シナリオ詳細
桜花、獄炎の中に
オープニング
●争いの影に宗教(おしえ)あり
カムイグラ中央・高天京が魔手や肉腫の魔の手から逃れ相応の月日が経った。
されど、中央の安定は地方の平定とイコールたり得ない。中央の混乱の影響もあって、地方では未だに少数部族の跋扈、知識として残されてしまった呪詛などが蔓延っている。
そしてその混乱は、さらなる悪意が蔓延るには十分すぎる下地であることは語るべくもない。
「彼奴等めはまたこの地へと向かってきているのか? 全く懲りぬ連中よな」
カムイグラ地方大名、剣ヶ峰 白明(つるぎがみね はくめい)は己のなけなしの領地に今日も攻め入ろうとしている者達の報告に、諦めの色が濃いため息を漏らした。相手は大したものではない、ただの少数部族である。ナントカという宗教を奉ずる連中と最近つるんだと聞いたが、剣ヶ峰領地はそも、その名に違わず相応の武力と練武を是としている為今までもそのような連中を討ってきた。
それでも相手を根絶やしにしなかったのは、白明の主義として「敵意あるものに敵意で応え、殺意あるものに殺意を向けよ」という、言ってしまえば悪意の等価交換とでもいうべき信条があるからで、現に彼は彼等を自らの領地に迎え入れることはしない代わりに、無為に殺して回ることはしなかった。それどころか。
『彼は自らに弓引く者が飢饉の憂き目に遭った際に助けてすらいる』。それが、白明をただの武家大名と一線を画す部分である。
それはそれとして、今攻め込んできている少数部族は近日、その武力闘争の割合を大きくしているのは確かだ。彼等とて人は無限であるまいに、若き力を徒に消費するのなら今少し力をつけてから、地に足をつけた『闘争』を望むものだが――白明は決して上等ではない茶を啜りながら、春の近付く庭を見た。
すでにトウの立ってしまった蕗の薹だが、きっと次の春に向けて繁茂してくれるだろう。
早くに没した母は蕗炒めを作るのが好きだったと聞く。墓前に供えてやるのも悪くない。
そんな事を考えていた彼は、しかし次の瞬間、遠雷のように轟いた爆轟に目を剥いた。
「何事か?! あの連中に斯様な悪辣な芸は無いであろうが!」
「お言葉ながら申し上げます! 奴等に取り入った連中の中に、人の範疇を超えた外道が混じっている様子! あろうことか……年端も行かぬ痩せた子等に火薬(たまぐすり)を巻きつけて……邸宅に……!」
白明は、報告に現れた兵士の言葉に理解できぬ、といった顔をした。当たり前だ。少数部族であれば子供こそが明日の力、未来の糧。それを事もあろうに自害させて狼煙とするとは。
「それも1人ではなく複数、奴めら、先というものを見ておりませぬ……それで、3人目は導火線を射落として止めましたが、子の体を避けるなど達人でもなければ難しく……救えませぬで。その子供等はみな、同じ書簡をもっておりました」
これを、と差し出された書簡を読み上げ、白明は歯軋りを抑えられなかった。
『数日後、再び鉄火と硝煙のもとにこの領地に攻め入り、その首を奪いに往く。我等灰桜衆也。死と血肉を以て汝等の過ちを正す者也』
もはや、攻めてくるアレは彼が討ち、彼が救ってきた少数部族などではない。ただの狂奔に塗れた狂人だ。
――灰桜。かつて『神逐(かんやらい)』と呼ばれた戦いに於いて白虎門を襲撃した羅刹十鬼衆・『畜生道』泰山が率いていた宗教団体であり、肉腫すら用いた過激なテロ行為を行う者達だ。
●泰山動かずとも狂人万来
「うちが知ってるのは泰山のやりそうなことと、神逐の時の所業くらいやわ。だから、あれの手から離れた連中が何をやろうとしてるのかは分からんのやわ」
白亜(p3p008770)はそう言うと、呆れたように首を振った。かつての戦いでその暴挙を見てはいるが、彼女が知っているのは泰山の過去とそのときの戦いぐらいだ。その後、どのような動きをしているのかは明らかではない――ローレット全体でも、そう情報はないハズだ。
