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シナリオ詳細

<忘却の夢幻劇>デュリンガンの蜃気楼酒場

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●酔っ払った時だけ出会える名店ってありませんか
 色硝子の城そびえる王都ラウアザンの道は網の目のように広がり、街に慣れた者でもふいに、予想外の所へと迷い込むことがあるらしい。ある魔術師の談によれば、かつてラウアザンを襲った神秘的大災厄――それがどのような内容だったかは諸説ある――の余波が今でも次元を歪ませているらしい、との話である。そうでなくても魔術の類をたつきとする者達は、無理やり空間を捻じ曲げて作り出したありもしない路地でひっそりと法に縛られず商売をしているらしい。
 しかし、今回は、魔術師の話ではない。考えようによっては魔術師よりもさらに不可思議な話。
――『蜃気楼酒場』のことである。
 皆が口にするが、行き方は知らぬという幻の酒場。そこでは妖精や妖霊、人ではない者達が作りあげた美酒が、センスのいいつまみの数々と共に差し出されるのだという。酌に侍るは性別知らぬ美貌の生き人形達。人と変わりない応対をするそれらは、魂を持っているとのもっぱらの噂。
 店の主はデュリンガンという人形。中性的な他の人形達とは違い、女性体らしい。ふっくらとした優し気な顔立ちや、ふくよかな体格が親しみやすさを感じさせる。所作も、声も、まるで愛情あふれる貴婦人のよう。『彼女』に話を聞いてもらっているうちに、いつしか酒がまわり、気付けばラウアザンの表通りにぼーっと立っているという次第。

 ふと夜眠れずに歩いている者の前に現れる神秘の店。存在しない酒はないという噂すらある酒好きの聖地。
「お代はあなたの話で結構」
 デュリンガンは、決まってそういうのだという。

 数多の好事家が、貴族が、よいどれが『蜃気楼酒場』を虚しく求める。
 それでも酒場は存在しながらも――文字通り蜃気楼のように、姿を現さないのであった。
 
●酒を飲むだけの簡単なお仕事
 『学者剣士』ビメイ・アストロラーブは珍しくうっすらと笑みを浮かべながら、赤みがかった蜂蜜酒を口にしていた。
「やあ、君達。いい酒が手に入ったんだ。ラウアザンの『蜃気楼酒場』――私が懇意にしている秘密の名店から譲ってもらった物でね。何しろ、店主のデュリンガンは珍しい物語に弱い。君達の冒険譚を話すと嬉しくなったらしくてな、とある香辛料の花から取った蜂蜜のみを使った刺激のある蜂蜜酒を譲ってくれて……」
 ほろよい調子のビメイは話を続ける。
「『蜃気楼酒場』はどこにあるかも、いつ出会えるかも分からない不思議の酒場だ。世界の『外』にいる私は自由に入っていけるがね、『中』にいる者達は何度も骰子遊びで最大の目を出し続ける運がないと出会えないような場所だ。もしくはデュリンガンの興味を引くか。あの酒場はそうだな、ある種の次元と次元の狭間にあるポケットのような物だと思ってもらえればいい」
 それが依頼にどうつながるのか、と問う一同に、ビメイは悪戯っぽく笑う。酒精のせいで相当に表情筋が柔らかくなっているらしい。
「デュリンガン達は話に飢えている。不思議な話、面白い話、哀しい話、日常の話、全てに。彼女らは魔術師に作られた時から『蜃気楼酒場』のある空間に縛られているのさ。だから、珍しい経験には事欠かない、<忘却の夢幻劇>の世界の外から来た君達を客として送り込む、というわけだ。この酒のお礼にね。まあ、偶にはこういうミッションもいいだろう? 目標は、デュリンガンの『蜃気楼酒場』で楽しく飲み食いし、珍しい話をすること。報酬は旨い酒とつまみ! 場所は直に飛ばすから安心してくれたまえ」
 タダ酒だ! とビメイは拳を振り上げた。この女、酒が入ると生き生きする性質らしい。
「そして――デュリンガン達の慰めにもなるだろう。なにせ、生ける人形の寿命なんて、私には全く見当もつかないからね」

