PandoraPartyProject

シナリオ詳細

フィジカルバーク。或いは、火口の暴徒…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●暁に吠える
 彼女は生来不運であった。
 道を歩けば石に躓き、部屋に籠もれば火事に遭い、あげく故郷は戦火に焼けた。
 行く先々で不幸に見舞われ、時には大きな怪我を負い、やがて彼女は思い至った。
 どこへ行っても不幸に見舞われるのならば、自分はその不幸を全て踏破してみせようと。

 その女の名はリーオ=ワイルド=サバンナハート。
 外跳ねの癖がついた金の髪。
 意志の強そうな太い眉に、鋭く細められた琥珀の瞳。
 女性としては高い身長。鍛え抜かれた肉体を白金色の鎧に包む。
 腰に下げたメイスと背におう巨大な十字の盾が彼女の武器だ。
 この世のあまねく不幸をその手で打ち砕き、不運に嘆く多くの者を救うため、彼女は騎士になっていた。
 
 そんな彼女は、現在火山の火口付近に座していた。
 熱された鎧が皮膚を焼くが、そのようなことは些事である。
「来たか……」
 そう呟いて、彼女はメイスを手に取った。
 ゆっくりと立ち上がるリーオ。
 その足元が、ドクンと脈動するように揺れた。
 直後、轟音と共に火口から溶岩が溢れだす。
 傍らを流れていくそれに向け、リーオはメイスを振り下ろした。
 衝撃。
 岩盤が砕け、生まれたクレーターに溶岩が溜まる。
 これで暫くは、溶岩の流れをせき止められるはずだ。そのことに安堵し、リーオはふぅと熱い息を吐き出した。
「さぁ、私が相手になってやるぞ……怪物め!」
 なんて、言って。
 腰を落とし、メイスを構えたリーオの前に赤黒い肌の怪物が姿を現した。
 その身に溶岩を纏った巨体。
 全長7、8メートルはあるミミズか蛇のような体。
 頭部に目らしきものはなく、あるのはただ大きな口が1つだけ。
 暗い口腔には、鋭く太い牙がびっしりと並んでいる。
 その怪物の名は“ヘリオン”
 “乱暴者”または“暴徒”とも呼称される通り、その性質は破壊の権化といって差し支えないものである。
 何しろヘリオンは、これまでいくつもの火山を渡り歩き、その度に幾つもの村や街を焼いて来たのだ。
「噂には聞いていた。いずれどこかで逢ったのなら、討ち滅ぼしてやろうと心に決めていた」
 村を焼かれた老婆の嘆きが、今も耳にこびりついて離れない。
 母を溶岩に飲み込まれた少女の、暗い瞳を今でも時折夢に見る。
 故郷を失い、放浪の旅に出かけた男の痩せた背中を幻視する。
 多くの不幸を止められなかった己の愚鈍さが歯がゆかった。
 悔しくて、仕方がなかった。
 けれど、それも今回で終わりだ。
「この山の麓には街がある。そこでは多くの人々が、いつもと変わらぬ日常を今も送っている。ならば私は、ここで貴様を打ち倒し、彼らの生活を守ってみせよう」
 その為ならば、火傷も怪我も怖くはない。
 腕の1本もくれてやろう。
 否、最悪、差し違えることも厭わない。
 その顔面を叩き潰してやれるのならば……。
「貴様の齎す数多の不幸を終わらせよう」
 金の髪を熱波に躍らせ、リーオは空へ向かって吠えた。

