シナリオ詳細
偽りの神の裁き
オープニング
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天義……聖教国ネメシスの首都フォン・ルーベルグより離れた海沿いにある独立国家『アドラステイア』。
外部との交流が遮断されたその地は、新たな神ファルマコンを中心とした信仰のもと、多数の子供達がマザー、ファザーと呼ばれる大人達に従って日々を過ごす。
ただ、その信仰に疑問を抱く子供も存在する。
信仰に異を唱えた者は仲間だった子供達から魔女裁判にかけられ、都市内から追放されることとなる。
幻想ローレットから、アドラステイアへと潜入するイレギュラーズ達が都市内の情報を集めている。
「また、魔女裁判に掛けられた子供がいるようだね」
折を見て、アドラステイアへと潜入捜査を行うオリヴィア・ミラン(p3n000011)の話に耳を傾けるイレギュラーズ。まだまだ、アドラステイアに対する関心は高い。
少しずつ暴かれるその実態。創られた神、モンスターとしか思えぬ聖獣、そして、子供達同士による魔女裁判……。
「魔女裁判に掛けられて魔女認定された子供は、疑雲の渓なる崖から突き落とされてしまうそうさ」
また新たな少女がそうした行為を断罪として受けてしまうとの情報をオリヴィアは得ていた。
できるなら止めたいところではあるのだが、今回はマザー・マリアンヌも立会いの下で断罪は行われるという。
彼女は明らかにローレットを意識し、敵対の意を示していた。
「マリアパイセン……」
表情を陰らせるミリヤム・ドリーミング(p3p007247)。
マザーと浅からぬ因縁のある彼女は相手の暗躍を耳にする度、複雑な表情を見せていた。
今回、断罪されるのは、聖銃士となったミロイテと仲良くしていた少女アイナ。
日々変わりゆく友人を見ておれず、異を唱えたことで仲間の子供達に、そして、マザーに目を付けられてしまったらしい。
「結構の日時を敢えて知らせているところを見ると、ローレットをおびき寄せようとしているのは間違いないね」
なかなか姿を現さぬ相手が向こうから待ち受けてくれるのはありがたい。
少女の救出が優先だが、可能ならマザーの力を見ておきたいところだ。
「タイミングが悪くてアタシはいけないが、気を付けなよ」
マザーが魔種となっているのは間違いない。
子供ばかりの聖銃士や聖獣も待ち受けていることだろう。
参加を決めたイレギュラーズ達は気を引き締め、アドラステイアへと向かう準備を整えるのである。
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高い円形の塀で覆われた独立都市アドラステイア。
その住人の多くは子供達で、日々ファルマコン信仰の為、そして日々の糧を得るべくキシェフの収集に勤しむ。
ただ、一度その態勢に疑問を抱いて異を唱えれば、その子供は昨日まで友人だった者達から魔女とされ、裁判にかけられてしまう。
「お願い、ミロイテ。目を覚まして!」
薄紫の髪を肩まで伸ばしたアンナは腕ごと体を縛られた状態。そんな彼女の呼びかけに、アドラステアの騎士小隊を率いるミロイテは見向きもせず。
「これより、裁判によって魔女と認定された者の断罪を決行する」
その場には、ミロイテの部下だけでなく、監督役と思われる血染めの修道服を纏い、両手両足を金属製の枷で縛ったマザー・マリアンヌ。さらに、「新世界」から派遣された洗脳兵と呼ばれる子供達の姿もあった。
「お願い、私の話を聞いて!」
あらん限りの声でアンナは叫ぶが、この場の全ての人々が全く反応を見せない。
やがて、アンナは崖側へと追いやられ、いつでも突き落とすことができる状態で、ミロイテは待機する。
程なくして、何者かの気配をミロイテは感じて。
「マザー……」
「ええ」
小さくやり取りした両者は、この場へと飛び込んできたイレギュラーズ達を迎えて。
「来ましたね。ローレット……」
「我の呼びかけに応えよ、聖獣……!」
ケエエエエェェェェッ!
