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シナリオ詳細

書題名『花咲小道の花招き』 副題名『花祭りへの招待』 著者 画家『華也野』 噺家『蓮野』

完了

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オープニング

●境界図書館より、初めまして。花見のお祭りへの招待。

 春爛漫と云う季節の頃に、イレギュラーズのあなたは境界図書館を訪れた。
 ここには混沌とは違う異世界の物語を集めた数多の蔵書がある。この図書館の司書のようなものである境界案内人に頼めば――、或いは境界案内人が紹介する依頼があれば――、イレギュラーズのあなたが気に入った本の境界世界へ行き、その世界を体験する事ができる。
 其れはあなたにとってはひと眠りの夢でも、本として描かれた世界の住人達にとっては、現実の出来事になる。本に描かれた世界は、それぞれが別個、または時々、連なったシリーズものの異世界だ。
 イレギュラーズのあなたにとっても、境界世界での体験は、――例え夢の中の出来事だとしても――、リアルな体験の経験値になるだろう。
 “それ”を知ったあなたは、境界図書館で、自分が気に入る本と依頼を探した。


●書題『花咲小道の花招き』 副題『花祭りへの招待』 著者 画家『華也野』 噺家『蓮野』

 花咲小道(はなさかこみち)と云うは、この陽之本國(ひのもとくに)の『花咲町』(はなさきまち)と云う宿場町に在る花の名所である。
 毎年、春になると『花祭り』(はなまつり)と云う行事が催され、春の訪れと桜花の見頃を祝い、『此花神』(このはなのかみ)を祭る儀式が執り行われる。
 拙(せつ)が友人に、華也野(かやの)と謂う画号の画家、腐れ慣れにし竹馬の友があるが、其奴(そやつ)は餓鬼(ガキ)の時分からこの花祭りが好きで、好きで、たまらなく好いており、毎年、欠かさず拙宅を尋ね、拙を道連れの友に、必ず観覧に行くのである。
 
 この花祭りで華也野と拙が毎年、何をするかは勝手が決まっていて、華也野は好きな絵を描き、拙はこの花祭りに集まった人間やアヤカシ、正体がよくわからん連中などにも混じって、そやつらの噺を集めて記憶し、記録する。

 それを普段は華也野は画壇で発表し、拙、噺家の蓮野は、寄席で大衆に向けて面白おかしく語るのであるが、この度は華也野と拙の合作で、本を創り候て、集めた『花祭り』景色を纏め、世間とやらに発表する事に致した。

 この本の華也野の絵を見て、拙、蓮野の噺を読んで、どこぞの誰か様、あなたが楽しいと思うてくれるならば、著者は幸いである。


 拙からの噺は先ず、『花祭り』の唄から始めよう。

●『花咲く小道の花招き』 伝、花咲町。詠み手知らず。

 花咲く小道に今年も花が咲いた。飲めや歌えや珍道中と人もアヤカシどもも騒ぎ出す。
 花咲く小道に今年も花が咲いた。川の流れに桜の花イカダ、こちらとあちらを繋ぐ朱塗りの太鼓橋。
 サァアッとド派手な袖が舞って、鈴がしゃなり、シャリン、赤い狐の親分が観客に向けて大見得を切る。唄えや踊れ花祭り。

 花咲く小道に今年も花が咲いた。親分に続くは笛吹き乙女狐の三人官女、芸妓、花魁の花盛り。社への道行きを桜花が彩る花祭り。

 美しや、まるで桃源郷。
 朱塗りの太鼓橋に行けば、橋の上を道行く花魁道中が、さっと狐面、おかめめん、鬼面、兎面、ひょっとこ面をとって、見得を切る。

 狐面は流し目、艶やかに。
 おかめ面は福よ来たれと笑い。
 鬼面は粋に女伊達。
 兎面は恥じらい琵琶をかき鳴らし。
 ひょっとこ面は音に合わせて楽しげに舞う。
 
 道中が社へ道行けば、花祭り本番、花咲町は賑わい、楽しき花宴。

 サアサ、寄ってらしゃい、見てらっシャアイ。店売りの掛け声、威勢よく楽しげに。

 道行く人もアヤカシも、昼と夜の垣根を越えて、一緒に祝う。今日は楽しい花祭り。
 
 花咲く小道に花が咲いたら花祭り。
 昼も夜も楽しめ、花よ。人よ。アヤカシどもよ。花が咲いたら花祭り、夜が明けたらお終いだ。花祭り、花祭り。


●境界図書館より、花見の誘い企画。

 その『花咲小道の花招き』は、華也野の絵が主体の画集のような本だった。華也野の絵に添えるように、蓮野の詞書きのような噺が、彼の達筆な墨走りの筆使いで記されている。
 ――そしてこの本は、絵と噺の連なりの終わりまで見て読んでも、まだ終わりではない。不思議な事に空白の白いページがまだまだたくさんあるまま、綴られた本だった。

