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シナリオ詳細

【日夜探偵事務所】花の蜜はかくも甘く

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●吸われ、奪われ、枯れ果てて

 ここは、とある市街地にある、きらびやかな歓楽街……から一本外れた、暗く寂れた通り。嬌声や酔っぱらいの怒号が、微かに遠くに聞こえてくる。そこに、落書きだらけの壁に背を預けたまま、膝を抱えて、蹲る人影がいた。

 その人物の顔は、土気色になり、生気は全く感じられず。その手足は先の先まで、カラカラに潤いを失い、手足ばかりではなく、肢体や、その胴体までもが、その下の骨が窺えるまでに痩せ細っていた。少しでも下手に扱えば、たちまち折れてしまうだろう。

 一見すれば幾年もの時間を経たミイラかと思われるそれは、しかし、染め直したばかりと思しき、色艶のあるマゼンダの混ざった茶髪、首にはパールの連なるネックレス、手にはゴールドのブレスレットに、大粒の宝石を抱えた指輪。身体は、ピンクのスパンコールが煌めくワンピースに包まれており、細く萎びた足の側には、生前彼女が履いていたと思われる、真っ赤なピンヒールが転がっていた。

「やはり、彼女は……死んでいる」

 そして、そんな彼女の身体を、隅々まで調べていたのは、のりの利いた襟袖のワイシャツとトレンチコートに身を包んだ、身なりの良い青年……【日夜探偵事務所】の所長である、日夜歩だ。更にその後ろから、ひょっこりと、ゆるいウェーブの金髪の女性……ロザリー・カンナヅキが、顔を覗かせた。

「どーお、歩っちー。何かわかったー?」
「どうもも何も、見ての通りだ。彼女はこの通り『吸い尽くされている』よ」
「それもそうだけどさー、『何が』この娘をこんな風にしちゃったのかなー、って」
「……被害者が女性である事から、犯人は『インキュバス』……と言いたい所だが、同性の者を好む『サキュバス』が、このような事を起こしたという事例もある。いずれにせよ、【性魔】と呼ばれる類による、吸精の結果だろう」
「さっすが歩っち、よく勉強してるねー」
「……ローザ君、全て分かっていて聞いていないか」

 ジト、とローザを見やる日夜だが、しかし追及する時間も惜しいとばかりに、小さく首を横に振る。今月だけで、既に数件、同様の被害が出ていたからだ。

一件目は、ホテルに見目麗しい女性を伴いチェックインした男性が、翌朝には見るも無残な姿に。
二件目は、バーの店主が、店中の酒共々搾り取られ。
三件目は、たまさか店番を任されていた女性が、快楽の痕跡を残したまま息絶えていて。
四件目は、今回のように、吸い尽された人間が、こうして目立たない所に捨てられていて。

……以降のケースは、それまでと似たり寄ったりだ。
同じ穴のムジナというべきか、「ここがいい餌場だ」と同族同士で情報提供しているのか、同様の事件が同日に複数箇所で起こったり、手口自体が共有されているあたり、やはり、複数の性魔がいると考えていいだろう。

 勿論、こんな連中は、捕まえて成敗してやりたいところだが。
『星宮君』の特殊体質を使えば、敵を一気に呼び寄せる事は容易かもしれないが……数の優位をあちらに与えては面倒なことになるし、まだ小学生である彼に協力を頼むには、その、毒がすぎる、かもしれない。……ならば。

「……致し方ないな」

 こういう時は素直に、『信頼できる筋』に協力を仰ごう。
日夜はゆっくりと立ち上がった。

●夜闇に舞う蝶よ

「皆。日夜探偵事務所から、『事件解決に協力して欲しい』って依頼が届いてるみたいだよ。【性魔】……と呼ばれる、サキュバス、もしくはインキュバス、って言われる怪異が、ターゲットみたい」

 ノートを手に、境界案内人はそう伝えてくる。
今回は各々が夜の街に潜入し、ターゲットを炙り出し……人気のない場所まで誘い込み、敵を倒してほしい、というオーダーのようだ。

 ただし、こういう手合は、犯行自体は、『被害者が果てていく過程をたっぷりと味わうため』に単独で行うが、自分の手腕が如何に優れているか『仲間』と競ったり、手柄を自慢するために定期的な『サバト』をしている事も多く……一、二体を退治した程度では事態の解決に至らず、『サバト』に現れない者が居たとなれば、『仲間』が狩られたという疑念を抱き、逃げてしまいかねないという。
故に今回は、敵の殲滅……イレギュラーズ一人につき、一体の性魔を倒すよう求められている。

