シナリオ詳細
受け継がれし呪い
オープニング
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長らく豊穣の地を支配していた天香長胤とその一派や、肉腫となったザントマンらをイレギュラーズが討伐し、現状、この地には束の間の平和が訪れている。
ただ、戦乱の爪痕は小さくなく、豊穣の人々は今なお再建の為に力を注ぐことになる。
その間、何事もないわけではない。
あちらこちらに残る妖怪や怨霊。この状況に乗じて動き出す地方の小部族に諸大名。ザントマンの残した肉腫。天香派の魔種。羅刹十鬼衆なる魔種の集団もいる。
そして……、呪詛によって生み出される忌妖に呪獣。
戦乱の直前になって発覚した呪詛は、確実に豊穣の地に知識として残されてしまい、それを知った者によって悪用されることとなる。
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呪詛……、狙った人を呪い殺す為の禁忌の術。
「もう少し、調べたいって思ったとよ」
鐵 祈乃(p3p008762)は平穏を取り戻した豊穣でも、時折呪詛についての事件を耳にすることがあるという。
裏でその技術は確実に出回っている。ならばこそ、その知識を深めておくことで、何らかの対策ができるのではないか。祈乃もそうだし、イレギュラーズの中にも同じことを考える者はいるはずだ。
「新たに私達が得ることのできる情報は多くないかもしれません。ですが……」
集まるイレギュラーズに、アクアベル・カルローネ(p3n000045)がそう前置きしてから続ける。
「やってみる価値はありそうです」
僅かだが、アクアベルは予知を行う力がある。
彼女は情報を集めることでその精度を高め、確信を得てから依頼を持ち掛ける。
高天京の端、人気のない場所にひっそりと建てられた蔵。
そこに出入りする怪しげな人影。呪詛の準備に使われると思われる物資の運び込み。さらに、時折聞こえていた下級の妖怪とおぼしき豆狸達……。
「ここで、間違いなく、呪詛が行われるはずです」
タイミング的に、呪詛を止めるのは難しいかもしれない。
だが、生み出された忌妖が動き出す前に叩くことはできるはずだ。
「どうか、犠牲者が出る前に。呪われた妖の生を終わらせてあげてください」
できうる範囲で得た情報を纏めた書類を手渡しながらも、アクアベルはイレギュラーズの勝利を信じ、彼らを送り出すのである。
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その蔵は元々、悪徳商人が建てたものらしい。
盗品を扱っていたとか、海洋から仕入れた危険な薬品だとか、色々な情報があるが、その真偽についてはまだ特定できていない。
元の持ち主はあの戦乱の最中に姿を眩ませている。海を渡って他国へと逃げ出したとか、戦いに巻き込まれて亡くなったとか、これまた情報が錯綜しているが、それはそれ。
今はこの蔵の所有者はおらず、それを知ってか蔵を利用している怪しい人物がいるらしい。
その姿は、かつてカムイグラの暗部として暗躍していた部隊『冥』の隊員と同一であるという。
彼らなら、呪詛についてをある程度把握しており、それを実行するだけの力もある。
いくら高天京とはいえ、その端にまで行けば明かりなどほとんど灯らず、辺りは真っ暗だ。
まして、ほとんど民家もない辺鄙な場所。人目に付くことはほとんどない。
だからこそ、そいつが活動するにはうってつけの環境だったと言える。
「……ァ……クェ……」
「キュー、キュキュー……」
蔵の中から聞こえる詠唱に交じり、タヌキの弱々しい鳴き声が聞こえる。
その声は複数。彼らは逃げることもかなわず、必死に抵抗するが……。
「さあ、呪いを振りまき、我が敵を滅ぼす忌となれ……!」
中年男性の声が蔵の外にまで響く。
その直後、耳を塞ぎたくなるような獣の鳴き声が続いた。
程なく、蔵は半壊し、姿を現したのは大きく膨れ上がったタヌキの化け物。目は4つ、口は3つ。巨体の側面からは腕が6つ、数えきれないほどの尻尾が蠢く。
ギュアァッ、アアァッ、ギュアアアアアアッ!!