 あなたは何故だろうと思った事だろう。
 この本が気に入り、この疑問を持ったイレギュラーズのあなたはこの本を持って、この本を案内してくれる、担当の境界案内人を探した。


●境界世界『此花朔夜』、担当の境界案内人は、サフィラス=ウィータエ・アエテルナエ 

 そのヒトは、琥珀の長杖をついて、サラサラと衣擦れの音をさせながら、滑るように現れた。まろい褐色の肌に魔力を湛えた白銀の髪、長身で性別不明の、なんとも不思議な出で立ちをしたヒトだった。
 先ず目に入ったのは、白いローブと群青色のホルターネックワンピースに、灰雪色の袴を重ねたような服装。まるで魔法使いかなにかのようである。さらに極めつけに目を引いたのは、顔の上半分を覆い隠す目隠しである。黒地に金色の装飾模様のそれは、一種、魔術的に見えた。白銀の髪を留める金色の精緻なカチューシャが、光を反射して鈍くきらめく。

 そのヒトは境界図書館の本を手にしたイレギュラーズを、見える筈がない目で、つと見た仕草をして、あなたの前に立ち止まった。そのヒトは、白いローブの袖先をぴんと張って持ち、琥珀の長杖を握り直すと、片足を引くお辞儀をした。

「よう来なさったのう、イレギュラーズや。この妾がその本、『花咲小道の花招き』の境界世界、『此花朔夜』の案内を担当する境界案内人、流転の魔女、サフィラス=ウィータエ・アエテルナエじゃ。――妾の事は、境界案内人のサフィラス、またはサフィと、妾の顔と名前を覚えてくれると嬉しいのう。以後、お見知りおきをよろしくのう、イレギュラーズ」

 にこりと微笑んで、サフィラスは本とイレギュラーズの願いを受け取った。

「ほう。ならばこの妾が境界世界への道を案内してしんぜよう、ついて参れ、イレギュラーズ。異世界への入り口には、相応しき場所というものがあるものじゃ。道々、これからおぬしらに向かってもらう予定の異世界『此花朔夜』と、妾が案内する依頼について、説明しよう――」

 サフィラスはイレギュラーズを呼び集めながら、自分が境界案内人として所有する領域へと案内した。

「今回、妾がおぬしらに行って欲しい事は、和風の境界世界、『此花朔夜』の『花咲町』と云う宿場町にて開催される、『花祭り』と云う、『春を言祝ぐフェスティバル』への参加じゃ。――つまりは『観光』じゃのう」
「観光!?」
 イレギュラーズの1人が飛び跳ねた。
「うむ。そうじゃ。これから行く境界世界、『此花朔夜』は恥ずかしながら、妾が境界案内人として案内する初めての異世界じゃ。――おぬしらにとっても、妾にとっても、至極、簡単な依頼を妾達から用意させていただいた」
 サフィラスが書架の行き止まりを、魔力をおびて光る琥珀の杖で、コンコンコンと3回ノックした。すると本が杖で叩いた真ん中かから、クルクルクルと回って、樫の木の扉が現れる。
 扉には、“境界案内人・サフィラスの部屋”と云う意味の言葉が、『崩れないバベル』の自動翻訳効果によって読みとれた。
 サフィラスは「近道じゃ。この事は他の者には秘密じゃぞ」と口元に人差し指を立ててニヤリと笑い、イレギュラーズ達を室内へ招き入れた。

 立ち並ぶ書架には、魔術や魔法の香りが、不思議の気配が漂う。その大部屋には、ヒトをダメにするソファやクッション、寝心地が良さそうな寝台、ぬいぐるみや薬草のポプリなど、様々なものがある種の規則性を持って、雑多にあった。
 サフィラスはこの依頼に参加するイレギュラーズに、「おのおの、好きな場所でくつろいで話の続きを聞いておくれ」と促した。

