PandoraPartyProject

シナリオ詳細

デパートでおしごとっ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

⚫︎キノコの里
 幻想にも様々な商売をする者達がいる。
 野菜、魚、肉、加工物、料理、雑貨……etc……
 イレギュラーズの中にいる『旅人』と呼ばれる者達も驚く程に、そのジャンルは多岐に渡る。
 混沌には多くの技術のみならず植物生物動物といった把握しきれないだけの物があるのだから当然である。
 しかし、そんな幻想にも無い物が存在する。貴族達の思想に僅かながらも影響を受けた人々にとって、存在しない発想。
 互いの衣食住を補いながら多くの人に商いを行うと聞けば、恐らく出て来るのは幻想の民ではなくあの『ラサ』などが思い浮かぶかもしれない。
 だがそこで、イレギュラーズの多くが利用する姿を見て発想を天啓の如く得た者達が立ち上がったのである!
 高層建造物内に納めた、衣食住の全般にわたる多種類の商品を陳列し、対面販売を行う各ジャンルと店舗に富んだ大規模な小売店。
 つまり。すなわち。
「デパートメントストア、『キノコノサトー』の開店が遂に迫って来た! 我々が新たな時代を作るのだ諸君!!」
 そう、デパート(百貨店)である。
 それは武器や防具のみならず家具から薬剤まで取り揃え、客達の足を離れさせない為に建物内に飲食店を集中させたフロアを作るなどの工夫から各店舗営業主たちとの連携を行う事で完成されていた。
 建物内に展開する店舗数は28店舗。間違いなく幻想において最大の商店街である。
 そんな新たな挑戦をしようと思い立ったのは貴族であるオーナーだ。
「幻想国内では冴えない商売のみならず、少し前に起きた騒動においては多くの被害を出した者もいるだろう!
 しかし! この計画が成功すれば我々は、君達は、これまでにない団結と共にかつてない未来を手に出来る!」
 オーナーは今は亡き使用人や行きつけの酒場の踊り子を思い出して涙を流した。彼は言う、もうあのような悲劇を繰り返さない為にも団結するのだと。
 彼は集まった各店舗の主人達を前に、一本のワインを出した。
「これはかつて我々と競争して来た隣町の商店街、『タケノコノヤンマー』からの祝い品である。これを皆で飲み、明後日の本番で最高の結果を出そうではないか!」
 オーナーから杯に注がれたワインを全員に回し終えた時、乾杯の一声と共に彼等は飲み干した。
 
⚫︎おのれタケノコの山
 顔を青くした貴族の男が床にその頭を激しく打ち付けた。
「奴ら……タケノコノヤンマーにハメられた! このままじゃ皆の努力も水の泡、どうかローレットの諸君、報酬なら出す! 一日だけで構わない! どうか、どうかその力を貸してくれ!!」
 直後に「うぐほぉおおっ」という呻きと共に盛大な放屁。そして酒場の一角に充満する悪臭。
 デパートを開くという貴族の男は腹を下していた。
 競争相手だった商店街に盛られた毒によって魔術も効かない腹痛に襲われているのだ。これによって彼を含めた店舗責任者やそれに追従していた店員達は完全にダウン。
 医者や魔術師の話によれば身体から毒を除去するには丸一日かかってしまうのだという。
 それでもデパート開店の日の夜になるのだ。それでは間に合わない、そこでオーナーである貴族の男はローレットを頼りに来たのである。
 イレギュラーズに求められるのは、最も人員が不足しては回らない店舗のヘルプだ。
 とりあえずオーナーの男をトイレに促しながらイレギュラーズは話し合うことにするのだった。

GMコメント

貴族「おのれェ……これがお前達の、やり方かァァァアア!!」

 ちくわブレードです、非戦シナリオとなります。
 以下情報。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

⚫︎依頼達成条件
 幻想で数少ないデパートメントストアの開店の手助けをして無事に初日を終える

⚫︎デパート『キノコノサトー』
 幻想大通りの一角に完成した地下二階、地上五階まであるデパートです。
 各フロア毎に店舗の特質は異なり、また求められる働きも変わります。
 今回イレギュラーズの皆様はこの大事な初日を無事に乗り越える為のサポーターとして参加します。
 