そこで、ミロイテが空から呼び寄せたのは、翼持つ聖獣サンダーバード。
イレギュラーズは魔女とされた少女の救出の為、マザーと子供達、聖獣と対するのである。
- 偽りの神の裁きLv:15以上完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年04月16日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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独立都市アドラステイア。
子供ばかりが住まうこの都市へ、ローレットから派遣されたイレギュラーズが潜入する。
『全ては、天香の為に』小金井・正純(p3p008000)は秘密の隠れ家へと、運んできた馬車を隠してから仲間へと合流して。
「少しでも多くの子を救い、奴らを止めねばなりません」
子供達を利用し、洗脳し、それらが解ければ容易に闇へと葬る……正純はそんなアドラステイアのやり方を唾棄する。
「アドラステイアでは相変わらず魔女裁判が行われているみたいだね」
『はなまるぱんち』笹木 花丸(p3p008689)の言うように、都市内部では正当な裁きによらず、子供達が『断罪』されている。
「……また無実の子供が断罪されそうになってるなら、助けに行くしかないよ……!」
敵の目的はともあれ、『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)は自らの信念の元に力強くそう語る。
『はなまるぱんち』笹木 花丸(p3p008689)もまた、同じことを考えてはいるのだが、小さく溜息をついて。
「その度に子供達に拳を向けないといけないのが本当に嫌になるよ」
何度も介入せねばならぬ状況だと、『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)も把握していて。
「ならばこの力、見せて差し上げましょう」
同時に、クラリーチェはこれから対する子供達に気付いてほしいと願う。
――『この国の在り方は間違っている』と。
アドラステイア下層を進む一行は、疑雲の渓へと至る。
断崖絶壁を前にするメンバー達はその手前に布陣する白銀の鎧纏う少年……聖銃士達の姿と、ロープで縛られた少女、そして、血染めの修道服を纏う女性の姿を目の当たりにする。
「来ましたね。ローレット……」
マザー・マリアンヌは待っていたとばかりに周囲のアドラステアの騎士達へと目配せすると、騎士のリーダーであるミロイテが崖を向いて。
「我の呼びかけに応えよ、聖獣……!」
直後、崖へと降り立ってきたのは、全身を雷で覆う黄色の巨鳥。
ケエエエエェェェェッ!
翼を羽ばたかせる雷鳥……サンダーバードは宙に留まり、次の指示を待つ。
布陣を整えるアドラステイア勢に対し、ローレット勢も歩を進めて。
「アドラスティアの神が本当に断罪を望むなら、放っておいても裁くでしょ」
『グラ・フレイシス司書』白夜 希(p3p009099)は淡々と、マザーや子供達へと言い放つ。
神罰も救済も人の手で代行されれば、それは神様が力を持たない査証となる。
「つまり、アドラステイアに神はいない。あんたらはペテンの代行者」
「「…………!!」」
希の言葉を神への侮辱ととった子供達。
眉一つ動かさずにその主張に耳にしていたマザーは冷ややかな視線をこちらへと向けて。
「やはり、あなた達は神を冒涜する悪しき存在……誘い出して正解でした」
「誘き寄せる? いいえ、私たちがあなた方を釣りだしたのです」
その視線に敵意が宿ると、アドラステイアの深部により深い興味を抱く『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)としては好機だと笑みを浮かべる。
(できる事なら、マザーの持っている力を少しは見ておきたいけど……)
メルナからそんな要望もあったが、花丸は当初の目的を重視する。
「先ずはアンナって子を全力で助けに行こうっ!」
一斉に、イレギュラーズ達は戦闘態勢をとる子供達に警戒を強める。
(子供達と戦いたい訳じゃないけど……戦うべき時なら、お兄ちゃんなら……!)
メルナは実兄の容姿を思い浮かべ、彼の代わりにならんと大剣を抜く。
「どんな思惑があるかわからないけど、打ち砕いてみせるよ。そして、アンナさんも絶対に助けてみせるから!」
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は天義の聖職者として、断罪の対象となる少女の救出に強い気概を持って臨む。
(……あのマリアパイセンがこんな事をするなんて)
そして、『不幸属性アイドル』ミリヤム・ドリーミング(p3p007247)はかつての先輩……マザー・マリアンヌとの何度目かの対峙にも、複雑な面持ちを隠しきれずにいる。
「でも……やるしかないっスよね!」
目の前には、虐げられている子供がいる。だからこそ、ミリヤムは個人的な感情に蓋をして。
「その為にもアンナちゃんを助けるっスよ!」
「総員、神に仇名す背教者を粛正せよ!」
「「了解!」」
ケエエエエッ!!