這うように、蔵を破壊しながらゆっくりと前進する忌妖となったタヌキ。
駆けつけたイレギュラーズ達はそいつの歩みを止めるべく、蔵の前に立ち塞がる。
「やはり、来おったか」
全身を黒い装束、そして、頭を三度笠と黒い布で覆った『冥』の生き残り。
そいつが呪詛までして命を奪いたい相手は、イレギュラーズか、はたまた現在の八扇に所属する誰かか……。
「邪魔はさせぬぞ、国を壊した神使ども……!」
ギュアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
大きく吠える忌妖。その前に呪獣と化した妖狸達。
人を呪う存在となり果てた妖怪を止める為、イレギュラーズ達は戦闘態勢をとるのである。
- 受け継がれし呪い完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月20日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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豊穣は自然溢れる豊かな国。
夜でも、山や森にさわやかないい風が吹いているのを、黒い布地で顔の上半分を覆ったレン(p3p009673)は感じていたのだが。
「しかし、呪い……ですか」
「ほう、呪いか! 自身は手を下そうとしない卑怯極まりない術法じゃな!」
それに、水のヤオヨロズである『呪に通ず』ユスラ(p3p008637)が大きくリアクションする。
「あの騒動の生き残りか」
作務衣姿の『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は先の戦乱を思い出す。
呪を振りまき妖を穢し……国を汚しているのはどちらやらと、錬は毒づく。
「『冥』、まだ生き残っとったんやね」
褐色肌で白髪、真紅の瞳の『穢奈』鐵 祈乃(p3p008762)は、今回の主犯がかつての七扇直轄部隊『冥』の一員なら、神使にお上と、呪いを及ぼしたいと考える対象は多いだろうと推察して。
「悪いことばしとったのはあっちやろうけど、ちゃんと話し合ってみたいね」
「隠れてこそこそとやっている呪詛等、ろくでもないものに違いないないでしょう」
カメレオンの獣種である『不可視の』イスナーン(p3p008498)は、大事になる前に制圧してしまおうと、破壊された蔵の残骸の上に見えたそれを見上げる。
ギュアアアアアアアッ!!
タヌキを思わせる忌妖はその存在を大きく歪めており、体を大きく膨れ上がらせて。
「うわぁ、大きいー……しかも、口とか目とかいっぱいあるよ、ちょっと気持ち悪いね!」
マゼンタとシアンの長い髪の『二律背反』カナメ(p3p007960)は4つの目、3つの口、6本の腕を持つ全長7mの忌妖に殴られれば、相当痛いんだろうなとМっ気を見せつつ、えへへと笑う。
「それはそれとして、あのおじさんったら無駄に張り切っちゃって、かっわいそー☆」
カナメはその忌妖の傍に、三度笠を被った黒い衣装の男の姿を見据えて。
「やはり、来おったか」
イレギュラーズに並々ならぬ敵意を燃やす『冥』の生き残り。彼こそが事前情報にあった黒兵衛なる男に違いない。
「負けたのですから、大人しく新たな八扇の軍門に下るのが組織に仕える隠密の在り方でしょうに」
呆れを隠さぬイスナーンは、この男が個人的に忠誠を捧げる相手でもいたのだろうかと推し量る。
「国を変えられて、混乱しているのですね」
レンはそんな相手へと言葉を投げかける。
