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シナリオ詳細

落城、夜明けを待たず

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●落城、夜明けを待たず
 場所は豊穣郷カムイグラ。
 夜更けた道を行く三人ほどの男たちがあった。
 身なりは清く、着物にはいった紋からは地方大名の家臣忠々家とその部下たちであることがわかる。
 城より長く離れていたのだろう。籠に土産を多く詰めて、提灯をさげて歩いている。
 ふと、先頭の男が足を止めた。提灯を手に、そして旅籠をかついだ男である。
 急にとまるものだから、後ろの男も、そして旅籠に乗っていた忠々も慌てて声をあげた。
「何事か。急に止まれば危ないではないか。城も目の前だというのに、こんな場所で怪我をしては世話がないぞ」
 先頭の男に声をかけたが、返事はない。
 不審に思った忠々は幕をあげて顔を出してみた。
 提灯のぼんやりとした灯りに照らされたのは、人の顔である。
 青白く、ぎょろりと上向いた、床におちた顔。……否、生首であった。
「な……!」
 突然のことに慌て、旅籠より転げるように出る忠々。
 そんな彼らの耳に、闇夜の向こうから『ギャッギャ』という声が聞こえ始めた。
 提灯の明かりに照らし出されて現れる、青紫の肌をした怪物。
 その姿を、忠々は知っていた。
「子鬼(ゴブリン)だと……!?」
 旅籠をすぐさま放棄し、刀を抜く忠々。
 部下の男たちも刀に手をかけるも、暗闇のあちこちから大量に現れた子鬼たちによって群がられ、二匹か三匹か斬り殺したところで組み伏せられていた。
 助けを求める声を忠々は振りはらい、死に物狂いで逃げ出した。それしか、できることなどなかった。

 翌朝のこと。
 都でも子鬼殺しと有名な『子鬼殺し』鬼城・桜華(p3p007211)に連絡をとった忠々は、彼女をつれて日の当たる城近くまで偵察に出た。
 裏手の山に紛れ、慎重に近づいていく桜華。
「城の近くで子鬼が大量にわいたとなると、城への被害が心配だ。鬼城殿、いかがか?」
「…………」
 呼びかけたが、返事はない。
 昨晩のこともあってか不安がった忠々に、桜華がやっと声をあげる。
「城は……」
 のぞき見た城を、更に望遠してみればわかるだろう。
 堀と塀を挟んだ敷地内をうろつくのも、城の屋内にて窓からちらつくのも、みなすべて――子鬼たちだということに。
「城は、既に落ちたわ」
 刀に手をかける桜華。
「仲間を連れて戻りましょう。城攻めをするわよ」

●子鬼への城攻め
 豊穣地方大名納取家の城が、子鬼の軍勢によって落ちた。
「子鬼――羅刹十鬼衆『餓鬼道』の眷属にして、今まさに豊穣の地を蝕んでいる闇よ。
 都は先の戦いからの復興で手一杯になっているし、四神結界に守られているせいで兵力を外に出したがらないの。地方大名はそれをいいことに覇権争いを始め、その隙を突く形で子鬼やその他魔種の勢力が忍び寄っている……。
 今回も、そんな事件のひとつね」
 所変わってカムイグラのある寄り合い所。
 囲炉裏をかこみ、座する面々。
 桜華は集まったローレット・イレギュラーズたちの顔ぶれを今一度確認すると、頷いて資料を広げた。

「納取家の城は深い堀池と高い塀によって囲まれた場所にあるわ。
 中央棟とそこから十時に伸びた四つの棟からなる建物からなり、警備は充分……のはずだけど」
 子鬼はその警備を食い破ったということだろう。
「人間と違って子鬼は思想も宗教ももたずただ一心に種族繁栄だけを目指す怪物よ。
 だから喜んで捨て駒になるし、簡単に物量作戦がとれる。
 かなりの数をため込んで、それを一気に放出する形で城になだれ込んだのね……。
 きっと、城内で無事な人はそういないはずよ……」
 幸いというべきか、依頼人の忠々の口添えによって周辺大名の兵士をいくらか借りることができた。
 子鬼たちが占領した城へ攻め込み、子鬼たちを残らず抹殺するのだ。
「兵士を借りられたといっても、あくまで頭数を揃える程度のものよ。主力はあたし達になるのだわ。覚悟を決めて、戦いましょう」
 刀を抜き、ギラリと光らせる桜華。
「子鬼は殺す。ただの一匹も残さずに」