NMコメント

 <忘却の夢幻劇>へようこそ。ろばたにスエノです。
 神出鬼没の不思議の酒場で、お酒を飲んでいろんな話をしましょう。

●今回の舞台
 色硝子の城そびえる大都市ラウアザン、そのどこかにあるという『蜃気楼酒場』です。ラウアザンは「琥珀盗人」、「逃亡」の舞台でもありますが、今回の話には直接的な関わりはありません。
 『蜃気楼酒場』はラウアザンの存在する次元と他の次元の狭間にある店で、店主のデュリンガンがこれぞ、と思った客しか扉を見つけることはできません。境界案内人であるビメイはその珍しい話の内容から上客として扱われており、数少ない自由に出入りできる客となっています。

●目標
 『『蜃気楼酒場』で飲み食いして楽しんでとっておきの話を語る』
 とにかく客として楽しみ、デュリンガン達と楽しく話しましょう。未成年の方にはノンアルコールもあります。
 ただし、暴れ酒などは程ほどに。何が起きるか分かりません……。

●登場人物達
 デュリンガン:『蜃気楼酒場』の主人である生ける人形、女性体。ふくよかで親しみやすそうな貴婦人といった印象の姿です。『酒場』で働いている人形達の中で最初に作られており、結果、人形達のまとめ役も務めています。自分を作った魔術師が呪文で酒場に縛り付けているため、外に出ることはできませんが、様々な話を聞き、もてなすことに生きがい(?)を見つけているようです。

 生ける人形達:『蜃気楼酒場』の従業員。酌をしてくれたり、演奏をしたり、話を聞いてくれたりします。どれも中性的な美貌の生ける人形ですが、よく見るとそれぞれ顔形が違い、制作者のこだわりを感じさせます。デュリンガンと同じく、呪文で酒場に縛り付けられているため、外に出ることはできないようです。

●サンプルプレイング
「よし、タダ酒だ! 飲むぞ! なあ、店主さんよ、おれの冒険の話にぴったりの酒を出してくれないか? 故郷の世界で巨人娘と酒を飲み比べた時の話なんだがな……!」

 それでは、よい宴会を。

  • <忘却の夢幻劇>デュリンガンの蜃気楼酒場完了
  • NM名蔭沢 菫
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年04月15日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
箕島 つつじ(p3p008266)
砂原で咲う花
羽田 アオイ(p3p009423)
ヒーロー見習い

リプレイ

 煤けた銀色の看板が月の光に照らされ、どこか魔術的な雰囲気を醸し出している。たとえば今日のような夜は何かが起こりそうだ、というざわめきを感じさせそうな気配であった。
「私も前に辿り着いたお店のスティンガーが絶品で忘れられないのに、記憶を頼りに歩いても辿り着けないの! でもまぁ、いい酒場との出会いはそういうものよねぇ」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)がしみじみとした表情と共に呟く。その横で盛り上がる二人は一見不思議な組み合わせであった。片や子供っぽい印象を与える『砂原で咲う花』箕島 つつじ(p3p008266)。
「蜃気楼酒場! ええなぁ、こういう浪漫溢れるお話は大好きや。美味しいお酒も飲めるみたいやし、楽しんでこか!」
 そしてもう一方は中々堅気の人間とは思いにくい見た目の『ホストクラブ・シャーマナイト店長』鵜来巣 冥夜(p3p008218)。
「ホストクラブの店長としては、一夜の夢を見せてくれる素敵な酒場を無視する訳にはいきません。見識を広めるため、今宵はお世話になりましょう……というのは建前で。飲みましょう食べましょう!」
 宴のプロである冥夜はいつもの盛り上げ役という立場ではなく、もてなされる側を楽しむ事に心を躍らせていた。その後ろからまだ成人していない『ヒーロー見習い』羽田 アオイ(p3p009423)が慣れない様子であちこちを見ている。