●討伐依頼発令
「さて、今回の依頼内容は鉄帝国のある火山に現れた魔物の討伐だ」
 と、そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)は皆の前に地図を広げた。
 鉄帝国。
 その一角にある広い森と、その傍らにある火山。
 そして森の近くに広がる街。
 街は大きな河と森に挟まれている。火山が噴火すれば、溶岩は街を飲み込むだろう。
 焼けた森を突っ切って逃げることも、広い河を渡ることも不可能だ。
 そのようなことになれば、きっと街は壊滅だ。
 街の住人は、誰も助かりはしない。
「悲しい話を聞くのは好みじゃないんでな。ヘリオンが現れたというなら、討伐しておきたい」
 偶然にも、ヘリオンの前には想いを同じくする女騎士が立っている。
 目的が一致しているのなら、現地で共闘することも可能であろう。
「今のところ、ヘリオンとリーオはほぼ互角の戦いを繰り広げている。リーオがヘリオンを食い止めているおかげで、街はまだ無事だ」
 とはいえ、溶岩の中へ逃げ込み、休めるヘリオンに比べ、リーオは単なる人間だ。
 頑丈な身体と、常人離れした膂力を誇るリーオであるが、疲労と熱気による消耗は避けられない。
 遠からず、彼女は限界を迎えるだろう。
「戦場は火山の火口付近。足元は荒れた岩肌が広がっている。所々にリーオが作った溶岩溜まりがあるせいで疲弊しやすいのが難点だな。常時【懊悩】状態にあるものと思ってくれ」
 一方、ヘリオンはもとより火口を住処とする魔物である。
 戦場は、ヘリオンにとって有利なものといって間違いないだろう。
「ヘリオンの攻撃には【体勢不利】【致命】【ブレイク】といった状態異常が付与されている。また、その身を溶岩の鎧で覆っているため、非常に硬いことが特徴だ」
 固まった溶岩の鎧の下には、爬虫類に似た身体がある。
 どちらかと言えば、巨体の割には肌が柔いので、鎧を剥がせば大きなダメージを与えることも可能となるだろう。
「あぁ、火口からは引き離した方がいいな。それから、溶岩溜まりもか……ヘリオンは、溶岩に身を浸して鎧を再生したり、体力の回復を図るようだからな」
 そういった性質もあり、リーオはヘリオンを打ち倒せないでいるのだ。
「お前らの手で、1つ街を救ってやっちゃくれないか?」
 なんて、言って。
 ショウはにやりと笑ってみせた。

GMコメント

●ミッション
ヘリオンの討伐

●ターゲット
・ヘリオン(魔物)×1
全長7~8メートルほど。
ミミズか蛇に似た身体を持つ。
目は存在せず、頭部には大きな口がある。
口腔内には鋭い牙が並んでいる。
また、溶岩を固めて造った鎧を身に纏っているため非常に頑丈。
半面、鎧の下の皮膚や比較的柔らかい。

ヘリオンの咆哮:神中範に中ダメージ、体制不利
 熱気を孕んだ咆哮。

暴力の体現:物近単に大ダメージ、致命、ブレイク
 巨体をうねらせる体当たり。


・リーオ=ワイルド=サバンナハート
白金色の鎧を纏った放浪の騎士。
メイスと十字架型の盾を武器とする。
生来運が悪く、行く先々で散々な目に逢ってきた。
火口に住む魔物“ヘリオン”を討伐するため、現在単身、火口での戦いを続けている。

フィジカルバースト:物至単に大ダメージ、飛
十字架型の盾、あるいはメイスによる渾身の一撃。


●フィールド
火口付近。
岩肌が剥き出しの地面。
所々に溶岩溜まりが存在している。
溶岩溜まりに落ちれば、ダメージを負うことになる。
また、熱気のせいで【懊悩】が付与された状態に陥る。
※熱気に対策すれば回避可能。
周囲に身を隠す場所は存在しない。
溶岩の中に飛び込んで無事でいられるのなら話は別だが……。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • フィジカルバーク。或いは、火口の暴徒…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月11日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
訊かぬが華
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
業壊掌
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
パーシャ・トラフキン(p3p006384)
召剣士
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
永久の新婚されど母