ミロイテの指示によって、白銀の鎧を纏う子供騎士達と雷鳥が金属音を鳴らしながらイレギュラーズ達へと攻め入ってきたのだった。
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ロープで縛られたアンナの傍にいたミロイテと、少し距離をとって事態を見守るマザー・マリアンヌを除き、聖銃士らと聖獣サンダーバードがローレット勢に向けて突貫してくる。
10数名いる聖銃士はいずれも子供で、マリアンヌ直下のミロイテ隊と派遣されてきた洗脳兵の2つに編成は編成は分かれていた。
「神に仇名す背教者は排除を……」
後者は一段と薄暗い表情をして、こちらへと剣を振るってくる。
それらの前へ、メルナ、ココロ、ミリヤムが出て。
「私が相手だよ」
メルナは子供達を引きつけるべく全力で防御態勢をとる。
子供達は示し合わせたかのように布陣し、前に立つ者が剣でメルナへと切りかかってくる。また、後方からは間を縫うように銃撃も繰り出し、布陣としても穴がない。
「ボクこそ、天義の新鋭中華アイドル、ミリヤム・ドリーミングっスよ! 皆、ボクのファンになってっス」
ミリヤムも渾身のアイドル的ドヤ顔で彼らの気を引く。
ややミロイテの部下に重きを置き、子供たちを引きつけて盾役を全うしようとミリヤムは身構えていた。
また、子供達へと向き合うココロはステップを踏みつつ、直接殴りつけていく。
彼女の舞踏は子供達の思考を奪って魅了し、同士討ちを誘う。
場が混乱すれば、それだけ他メンバー達から注意がそれる。それがココロの狙いだ。
「花丸ちゃんのお仕事はサンダーバードを引き付けて抑えておく事っ!」
そんな中で、花丸は崖の方にまで近づき、宣言通りにサンダーバードの下にまで踏み込む。
「ちょっと花丸ちゃんと遊ぼうか!」
ケエエエエェェェェッ!
早速、雷鳥は全身を輝かせて突撃してくる。
雷を纏いながら突き出すクチバシで傷つけようとする敵の巨体を、花丸はしっかりと両手で受け止めて。
「こっちは花丸ちゃん達が何とかする。スティアさんは女の子の事を任せたよっ!」
「うん……」
その呼びかけに頷くスティアだが、アンナの傍にまだ子供達の統率を行うミロイテもおり、すぐには動けずにいたようだった。
彼女の配下は必死に刃を振るい、銃弾を撃ち放つ。……アドラステイアで生きる術を得る為に。
「仕方ないよね。そういう生き方しか教えられてないんだもの。……だから、このくらいで許してあげるよ」
希は大槌「禍津星鎚」を握りしめ、慈愛の鉄槌を連打していく。
希が戦う間、人手が欲しいと彼女が連れてきた少女、オイリは足歩行する家を思わせる「メサイア・ミトパレ」(救世主の祈り)の操縦席で成り行きを見守っていた。
「…………」
元はアドラステイア属する傭兵部隊オンネリオンの部隊長だったオイリだ。それだけに、この場の子供達には複雑な思いを抱いていたようである。
実際戦うメンバー達もまた、アドラステイアには並々ならぬ感情を抱いていて。
(少しでも、多くの子を救う為に……)
正純は後方から仲間の支援をと考えているが、まずは向かってくる子供達の数を減らすべく天星弓・星火燎原に多数の矢を番えて射放つ。
やがて、それらは鋼の驟雨となって子供達へと降り注ぎ、その体力を削っていく。
「少々痛いかもしれませんが、我慢してくださいね。この国に巣くう病巣を払うための痛みです」
中衛に位置取るクラリーチェ。
彼女の言う病巣とは即ち、『互いを常に疑い、出し抜き高い地位を得ようとする在り方』だ。
この国の仕組みが子供達の心を歪めてしまっていると、クラリーチェは確信して。
「ならば、それを払うのが私たちの仕事」
小さな鐘の音を鳴らしたクラリーチェは前方へと激しく瞬く多数の光を展開していく。
それらは必死になって戦う子供達の体を灼く。
早くも、倒れ始める者が出ていた白銀の騎士。それに小隊長であるミロイテは眉を顰めるのだった。
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ミロイテ隊、洗脳兵、いずれも練度はなかなかのもの。イレギュラーズも気を抜けばあっさりと倒されてしまいかねない。