「以前の戦いでは心臓に似た肉腫の爆弾による自爆特攻を強いていたようですが、今回は黒色火薬による自爆特攻ですか。随分原始的になりましたね……でも、彼等を統べる人間は複製肉腫であるようですが」
『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)は白明から届いた依頼の書簡、そしてそれに記された情報を確認していく。少数部族を併呑した『灰桜』の一部が総出で襲撃してくると見られ、敵の数はかなりのものだ。
指揮官として現れる複製肉腫・『全灰没』黒無は指揮能力に特化しているが本人の実力も十二分に手練であり、生半な意思と自信で抑えに回ればたちまちのうちに蹴散らされるだろう、と記録されていた。
救いがあるとすれば、白明が弓兵部隊を拠出してくれることぐらいか。
「灰桜の面々は基本的に後先考えない戦い方をしてくるはずです。自らの血に遅効性の毒を混ぜる、体内になにかを飼う、その他、死を死と思わぬ戦法があると思って結構です。今回は水際作戦として彼等を止めるので、一般人の被害などは無いですから、ご安心ください」
それが唯一の救いだろうか。……もとより、イレギュラーズが敗北すればその限りではないだろうが。
- 桜花、獄炎の中に完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月15日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
黒無は遠くに見える剣ヶ峰領地を見据え、不満げに鼻を鳴らした。
どうやら、委細不明ながらも傭兵の類を雇ったらしい。もしくは、『あの方』を煩わせる神使共か。
高慢な領主にしては知恵が回るな、と彼は感心する。嗚呼全く腹立たしい。彼等がこれから死んでいくのは剣ヶ峰がそこにいるからだというのに。
「お前はただそこに在ることが罪になる。領主などという高慢な地位がお前をそうさせたのだ。領地、領民、それらに牙剥く者が現れたのは全てお前のせいなのだ」
だからそれらを纏めて圧し潰す。恨み持つ者達ごと、纏めて潰れてしまえば善い。
黒無は口元を醜く歪めると、信者達を引き連れて前進する。『灰桜』の教えに絆された彼等に、もはや以前のような自意識というものはない。あるのはただ、死後の名誉のために華々しく散ろうという歪んだ功名心のみ。嗚呼、楽しいことこの上ない――。
「我らは貴方たちを助けるためにここに来ました。 ですが、この地はあなたがたの生まれ育った場所、これからもあなた方の手で守り通さねばならぬ場所。 あのような気狂い達に好きに蹂躙させていいのでしょうか? いえ、いいわけが無いでしょう」
『天地凍星』小金井・正純(p3p008000)は遠くから灰桜衆を視界に収め、弓兵隊へと声をかける。襲いくる敵、その主力を抑えるのはイレギュラーズの役目だ。だが、本当に最後にものをいうのは彼等の実力。正純がいうように、彼等一人ひとりの力も発揮せねばならぬのだ。
「……一体何人の人間をこないな事するつもりなんや、あいつ」
『必ず奴を……』白亜(p3p008770)はその有様を以前の戦いを通してみているから驚きは薄い。薄いだけで、嫌悪感や理解を超えた事態に対する動揺は当然ながらあるのだが。
「下衆ね。どう生きればそんな思考に到れるのかしら。ま、分かりたくもないけれど」
「少なくとも、つい先日までは命を無下にする者達ではなかった」
『月輪』久留見 みるく(p3p007631)の嫌悪感をにじませた言葉に、後方に控えていた剣ヶ峰弓兵隊の1人が苦虫を噛み潰したような顔で応じた。
「奴らは命を尊んでいた、白明殿に相容れぬ心持ちあれど恩は忘れぬ、愛憎半ばする者達だった」