以前より良くなった、以前のままが良かったと考えはそれぞれあるようだが、黒兵衛は後者だろうとレンは語る。
「なんにせよこの豊穣にその呪術の先はいらないだろうさ。ここで断ち切ってやろう」
錬が式符を手にすると、黒い礼装を纏う『群鱗』只野・黒子(p3p008597)もキセルを懐に入れて黒手袋を着用し、戦いに備える。
「邪魔はさせぬぞ、国を壊した神使ども……!」
叫ぶ黒兵衛は呪詛によって生み出した8体の呪獣と共に、忌妖をけしかけてくる。
「どこでこんな邪法を手に入れたかは生きていたら聞いてやろう!」
ユスラが早速、それらと対するべく立ち回り始めると、こちらもマゼンダとシアンのツートンカラーの長い髪を靡かせた『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)が前に出て。
「遮那さんのおわす豊穣を乱す者は僕が許さないッス!」
「さっさとやっつけて神使の強さ、分からせちゃおー♪」
そんな双子の妹のカナメを追い、鹿ノ子もまた飛び出していくのである。
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前方へと駆けてくるのは、呪獣のなり果てた狸達。
忌妖や元『冥』の黒兵衛は後方からほとんど動かない。彼らはその場から動かず、攻撃準備を整えている。
それに対し、イレギュラーズ達も布陣を前後に分けて攻め入ることになる。
錬は向かい来る呪獣の抑え、退治を行うべく、接敵していく。
「さて、誰を呪おうとしていたのか。……いや、誰にしても止めるがな、今のこの国にそんな術式は不要だ」
式符より具現化した氷の薙刀で敵陣を大きく薙ぎ払い、呪獣らに手傷を与えていく。
黒子もまた、自身や仲間が忌妖へと切り込むべく、邪魔な呪獣の漸減をと神気を煌めかせてその体を焼いていく。
黒子の狙い通り、敵に足並みの乱れは出始めるが、一度の攻撃で倒れる呪獣ではない。そいつらは腹太鼓へと変化してから轟音を鳴り響かせ、こちらの進軍を止めようとしてくるのが厄介だ。
「フフ……」
「汝はそんなやり方でしか力を示せないから、今の地位なのだ。己の呪術が破られる様を見るがいい」
顔を覆う布の下で含み笑いする敵に、ユスラが呼びかけて。
「神鳴りの一撃を受けよ」
忌妖へと攻め入るのに邪魔な銃を焼き払うべく、連なる雷撃を放つ。
うねり、のたうつ雷は地面近くを走り、呪獣の体を激しい雷光に包み、早くも1体が泡を吹いて崩れ落ちてしまう。
「森の仲間がこんな姿にされるなんて……」
そんな痛ましい狸の姿に、レンは悲痛な表情を見せる。
元に戻すことができればよいが、呪獣達は呪詛の狂気に駆られてその身を投げ出すように襲い掛かってくる。
「元に戻せないものでしょうか、術者を倒して……」
ただ、呪詛というものに関して、メンバー達は知らない部分も多い。レンは呪いの核とされた狸を思いながらも、悪意の一撃をその狸達へと叩き込むしかないのが現状だ。
「忌妖に立ち向かうッスよ!」
その呪獣らの間を、鹿ノ子が突っ切っていく。
後方で薄暗い表情をした忌妖に向かい、彼女は自らをアピールして。
「ラサ出身、ローレットの鹿ノ子ッス。よろしくッスよ!」
呪われた存在に対し、堂々と名乗りを上げた彼女へと忌妖が怒り狂う。
グルアアアアアアッ!!
無数の尻尾を揺らめかせ、長く伸ばしてくる忌妖に、今度は妹のカナメがふーんと鼻を鳴らして。
「結局は図体が大きいだけなんだねー? どうせ何をするにも大した事ないんでしょ、ざぁーこ♪」
話が通じるとはカナメも思ってはいないが、それでも、煽るだけ煽ってみようと嘲笑して見せる。
グルアッ、グルアアアアアッ!!