「だから、今回は一対一の勝負になるけれど……でも、皆なら大丈夫だよねっ」

信じているから、と、彼女は優しく、皆を送り出すのだった。 

NMコメント

 どうも、なななななです。
人々の全てを味わい尽くし食べてしまう、夜の魔性を打倒してください。

以下、詳細になります。

●ジアース

 皆様が赴く世界の名前です。要するに神秘、怪異、化物、魔術が存在する現代日本……と思っていただければ結構です。

それらの存在は公には知られておらず……何も知らない人間は、それらに貪られ、弄ばれ、真相も分からぬままに命を落とす事も珍しくありません。
それらを扱い、対処するのが、【日夜探偵事務所】の裏の顔でもあります。

●目的
『性魔』を倒す事。

 要するにインキュバス、サキュバスの総称です。
参加者の皆様一人につき、サキュバス、もしくはインキュバス一体を倒すことになります。
ご想像にもれず、へっちでえっちな事が好きな魔性です。
(リプレイは全年齢向けになるよう頑張ります)
どちらが良いかは、プレイングで指定してください。

 敵の油断を誘うため、そして複数の敵を同時多発的に倒したいため、今回は個々人での行動になります。

 サキュバス、インキュバスは常に貪欲なので、『その気』のある言動をする相手や、『チョロい』と思われるような言動をする人物をターゲットに選びがちです。
また、ローザに頼めば、彼らの好む匂いがする香水も貸してくれることでしょう。

 相応の非戦スキルがあれば、より相手を油断させたり、有利な状況で相手を連れ出し、戦闘に持ち込めるでしょう。
勿論、非戦スキルが無くとも、プレイングが優れていれば、争うまでもなく暗殺する事も可能です(この場合、誘い込みパートの方を重点的に描写させていただきます)

とにかく、性魔と一対一の状況に持ち込んで、これを倒してください。

※撃破後に「こっちは終わったよ」等とPC同士や、NPCと連絡を取る等は可能です。

●NPC

星宮 太一(ホシミヤ タイチ)

・OPには登場しませんでしたが、日夜探偵事務所によく通う子供です。
怪異の好む香りを常に放ってしまう特殊体質持ちですが、ローザの『御守』のお陰で、日常生活に支障はないようです。
今回の敵は「色んな意味で良くない」(歩談)ので、彼はお休みです。

日夜 歩(ヒヨリ アユム)

・OPに登場した、探偵事務所の所長です。生真面目で身なりの良い青年で、今回のシナリオ参加者の実力を信頼しているようです。男女問わず、他人を『君』付で呼びます。
彼も実は、人間では無いそうです。
彼は彼で別のサキュバスを相手するので、皆様と別行動になります。

ロザリー・カンナヅキ(ローザ)

・OPに登場した、軽い雰囲気の若い占い師です。しかし、怪異に精通しており、それに対する防衛術も心得ています。特殊体質の星宮少年が普段平和に暮らせているのも、彼女謹製の『御守』の力があるからです。
誰彼構わず『ちゃん』付したり、あだ名をつけたりと、良く言えばフレンドリー、悪く言えば馴れ馴れしく人物です。
彼女もインキュバスを呼び寄せるため、皆様とは別行動になります。


以上になります。
それでは、皆様がどうか、夜の色香に惑わされませんように。

  • 【日夜探偵事務所】花の蜜はかくも甘く完了
  • NM名ななななな
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年04月03日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ルサルカ(p3p007202)
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
羽田 アオイ(p3p009423)
ヒーロー見習い
鬼灯 長門(p3p009738)
特異運命座標

リプレイ

●夜咲く花よ

 ネオンに覆い隠されてしまった星々の光を集めたかのように煌めく金髪を夜風に靡かせて、ルサルカ(p3p007202)は一人、街を歩いている。
一見、夜の街には不釣り合いと見える修道服姿の彼女だが、噎せ返る程に甘ったるい薔薇の香りを身体に纏い、その香りに似付かわしい程の、艷やかな脚が、華奢な指先が、薄紅色の唇が、誰から見ても、彼女を『魅力的なひと』と思わせる事だろう。