 ノックを数回。扉が開かれ、古風なひだの多いドレスを着たふくよかな女が笑みを湛えて現れる。人ならざる存在である事を隠す事なく、その首や肩からは球体の部品が見えていた。
「あら、まあまあ、ビメイ様がおっしゃっていた方ね。私は店主のデュリンガン。今宵は『蜃気楼酒場』にようこそいらっしゃいました。今宵は貸し切り、どうぞ良い一夜を過ごしてくださいな」
 通された店の内部は入り口の建物よりもあきらかに広く、これも魔法の仕業だろう、と一同は思った。黒い壁にいくつもの白い垂れ布がかかっており、百合を模した硝子のシャンデリアが柔らかな光を店内に落としていた。一同は壁沿いの長椅子へと案内される。酌を担当する人形達もまた、店主のデュリンガンと同じく古風なひだの多いドレスを身につけ、それぞれ細工の違う宝石の花を髪に挿していた。
(デュリンガンも従業員もほんまに人形なんか? 確かに顔立ちとか雰囲気とかは人離れしてるけど、所作とかそういう面からは人間にしか見えへんな)
 内心で驚くつつじであったが、表情には出さない。
 最初に出されたのは半分飴状になった砂糖をまぶした木の実。砂糖に何かを加えてあるのか、不思議な花の香りがする。
「お酒はお任せ、色鮮やかなのを希望」
 アーリアは緩やかに波打つ髪の毛をそっと触りながら、どこか悪戯を思いついた人のように注文する。
「では、今は喪われた島で作られた、夕海の葡萄酒を」
 デュリンガンが手を叩くと珊瑚の花飾りを付けた紅衣の人形がアーリアの側にしずしずと進み、杯にゆっくりと葡萄酒を注ぐ。それは注がれたそばから色を変え、明るい夕暮れの橙から、宵闇の濃紺まで美しいグラデーションを杯の中で描いていた。口にすれば時間を感じさせるような甘い麝香の香りが広がる。やがて、アーリアの長い髪の毛の先が宵闇の濃紺に染まり始める。髪の毛は根本に近づくほど、赤、そして橙へと夕日をさかのぼるかのように変化していく。飲んだ酒の色で髪の毛の色が変わるのが彼女のギフトの効果であった。デュリンガンと人形達が驚きと美への恍惚が混じった表情でアーリアの髪を見ている。
「目がいいとか、何か出せるとか、そういうのじゃない対して役に立たない神様の贈り物だけど、私はこれ気に入ってるのよねぇ、だって色んなお酒で私が彩られて、とっても楽しいじゃない?」
「ええ、本当に……このような不思議な美を見られるのならば、私もお酒の探しがいがあるわ」
 デュリンガンは悪戯っぽい声で酒蔵のあるらしい方をちらりと見た。
「私は小さな頃、真っ白しか許されない国で育ってね、そうあるべきだと思っていたし、それが当たり前だったから……大人になって、こうして沢山の色を纏えるのが幸せなの! だーかーら、今日は沢山のお酒の色で私を彩らせてちょうだいな?」
 髪の毛を弄ぶアーリアに酌人形とデュリンガンは微笑みを浮かべて「勿論」と答える。

「あの、オレンジジュース貰えるかな」
 未成年のアオイは酒を飲むわけにはいかない。それをデュリンガン達も分かっていたのか、彼の注文はちょっと工夫を混ぜて返ってきた。濃厚なオレンジジュースに爽やかな香草のシロップをベースにした甘いソーダ。それらを混ぜて杯に注いだ物が出てきた。
 一気に飲むアオイをデュリンガンや酌人形達は優しく見つめている。
「プハーッ! 甘味が筋肉痛に染みるなぁ! オレンジジュースを飲むとね、故郷の世界を思い出すんだ」
 デュリンガンは続けて、と言いたげにもう一杯、工夫を凝らしたオレンジジュースを注ぎ直す。
「ボクは犯罪捜査官をしていたんだけど、任務を終える度にセンパイがジュースをおごってくれたんだ。決まってオレンジジュース。自動販売機に甘いものはそれしかなかったんだって。……ボクはそれが大好きだった」
 アオイは語る。
「えっと、で。ある時センパイがね、巨竜と戦ってぼろぼろになりながら帰ってきた事があったんだよ。思わず駆け寄ったら、「ほらよ」って言いながらオレンジジュースを渡してきたんだ」
 まあ、竜! 驚いたデュリンガンが息をのみ、側の酌人形も整った顔立ちに驚きの色を浮かべる。
「なんでも近くの自動販売機になかったから少し遠出したら、襲われたんだって。逃げるのはかっこ悪いから、そのまま倒して買ってきた、ってさ。ふふ。無茶するよね」
「勇敢な方なのですね、あなたのセンパイは……」
 酌人形の一人がうっとりとした表情を浮かべて囁きかける。
「うん。センパイのそういう姿がとても好きで、ボクも誰かのために何かをしてあげられる人になりたいんだ」
「あなたの道筋が星に照らされますように! きっと叶うわ、ええ、きっと」
 そう言ってデュリンガンは今度は野イチゴのソーダはいかが、とアオイに勧めた。