 サフィラスは床に描かれた魔法陣の上に立ち、境界世界『此花朔夜』と今回の依頼について語る。
「先程も申した通り、境界世界『此花朔夜』は、和風の世界じゃ。時代背景や文化的には、おぬしらがおる混沌世界の『豊穣』と云う国や、日本という国の『江戸時代』、中期から後期ぐらいの感じを有しておる。――じゃが、そこはおぬしらが知る『和風の国』とは、似て非なる異世界の場所じゃ」
 サフィラスは息を継いだ。
「そこでは『此花』と『朔夜』と云う神が崇められており、神の血を引く『帝』と『斎巫女』がおり、祭事を取り仕切る帝の血筋とは別に、政治を司る『幕府』が、神々と帝の血筋を敬いながら、世の中の物事を取り仕切っておる。そして、その幕府の管理下で、民衆はおおらかに、四季を楽しみ、戦争の少ない太平の世を生きておるのじゃ」
 サフィラスは続けて、イレギュラーズに語りかける。
「この境界世界『此花朔夜』には、大きくわけて『昼の世界』と『夜の世界』、二つの世界がある」
 昼と夜の世界は、一つの世界の時間帯で分けられていると、サフィラスは語る。
「そして、この世界に住む種族も大きく分けて二種類じゃ。おぬしら人間種(カオスシード)と一部の旅人(ウォーカー)のような外見の『人間』と、その他の種族のような『アヤカシ』の二種類じゃ」
 人間とアヤカシは、普段は人間は昼の世界、アヤカシは夜の世界と住み分けて暮らしていると云う。
「じゃが、この『花祭り』は別じゃ。人間もアヤカシも入り乱れ、昼夜の世界の境界線が曖昧になる。そこに何が紛れ込んでも、誰も不思議には思わない、とっておきの花見日和じゃ!」
 サフィラスはバサリと依頼スクロールを広げて、イレギュラーズ達に見せた。

「イレギュラーズよ、書物『花咲小道の花招き』より、和風境界世界『此花朔也』の『花咲町』へ行き、そこで催されている春の祭典『花祭り』に参加しておくれ。――この書物の白紙のページは、今回の依頼人であるこの書物の著者、華也野と蓮野がおぬしらイレギュラーズの姿を描く事によって、うまる仕組みになっておる!」
 サフィラスは表情をゆるめて、言葉をしめくくる。
「気楽に遊んでおいで、イレギュラーズ。妾たちからの、春の最初の贈り物じゃ。ゆるりと観光を楽しむが良い」

 そうして魔女は、自身の魔力を宿した琥珀の長杖の石突きを魔法陣に突き立て、境界案内人として、境界世界『此花祭朔也』の『花咲町』へ続く、魔法陣の門を開いたのだった。

NMコメント

 はい。初めてのシナリオを出させていただきました、神寺 柚子陽です。
 長々と4000字程度もあるOPを書きましたが、内容は簡潔に、お花見メインのお祭りイベントシナリオです。観光して下さい。

●内容
 和風ファンタジーな江戸時代風の境界世界、『此花朔也』(このはなさくや、と読みます。)に行き、『観光客』になって、『花祭り』(はなまつり)が行われている、宿場町『花咲町』(はなさきまち)で自由に行動して下さい。

 季節は春。宿場町は桜の花見客と花祭り関連の催し物や見物客で、いつもよりも賑わっています。

ちなみに、この本『花咲く小道の花招き』の作者、NPCの華也野と蓮野は連れだって、花祭りを楽しみながら、絵とお噺を集めています。特に絡まなくても、絡みに行っても構いません。本の作者どもは絡まなくとも、シナリオに参加した皆様の絵姿やお噺を集めて、本のページにします。
気楽に皆様のやりたいことを、やって下さい。


●章構成予定
第一章:昼の部(太陽が沈むまで)
人間達のお祭り風景に、昼も活動できるアヤカシ達が混ざって、花祭りを楽しんでいます。

お陽様の下の桜見物と、人間達の花祭り風景や、江戸時代の宿場町みたいな『花咲町』観光はいかがですか?