⚫︎お願い! 手伝って!
 地下二階:フードコート。人員不足となっているのは『マグナムおばさんのパン屋』です。
 地下一階:衣服・装飾品フロア。人員不足となっているのは『紳士服のコナタ』です。
 地上一階:エントランスホール。人員不足となっているのは『受付案内・宣伝係』です。
 二階:インテリアフロア。人員不足となっているのは『ファットマンの家具屋さん』です。
 三階:生鮮食品フロア。人員不足となっているのは『うさ耳八百屋』と『堕天のウオ歴史(魚屋)』です。
 四階:薬品・魔法道具フロア。人員不足となっているのは『フェルゼンハント印のポーション店』です。

 ヘルプに向かう先をプレイングに書く際は【地下一階】や【地上二階】といった風にお願いします。或いは店名でも構いません。

⚫︎イレギュラーズへのメッセージ
「我々にポジションは関係無いので、君達に出来ることをやっていただきたい。
 何より大切なのは楽しむ事だ。
 幻想には時として悲劇や喜劇が飛び交う、だからこそ我々は集い、商いをする事で人々に新しい可能性を生み出したい」

 本依頼は完全な非戦依頼となります。
 スキルやギフトを駆使するも良し、どこかで調べて来た技術や仕事の知識をプレイングで応用するも良し、ステータスに基づいたアクションをプレイングによってゴリ押しするも良しです。
 作業において何をすればいいか分からない場合は店舗の他従業員に詳細を聞くのも手です。
 
 以上。プレイング次第で面白くなりますので是非ご参加ください。

  • デパートでおしごとっ!完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年06月17日 21時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Suvia=Westbury(p3p000114)
子連れ紅茶マイスター
四矢・らむね(p3p000399)
永遠の17歳
江野 樹里(p3p000692)
ジュリエット
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
Q.U.U.A.(p3p001425)
ちょう人きゅーあちゃん
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
トライ・ストライン(p3p005482)
太陽を忘れた時代の狩人