リプレイ

●火山のヘリオン
 熱気で歪んだ景色の中で、1人の騎士と巨大なミミズが交戦していた。
 白金色の鎧を纏い、メイスと十字の盾を構えたその騎士の名はリーオ。
 あまねく不幸を踏破せんと、不幸な者のために戦う放浪の騎士だ。
 一方、リーオ……リーオ=ワイルド=サバンナハートと交戦している巨大なミミズの名はヘリオン。
 振り下ろされたリーオのメイスが、ヘリオンの頭頂部を叩く。
 砕けた溶岩の鎧が散って、ヘリオンは耳障りな悲鳴を上げた。
「ぬ……ぐぅ!?」
 熱気を孕んだ咆哮を浴び、リーオの肌が焼け焦げる。
 大音声を間近で受けて、リーオの身体がぐらりと揺れた。鼻から血が零れ、ぼたりと地面に垂れ落ちる。溶岩に熱された岩盤に触れ、じゅう、とそれは一瞬で焼け焦げた。
 全身に大きな火傷を負いながら、リーオは前へと踏み出していく。
 熱された鎧を纏っていることもきついのだろう。その顔にはびっしりと汗が浮いていた。
 けれど、リーオは止まらない。
 諦めない。
 ここでリーオが諦めてしまえば、火山の麓の街に住む、無辜の民が犠牲になることが明白だからだ。
 だが、しかし……。
「う……っ! 力が……」
 リーオの意に反して、振り下ろされたメイスの一撃はヘリオンに大したダメージを与えられはしなかった。
 火傷と脱水、そして疲労がリーオの体力を奪っているのだ。
 溶岩の鎧に弾き返され、リーオは大きく仰け反った。
 その隙を逃すまいと、大口を開けてヘリオンが迫る。体長8メートルを超える巨大生物だ。食らいつかれてはただでは済まない。
「間に合わない……」
 メイスも盾も間に合わない。
 歯を食いしばり、痛みに備えるリーオだが……。
「どっせぇーーーい!!」
 赤い髪を靡かせながら、駆け込んできた小さな影。
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の薙いだメイスが、ヘリオンの下顎を強打した。
 岩の砕ける硬質な音。
 飛び散る溶岩の破片を浴びながらも、ヴァレーリヤはさらに1歩、前へ出た。
 さらに、横合いから割り込んだ男の拳がヘリオンの上顎を殴打。身を悶えさせながら、ヘリオンはじりじりと後退していく。
「な……貴殿らは?」
「ンー、通りすがりのお節介ヤキさ。君と同じだネ。楽しそうなケンカしてるって聞いてね。ダレがクビを取るかは早い者ガチで行こう!」
 そう告げる『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)の右腕は、紫電を纏いバチバチと音を立てていた。
「喧嘩……いや、喧嘩と言えば喧嘩だが。下がれ貴殿ら。危険な相手だぞ」
 そう言ってリーオは前に出る。
 けれど寸前、リーオの片手を誰かが掴んだ。
「知って、いる。騎士、リーオ。奴の討伐のため、手を組みたい」
 流れるような金の髪。褐色の肌に小さな体。『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)だ。その頭部には、大きなひよこが乗せられている。
「ひよこ? あ、いや。そこの拳士よ……こんな幼子まで戦場に駆り出すのか?」
「まっすぐな方ですね。不運体質でありながら、その様に曲がらず育ったのは……本当に運良く何かに恵まれたのでしょう。そして、私達が貴女の命ある内にここに来られたのも……ええ、ええ、神の思し召しでありましょう」
「幼子の次はシスターだと? どうなっているのだ一体」
 音も無くリーオの背後に迫った『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)を見て、リーオは目を丸くした。
 ゴツン、と自分の頭部を殴って「?」と、首を傾げて見せる。
 暑さにやられて、悪い夢でも見ているのか、とそんな風に思ったのだろう。
「満身創痍のリーオよりは、戦える。一対一に拘る理由があるなら、此方は、勝手にやらせてもらう、が……」
 ふわり、とエクスマリアを中心に淡い燐光が吹き荒れた。
 暖かな光を浴びたリーオは、驚いたような表情を浮かべる。見れば、全身に負っていたはずの火傷が、少しずつだが癒え始めている。
「回復術か。助かる、が……やはり幼子を危険な目に合わせるのは」
「これ以上犠牲を出してはならないという志があるのなら、貴女もまた此処で犠牲の一人となってはいけません」
 そうでしょう?
 と、そう問うたのは長身痩躯の女性であった。
 彼女の名は『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)。そのほっそりとした肩の上には、ひよこが1匹乗っている。
「またひよこ……なんだ?」
 エクスマリアとマグダレーナを見比べながら、リーオは困惑の表情を浮かべた。
 大きさの差こそあるものの、2人の連れたひよこは同種のものだろう。親子だろうか? それにしては似ていない。
 リーオの頭の中を「?」が埋め尽くすが、考えても答えは出ない。
 そもそもからして、リーオは考えることが苦手であった。
 いつだって、自分の想いに正直に生きて来た。
「っ~~!! いいだろう。ここは共闘としよう」
 だからリーオは、勘を信じることにした。
「もちろんです。こんな暑さ、とても耐えられませんから……オリーブさん!」
「承知! 危険な位置から鎧を砕くのが自分の役割ですからね。果たしましょう!」
『召剣士』パーシャ・トラフキン(p3p006384)の付与を受け、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が駆け出した。
 その長身を覆うように、薄く眩い光の撒くが覆っている。
 さらに1人。
 オリーブの後を追うように、赤雷が大地を駆け抜けた。
「リーオ君! よく一人で食い止めてくれたね! 君に感謝を!」
「今度は虎……?」
 『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)。とらぁ君の着ぐるみを纏い、堂々たる参戦である。
「ここからは私達も加勢するよ!」
 なんて、底抜けに明るい声は疲弊していたリーオの心に、再び戦意の火を灯す。