めちゃくちゃに無数の尻尾を叩き付けてくる忌妖の攻撃をカナメは受け止めつつ、仲間の方を振り返って
「カナと離れた場所から攻撃してね!」
それに、メンバー達は応じて立ち回ってはいたが、至近距離戦特化の祈乃は忌妖へと迫る。
(これを逃がしたら一番いけん)
最重要討伐対象だと祈乃も認識はしているが、元は何の罪もない動物に憐れみを抱く彼女は早く楽にしてあげたいと自らのギフトを解く。
すると、露わにした左の巨腕で、祈乃は忌妖の体を強く殴りつける。
また、イスナーンはサイバーゴーグルで視界を確保しつつ、ギフトによって体色を黒く変える。
黒兵衛を注視したイスナーンはまだ距離があることを視認し、液体状の特殊鋼……リキッドペインを放って切りかからんとする。
「長胤様とて倒した貴様らだ。簡単に倒せる相手とは思っておらぬ」
黒兵衛もまた、『冥』の生き残りとして死に物狂いでこの戦いに身を置く。呪詛程準備に手間と時間を要するモノは早々使えはせぬが、それでも、彼は影を伸ばしてイレギュラーズ達へと呪いを刻み込もうとするのである。
●
8体いた妖狸は目を赤く光らせ、イレギュラーズへと飛び掛かってくる。
忌妖と違って身軽な動きでイレギュラーズの攻撃を回避しようとし、その勢いで尻尾を巨大化させて叩き付けようとしてくる。
ただ、その攻撃は大振り。錬はそれを最初から想定しており、余裕をもって大きめに回避へと当たっていた。
「お前たちは巻き添えを喰らった形だろうが、生憎戦闘中でも浄化するみたいなことは出来なくてな。運良く急所を外すよう神に祈っておけよ?」
告げながらも、錬は式符より炎の大砲を鍛造し、炎弾へと撃ち出す。
それは敵陣に着弾して大爆発を巻き起こし、呪獣となった狸達を焼き払う業火となる。
それを横目で見ていた黒兵衛は再び笑う。
「呪詛の副産物……もはや生き物として体もなしてない連中でもなかなか役に立つものだな」
「…………」
呪詛の媒介となった地点で、対象となった妖怪らに救いなどない。
彼らを助けようとしていたメンバー達は落胆しそうになるが、ならばせめて少しでも早く楽にしようと攻撃の手を強める。
黒兵衛へと距離を少し詰めるイスナーンは、蒼き彗星の如くその体を貫かんとリキッドペインを伸ばす。
肩を穿たれた黒兵衛だが、相手も多少であれば呪いの力を自らの体力に転化して塞いでしまう。
そいつがすぐにまた攻撃に転じる前に、黒子はその退路を断つように立ち回る。
併せて、黒子は仲間が敵の呪いを始めとする異常に罹患したのを確認し、すぐにそれを打ち払う。
そして、メンバーの半数が忌妖となった巨大な化け物へと向かって。
「さぁ、いくッスよ! 『月の型「狂禍酔月」』!」
鹿ノ子が狙うは6本もある忌妖の腕。
さすがにゆらゆら揺れる多数の尻尾を斬り落とせないと考え、鹿ノ子は敵の側面部を維持し、個別に叩き潰そうと高速の連撃を見舞っていく。
グルアアッ、グルアアアアアッ!!
「使い物にならなくなる、とまではいかずとも、動きが鈍くなる程度にはダメージを与えていきたいッスね」
同じ傷口を執拗に狙い、鹿ノ子はじわりじわりと忌妖を狂気に染めようとする。
「立派な体躯じゃな? 呪いじゃなければ誉めてやりたいところじゃが……、所詮は呪い。混ざり物じゃ」
ユスラは皮肉を告げ、忌妖の体を殴りつける。
その一撃に、忌妖も多少なりとも力を削がれてはいたはずだが、4つの目を怪しく光らせて繰り出す妖術は得体が知れない。
グルアアアッ、グルアアアアアアアッ!!
3つの口が同時に吠えると、地面から沸き立つ黒き塊がユスラを捕える。
それから逃れることができず、ユスラは一度意識を失いかけてしまう。
「ふるべ、ゆらゆらと……」
仕留めたと確信した忌妖が黒き塊を退かせたが、ユスラはパンドラを砕いてなお、拳を振りかぶる。
「このまま弄れるのも可愛そうだし、楽にしてあげるわ」
呪詛で生み出された敵を、元に戻す方法があるのだろうかと祈乃は考えるが、どうやらその可能性は低い。
黒兵衛をふん縛ってでも聞き出したいところだが、今は。
祈乃は交戦する黒ずくめの男を刹那横目に入れてから、高く舞い上がって一回転し、急降下してからその体目掛けて蹴りを叩き込む。
グルアアアアアアアア……!