「宗教と言うものは非常に厄介です。救いになる時もあれば、時に他者を傷つける刃ともなる……自らの中でのみ消化すべき教えを、他人に押し付けた末路があれなのでしょう」
「彼らの更生の為……神の御許へと送り届ける事こそが真の愛でしょう。この世は彼等にとって、さぞや生きにくいでしょうから」
『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)は、弓兵の言葉を咀嚼しながら『末路』を想った。賢明だった者達すらも狂わせた言葉というのは、どれ程に罪深いものだろうか、と。『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)はそんな者達に対し、さして深い感慨を持っているわけでもなく。ただただ、彼等は哀れだ、救わねばならぬと嘯いていた。彼女の瞳は硝子玉の如くに感情を映さず、従ってどこまでが本心かを推し量ることが出来ない。ただ、言葉の端々で瞳に色が戻るところを見るに強い敵意と害意だけは本物であるようだ。
「己を正義と嘯き、多くの命を死地に追いやる奴が、過ちを正すだと? 正義ならば許されるのか? 復讐ならば許されるのか?」
「屹度、此の時、此の場に於いて、言の葉を交わすことに意味は無い……のだと思います」
『背負い歩む者』金枝 繁茂(p3p008917)の眼に宿るのは、ただただ強い憤りの輝きであった。正義の定義は其々であるが、少なくとも大義名分のもとに命を無為に散らせるような輩が広義の『正義』ではないことぐらい彼にも分かる。復讐は何も産まぬというが、それは生み出すものと捨てるものとの釣り合いがとれぬという意味でもある。
そういう意味では、『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)の言う通り最初から相手を想い、相手に寄り添う行為は無駄であるのかもしれなかった。相手が自分達のような感情を持っているのであれば、道場の余地もあったのだろうが……洗脳され、命を擲つだけの無法者の群れがそれを残しているとは想い難い。
(普通、兵士っちゅうのは、もっと辺りを見回したりざわついたりするもんですが……妙な雰囲気です)
『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)は仲間達とはやや離れた位置に陣取り、使い魔越しに灰桜衆の姿を確認する。死地に赴く者ならば、もう少し感情が表に出てもおかしくないのだが静かすぎる。兵士ならまだしも、一般人だった者達がこれである。彼にはこれが、鉄帝で見た機械のようにすら感じた。
「さて、そろそろ頃合いですかの。撃って撃って撃ちまくりましょう!こういうのは、気勢を削ぐに限ります!」
「愚かしくも愛おしき剣ヶ峰の愚昧共よ、喜べ! 今日この日を以て、貴様達は灰桜の殉教者と共に命を捧げる……つまり、諸共に殉教者に名を連ねる名誉を得るのだ!」
支佐手が術式の準備に取り掛かるのとほぼ同時に、黒無は両手を上げ高らかに宣言する。
灰桜衆は雄叫びを上げ、地を踏み鳴らし向かってくる。……先程までの静けさが嘘のような狂奔である。
「かわいそうやけど、心治すすべわからんから……殺して救うしかあらへんな」
「豊穣の未来の為なら、致し方あるまい」
白亜と 繁茂は真っ先に突っ込んでくる灰桜衆……奇妙に血管が盛り上がった者達を視界に収める。弓兵隊の一斉射をものともせず向かってくる者達へと、イレギュラーズの術式、そして汎ゆる攻撃が飛び交う。
悲鳴1つ上がらぬ奇怪な戦端は、こうして開かれた。
●
「蟲でも毒でも爆弾でも、俺を超える事はできないぞ烏合共!」
「自ら望んで蝕まれ、誰かを蝕もうと迫る……教えそのもののように見えます」
