく落ち着いてきた。キッチンはゆったりした時間が流れている。手が空いた面々はグラスやカトラリーを磨いたり、溜まった食器を洗ったりしている。
 エリザベスからも休憩するように言われていたので、花は休憩がてらホールに出てみることにした。
 紫陽花を見つめる視線。和気藹々とした和やかな雰囲気。メッセージカードを受け取った嬉しそうな表情。
「彩原様、ホールに来てくださったんですね」
 ふと声を掛けてきたのはエリザベスだった。彼女は口許に笑みを浮かべる。
「彩原様にも見ていただきたかったので、安心しましたわ」
「え?」
「たくさんの笑顔。その目で見なくては損をしてしまいますわ」
 ほら、と促す声につられ、花は周囲を見回した。彼女の言う通り、あちこちで笑顔が見られる。花は目を丸くした。
「花さんと、花さんの大事な紫陽花のお陰ですわ」
 振り返れば、鈴音の姿があった。その後ろにはクィニーもいる。彼女はひらりと手を振る。
「やぁ、私たちもお客さんの様子を見に来たよー」
 キッチンにいると、ゆっくり客の顔を見ることができなかった。たくさんの人たちが、紫陽花を見て笑顔を浮かべている。花は目頭が熱くなるのを感じた。
「さぁさぁ、休憩したらもうひと頑張りだよ!」
「頑張りましょうね、花さん♪」
 クィニーと鈴音から背中を押された花は、声にならない声で返事をする。
 外はぽつぽつと雨が降り出していた。

●綻ぶのは花と、
 すっかり日が落ちた頃。賑やかだった店内には静けさが戻りつつある。間もなく、閉店の時間だ。
 雨で濡れた地面を気にする客に、カシミアがそっと手を差し出した。
「足下にお気を付けて」
「まぁ、どうもありがとう」
 柔和な笑みで客を見送り、店内を振り返った。会計をしているのは、最後の客だ。エーリカが対応している。
「あ、……ありがとうございます。またのおこしを、おまちしております」
 小さな声でぽつりと。エーリカはメッセージカードを手渡した。女性客は受け取ったカードを眺め、嬉しそうに笑う。
「とても素敵な笑顔を、ありがとうございます」
 彼女は、また絶対来ますね、と力強く言い添える。退店した女性客の後ろ姿を全員で見送った。
 最後の客を見送り、店先に閉店中の札を下げてプレオープンが終了する。
「皆、本当にありがとう。私ひとりじゃ、プレオープンは成功しなかったと思う」
 たくさんの笑顔が見られたのは、心を寄せて手伝ってくれた皆のお陰だ。そう言って、花は笑顔を見せた。
「それじゃあ、最後に――」
「お楽しみのごほうびタイム、ですね」
 音子の言葉に、全員が瞳を輝かせる。