第二章:夜の部(日暮れから夜明けまで)
多くの人間達は屋内や安全な処へ引っ込み、アヤカシ達の活動が活発になる時間帯。
アヤカシ達の百鬼夜行の花祭りに、一部のワケ有りな人間や物好きな人間達が仮面をかぶって参加しています。

アヤカシは妖怪、もののけ、精霊、中には神とあがめられるものや、よくわからないもの、人間を食べるものだっていて、何でもアリです。

夜はあぶないから、多くの人間達は夜に出歩きたがりません。

人間達と旅籠(宿屋)などの屋内で過ごすも良し。
屋外に出て、夜桜見物と、アヤカシあやしのあやしい町を体験しに行くも良しです。
夜に屋外に出た場合、身の安全の保証はないです。それでも良ければ、遊びに行ってみて下さい。
もし、運悪くおそろしい目にあったり、アヤカシに食べられても、イレギュラーズは特に問題なく、境界図書館で夢見る眠りから目覚めます。


第三章:花祭りの終わり(夜明け)
花祭りで交わった人間の世界とアヤカシの世界の境界線が、再び分かたれ、住民たちは日常に戻ります。祭りはお開き。

百鬼夜行の親分衆は仲間を連れて帰り、人間達も朝が来たと帰り支度を始めますが、どうにも人間を食い足りねえ、遊びたりねえと唸るアヤカシがいるようで……侍達や腕に覚えがある者たちが警備の為に、アヤカシ討伐へ乗り出します。

人食いアヤカシ相手の簡単な戦闘や、警備を行う侍の手伝い、または花祭りが終わって境界図書館で目覚めるまでのひと時を過ごすというのは、いかがでしょう?

※全体3章構成予定ですが、勿論、どこか1章だけからの参加も歓迎します。どなたもお気軽に、ご参加下さいませ。


●今作の対応可能NPC

・華也野
 『花咲く小道の花招き』の作者。画家。描く能力は凄いが、それ以外はどこか頼りない若い男。いつも幼馴染の蓮野と歳が離れた妹や画壇仲間によく世話を焼かれている。ぽやんとした憎めない性格。
 物心ついた頃から花祭りに惚れ込んでおり、毎年、蓮野を誘って花祭りを観に来ている。

・蓮野
 『花咲く小道の花招き』の作者。噺家。面倒見が良く、気風が良くて、義理堅い、若い男。
 幼い頃は華也野が近所の餓鬼共に虐められれば、身を張って守り、虐めた餓鬼共をブチのめした上で、従えちまうような気持ちの良いガキ大将だった。昔、弱りきっていた時分に、華也野に助けられた事がある。それを差し引いても、華也野の絵が好きで、彼を人間的に好いて、彼を助けている。

●注意点
・ボヤ騒ぎはやめてね?
 江戸時代、火事は大罪、桜を愛でる花祭りだから周りは木と森、住民の住居も木造仕立て。燃え広がりやすいですよ。

・プレイング募集期間、一章につき、1週間程度を予定しております。

・同行者について(合わせプレイング)
 同行者が居る、合わせプレイングの場合は、タグ【】をご使用下さいませ。
 例、【花咲町散策隊】など、プレイングの一番最初の上部にお願いします。


●サンプルプレイング

【花咲町散策隊】
 サフィじゃ。此花朔夜の花咲町で開催されている花祭りに来たは良いが、さて、何をしようかのう。
 とりあえず、花見とやらでもやってみるかのう。妾は桜の花の実物を見るのは、初めてじゃ。昔、或る旅人が桜の花枝の絵を描いて、妾に見せながら思い出話をしてくれた。懐かしいのう。あれは、何十年前、いや何百年前、じゃったかのう? よう思い出せんわ。かかか。
 こうして実物を見れる日が来ようとは、思わなんだ。長生きはしてみるものじゃのう。
やや、坊主、覗き見かのう?
蓮野?
 ははあ、おぬしが例の噺家かのう。やあっと来たのう!待ち人よ。
 なに? 話を聞かせておくれ?
 良いとも! たーっぷり語って聞かせようぞ。妾の話をのう!


【花咲町散策隊】

「初めまして、華也野、と申します。サフィラスさん。お手紙のやり取りを通じて、こうして今日、お会いする事が出来、感無量です!」
 あ、見て下さい! サフィラスさん!! 花祭り行列です!! 僕、子供の頃からあの花祭り行列が好きで、大好きで、毎年見に来て、ここの桜の木の下で、花祭りの写し絵をしているんです! これが僕の成長の記録です。って、わあああああ!? そっちは開けちゃダメです。見ないでくださいよぅ。ぼ、僕の遊女姿絵、見ちゃダメです、そっちは春……あ、あう……///
 え、あ、はい! 片付けましょう。あいつが来る前に。別の話をしましょう。ええ、サフィラスさんは桜についての思い出など、おありですか?