リプレイ

●開店・スタートミッション!
 いよいよ開店の時は近付いてきた。
 サーカス団が来訪してから耳を覆いたくなる事件が多かったせいで気を病む空気が続いていたが、ローレットのイレギュラーズの活躍でそれも終わろうとしている。
 あと一押しなのだ。人々は団結している、そこに華を添えるのだ。
 活気を生むのはいつだって人の力であり好奇心や享楽の感情である。それを誘い、引き出すのが使命ともいえる。
「いよいよ開幕……いや、開店か。今日から我々は新たな『可能性』を切り拓く一員となるのだ。
 勝手の分からぬことは多く出るだろう、所詮は思い付きの博打。その点についても理解して貰っているだろう、
 我々は商人であるがそれ以前に多くの物を抱えた人である! さぁ始めるぞ、人ならば笑顔は大切だ、客を捕まえたいならその頭を使え! いくぞ!」
 オーナー貴族が気付けに用意した酒の入った杯を掲げ、一息に飲んで声を挙げる。それに続いて一階受付前に並んだ従業員一同とイレギュラーズから拍手が鳴り響いた。
 開店前のスピーチを終えた後、商人たちはそれぞれの店舗へと戻って行く。オーナー貴族は自身の専属の薬師に肩を借りながら青い顔で去って行こうとする。
「では……頼んだぞキミたち」
 腹部から鳴るぐるるっるるという音に顔に死相を浮かべながらオーナーは笑って手を振った。
「ご安心ください、わたし達が素敵な初日にして見せます!」
 『ゆきのはて』ノースポール(p3p004381)が白いウサギが描かれたエプロンを掛け、ウサ耳を頭に着けた姿で「おー!」と手を挙げた。
 彼女の手には早朝からオーナーに相談して用意したスタンプが握られている。彼女達イレギュラーズはそれぞれの持ち場である店舗でスタンプラリーの企画を行うと提案していたのだ。
 当然これには店舗の各責任者たちが喜んで承諾した。デパートというこれまでになかった異色の空間でやっていくにも他店との繋がりは欲しかったのだ、これを機に連携が取れればデパート内での評価も高まると思えば断る理由は無かった。
 多少の割引ならば問題ないと他フロアの店舗からも後押しを受けている。後は客の反応を待つだけであった。
⚫︎
「おきゃくさんあつまってきたねー! やっぱりおおきなデパートだからかなヾ(≧▽≦)ノ」
 地下にある服屋で着替えて来た『人 工 無 能』Q.U.U.A.(p3p001425)が自前で用意していたデパートガール風の制服をフリフリさせて来る。
 彼女の隣では『永遠の17歳』四矢・らむね(p3p000399)も同じくノリノリで自前のアイドル衣装をフリフリさせている。
「いやー、アイドル下積み時代を思い出しますね、このバイト! 今も下積みですけどね。アッハッハ!」
「下積みってことはきゅーあちゃんもアイドルになれるのかな!(>ヮ<) ところでこの制服どう? かっこいいかな! ( ´艸`)」
「かっこいいですよう!」
「わーい!!」
 二人は他の店舗担当の人間がいなくなったエントランスを行くと、出入口の前に配置された受付のカウンターに向かった。
 一階のエントランスホールにはちょっとした屋台や小雑貨店が上下階に続く階段の周囲に並んでいる。彼女達受付嬢は他に三人、主な仕事は各フロアの説明案内や店舗の紹k……
「とりあえず私達のカウンターにはステージを作ってしまいましょう! 館内放送用のスピーカーとマイクも用意させてもらったので準備万端です!」
「きゅーあちゃんもさっきデパートのロゴをスタンプとおなじ虹色にしてきたよー!(*´▽`*)」
「いいですねえ! しかしこのポジション、何気に重要ですよ! なんたってエントランス、皆さん必ずここを通りますからね!
 いわば顔ですよ! 顔!!お客様が気分良く買い物できるようにバシーンと迎えましょう!」
 マイクを片手にキリッとするらむねとスタンプ台を受付に設置するQUUA。
 程なくしてデパートの噂や宣伝を聞きつけてやって来た客たちはかつてないハイテンションガールたちに出迎えられ、そして新しい世界に足を踏み入れることとなる。
 
 いらっしゃいませ、キノコノサトー、開店!

●ポーション店
「ええっ、はやくないですか……!?」
 『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が思わず狼狽える様子を見せた。
 開店して数分、一階からは勇壮ならむねの歌声とQUUAのたまにアナウンスが利香のいる階まで響いていた。なんだか楽しそうに思えて緊張がほぐれて来たと思った矢先に素早いフットワークで数名の客たちが駆け上がって来たのだ。
「おおー! すごいぞ、本当にポーションが並んでいる!」
「店の並びもよく計算されているな……」
「うちの子が病気なのよ、いい薬は無いかしら?」
「受付の子可愛かったなあ」
 早くも沸き立つ客たち姿を見て、他の店員とアイコンタクトを取ってから頷いた。
「さーて、張り切っていっちゃいますよー!」

「ちょっといいかね?」
「はい! いらっしゃいませ! ポーションのお買い求めですね!」
 小太りの眼鏡をかけた貴族らしき男が利香に近付いてきた。
「うむ、私は近頃書類仕事が多くてね、どうにも体がむくんで仕方ないのだが何かいいのは無いかね?」
 ぶに、と腕をつまんで見せる貴族の男。
 利香は丁度整理していた棚を物色し始める。
(えーと、確かこの辺りに……)
 事前に借りていた薬学の書物で得た一般レベルの知識を基に、利香は二本ほど、蒼い液体が中で波打つ小瓶と、黄色い粉末が詰められた小瓶である。
「こちらのポーションはフェルゼンハント印の物でして、国王から認可の降りている滋養強壮薬です!」
「滋養強壮……? すまないが私は体のむくみがだね」
「こちらの滋養強壮薬には効果として、一部体のむくみを解消したり集中力を高める効果があります。
 それと、こちらの粉末ポーションは体の炎症を鎮める効果のある物ですけど、酸味のある果実に含まれている栄養価が肩こりだけでなく目元の療養にも効くんですよ~」
「ほう……!」
 利香の接客態度だけでなく求める物以上の応えが返って来た事で貴族の男は満足そうに頷いて会計へ向かっていく。
 順調に行けそうだ、と思ったところで。
「あ! 実はいまスタンプラリーっていうのをですね!」
 まずは一人。
 受付で渡されているカードに赤い文字の『キ』のスタンプが押されたのだった。