 今日のごほうびは、初めて食べる紫陽花スイーツ。一番人気だったパフェを頼めば、可愛いカエルのメレンゲ菓子付き。花曰くサービスとのことで、見回せば全員のスイーツにも、様々なおまけが飾りつけられていた。
 目を瞬かせ、スプーンでパフェを掬う。ぱくりとひとくち。ぱりぱりフレークにとろっとなめらかなクリームプリン。あまあまベリーのソースが口いっぱいに広がれば、彼女の表情が綻ぶ。
 瞳を閉じて、今日のことを思い出す。
 ……人前に立つことは、今でも怖い。尖った耳。氷のような瞳。疎まれ、虐げられ、忌み嫌われてきた。それなのに――向けられたのは悪意ではなく、笑顔だった。
「……えへへ」
 すてきな庭と、達成感。しとしと降り止まぬ雨に、空を仰げば広がる雨雲。空模様も悪くない。晴れやかな心地に、思わず笑みを溢す。
「まぁ、とても美味しそうですわね」
 エリザベスがごほうびに注文したのは、紫陽花ゼリーだった。葉を模したねりきりには、ちょこんとかたつむりの形のチョコレートがおまけつき。
 涼やかな青と紫と薄紅色のゼリーは、ブルーマロウを固めたものだ。ほんのりレモンの酸味と、はちみつの甘さが広がる。
「働いた後のスイーツは、格別ですわ。フフ、いい汗をかきましたわね」
 スイーツを味わいながら、エリザベスは考える。召喚されなければ、オーナーの元でこういった仕事をしていただろうか。
(「……そう考えると運命の悪戯を感じますわね」)
 ぴこりぴこり、耳が揺れる。紫陽花パフェを目の前にして、メイメイの疲れは吹き飛んでしまった。スイーツを食すこの時を、ひたすら楽しみにしていたらしい。
 アイスの上に鎮座するのはてるてる坊主の形をした砂糖菓子だ。かわいい、と呟きながら、彼女はパフェをひとくち。両頬を押さえて、しあわせな表情。
(「お客さまも……きっと、こんな風に感じたのでしょう、ね」)
 鈴音のパフェの上には、チョコレートがのせてある。
「これは……雲の形ですわ!」
 中身はふわりとした食感のジャンドゥーヤだ。鈴音はひとくち味を見て、表情を緩ませた。
 たくさんの笑顔を見られた今日という日を思い起こして、嬉しげに耳が揺れた。
「どひぃ、つっかれたぁ……!」
 誰かの笑顔を守るために戦う。それは騎士も店員も変わらないものだ。クィニーは深く息を吐く。
 愛らしく飾られた紫陽花ケーキを見下ろして、知らず笑みを浮かべていた。紫陽花の傍らには飴細工の傘。やさしい甘さを感じながら、目を閉じる。
 きっとこの場所は、紫陽花の花のようにたくさんの人が集まって大きな幸せになる。そんなカフェになるといい。
 音子の紫陽花ケーキには、レインコートを着た猫のアイシングクッキー。色味はどこか、彼女に似ている。
「おまけまで……ありがとうございます」
 ちょっぴり食べるのが勿体ない……気がする。じっと見つめると、猫に見つめ返されている気分になった。これは最後にいただこう、とクッキーを端の方へ避ける。
 カシミアの紫陽花パフェには、雫の形をした飴細工が添えられていた。
「わー、かわいいなぁ!」
 パフェのアイスを頬張って、へらりと笑う。お店を手伝うのも悪くない。良い時間が過ごせた、と。
「今日はとっても楽しかった!」
「皆さんのお陰よ。私も……楽しかったわ」
「ねぇ、花ちゃん。おばさん、このカフェとっても素敵だなぁって思ったわ」
 レストは運ばれた紫陽花あんみつに視線を向けながら、花に呼びかける。
 白玉に小豆、透き通った寒天。フルーツの上には紫陽花のねりきり。同じくねりきりで作られたであろう、長靴のおまけつきだ。彼女の頭上にいるリスが、興味津々な様子でスイーツを見つめている。
 レストは視線を縁側の紫陽花へと移す。
「だって紫陽花がこんなに素敵なんですもの」
 きっとお客さまもそう思ってくれたはず。今は不安かもしれないけれど――彼女のおもてなしなら、たくさんの人を幸せにしてあげられる。
「この紫陽花茶房を、皆の大好きな場所にしてあげて、ね?」
「……はい、必ず」
 綻ぶ笑顔は、まるで花のように。
 きっとここは、たくさんの笑顔が咲く場所になるだろう。

成否

成功

MVP

エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ

状態異常

なし

あとがき

お待たせ致しました。
この度は、ご参加とプレイングをありがとうございます。

皆様がお気持ちを寄せてくださったので、文章にしながら少し込み上げてしまいました。
あたたかい言葉の数々が嬉しいです。
きっと紫陽花茶房は素敵な場所になると思います。

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