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シナリオ詳細

<フィンブルの春>一陣の風

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 天気の良い麗らかな午後。もう暫くすればおやつ時を迎える街は、人々で賑わっていた。明るく穏やかで、いつもと変わらぬ日々が今日も続く――はずであったのに。
 突如響いた悲鳴が、穏やかな気配を切り裂いた。
 次いで響くのは、ドドドドドドと地鳴りのような音。
「巨大猪だ、逃げろ!」
 土煙を立てて、巨大な猪がつい先刻まで平和だった市街地を駆け抜けていく。路に積まれた荷物や植木鉢を蹴散らして、家と家との間を真っ直ぐに。
「危ない! 逃げて!」
 猪が駆ける先。そこには、逃げ遅れた子供が腰を抜かして座り込んでしまっていた。巨猪は、止まらない。小さな子供など、猪にとって何の障害にもならないからだ。
 大きな脚が、無慈悲に子供を蹴り飛ばす。そんな一瞬後を想像して、人々は凄惨な場面から目を逸らすべく固く瞳を閉ざした。
 しかし。
「――っし、間に合った!」
 ピュンと素早く飛んだ小柄な影が、今にも踏み潰されそうだった子供を間一髪で浚い、そのまま抱えて飛んでいく。安全な場所へと連れて行くのだろう。軽やかに空を飛んで、屋根の向こうへとその姿は消えた。
「ナイス、ジャン! こっちだ、猪! こっちに来い!」
「皆は今のうちに逃げて!」
 飛行種の少年たちが猪に攻撃を与えて気を引き、逃げ惑う人々へと向かわないようにと矛先を誘導する。
「……オレたちでなんとか出来ると思うか、シュワルベ」
「……来てしまったんだ。やるしかないだろう、ショーン」
 勇者に憧れて、勇者になりたくて。巨猪が現れたという話を聞いて飛び出してきてしまった飛行種の少年たちは、既に後悔を覚えている。猪の迫力に、脚が震える。いつもより上手に飛べていない。心臓も緊張にぎゅうと縮こまっていて、ひとたび動きを止めたなら、身体が震えて先程の子供のように立ち止まってしまうかもしれない。
 だから、動くのをやめない。
(助けが来るまで、僕が街の皆を守るんだ……!)
 少年たちは自分たちでは猪に勝てないことを既に悟っている。けれど、話に聞く勇者たちが必ず来てくれると信じている。
 その背を追いたいと思うから、信じて。勇気を奮い立たせ、少年たちは空を駆けた。

 住宅街で巨大な猪が暴れている。猪は市場方面へと爆走中。
 その情報を聞いた執政官は、すぐさまローレットへと依頼を出した。


『現代の英雄を決めるべく、ブレイブメダリオン・ランキング(通称『勇者総選挙』)を開始する』
 勇者王アイオンの直系子孫にして幻想国王であるフォルデルマン三世が、高らかにそう宣言した。それは大量発生した魔物討伐に功績をあげた者にブレイブメダリオンを与え、多く集めた者を勇者とするという王の『思いつき』であったが、次々と各地に現れる古廟スラン・ロウと神翼庭園ウィツィロのそれぞれより出現した古代獣(モンスター)たちに不安を覚えていた国民たちは大いに盛り上がった。
 そうして今、幻想国内ではにわかに勇者ブームが巻き起こっている。
 勇者に憧れた者、勇者を志す者、我こそ新世代の勇者と主張する者。そんな彼らが独自に勇者パーティーを組み、本来ローレットだけで行われる筈だったメダリオンランキングに参入し始めたのだ。
 王フォルデルマンはこれに喜び、有力な貴族が擁立したならばローレット・イレギュラーズ以外の勇者候補生にもメダリオン・ランキングへの参入を認めるおふれを出した。それにより、ローレットの勇者たちだけではなく、勇者候補生たちも交えた『メダリオン争奪戦』となった。
 幻想王国の平和を脅かすのは、魔物ばかりではない。悪徳貴族によるドサクサ紛れの悪行や奴隷商人による暗躍も依然として横行している。中には不正に擁立した勇者候補生モドキへ不正にメダルを供与するためにマッチポンプ的な悪事を画策する悪徳貴族も現れるだろう。真の勇者たる大本命『ローレットのイレギュラーズ』は、そんな偽勇者の台頭を許してはならない。
 ――そうしてついに、王からメダリオン・ランキングの最終集計日である『約束の日』が告知された。
 ランキングはいよいよ最終段階、大詰めだ。
 しかし、この機に乗じて動き出そうとしている気配も感ぜられている。