GMコメント

■オーダー
 城を占領した子鬼の群れを殲滅します。
 一応そこそこの人数の兵士が味方についてくれますが、主力はあくまで皆さんとなります。
 積極的に子鬼を倒していきましょう。

■城攻め
 突入方法は皆さんで相談して決めてください。
 特にこだわりが無ければ真正面から突っ込んでいくスタイルでもいいでしょう。
 突入の際は『門を開く』『門番や門周辺の子鬼を倒す』を主眼に置いて作戦を立ててみてください。

 突入ができたら、あとは建物内に乗り込んで子鬼たちを倒していきます。
 桜華が調べた限りでは、ここに出現する子鬼は以下の三種類からなります。

・雑子鬼
 雑魚、ないしは『子鬼』とそのまま呼びます。
 一般的に想像する子鬼像であり、弱く愚かです。
 武装も木の槍や投石といった粗末なものですが、とにかく数があり群がってきます。
 回避ペナルティを高めファンブルを出させるといった戦法が得意です。

・武装子鬼
 城内の武器を装備した、少し強力な子鬼です。
 体格も雑子鬼よりも大きく、やや小柄な人間程度はあります。
 槍、刀、弓、鎧。そういった装備でがっちり固めた彼らは雑魚と呼ぶには少々歯ごたえがあるでしょう。

・子鬼大将
 群れを率いる子鬼のリーダーです。
 鎧を装備し特別にきたえた武器で戦います。武装内容は不明ですが、これだけの規模を統率しているだけあってそれなりに強力な筈です。
 予測するに、中央の棟にて王様気分を味わっていることでしょう。

 作戦内容は皆さんの相談で決めてください。
 八人一丸となって大将の元まで一直線に突っ込んでいってもいいですし、手分けして四方の棟の制圧からはじめてもよいでしょう。
※桜華さんのギフト能力があるため、子鬼の撃ち漏らしや隠れた子鬼の見逃しはないものとします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 落城、夜明けを待たず完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月12日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
世界の合言葉はいわし
彼岸会 空観(p3p007169)
鬼城・桜華(p3p007211)
子鬼殺し
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
築柴 雨月(p3p008143)
夜の涙
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
羽田 アオイ(p3p009423)
ヒーロー見習い
白妙姫(p3p009627)
慈鬼

リプレイ

●世界を囓る鬼のはなし
 砂利を踏み、深く呼吸をする。
 鳥の声すらしない林を出た先、城を前にした『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)はぽつりともらした。
「血の臭い……。
 見立ての通り、生存者はわずか……いや、もはやいないかもしれませんね」
「…………」
 『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)は腕組みをして無量の隣に立つと、スンと鼻を鳴らした。
 たしかに、むせ返るような血の臭い。
 この状況を目の前にした家臣の心中など察するに余りある。
「子鬼の強みは数だと知ってはいるが、城を落とす規模とはとんでもねぇな。
 まーでも暴れ甲斐がありそうで何よりだ。どっかに隠れるなり殺すまでもないとされるなり、生き残ってる可能性はあるんだろ?」
「ええ、零ではありません。このまま放置していれば本当に零となるでしょうが」
「依頼内容はあくまで『城攻め』じゃが……そういう話なら急ぐに越したことはないのぅ」
 二人の間からにゅっと顔を出す『特異運命座標』白妙姫(p3p009627)。
「しかしあの小鬼共が城をのう……世も末じゃ。岩窟が狭苦しくなったのかの」
 御主らにその城は手に余ろうに。と、白妙姫たちは刀の柄にそれぞれ手をかけた。
 錫杖のふりをもはや諦めた大太刀をじゃらんとならして抜刀する無量。
 摩耗しきった布をぐるぐると巻き付けた背負い鞘の先を掴み、肩越しに柄を握る獅門。
 腰帯にはさんだ白木鞘の刀を音もなく抜く白妙姫。
「さて者ども、城攻めじゃ」
 ぞろり、と彼女たちの後ろから現れた兵士達が笠のしたで目を光らせる。