巻き起こる爆発に、苦しむ忌妖。
呪いによって大きく姿を変えられたそいつは激しく苦しみ、周囲に群がるイレギュラーズを呪わんと黒い塊を放出し、後方の尻尾を叩き付けてこようとする。
意識が仲間に向いたと察すれば、カナメはすぐさま忌妖の気を引くべく赤黒き血の如き一閃を見舞う。
「こちらももう1回かけておかないとね」
カナメは再度黒き靄を纏い、至近から妖刀を浴びせかけていく。
レンも距離をとりつつ、悪意の塊を忌妖へと叩き込まんとする。
「呪って、呪って、その果てには何をするつもりなのですか?」
それは、忌妖だけでなく、黒兵衛にも向けられた問い。ただ、忌妖はレンへと尻尾を伸ばすことで返答としたようだ。
グルアアアアッ!?
その時、忌妖の腕が1本砕ける。
鹿ノ子の攻撃によって、2本目の腕が潰れたのだ。
「まだまだいくッスよ!」
彼女がさらなる腕を狙おうとするが、後方の腕は尻尾に近く、簡単には近づけない。
ただ、そこで祈乃が仲間を庇う様に身を挺して。
「呪いの解けんとなら、仕方なかったい」
思いっきり彼女は巨大な左腕を敵の側面部へと打ち込む。
その衝撃は忌妖の体全体へと伝わって。
グルアアアアアァァァァ…………。
横転する歪なる化け狸は耳をつんざくような叫びを上げ、その命を散らしていったのだった。
●
恐ろしい呪いをその身に湛えた忌妖を倒したイレギュラーズ達。
まだ残る数体の呪獣達が暴れ回ってはいたが、それも錬が次々と燃やしていく。
彼は呪獣が叩き付けてくる尻尾のタイミングを見計らい、そこに炎弾を残す。
「置きボムだ!」
直後、呪獣は自ら錬の仕掛けた炎弾を叩き、起爆して吹っ飛んでしまう。
呪獣の数が減れば、イレギュラーズ達は黒兵衛の対処に専念できる。
「ねー、おじさーん。カナこんな化物程度じゃ満足できないんだけどー?」
防御態勢をとるカナメが黒兵衛を煽る。
「あ、そっか! 所詮はこの程度しか作れないんだったねー、ごめんね♪」
「この小娘……!」
ただ、かつてのカムイグラの暗部に所属していただけあって、黒兵衛も簡単に怒り狂いはしない。
「ここまで抵抗を続けるなど、見苦しいですよ」
イスナーンは黒兵衛へと近づき、速力で相手を圧倒しようとする。
ただ、一瞬の隙を突き、黒兵衛は呪いを纏わせた刀を大きく振るう。
「死ぬわけにはいかぬ……、我が望みを大成するまでは……!」
その一撃で血が迸るが、イスナーンは自らの運命の力を砕いてその場に踏み留まる。
「……ぐふっ」
同時に、黒兵衛の顔を覆う布地の下から血が滴る。
忌妖を倒したことで、その呪いが彼へと巡ってしまったのだろう。
だが、黒兵衛はなおもイレギュラーズ達へと呪いの力を振りまいてくる。多少なりとも、彼は呪いに耐性を持っていたことで、呪詛による呪いを耐えきって見せたのだ。
「呪詛……」
黒子はそれを注視しつつ、倒れかけた仲間の手当てを行う。
もはや黒兵衛は逃げようなどという素振りは微塵も見せないが、黒子は万が一に備えて敵の動き、味方の布陣の穴を埋めることに注力する。
「そんなに以前の国が良かったか?」
「何が言いたい」
ユスラがそこで、黒兵衛に問いかける。
「我は神使以前からのヤオヨロズ故に。神使が来なかろうと、姫巫女が居なかろうとこの国があのまま在ったとは思えない」
豊穣の移ろいゆく様を見ていたからこそ、彼女は思いの丈を黒兵衛へとぶつけずにはいられない。
「来るべき時の立会人が我らになっただけではないか、のう、黒兵衛……?」
そこで、敵は刀を素早く薙ぎ払う。
ユスラはその身を裂かれながらも、なおも問いかけを続ける。
「それとも、汝はこの国の綻びから目を反らし続けていた側の者か……?」
「我らの豊穣郷は滅びぬ……!」
荒々しく息をする黒兵衛は奮起し、イレギュラーズから距離をとろうとする。
剣技を使うこともできるようだが、得意とするのは呪術ということなのだろう。
だが、自らが死ににくいと自認する祈乃が黒兵衛へと追いすがる。
「『冥』……、お上に処遇ば決めてもらうとよ」