「今日は果実酒の気分やし、なんかオススメなのを頂けたらええな」
 つつじの注文に対して出てきたのは、林檎酒であった。黄金に輝くそれは、金の泡をしゅわしゅわと立てており、見た目にも華やかであった。
「妖精達が守る庭で取れた忘却の金林檎で作られた酒よ。記憶を飛ばす呪いは抜いてありますので大丈夫」
 くすりと笑むデュリンガンにつつじはわざとらしく驚いて見せる。
「なんや、剣呑やなあ!」
 それでも酒の程よい甘さと刺激、そして不思議な快楽がつつじの舌を軽くする。
「故郷の話でもしよっかなぁ……故郷ではウチは色んな仕事をしてきたんや。あれは確か……鬼みたいなやつを殺せって依頼やった。なんとか仕事は果たしたけど、足に怪我して食糧も尽きて帰れんくなったんよね」
 案ずるように酌人形がつつじの足を見る。
「ああ、今は大丈夫やって。そんでいよいよ死にそうになった時に……狐とか狸とかがな、ウチの側に寄ってきたんや。死んでもこういう子らの餌になるのならしゃーないかな、って思ってたんやけど。その子達……食べられる木の実とか薬草とかを持ってきてくれたんや。お陰でどうにか帰る事が出来たんやけど、ああいう子らって妖怪変化の類やったんかな?」
 恩返しとかって、誰からされても嬉しいもんやね、と呟くつつじであった。

(何という事でしょう。店内の内側やら、出されるおつまみやら……事ある事に、店の参考に出来るかと真面目に考えてしまいます。もはや職業病の域ですねぇ、これは)
 様々なしつこくなく、それで心づくしの効いたもてなしに冥夜のプロ意識は刺激されてばかりであった。
(やはり日常のあれこれを忘れるには、ぱぁっと飲むしかないでしょう!)
 決意し、彼は一杯の蜂蜜酒を頼む。ビメイが図書館で飲んでいたそれの存在を聞いて、杯を重ねていたアーリアが自分にも一杯、と頼んだのはさておいて。
(酔うと口調が荒くなるもので、慎みをもって……あ、この蜂蜜酒美味しい)
 もう一杯、もう一杯と重ねる冥夜。
「お口に合い過ぎたかしら?」
 案ずるように見るデュリンガンに対し、冥夜は言い放つ。
「っかー!五臓六腑に染みるぜぇ!! 俺が酔ってる?ホストの肝臓なめんなよ、こちとら百戦錬磨やぞ」
 見事に、酒が回っていた。彼は流暢な様子でホストクラブの華やかな日々とその裏側を語る。
「夜の夢を見せるための準備は決して華やかなものじゃねぇ。白鳥が優雅に泳いで見えるすぐ下で懸命にバタ足しているように、ホストにはホストなりの苦労がある。ただ、その労力を惜しまず弛まぬ努力を続け、自分を磨いてきた者こそが立派なホストに慣れる……そんな泥臭い事をしているなんて、お客様には悟られない様にするのが一流だけどな」
 内緒、と言いたげに口元に手を当てるデュリンガン。
「大丈夫、今日のあなたは、お客様ですもの。沢山日々の疲れを癒してちょうだいな」
「ありがてえ。……んじゃあ、あれをやるとするか!」

 人形達が思い思いの楽器を持って演奏をはじめ、その中で冥夜のシャンパンタワーがキラキラと輝いている。シャンパンそのものはなかったが、それに似た薫り高い酒が注がれており、見るも華やかだ。
 軽快な音楽に合わせてアーリアは注がれているのと同じ葡萄酒を口にする。軽くて華やかな酒は杯を重ねさせる。
 
 やがて、ほろ酔い加減の中で、また来てくださいなとデュリンガンの声が聞こえた気がした。

成否

成功

状態異常

なし

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