【花咲町散策隊】
 華也野の守りと仕事で来た蓮野だ。で、お前さん、良い噺は持ってンのかい? ひとつ、どうかこの俺に、オメェさんの噺を聞かせちゃ、くれねェだろうか?
 こう見えても俺ぁ、流しの売れっ子噺家でねェ、こうして出会った奴の噺を聞くのも、芸の肥やし、仕事の内、趣味の内ってワケよ。噺をしてくれたら対価に、あっこに並んでる屋台の中から好きなモン、何か1つ、奢ってやるよ。
(顎クイっと屋台を示してニヤリ悪い顔)
どうだい?

行動:
祭り客から噺を集めながら行くから、ちーっと仲間との合流が遅れる。あとはお任せだ。
アドリブ、アレンジ、絡み歓迎!
よろしく頼むぜ。

 火事と喧嘩はつきものだが、今日ばかりはご遠慮願うぜ。

●備考
 この境界世界やオープニング(OP)で出た情報、NPC達について、尋ねられれば情報をお出ししますが、今回はリアルで人間が、花見やお祭り、旅行や観光を楽しむみたいに、イレギュラーズ達に遊んでいただければ、幸いです。

 それでは春の空気と花祭りの雰囲気をお楽しみ下さい。ここまで読んでいただき、誠に有り難うございます。

 それでは、いってらっしゃいませ!

  • 書題名『花咲小道の花招き』 副題名『花祭りへの招待』 著者 画家『華也野』 噺家『蓮野』完了
  • NM名神寺 柚子陽
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年06月15日 14時30分
  • 章数3章
  • 総採用数9人
  • 参加費50RC

第3章

第3章 第1節

 第三章【帰り路】

●敵はアヤカシ『百物語組』百鬼夜行!

 暗がりにうごめく者が居た。それは花咲山に巣食う鬼どもに四肢を引き裂かれて喰われたが、破ってはならない陰陽寮が仕掛けた結界を破り、悪鬼の封印を解いてしまった。放たれたアヤカシは、山本五郎左衛門忠次と名乗り、同じく封じられていた仲間を率いて、百物語組と云う人喰いアヤカシの百鬼夜行を成し、再び世の中を恐怖に染め上げ、自らの畏れを知らしめて覇をなさんと動き出した。

●進撃の夜明け

 ザリッ――と草履が岩場の土を踏む。夜明け前の濃密な暗がりに、音が響いて不吉と不穏が形を成し、姿を現す。
「お目覚めですか? 山ン本様」
 柔らかい声の持ち主が開いた番傘を自らの主にかざして、提灯で顔を照らした。
 彼は丸い眼鏡をした商人風の初老の爺だ。老獪と抜け目のなさが顔つきと眼光に表れ、威厳とも云うべき畏れの強大さが大きな存在感となって放たれている。
「おお、女郎蜘蛛の雪路か。息災であったか?」
「あいな、山ン本様達が幼いわっちを逃して下さったおかげでありんす。おかげさまでこうして力をつけ、策を弄して愚かな人間どもを操り、皆様をお助けに参る事ができ申しんした! わっちは皆様に、ほんにお会いしとうござりんした……! 山ン本様、誠にようご無事のお戻り、再びお会いできたこと、雪路はとても嬉しく喜び申しんす!!」
 はらり、と雪路の涙がこぼれ落ちる。喜びに肩をうち震わせ、嗚咽をこらえる。雪路は人間の姿の両手を広げて自分が成長した姿を山ン本に見せた。色白の美しい女人の細面に笑顔を咲かせる。
「たわけめ。こやつ、愛いことを申しおるわい!」
 山ン本翁は雪路から番傘を受け取り、景色を眺めた。
「良い花見日和よの、今はいつじゃ? 雪路」
 雪路は涙をぬぐい、頭を垂れて答えた。
「はっ。皆様が陰陽師と江戸の都の者達に、この地に封じられてから、およそ百年後、花祭りの夜にござりんす」
「この小童はまったく良い時分に叩き起こしてくれたものじゃわい。おかげで配下や朋輩どもの餌には困らん。――そうは思わぬか?」
 視線の先で雪路がたおやかに妖しく笑う。
「ええ、ほんに。人もアヤカシも、美味そうなご馳走に見えしんす。それがこんなにもたくさん! 嬉しゅうて嬉しゅうて、腹が鳴りますわいな!」
 自らの頬を挟み、いじらしく身をよじらせる雪路。その蜘蛛足の鋭い爪先に、血のしたたる男の骸を突き刺して、お尻にある口でグシャグシャと骨ごと噛み潰して喰らう様子を見なければ、その姿は本当に美しい人間の花魁太夫そのものだ。彼女の蜘蛛尻の口から出ていた無骨な人間の男の手が、彼女の腹の中に呑み込まれて消えた。最後にじゅぽりと緑色の溶解液とともに男が身につけていたものを彼女は吐き出して。男は跡形もなく喰われた。
「フハハ、相変わらず、良い食べっぷりよ! 雪路や、その調子で頼むぞ!」
「はいな! ねえ、山ン本様、うちの子らと子らの分も、喰いに行ってよろしゅうおすなァ?」
「ああ、構わぬ。おぬしが子らにも、腹いっぱいのたらふく喰わせてやれ。なに、メシはこの花咲山の下にたんとおるわい。どれでも好きな者を選んで存分に喰らうがよい」
「まあ、嬉しい! うちの子らも喜びますわ!」
 雪路は手を打ち合わせ、色白の細面に花がほころぶ笑みを咲かせる。たれ目が嬉しそうに弓なりになって、瞳の複眼がぎょろりとうごめいた。
 山ン本翁は山間の空を仰ぎ見た。
「夜が明ける。完全に陽が中天に差し掛かる前にこの町を脱出するぞ。――わしら百物語組の名を、ここより再び知らしめよう!」
 山ン本が扇をさっと開いて大きく振る。青い炎が燃え上がり、山ン本翁配下のアヤカシ達の封印札が焼かれた。封印が次々と解かれていく。人喰いアヤカシ達は、先頭を行く山ン本翁と雪路の後ろに連なり、百鬼夜行の列を成した。
「わしは山本五郎左衛門忠次! 百物語組の首魁! 百物語の語り部よ! 百物語組、これより侵攻を開始する! 百物語のアヤカシ達よ! 久方の宴じゃ! 派手に暴れい!!」
「「「「「「応!」」」」」」