「今すぐにでも行ってもらいたいのです!」
 ローレット内でもメダリオン・ランキングの話題で持ちきりだ。そんな中で、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は緊急なのですと、真剣な顔でイレギュラーズたちへと声を掛けた。
 ユリーカの傍らには連絡を受けて急いで駆けつけたと見られる『空歌う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)の姿。
「アクセルさんの住まう灰色屋敷の近くにある領地で、大きな猪が大暴れしているのです。その猪は森林の方から走ってきたと思ったら、そのまま街の門を突っ切って住宅街へ侵入。止めようとした人を沢山突き飛ばしていったようです。最後の報告では、市場方面へ走っていった、とのことです」
「すごく大きい猪って聞いているんだ。オイラだけでは追い払えないって解ってる。――だから、皆の力を貸してほしいんだ!」
 他の誰かが救援に向かった、という情報は入ってきていない。
 けれど。
 勇者ブームの起きているこのご時世だ。ローレットを通さずに勇者候補生が向かっている可能性は高い。
「もしかしたら勇者候補生さんもいるかも知れません。いいえ、居る可能性が高いです! もし彼等が居たら助け、共に猪の討伐をお願いするのです!」

GMコメント

 アクセルさんの領地に魔獣が現れました。
 皆さんが現場に到着すると、そこには先に戦っている勇者候補生たちの姿が! しかも苦戦している! な状況からリプレイが始まります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●成功条件
 『超猪』エイヴァーの討伐
 勇者候補生の保護

●敵
・『超猪』エイヴァー
 まるで角のような立派な牙を生やした、『神翼庭園ウィツィロ』から現れた大きな猪型の古代獣です。ウィツィロのモンスターの狙いは地上人たちの文化根絶のため、放置しておくと街を破壊してまわります。
 非常に怒りやすい……と言うよりは、先に戦闘を始めている勇者候補生たちに対して既に怒っており、彼等から倒そうとします。
 走っては突撃をしてきます。一度走ると何かにぶつかるまで中々止まらず、ぶつかればその威力はかなりのものです。

・うり坊×6体
 小型犬くらいの大きさの猪。エイヴァーよりも攻撃的ではなく、転がっている野菜等への興味のほうが強いです。勝手に食べたりします。
 すばしっこく、足元をチョロチョロ走り回り、体当たりや噛み付いてきたりします。
 エイヴァーについてきただけなので、エイヴァーが倒されると逃げます。

●勇者候補生
 勇者を夢見る未熟な少年たちです。
 強さに憧れているので、勇者らしい姿を見せてあげてください。

・『駆ける翼』シュワルベ
 燕の飛行種。10代の少年。郵便屋の格好をしており、パーティのリーダー。
 話を聞いて「勇者になるんだ!」と飛び出していきました。
 若く真っ直ぐな性格で無鉄砲のようにも見えますが、市場に居た人たちが逃げる時間稼ぎを率先して行ったようです。