「カムイグラにはいいゼノボルタも沢山居るみたいだけど……これは別物、ってことでいいんだよね?」
 医療鞄をさげた『夜の涙』築柴 雨月(p3p008143)が足を止め、士官学校の制服を肩にさげた『いわしを食べるな』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)がその前へ出た。
「反転した鬼人種(ゼノボルタ)の眷属っていうから、もう全然別物じゃない?
 どうせ大した知能も無さそうだし、こいつらがいわしを食べるとも限らないね。はー 許せねー」
 ぽきぽきと拳を鳴らすアンジュの後頭部をちらりと見てから、雨月は再び城へと目を向けた。
 四つの棟に囲まれた城は守りも固そうだが、あのさなかへ正面突破をかけるのが今回の作戦であるらしい。
「もし、城の中にまだ生きている人がいるならできる限り助けたいな」
「だね」
 『ヒーロー見習い』羽田 アオイ(p3p009423)がアンジュとは反対側に並んで拳をならす。
(子鬼かぁ……、なんで城をとったんだろ。ん、まあいいや。お城を攻めるのは初めてだけど、困ってる人のために頑張らないとね!)

 槍を手の中でくるくると回し、こじりを地にたてて立ち止まる。
 吹き抜ける風が『never miss you』ゼファー(p3p007625)の長い髪を弄ぶが、どこか甘い蜂蜜の香りを空気の中に溶かしては消していく。
「ついこの間、巣穴を一つ潰したと思ってましたのに。またこんな頭痛くなる数が出て来るとは、ねえ?」
「子鬼の巣はあちこちにあるのだわ。潰しても潰しても増え続ける。一匹でも逃せば巣と群れに変わる……」
 繁殖力のおかしな虫みたいねえとつぶやくゼファーに、『子鬼殺し』鬼城・桜華(p3p007211)は肩をすくめて返した。
「子鬼共が……奴等の物量作戦とも言える集団戦法が遂に城を落とすまでに至ったのね。
 やはり『餓鬼道』の眷属の子鬼は驚異。いえ、子鬼と言うだけで害悪……生かしてはおけないのだわ。
 子鬼は殺す。ただの一匹も残さずに」
 闘志に燃える桜華の目。彼女の頭の中には、ある推測がたっていた。

 なぜ子鬼はここまでも繁殖できるのか。
 なぜ子鬼はここまで略奪に拘るのか。
 魔種の眷属であるというだけでは説明のつかないこの現象に、一体どんなカラクリがあるのか。
 ……などと。
「きっと誰でも思いつくのだわ。そうでなければいいと、目を背けてきただけで」
 そしてきっともうすぐ、目を背けきれなくなる。

●人間破城槌
 門前の子鬼たちはなるほど門番とわかるような、いかにも分かりやすく門の前に2~3匹ほどで固まっていた。
 しかし門番というものの役割や意味までは知らないのか、彼らはその場に座り込んだり、武器になるはずの棍棒を投げ出していたり、門によりかかってだるそうにしているばかりだ。
 門と門内を繋ぐ伝達係であるのみならず、侵入者を真っ先に足止めしその間に門の防御を固めさせるという重大な役割をすっかり放棄した……ないしはもとから負っていないように見える。
 だから。
「先手必勝いわしミサイルッ!」
 しげみからバッと横っ飛びに現れたアンジュが両手をピストル型にして『BANG!』と囁くと彼女の眼前に羽根を組み合わせたような魔方陣が発生。吹き出た海水に伴って、大量の鰯が子鬼たちめがけて突っ込んでいく。
 圧倒的物量によって押し流され押しつぶされた子鬼たち。
 鰯がパッと消滅したそのさなかへ、水混じりの土を踏んでゼファーが勢いよく突撃していく。
 慌てて飛び起きようとした子鬼の脇腹をまずはつま先で蹴り上げ門扉へと激突させる。
 地面に転がった棍棒をなんとか手に取った子鬼が身構えた――が、そのリーチを完全に無視してゼファーの槍が子鬼の胸を貫きあげた膝をてこの支点にして子鬼を高く振り上げた。そのまま回転に勢いをつけ、スイング。
 放り上げられた子鬼は門の上を飛び越え、城門内へとべしゃりと落ちた。
 そのさまに慌てふためく子鬼たち。
 統率された防衛組織はこういういかにもな『煽り』に対してそう動じないものである。
 ゼファーなりの肌感覚でいうなら、いまの子鬼たちは軍の施設を占拠した暴徒民衆のそれに近かった。思想や宗教で統率されているわけでもなく末端は堕落しているところからして、占拠してかなり経った『やわい』拠点の制圧作戦に似ている。
「城の防御ってモンをまるで分かってないわねえ。所詮は猿マネ――もとい子鬼マネって所かしら」
 今更になって門に板をかけて施錠しようとしているのが音でわかる。
 ちらりと見ると、無量が黙って皆をさがらせ前へ出た。
 抜いた大太刀でカツンとつつき、扉の堅さや厚さを確かめる。
「流石は城門。堅固堅牢……されど、斬ると決めたらば何であろうと斬るのが剣士と言うもの」
 両手で握り、身構えた。
「――お覚悟」