●八百屋
「すごいのねぇ、ローレットの人達って戦うことしかできないイメージがあったワ」
 ウサ耳をぴこっと揺らす女性店員はテキパキと店内を動き回るノースポールを見て関心の声を漏らす。
「らっしゃーい! 新鮮な野菜が揃ってますよ~!」
 既に三階といえど客の数は他のフロアよりも多めである。
 野菜は季節によって出る物や美味しい物に動きが出る物だが、基本的には年中食べる物は買いに来るものである。
 直ぐに減っていく売場の様子を見逃さず、客の気を引くために声出しを怠らず、悪くなっていたり葉に虫食いが出ているような野菜を弾いて整理する。
「今日の一押しはやっぱりキノコ! そして……タケノコー! 煮ても焼いても美味しい万能野菜! ご飯と炊き込んでも美味しい!」
 なにより元気のいい笑顔は見る者もいい気分になると言うものである。
 他の店員たちとも『ポー』と呼ばれれば直ぐに手伝いながら野菜を客に勧める姿は店員たちからも客からも高評価であった。
「今日のお昼や晩ご飯に、おひとついかがでしょうかーっ!」
 キノコノサトーとタケノコノヤンマーの人は仲が悪いと聞き、同じ商売人としてこれからは協力していって欲しい。
 幻想の貴族も一致団結できたのだから、きっとできるはずだ。そんな願いを込めて、どっちも推していくのがノースポールだった。
「……と、おやっ?」
 そんな時、不意に彼女の耳に子供の助けを求める声がぽそりと聞こえて来た。
 見れば階段の近くで辺りをきょろきょろしている男の子が一人。
「何かお困りですか? わたしで良ければ手伝いますよっ」
「……う?」
 困った様に首を振る子供にノースポールは店先にあるスタンプを持って来て、そっと子供に橙色の『ノ』が文字が押されたカードを差し出した。
 子供はそれに首を傾げながらも受け取り、ノースポールの顔を見上げた。
「どうしたの?」
 ほどなくして子供は迷子と分かり、彼女に連れられて受付ガールズの元へ送られたのだった。

⚫︎魚屋
 『年中ティータイム』Suvia=Westbury(p3p000114)の提案した売り場は思わぬ結果を出していた。
「いらっしゃいらっしゃい! スタンプカード貰った客はいるかい? 今ならこのスヴィア嬢のお茶が一杯、更にこの絶品の香草焼きの試食もできるぜィ!!」
「おい! 貰って来たぞ、私にもお茶を淹れとくれ!」
「ウオ歴史の旦那がチュウニビョーの話し方じゃなくなってる!?」
「受付の子可愛かったなあ」
 生鮮食品のフロアでも一際人が集まりつつあったのは『堕天のウオ歴史』こと魚屋だった。
「うふふ、慌てなくても皆様のおかげで店長さんがオーケーを出してくれたみたいでして。
 こちらの新鮮なお魚を購入されるとお茶のお勧めと共に四階でお買い求めいただける茶葉もお付けさせて貰いますわ」
 合わせ売り。そもSuviaが提案したのはスタンプカードを持って来た者達にお茶を一杯出すのと、店内にハーブを置いてみる。
 また魚の香草焼きを勧める以外に、商品の詳細書きを展示するといった工夫をすると言うものだったのだが……
「スヴィア嬢! すげえな、客からの評判は上々だぜ! 考えたな魚と茶の組み合わせたぁ!」
「こんなに皆様に喜んでもらえるとは思いませんでしたけどね、うふふ」
 店内には生臭い魚の臭いではなく、ハーブのおしゃれな香りが漂い。仄かに湯気を立てている『タイのエンガワ茶漬け』や『川魚の香草焼き』といった、とにかく香りが良い物が並んでいる。
 まるで貴族のようだと喜ぶ者もいれば、レシピを持ち帰って使用人に作らせたいと考える本物の貴族もいる。
 茶というありふれたものがまさか魚とこんなに合うとは。そんな声に、Suviaは新たにカードを持って来た客に黄の『コ』のスタンプを押しながら微笑むのだった。