・ショーン、ジャン
 雀の飛行種の少年。シュワルベの友人たち。

●ロケーション
 敵はアクセルさんの領地に侵入し、住宅街を駆け抜け、イレギュラーズたちが到着時には市場で暴れています。
 先にシュワルベたちが戦っており、そこへ皆さんが到着します。なかなかのピンチな状態に陥っていますので、颯爽と駆けつけてください。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <フィンブルの春>一陣の風完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月26日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
メイメイ・ルー(p3p004460)
ちいさな決意
ルチア・アフラニア(p3p006865)
高貴な責務
楊枝 茄子子(p3p008356)
純白の矜持
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
マキシマイザー=田中=シリウス(p3p009550)
漆黒の堕天使
新妻 始希(p3p009609)
記憶が沈殿した獣

リプレイ

●嵐災
 土煙があがった。
 ぐしゃ、と。何かが潰れた音がした。
 果物が積まれた荷車へと突っ込んだ巨大な猪が、ゴロゴロと赤い果実を転がしながら、壊れた荷車から顔を上げた。その足元を小さなうり坊たちがいそいそと動き回り、転がる果実や野菜へと向かっていく。
「ショーン!」
「……っく、大丈夫だ。それよりジャンは!?」
「ジャンは……」
 間一髪で突撃を避けれた友人の姿を確認したシュワルベは、中空で大きく羽撃かせ視線を下げる。倉庫らしい建物のすぐ近くの樽。そこから趾がひょこりと生えている。起き上がる気配は、みられない。
 気を失っているだけならいい。けれどもし、命が喪われていたら――。ひやりと内臓が凍ってしまいそうな心地で、シュワルベはジャンの元へと向かった。
 気の好い友人である彼等を誘ったのは、シュワルベだった。
 ――こんなはずではなかった。
 幾度も幾度も、心のなかで繰り返す。
 追うべき背中を見つけてしまったから、夢を見た。夢を、抱いてしまった。
 勇者に憧れて、勇者になりたくて。自分でもなれるって思ったんだ。
 だからせめて、本物の勇者たちが来るまで頑張ろうって思っていた。
 けれど、もう。
(――もう、無理みたいだ)
 ジャンを抱き起こしてその場を離れさせようとしたシュワルベの視界には、真っ直ぐに駆けてくる巨猪の姿が映っている。素早さに特化したシュワルベには元々あの一撃に耐えられる体力はなく、けれど素早く動き回ることでなんとかここまでやってきた。しかし、もう避けられそうにない。体力も気力も底を尽き、意識を無くした仲間を抱えている。
 ショーンが名前を呼ぶ声が、どこか遠くに聞こえる。周囲の風景も遠くに感じて、ああもう本当に駄目なんだなと、こんな状況なのにのんびりと思う自分がいた。
 もう一呼吸もしない間に、この体は宙をとぶ。圧倒的な暴力で投げ飛ばされ、四肢の骨は砕け、不出来な人形みたいに地面へべしゃりと落ちるのだ。
 恐怖に目を閉ざす前に、最後に青空が見たくて顔を上げる。

 高い空に、小さな小鳥が飛んでいた。

●一陣の風
 旋風のように、駆けた。
 疾く、疾く、疾く、疾く――!
 一瞬でも無駄に出来なくて、地を蹴った足はいつの間にか宙を蹴っていた。翼が、風を掴む。
 市場まではもう少し。ファミリアーの小鳥を先行させた『あたたかい笑顔』メイメイ・ルー(p3p004460)から状況を聞いた『空歌う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は、いっときも余裕がないと判断し、空から先行する。
 集まってくれた仲間たちに「先に行くね!」と言っていないことに後から気が付く。けれどきっとみんな、アクセルの気持ちを汲んでくれている。気にせずに行け! と、背を押してくれているはずだ。