繁茂の高らかな宣言は、全力を以て相手に迫ろうとする灰桜衆の何名かを確かに引きつけ、その矛先へと導いた。されど、それをすり抜けた者達もある。彼等は剣ヶ峰弓兵隊の矢衾にすら足を鈍らせど止まることなく迫りくる。
足が鈍ったなら、ソレで十分。無量の斬撃は確かに蟲を宿した灰桜衆、その数名を切り裂き、地面へと引き倒した。
更に残った個体を待ち構えるのはみるく。『月輪』を構えた彼女から放たれた邪剣は、その一撃で終わりではない。残心の姿勢をとった彼女に襲いかかった毒遣いの個体は、後の先をとった彼女の斬撃に意識をするりと断ち切られた。
「さて、そろそろ頃合いですかの。撃って撃って撃ちまくりましょう! こういうのは、気勢を削ぐに限ります!」
そして、支佐手は正面からぶつかり合う双方の脇から、数名の弓兵と共に術式を展開する。
正面からの弓兵隊は警戒しただろう。だが、意識の外から飛び込む矢はどうにも防ぎようがない。
それが、ただでさえ鈍った足取りをさらに鈍らせたのは明白たる事実。
「父と子と聖霊の御名によって……amen、ってね」
ぎこちない所作で十字を切りつつ、貼り付けた表情を崩さぬままにライは真銃で以て弱った灰桜衆を銃弾で撃ち抜いていく。打たれ弱い自分が戦うなら、弱った相手を優先する。当然といえば当然の話。
「堪忍な、ほな……あの世で元に戻りやす……地獄でも頭んなかお花畑で」
白亜は灰桜衆の死を思いつつ、小さくつぶやく。宗教に耽溺し、零落した魂にどの程度救いが訪れるかは定かではない。だが、その考え方、心のあり方はライの敵意に似るものともいえた。
「小賢しい。あの奴ばらめを先に潰さぬとどうにもならぬな……燃えろ。そして高らかに爆ぜろ」
黒無は指先を軽く振り、遠間へ控えていた灰桜衆ともどもイレギュラーズを燃やしにかかる。一瞬の炎、そして火花を散らし前進する灰桜衆。その狂気は、真っ当な人間を冒すに十分といえただろう。
「彼等の足を止めて下さい。余裕があれば、あの導火線を……早く!」
正純は弓兵隊に声をかけつつ一斉射を促し、己も中るを幸いに弓を引く。仮に彼等が倒れようと、巻きつけられた火薬は無事。つまりは、続く火炎で爆破される可能性すら持ち合わせているのだ。
だからこそか、それならば、か。
みるくはおもむろに飛び出すと、突っ込んでくる信徒を正面から受け止め、毒に冒された信徒へと押し返す。時間はない。爆発は覚悟の上。だが、弓兵隊へは通さじと。……ややあって炸裂した灰桜衆の肉体は、毒功を持つ者達諸共、形が残らぬ程度に崩れ落ちた。
「っさいあく……この服お気に入りだったのに!! でもあたし、タダで転びたくないの。やられっぱなしはクールじゃないもの、せめてものお返し」
「死を恐れぬと云うことは、死を避けることも無いと云うこと……巻き込まれてなお、彼等の目には喜色が混じっていましたね。正純さん、弓兵隊を下げてください。爆薬はまだ『生きて』います」
アッシュは爆破から逃れたものの、たしかにその瞬間を見ていた。死ぬことこそを目的として、誰かを巻き込むことは二の次三の次とするその狂気。死んでなお、毒で蟲で、巻きつけた爆薬で二次被害を醸成する悪意。理解が出来ない。最早あれは人ではなく、厄災の類である。
「皆さん、一発射ったらすぐに後退! 爆薬からできるだけ離れて……敵が減れば、あとは私達が泥を被ります! あなた達が徒に罪を背負う必要はありません!」
アッシュの戦略眼による危機の察知、正純との連携による部隊統制――それがなければ、次の瞬間に舞い散った黒無の炎、そしてそれを起点とした遺体の爆破は弓兵隊を半数ほど亡き者にしたであろう。
死んでなお、そこにあるだけで場を蝕む毒となる。
生きていても、さしたる功をなせぬ命で。
ここまで醜いものが、果たしてこの瞬間、この戦場にあっただろうか?