 城門を閉じ一安心といった様子の子鬼たち。反撃に出るべく、もしくは飛行しての門越えを対策すべくやぐらへと弓兵が駆け上がっていく。
 そんな中。
 キキン――と門に線がはしった。
 五芒星でも描くような、それでいて円形をえがくような、どうにも形容しがたい閃きの後。
 まあるく切り抜かれた城門の板がゴトンと内側へと落ちた。
「お粗末」
 ぎょっとする子鬼たちに、涼しい顔をしてみせる無量。
 あけた穴めがけ助走をつける獅門。
 未だあがる砂煙を突き抜ける『ぞん』という跳びから、両目を大きく見開いた獅門。振り回した大太刀が驚きに立ちすくんだ子鬼たちをひとりふたりと切断していく。
 首をではない。
 胴体を斜めに、である。
「子鬼を蹴散らすのは俺らに任せろ。続け!」
 走る彼らを頼もしく見た兵士たちが、槍を構え雄叫びをあげながら門内の子鬼たちへと襲いかかっていく。
 一方、やぐらの上から門の内と外どちらを撃ったものか迷ったすえ、やぶれかぶれに兵士達をうちおろそうとする弓子鬼たち。
 アオイはそれを振り払いながら、『あれ邪魔だなあ』とつぶやいた。
 彼女に守られるかたちで神気閃光の光を手刀によってはらう雨月。
 周囲の子鬼たちをまとめて薙ぐとやぐらを指さした。
「白妙姫さん、あの子鬼たちをなんとかできますか」
「ふうむ、やってみようか」
 白妙姫は鼻歌交じりに壁めがけて走り、壁を蹴って更に跳躍。やぐらの骨を鉄棒のように逆上がりで飛ぶと骨の上に立ち、更にぴょんぴょんと飛んでやぐらの上へと登っていく。
 最後に屋根に両手をかけた両足キックが子鬼を櫓から蹴り落とし、門を挟んで反対側のやぐらへと目を向けた。
 焦って矢を向ける――が、白妙姫はぺろりと舌なめずりをすると、助走をつけた大ジャンプでやぐらからやぐらへと飛び移り、空中で抜刀。矢をかまえた子鬼を着地と同時に斬り捨てた。
 そんな中へ、拳銃を撃ちながら入っていく桜華。
 ガルマとの戦の中で子鬼の血を吸い生まれた名刀『子鬼殺し』を抜刀する。
「我が名は鬼城桜華! 子鬼殺したる私に挑む子鬼はいるかしら?」
 周囲の子鬼たちは桜華をギラリとにらみつけると、一斉に突撃――したかと思うと豪快な踏み込みからの回転斬りによって子鬼たちはまとめて首を切り落とされた。
「さあ、次は誰?」