 高くを飛ぶ小鳥を追うように飛んできた何かが陽を遮り、仲間を抱えて地に膝をついているシュワルベの頭上に影を落とした。『何か』は逆光で見えない。けれどその姿に、シュワルベは大きく瞳を開いた。何度も仰ぎ見た『憧れ』が、そこに居たから。
 先行したアクセルは中空で勢いを殺さず半身を捻じり、雹を『超猪』エイヴァーへと降らす。ひやりとした空気が辺りを包み込み――しかし、エイヴァーは何かにぶつかるまで足を止めない。
 そのつく雨が如く急降下したアクセルがシュワルベの前に立ち、エイヴァーの巨体を受け止めんと両腕を大きく広げる――が。
「待たせたね」
 『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)と『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)がふたりがかりでエイヴァーを抑え込む。大きすぎる衝撃に息を呑むのも一瞬、横合いから勢いよく振るわれた大剣がエイヴァーの軌道をずらした。
「美味しそうなお肉ですね、っと」
 ――奇跡だ。と、シュワルベは思った。色褪せていた世界に、急激に色が差し込む。春らしい花の香りと柔らかな風が頬羽根を揺らした。自分の前に立つ背中が現実だと思えないような、そんな心地だった。息を、呑んだ。嘴が震えて、上手く言葉が出てこない。ありがとうって言わないといけないのに――泣きそうだった。
(来て、くれた)
 心の中に、ぽたりとひとしずくの言葉が落ちた。
 エイヴァーに追い打ちをかけることは出来るが、シュワルベたちが立ち直る前に突っ込まれては元の木阿弥だ。倉庫らしき建物へと突っ込んでいったエイヴァーを見送って、『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)は美しい金髪を後ろへと流し、目を丸くしている勇者候補生――シュワルベへとよく持ちこたえましたねと微笑んだ。
「さ、少年たち。よく頑張ったわね。ここからは、私たちが助けるわ」
「助太刀、いたします、ね。勇者さま」
 ガラガラと壁の崩れる音と土埃。エイヴァーから目を逸らさずにルチアがそう口にして、彼女よりも後方に立ったメイメイも彼等が安心出来るように大きく頷いた。
(こんな、大きな猪……わたしも、少し怖い、ぐらいなのに……)
 ブルルと大きく身を振って身体に乗っかった瓦礫を落とす猪は、とても大きい。戦い慣れていないであろう彼等が脅威の前に立ち続けるには如何ほどの勇気が必要だっただろうか。戦えない人々を逃し、囮になって誘導して、そうして今まさに絶命の危機に襲われた。それが行えたのは全て、必ず勇者たちが来ると信じていたからだ。彼等の期待に応えるためにも、彼等の憧れで有り続けるためにも、一歩も引かない。言葉にしなくとも、イレギュラーズたちの心が重なり合った。
「助けに来たよ!」
 シュワルベの名を呼びながら駆けてくるショーンの姿を視界に入れながら『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は福音を与え、『漆黒の堕天使』マキシマイザー=田中=シリウス(p3p009550)はどこか懐かしさを感じる美しい旋律を口遊み、シュワルベとジャンのふたりへ傷の手当てを施した。
(俺も先輩として頑張りませんと!)
 彼等はきっと、自分にとって後輩に当たるはずだ。少年たちの傷が癒やされていくのを横目に、『記憶が沈殿した獣』新妻 始希(p3p009609)は保護結界を展開する。地上人たちの文化根絶が目的な『神翼庭園ウィツィロ』のモンスター相手では効果は無いようなものだが、破壊された物が飛んで……等の二次被害は抑えられることだろう。
「動けるかな? 大丈夫?」
「はい。なんとか。ありがとうございま――」
「ん……シュワ、ルベ?」
「良かった、気がついたんだね!」
「ジャン、シュワルベ、無事か!?」
 気を失っていた少年が目を覚まし、駆けつけてきたもうひとりの少年はふたりの姿にホッと息を吐く。彼等は顔を見合わせて無事を確かめあうと、助かりましたありがとうございますと揃ってイレギュラーズたちへと頭を下げた。
「ヒュゥ! かっこいーじゃん少年たち! その意気があればすでに勇者だろ!」
 詠唱を謳い終えたシリウスが明るく笑ってみせれば、本当に? と言いたげな視線をシュワルベが向けてくる。
「でも、僕なんて全然駄目で……」
「三人のおかげでイノシシが引き付けられてるし、避難も進んでるよ! ねえ、君の名前は?」
「……シュワルベ」
 先程の彼等の会話から察してはいるものの、直接尋ねるのが礼儀だろう。対するシュワルベは少し尻ごんでいるような声だった。
 立てるかと差し伸べられた手に、迷いながらもシュワルベが手を乗せたタイミングで、エイヴァーの動きを監視していた仲間が注意を促した。
「――また向かってくるようだよ」
「っと、話はまた後で、だね! 疲れてるところ悪いんだけど、シュワルベくんたちにも手伝って貰いたいことがあるんだ! だからもう少し頑張ろう!!」
「「「はい!!!」」」