形ままならず崩れ落ちた遺体を踏み越え進んでくる灰桜衆、残りわずかのそれらを押し切るように……無量、そしてみるくが黒無へと迫る。
●
「御機嫌よう。無駄なやり取りなんか要らないでしょう? だからさようなら」
「左様、死ぬだけの羽虫にかけてやる情けもない」
みるくの放った邪剣は見るものの思考を奪う流麗さで黒無に襲いかかった。が、反射的に突き出された彼の手にあわせるように、灰桜のひとりが割って入りその剣を身に受ける。直後、せり上がった死者の壁は信徒ごとみるくを圧し潰しにかかるが……間一髪、避けられたのは反射神経のなせる技か。
「死してなお生者を殺す。外道めが……」
「逆だよ小娘、死ぬならばこそ痕を残さねば。そもそも彼等は剣ヶ峰に恨み骨髄であったのだろう? であれば、命賭してでもその首に指をかけねばなるまい。生き汚く施しを受けて、彼奴に殺されてきた同胞に恥だと思わぬのか」
「―――― この祈り 明けの明星 まつろわぬ神に奉る」
無量の鋭い剣捌きを正面から受けつつ、黒無は彼女、そしてその背後に控える正純を狙わんと首を巡らせた。が、魔性を纏った一撃が届くが早く、そして無量の斬撃による行動阻害が一手、上回る。
必死に捻った身、射線を遮る死霊の壁。それでも正純の一射は、過たず黒無の脇腹を貫いた。
「ぐ……っ、ふう――いや、愉快哉、小娘共。貴様等の一撃には恨み怒り敵意、思う様に全てを詰め込んでいるように見える。俺を殺したいという感情がひしひしと伝わってくる」
「洗脳まがいのことをして信仰などと嘯くあなたは、同じ信仰者として認められない」
次の一撃を『星火燎原』に番えた正純らを見つつ、黒無はなおも不敵に笑う。その目、口元、そして声が放つ狂気への誘いはみるく等へと襲いかかると、その精神の奥底へと食らいつく。無量は感情を些かも揺さぶられなかったが、その威力は看過できるものではなかった。それに巻き込まれた他の者も然り。
一瞬、動きを止めたところに追い打つようにせり上がった死体の壁は、イレギュラーズを強かに打ち据え、双方の視線を遮蔽する壁となった。
「命を駒に、死を強いて。其の狂信の果てに何が在ると云うのです」
「それを成し遂げるのは我々でなくともいい。その答えを叫ぶのは我々の役目ではない。だが、信じるだけで、待つだけで救われぬなら命を擲って救いという『形』に縋ることも寛容であろうよ」
『scarred.』と『Mistarille.』の二振りを手に肉薄するアッシュの問いかけに、黒無の表情は喜色に歪む。間に飛び込んできた自爆信徒は、彼女を逃さぬと言うかのように掴みかかり……その手が空振った瞬間に炸裂する。火力や至近での衝撃より、飛び散る肉片の感触が精神を蝕みにくるのがよくわかる。
「玉砕戦法を取っている時点で、お前達に先はない。ここで終わりにしてやる」
「掃き溜めのゴミ以下に仕えて、こんなところで死ぬんか。怪態な好みやわ」
繁茂の言葉にゆるく笑みを浮かべた黒無であったが、続く白亜の言葉にその笑みも消える。或いは、その姿見にだろうか。
「何をして先というのか。我々はここで死に、彼処で死に、そして汎ゆる場所で命をかなぐり捨ててこの国に傷痕を残す。我らの命はその後、そしてその更に後に意味を持つだろうよ……見えんか?」
白亜は黒無から視線を切らず、背後の気配に意識を傾けた。
支佐手について迎撃を行っていた少数の弓兵、そして後方に控えていた剣ヶ峰弓兵隊の本陣は、死者こそ出していないまでも混乱の渦中にあった。数多転がる死体、大凡人の死に方とは言い難いそれらはただ死に逝くのみならず、見る者に苛烈な衝撃を与えたのだ。
後方から十二分にイレギュラーズを支援しよく戦った方であるが、あれではもうものの役にも立つまい。
「まさかここまで命を捨ててくるとは……あの男の洗脳は実に……実に救いがない」
支佐手は残りわずかの信徒を逃すまいと術式を叩き込み、とどめを刺しにいく。イレギュラーズ相手に声高らかに語る黒無の姿は明らかに死の影が近付いている様子だが、その瞳の狂気の度合いは彼ですら躊躇する凄味があった。
「過ちを犯しているのはどちらか……!」
「あんたたちみたいに死ぬ覚悟なんかただの逃げよ。あたしたちは皆、生きる覚悟をしてきてる!!」