●家具屋
「ほぉ、いいじゃないか」
 眼鏡をかけた小太りな貴族の男が膝に猫を乗せて、ソファーに体を沈ませて呟いた。
 彼のいる部屋は豪奢な絨毯に美しい桜色の煉瓦で造られた暖炉のある家……を、模した、いわゆるショールーム形式になっている家具店の一画であった。
(新店舗オープンに合わせて一服盛るだなんて到底許せたものじゃないわ。ただ、そこはそれ。問題は起こってしまったピンチをどうやってチャンスに変えていくかなの)
 『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)は貴族の男の様子に微笑んで「いかがですか」と家具を勧める。
(錬達では、旅人がもたらしたこういうショールーム形式の家具販売も行われてるみたいなの。実に合理的だと思わないかしら)
 心の内で問いかけたエスラに応えるように、貴族の男は頷いた。
(ただし、まったく同じことをするだけでは面白くないわ。うちだけのオリジナリティを……そう、他でもない、私が手伝うからこそできることをしたいわ)
「動物とともに暮らすための家具配置、か。なるほど、私のうちにいる愛猫もこうして気楽に過ごせるようになるならば一考の価値がある」
「買おう」
「横からなんだ貴様」
 いきなり現れた屈強な貴族が小太りの貴族と言い争いをしている様に、エスラはふうと息を吐いた。
 二人の貴族の争いを止めたのはエスラが押した緑の『ノ』スタンプで遂に完成したスタンプカード割引券となった、小太りな貴族の喜びとドヤ顔だった。

●紳・士・服の!
(この世界に跳ばされてから、初めての仕事だ。気を引き締めて臨まねばな……)
 『太陽を忘れた時代の狩人』トライ・ストライン(p3p005482)はぎこちない笑顔になりながらも店先で立ち往生していた。
 依頼人たちにとって重要な初日である。気が抜けないのも当然だろう。
 しかしそれで一つ知らず知らずのうちに、寡黙な彼がぎこちなくも真剣な眼差しで売り場を見ていることで一つの懸念が消えているとしたらそれは影ながらの大手柄だろう。
「……チッ」
 開店してから数時間。そろそろ昼近い。
 そんな中で地味な服装の……しかし言い換えれば敢えて目立たぬ格好に身に纏う男が数度目の舌打ちをした。
 他にも客はいるはずなのに、なぜか店頭から一向に動かないトライと、彼の鋭い視線が隙の無さを物語っていた。
 紳士服エリアの対面にある装飾品店は人が多少少ないのか、バタバタしている。目立たぬ男はその店で盗みを働き『雇い主』に利益ある騒動を起こそうと考えていたのだ。
 だが、そんな事ができるとは思えない。
(完全に気付かれているか……これは他の階も警戒されてる可能性があるな)
 そもそもトライの体つきは素人のそれではない、最悪の場合は傭兵か噂の特異運命座標か。
 そうと思えば男は再びフロアを離れようとする。
「お客様」
「!?」
(ばれたか……!?)
 いきなり声をかけて来たトライに狼狽える男。
 しかし、彼の前に差し出されたのは青字の『ト』と記されたスタンプだった。
「今、このスタンプが埋められてカードが完成すると割引などの優待が受けられます。ので、どうぞ」