 ――ブルァァァアアァアァ!!

 エイヴァーが、吼えた。
 プギプギ鳴きながら果物へと顔を突っ込んでいたうり坊たちも流石に反応する。美味しい果実や野菜をお腹いっぱい食べるのを邪魔する者たちが現れたのだ。
『プギ!』
『プギギ!』
 キリリと勇ましい顔つき(うり坊比)になったうり坊たちが、イレギュラーズたちを敵と認知する。
「ほら、シュワルベくんたち、出番だよ! 会長と一緒に、うり坊たちを引きつけよう!」
 茄子子が持参した『きうり』を投げつけてみるが、きうりは浅漬け。うり坊たちは嫌そうに避ける。「あれ? それじゃあこれ!」ポイポイ。辺りに転がっている野菜を掴んでは投げた茄子子へ、うり坊たちの鼻先が向けられた。
「君たちは野菜をかき集めてきて!」
「わかりました!」
「できるだけ美味しそうなのをお願いね! ほらほら、うり坊たち! こっちだよ!」
 シュワルベたちはイレギュラーズたちへと頭を下げてからうり坊たちが好みそうな野菜を探して飛び立ち、茄子子は足元に転がっていた林檎を手にうり坊たちを仲間たちから遠ざけるべく駆けていく。
『プギ!』
 食欲旺盛なうり坊たちは、自身のお腹に素直に茄子子を追いかける。ひとまずは、あの手にある赤い果実が食べたくて。