●溶岩地帯を駆け抜けろ
 ヘリオンの巨体が大地を駆ける。
 向かう先は溶岩溜まり。
 失った鎧を補充し、体力を回復させるため、ヘリオンは溶岩の中へと飛び込んだ。通常の生物であれば、飛び込んだ瞬間に骨も残さず焼き尽くされるほどの高温。
 けれど、火山を住処とするヘリオンにとって、溶岩とは寝床のようなものである。
 8メートル近い巨体が飛び込んだことで、溶岩が盛大に撒き散らされる。後を追っていたオリーブとイグナートは、あまりの熱さに思わずその場で踏鞴を踏んだ。
「鎧を砕くだけでは足りませんね。まずは、火口と溶岩溜まりからヘリオンを引き離さないと」
「分かっテルよ。地の利がなきゃデカいだけのミミズだからね」
 と、2人は言うがヘリオンはなかなかに強かだ。
 溶岩の中に飛び込めば、容易に攻撃を受けることが無いはずと、リーオとの戦いを通して理解していた。
 事実、身体の半分以上を溶岩の中に浸したまま、ヘリオンは悠々と失った鎧の補充を行っている。
 ヘリオンに誤算があったとするならば、ただ1つだけ。
「であれば、ここはわたくしが。堅い外皮は弾を良く防げても籠められた呪いまで防げないでしょうから」
 キリ、と弦の張る音がした。
 弓を構えたマグダレーナは弓を構えてヘリオンを見やる。番えられた矢に纏わりついた黒い魔力は、次第に鏃へと収束していった。
 ひゅおん、と。
 風を切り裂く音がして、魔力を纏った黒矢が駆ける。
 それはまっすぐヘリオンの頭部に突き刺さり、【毒】や【窒息、【苦鳴】、【災厄】といったあまねく不幸でその身を侵した。
 リーオと違い、イレギュラーズには遠距離攻撃を得意とする者がいる。溶岩の中は、既にヘリオンにとっての安全地帯ではなくなっていた。
 