●鬼を殺すのはいつも人間か?
 板張りの通路を駆け抜ける。
 血と泥と形容しがたいあれやこれやが散らばる中。子鬼の死体を飛び越えながら半身を乗り出して拳銃を乱射する。
 曲がり角より飛び出した子鬼の肩を打ち抜くと、足音強く迫りショルダータックルをあびせながら通路脇に構えていた子鬼たちへとさらなる乱射を浴びせていく。
 待ち構えた前方数匹を牽制しつつ肩から転がり身を立て直し、壁蹴りからのさらなる前転。と同時に剣を振り込み斜めに切り裂いた子鬼たちを床に転がした。
「我が愛刀子鬼殺しも子鬼共の血に飢えてる様ね! さあ、次に刀の錆になりたいのは誰?」
 桜華のもつ特別な力が子鬼たちの憎しみをかきたて、そして桜華の憎しみもまた子鬼たちへと燃え上がる。
 次々に開くふすまから子鬼の群れが飛び出すも、風を纏い駆けつけたゼファーの槍が子鬼二匹を同時に突き刺し、壁へと固定。
 側面よりとびかかった子鬼の顔面に裏拳をいれて反転させると、がしりとキャッチした脚を柄にして周囲の子鬼たちをまとめてなぎ払った。
 気絶した子鬼を空いた部屋へ放り投げると、子鬼をそぎおとす形で槍を壁から抜いた。
「城を攻めるにしたってかなり数が減ったでしょうに、こんなに残ってるんだとしたら不自然じゃない?」
「それって、どういうこと……?」
 ゼファーに出来た腕の怪我へ、素早く薬と包帯を施していく雨月。
 数秒で終わる高速治療を受けながら、ゼファーは想像した。
「この城が、仮に『新しい巣』だとしたらどうかしら」
「……この場所で繁殖をしてるってことかな。洞窟よりは過ごしやすそうだけど……あ、いや」
 雨月は否定しかけてはたと自分を制した。
 ある子供の話。熱い夏の日にみつけた虫を哀れんで涼しい部屋に入れた所みるみる弱ってしまったという話である。生物にはそれに適した環境というものがある。泥が適したものも、湿気を好むものも、雪や氷の中でしか生きられないものもある。
 子鬼にとって洞窟のように暗く狭く汚れた場所は過ごしやすいのかもしれない。それを突然こんなに開けた場所にうつれば繁殖の効率はおちるはず。
 であるにもかかわらず、大きく繁殖できたということは……?
「あぶないっ」
 考えた纏まるより早く、矢が無数に飛んできた。
 アオイが間に割り込みかわりに矢をキャッチする。
 が、直後に飛んできた第二第三の矢に刺さり、その衝撃によって壁に叩きつけられてしまった。
「ちょっと、威力……!」
 予想外の強さに驚きつつ、刺さった矢を強引に引き抜く。
 通路の先から現れたのは、漆塗りの美しい弓を構えた鎧武者……否、武装した子鬼であった。
 通常の子鬼よりも体格がよく、そして装備も整った子鬼は並のそれを大きく凌ぐ強さをもつ。
 子鬼と侮れば命を落とすことになるだろう。
「さがって、ここはアンジュたちが突破する」
「通路をすすむたびに一人ずつ失ってはたまらんからのぅ」
 アオイたちを脇の部屋へうつし治療に専念させると、白妙姫とアンジュは通路に陣取って武装子鬼へ構えた。
 弓を構える武装子鬼。
 放たれる矢を紙一重で回避し、アンジュと白妙姫はまっすぐに走り出した。
 と見せかけて白妙姫は跳躍。空中反転し天井に脚をつくと、武装子鬼の上をとって刀を抜いた。
 水平に狙いを整えていた武装子鬼にとって突如ひらけた縦軸への狙い。
 迷いが矢を乱れさせ、白妙姫の頬を僅かにかするのみとした。
 その直後にアンジュの拳が武装子鬼の腹へと打ち込まれ、更に白妙姫の刀が武装子鬼の首を落とした。
 ――直後、脇の壁を突き破って巨大な棘突き金棒をもった武装子鬼が現れる。
 攻撃直後の二人は直撃をうけ吹き飛ばされるも獅門と無量が入れ替わりで突撃。
「雑子鬼だろうと武装子鬼だろうと立ちはだかるなら何でも斬るぜ!」
 獅門の繰り出す連続斬り。武装子鬼は大きな金棒によってそれを弾いていくが、攻撃が重なるたびにその姿勢は徐々に徐々に崩れていく。
 ここぞという一発を狙い、無量の刀が武装子鬼の手首をスパンと切り落とした。
「サムライ気分も充分堪能したでしょう。此処等で幕引きと致しましょう」
 ごとんと落ちる腕、そして金棒。
 獅門はがら空きになった胴体を横一文字に切り裂き、更なる無量の太刀が十文字に筋を重ねていく。