無量の刃が届くより早く、死体の壁が幾重にも折り重なり彼女へ迫る。黒無は顔の毛穴という毛穴から吹き出したかのような血でしとどに顔を濡らし、勝利を確信した表情で無量を見た。
「命に縋り生に耽溺する貴様等に決まっておろうが! 命を捨てる覚悟もなしに、我等を止められるとでもか!」
だが、打ち据えたのは無量ではなく、みるく。相当量の傷を負った彼女はしかし、運命を拠り所として無量をかばい、己の命燃える限りにその猛攻を凌いだのだ。
最早、無量の切っ先を止めるものなく。滑らかな太刀筋に刻まれたその視界に最後に飛び込んできたのは、恨みと無念とを綯い交ぜにした白亜の複雑な表情だった。
「呻き声がさ……五月蠅いんだよ」
「その辺にしておけ、そいつ等はもう死んでいる」
ライが倒れ込んだ信徒にしつこく銃弾を浴びせかけるのを、繁茂は強く手を引いて制止する。一瞬敵意顕な表情を見せた彼女は、しかし即座に取り繕うような笑みを見せると、信心深い者の顔へと変わる。
「今彼等を静かな神の御許へ……」
「アレが、あの死体が泰山に心許してしまったの末路や。家族や知人に興味もたせんよう注意させなあかんで?」
「……あなた方のお仲間も、中々に興味深い信仰をお持ちのようだ」
倒れ伏す信徒達の完全な死亡を確認しつつ、白亜は弓兵隊へ向けて声をかける。混乱冷めやらぬ状況下でどれほどの説得力が、そしてライの狂態を見せて如何程に人心に響くものか。……少なくとも、少数民族1つをみずからの存続と秤にかけさせたその罪深さは、彼等にも思うところあるはずだ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
爆薬は火さえ付けばどうとでもなるというお話でした。
……まあ、たちの悪い斯様な宗教はいつ再び燃えるかわからないという意味では、湿気った火薬みたいなものなのかもしれません。
GMコメント
テロ集団じゃないですかやだー!
●成功条件
『灰桜衆』鏖殺。1人たりとも残してはならない。
●灰桜
羅刹十鬼衆・『畜生道』泰山によって洗脳された宗教団体。<神逐>時には少数部族などを巻き込み白虎門に襲撃、自爆型の肉腫によってかなりの被害を出した(黒筆墨汁SD『<神逐>四神結界緊急防衛作戦』に詳しい)。
●『全灰没』黒無
今回『灰桜衆』を統率し、少数部族を併呑したリーダー格。
泰山ほどではないが扇動する能力が高く、指揮能力を駆使して人々を操る。
HPはそこそこ、EXAと抵抗、命中に優れる。常に灰桜衆2~3名を護衛として侍らせている。
・狂奔扇動(P):本人よりレンジ3全周の友軍に対し『EXF上昇(中)』『CT上昇(小)』『足止無効』付与。代わりに副行動が『移動』か『全力攻撃』固定となる。
・広域着火(A):神遠範・【火炎】【業炎】、追加効果として範囲内の「灰桜衆(自爆)」の導火線に着火する(後述)。
・死霊壁(A):神至列、【呪い】【不運】【致命】。死体となった者達が積み上がりせり上がり、迫る敵を圧し潰す。
・狂気誘導(A):神超貫、【万能】【怒り】【高威力】
●灰桜衆(自爆)×10
灰桜の中で、黒色火薬を多重に巻き自爆特攻する者達。
BS【火炎】系統を受けた際、2ターン後に生死問わず爆発(物特特・自分より1レンジ全周、【火炎】)する。爆発前に導火線(部位攻撃・小の為命中減少補正が高い)を撃ち抜くことで回避可能。
なお引火後は全力移動を行う。
●灰桜衆(毒功)×10
灰桜の中で、血中含む全身に毒を有しそれで攻撃してくる人達。
通常攻撃【猛毒】、【反】【毒無効】。
●灰桜衆(餌)×10
灰桜衆の中で、体内に成長する異形の蟲を飼う者達。全力移動し近場の友軍にとりつき、体内の蟲を相手に流し込もうとする(物至単、攻撃詳細情報不明)。
●剣ヶ峰弓兵隊×15
友軍。【基本レンジ3】の弓兵達で、それなり戦えます。灰桜衆よりは強い(身体能力的に)ですが、彼等の自滅的な行動による士気の変動が大きいので指揮や統率などを駆使することで有意に行動できます。
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