 溶岩を撒き散らし、飛び出して来たヘリオン。
 その懐へイグナートが駆けこんだ。
「こいつのクビってどこだろうね?」
 両の脚で地面を踏みしめ、撃ち出したそれは神速の突きだ。相手が人型であれば正確に急所を打ち抜いたであろうその一撃が、ヘリオンの喉元を覆う溶岩の鎧を粉砕した。
 痛みに悶え、ヘリオンは下半身を跳ね上げる。
 飛び散った溶岩が、イグナートの肩を焼いた。
「っ⁉」
「レスキンさんは後退を! ヘリオンをこの場から引き離します」
「分かっタ。ケド、オリーブはどうする?」
「喉元に最大火力を叩き込んでやります。どうせ無くなるAPなら、使って無くなった方が余程得ですからね」
 身を翻し後退していくイグナート。
 その後を追うヘリオンへ、横合いからオリーブが迫る。【ハンズオブグローリー】を自身に付与した状態で放つ最大火力の一撃は、ヘリオンの喉元に深い裂傷を刻んだ。
 高温となったヘリオンの血が地面に零れる。
 
 ヘリオンの巨体が宙を舞う。
 体全体をバネとした跳躍。圧倒的な質量が、イグナートごと地面を砕く。
「っ⁉ なんて大きさですの、こんなものが街に来たら……ええ、絶対にここで食い止めましょう」
 額に滲んだ汗を拭って、ヴァレーリヤはメイスを振り上げ前へ出た。
 そんな彼女の隣に立ったマリアもまた、姿勢を低くし疾走の用意を整える。
「ヴァリューシャ! この魔物は街へ行かせてはダメだ! 絶対に食い止めよう!」
「えぇ、先に行きますわ。マリィ、どうか貴女も無事で」
「ヴァリューシャも気を付けて!」
 先行したヴァレーリヤは、ヘリオンの側頭部へ向けメイスを一閃。
 轟音と共に溶岩の鎧が砕け散り、爬虫類じみたヘリオンの皮膚が顕わになった。衝撃で仰け反ったヘリオンは、追撃を回避するためか身体を伸ばし頭部を高い位置へとあげる。
 だが、しかし……。
「君は頑丈さに自信があるみたいだけれど、生憎私の技に頑丈さは関係ない! 貫かせてもらう!」
 タン、と軽い音が鳴る。
 赤い影が高くへ跳んだ。
 赤雷を纏ったマリアの蹴撃が、ヘリオンの頭部を穿つ。
 次いで、顔面、喉元、砕けかけた溶岩鎧と立て続けに蹴りが叩き込まれた。姿勢を崩し、よろめくヘリオン。
 放った灼熱が、空中のマリアを飲み込んだ。
「ぐっ!」
 衝撃に飲まれ、マリアの身体が地面に落ちる。
 既に攻撃を受けていたイグナートと並び、負傷したマリアが呻き声を零した。
 手負いの2人にトドメを刺すべく、ヘリオンは地響きを立て襲い来る。そんなヘリオンを足止めすべく、ヴァレーリヤはメイスを掲げその進路へと躍り出た。
 衝撃。
 ヴァレーリヤの身体が地面に倒れる。彼女を巨体で押しつぶしながら進むヘリオン。イグナートとマリアの回避は、きっと間に合わないだろう。
 そんな2人を庇うべく、駆け付けたのはリーオであった。
「これ以上、私の目の前で誰かを傷つけさせるわけにはいかん!!」
 十字の盾を地面に突き立て、ヘリオンの突進を受け止めた。
 あまりの負荷に、全身の筋肉が悲鳴をあげる。
 骨が軋み、筋繊維が裂けた。盾越しに伝わる熱気がリーオの手を焦がす。
「流石、遍歴の騎士、だ。勇ましさに引けを取らぬだけの、実力者らしい」
 リーオを支援すべく、エクスマリアが紫電を放った。
 長い金髪で自身を覆い、黄金の球となったエクスマリアはまるで稲妻を放つ砲台だ。
 電撃を浴びたヘリオスは硬直。
 体を細かく痙攣させて動きを止めた。
「今のうちに……無理をさせてしまいますけど、それでも戦わなくちゃ、たくさんの人たちの笑顔が失われてしまうから」
 リーオと、追いついてきたオリーブ、ライやエクスマリアが時間を稼いでいる隙にパーシャはマリアとイグナートの元へと駆け付けた。
 彼女が頭上に剣を掲げれば、周囲には暖かな魔力と淡い燐光が降り注ぐ。
「イヤ……助かったヨ」
「これで、戦える!」
 十全とはいかないまでも、傷の癒えたイグナートとマリアは戦線へと復帰すべく駆け出した。
 そんな2人の背へ向けてマグダレーナが言葉を投げる。
「堅いと言えど一個の物体ではないなら関節の動く時など隙間が出来るはず」
 マグダレーナの射った矢が、溶岩鎧の隙間を縫ってヘリオンの皮膚に突き立った。
 その矢を目印として、イグナートは拳を、マリアへ蹴りを叩き込む。
 大きく背後へよろけた巨体へ追い打ちを叩き込むために、オリーブとリーオ、ヴァレーリヤが前進。ヘリオスの頭部が地面を打ったその瞬間、口腔目掛けて剣とメイスを打ち付けた。
 