 目指すは花咲小道の先、江戸へ続く東街道。百物語組の侵攻は、ここから始まった。


●最後の依頼は『百物語組』百鬼夜行のアヤカシ討伐

 花祭りは無事に盛況に終わり、旅立ちの朝を迎えた。イレギュラーズは境界案内人と宿の者からの連絡があり、今回の仕事の依頼人が宿泊している料亭旅館『花霞』の『緑葉の間』を訪れた。
 イレギュラーズが部屋のフスマを開けると、部屋の中央に華也野が、荷造りを終えた風呂敷包みを2つ傍に置いて正座して待っていた。
「おはようございます。事情は聞かれましたか?」
「ここでの最後の依頼の話、だよねぇ? 簡単に聞いてきたけれど、改めて依頼内容を説明してくれるかい?」
「ええ」
 華也野はイレギュラーズに着席するように勧めた。
「今、この花咲町は危機に陥っています。この町にある花咲山には、人間だけではなくアヤカシも喰らう悪いアヤカシの百鬼夜行、『百物語組』の一部が封じられていました」
「『百物語組』とは、ギルドみたいな組織のことかしら?」
「ええ、犯罪者集団みたいなものですよ。この世界には百個の怪談物語に語られる怖ろしいアヤカシ達がいる。語られてはいけない禁忌の百体。消せないならば封じられていなければならない、百体のアヤカシ達。――それが『百物語組』百鬼夜行です」
「華也野殿。その封印が何者かによって解かれ、『百物語組』の首魁とその手下が解き放たれたと聞いたが本当か?」
「本当です。おかげで『百物語組』とそれに連動して暴れる悪いアヤカシ達を警戒して、この花咲町から外へ繋がる道が全て封鎖されてしまいました。現在、『百物語組』を迎え撃ち、首魁の山ン本五郎左衛門某を再封印するべく作戦が展開されています」
「封印するの? やっつければ良いんじゃないの?」
 華也野は首を横に振った。
「山ン本五郎左衛門某は生きる伝説、百物語を生み出した産みの親とも呼ばれる、言葉の怪異系アヤカシです。外見は人間の翁、老獪な商人なので攻撃は通りますが、だとしても奴は言葉、百物語そのものとも云うべきアヤカシです。彼のお話を知る者は多い。有名な方。アヤカシは有名であればあるほど、消滅させる事が難しい。怪談とはそういうものです。だからもし戦闘になったら、全力で戦い、妖力を失わさせて封印をほどこす。それが実体無きアヤカシと戦う時の常套手段なのです」
「つまり、最後の依頼はアヤカシ『百物語組』とその首魁、山ン本某翁との戦闘ってことかい?」
「ええ、できれば帰り道を拓いていただきたいのです。ここはもうじき……」
 外で轟音が鳴り響き、爆発音と悲鳴が上がった。
「燃やされると斎巫女様の宣託が下りましたから。その前に一緒に逃げ帰りましょう。お宿の支払いはこちらからの依頼料に込みで、最初に一括で済ましてあるのでご心配無く」
「そんな場合じゃないと思うけれど、のんきね」
「あなた方、いれぎゅらあずの方々がいらっしゃるなら、きっと何とかなりそうな気がして落ち着いていられるのです。――さあ、お早く。この町から脱出するには、花咲小道を抜けるしかありません。きっと敵も、封印を解かれてお腹を空かせているでしょうから、食料を探していづれ、こちらに来る事になりましょう。その前に早く、逃げなければ命がありません!」
 華也野はイレギュラーズを先導して荷物を手に駆け出した。他の宿にいた人々と合流し、警備隊の指示に従って戦場と化した花咲町を脱出しようとする。
 そうして花咲小道に差し掛かった時、人々と善良なアヤカシの避難行列を火球が襲う。
 何人かが生きたまま火にまかれ、燃える炎の糸に捕われて蜘蛛の食事となって喰われた。それをきっかけに恐慌状態に陥って我先にと逃げ出す人々。伸ばした手の先から体が凍りつき、パキリと割れて凍りついたかけらが美女の口に運ばれた。
 にんまりと紅い口が裂けるように嗤う。
「どこへ逃げようというのでありんすか? この雪路とうちの子らのお相手をしてくださんし。うちらはお腹がすいておりんす。わっちらにぬし様方の血肉を食べさせてくだしゃんし」
「断る!!!」
「ならしようがないでござりんすな。頑張って抗ってみやしゃんし!」
 雪路が扇を広げ、氷のつぶて混じりの吹雪の刃を放った。