●疾風怒濤
 太い声で吼えたエイヴァーの声が、ビリビリと鼓膜を震わせる。うり坊を引き連れた茄子子たちの方向へと駆けていかないように、イレギュラーズたちはそれぞれ移動を始めた。
 苛立たしげに蹄で石畳を掻けば、砂糖菓子のような軽さで石畳みが割れる。荒い鼻息を吐くエイヴァーの鋭い視線は、シュワルベたちが飛び立った方角へと向けられていた。
 ところが、その視線は唐突に別方向へと向けられる。
 煌々と光るように赤々と燃える悪魔の瞳。殺し合いへと誘う獣の眼光に、獣の本能が惹かれた。あれは、倒さねばならない相手だ。持てる力と力をぶつけ合い、殺し合わねばならぬ相手だ。
「やっとこっちを見たね? さあおいで、私が相手をしてあげる」
 けれど獣は獣。所詮は猪。狩ってあげるよと不敵に笑えば、エイヴァーの芯に火がついた。怒声を上げながら突進してくるエイヴァーを、夜の加護を纏ったマルベートは仲間の立ち位置や周囲の状況から、正面から受けることを選ぶ。
「――ッ」
 重い。重すぎる一撃だ。先刻ふたりで受け止めた比ではないのは、ひとりだからと言う訳ではなく、直前の予備動作。おそらくあれのせいだろう。
 すぐさま伸びやかな歌声が響けば、調和のとれたシリウスの美声がふわりと春の穏やかさを伴いマルベートの身を包み、負ったばかりの傷が癒えていく。シュワルベたちを癒やした時よりも美しく聞こえ、傷の治りも早いように思えた。
 マルベートを突き飛ばし、エイヴァーは駆けていく。その身が屋台に突っ込むのを見届けずにマルベートに駆け寄ったルチアは聖なるかなを彼女へと降ろす。回復は他の人でも出来るが、この役目はルチアにしか出来ない。敵の攻撃力が目に見えて大きいため、ダメージのいくつかをちくりと返す棘での蓄積は戦闘が長引けば長引くほど大きくなることだろう。獣と言えど、一人対一体では敵わぬ格上の敵。元より長期戦を予想しての対策を練ってきているイレギュラーズたちは、勝つための一手一手を着実に重ねていく。人は人として、人らしく。獣を害獣として、その喉元を人の知恵という刃で貫くために。
 見切っても躱せぬほどの素早さと威力を見せつけるべく、エイヴァーは蹄で石畳を掻く。『次』が来る。
「……あ、あなたの相手は、こちらです」
「オイラたちだって居ることを忘れないでよね!」
「アクセル先輩の領地をこれ以上荒らさせません!」
 出鼻をくじくようにエイヴァーの頭上にキラキラと陽の光を反射しながら雹が降り、メイメイの命令で駆けた精霊――黒犬が牙を剥く。逞しい身体へと噛みついた黒犬を大きく身を震わせて振りほどけば、頭上に影。瞬間移動で現れた巨体――エイヴァーより小柄だが一般的には――の始希が降ってくる。
「……残念。今日の拙たちでは弱点を狙えませんね」
 羽根を掲げたステラの視界で、エイヴァーの上に伸し掛かった始希が瞬間移動で消えた。何となくふわりと感じたのは、炎が有効そうだということだ。効果的な手段を持ち得ていなくとも、無ければ無いで全力で力を叩き込めばいい。大剣を握りしめたステラが地を蹴った。
(――硬い)
 黒の大顎を纏わせた大剣越しの感触に、腕に痺れたような痛みが走る。
 然れど、まだ戦いは始まったばかり。イレギュラーズたちは幾度も踏み込み、幾度も詠唱し、エイヴァーを攻め立てていく。
 エイヴァーとて、引けは取らない。エイヴァーにはエイヴァーの矜持がある。ウィツィロの魔物として、やらねばならぬことがある。人が憎い。文明を破壊せねばならない。邪魔をする者は悉く潰していかねばならぬのだ。
 幾度も駆け、ぶつかり、互いに赫を散らす。
 その度にイレギュラーたちは癒やしを纏い立ち上がるが、エイヴァーの身には確実に刻み残されていく。眼前の小さき邪魔者たちにぶつかる度、自分にも返ってくることには気付いていたが、それでもエイヴァーは足を止めない。全力で駆けて、全力でぶつかり、隙あらば押しつぶす。荒々しく蹄で石畳を掻いて、怒って怒って、怒った。
 石畳を強く踏み抜けば、石畳が割れる。計算された配置で模様を描いていた石畳は、人々が築き上げてきた文明のひとつだ。
 広場に吹き荒れる超猪という嵐災は、全てを破壊していく。
(アルカディアのアタランテーのような立ち回りとはいかないけれど……)
 けれども、自分に出来る大立ち回りをしている。半数の仲間は万全の状態でも一撃で倒れてしまうから、率先して互いに庇い合い、傷や疲労を残さぬように癒やしを重ねて。奏でられる歌が、施される癒やしが、イレギュラーズたちを繋いでいく。
 イレギュラーズたちはひたむきに前を見続ける。
 エイヴァーの動きは鈍くなってきている。各々の役割に専念し続ければ、いずれ勝てると確信できた。
 うり坊たちをシュワルベたちに任せた茄子子が戻ってきて、疲労が見られる仲間たちへと味方の苦境を救う言葉を掛け、疲労を取り除く。
 膝を着くにはまだ早い。向ける刃を鈍らせるのもまだ早い。誰かを喪うこともさせはしない。
 エイヴァーが地を蹴った。同時にイレギュラーズたちも動く。突撃される度に吹き飛ばされるか、その烈しい膂力で引きずっていってしまうため、どうしても距離が空いてしまう。
 運悪く牙で刺し貫かれれば、防御に一等優れているマルベートでも危うい。致命傷だけは極力避けて、全力で足止めに掛かる。衝撃にがくりと膝が一段落ちようとも、踏ん張った足が石畳を割りながら後退しようとも、マルベートは退かない。すぐに仲間たちが癒やしてくれることを信じている。
「俺だって……!」
 後輩たちに格好悪いところは見せられない。戻ってきた彼等が、この街で暮らす人々が、安心して笑顔になれるように!
 エイヴァーの耳の後ろ――首の付け根辺りで魔力を帯びた呪符が爆ぜた。一度、二度! 続けざまに爆ぜたそれに、マルベートを押し続けていたエイヴァーの身体が揺れた。
「今です!」
「たおし、ます……!」
「畳み掛ける!」
「終わりにしましょう」
 脚部へは重点的に攻撃を与えてきている。ぐらりとエイヴァーの身体が揺れたのなら、今ならば崩せるとイレギュラーズたちの直感が告げている。
 神聖な光が瞬きエイヴァーの視力を奪いながらダメージを与え、なんとか踏みとどまろうと蹈鞴を踏む脚部へと不可視の刃が斬りつけた。
 どうっと土煙とともに盛大に倒れ込むことになったエイヴァーは、
「美味しく頂いてあげますからね。……さよなら」
 ステラから別離の挨拶と凶刃を贈られ、二度と立ち上がることはなかった。