「貴方達は『幸せな笑い声』をあげていますか? 日々の小さな幸せに感謝することはありますか?」
神気を発するクラリーチェが子供達へと問う。
「常に『誰かに告発されるかも』と怯えたり、友を断罪に追い込んだりするこの国が正しいと、本当に思っていますか?」
「ううっ」
「それは……」
そこで、戸惑いを見せるミロイテの部下達。
「おあっ、ああああああっ!!」
だが、洗脳兵は狂ったように切りかかってくる。その目はどう見ても正気ではない。
その前に、ミリヤムが立ち塞がり、赤い旗をはためかす。
「アイドルは根性! この場は行かせないっスよ!」
ドヤ顔を維持するミリヤムはまだ体力を残しており、悠然とした態度で身を張る。
直後、希が自らの影から闇の閃きを放つ。
「騎士も洗脳兵もアドラステイアの神の傀儡。なら、私の糸で」
掌握魔術によって展開した気糸は、子供達だけを狙い、傀儡の糸を斬ってしまおうとする。
「早く、この場から逃げてください。でなければ……」
再び、クラリーチェは光を瞬かせ、抵抗を続ける洗脳兵を倒してしまう。
ただ、いくら正気であっても、行き場のない子供達だ。そう簡単に今の立場を捨てるはずもなく。
「うわああああっ!!」
叫ぶミロイテ隊の少年が両手で握る銃を発砲してくるが、希が慈愛の鉄槌を下し、その少年を昏倒させてしまった。
サンダーバートも魔獣として相当の力を持つが、この場は花丸が翻弄して。
「命令で動こうにも、怒りで我を忘れさせたらこっちのものってね」
花丸に気をとられるサンダーバードは、自らを中心に電撃を撒き散らすと、それがミロイテにも及ぶ。
「きゃあああっ」
アンナにも及んでしまったのは計算外だが、イレギュラーズに惑わされる子供達にも被害が及び、体を痺れさせてしまう。
そんな不甲斐ない部下に、マザーの視線を感じていたミロイテも苛立ちを隠せず。
「自分をしっかり持ちなさい、マザーがご覧になっているのよ!」
号令を上げるミロイテが部下達を正気に戻そうとするが、混乱して乱れた部下の布陣はそう簡単には戻らない。
「ミロイテ、どうして……」
縛られたまま、旧友の変貌ぶりに悲痛な表情を見せるアンナを、花丸は目の当たりにして。
(洗脳……か)
なんとかして、洗脳を解く可能性もあるのではと考える花丸だが、アンナの言葉はミロイテに届いていない。
その間も、子供達は苛烈にイレギュラーズを攻め立ててくる。
(無理はしないようにしなくちゃ)
メルナもこちらを見つめるマザー・マリアンヌに気付き、断罪されそうになっているアンナの救出を優先する。
「このくらいじゃ、私は倒れないよ!」
その役目は仲間に託し、メルナは防御に集中してこの場は耐えることを優先する。
子供達の練度は決して低くない。連続して繰り出されるコンビネーションアタックは一瞬でも気を抜けない。
(でも、わたしはアドラステイアの子供達を殺したくない)
例え、子供達が本気で命を奪いに来ているとしても、ココロは自らの気持ちを大切にし、神気閃光を発して子供達の意識のみを刈り取る。
そこに、ミトパレに乗っていたはずのオイリが現れ、意識を失った騎士をミトパレへと運ぶ。
(このまま、聖銃士ミロイテも救出、洗脳を解きたいけれど……)
呼びかけに応じぬ友に涙を流すアンナへ、希が視線を向けて。
仮に助けても、アンナは1人で無謀なことをするのではないかと考える。また、ミロイテを確保することでアドラステイアの力を削ぎ、今後の動きにも繋がるはずと希は疑わない。
「どうやら、私も出なければならないようね」
ローレット勢が手強いとみて、ミロイテも剣を抜いて動き出す。
「ミロイテ……」
愕然としてうな垂れるアンナへ、スティアがここぞと地面を離れてふわりと浮かび上がり、低空飛行を維持して子供達の頭上を飛ぶ。
多少の障害は強引に突破をと迫りくるスティアに、ミロイテが警戒して。
「ちっ、断罪者は逃さん」
スティアに気付いたミロイテは、アンナに体当たりして崖から落としてしまう。
「きゃああああああぁぁぁっ!!」
ロープで縛られ、崖を掴むこともできないアンナが叫ぶ。
絶体絶命のアンナのピンチに、スティアが猛スピードで突っ込んで追いつき、空中で彼女の体をキャッチする。