「華也野殿、確認の為にもう一度聞くが他に逃げ道は?」
「ありません。昨年の土砂崩れと大地震で僕達が使える道は塞がれ、アヤカシも住み着かないように厳重に立ち入りができないようにお役人様が封じられて行きました。今も復旧工事中だと蓮野が昨日、情報を仕入れてきていました」
「その蓮野殿はどこにいるのじゃ? 姿が見えんが」
「彼は大丈夫です。強い上に悪運も良いですから、きっと警備隊と一緒に行動をともにして無事で居ることでしょう。それより、来ます。皆様、構えて下さい」
 イレギュラーズの前に、女郎蜘蛛の雪路と彼女の子供達である子蜘蛛達が敵として立ちふさがる。
「さあ、いってらっしゃい。おいしそうなお肉があそこにもあるから食べておいで」
 雪路はうっそりと笑って子蜘蛛達をけしかけた。
 子蜘蛛は人間と同じくらいの大きさがあるお化け蜘蛛だ。それが「キシャァァアア」と威嚇音をあげて爪を振りかぶる。「ケタケタケタケタ」とけたたましく鳴く。嬉しそうに歯をうち鳴らせて前に出た。

 華也野は誰かに腕を引っ張られてよろけた。血みどろになって腕を吊った蓮野が立っていた。
「蓮野」
 彼は華也野を胸に抱き込み、護身刀を構えて友を下がらせる。
「お前はこういうの苦手なんだから、もう少し下がってろ」
「はい」
「イレギュラーズ。こっちに構わず、お前達も自分が生き残る事に集中してくれ。出会えて良かった。ここで別れだ」

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第三章【帰り路】OPコメント

 第三章の提供が遅くなって申し訳有りません。ですが出しました。第三章は戦闘パートでございます。

 敵は『百物語組』百鬼夜行。
 イレギュラーズ様達にお相手して欲しいメイン敵は、雪路という女郎蜘蛛と彼女の子蜘蛛達です。

●敵NPC
【雪路】
 『百物語組』百鬼夜行の組員。首魁の山ン本翁を慕うアヤカシの女郎蜘蛛。上半身は花魁風の美女、下半身は蜘蛛。喋り方はこの世界の流行の最先端を行き、憧れの的でもある花魁の遊女言葉を真似たもの。
 『百物語組』にとっては四面楚歌の状況の敵陣から、突破口を開いて脱出を図ろうとしています。雪路は自らが慕う山ン本翁の為に、子らを率いて露払いを買って出ました。
 ここで取り逃がせば、この世界で山ン本翁の手足となる手下として動く事になるだろう。
 攻撃手段は以下の通り。