 激しい戦闘に刺激されてか、それとも偶然そうなったのか。
 地響きと轟音に次いで、火口から溶岩が溢れだす。
 周囲の気温がさらに上昇し、辺りは熱波に包まれた。
「また溶岩……まずはこのクソ暑い所から敵を引っ張り出すのが必要でしょう」
 胸の前で、ライは静かに十字を切った。
 形成された魔力光は、どこか淀んだ色をしている。
 射出されたそれは、狙いを違わずヘリオンの口内を射貫いた。灼熱の血を吐き、ヘリオンが悶える。
「あぁ、マカセロ!」
 ライの援護を受けながら、前へ出たのはイグナートだ。腰の位置で拳を構え、渾身の力を込めて1歩踏み込む。
 迎え撃つはヘリオンの咆哮。
 至近から熱波を浴びたイグナートの肌が焼け焦げるが、お構いなしに彼はヘリオンの鼻先へ、握った拳を叩き込んだ。
「わっ……イグナートさんは無事、でしょうか?」
「彼は頑丈ですから……きっと平気でしょう」
「油断は禁物、だが。溶岩が来る、な。マリアたちも此処に居ては、まずい」
 言葉を交わすパーシャとライ。
 2人に避難を促しながら、エクスマリアは宙へふわりと舞い上がる。