 それこそが、彼女の狙い。そしてその狙いなど露ほども知らずに、ルサルカという花に誘き寄せられた、害虫が一匹。既に彼女の耳にも、自分とは異なる足音が背後から迫る音が、届いていた。

 一瞬だけ後ろを見遣り、手で『こちらへ』と、背後に迫る何者かを招き寄せると、路地裏へとふらり、吸い込まれるように消えるルサルカ。『美しい花』を見つけたと、一人これから得られるであろう甘美に、身を震わせる男。
彼もまた、誘われるまま、吸い寄せられるままに、花へと飛び込む、が。

「ガッ……!?」
「性魔、と言ったかしら。生命を奪ったツケは返してもらうわ……貴方の命でね」

 彼が得たのは、甘い蜜ではなく、苦く重い毒。さながら花に誘われた蝶々と、罠を仕掛け、それを捕える蜘蛛。
どちらがその立場であるか等、今更言うまでもないことだろう。

「今日は激しい夜になったでしょ?それじゃ、おやすみ」

 一時の気まぐれの為だけに奪った命の数だけ、呪いが、彼の身を蝕み、苛む。やがて、性魔……インキュバスたる彼は、倒れ、動かなくなった。その最期を見届けると、ルサルカはスマホ……連絡用に貸し出された物を取り出した。

「もしもし。こっちは終わったけどそっちは大丈夫?」
「あっルサルカちゃーん? 香水、役に立った? こっちもバッチリ、インキュバスはやったったよぉ〜。あっ、他の子達の状況はね……」

 とあるインキュバスが討たれた時分から、少し遡った頃、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は。

「あーあ、何処かに黒髪ロングストレートの清楚で可憐な和服美女で垂れ目で泣きぼくろがあって笑うと可愛いいけど少しミステリアスな雰囲気を纏ってる胸が大きいけどお尻は小さいこの頃流行りの成人済みなお嬢様(重めの過去とか家族間の問題とかを添えて)がいないかな~」

 空になった栄養ドリンクの瓶を、自販機脇のリサイクルボックスに突っ込みながら、腕時計の針を確かめる。……すでに彼は、かれこれ2時間、こんな事をしていた。

「こんだけ歩いて、当たりはなし、か。今夜は徹夜コースか……?」

 少なくとも、遠巻きに彼を見て、訝しげにヒソヒソ話をする人間がいるあたり、ある程度注目は集まっているようだが。……逆に、警戒されているのか?

「ああ〜金髪や銀髪のオンナとあんなことやこんなことできたらなあ〜」
「お兄さん、付き合ってあげましょうか?」

 不意に聞こえた、鈴を転がしたような声。
振り向けば、まさに世界の言葉が混ざって現実化したような、泣きぼくろの、垂れ目の、金髪の女性が、潤んだ瞳で彼を見上げていた。

「でも、ここじゃだめ。皆に見られたら、恥ずかしいわ」
「……そう、だな。『そういう事』は『秘密の場所』でするのがいい。俺、いい場所、知ってるよ」

 そうして、世界と女が訪れたのは廃ビル。ここでなら、誰にも知られることなく『事』を終えられる。

 荒く息を吐く女。気怠そうにそれを見つめる男。
身体を細かく弾ませた後、倒れ込むサキュバス。それを冷たく見下ろすイレギュラーズ。
その首は細い細い白蛇のような指に締め上げられ……否、彼女の首を絞めているのは、蛇そのものだ。

「なん、でっ……朝まで、一緒、って言ったのに……!」
「馬鹿言うな。こちとら睡眠時間確保の為に頑張らにゃならんのだよ」

 やがて全身から嫌な音を立て、首を人間ではあり得ぬ方向に捻じ曲げられたサキュバスは、二度とは覚めぬ眠りに落とされた。

 その様を見届けた世界は、ハア、と一際大きな溜息をつくと、そのまま倒れ込むように、眠りに落ちた。…
以後彼は、連絡の無い事を不審に思った日夜が電話を掛けてくるまで、そして居場所を突き止め迎えに来るまで、全く目覚めることはなかったという。

●朝には枯れ果て

 『ヒーロー見習い』羽田 アオイ(p3p009423)は、ダッフルコートのポケットに手を突っ込む。かさり、と1枚の紙が、小さな手に触れる。
それは、サキュバス狩りのために友達から得たアドバイスをまとめたメモだ。