・吹雪の舞飛礫
 氷のつぶて混じりの吹雪を仕掛ける。攻撃がまともに当たると相手は凍りつき、動けなくなる。あと痛い。時間経過で氷は溶ける仕様だから、次の手は高確率で凍った者の破壊に動く。

・凶刃絶爪
 赤い爪の中距離まで飛来する斬撃。

・蜘蛛の足裁き
 蜘蛛の足による近接至近の蹴撃。

・求餌
 頭から足先から内蔵から骨まで、むしゃむしゃ食べます、肉食系。食べて体力(HP相当)と気力(AP相当)を回復する(HA攻撃相当の)攻撃。
 
【子蜘蛛】
 雪路の子。大きな蜘蛛。わさわさ動いて気持ち悪い。雪路と似た戦闘挙動をする。知能は低く、雪路に操られている。弱ると雪路や他の子蜘蛛の餌になって数を減らすが、うぞうぞ湧いて気持ち悪い。
 個体によって、火、雷、水、氷、土など放つ攻撃の属性が違う。
 イレギュラーズのことも餌だと認識しているから倒すべき敵です。
 
【山ン本五郎左衛門忠次】
 『百物語』百鬼夜行の首魁。戦闘は雪路と手下達に任せ、自らは手練を率いて花咲町の外へ脱出しようとしている。強力な呪言使い。喋らせなきゃただの商人爺。手下に守られて行動している。
 イレギュラーズ達に対して、自ら攻撃しようとはしてこず、牽制して逃げようとする。

【他の手下アヤカシ】
 山ン本翁の手下アヤカシ。百鬼夜行の一員として仲間以外の他者を喰らい、行軍を邪魔する者を蹴散らして喰らい、犯し、なぶり、攫い、殺している。
 もし戦いたいアヤカシがいれば、プレイングで指定をお願いします。

●プレイングの書き方
 一行目:戦いたい敵の指定宣言
 二行目:心情など
 三行目から:戦闘手段や行動などのやりたいこと。

 参考までに書き方を書いておきますが、プレイングはお客様の書きやすいように書いていただいて大丈夫です。
 
 この戦闘が終わったら、花咲町と遺った者達は斎姫巫女のお祓いを受け、治療と復興に動く事でしょう。
 それでは、これで最後になります。第三章、始めます。よろしくおねがいします。


第3章 第2節

ダリル(p3p009658)
勇猛なる狩人

 子蜘蛛の蹴撃が薙いで、弱者と同じく逃げ惑っていたダリル(p3p009658)を吹き飛ばした。
 ゆらりと立ち上がったダリルは、血がまじった唾を吐き、手の甲で口元を拭った。自らの血を見たダリルに闘志が宿る。始まりの赤だ。ダリルはカッと瞳孔を開き、敵を睨めつける。
「そうかそうか、汝らは我らと似たような輩か!」
「御不洒落ござんすな! 堕落の白芋虫風情が、わっちらと似ても似つかぬ故に腹立ち申しんす」
「安心せよ! 我も汝らは好かぬわ! 所詮大言壮語を吐く存在とな。堕落した神と同等の愚物共はとっとと逝ねや」
 ダリルの手中で組まれた術式が、始まりの赤により効力を高められて発動する……! しかし、ぷすんと音を立て煙と魔力の残滓を散らしただけで不発だ。
「い゛!? も、もう一回じゃ! 待て」
 雪路が高笑いして嘲笑う。
「大言壮語はどちらか? 子らよ! 異国の珍味もようござりんす。喰らいやれ」
 子蜘蛛は白糸を吐き、ダリルに襲いかかる。ダリルは本能的に全力で魔砲を放った! 魔砲は子蜘蛛を巻き込んで、雪路の腹から口を貫通する。雪路は絶命した。肉体は黒靄と化して消えた。
 パキリと氷が割れて溶け落ちる。雪路の最期のあがきだ。裂傷と凍傷を負ったダリルはどっと冷や汗をかいた。
(危ないところじゃった)
「ク、クハハハハハハ! 見たか! これが我の実力よ」
 こうしてダリルは無事に境界世界《此花咲夜》の夢から覚めて帰還した。

成否

成功

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