飛行で体勢を整え、スティアは崖を登っていく。
「もう大丈夫だよ、頑張ったね」
「ああっ、ああああああああっ!!」
スティアは号泣する彼女を安心させながらも、崖上から射撃が飛んでくるのを察してブリンクスターを起動させる。
瞬間的に加速できるが、制御不能なこともあって一度だけしか使えぬこの装置。ただ、スティアはうまく仲間達の元へと戻ることができた。
アンナの姿を直に認め、正純が駆けよる。
「大丈夫、貴女を救いに来ました」
「う、ううっ……」
ただ、やや衰弱していたことに加え、崖から落ちた恐怖、友人に突き落とされたことによる精神的なショックもあり、アンナは気を失ってしまう。
幸い、後方にいる希の連れであるオイリが彼女を保護してくれることもあって、正純はなおも近寄ってくる子供へと矢を射る。
正純の一撃の接近に気付かず、接近していた聖銃士が大きく目を見開いてから崩れ落ちていた。
●
アンナの救出に成功し、後はこの場から彼女を連れて退避するのみだが……。
クエエエエエエエッ!
大声でいななく黄色い巨体のサンダーバードが周囲に雷を放出する。
しばし、そいつを抑える花丸の後ろから、希が術式を組み立てて魔光を放つ。
「やっぱり、効果が薄いね」
やむを得ず、希は大槌で叩くことにするが、まだ半数ほど残る子供達が群がる。
「断罪者を奪い返すわ」
「「了解」」
ミロイテが部下と洗脳兵を率いて襲い来る。
本気を出したミロイテが部下を鼓舞し、的確にイレギュラーズを狙ってくる。
「わー! そんなに殺到されても困るっスよ!? でも防ぐけどね!」
ミリヤムが攻め入ってくる子供達を食い止めようとするが、彼女の元に鎖を鳴らして近づく女性が。
「言いましたね。今度は枷を解くと……」
最初から枷はつけていると見せかけていただけ。マザー・マリアンヌは目にも止まらぬ速さでナイフを操り、ミリヤムの体を切り裂く。
パンドラがなければ、彼女はその一撃だけで倒れていただろう。
「……病む……」
だが、小さく呻いたミリヤムは身を起こしていた。
「いくわ。死力を尽くすのよ」
指示を出すミロイテに再考を促そうと、ココロが呼びかける。
「友達の命を奪えと命令する大人が正しいわけないじゃない! イコルでまともな考えできないようにさせられてるの、あなたは」
ただ、多少の説得ではアドラステイアに染まった思考から救い出すことはできない。
押し寄せる部下達の斬撃、銃撃を立て続けに受け、ココロは収集器からこぼれるパンドラに縋って倒れることを拒絶する。
「まだよ、断罪者を捕えなさい!」
ミロイテ自身が前に出て、次に標的としたのは、アンナを保護したスティアだ。
「どうして、貴方達は昨日まで仲間だった子を殺そうとするの? それで平気だと言うの?」
「…………」
言葉を詰まらせる子供達へ、スティアがさらに続ける。すぐに人を切り捨てられるような人になるのは悲しいことだと。
「もし、忘れているのであれば思い出して欲しいのだけど……貴方達がどんな人だったのかを」
「あなたに何がわかるの!?」
スティアへと剣を一閃させたミロイテ。
次の瞬間、赤いものが噴き出すが、スティアはパンドラを少し失ってなお、この場を抑えようとする。
すぐさま、ココロが回復に当たるが、彼女もまた苦しい状態とあり、クラリーチェが大天使の祝福をもたらしてココロの回復へと回っていた。
押し寄せてくる子供達。できる範囲で、花丸が倒れる子供を引き連れて身を引く。
オイリの乗るミトパレに加え、正純が隠していた馬車へとメンバーは子供達と共に乗り込んでいく。
攻撃へと転じたメルナがサンダーバードを巻き込むよう前方へと巨大な光刃を走らせて。
「ここは撤退しよう。アンナちゃんをとられちゃったら元も子もないもんね」
「同感です。離脱しましょう」
クラリーチェもメルナに同意して徐々に後退する。現状、倒れたメンバーはいないが、クラリーチェは仲間の状況を見ながら残る子供達へと閃光を走らせていた。
「この痛みをもって、心を取り戻してほしいものですが」
「命を奪わず倒せば、洗脳は解ける気がするんだよね……」
数人を保護したのを確認し、希は奪われぬようにと気糸の斬撃を繰り出してミロイテやマザーを牽制する。
「ほら、この憎き顔を覚えてる? あなたの相手はわたし!」