彼女は再び巨腕を振るい、黒兵衛を殴りつける。
相手を気絶させられたなら、縛り付けたいと祈乃は考えていた。
だが、呪いで弱り、殴打されてもまだ抵抗しようとするこの男は、よほど今の豊穣が、今の八扇が気に入らないのか……。
「妖狸を使って、自分で呪いを背負わないのは、何かを成したいから、でしょうけど……」
一定の距離を維持するレンは両手の中央に意識を集中させ、黒い物体を生成して。
「安心してください。その思いは言い訳で、単に死にたくない範囲で憂さ晴らしがしたいのが、貴方の本質ですから……」
「戯言を……貴様に我々の何がわかる……?」
赤黒く染まりつつある布地の中から、声を絞り出す黒兵衛。
そいつが呪術を組み立てるべく、詠唱を行うのを察した鹿ノ子がすぐさま軽やかに身を躍らせて近づき、黒蝶の峰を叩き付け、その意識を奪う。
「これで、終わったッスね……」
見れば、錬も残る呪獣を焼き払って倒してしまっていた。
静寂が戻った戦場で、力を出し切ったメンバー達は倒れこみ、あるいは座り込んでしまうのだった。
●
呪詛によって変容してしまった狸らを倒したイレギュラーズ達。
イスナーンは鹿ノ子が縛り付けた黒兵衛へと近づいて。
「何が理由か知りませんが、私怨でこの様な下らない事をしているなら隠密として三流と言わざるを得ないですね」
「…………」
舌を噛んで自害の可能性もある為、猿ぐつわも噛ませている為、黒兵衛は反論もできない。
「『冥』の生き残り……か。まだ豊穣も平和を取り戻したって感じじゃないんだね」
カナメは一度黒兵衛に視線をやりつつ、狸の供養を仲間と行う。
シャンッ……。
同じく、供養に当たっていたユスラが神楽鈴を鳴らし、神通力を顕現する。彼女はそのまま神楽舞を披露し、呪いの残滓を祓い、死した狸達を弔う。
「ごめんね、助けてあげられなくて。次生まれてきたら、長生きしてね」
合掌し、陳謝する祈乃。
傍では錬が生きている狸がいれば呪いを抜こうと試行していたのだが、それが叶わず歯噛みしていた。
「この国のように、深緑が変わったら世界樹のハーモニアも同じようにする人がいるのでしょうか……?」
他国の実状は対岸の火事ではない。目の前の惨状に、レンはあれこれと考えを巡らせるのである。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは忌妖の抑え、討伐に大きく貢献したあなたへ。
今回はご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
こちらは、鐵 祈乃(p3p008762)さんのアフターアクションによって発生したシナリオです。
●目的
呪詛で生み出された忌妖、呪獣の討伐。
●敵
◎忌妖×1体
呪詛によって生み出された忌です。
化狸をベースではありますが、大きく異形化し、目が横に4つ、口が3つ並び、体長7mほどもある巨体に腕が6つ、無数の尻尾を持ちます。
機動力はほとんどありませんが、妖術を使ったり、尻尾を伸ばして叩きつけてきたりと欠点を補って余りある力で猛威を振るいます。
◎呪獣……妖狸×8体
呪詛で切り裂かれた結果、生み出された存在です。
腹太鼓に姿を変えての攪乱、巨大化した尻尾の叩き付けを行います。
◎黒兵衛(クロベエ)
精霊種(ヤオヨロズ)の中年男性。七扇直轄部隊『冥』の生き残りです。
すでに出回った呪詛の知識を元に、忌を生み出して誰かを狙っているようですが、不明です。
戦闘となれば、後方から呪術をメインに使って戦うようです。
●状況
高天京の端、人気のない場所にひっそり建つ蔵内部で呪詛らしき形跡が確認されており、その調査に向かいます。
蔵へと攻め込むタイミング、冥の生き残りが新たな呪詛を行おうとしております。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします!
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