『人気のない細い路地なんかは、誘惑するには最高ね!』

 その言葉通りの場所に、昼間のうちに罠を仕掛けていた。あとは、ここにターゲットを招くだけだ。
壁に寄りかかり、俯いたアオイは、時折、誰かいないかと周囲を見渡す。誰もいないと分かれば、再び退屈そうに小石を蹴り飛ばす。そんな事を繰り返している内に、はたと、一人の女と視線がかち合う。
そこでアオイは、今にも夜の闇に呑まれ、消えてしまいそうな……儚い笑みを浮かべてみせた。

『路地の入口で、退屈そうにしておくこと。さも欲求不満ですよって感じでね。ターゲットが出たら、目を合わせてふっと柔らかく微笑む。可能な限り蠱惑的に』

 アオイの姿を目にしたサキュバスは、胸が高鳴り、惹かれていく。その音は、アオイにもしっかり伝わっていた。

「ボク、どうしたの、こんな所で?」
「一人ぼっちで寂しいんだ……良かったら話し相手になってくれない?」

 さり気なく、ピンクのネイルが輝く指にそっと手を重ねる。サキュバスも、そっと指を絡め、頷く。

「それじゃあ、ボクと一緒にこっちに行こ。いいところがあるって聞いたから」

 そう言って、アオイは女性の手首をくんと引っ張った。
二人足を踏み入れた路地裏にうっすら浮かぶ二人の影は、しかし突然一人分の影のみになる。
アオイの足元には、網とロープが絡みつき、身動きの取れなくなった女の姿。アオイの手に握られていたのは、一本のロープ。初歩的な罠ではあるが、一瞬でも無様を晒してしまえば、それは致命的な隙となる。そのまま、ろくな抵抗もできず、サキュバスは朝を迎えることなく倒されたのだった。

「……ふう、ボクだけじゃきっと、こんな風にはできなかったな。友達にちゃんとお礼を言わなくっちゃ」

 それにしても、ここまで的確なアドバイスをするアオイの友人とは、一体何者なのだろう。
その答えを知るものは、この世界にいるのだろうか……?

 一方、その頃、路地裏の一角で、不格好な地図を抱えて首を捻る青年がひとり。いかにも、この場所に似つかしくない、和装の男。

「あれー、お店はこっちにあるって聞いたんだけどなあ……?」

 その正体は、『特異運命座標』鬼灯 長門(p3p009738)だ。
そこにすかさず、道案内をしようと声をかけてくる女性がいた。見目麗しい、いかにもこのあたりに『似合い』と見える美人だった。胸元が大きく開いている姿にくださいどきりと一瞬身体が強張る。

「お兄さん、どっちに行きたいの? ウチが連れてったげるよ」
「……あっ、えっと、たっ、助かります!」

 人の良さそうな笑みを浮かべる長門に対し、女は含むような笑いを浮かべる。女も最初は、人の賑わいの多い道を選んでいたが、徐々に寂しく、狭く、暗い通りへと青年を誘おうとしていく。

 このような、無防備な、無知な、無力な人間など、サキュバスにとっては良い餌になる。……実際、この女の目には、長門は『初めて色のある街を訪れた、未経験の若者』としか見えなかっただろう。
ただしそれは、彼が本当に『ただの人間だったら』の話だ。

「お兄さん、こういう場所は初めて?」
「は、はい……」
「ふふっ、だったらきっと、いい夜になると思うよ。ウチが保証する」

……徐々に怪しい雰囲気へと変わっていく街の姿は心細く、不安が募る。が、まだだ。まだ『仕掛ける』べき時ではない。

「さあ、こっち」

 最後の曲がり角で、女が長門の腕を掴む、が。

「こ、来ないで下さい!」
「キャッ!?」

 瞬間、彼の手から放たれた衝術が、女の背を強く壁に叩きつける。
完全に女の不意を突いた事もあって、慣れない戦いながらも、状況は長門にとって有利に運んだ。
やがて、マジックロープに絡め取られた女に流し込んだ魔力が、止めの一撃となり。性魔の身体は砂のように崩れ、風に吹かれ消えてしまった。

「……二度と、こういう事がありませんように」

 小声で一言、討たれた魔性の痕跡に向けてそう呟けば、長門は無事に仕事が済んだ旨を、グループメッセージで伝えるのだった。

 こうして、彼等以外、夜の街で起きた事など知らぬまま。真実は、月とともに姿を消していき。
平穏な日常が、新しい朝が、太陽と共に昇り来る……。

成否

成功

状態異常

なし

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