ココロも一度ミリヤムが倒れたことで、身を張ろうとするが、彼女もかなり厳しい状況。とてもおいしいおはぎを口にし、全力で離脱に動く。
「……マリアパイセン……いえ、マリアンヌ・サリエル」
仲間の離脱状況を見つつ、ミリヤムは表情を引き締めて言い放つ。
「ミリム・ナイトメアが尊敬していた貴女は……厳しくも優しい異端審問官は決して子供をこんな風に扱う人ではなかった……」
普段は軽薄そうな笑いを浮かべる彼女だが、今回ばかりは本音をぶつけずにはいられない。
「……だからこそ、偽りの神に魂を売った売女の貴女になんか負ける訳にはいかない!」
そこで、正純が引き撃ちし、魔性を纏う一撃でサンダーバードを牽制して。
「準備できたら、ここは引きましょう」
正純は馬を操り、ミレパトと足並みを揃えて疑雲の渓から離れていく。
加速することで次第に距離が離れ、マザーや子供達は追ってはこなかった
。
無事、アンナを救出できた一行。
彼女からもいろいろと事情を聴きたいところだが、目を覚ました彼女は改めて友人から受けた仕打ちを思い出すことだろう。
それも、マザーの影響故かと皆口にして。
「……魔種すらシスターとしてくい込んでいる。やはり、あの都市はどこまでも歪だ」
「……いつか絶対、ぶっ殺してでも正気に戻してやるっスよ!」
正純の言葉を受け、ミリヤムが叫ぶ。
だが、都市の外に出たこともあり、その声が分厚い都市の壁に阻まれたような気がしたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPはアンナを助け出したあなたへ。
今回はご参加、ありがとうございました!
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
アドラステイアにて、また子供が犠牲になりかけているという事件が起こることがわかりました。
救出の為、皆様のお力をお貸し願います。
●目的
魔女認定された少女アンナの救出
●敵
マザー・マリアンヌを支持する子供達です。
○アドラステアの騎士
別名『聖銃士』。白銀の鎧を纏う8~12、3歳くらいの子供達です。
・ミロイテ
この小隊を率いる赤毛の14歳人間種少女。
長剣の技量はかなりのもので、聖銃士としての成果も目覚ましく、キシェフやイコルを多く与えられているようです。
・部下×10名
ミロイテの信頼する手練れの部下達。剣と銃で武装し、高い技量で襲ってきます。
○洗脳兵×5名
新世界より派遣された子供達で、旅人は世界悪でありそれを擁護するローレットは悪組織であるという洗脳が施されています。
力量は未知数ですが、アドラステアの騎士には引けを取らぬ剣や銃の技量があると見られています。
○魔獣サンダーバード×1体
全長4m。雷の力を行使するワシを思わせる姿をした黄色の鳥です。
ミロイテやマザーの命令に従い、襲い掛かってきます。
〇マザー・マリアンヌ
20代女性。血に濡れた修道服を纏う魔種となった元人間種女性。両手、両足にそれぞれ金属製の枷を付けています。
神への愛を説き、慈善活動奉仕など比較的優しい条件でキシェフを与えてくれるなど、下層でも人気のシスターという話ですが、今回はそれを感じさせぬ冷ややかな一面を見せています。
状況によっては自ら枷を解き、自分の信じる教えの為、襲い掛かってきます。
●NPC
○アンナ
13歳の少女。
元はミロイテと共にアドラステイアへと流れ着いた孤児のようです。
最近になってミロイテの様子に異変を感じたことを主張したことがきっかけで、魔女認定されてしまいました。
戦闘能力はなく、リプレイ開始時は両腕と胴をロープで縛られた状態にあります。
●状況
アドラステイア下層より少し行った場所にある疑雲の渓が舞台となります。
魔女裁判の結果、断罪される者が突き落とされるようです。
断崖絶壁となっている崖側にマザーや聖銃士達、魔女とされた少女の姿があります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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