●パン屋
「へーい、らっしゃいらっしゃーい。うちのパンは新鮮で美味しいよー(棒読み)」
 『ジュリエット』江野 樹里(p3p000692)のそれは見事な棒読みが店内に響き渡ら……ない。
 ふわっとしたその声はまさしくパン屋に相応しいが、それは町での感性ならではの話。
 思ったように客が入らない午前中を過ごした他の店員たちは不安げに顔を見合わせていた。
「ジュリさん、そろそろ昼時だから休憩入っていいよー」
「はーい」
 ハッと時間に気づいた店員が声をかける。間延びした声で樹里は返事をすると幾つかのパンを店のカウンターへ持って行った。
 昼飯時。あるいは昼過ぎの時刻になれば客足は更に増える。これは商売人の常識だ。
 そこで早めに昼食を樹里に取らせたのだが、パンを抱えて来た彼女に店員は首を傾げた。
「せっかく美味しそうなパンがありますからこれを食べながら歩いて来ようと思いましてー」
 宣伝をしようという彼女に店員は笑みを浮かべると、代金をカウンター内に置いて頷いた。「持って行っていいよ」ということらしい。本来の店主『マダム・マグナム』もきっとそうするだろう、と。
 樹里はそれにぺこりと頭を下げると、ふわりと踵を返して店内を出て行った。

 紙袋の中から取り出した、包み紙に挟まれたカレーパンを樹里は「はむっ」と食んだ。
 階段を上がりながらすれ違った親子連れの客たちが思わず目でその姿を追う。尾を引くスパイスの香り、そして樹里の小さな口でも食べられる柔らかくもサクッとした衣の音。
 そういえば昼時か。通り過ぎる樹里の背後で客たちはふと小腹が空いた。
「やっぱりマグナムおばさんのパン屋さんのパンは絶品よねー(棒(ry」
 サクッ。はむっ。
 棒読み調なのは確かに気になるが、匂いの方が気になる。エントランスホールまで上がって来た樹里はカレーパンを食べ終えると、今度はこれまたいい香りのピザブレッドを取り出した。
 やはり人の入りは朝とは違い、貴族の姿よりも街人の方が多い。そして彼等はやはり棒読みの樹里の声と彼女の食事風景の一枚絵に等しく小腹を鳴らした。
 そうして向かうは当然飲食店のあるフロアであり、そしてパン屋であった。
「……あら?」
 不意に、QUUA達がどうしているかと思い受付に寄ってみると、らむねが男の子を母親らしき女性に引き渡している最中だった。
「あ! じゅりちゃん! きゅーあちゃんたちもそろそろお昼だよー!(^_-)-☆」
「あの子はどうかされたんですか?」
「まいごだったんだけど、いまおかあさんみつかったんだよ!」
 なるほど、と樹里は子供と母親の姿を観察している。
 と、そこで樹里は何かを思いついたように懐からスタンプを取り出した。
「────お母さま、スタンプカードはお持ちですか?」

●忙しいその日を終えて
 シャッターが降り、デパート内は静けさに包まれる。
 エントランスには多くの従業員に加え、やっと毒の治療が終わった店舗責任者たちが疲れ切った表情で集まっていた。
 とても忙しい一日を彼等は乗り越えた。
 誰も彼もが拾うから口数は少ない、が……その顔には達成感のある味が出ていた。
「アンケートや本部に届いた諸侯貴族からの評価、そして売り上げの集計が終わった。
 よくやった諸君! 我々はやり遂げたのだ、成功だ!! 明日からも今日と変わらず、共に頑張ろう!」
 オーナーの男が拍手をすると周りも強く頷きながら互いを称賛しあう。
 そして、オーナーは最後にイレギュラーズの方へ視線を向けた。
「今回我々の窮地を救ってくれた彼女、彼等にも感謝を。君たちのおかげで無事初日を終えられた、ありがとう。本当にありがとう。
 さあ、我々『キノコノサトー』の仲間に皆も拍手を!」
 エントランスホールに、共にやり遂げた仲間への称賛と拍手が満ちたのだった。
 イレギュラーズは依頼を見事終えた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 後日、タケノコノヤンマー商店街は隣町のトーポッ高級商店街に吸収される。
 キノコノサトー達の戦いは、まだまだ続く……

 というわけでお疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
 もちろんその後もデパートのロゴは虹色となり、週末は必ずスタンプラリー企画をやるようになったそうです。
 またいつか、今度は別のお仕事をローレットに依頼するかもしれませんね。

 それではまたの機会をお待ちしております。
 ちくブレでした。

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