●子鬼大将
 破壊された壁から、血塗れの武装子鬼が転がる。
 畳が何枚もしかれた広い部屋に、人間の死体が無数に転がるその部屋には、巨大な子鬼がひとりあぐらをかいて座っていた。
 もはや子鬼という表現が相応しくないほどの、3mには達するであろう巨大な鬼。継ぎ合わせた大鎧を纏ったそれが、太刀を握って立ち上がる。
 問答をする――つもりはない。
「いわし!」
 アンジュの召喚するいわしの群れが飛び出すも、子鬼大将はそれを一息で斬り捨て掴んだ鰯を食いちぎる。
 桜華が銃撃を浴びせ続けるも鎧に弾かれ、二人は一気に距離を詰めていった。
 ――が、そんな動きを予測したかのように子鬼大将は急速接近。
 攻撃のテンポを狂わせつつも、太刀によるひとなぎで二人を吹き飛ばしてしまった。
 屋外。もとい落ちれば死にかねない高さへと放り出されそうになった二人をゼファーとアオイがキャッチ。
 ゼファーはアンジュたちをおろすと、武装子鬼のさらなるタックルを構えた槍で受け止めた。
 否。受け止めきれなかった。
 一発二発と打ち込まれた即死級の打撃をそれぞれ受け流すも、三発目に打ち込まれた二刀交差の斬撃によって身体がうき、そのまま屋外へと放り出されていったのだった。
「ゼファーさん!」
 彼女を助けるべく身を乗り出して身体を掴む雨月。
 そんな雨月を狙う子鬼大将を押さえるべくアオイが立ちはだかるという形になった。

 他の子鬼たちに足止めをくって一足遅れた白妙姫、獅門、無量は壊滅しつつある仲間を発見。
「おいおい好き勝手やってくれるなよ」
「真打ち登場じゃ!」
 背後より狙う白妙姫に、子鬼大将はギラリと目を光らせ振り返った。
 天井を足場にした白妙姫と、低い姿勢から『ぞぬん』と打ち上げた獅門の斬撃。二人の同時斬撃をそれぞれ二刀でうける。
 が、これまでゼファーたちがただうけていたわけではない。蓄積したダメージが刀を綻ばせ、この一撃によってついに粉砕したのだった。
 目を見開く子鬼大将。
「貴方の自慢の武具と私の斬った城門、果たしてどちらが硬いか。試してみるとしましょうか!」
 ここぞとばかりの無量の刀が子鬼大将の腹を貫き、同時に背後より飛びついた桜華の刀が子鬼大将の首へとまわった。はぎとろうとする腕を、アンジュが掴んで強引にへし折る。
「子鬼死すべし。慈悲はない」

●繁殖
 子鬼大将の首が掲げられたことで、子鬼たちの統率は崩れた。
 味方の兵士たちがそんな子鬼たちを追い詰めすべて駆除した……その後で。
「これを、あなた方に見せるべきかどうか……」
 歯切れの悪い言い方で、依頼人の男が言った。
 制圧した棟のうちひとつに、生存者が見つかったのだった。
 それも大勢。
 城に暮らしていた女性たちである。
「…………」
 縄に繋がれ実質投獄された彼女たちの有様を、桜華たちは目の当たりにした。

成否

成功

MVP

彼岸会 空観(p3p007169)

状態異常

なし

あとがき

 ――『子鬼』の繁殖方法が判明しました。
 ――子鬼は人間を利用して繁殖し、群当たりの繁殖用人間固体数が多ければ多いほど強力な子鬼の発生率が増加。一定規模を超えると子鬼大将が発生することが判明しました。

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