●怪物は溶岩に沈む
 弦の震える音がした。
 矢羽根で風を切り裂きながら、宙を奔る1本の矢。
 それを放ったマグダレーナは、視線を左右へ巡らせる。
「この音と地響き……溶岩の勢いが……このままだと、ヘリオンを討つ前に麓の街が……かつてヘリオンに街を焼かれた霊魂たちが教えてくれます」
 マグダレーナでは、溶岩を食い止めることは出来ない。
 けれど、溶岩を止められるほどの戦力をヘリオンから離すのは躊躇される。
「リーオさんの一撃でヘリオンを吹き飛ばし……いえ」
「腕の立つ騎士に、頼らない手は、ない……とはいえ、な」
 金の髪で体を覆ったエクスマリアも、どのように対処すべきか判断に困っているようだ。
 マグダレーナの矢に続き、エクスマリアの放った紫電がヘリオンの腹部を貫く。感電し、身を震わせるヘリオンだが、討伐までにはまだしばらくの時間がかかるだろう。
「とはいえ、こちらもAPが……分担、すべきでしょうか」
「だったら、ダレがドッチに対応するかダネ」
 降り注ぐ燐光が、オリーブとイグナートの傷を癒す。
 剣を手にしたパーシャは、額にびっしりと汗を浮かべ荒い呼吸を繰り返してた。そろそろAPも限界に近いのだ。
 マグダレーナ、ライ、エクスマリアの遠距離攻撃によりヘリオンは一時停止している。一気呵成に攻め立てるなら今だろう。
 沈黙はほんの一時。
「分かった。貴殿らの尽力に感謝する」
 ポツリ、と。
 吐き出すようにリーオは告げる。
 そして彼女は、盾を投げ捨て溶岩へ向けて駆けだした。頭上に振り上げたメイスを、溶岩の進行方向へと振り下ろす。
 続けざまに3発。
 地面にクレーターが穿たれたが、まだ足りない。
「もっとだ。ヘリオンは倒す。だが、優先すべきは住人たちの安全だ!!」
 民を護れず何が騎士か、と。
 灼熱の中、リーオは吠えた。

 イグナートの腕が焼け焦げる。
 額をヘリオンの身体に当てるほどに密着し、渾身の拳をその胸部へと撃ち込んだ。鎧が砕け、ヘリオンがその身を悶えさせる。
 ヘリオンの咆哮。
 熱波の中をオリーブが進む。
 振り下ろされたその剣は、ヘリオンの口腔を切り裂いた。
 瞬間、咆哮は悲鳴へと変わる。
「皆が動けなくなる前に、決着をつけてあげますわ!」
 駆けこんだヴァレーリヤが跳躍。メイスを下顎に引っ掛けるようにして、落下の勢いそのままにヘリオンの巨体を地面へ向けて叩き落す。
「今だよ、ヴァリューシャ!」
「っどっせぇぇぇえええええええええええええい!!!」
 ヘリオスの頭頂へと向けて、マリアの踵が振り落とされた。
 僅かに残っていた溶岩の鎧も、その一撃で全てが砕ける。鎧を失えば、多少皮膚が厚いだけのミミズの怪物でしかない。
 地響きと共に、ヘリオンの巨体が地面にぶつかり、跳ね上がった。
 苦し紛れに開かれたその大きな口へ、じっとライは視線を向ける。
「父と子と精霊の御名に置いて……」
 静かに、彼女は胸の前で十字を切った。
「っていうかよぉ……お前が早く死なないとさぁ、冷たいビールで一杯やれないんですよ」
 ぼそり、と。
 吐き出された低い声。
 放たれる暗色の魔力光。
 一条。
 それは空気を切り裂いて、ヘリオンの口腔を撃ち抜いた。

 地に伏し、動かない巨体。
 離れた位置では、地面に出来たクレーターに溶岩が溜まり始めている。
 汗と土に塗れ、荒い呼吸を繰り返すリーオ。
 火傷を負い、ぐったりと倒れたイグナートとオリーブ。
 そんな彼らへ回復術を行使しながら、パーシャはほっと安堵の吐息を零して見せた。
「皆さん……無事でよかったです」
 リーオも、イレギュラーズも、火山の麓の住人達も。
 誰一人として死者は出ていない。
 ヘリオスという怪物と相対し、この戦果は上々といえるだろう。
 
 傷ついた身体を引き摺りながら、立ち去っていくイレギュラーズは気付かない。
 火山の火口、その片隅に見慣れる赤い球体……何かの卵らしきものが、ポツリと転がっていることに……。

成否

成功

MVP

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
業壊掌

状態異常

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
業壊掌
オリーブ・ローレル(p3p004352)[重傷]
鋼鉄の冒険者

あとがき

お疲れ様です。
ヘリオンは無事に討伐され、火山麓の街に被害は出ませんでした。
依頼は成功となります。

この度はご参加ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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