●春風
「本当に、ありがとうございました!」
 仲間たちの怪我の手当をしていると、戻ってきたシュワルベが友人たちとともに大きく頭を下げた。野菜や果物でおびき寄せていたうり坊たちが突然逃げていってしまった為、エイヴァーが倒れたのだと知ったのだそうだ。
 街の被害状況は、巨大な猪――しかもウィツィロの古代獣が暴れまわったにしては軽いと言える。それも全て、いち早く駆けつけて市場に誘導したり、住民たちを避難させた彼等の功績だ。
「シュワルベさまたちの、おかげです、よ」
「お疲れ様! 持ちこたえてくれてありがとう!」
「素敵な後輩が居てくれて、俺も嬉しいです」
「まあ無茶したってとこは悪いと思うけどさ、うん。少年たち頑張ったな!」
「ただ強い者ではなく、諦めない者をこそ勇者と呼ぶのだと、私は思うのよね」
 口々に労い少年たちを褒めれば、最初は少し気後れしたような少年たちの表情にも笑顔が戻ってくる。穏やかな春風の心地よさを感じたような、そんなホッとした笑顔だ。
 駆けつけた執政官と補修の見積もりや今後を話し合っていたアクセルも、三人の勇者候補生たちに気がつくと駆け寄って、
「ありがとう、君たちも勇者だよ!」
 明るい笑顔で君たちがいてくれたからだよと、彼等に握手を求めた。
「君たち、それより今はさ」
 新鮮な猪肉を生のまま早速口にしているマルベートが、拾ったワインの瓶を振る。
 市場で店を出していた人々も、少しずつ戻ってくることだろう。そうしたらワインや果実水を買って、細やかな小宴といこうと誘えば、全員揃ったふたつ返事が春風に乗って遠くまで響くのだった。

成否

成功

MVP

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔

状態異常

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)[重傷]
饗宴の悪魔

あとがき

シナリオへのご参加、ありがとうございました。

皆さんのお陰で、アクセルさんの領地、そして勇者候補生の少年たちは護られました。
シュワルベたちに真摯に、そして格好良い姿を見せてくださり、ありがとうございます。
おつかれさまでした、イレギュラーズ。

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